復讐…

◆第拾六話

 ここのところ、又夢見が悪くなってきた…それも、毎日悪くなっていく…従って朝の気分は毎日だんだん悪くなっていく。
「…どうして、こんな夢を見なくちゃならないの……」
 とてもレイラが望んでいることが夢として出ているとは思えない。唯一自分がレイに…シンジに相応な存在になっていると言うことだけだが…これも他が余りにも願っていることとはまるでかけ離れてきているから、最近は本当にそうなのかとさえ思う。今、二人は明らかにシンジとレイはお互いを避けあっている関係が続いているし、それが改善する見込みはまるでなさそうである。それなのに、本当に自分がレイのような存在になりたいから夢の中でレイになっているのだろうか…とも
 しかし、そうでないとしたら…一体何なのだろう?望んでいることとはまるで違う…何故あんな夢を見ると言うのだろう?


 最近…又、レイラの様子が変である。
 悩んでいるようでもあるが、どこか違う気がする。…しかし、いずれにしても特に朝、元気がない。
「レイラさん、どうかしたの?」
「ん?ちょっと最近夢見が悪くて…」
 軽くどこか影のある苦笑いを浮かべて答えてくれた。
「夢?怖い夢とか?」
「うん…そうね、確かに怖い夢ではあるわ、嫌な夢であることは間違いないけど」
「ふ〜ん、どんな夢なんですか?」
「あ、良いの…シンジ君に話すのはちょっと恥ずかしいから…」
「あ、そうなんだ…まあ、そんな夢は気にしないで、忘れちゃった方が良いと思うよ」
「そうね、そうするわ」
 しかし、シンジの言葉でレイラの状態が改善した…と言うことはなかった。


 そして、その日…レイラは衝撃的な事態に出くわすことになった。
「消滅!!?」
 ミサトの驚きの声が部屋に響く…
「ええ…完全に消滅したわ」
「衛星の映像を出します」
 モニターに衛星からの映像が映し出された。
「5、4、3、2、1、」
 マヤがカウントダウンを終えると同時に突如モニターに映っていた第2支部が光に飲み込まれた。
 数秒後、光が消え去った後には、嘗て第2支部であった場所を完全に飲みこむほどの大きなクレータが存在していた。
「ふむ…確かに消滅だな」
 第2支部が消滅…SS機関搭載実験中の事故で…夢で出てきたリツコ達の言葉が頭の中に響く…
「…原因は何だ?」
「…タイムスケジュールからするとSS機関搭載実験中の事故の様ですが、パーツの強度から破壊工作に至るまで…組み合わせは10億通り余り、原因の追及はほぼ不可能です」
 レイラは不安を視線に込めて蘭子に向ける…蘭子は隠そうとしているがどこか困ったという表情がにじみ出てきてしまっていた。
 耕一はその他の物もあわせ今ある報告を一通り聞いた後、じっと考え込んでいる。
「良く分からない物を使うからよ」
「永久動力機関の夢は潰えたわねわね」
 ミサトとリツコがなにやら言葉をやり取りしているがレイラの耳には殆ど入ってこない。
「ともかくも、情報の収集が最優先だ。碇君、冬月君…どちらか現地に飛んでくれるか?」
「では、私が行きましょう」
 冬月が答えた。
「頼んだ」


 前は、蘭子の提案で耕一に話をした…。なら、耕一に直接話すと言うのはどうだろうか?確かに話したいことではないが…ひょっとしたら何らかの答えとまでは行かなくても糸口のようなものをくれるかも知れないし…
「お父さんは、今いる?」
 考え込んでいて、耕一が執務室にいるのかどうか気にしていなかったため分からなかったレイラは蘭子に尋ねた。
「あ、そうね。それが良いかも知れないわね、もう直ぐ戻るはずよ」


 レイラが執務室で耕一の帰りを待っていると直に耕一が戻ってきた。
「ん、どうした?」
「相談したいことがあるんだけど…良いかな?」
「良いぞ、一体どんな相談だ?」
 耕一はソファーに座り、レイラは話を始めた。
 話の間ずっと黙って最後までじっと聞いていた。
「…そうか、夢の内容が現実になると言うことは前にもあったな」
「…うん」
「少し、どう言うことなのか様子を見てみたい…だが、様子を見た結果…と言うのでは困る」
「参号機については多分こっちに来るだろうから…対策を考えてみる」
「…うん…」
 ドアがノックされた。
「会長、今宜しいですか?」
「あ、ちょっと待ってくれ」
「あまり不安を抱え込みすぎると、そのせいで体をこわしてしまうし、そんなに気にしない方が良いぞ…どこかに気分転換にでも出かけたらどうだ?」
「ん…そうだね」
「ああ、」


