背徳 哀悼編

◆前編

2018年、レイのマンション、
「ただいま・・」
アスカは、買い物袋片手に部屋に入った。
部屋の隅には、虚ろな目をしたシンジが蹲っている。
「・・・何にも無しか・・・」
アスカは、ほっと一息ついた。
シンジが壊れたあの日、あの日以来、シンジは何度も自殺未遂を繰り返した。
何度も病院に運ばれた。病院でも自殺未遂をした。
通常の人間とはかけ離れた治癒能力を持っている為、死にはしなかったが、何回かは医師も見捨てた。
アスカが、泣きながら、死んでもレイのところには行けないのよと言ってからは、自殺未遂は無くなったが、更に壊れたようである。
アスカは買ってきた食料品を冷蔵庫に入れ、夕食を作り始めた。
ネルフが消滅した今、アスカやシンジに収入は無くなった。チルドレンだった頃の給料は全額、ネルフ系列の銀行に預けられていた為、全て消えた。
勿論退職金は無し。一応、国際連合から、奨学金として成人までは申し訳程度の金が支払われている。
大学を卒業しているアスカにとって高校に通う必要は無いし、それに、自殺未遂を繰り返すシンジの側から離れる事は出来なかったと言うのもある。だから、学費は要らなかったが、収入が無かった。世界で一番物価が高い日本では、国際基準の奨学金など大した事は無い。
流石に困っていた時に、耕一と言う人の使いが来て、仕事をくれた。
プログラム関係の仕事だが、通信のみで出来、異様に給料が良かったので、良く調べずに、アスカはサインした。
それから暫くして不安に成ったが、結局今のところ何もない。給料も、しっかり支払われている。
月100万近く、夏と冬のボーナスもちゃんと出ている。
恐らくは、あの、東京帝国グループの総会長、皇耕一の事なのだろうとは思うが、未だに良く分からない。
元チルドレンとしての重要性も怪しんだが、全くそう言う気配は無い。
今のところは、ありがたく恩恵に肖っていると言う所である。
料理し終わったので、部屋の方に運んだ。
元々、下手ではなかったが、上手ではなかった。だが、少しでもシンジに美味しい料理を食べてもらおうと努力した結果、嘗てのシンジと同等クラスにはなった。
「シンジ、御飯よ」
シンジは虚ろな視線を目の前に置かれている料理に向けた。
ゆっくりとした動きで箸を取り、食事を食べ始めた。


夜、シンジはレイが使ったっていたパイプベットで寝ている。
アスカは、その横の床に布団を敷いて横になっている。
窓から月光が漏れ、部屋を照らしている。
「・・・」
アスカはもう長くなった自分の髪を見詰めた。
「・・レイ・・・私じゃ駄目なのかな・・・」
アスカはもう何度目になるか分からない弱音を吐いた。
夜、月光の中では、どうしても考えがそう言う方向になってしまう。
レイが月ならば、アスカは太陽、陰ならば陽・・・全く正反対である。
だから、代わりになれない・・・・それだけならば問題は無い。
代わりになる必要など無い。自分こそがシンジを支える。
だが、シンジにとっての存在価値が全く違う。
シンジが地球ならば、月と太陽との距離の差がそのまま、レイとアスカとの心の差である。
以前のアスカならば、その不満は全てシンジやレイにぶつけられていただろう。だが、今は、自分にぶつけている。以前の・・いや、今も含めてシンジが全てを自分にぶつけていたように・・・
その夜も、アスカは静かに泣いた。声を上げず、涙も出さず・・・・


数日後、アスカは気分転換の為に遊びに出かけた。
嘗ては使徒迎撃の為に多くの者が集まった第3新東京市も、東京の再開発に伴ないその住民の多くが移ってしまい、現在では人口も4万人を割り込んでいる。
アスカは、駅前商店街をウインドウショッピングをしながら歩いている。
超美少女のアスカは、こんな衰退する町には似つかわしくないほどであり、周囲の視線を一手に集めている。
黒塗りの高級車が、アスカの横で止まった。
車からは、長い髪の女性が降りて来た。
「惣流アスカラングレーさんですね」
「・・アンタは?」
「東京帝国グループ総会長第3秘書官吉川ミユキです。少しお時間宜しいですか?」
アスカは頷き、車に乗りこんだ。
車は走り始めたが、殆ど振動は無く、外を見なければ走っているのかどうか分からない。
「先ず、この車の中は、盗聴その他の類いは一切無いので安心してください」
アスカは頷いた。
(何を頼むつもりなのかしら?今まで私を釣っていたのはこの為・・)
「率直にお尋ねします。」
「会長とどのような契約を交わされたのですか?」
「は?」
ミユキの問いは、意外を飛び越え、理解できなかった。
「・・・え・・違ったのですか?」
「どう言う事よ?」
「いえ・・・貴女に支払われている金額は異常としか思えないので、何かあるのではと・・・」
第3秘書官には知らされない情報、それほどまでに重要な事なのか・・・或いは、他意が無いのか・・・
その後、レイのマンションまで送っていってもらう間、話をしたが、特に収穫は得られなかった。


部屋に戻るとシンジは隅で蹲っていた。
やはり、こうして、少なくとも死んでいない事が分かるだけでほっとする。
「御飯作るから」
今日もアスカはシンジの為の食事を作り始めた。


そして、年が明け、問題の日が近付いて来た。
レイが自爆した日、それは、アスカにとっても地獄の日だった。
その前夜、アスカは食事に睡眠薬を混ぜシンジが眠りについた事を確認して、シンジの四肢を特殊カーボンの鎖で完全に拘束し、口の中に布を押し込んだ。
アスカは時計に目をやった。午後11時30分、後、30分で、地獄が始まる。
そして、時計の針が12を差して直ぐにシンジは目を覚まし全身を激しく痙攣させた。
この日、シンジは、自分を滅茶苦茶に傷付ける。
去年は、鉄製の鎖を使ったが、引き千切られた。
布の間から漏れる呻き声、凄まじい負荷で悲鳴を上げる全身の関節。
神はいない、いや、レイこそ神、アスカは祈る事も出来ず、目をそむける事も出来ず、只、この悪夢の日が去るのを待つだけだった。
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
もうどれだけ悪夢が続いたか、アスカは精神的な瀕死の状態になっていた。
月が高く上る頃、漸くシンジは意識を失った。
アスカは時計に目をやり日付けが変わった事を確かめた後、のろのろとした動きでシンジの四肢を開放した。
内出血などではない、骨が関節が砕けている。
「シンジ・・・」
アスカは涙を零した。
これも、数日で治癒する。
だが、これを遥に超える恐怖の日が迫っている。
サードインパクトの日・・・・ATフィールドを使い周囲の物全てを破壊する。
アスカはいつまでこんな事が続くのかと嘆いた。

あとがき
本ページ初のアスカとシンジの話です。
但し、LASのLは、小文字に成りそうです。
中編に成ると思います。
LASな方、感想&続き書け&もっとラブラブにしろメールお待ちしています。
LRSな方、石投げないで下さい。
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しかし・・・哀悼編前編・・・何か変だな