シンジとの家族としての生活はそれなりに上手く行っている。 やはり、シンジの事を色々と知っている事が良い方向に進んでいる様だ。 只、時々、つい知り過ぎていると言う事を漏らしそうに成って焦った事はあったが・・・ 今、ネルフ本部の自分の執務室で報告書を読んでいる。 武装の変更はほぼ終わり、貫通力の相当高いものに変更されている。 兵器の配備も大方は終了している。 「・・・今日・・来るわね・・・」 第四使徒・・・作戦は出来た。 訓練もしっかりと行った・・・完璧な状態で第四使徒を迎え撃てる。 「行けるわね」 歴史は変えられる・・・いや、そうでなければ今の意味がない。 暫くじっと色々な事に思案を巡らせていると、警報が鳴り響いた。 「・・来たわね・・」 ゆっくりと椅子から立ちあがり発令所に向かう。 発令所に到着するとメインモニターには国際連合軍の第四使徒への攻撃が映し出されていた。 無駄な攻撃が続いている。 「税金の無駄使いだな」 冬月の苦言も飛び出す。 「・・シンジ君は?」 「ケージに到着しました。搭乗の準備をしています。」 「・・・そう、」 そして、なんら有効な事が出来ずに、国際連合は退散する事になった。 「委員会からエヴァンゲリオンの出撃の要請がきています。」 「分かったわ、マギに判断させて」 リツコは頷きマヤに指示をした。 ・・・・ ・・・・ 「作戦ポイントはC、射出ポイントはB−25です。」 作戦マップに誘導ルートが表示された。 「シンジ君、モニターに表示されている誘導ルート、分かった?」 『・・・はい・・・』 何か、シンジの表情が優れない。 「・・どうかしたの?」 『・・・いえ・・・』 「良いわね」 初号機が射出され、使徒と対峙した。 そして作戦通り一定距離を保ちながら、ゆっくりと作戦ポイントへと誘導している。 「後、30で発動します。」 (行けるわ) 極めて順調・・・ミサトの描いた通りに事が運んでいる。 そして、使徒が丁度作戦ポイントに到達した。 「作戦発動!!!」 初号機が少し接近しATフィールドを展開し、使徒のATフィールドを中和する。 それと同時に周囲の展開されている全ての兵器が使徒に向かって総攻撃を開始した。 使徒は一瞬にして光と爆煙に包まれる。 「続行して!」 その時、爆煙の中から2本の触手が飛び出して来て、周囲の兵装ビルを切り刻んだ。 「シンジ君!!後退して!!」 初号機が下がり攻撃も中止された。 爆煙の中からゆっくりと姿を表した使徒は表皮に傷は認められるが、機能を奪うにはまるで足りない。 「くっ」 使徒の表皮はミサトが考えてよりもかなり強かった様である。 使徒は初号機に対して触手で攻撃して来た。 それに対して初号機は避けるのが精一杯である。 「ミサイルぶち込んで!!」 ミサイルを大量に使徒に向けて発射し、視界を奪った筈なのだが・・・攻撃の正確さは殆ど替わらない。 「視界以外のもので探知しるわね」 ミサトは唇を噛み締めた。 その時、アンビリカルケーブルを切られた。 「アンビリカルケーブル断線!!内部電源に切り替わりました!!」 (又・・・又・・私には何も出来ないの・・・) 初号機は触手で足を取られ、投げ飛ばされ、丘の中腹ほど・・・丁度前回も初号機が投げ飛ばされた場所に落下した。 「あっ!」 ミサトはトウジとケンスケの事を思い出した。 しかし、警報は鳴らず、ミサトはほっと息をつき胸をなでおろす事が出来たが、使徒は既に初号機に接近している。 「支援攻撃可能な兵器は!!?」 「兵装ビルは3つだけです!!」 これではどうしようもない・・・方法としては、特攻以外思いつかない・・・一旦退却させて、仕切り直す事も出来るが、した所で大して状況が改善されるわけでもない。 「・・くっ」 ミサトが考えている間にも使徒はゆっくりと近付いてくる。 『ミサトさん!!』 助けて!!といっているようにも聞こえる。 更に、内部電源の残量は刻一刻と減っている。 