 シンジは職員食堂で食事を取りながらレイラのことを考えていた。
 レイラが何を悩んでいるのかは分からない…が、そんな気分が沈んだ状態が続くと言うことは、シンジにとっても好ましいことではない。
「なにか…気分転換になるようなことないかなぁ…」
 しかし、それ以上にレイラはシンジの大切な家族である。だから、レイラのために何かして上げたい…そう、レイの件でシンジがどん底まで沈み込んでいたときに、色々と気遣ってくれたように…
 何かレイラのためにできることはないかと考えていると、作戦部の職員がシンジを呼びに来た。
 何でも第2支部で何かがあったらしいと言うことで、ミサトから説明があると言うことである。間違いなくSS機関の暴走で消滅したのだろう。と、言うことはもうまもなく参号機がやってくる事になる。
 そんなことを考えながら職員について会議室に向かった。


 その日の夢でも、又同じように、内容は辛い物になっていた。
 今までに、何回も夢に出てきたことの一部とその時点で将来起こることの一部が重なっていた。偶然としてかたづけるのは難しいほどに…だから、原因は分からなくとも、これからもそれが重ならないと言う保証はない。
 もし重なってしまったら…それも、自分にとって重なって欲しくない部分が重なってしまうとしたら……
「…お父さんからは、ああ言われたけど…」
 やはり…不安になってしまうことは避けられない…


「レイラさん、大丈夫?」
「え?あ…うん…」
 レイラは今日も元気がない…昨日、夜遅くに帰ってきたが…何かあったのだろうか?
「昨日、何かあったの?」
「昨日………、ええ確かにあったわ。第2支部が消滅したんだけど…聞いていた?」
「うん……第2支部に誰か知り合いでもいたの?」
「ううん…そうじゃないんだけど…」
 と言うことは、さっきの言葉は話を逸らしたと言うことだったのだろうか?
「何か…心配なことでもあるの?」
「ちょっとね…」
「ホントに何か無かったの?」
  最近のことから考えると、ちょっとと言うようなこととは思えない…レイラのことが心配になってきて、シンジはちょっとしつこく聞いてみた。
「何でもないわ…ちょっと夢で第2支部が消えちゃうのを見ただけ…」
「…そうなんだ。でも、大丈夫だよ、レイラさんは第2支部にいる訳じゃないし、本部じゃSS機関の実験なんか行ってないんだし」
「…そうね」
 どこかしっくりこないようだが、笑顔で返してくれた。


 それから間もなく、参号機の本部輸送が決定した。
 最も、この事は状況やその他のことを考えれば、自然な流れとも言え、またしても夢の通りになった…とは一概に言いきれないかもしれない。
「最近元気ないわね…今晩私のおごりでで飲みに行きましょうか?」
 蘭子が誘ってくれた。レイラは当然OKしたが…かと言って、その事が頭から離れるわけではなかった。
(……もし…夢の通りだったら…フォースチルドレンは…)
 鈴原トウジだったか…その名前を端末で検索してみると、夢に出てきたとおりシンジのクラスメイトで、上下黒ジャージの変わった男子であった。夢の中ではシンジと友人関係のようだったが、シンジの学校での様子の報告からするとそう言う感じではないようである。
 もしも、夢の通りにああなったとしても、それよりはましな形になるかも知れない。


 翌々日…フォースチルドレンが選出されたことがマルドゥック機関からネルフ司令部に報告された。
 レイラは報告書の写しを見ながら…何とも言えないような表情を浮かべていた。
 又…夢の通りになった…知るはずのないことが、夢で見たとおりに…もし、このまま夢の通りに出来事が続いたら…そんな事を思ってしまい、少しめまいがしてきてしまった…
 何度目かの溜息をつく…


