再び

◆第6話

そして、又月日が流れた。


ミサトは、副司令執務室に呼び出されていた。
「葛城1尉、明後日、太平洋艦隊に直接弐号機とセカンドチルドレンを引き取りに行ってくれるか?」
「はい、」
しかし、来ると予想されていた、シンジもいっしょに連れて行けと言う指示は無かった。
「あの・・・」
「なんだね?」
「シンジ君は連れていかなくても宜しいのでしょうか?」
冬月は少し驚いたような表情をした。
「・・・葛城1尉、君の役目は、弐号機とセカンドチルドレンを引き取りに行く事だぞ、そのどこに第3新東京市の防衛を薄くしてまでもサードチルドレンを連れて行く必要があるのかな?」
「あ・・その・・・いいえ、」
「・・・まさか、太平洋艦隊を使徒が襲撃するとでも思っていたのか?」
もろに驚きが表情に出た。
「・・・まあ良い、予定通りに引き取りに行きたまえ」
「・・・はい・・・」


ミサトはとぼとぼと通路を歩いていた。
カマを掛けられた・・・
太平洋艦隊が・・加持リョウジが運んでいた荷物・・・第壱使徒アダム・・・
それを狙って第六使徒は襲撃して来た。
自分が知っている筈の無い情報・・・
程度は分からないが、司令部に疑われている。
先程の事で、その疑いを深めてしまった。
勿論、真実が分かる筈は無いが・・・
ミサトは作戦部に足を向けた。
「・・あっ!」
歩いている途中で気づいた。
初号機の完全修復にはまだ数日かかり、今シンジを残しておいたところでそんなに大きな戦力となるわけではない、同じように零号機もまだ時間がかかる。
・・・すでにそこまで疑われているのか・・・・
ミサトはショックを受け、また、本当に大丈夫なのか心配になってしまった。これからの長い戦いという意味と、シンジがいない中で第六使徒戦を迎えると言うことが・・・


ミサトの副官であり、信用の置ける人物である日向マコトを呼び出した。
「日向君、明後日私が留守の間、二人の事見ていてくれない?」
「あ、はい、別に構いませんが」
「そっ、ありがとねん。このお礼は必ずするわね」
「安心して任せてください」
日向はうれしそうである。
(・・日向君の心も利用してるのね・・私・・・)


2日後の朝、日向がミサトのマンションにやって来た。
「チョッチでかけて来るけど、何かあったら、日向君に言ってね」
「あ、はい、いってらっしゃい」
「・・いってらっしゃい・・」
今朝は既にレイが来ており、レイも送り出してくれる。
「留守は、任せてください。」
「・・悪いわね・・」
「いえ、貴女の為なら・・・」


ネルフの大型輸送ヘリで太平洋艦隊に向かっている。
アスカ・・・もう一人のチルドレン・・・
アスカはどうすれば良いのだろうか・・・
自分がチルドレンである事に全てを賭けている。
そしてシンジにそれを超された事でそれが狂った・・・遅かれ早かれいつかは来る事だろう・・・いや、寧ろ・・・・
アスカはこちらから無理に行動を起こせばより強い力で反発する。
・・・分からない・・・
結局答えは出ないまま太平洋艦隊に到着した。
「ヘロ〜ミサト!」
ヘリを降りるなりアスカの元気な声が聞こえた。
「・・アスカ・・」
元気なアスカ・・・あの状況を見ているだけに、より一層まぶしく輝いて見える。
「どうしたのよ、元気無いわね」
「ちょっちね・・」
「それよりも、他のチルドレンはどうしたのよ?」
「司令部の命令で待機よ」
「何ですって!この惣流アスカラングレー様がわざわざ来てやったって〜のに、出迎えの一つも無しとは、ふざけんじゃないわよ」
無茶苦茶な事を言うアスカ、ふざけているのはアスカの方であろう。だが、それを口にする事は出来なかった。


