復讐…

◆第四話

『第7次最終接続、全エネルギーポジトロンライフルへ』
 日向の声が通信回線越しに聞こえる…遙か向こう第3新東京市0エリアには第伍使徒がデンと陣取っている。
『カウントダウン開始10、9、!、目標内部に高エネルギー反応!!』
『まだ、先に撃てれば勝機はある』
 望遠映像の使徒の円周部が光り始め、零号機はシールドをぎゅっと握った。
『撃てぇ!』
 ミサトの叫びと同時に初号機が引き金を引き、陽電子が打ち出されると同時に使徒の加粒子砲も発射される。
 光の筋が交差し、反発しあい、軌道が逸れる…隣の山の中腹に加粒子砲が着弾しその直後爆風が襲いかかってくる。
「くぅ…」
『第2射急いで!!』
『ヒューズ交換』
 やがて爆風も収まり、直ちに第2射の準備がされるが…使徒の方が早い、零号機はいつでも射線上に飛び込めるように構えた。
『再充填開始!!』
『目標内部に再び高エネルギー反応!!』
『銃身冷却開始』
『使徒加粒子砲を発射!』
 使徒が光った瞬間射線上に飛び込みシールドで初号機とポジトロンライフルを守る。
 ものすごい圧力で押される…そして、同時に凄まじい熱が襲いかかってくる。
 熱い…シンクロを通して零号機が感じている熱が伝わってくる。
「くぅ…」
『綾波ぃ!!!』
 シンクロを通じて感じる熱さと加熱されたLCLのよる暑さで、意識が薄れてくる…だが、絶対に意識を失うわけには行けない。
「…碇君…」
 しかし、その抵抗も虚しく、意識は闇へと落ちていった。


 ガバッと勢い良くレイラは飛び起きた。
 荒い息を付きながら、辺りを見回すといつも通り自分の部屋…何の変哲もない…自分の部屋であった。
「…夢?」
 寝汗をびっしょりかいていて、それが酷く冷たく感じる。
 夢の中でレイになって、使徒の攻撃を受けていたようであるが、それは酷く生々しい夢だった…いったい何なのだろうか…
 暫く色々と考えを巡らせたが、夢のことを考えても仕方ない、所詮夢は夢であり、現実ではないと言うことで気にしないことにした。


 昼過ぎ、ラミエルが襲来しシンジは初号機に搭乗して待機していた。
 同じように零号機ではレイがスタンバイしている。
 モニターにはラミエルに対して無人戦闘機などが攻撃をしかけている映像が映し出されている。強靭なATフィールドに阻まれ効果は無い、それどころかあの加粒子砲での反撃すらしてくれない。
『…どうやら無駄のようね』
『…仕方ないわね、B−12と13から初号機零号機射出準備』
『シンジ君、良い?』
「…嫌ですね」
 ミサトは驚きを表情にする。
「敵の能力も分からないのに、出ていきたくありませんね」
『現在の戦力では調査すらまともに出来ないのよ、仕方ないでしょ』
 ミサトでは無くリツコが答える…分かっていることなのだがその言葉がどこか苛立ちを覚えさせる。
「ATフィールドの存在は分かっているのに、まともな調査も出来ないような兵器しか揃えていないとは、随分と怠慢なんですね」
 こう言ったことには慣れていないのか、嫌みに簡単にむっとした表情を浮かべる。
『次回までの教訓としましょう…シンジ君、レイ、今回はお願い』
「嫌です」
『了解』
 驚きを持ってモニターのレイを見詰めた。
『…シンジ君…』
 レイはそうするのが当然と言ったような雰囲気で、一瞬何故自分は嫌だ等と拒否しているのだろうか?と思ってしまったが、直ぐに前回出撃したときのことを思い出し、その考えをうち消した…そうすると今度はレイがああなってしまうのではないかと言うことに思いが至るが、それだからと言ってどうすることもできず、又自分が出ると言うのは絶対に嫌だった。
『分かったわ…レイ、主目的は目標の能力の把握、常に退路を確保するように、但し、行けるようなら任意に仕掛けて良いわ』
『了解』
『エヴァンゲリオン零号機発進!』
 零号機が射出されてしまう…レイが…シンジは思考を停止しそのことは考えないことにした。
『目標に高エネルギー反応!!』
『何ですって!?』
『円周部を加速、収束させていきます!!』
『まさか、加粒子砲!!?』
 前回と同様、発令所が慌ただしくなっていく…そして、もうすぐ零号機に…
『リフトリバース!!!急いで!!!』
『駄目です!!間に合いません!!』
『安全装置外して!!レイ!!避けて!!!』
『きゃああああああああ!!!!!!!!!』
 レイの悲鳴をそのまま聞いていることは出来ず、シンジは耳を塞いだが…その悲鳴が消えることはなかった。


