再び

◆第1話

ミサトは周囲を見まわした。
地下の駐車場の様である。
目の前には、お気に入りのルノーがある。
「・・・ここは?」
「・・シンジ君?」
シンジの名を呼ぶが反応は無い・・・どうやら無人の様である。
「・・・そう言えば、私なんで生きてるわけ?」
ネルフ本部に侵攻した来た戦自の隊員からシンジを庇って背中を撃たれた。
「・・あれ?」
服が違う・・余所行きの服・・・
「・・・どこも怪我なんかしてない・・・どう言う事・・?」
暫く迷っていたが、取り敢えず携帯から発令所に電話をかけた。
『はい、ああ葛城さん、良かった。丁度、こちらから連絡を入れ様としていたんです。』
日向である。
「どうしたの?」
『はい、サードチルドレンを乗せた特別列車が、途中の駅で緊急停車』
日向の言葉半ばにミサトの思考は真っ白になった。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
『・・葛城さん、葛城さん!』
「あ、ああ、大丈夫・・・それで?」
『ナビの方を見て貰えれば分かります。』
「・・・分かったわ・・・」
携帯を切り、車に乗って走らせた。
ナビの目的地は、シンジが降り立った駅である。
「・・・分からないわ・・・」
これは夢なのか?或いは、今までのものが夢なのか・・・
法定速度など無視し、全速力で走らせる。
地上に出て、第3新東京市の市街が見えた。
・・・第3新東京市・・・
数々の使徒との戦いで傷付き、そして、第拾六使徒戦の零号機の自爆によって消滅した街・・・
分からない・・・だが、いくらなんでもあれが全て夢だとは思えない。
もしも・・もしもこれが現実ならば、やり直せるのかもしれない。
あの時、全てをやり直したいと願った。
それが叶ったのであろうか・・・?
「・・・シンジ君・・・アスカ・・・レイ・・・」
自分が駒として扱った3人のチルドレン。
悲劇の戦いに巻き込まれ・・・いや、自分が、巻き込んだ子供達・・・
「・・・今度は、貴方達を救えるかもしれない・・・・・・いえ、必ず、救うわ・・・」
ミサトは、シンジが待つ筈の駅に向かって更に加速した。


駅に到着した時、シンジは、駅前の階段に座って待っていた。
「・・シンジ君・・」
(あ・・・シンジ君は私の事知らないのよね・・・)
シンジの直ぐ傍で車を止めて降りる。
「・・碇、シンジ君ね、」
「葛城、ミサトさんですね」
「ええ、ミサトで良いわよ」
ミサトが笑みを浮かべながら言ったその時、辺りに凄い音と振動が走った。
「うわっ」
「きゃっ」
周囲一帯の電線が嫌な音を立てて揺れている。
辺りが静まり、2人は耳を塞いでいた手を下ろした。
「な、なに?」
「拙い!」
その時、地響きのような音が聞こえて来てその方向を振り返ると、山の影から複数のVTOL機が現れた。
「戦争?」
「早く乗って!」
ミサトは急いでシンジを助手席に乗せ、直ぐに車を走らせた。
そのVTOL機に続いて、緑を基調とした変形人型の怪物、第参使徒が山陰から現れた。
「・・何だあれ」
前方から巡航ミサイルが飛んで来た。
「うわ!」
巡航ミサイルは使徒に激突し爆発する。
VTOL機が次々に攻撃を仕掛けた。
次々にミサイルが飛び交い、使徒に直撃し爆発しているが、死とには全く利いていないようだ。
重対空ミサイル機から発射された巨大なミサイルを、使徒は手で受け止め握り潰し爆発に包まれたが無傷で姿を表した。
シンジは、呆然と、半分怪獣映画か何かを見ているかのような気分で、その目の前の信じがたい現実を見ている。
使徒の攻撃によってVTOL機が撃墜された。
戦闘域を抜け、国道に入った。
NN地雷の発動が近い、ここで、アクセルを緩めるわけには行かない。
「・・・ミサトさん、あれは、あの、怪物は一体何なんですか?」
シンジの質問に顔を顰めた。
これから、シンジに初号機に乗って使徒・・・シンジが怪物と表現したそれと戦う様に言わなければ成らないのだ。
「・・・あれは、使徒よ・・・」
「・・使徒?」
「・・・それよりも、しっかりシートベルトを締めて」
「あ、はい」
シンジはシートベルトをした。
やがて、トンネルに入り、アクセルを緩めた。
「・・ふぅ・・・」
ミサトは悩んだ・・・これからシンジになんと言えば良いのか・・・シンジが乗らなければ、敗北、シンジも死んでしまうのだ。
だが、強制的には乗せたくない・・・そんな事はもう、嫌だ・・・
「・・・・着くまでに読んどいてくれるかしら?」
パンフレットを取り出して、シンジに渡した。
だが、ではどうすればいい?
「ネルフ?」
「・・そう・・・国際連合直属の秘密組織・・・特務機関ネルフ・・・私達が所属する組織よ・・」
「先生が言っていた、人類の平和を守る立派な仕事って言うやつですね。」
その言葉に表情を歪めた。
「・・・」
「・・どうしたんですか?」
「いえ・・・ちょっちね・・・」
(・・・どうしたら良いのかしら・・・)
結局何も思いつかないまま、本部に到着した。