ブリッジで提督達に面会した。
「特務機関ネルフ作戦部長葛城ミサト1尉です。」
IDカードを提示した。
「ふん・・・そうかね・・しかし、あんな玩具一つ運ぶのに太平洋艦隊が総出だ。一体何時から我々は宅配屋に転身したのかね」
「はっ、某組織が結成された後と記憶しております。」
「・・・・・こちらが、弐号機とセカンドチルドレン惣流アスカラングレーの引渡しに関する書類。こちらが電源とソケットの使用申請書です。」
「ふん、海の上で動かす命令なんぞ聞いちゃおらん」
「・・・残念ながら、使徒相手では通常兵器では何の役にも立ちません。第参使徒戦では、陸上自衛隊はNN地雷まで使用しましたが、致命傷には至りませんでした。」
「何?NN地雷だと?」
「全ては、使徒の持つATフィールドの為です。そして、現在人類は、エヴァ以外の方法でATフィールドを発生させる事はできません。よって、エヴァとチルドレンの重要性は極めて高い、こう上層部は判断されたわけです。」
「・・・・・」
提督達は反論できなかった。
「使徒がこの艦隊を襲撃した場合、エヴァによってATフィールドを中和しなければ、艦隊の全滅は免れないと言えます。よって、これらは万が一に供えると言う意味ですが、必要な手続きです。」
「・・・・・・もし、使徒に知恵と言うものがあるとしたら、地上よりも足場が遥かに狭く安定しない海上でエヴァを倒そうとするかもしれません。」
暫く沈黙が続いた後、提督は、それらの書類にサインをした。
「この書類が無用のものである事を祈ります。」
静まり返ったブリッジを後にした。
そして、目指すは、加持リョウジ!


通路で加持の姿を発見するなり、駆け寄ってそのまま襟首を掴んで壁に叩き付けた。
「ぐあ・・・なんだい・・・随分な歓迎だな・・・」
加持の声を聞いた瞬間、あの電話の声が脳裏に蘇り涙が零れた。
そして、ぎゅっとしがみ付く、
「・・おいおい・・・まいったな・・こりゃ・・・」
暫く加持の胸で泣いていたが、漸く落ち着いた後、二人は士官室に向かいそこで話をする事にした。
「インスタントだがコーヒーでも入れたから、どうだい?」
加持はコーヒーカップを差しだした。
ミサトはコーヒーカップを受け取ってしばらくしてから口を開いた。
「・・3足の草鞋脱ぎなさい」
開口一番に言ったその台詞に加持は口に含んでいたコーヒーを吹き出した。
「・・・・・理由は話せないけど、加持君が知りたがっている事は全部教えるわ、だから、脱ぎなさい・・」
二人はじっと視線を交錯させ、にらみ合った。
やがて、加持の方から折れた。
「・・・さてね・・・そうだな・・・・例えば、セカンドインパクトの真実なんかどうかな?」
ミサトは、セカンドインパクトの真実・・少なくとも、加持はそう判断した物を話した。
話の途中から、加持は相当真剣な顔になって熱心に聞き始めた。
それは、今まで調べていたことを完全に含んでおり、又そうではないかと思っていたことであったからであろう。
「・・・そんなところね・・・」
「・・・葛城・・・お前・・・」
そんな事を知れば、確実に暴走する、少なくともネルフの作戦部長なんかやっていられる筈は無い・・なのに、なぜ・・・そんな思いが伺える声だった。
「理由は聞かないで・・で、どう?」
「・・・そうだな、他の事も教えてくれるんだろ」
「ええ、でも、今は時間がないから後でね」
「なぜかな?」
あくまでとぼける加持に対し、半ば反射的にかなりの力を込めて殴り飛ばした。
「ぐお!!」
「誰のせいよ誰の!!あんたが物騒なもん持ってるからでしょうが!!」
そのまま壁にたたきつけながら怒鳴った。
・・・・
・・・・
・・・・
「そう言う事よ、私はアスカと話をしてくるわ・・・アンタはちゃんと準備しなさいよ」
「・・ああ、わかったよ・・」
加持は少し考えているようでもあった。
だが、これで少なくともブレーキにはなるだろう。