 レイラは秘書課のモニターで最初の使徒との戦い…一方的な敗北を見ていた。
 あの使徒は、夢に出てきた使徒…間違いない。これはいったいどう言うことなのだろうか…
 ちょっと考え、あの夢は、予知夢か何かだったのではないか…そう結論づけた。
「…こんな事ってあるのね…」
 まずは驚き…しかし、あの予知夢が正しいとしたら…これからが問題なのではないだろうか?
(でも…夢で見たから…だなんて言えないわね…)
 それが正しいにせよ間違っているにせよ、人に言うわけにもいかないと言うことに気付き、一つ大きく溜息をついた。


 ミサトやリツコ達が対応に駆けずり回っている間、シンジは特にする事も無いので食堂でゆっくりと食事を取っていた。
 作戦が決まるまでは未だ時間が掛かるであろうし、自分にお呼びが掛かるのはそれから更にその後になる。
「ここ、良いかね」
 声を掛けられて気付いたが、いつの間にか直ぐ傍に冬月がトレイを持って立っていた。
 この老人は何を考えるのか良くわからないところが多い、人の良さそうな雰囲気を持っているが、実際にはそれとはまるで反対のことに手を染めている。表面上のことと実体が全然異なる…それを踏まえた上で対応しなければならないだろう。
「…ええ、別に構いませんけれど…」
 警戒しつつも特に有効な断る理由が無いのでそう答え、冬月はゆっくりとした動きでシンジの前の席に座った。
「君とは一度ゆっくりと話がしてみたかったのだよ」
(奴は勿論、赤木博士も…となると、冬月副司令…いや、総務部長だったかな?しかいないと言うことか…)
 マヤは計画の協力者ではない。深部に関わらすことは出来ないだろう。
 最初いくつか軽い話を交わした後、冬月はユイの事を色々と話し始めた。
(…先ずは、近付く事からと言う事か、)
 シンジと冬月は直接の接点を持っているわけではない、いきなり本題は切り出せないだろう。
 確かにユイの事は色々と興味はある。話題の選択としては良い選択をしているといえるだろう…しかし、シンジはその内容は聞きつつも、決して心は許そうとはしない。一端許してしまえば、そのまま流されてしまうであろうから…
………
………
………
「ん?、残念だがそろそろ時間のようだ、今日の所は、これで失礼するが、又、機会があったら話をしようじゃないか、今度はシンジ君のことも聞かせてもらえると嬉しいがな」
「…ええ、機会があれば、」
 まずは接触だけにとどめておく、おそらくそんな感じだろう。形だけの笑みを浮かべて返す。
「うむ、では、又な」
 冬月は立ち去ったが、ほぼ理想の形で進んだと思ったのではないだろうか?最後にどんでん返しを食らわした方がショックは大きい…その日が楽しみである。シンジはにやりと唇を歪めた。
「ん?」
 ミサトが食堂に入って来た。
「シンジ君、食事はもう済ませたかしら?」
「ええ、」
「そう、それじゃあ作戦が決まったから、詳しい説明をしたいから、レイを呼んできて欲しいんだけど、良いかしら?」
「…どうして僕が?」
 手早く要件だけを告げたミサトに対して、下手に色々と言われるよりは良いなと思う反面、なんだか、ミサトらしく無いなぁと言う風にも思った。だが、それだけ忙しいと言うことなのかもしれない。
「同じエヴァぁのパイロットだし、二人が仲良くなってくれればこっちとしても好ましいんだけど…どうかしら?」
 ミサトの思い通りに動くのは癪だが、実際レイとは交流があった方が何かと便利に成るだろう。生き残る可能性が上がると言う事も含めて、
「…わかりました」