建物に入って車を下りて、歩いた。
シンジは物珍しいのか、少しきょろきょろしながら付いて来る。
遂にケージへと続く扉の前にまでやって来てしまった。
扉が勝手に開いて行く・・・どうやら中から開かれたらしい。
アンビリカルブリッジの上にリツコが立ち、そして、冷却液には初号機がひたされている。
二人はケージの中に入った。
シンジは初号機に釘付けに成っている。
「初めまして、シンジ君、私は、ここの技術部長を務めている赤木リツコよ、」
「あ、はい、宜しく・・」
シンジは軽く頭を下げつつもやはり視線は初号機に行ってしまう。
リツコは1歩前に出た。
「人の作り出した究極の兵器汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン。そして、これはその初号機。開発は超極秘裏に行われた。」
自信に満ちた声である。
だが、ミサトには・・・
「・・・これも・・・父の仕事ですか?」
『そうだ』
初号機の向こう、司令室に碇が立っている。
『久しぶりだな』
「父さん・・・」
『出撃』
何と言えば良いのか・・・
シンジは理解できていない。
「シンジ君、貴方が、これに乗るのよ」
「な・・・」
「無理だよ!こんな見たことも聞いた事も無い物にいきなり乗れだなんて。」
『説明を受けろ、お前が適任だ』
シンジは怯える小動物のような顔でリツコとミサトの顔を見た。
ミサトはどうすれば良いのか分からず、顔を背けた。
「父さん・・・父さんは、僕がいらなかったんじゃないの!!」
『必要だから呼んだまでだ。』
それに対して、碇はあくまでシンジを突き放した。
半分泣きかかっているシンジは俯いた。
「そんなのって無いよ、折角来たのに・・・」
『乗るなら早くしろ、でなければ、帰れ!』
シンジはやはり自分は要らない子供だったと、かなりのショックを受けた。
「・・シンジ君・・」
「初号機のパーソナルをレイに書き換えて!」
リツコは、もう諦めたらしく整備士達に声を送った。
『冬月、レイを起こしてくれ』
周りはミサトを除いてシンジに見切りをつけ事を進めていくが、シンジは俯いたままである。
『かまわん、死んでいるわけではない。』
ミサトはシンジに掛ける言葉が見つからなかった。
暫くして、二人の医師が大急ぎでレイを運んで来た。
「うっ」
レイは痛みを堪えながら上半身を起こした。
その時、辺りが揺れた。
『奴め、ここに気付いたか。』
激しい衝撃と共に天井部の鉄骨が落下して来た。
ベッドが倒れレイは滑り落ち、床に叩きつけられた。
「ぐうっ」
シンジが思わず手を頭の上に翳した時、初号機の手が動きシンジやレイ達に降りかかる鉄骨を弾いた。
鉄骨は碇の方に飛んで行き、強化ガラスに当たって軽く罅が入った。
碇は微動だにせず、見下ろしている。動けなかったわけでもない、明らかに動じていない。
整備士達が驚きの声を漏らしている。
「・・・」
そんな中、ミサトはじっと初号機を見詰めた。
(・・・碇ユイ博士・・・)
シンジはレイの元に駆け寄り抱き起こした。
「あうっ、ぐっ」
そして、何かぶつぶつ呟いた後、碇の方を向いた。
「・・・乗ります。」
「さ、こっちに来て。」
言葉を発し終わると、殆ど間を置かずにリツコはシンジを誘導した。
碇の口元ににやりと笑みが浮かんでいた。
(・・・何もできなかった・・・何も・・・)
ミサトは無力さに俯いた。
医師達がレイを運び出して行った。


