ミサトはネルフ中央病院をシンジの見舞いに訪れた。 「・・ミサトさん」 ミサトが病室に入った時、シンジは起きていた。 「調子はどう?」 「ええ、まあ」 軽く笑みを浮かべる。 「そう・・・レイを守ってくれたわね・・・有難う」 「・・いえ・・そんな事・・」 シンジはどこか照れているようである。 「シンジ君は立派なことをしたのよ、自分の行為に自信を持って良いわ」 「・・ミサトさん、」 その後暫くの間ではあったが色々と話をした。 翌日、ミサトは本部に行く前にレイのマンションに寄った。 「・・・」 目の前に広がる廃ビルのような団地。 「・・・」 (・・・レイを転居させる事はできるのかしら?) (・・・いえ・・しなくては行けないわね・・・) ミサトは階段を上りレイの部屋の前に立った。 インターホンを押したが、壊れている様で反応は無かった。 ドアをノックする。 「レイ、いる?」 「・・・はい・・・」 暫くすると、ドアを開けてレイが姿を表した。 「シンジ君のお見舞いに行かない?」 「・・碇君の・・・お見舞い・・・」 暫く考えていた様だが、最終的には承諾した。 30分後、ネルフ中央病院の通路を二人は歩いていた。 「いい、ヤシマ作戦の時の事、ちゃんとお礼を言うのよ」 「・・・はい、」 病室の扉を開け、二人は中に入った。 「・・綾波・・」 意外だったのか、シンジは少し驚いている様だ。 「じゃ、後は二人でね、お姉さんは外で待ってるから」 どこかからかい気味の言葉を残して、ミサトは二人を残したままさっさと病室を出た。 ロビーで缶コーヒーを飲みながら次の使徒のことを考える。 次の使徒・・・第六使徒は、海上で太平洋艦隊を襲撃してきた。 あれは、弐号機等を狙ったのではなく、加持が運んでいたアダムを狙ったのだ・・・ アダム・・・セカンドインパクトを引き起こしたものそのもの・・・ ミサトの思いは複雑である。 確かに、アダム自身には悪意、あるいはそれに相当するようなものはなかったであろう・・・しかし・・・ いずれにせよ、アダムに対する個人的な思いで、過ちを犯すわけには行かない。 個人的な感情といえば・・・・加持もである。真実を知るために、その為に全てを犠牲にして突き進んだ・・・そして、その結果は・・・・・ しかし、その未来は変えられるはず・・・加持が知ろうとして、そして、命と引き換えにつかんだ真実・・・少なくとも加持は真実と判断したものは、知っている。 それを加持に今伝えることで大きなブレーキがかけられる筈である。 時計に目をやる。 未だ少し時間があるようである。 「・・何か軽く食べてからにしよっかな?」 ミサトは病院の食堂へと足を向けた。 食堂で軽食を取ってからシンジの病室に戻って来た。 そっと扉を開けると、二人は穏やかな雰囲気で何か話をしていた。 何があったのかは分からないが、取り敢えず良い方向に進んでいる様である。 「あ、ミサトさん」 「あら、良い雰囲気のところお邪魔しちゃったかしら」 どこかからかい気味の音を含ませながら、ミサトは病室に入った。 「い、いや、そんな・・・」 シンジは頬をほんのり赤く染め、恥ずかしげである。 「冗談はおいておいて、シンジ君の退院は来週になるそうよ・・・レイ、又御見舞いに来て上げてね、」 「・・はい、」 了解ではなくはいと答えたことにミサトは笑みを浮かべた。 「今日のところはそろそろ時間だから私はこれで帰るわね」 「あ、はい・・あ、またね綾波、」 レイはこくんと頷き、二人は病室を出た。 レイを送り届けたあと、ミサトは本部に戻り赤木研究室を訪れ、案を伝えた。 「零号機の改造を今すぐ行えですって?」 