 シンジは地図に従ってネルフ中央病院の通路を歩いていた。
 ミサト手製の地図、かなり簡略的な物であるが、病室の番号と目印があれば迷わずに来ることも出来る。
 そして、レイの病室の前に到着する。確かシンジがラミエルの時に寝ていた部屋もこの辺りだったと思う。
 軽くノックをした後病室に入った…病室でレイは静かにベッドに横たわっていたが、シンジが入ってきたことを確認すると視線だけシンジに向けてきた。
「作戦が決まったよ…行くかい?」
「ええ」
 レイは上体を起こしたのだが、服を着ていなかった為…シンジは露わになった胸などを半ば不意打ち的に目にすることになった。
「…あ…、そ、その、ご、ごめん!!」
 慌てて病室を飛び出た。
 暫くしてある程度落ち着いてから、シンジは自分の手をじっと見詰めた。
 前回、あの胸を……
「あ…」
 鼻血が出てきてしまった。
 やがて、服を着たレイが出て来たのだが、じっとシンジの顔を見詰めてくる。
「な、何?」
「…それ…どうしたの?」
 シンジの鼻に詰められているティッシュの事である。
「えっと、その…な、何でも無いよ」
「……そう?」
 いまいち納得していないようであるがそれ以上聞くのもどうかと思ったのか、それ以上聞いてくることはなかった。


 作戦部の第2会議室には、作戦部の面々とリツコなどを初めとした技術部の一部のメンバーの姿を見ることが出来た。
 ミサトと日向が前で最後の打ち合わせをしているが、今、それも終わったようである。
「さて、作戦を説明するわ、」
 作戦マップに色々と座標が表示される。
 双子山の青と紫の丸は、零号機と初号機、第3新東京市のど真ん中に存在する星は使徒であろう。両方を直線が結んでいる。
「この位置から戦自から徴発した陽電子砲を改造した、ポジトロンスナイパーライフルで狙撃するわ」
「攻守は分担で行い、オフェンスはシンジ君が、ディフェンスはレイが担当よ」
 マップ上を見たりその他説明などを聞くといくつかダミーが用意されているようだが…エネルギーに反応して攻撃を仕掛けてきたようなところがある以上、それがどこまで有効であるのかと言うことはあったが、基本はヤシマ作戦であり、シンジも特に反論があるわけではない。


 レイラは夢のことが気になりすぎて仕事が全然進まなかった。
 秘書課のメンバーが殆ど借り出されてしまったため、通常の業務を勧めることは諦めたのだが、それでも今日中に済ませなければいけないものも存在する。
「どうしたの?」
 蘭子が聞いてくる。
「あ、ちょっと…」
「良かったら聞くわよ、」
 蘭子に話すかどうかちょっと考える。バカにされてしまうかも知れないが…結局話してしまう事に決めた。
「…予知夢ね…確かに気になるわね」
 どうやら真剣に受け止めてくれたようである。
「会長に話してみましょう。こう言うのは最高責任者の判断にゆだねるのが一番よ、第2東京に行く前に、急ぎましょう」
 レイラは頷き、蘭子とともに執務室のドアを叩いた。


 耕一はレイラの夢の話を聞き、零号機にもたせる盾の補強、周囲に場合によってはレイを救出するための部隊を配置すること、そして零号機のLCLを冷却するための装置を増設することを決定した。
「特に支障があるものでもないし、念のためと言うことで準備させることにしよう。これで良いかな?」
 これだけすれば大丈夫であろうと、そう信じることにした。
「では、第2東京の方に行ってくる。後を宜しく頼む」
「はい」
 耕一は大きな鞄を持って執務室を出ていった。