 前回は知らされることはなかったが…今回は、随分早い段階でミサトからフォースチルドレンの話を聞くことになった。
「四人目ですか…」
「ええ、こんなタイミングで見付かるというのは作為的なものを感じるけど、実際はもっと前に見付かっていて、それを今発表しただけなのかも知れないわね」
 マルドゥック機関は実在しない…耕一はこの件にどう絡んでいるのだろうか?
「それで、これに、その子の事について書いてあるわ…目を通して置いて、それ以上は、その子が参号機のパイロットになることを承認してからね」
 ファイルがそれぞれに渡される。そこに記載されていたのは当然のごとくトウジだった。
「え〜〜〜!!!!」
「なっ、何でこんなジャージなのよ!!!」
「別にジャージがどうとかは関係ないでしょ、チルドレンとしての適正と日常でのものは違うんだから…あるに越したことはないけど」
 アスカのフォローという意味があったのだろうが…さらっと、結構きついことを言う。
「ま、まあそうだけど…」
「どうなるかは未だ分からないけど…仲間になったときは宜しく頼むわよ」
 アスカは渋々という感じで分かったと返事をし、シンジも曖昧な返事をした。
 最もそんなことになることはないと分かっているのだが、


 そして…参号機の起動実験が翌日に迫ってきていた。
 耕一は参号機のことについて技術部の方にいくつか指示を出したようである。
 細かい指示は良くわからないが、大まかなところでは、事前のチェックの徹底、事故発生時の被害の局限化、その際のパイロットの脱出の確実化等である。
 結局のところ、第2支部を消滅させたアメリカ支部製の機体だから何が起こるか分からない等と言った事が理由になっているのであり、使徒に乗っ取られる等と言ったことを想定している訳ではない以上、どこまで効果があるものやら…
 とは言え、レイラの夢で出てきたから等と言った理由で対使徒用の備えをするわけにもいかないから仕方ない。
  

 一方のシンジも職員食堂で鯵フライ定食を食べながら明日のことを考えていた。
 松代で参号機の起動試験が行われる…それはバルディエルの発動を意味する。
 犠牲者は鈴原トウジ…かつての親友だが、今はどうでも良い存在である。ためらうこと等なく徹底的にやってやる…
 ダミープラグが完成しているのかどうかは分からないが、発動の機会はない。
 そしてもう一つ、参号機の起動試験には冬月が向かうことになったらしい。
(…良いのか?)
 前回、ミサトもリツコも無事だったが、今回もそうであるとは限らない。事故に近い形で巻き込まれてしまったりして死んでしまっても良いのだろうか?
 …問題ない。いくら松代が危険だからと言って全ての場所が危険なわけではない。冬月のような人間なら、自分は安全な場所から見ているだろう。それに、もし、巻き込まれたとしても、主犯…全ての根源はあの老人ではないのだから。
 …正直に言えば、明日のことよりもその後に控えているゼルエルの方が気になる。
 正直あの使徒とまともな方法でやりあって勝つ可能性は低いと思う…エヴァにシンクロして操るだけでは駄目で、シンジの力も使わないと行けないだろう。
 厄介事は抱え込みたくないのだが…相手が相手であるだけに仕方ない、今の内に上手く切り抜ける方法を考えておこう。


 明日…夢の通りになるとしたら、エヴァ同士の戦闘が発生することになる。
 パイロットはシンジの友人ではないとは言え、シンジに同じチルドレンが乗るエヴァを攻撃できるのだろうか?まともに戦えるのだろうか?
 それに…戦えたとして、もし死亡してしまうようなことがあったら…シンジが殺したことになってしまう。
 最も、今までに人が死んでいないわけじゃない…むしろ既に数多くの者が命を落としている。数字上は犠牲者が一人増えるだけ、ただそれだけ…しかし偽善的かも知れないが、自分が攻撃したことで直接死んでしまったとしたら、やはり違うものだと思う。
 シンジは、果たしてどう受け止めどういう反応を示すのだろうか?
 今、目の前で自分が作った料理を美味しそうに頬張っているシンジが…
 シンジが酷く攻撃的になることがあるのは知っている…だが、今目の前にいるシンジからはとてもそう言う感じは受けられない。
「レイラさん、どうかしたの?ひょっとして、また夢のことで悩んでるの?」
 コーンクリームコロッケを箸でつまんだまま尋ねてきた。
「ううん…違うわ」
 関係はあるが否定する。シンジの本質についてはみんな頭を悩ませているのだが…今のように優しい感じこそが本質だと思っている。だからこそ、シンジのことが好きになったのだ。
 そんなことを考えながら答えたので、その答えには微笑みを伴っていた。そして、表情からシンジは問題ないと判断しそれ以上は聞いてこなかった。
 こんなシンジが…果たして…その事に考えが戻ると表情が曇り始める。
 少し不可解な様子にシンジは小首を傾げていたが、何か聞いてくると言うことはなかった。