そして、発令所に行き、戦いの準備が始まった。
「冷却完了、ケージ内全てドッキング位置。」
「パイロット・・・エントリープラグ内コックピット位置に着きました!」
「了解、エントリープラグ挿入」
「LCL排出開始」
「プラグ固定完了、第一次接続開始!」
「エントリープラグ注水」
「なっ!な、何だこれ!!」
「心配しないで、肺がLCLに満たされれば直接酸素を取り込んでくれます。」
『・・・・ぎぼち悪い・・・』
「・・でも、LCLは必要なの我慢してくれる?」
「主電源接続、全回路動力伝達、起動スタート、シナプス挿入」
「A−10神経接続異常なし、初期コンタクト全て問題無し。」
「全ハーモニクスクリアー、シンクロ率42.63%、暴走、有りません。」
「エヴァンゲリオン初号機発進準備」
「第一ロックボルト外せ!」
「解除、続いてアンビリカルブリッジ移動!」
「第一、第二拘束具除去」
「第3第4拘束具除去」
「1番から15番までの安全装置解除。」
「内部電源充電完了、外部コンセント異常なし。」
「エヴァンゲリオン初号機、射出口へ。」
「進路クリアー、オールグリーン!発進準備完了。」
「・・シンジ君、準備は良いかしら?」
『・・・はい・・』
「・・・宜しいですね。」
「勿論だ。使徒を倒さぬ限り我々に未来は無い」
「・・発進!」
初号機が射出された。
「最終安全装置解除」
「シンジ君、先ずは歩く事だけを考えて。」
初号機が右足を前に踏み出し、その衝撃で傍の電話ボックスや商店のガラスが割れた。
発令所中から声が漏れる。
そして左足も前に出し歩く事に成功したが、もう1歩踏み出した時に体勢を崩し、転倒する事になった。
『いつっ』
モニターのシンジは目の前に使徒が見え大きな恐怖を感じているのか、震えている。
(・・・シンジ君・・・)
ミサトは強く強く拳を握った。
使徒に頭部の突起物を掴まれ吊り上げられた。
使徒に初号機の左腕を掴まれ引っ張られる、
『ぐ!』
初号機の腕が更に引っ張られ初号機の筋肉繊維が断ち切られた。
「ぎゃああああ!!!」
使徒が初号機の頭部を掴んだ
光の槍で初号機の目を突いている。
『ぎゃあああ!!』
ミサトは余りに力を込めた為に掌の皮が破れ、血が滲み出した。
数度で、初号機は貫通され、ビルに叩き付けられ血を吹き出していた。
「頭部破損!被害不明!」
「制御神経断線!」
「シンクログラフ反転!」
「パルスが逆流します!!」
「せき止めて!」
「駄目です!命令を受け付けません!」
「又、又なの」
リツコが恐怖に震えていた。
「パイロット生死不明!一切モニターできません!」
「初号機完全に沈黙!」
発令所に悲壮感が流れた。
(・・・シンジ君・・・ごめんなさい・・・)
初号機の目が光った。
そして顎部拘束具を破壊して雄叫びを上げる。
「初号機・・・再起動」
「暴走・・・」
初号機は雄叫びを上げながら使徒に攻撃を開始した。
数発の打撃攻撃で使徒は宙に舞い、ビルをなぎ倒した。
初号機は跳躍し、使徒に飛び蹴りを食らわせようとしたが、ATフィールドに阻まれた。
「ATフィールドがあるかぎり使徒には有効な攻撃を加えられない」
初号機の左腕部が復元した。
「初号機、左腕部復元」
「初号機もATフィールドを展開!位相空間を中和していきます」
「いえ、侵食しているのよ」
リツコはマヤの報告を訂正した。
そして、使徒のATフィールドは破られた。
その瞬間、初号機はビームで弾かれ吹っ飛んだ。かに見たが、初号機は無傷だった。
初号機は一気に間合いを詰め、使徒の手足を砕いた。
そして、初号機は使徒のコアに対して執拗な打撃攻撃を加え始めた。
使徒のコアに罅が入り始めた。
使徒が突然形を変え、初号機の頭部に取り付いた。
そして使徒は自爆し第3新東京市にエネルギーの十字架が現れた。
しかし、初号機は顕在していた。
オペレーター達は余りのエヴァの強さに恐怖を感じた。
ミサトは無力さと済まなさに身を震わせ只じっとモニターを見詰めていた。