 レイの方は検査があると言うことで技術部から呼び出しがあり、シンジの方は出撃の呼び出しが掛かるまで暇になってしまった。
「…どうするかな?」
 中央回廊をぶらぶらと歩いている…
「…レイラさんに会いに行ってみるかな?」
 今朝、何となく元気がなさそうだったことを思い出し、少し様子を見に行くことにした。


 秘書課では、レイラと蘭子がパソコンに向かっているだけで後は誰の姿もなく、静かな物であった。
「シンジ君、どうしたの?」
「いや、レイラさんの様子を見に来たんだけど、迷惑だったかな?」
「ううん、そんなこと無いわ」
「シンジ君、コーヒーでも飲まない?」
「え?コーヒーですか?」
「ええ、貴女もそれで良いわよね、ね」
 ちょっとの間の後レイラは頷き、休憩を取ることに決まった。
 十分後、暫くの間は誰も使う当てのない応接室が休憩室と化していた。最も、普段から良く休憩室と化すらしいが…
 机の上にはケーキやクッキーなどがいくつか置かれている。素早く出てきたが、これらは接客用なのか、それとも秘書官が休憩などの時に食べる用なのだろうか?
「はい、お待たせ」
 蘭子がコーヒーを入れたカップを人数分持ってきた。カップから良い香りが漂って来ている。
「そう言えば、司令は?」
 暫く色々と…特に、二人の生活についての話をしていたのだが、ふと耕一のことが気になった。
「今は第2東京の方に行っているわ、政府とかに色々と話をしておかなければ行けない人がいるからね」
 碇は確か第3新東京市を離れることは余りなかったと思う。こう言ったところ、それぞれにキチンと対応するかどうかがそれぞれへの印象となり、又逆に反感を買っていたのではないか…もしそうでなければ場合によっては戦自の侵攻あれも回避できたのではないだろうか?まあ、そうすれば碇の計画の発動は間違いないだろうから、それはそれで困ったことだが…
 逆に耕一は立場を維持するためにはそう言った者達の支援が必要になっている程度の力しかないと考えることも出来るが、果たしてどうなのだろうか?そして、耕一は補完計画についてどこまで知っているのだろうか?又知っているとしたらどういう考えを持っているのであろうか…そう言ったことが気になる。
 今度、会ったときにでも聞いてみたいところだが、聞くわけにも行かない内容であるためまことに困った物である。


 夜、双子山の仮設ケージから第3新東京市を眺めていた。
 前はレイが反対側のケージにいたのだが、今はどこに行ったのかは分からないがその姿はない。
 時間が来たのであろう街の明かりが消える。
(…再び、ヤシマ作戦の時が来た…)
 前回のヤシマ作戦の事を思い出していると、小さく足音が聞こえてきた…横の零号機が拘束されている仮設ケージにレイの姿がある。どこへ行っていたかは分からないが戻ってきたようだ。
「戻ってきたんだ」
「…もうすぐ時間だから、」
 その一言だけで黙ってしまい、話が途切れた。
 どんな言葉を掛けようかと迷っていたが、意外な事にレイの方から声を掛けてきた。
「…碇君、」
「何?」
「…恐い?」
 前にも聞かれたような言葉である。
「そうだね…少し恐いかな。でも、この作戦だとそんな目に遭うのは綾波の方だよ」
「…そうね」
「恐くないの?」
「……恐くはないわ、」
「……奴を信じているから?」
 碇のことを奴と言う…その言い方にはどこか嫌な物を感じているようである。
「副司令だけではないわ」
「…人が信じれる君が羨ましいよ」
 その言葉は、色々な意味が籠もった言葉であった…口調からそれを感じ取ったのかレイは複雑な表情を浮かべ、ちょっと困ってしまっているようでもある。
「確かに絆は綾波にとって大事なものかも知れない。でも、大事にするべき絆とそうでない物もあるんじゃないかな」
「……そう?」
「たぶんね」
「……貴方との絆は?」
「…大事にしてくれると嬉しいかな」
「そう」
 レイは少し先ほどの言葉について考えているようであったので、これ以上は言葉を掛けずにそっとしておくことにした。
 