 レイラは秘書課で仕事をしながら、パソコンの画面上に表示されている時計をちらちらと何度も見ていた。
 もうすぐ参号機の起動実験が始まる時間である。何か起こるとしたら、それももうすぐ…
 結局シンジには何も言えなかった…何も起こらないでいて欲しい…しかし、その願いは叶えられないような気もしていた。
 そして、起動実験の開始時刻を過ぎ暫く時間が経った…しかし、何も起こらない。警報は鳴らないし、異常を知らせるものは何もでてこなかった。
「ふぅ…何も起こらなかったか…」
 レイラがほっと安堵の息をもらした直後…警報が鳴り響いた。
『松代実験場で正体不明の爆発事故発生!!』
 安心してしまった直後だったからか、ショックは倍増され思わず呆然としてしまった。


 その少し前…シンジは職員食堂で食事を取っていた。
 対面の席には加持の姿がある。
「…しつこいんですね」
「まあね、簡単に諦めてしまうようじゃ、俺みたいな仕事をしているとやっていけないんでね」
「全く…そのうち命取りになりますよ」
 そして、実際に命を落とした馬鹿者。それも、回りに様々な影響…迷惑を振りまきまくって。そんな危険な仕事をするなら、深い関係を作らなければいい。そして、人知れずひっそりと死んでしまえばいい。なのに、この男はそうではなかった。装薬をしたのはこの男ではないが、ミサトとアスカの二つの引き金を引いたのはこの男なのだ。
「心しておくよ」
 そして加持が今回の本題を切り出そうとした時警報が鳴った。
『松代実験場で正体不明の爆発事故発生!!』
「さてと…こちらの用事があるので失礼しますよ、」
 シンジはどこか不満を表情に表している加持を残して食堂を去った。
 

 着替えを済ませ待機室に入ると既に着替え終わったレイが長椅子に座っていた。
 言葉も交わさずにシンジはレイから離れた場所に腰掛ける。
 暫くしてアスカとミサトが一緒に入ってきた。今回、冬月が向かったことでミサトはこちらに残っていたと言うことだろうか、
「今のところ詳しいことは分かっていないわ、だけど、何があるか分からないから心の準備はしておいて」
「…参号機は?」
「不明よ、もし、この爆発が使徒の攻撃か何かだったとしたら、既に破壊されている可能性が高いわね。起動実験中に戦闘ができるはずはないから」
「冬月部長は?」
「連絡は取れないわ、これはリツコも同じよ」
 今のところどうなったのかは不明と言うところのようである。
 発令所から通信が入り、ミサトが受けた。
「ええ、準備はできているわ…そう、それは良かった…あ、そう………分かったわ」
「リツコ達と連絡が付くのと同時に現場付近で正体不明の移動物体が確認されたわ、正体は分からないけれど、使徒の可能性があるから、3人とも準備して」
 そして、リツコ達からの情報によってその移動物体が参号機であることが分かった。


 初号機に乗り、その初号機がウィングキャリアーに搭載された。
 これから暫く空の旅となる。
 今回…冬月もリツコも直ぐに連絡が付いた。二人とも安全なところにいたと言うことだろう。
 参号機はバルディエルによって能力が付加されているが、所詮元はエヴァに過ぎない。むしろ厄介なのは、あっちの方かも知れない…シンジは弐号機が搭載されているウィングキャリアーに視線を向けた。


 レイラは秘書課のモニターで、様子を観戦しながらシンジのことを思っていた。
 シンジは果たしてちゃんと戦えるのであろうか…いや、シンジだけではない…他のチルドレンも、エヴァ相手にちゃんと戦えるのだろうか?
 心配でならない……今は、ただ、シンジの無事を祈り画面に目を向けた。
 

