背徳 逆行未来編  第9話

 そして、土曜日ネルフ本部の発令所のモニターには巨大なウニのような物体が映っていた。  棘を使ってゆっくりと海底を歩いている。大きすぎるためか、上の方の棘は海面に出ている。 「…また早いわねぇ…」  ユイは呟くように言う。 『目標は1時間ほどで紀伊半島に上陸します』  マップ上に予想進路が表示される。進路上には人口10万人以上の都市がいくつもある。 「誘導できますか?」 『やってみます』  付近を潜行していた潜水艦から魚雷を発射して攻撃するがATフィールドによって阻まれる。  続いて哨戒機から爆雷や爆弾を投下して攻撃するが、これもATフィールドによって阻まれるだけで、使徒の進路を変えることは出来なかった。 「A−1の準備は?」 『1機がメンテナンス中ですので、4機使用できます』 「A−1と初号機、02を輸送して」 『了解』 「あと…いくつか今日届いたものあったわよね」 『はい、まだ、チェックは完了していませんが』 「構わないわ、使えそうな物は一緒に持っていって」 『了解しました』  やがて上陸し、地上部隊や航空部隊、更に沖の艦船から攻撃が仕掛けられるがこれらも全てATフィールドによって弾かれダメージを与えることは出来なかった。  ウィングキャリアーが西に向かうなか、使徒は市街地に入り町をビルや建物をなぎ倒し破壊しながら進んでいる。 「とんでもない大きさね…」 『作戦ポイントが出ました。作戦ポイントは伊勢湾の対岸、愛知県のこの地点とします』  マップ上に作戦ポイントが示される。  作戦ポイントに、大型輸送機が到着した。  輸送機からA−1改が降ろされ、一緒に来たケンスケが直ぐに配置を指示する。  指示通りに配置が始まったことを確認してケンスケは大型司令車に乗り込んだ。  それから20分後2機のウィングキャリアーから初号機と02が投下された。それぞれの機体が着地すると辺りを振動と轟音が襲った。  初めてエヴァを間近に見る者の多くは驚きの声を上げ、どこか呆然とエヴァに視線を送っている。  ミクはモニターに表示された配置位置を確認し、直ぐに移動を始めた。  使徒の方に目を向けるとは伊勢湾をゆっくりと歩いている。そのあまりの大きさに半分以上が海面から出ている。 「お、大きい…」  あまりの大きさに驚きの声が漏れる。  ケンスケの顔がモニターに表示される。 『A−1改がまず中和して攻撃を掛ける。その後は様子を見てからだが、エヴァによる中和が必要と判断した場合は接近することになるが中和距離は保つように、攻撃は主に自衛隊と戦自が行ってくれる』  了解したとコクリと頷いた。 『それでも駄目と判断した場合は一旦待避、武装を整えてエヴァによる直接殲滅を行う』  初号機は用意されたスナイパーライフルを手に取った。 「…あれ?これって新形?」 『ああ、新形だな。まだ、正式な報告は上がってないんだけどね、以前よりも強力になっているらしい』 「ふ〜ん」 『そろそろだぞ』  ミクは新形スナイパーライフルを構えた。同じように対使徒専用ロケットランチャー02を構えている。  A−01改の有効距離に入り、ATフィールドが薄くなる。 『攻撃開始!』  部隊が一斉に攻撃を仕掛ける。  初号機と02もそれに参加し攻撃を仕掛けた。   殆どはATフィールドで弾かれるが中には薄い部分を突き抜け使徒の体にヒットする物もある。ちょうど初号機が放った砲弾が使徒の体に命中し表皮を貫き肉を抉った。だが、使徒の体の大きさから考えれば大した傷にはならない。 (大きいってそれだけでも厄介なんだ…)  まだ、使徒はこれと言って目立った攻撃をしてきていない。しかし、既にその通った後などでの被害はバカにならない…それに、これは上陸される。  使徒がだんだん近付いてくる。 『初号機が先行しメインで中和、02はそれの補助を』  初号機は用意された盾を手に取る。  あれ?これって確か…と言いそうになったが今はそれどころではないので、急いで中和するために使徒に近寄った。  膝の辺りほどまで水の中に入りながら中和距離にはいるとすぐにATフィールドを中和する。それと同時に再度一斉に部隊から攻撃が掛けられすぐに辺りは爆煙に包まれる。 (…これじゃ見えない…)  ミクは念のために少し下がることにしたが、見積もりはだいぶ甘かったようで煙の間からあの棘がぬっと姿を現した。 「あっ!!」  盾を構えガードする。棘と盾が激しくぶつかる…貫かれることはなかったが弾かれ初号機もろとも吹っ飛ばされた。 「くっ…、大きすぎるよ…」  見ると02の方は慎重なのか中和距離ぎりぎりを保っているようである。その分中和できたり出来なかったりとなっているが、それでもA−1改と併せてそれなりの有効打が出せるようになっている。  もう随分ダメージが大きくなってきているようで動きが鈍ってきている。  直ぐに初号機も中和に加わり更にダメージが加速的に増える。それからしばらくして使徒がぴたりと動きを止めた。  様子を見るために攻撃が中断される…煙が晴れると使徒の半分近くが崩れ肉片と化していた、そして大量の血のような液体を流している。 「やったの?」  その瞬間、使徒の棘が一斉に飛び出した。 「うそっ!!」  初号機は盾でガードし、02は中和距離からでてATフィールドで防御する…しかし、それらの防御手段を持たない自衛隊や戦自の部隊で直撃された物は爆発を起こす、特に、方向の関係で攻撃に参加できなかった艦船は同じく方向の関係で多くの棘が残っており、その餌食になった。大型艦ならそれでも被害は小さかったかも知れないが、中型艦以下ばかりであったため、いとも簡単に大破し、中には轟沈した物もあった。 『パターンブルー消失、』 「…勝てたんだ」  辺りはまさに惨状であったが、ミクはとりあえずほっと息を付いた。    ユイはマヤとともに今日届いた武器をチェックしていた。 「これが今日使ってた盾ね」  甲羅を加工した盾を見上げる。 「はい、この前の亀のような使徒の甲羅を使った物です。攻撃には使えませんが、エヴァを中和のための物として位置づけるのであれば良い物ではないかと」 「そうね、今日の戦闘でもそんなに傷が付いたようでもないし、良いわね」 「ええ、」  その後いくつかの兵器を見て回った。  検査が終わった頃にミクを病院に迎えに行った。 「シートベルトしめた?」 「うん」  アクセルを踏み車を走らせる。 「ユイさん、今日の盾アレってあの亀のだよね」 「ええ、アレを加工した物よ、使ってみてどうだった?」 「ん〜、随分丈夫なんだなぁ〜って、これからはあの盾があると安心するかな」 「それは良かった。あの盾にも限界はあるけど、それでも過信しすぎない限りは良いわね」 「うん、後使ってなかった物もあったみたいだけど…」 「今日届いたの、近い内に訓練でも採用すると思うわ」 「なんか、随分装備揃ってくね」 「そうね、使徒に対抗する力が揃っていくって事ね」  それは良いことである。但し…気になる敵は使徒だけではないのだ。ゼーレの動向が気になる…諜報部などに探らせているが、まだまだ断片しか分からない。奪われたと思われるダミータイプのエヴァの存在も分からない。ダミープラグの方は、元々あちらの方が進んでいたわけだから調整すれば直ぐにでも使えるはずだが、何を狙っているのだろうか? 「…そう言えば、ミクちゃんは何か食べたい物ある?」 「ん?…ハンバーグが食べたいかな」 「分かったわ、じゃあ夕飯はハンバーグにしましょう」 「やったぁ♪」  ミクは素直に喜びを表した。  翌日、ミクが登校すると早速佐々木が近寄ってきた。 「今回は愛知県でやったみたいだな」 「相変わらす情報早いね」 「まあな、今回は随分派手だったこともあって情報も多いぜ」 「ふ〜ん、なんか面白いことでもあった?」 「色々と戦自経由の情報を手に入れたよ」 「じゃあ、情報交換ね」 「ああ、」  佐々木は色々と調べた情報を、ミクは自分が見てきた者や体験してきたことを話す。  そうしている内に安齋と安藤の二人が登校してきた。 「あら、二人早いわね」 「まあ、色々と話したいこととか聞きたいことがあったからな」 「佐々木君相変わらずね」  その後、HRまで色々な話で盛り上がった。  HR中で、修学旅行に関する説明があった。  今年は色々とあったが、前日と当日何事もなければ予定通り修学旅行に行くとのことである。  行き先は沖縄で、4泊5日の予定である。 (う〜ん…行けるのかなぁ?)  ミクはプリントを見ながら修学旅行に行けるのかどうか考えていた。  数日間も東京を空けてその間に使徒とが来たら…と言うことで、修学旅行に行けなくなるかも知れない。 (小学校の時は熱だしていけなくなっちゃったから、行きたいなぁ〜)  楽しみにしていた修学旅行…あの時、前日から熱を出してしまって行けなくなってしまった。だから今度こそ行きたいという思いは強いが、いくらユイが司令だからと言って、わがままを通すわけには行かない。  行けると良いが、余り期待しない方が良いかなと言う感じであろうか?…そんなことを考えていると、教師の言葉が飛んできた。 「惣流君、いつまで修学旅行のプリントを見ているつもりなのかな?」 「え?」  ふと見るといつの間にか授業が始まっていた。佐々木達がさっきから合図を送っていたようだが全く気付かなかったようだ。 「あ…ごめんなさい」  直ぐに教科書とノートを開ける。  ユイは、ダミープラントにやってきた。  レイが入った大きなカプセルに手を触れる。 「レイちゃん…シンジと良くやってる?」  過去にいるはずのレイへの言葉である。 「こっちは大変だけれど何とかなりそうよ、全部乗り越えて、ミクちゃんが幸せになるように頑張るわ。貴女達へは私はもう何もしてあげられないけれど…幸せを掴んでね」  夕食の席でミクはユイに修学旅行のことを話した。 「修学旅行…どこへ行くの?」 「うん、沖縄、4泊5日で」  分かっているため、嬉しそう…と言う口調ではない。 「沖縄に5日ね…」  少し考える…ミクがいなくなると言うことは備えの上で大きい。初号機は間違いなく3機の中で一番強い。  しかし、来月までにはA−1改も数機、その他の武器や兵器も完成している予定である。それらを総合すれば確かに初号機の穴は埋められるかも知れない。とは言え、それ以上の強さを持つ使徒であれば初号機を外すわけには行かない。  とは言え、ユイとしてはミクを修学旅行に行かせてやりたい… 「う〜ん…みんなで相談してみるわね、」 「うん…」  翌日、日向やマヤ達幹部を集めてミクの修学旅行に関して意見を聞いた。 「そうですね…余り好ましいというわけではないですね」 「沖縄ならヘリを同行させて基地に高速の戦闘機を待機させておけば短時間で東京に戻ってこれますね」 「リスクをどう考えるかですね…使徒に備える意味だけでなく、自衛隊や戦自に協力を要請しなければいけないと言うこともありますから、」 「少し借りを作ることになるけれど、それに関しては、そんなに気にするほどのことでもないわと思うわ」 「…まあ、博士がそう言われるなら良いかも知れませんが、どちらにせよ使徒戦へのリスクは0には出来ませんね」 「エヴァの操縦者の精神状態を保つのは、必要なことです。なんと言っても戦闘に望む姿勢や意欲だけでなく直接的にシンクロ率に影響しますから、行ったときの問題だけでなく、行かなかったときのデメリットも含めて考えないと行けないのでは?」  ユイは言われて考えてみた。確かに、行けなくなってしまったらミクはちょっと落ち込んでしまうかも知れない。 「司令、ミクちゃんは修学旅行についてどんな感じなんでしょうか?」 「…そうね、行きたい、でも多分駄目だろうなと悲観している部分があるところかしら?」 「ショックを受けると言うことはないでしょうけれど、気分が沈んでしまいそうなかんじですかね?」 「そうね」 「程度次第ですねぇ」 「我々が程度を論じても仕方ないですし、司令がそれを判断していただくというので良いんじゃないでしょうか?」  日向の一言の後、判断はユイに任されることに決まった。  そして名目上操縦者の精神状態を保つためのようなものになるわけで、他の二人にも同等の者が与えられてしかるべきではないかと言うことで、日付をずらして二人にも何日間かの休みを与えて、どこか好きなところに行けるようにすると言うことも決まった。
あとがき
一連の物の登場でそれなりに余裕がでてきたようで修学旅行がどうのと言う話がでてきました。
シンジ達の時と同じ行き先は沖縄です。
無事に行けるかどうかは、この後の使徒戦によりますけどどうなるでしょうね。