 やがて初号機に搭乗し、そして時間を迎えた。
 モニターにはライトアップされた使徒が拡大映像で映し出されている。幾何学的なデザインなどをも併せてまるで展示物か何かのようにも見えるが、実体はそんな物ではない空恐ろしい物である。
 横のモニターには様々な情報が表示され、又発令車にいるミサトやリツコなどの声が次々に聞こえてくるが、それらによると順調に行程が進んでいるようである。
 零号機は少し離れたところに大きな盾を構えて待機している。
『最終安全装置解除!』
『撃鉄起こせ』
 指示通りに撃鉄を起こし、バイサーをセットする。
『第6次接続』
 照準を示すマークが真ん中に集まり始める…一斉にダミーから攻撃が仕掛けられたが、ATフィールドで完全に防ぎ、効果は出ていない…それどころか気すら引けていないのは情けないと言えるかもしれない。
『誤差修正プラス0.0007』
『第7次最終接続、全エネルギーポジトロンライフルへ』
『カウントダウン開始10、9、!、目標内部に高エネルギー反応!!』
『…くっ』
 マークが中心に集まった。
『撃てぇ!』
 ミサトの叫びと同時にシンジはスイッチを押し、同時に初号機が引き金を引き陽電子が打ち出された。
 しかし、前回と全く同様に着弾する前に使徒の加粒子砲も発射され両方が交差し合い方向が反れた。
 使徒の加粒子砲が近くに着弾して爆風などが周囲の木々を薙ぎ倒して襲いかかり結構な衝撃が走る…一方の陽電子は使徒の少し横のビル街に着弾しエネルギーの柱が出来ていた。
(ミスったか)
 前回と同じか…しかし、それならば次で倒せる。レイには済まないが…と思いながら再度弾を込めた。
『第2射急いで!!』
『ヒューズ交換』
『再充填開始!!』
『銃身冷却開始』
『目標内部に再び高エネルギー反応!!』
『発射まで23秒』
『後20秒』
『使徒加粒子砲を発射!』
 正面が光り初号機が光に包まれた。
「くっ」
 シンジが思わず閉じた目を開けると、やはり零号機がシールドで加粒子砲を遮っていた。
「綾波…」
 マークが真ん中に集まりかけるが、シールドは殆ど溶け零号機に直撃する寸前である。 
「早く揃え!!」
 マークが揃ったのと同時にシンジはスイッチを押し陽電子砲を発射させた。そして発射された陽電子は使徒を貫き上空へと上がっていった。
 加粒子砲の攻撃が止み零号機が崩れ落ちた。
 初号機が急いで零号機の後部のパーツを破壊してエントリープラグを露出させる。前回とは違い、まだ、なんとかシールドは残っていたから、レイは大丈夫なはずである。
 直ぐに周囲から部隊が現れ、初号機が地面に降ろしたエントリープラグにとりつきハッチを開けた。
 暫くしてレイが隊員達に抱えられながら出てきたが、意識はちゃんとしているようである。
 シンジは目を閉じ深く一つ息を吐いた。


 レイラはレイの無事を聞きほっと息を付いた。
 夢で見たとおりの展開だった。あの夢は本当に予知夢だったのだろうか?
 そう結論づけたいところなのだが…何かしこりが残っているようで、気持ち悪さも感じていた。
 デスクに向かいながらしかめっ面をしていたのだが…突然後ろからトーンと肩の辺りを押されて、思いっきりびっくりした。
 振り返って犯人を見てみると蘭子であった。
「蘭子さん……」
「何そんな顔をしているの?ちゃんと勝つことができたのに」
「あ、まあ、そうなんだけど…」
「夢のこと?そんなに気にしない方が良いわよ、いくら予知夢だからって言っても、結局夢であることは変わらないんだから、そんなに気にしない方が良いわよ、それよりもここはもう良いから早く帰ってシンジ君に御苦労様でもありがとうでも良いから何か声を掛けてあげれば?」
「そうね…直ぐに帰って、シンジ君にお礼を言う事にするわ」
「ええ、お疲れさま」
 レイラは荷物を纏めて秘書課を出た。