 野辺山の近くの決戦場に到着した。
 丁度前回参号機と戦闘を繰り広げた場所の直ぐ傍である。
『目標の映像が手に入ったわ』
 モニターに参号機の姿が表示される。
「参号機ですね」
『ええ、』
 別角度からの映像で後ろを確認するが、プラグが半分頭を出しているが、半分は刺さったままである。
『使徒に乗っ取られた以上、撃破するしかないわ…必ず撃破して頂戴』
 パイロットのことは敢えて言わない。言えばそれで戸惑うとでも思ったからだろうか?
『目標、まもなく視界に入ります』
 山の陰から参号機が姿を現した。
 初号機はアクティブソードを構え、いつでも攻撃に移れる体勢を取った。
 今回は位置の関係上初号機が一番先に当たることになる。と、思ったら、弐号機がケーブルを切ってこっちにやってくる。
(ちっ…邪魔するつもりか?)
『サード!アンタだけに大きな顔はさせないわよ!』
 思わず溜息が漏れてしまった。
 戦局は、零号機がスナイパーライフルを発射させたことで始まった。
 参号機は大口径砲弾を避け横へと飛ぶ…初号機が着地点に先回りして全力で叩っ斬る。あまりの力でアクティブソードが折れ、使い物にならなくなったが、参号機は肩口から反対側の腰の辺り上あたりまでざっくりと斬られている。通常状態のエヴァなら完全に致命傷…なのだが…
 間合いを取ってプログナイフを抜く…同時に弐号機がソニックグレイブを参号機の胸に突き刺し貫通させた。
 ダメージがあまりに大きかったからか、それだけで参号機は地面に崩れ落ちた。
『油断しちゃ駄目よ、まだ、反応は消えてないわ、徹底的にやって!』
 ミサトの指示に従い、零号機はそのままスナイパーライフル、初号機と弐号機はパレットガンで参号機を蜂の巣にした。
 あそこまでやっては、例え、あの時点で生きていたとしても、今もパイロットが生きている可能性は0だろう。
 数回弾倉を空にしたあたりで青葉がパターンが消滅したことを伝えてきた。
「…ふぅ…」
 かつての親友をこの手で殺めた。だが、特に後悔やら罪の意識などと言った物は湧いては来ない。以前、ダミープラグのせいで、トウジの片足を奪ってしまったと言うことで、エヴァを占拠し奴を恫喝したことがあったというのに…結局今死んだトウジはシンジの友人などではない、ただ単に学級が同じと言うだけの愚かな存在であったからだろう。
 シンジは最後にぼろくずになった参号機に一瞥をくれた後初号機を降りた。 


 シンジの様子は何も変わらない…目の前で自分の作った天ぷらを口に運んでいる自分の手で同じチルドレンを死に追いやったと言うことについては特に何とも思っていないように見える。
 何故だろうか?どこか違和感のような物がする…しかし、ぼんやりとしていて一体それがなんなのかは分からない…


 今回の一件も夢に出てきたことと同じ部分もあり又違う部分もあった…そんなことを湯船につかりながら考えていた。
 松代に行ったのはミサトとリツコではなく、冬月とリツコ。そして、連絡が付いたのは夜になってからだったのが、参号機を確認するよりも前、二人はかすり傷程度しか負っていない。
 耕一が手を打った効果が現れたのだろう。だが、その反対に、参号機のパイロットであった鈴原トウジは勿論死亡していた。
 夢とは異なりシンジの友人ではない、だからシンジがその事で苦しむことはなかった。それに、見たところその手で殺めたと言うことについても特に重く受け止めているわけではなく、そう言った意味では、この事も良い結果になったと言えるかも知れない。だが、トウジが負傷から死亡に変わったと言うことは間違いない。
 今回は夢よりも悪くなっている部分はある意味小さい事だった。しかし、もし、悪くなった部分がもっと重大な事であったらとんでもないことになっていたかも知れない。今回、パイロットの脱出の確実化というのも指示に入っていたが、これは成し遂げられることがなかった…何事も上手く行くとは限らない…そんな事を考えてしまうと、恐怖から思わず身が震えてしまう。
 そして、そんなことに対して単なる秘書でしかないレイラ自身の手では何もすることができない…自分の無力が溜まらなく悲しかった…