「シンジ君、生き残るためには戦うしかないわ・・・シンジ君、赤い玉コアが見えるわね」 モニターのシンジは頷く。 「アレをプログナイフで思い切り突いて」 「え・・」 シンジは驚いたような、おびえたような表情を浮かべた。 ミサトの堅く握られた拳から血が床に落ちる。 シンジはその血とミサトが体を小刻みに震わせているのを見でもしたのか、表情を変えて軽く俯いて何かぶつぶつ呟き始めた。 その間に使徒は間近まで接近してきた。 そしてシンジはキッと顔を上げ叫びながら使徒に向かって突撃した。 『わあああああああああ!!!!!!』 使徒の触手が初号機の腹部を貫いたが、初号機はそのまま、プログナイフを使徒のコアに突き刺した。 『があああああああ!!わああああああああああ!!』 「シンジ君・・・」 『おおおおおおおおおおおおおおお!!!』 僅か十数秒の事だが、酷く長く感じられる。 漸く使徒のコアが割れ使徒の動きが止まると同時に神経接続が解除された。 「パイロットは無事です。」 その報告にミサトはほっと息をついた。 初号機が回収されると直ぐにミサトは、シンジの所に飛んで行った。 「シンジ君!!」 待機室に飛び込んだミサトはシンジに駆け寄ってぎゅっと力強く抱き締めたが、一方シンジの方は突然の事にすこし戸惑っている様である。 「・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」 ミサトは涙を零しながら何度も謝った。 その日は、シンジを高級レストランに連れて行き一緒に食事を取った。 夜、ミサトは自室で考え事をしていた。 シンジとの信頼関係は、しっかりと築いている。 次ぎはレイである。 だが、レイは補完計画等の深部に関わっており、自分にはどうこうする権限は無い。 出来れば、何らかの方法でここに越して来させ自分の保護下に置きたい。 今すぐ簡単に思いつくのは、イスラフェル戦のユニゾンである。 シンジとレイのペアで叩くと言う事で、ここで一定期間過ごさせれば、その後は崩し的に何とかなるだろう。 しかし、そうするとアスカが問題になる。 だが・・・アスカとは少し距離を置いた方が良いかも知れない。 急速に近付けば、お互い傷付くだけである。 特にあのような性格であるのだから・・・ レイと違って、ミサトが接触する事に制限は無い、機会は又何度でもあるだろう。 その辺りの事を色々と考えて思考を止め眠りにつく事にした。 しかし・・・ミサトはここで大きなミスを犯してしまっていた。 翌日、シンジを学校に送りだし、それからネルフ本部に向かった。 今、執務室で先の戦闘に関連する書類の整理をしている。 そして、その中の被害報告書の1枚が目に止まった。 民間人死傷者 相田 ケンスケ 13 死亡 鈴原 トウジ 13 死亡 「・・・まさか・・・そんな・・・」 初号機の下敷きになったのである。 シンジの親友の二人・・・シンジはトウジの片足を奪った事に大きな罪を感じていた。それが・・二人の命を・・・シンジにとってどれほどの精神的な打撃であろうかと、シンジの事を心配した。 しかし、ミサトはあるいみ大きな勘違いをしていた。 そしてそれを示す事になる電話が入った。 「はい」 『保安部です。サードチルドレンが暴行を受け、現在中央病院に搬送中です』 「何ですって!!!」 ネルフ中央病院、待合ロビー、 保安部員から事情を説明された。 それによると、クラス中から二人を殺したと一斉に非難され、更にクラス委員長の洞木ヒカリから逆恨みの暴行を受け、同時に素行が悪い3名からもその後暴行を受け、保安部が介入した時には既に・・・・ 現在、洞木ヒカリを含め犯行の中心となった4人は保安部が拘束している。 ミサトは頭を抱えた。 何故、昨日の内に報告書に目を通さなかったのか、そして、シンジの現在の状況を考えれば、ここまでの事はともかくも、非難されることくらいは容易に予想できた筈である。 