弐号機を輸送している輸送艦にアスカといっしょにヘリでやって来た。
「どうよ、これが、世界初の正式機エヴァンゲリオン弐号機よ!」
「・・・赤いわね・・・」
「違うのはカラーリングだけじゃないわよ!」
「ええ、人間が扱える中では最強の兵器、エヴァンゲリオン弐号機・・・」
それには、初号機は扱いきれないと言う意味が込められている。
誉められたと思ったアスカは得意顔を浮かべた。
水中衝撃波が走った。
「アスカ!」
外へ飛び出そうとしたアスカを呼び止めた。
「直ぐに弐号機を起動させて!」
「え?」
「使徒よ!」
アスカはその言葉ににやりと笑った。
「まっかせときなさい」
早速着替えをしようとしている。
「そのまま入って、1分で数千の命が失われるのよ、時間が惜しいわ」
数秒考えた後、バッグをミサトに投げ渡した。
「もってて」
そしてタラップを登って弐号機の搭乗の準備を始めた。
ミサトは早速、ヘリに戻ってオーバーザレインボーを目指した。
再びフリゲートが吹っ飛ばされた。
「・・・急いで」
弐号機が起動したようである。
オーバーザレインボーにつくと大急ぎでブリッジに向かった。
その途中で弐号機が非行甲板に着地し大きな衝撃が走りミサトは壁に頭をぶつけた。
「つぅう・・・」
頭を押さえながらブリッジに入った。
「万が一の事態の様ですね!」
「むぅ・・」
「ATフィールドを中和していれば、それなりに効く筈です!」
ミサトは通信機を取った。
「アスカ!ATフィールドの中和に集中して!艦隊に砲撃させるわ!」
「宜しいですね」
「・・分かった。」
そして、使徒が飛び上がり弐号機に襲い掛かった瞬間、太平洋艦隊のその殆どの艦による一斉射が行われ、ミサイルや砲弾が次々に突き刺さった。
使徒の体は次々に破壊されて行く。
そして、使徒はぼろぼろになって飛行甲板に乗り上げた。
「アスカ!!」
弐号機がプログナイフで一気に切り裂く、続いて連続して・・・
やがて使徒の肉片の中から、赤いコアが見えた。
「それを叩き壊して!」
そして弐号機がコアにプログナイフを突き刺した瞬間、全てが光に飲み込まれた。


白い天井が目に入った。
「・・・ここは?」
「・・気がついたようね。」
自分はベッドに寝ており横にリツコが立っていた。
「・・リツ、つぅ・・・」
全身に激痛が走った。
「全く・・・生きているだけで奇跡ね・・・オーバーザレインボーの生存者は、貴女を含めて100名ほどしかいないというのに、」
「・・・何が?」
「使徒のコアを攻撃した瞬間、それが爆発オーバーザレインボーは大爆発、更に周囲の艦も誘爆したわ・・・まあ、それがコアの破壊に伴うものなのか、自爆の類なのかは不明だけどね・・・」
「・・・アスカは?」
「外傷は無いわ、2、3日入院していたけれどね。もう退院したわ」
「・・・そう・・・」
少しほっとした。
「弐号機に関しても、そう大きな被害ではなかったわ・・初号機の修理、零号機の改造との並行は辛いけれど、もう直ぐ皆終わるわ、」
その後リツコと暫くの間話をしていた。
・・・・・
・・・・・
暇である。
本の一冊も置いていない。
体を動かすと痛いし・・・足は骨折れているし・・・
・・・・・
何もする事が無い
・・・・・
・・・・・
ドアをノックする音が聞こえた。
「は〜い」
ドアが開きシンジとレイが入って来た。
シンジがお見舞いのフルーツ、レイが小さな花束を持っている。
「あら・・嬉しいわね」
その後、見舞いに来た二人と暫く話をし、次来る時は何か読むものでも持って来て欲しいと頼んだ。
状況は危ないところが多いが、このまま行けば何とかなるかもしれない・・・