「ええ・・今の零号機1機ではどうせ使徒には勝てないわ、だったら1時的に戦力は0になるけれど、早期に2機の戦力を揃えた方がそれ以後の戦いが有利になるわ」 「来月には弐号機が来るのよ」 「分かっているわ、その場合でも同じよ」 リツコはじっとミサトの目を見据えてきた。 「・・・司令に相談してみるわ」 そして翌日にはその案は採用され、零号機は初号機の修復と平行して改造を受けることとなった。 数日後にシンジが退院してから、ミサトのマンションに良くレイがやってくるようになった。 二人とも特に何をすると言う事でもないのだが、二人でいっしょにいて、時々少し会話をする程度・・・しかし二人ともそれが心地良いと感じている様だ。 ネルフ本部でも、良く二人が一緒に歩いているところが見受けられるようになっており、次第に職員達の噂の的になっている。まあ、勿論、本人達の耳には入っていないが・・・ 殆どの職員には好意的に捉えられているが、嫉妬なのか何かは分からないが、二人を中傷するような噂を立てている者を見つけた時、ミサトは本気でぶん殴って病院送りにした。 まあ、そのせいで始末書を書く嵌めに成ったが・・・ そんなある日、リツコとマヤがミサトのマンションに夕食を食べに来た。 「今日はシンジ君の料理をご馳走になるわ」 「シンジ君の料理はとっても美味しいわよ」 自分のことのようにか、どこか得意そうに言う。 「あっ、シンジ君」 「はい?」 台所からシンジの返事が返ってきた。 「レイって、肉や魚嫌いなんだけど、肉と魚無しの料理ある?」 「ええ、大丈夫ですよ、分かっていますから、」 「そう」 ・・・・ ・・・・ シンジは料理を机の上に並べた。 「シンジ君・・・凄いのね」 「本当ですね」 「そうね」 「食べてください、ね、綾波も」 シンジもレイの隣に座り皆食べ始めた。 「お、美味しい・・・」 (ミサトの餌には勿体無過ぎる) 「す、凄い・・・」 (私よりも上手) 「うん、いつもどおり美味しいわね」 「・・・」 (・・美味しい・・) レイは無言でだが、微笑を浮かべながら食べている。 その後食事も終わり、アルコールが大量に投入されそうになったので、シンジはレイといっしょにシンジの部屋に避難した。 ミサトは、気をつけて、酔う手前で止めておいた。まあ、それでも、結構な量を飲んだが、 「すぇ〜んぷぁ〜いゥ」 「よしよし」 リツコは酔いつぶれたマヤをあやしながら、じっとミサトの様子を見ていた。 「ん?どかした?なんかついてる?」 「いえ、何でもないわ」 リツコはミサトから視線を逸らした。 やがて、JAの起動試験の日がやってきた。 ネルフが工作したJA・・・恐らくはJAの計画に使われるはずだった予算を奪い取るというのが目的だったのであろう。 確かに、様々な特殊な事情はあるとはいえ、使徒という人類の敵・・人類を破滅させられる敵が現れているのは事実・・・そして、その過程や詳細は違うが、人類が壊滅的になるということだけはちゃんと伝わっている・・なのに・・・・ むしゃくしゃした思いを抱えながら、自分の部屋を出でダイニングに向かった。 「おはようございます」 「・・おはよう、」 シンジの精神状態はかなり改善されており、又前回の水準には未だ達していないとはいえシンクロ率も随分と上昇している。そして、それは又レイにもいえることであり、総合的に見れば、良い状況にあるといえる。 「今日、旧東京のほうまで行くけど、帰りは遅くなるから」 「あ、はい」 何気ない朝の会話が交わされ、朝食後ミサトはネルフの士官制服を着込んだ。 「じゃあ行ってくるから」 「はい、いってらっしゃ」 インターホンの音がシンジの言葉を遮った。 「だれかしら?」 