ミサトが悔やんでいる間に、医師が近付いて来た。 「検査は終わりました。骨に少し罅は入っていますが、特に問題はありません。」 「有難う御座いました。」 医師に礼を言ってシンジの病室に急いだ。 病室のベッドではシンジが泣いていた。 「・・ミサトさん・・・皆が・・・僕を人殺しだって言うんだ・・・人殺しだって・・・」 「・・シンジ君・・」 「人殺しだって・・」 ミサトはシンジをぎゅっと抱き締めた。 「私はシンジ君の味方だから・・・絶対に・・・」 「ミサトさん・・・」 シンジはミサトの胸で泣き続けた。 (ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・) そして、ミサトは心の中で何度も謝り続けた。 シンジは数日間入院する事になり、その内に休学の手続きを取った。 今の状態でシンジを登校させるのは得策ではない。 同様にレイもとばっちりを受ける可能性を考慮し休学させる様に司令部に上申したところ、直ぐに許可は下りた為、同様の手続きを行った。 ミサトは保安部のヒカリを含めた4人が拘束されている部屋に向かった。 その部屋に入ると、暗い部屋の中央のパイプ椅子にそれぞれは拘束されて座らされている。 それを保安部員数人が取り囲んでいる。 ミサトは怒りに満ちた表情で4人に近付いた。 4人は完全に怯えている。恐らくは、保安部によって行われた尋問で自分の犯した行動が如何に大きな事であるのかを知らされたのであろう。そして、この部屋と保安部員、そして、怒りの形相のミサトに対して純粋に恐怖していると言うのは本当だろう。 怒りに任せてヒカリ以外の3人を思いきり殴り飛ばす。 パイプ椅子ごと吹っ飛び、宙を舞う。 妙な音を立てながら地面に叩きつけられ、パイプ椅子が激しい音を立てる。 皆血を吐いたり流したりしながら、妙なうめき声を立てている。 歯が折れたり吹っ飛んだりしている者、着地した時になったのか腕が妙な方向に曲がっている者・・・ 「あ、アンタ達!!」 ミサトが言葉を続けようとした時、保安部員の一人がミサトの前に立って掌で制止した。 「彼らに関しては後は我々がやります。」 保安部員達が妙なうめき声を立てながら地面でのた打ち回っている3人の拘束を外し、どこかへと連行して行った。 「・・・」 「・・では、私はこれで、」 ヒカリの拘束を外すカギをミサトに手渡すと皆いなくなり、部屋にはミサトとヒカリの二人だけが残された。 洞木ヒカリ、前回のアスカの友人であり、今回死亡した鈴原トウジと特に親しい関係にあった。 今回、自分の行動によって、本来出さなくて良かった犠牲者を出してしまった。 全ての非は自分にある。 「・・・洞木ヒカリさんね、」 ヒカリは恐怖でビクッと体を振るわせた。 「・・・私は、葛城ミサト、ネルフの作戦部長で作戦行動を指揮していたのは私よ」 「・・・・・・」 「・・今回、貴方の友人が死亡した責任は全て私にあるわ、」 「貴方がシンジ君に向けてしまったものは全て私に向けられるべきものなの」 「・・・・・・」 じっと、ミサトの顔を見詰め・・いや、睨みつけてくる。 瞳には怒りの炎が灯っている。 「・・私に対してぶつけてもらって良いわ、但し、シンジ君に対して自分の非を認め謝りなさい」 ミサトの言葉にヒカリは目を大きく開いた。 「彼には責任は無いわ、そのシンジ君に対して貴方が犯した行為を謝りなさい」 「・・・・・・・」 「・・・・・・・」 沈黙が流れた。 「・・・それは・・・気持ちの整理を、ちゃんと・・・つけてからで、良いですか?」 確かに今直ぐに謝れと言った所で土台無理だろう。 「ええ、構わないわ、」 ミサトはヒカリの拘束を外した。 「・・・私にぶつけて良いわ、」 ヒカリは、暫く俯きじっと黙っていたが、キッと顔を上げた。 「よくも鈴原を〜〜!!!」 その日ミサトは医務室で簡単に治療をしてもらってから帰宅した。