ミサトがドアを開けるとそこにたっていたのは、洞木ヒカリであった。 ヒカリを姿を見るなり、シンジはびっくっと体を振るわせた。 「ごめんなさい!!」 誰かが何か言葉を発する前に、ヒカリは頭を直角に下げ謝った。 「え・・あ、あと・・その・・・」 二人とも言い出しにくいのか、口を開こうとしない。 (困ったわねぇ〜) このまま放って置く訳にもいかないが、このままだと大きな遅刻をしてしまいそうである。 ふと視界の端に、通路をレイが歩いてきているのが入った。 (ラッキ〜) ミサトはレイのところに行き、事情を話して二人のことをよろしく頼むと伝えた。 「・・・はい、わかりました。」 少し考えた後、レイは快諾した。 「ありがとう、じゃああとのことお願いね」 レイならば客観的に接することができるだろう。 ネルフ本部付属ヘリポート、 「遅いわよ」 ミサトが到着して真っ先に言われた言葉がそれであった。 「ははは、ごめん」 「急ぐわよ」 二人はヘリに乗り込み、すぐに離陸し旧東京を目指した。 やがて旧東京の上空に到達し実験施設が見えてきた。 これから茶番劇が行われるその場所をじっと見つめる。 「・・・」 「どうしたの?」 「いえね、JA使えるかなって思ってね・・・チョッチ」 「使えないわね。大体、リアクター積んで格闘戦なんかできるわけ無いでしょ」 「・・そうね、」 「・・・・」 記念パーティー会場。 先程から延々とJAに関する説明がされていた。 「質問を宜しいですか?」 「これは、これは、御高名な赤木リツコ博士、どうぞ。」 「動力機関を内蔵とありますが?」 「ええ、JAの大きな特徴です。核分裂炉を搭載する事で最高180日間の連続戦闘が可能です。」 得意そうに言っている。 「しかし、格闘を前提とする接近戦において動力機関を内蔵するということは危険過ぎます。」 「5分しか動けない決戦兵器よりはマシだと思いますがねぇ。」 「くっ、外部操作では判断に遅れが生じますが」 「暴走させた挙句、精神汚染を発生させる物よりははるかに人道的と考えますがねぇ」 「それを押さえるのが人の心とテクノロジーです。」 「まさか、御冗談を、あの怪物を人の心でどうにかなると?そんな事だから、国際連合はまた余分な予算を使わなければならない、某国では1万人近い餓死者が出ようとしているのですよ。」 「なんと言われてもうちの主力兵器以外は使徒は倒せません。」 「ATフィールドですか?それも時間の問題ですよ。ネルフ、ネルフ、という時代はもう終わったんですよ。暴走してしまう決戦兵器など、ヒステリーを起こした女性と同じです。手におえません。」 会場中から笑いがこぼれた。 リツコは俯き拳を震わせていた。 控え室に入るとリツコは表情を一変させた。 「大した事ないわね・・ただ、誉めてもらいたいだけのつまらない男、」 リツコはパンフレットに火をつけ、ごみ箱に捨てた。 「まあ、しょうがないんじゃない?・・・それよりも、機密の漏洩のほうが問題よ」 「それは、確かにそうね。帰ったら司令に報告しておくわ」 時計に目をやると良いころあいである。 「そろそろ行く?」 「そうね」 そして、JAの試運転が日重にとっての予定通りに行われた。 JAがゆっくりと動き出した。 「へ〜・・ちゃんと動くのね」 「それはこれだけの者を集めてちゃんと動かなかったら、大恥ものよ」 「まね、」 そして、JAがネルフにとって予定通り制御を離れ暴走した。 JAによって破壊された会場は半ばパニック状態となる。 「・・・下手な夢を見たのが過ちね・・」 「そうね・・・」 リツコは、どこか落ち着いているミサトを横目で見つめていた。 やがて予定通りにJAは暴走しメルトダウン寸前で停止した。