背徳 逆行未来編

◆第8話

 ユイは執務室で又溜息をついていた。
 ダミーのことである。当然使いたくないものだが…それ以外方法がなく必要不可欠にも関わらず、その選択を選ばないのでは単なる愚か者である。
 その時、ユイのもとに電話が掛かってきた。
「はい」
『中央研究所からお電話です』
(あれの事かしら?)
『あ、博士ですか?』
「ええ、」
『以前そちらから開発依頼が出ていた抗ATフィールド兵器が完成しました』
「本当ですか!?」
『はい、』
「思っていたよりもずっと早い完成で驚いています。御苦労様でした」
『いえ、我々は設計通りに作っていただけですから』
 電話を切った後ユイは笑顔になっていた。
 そうそう簡単に出来るものでもないと思っていたのだが、よほど優秀なメンバーが携わっていたのだろう。
(別の方法が出てきたわね)


 翌日、武装倉庫、
 一本の大きな槍が倉庫に収められた。
「これが新しい武器ね」
「以前の亀のような使徒の甲羅を加工した物が先についています」
 マヤに対して中央研究所から来た
「どの程度のもの?」
「現在のエヴァ用の武装の中では一番貫通力があります。真垂直にぶつけることが出来るのならATフィールドもあるいは貫けるかもしれませんが…その分、強度に関してはかなり無茶をしているため保証はつけられません」
 先端の方は随分細くなっている。横に力を加えたらぽっきり折れてしまいそうでもあるが、元々の強度が凄いため少々のことではその様なことはない。
「詳しいデータはこのディスクに入っています」
「御苦労様、早速使わせて貰うわ」

 
 日曜日、中央研究所付属実験場、
 大きなパラボナアンテナをつけた車が複数台配置されている。
「あれですか、」
「はい、元々の設計からは少々変わっていますが、」
「随分改良していただいたようですね」
「いえいえ、我々はちょっと弄っただけで、原理原則が一番大事ですよ」
「実験、はじめさせていただいて宜しいでしょうか?」
「ああ、始めてくれ」
 いくつかのターゲットが並ぶ後ろに02が立ち、ATフィールドを発生させる。
「ATフィールドの発生を確認しました」
「ターゲットロックオン」
 凄い音を立ててミサイルがターゲットに向けて発射されるが、02のATフィールドに阻まれターゲットに到達する前に爆発した。
「では、A−1改を作動させます」
「位相空間の中和を確認」
 肉眼ではその変化は読みとれない。
 再びミサイルが発射される。今度はATフィールドに妨害されることなくターゲットの到達し、ターゲットを吹き飛ばした。
 その事を確認すると同時に一斉に歓声が上がる。
(いけるわね、これなら)
 ユイは確かな手応えを感じて拳をぎゅっと握った。


 東京帝国グループ総本社ビル会長室、
「まずは、御苦労様と言っておこう」
「どうも」
「…しかし、滅茶苦茶高いなこれは…」
 耕一はこめかみを押さえる。
 元々の値段も巫山戯ているが、戦力や運用性を考慮に入れると同等の戦力にするためにはエヴァよりも随分高くつくかもしれない。
「エヴァと併用すれば、有効的に使えると思います」
「ふむ…エヴァとの併用か」
「はい、」
「良いだろう…早速作らせよう。試作機は?」
「7機の試作機の内5機を早速配備することにしました…最もこの数ではどれだけ効果が上げられるのか分かりませんが…」
「まあ、それなりであってもいい結果がでることを期待している」


 ミク、ミサ、リコの3人が技術部の大倉庫に今回開発された抗ATフィールド兵器を見に来ていた。
「あんのおっきなアンテナ付けた奴ね」
「なんだか、兵器って感じがしないね」
「ええ、私は見てきたわけだけれど、それでもそう言う感じはしないわね」
「あら、貴女達、あれを見に来たの?」
 マヤが3人に気付いたようで近付いてきた。
「うん、」
「未だ5機しか配備されていないからどれだけ効果が上がるかは分からないけれど、これまでよりは楽になるかもしれないわね」
「そうなると良いわねぇ〜」
「ええ、そうなって欲しいわね」


 3日後、次の使徒が襲来した。
 今回は宇宙空間に現れた。
 今、発令所のメインモニターには巨大な球形の使徒が宇宙をバックに映っていた。
「宇宙空間の使徒ですか…対策はあるんですか?」
『はい、宇宙空間の使徒への対策もしています』
 サブモニターには巨大なミサイルを搭載した衛星が複数個映った
「ミサイル攻撃ね…」
(通用すると良いわね)
 数分後ミサイルが発射され、使徒に向かって一直線に飛んでいく、そして着弾した瞬間すさまじい光に使徒が包まれ、直後に映像がいくつも消える。
 1分ほどして再び使徒の姿が映った。
 球形の使徒は何カ所かが抉られ、血のような液体が表面で沸騰し気化している。
「利いているわ!」
 思わず興奮から声が漏れる。
『第2段の攻撃準備完了しました』


 サブモニターに巨大な粒子砲兵器が映る。同じく衛星に取り付けられている物のようだ。
「あれは、陽電子砲?」
『はい、陽電子砲です』
「宇宙空間では有効ね」
『エネルギー充填完了』
『カウントダウン開始、5、4、3、2、1』
『発射!!』
 青白い光が一直線に使徒に向かって飛んでいく、そして直撃した瞬間再び光に包まれた。
 映像が復旧したとき、使徒の姿は存在せず、残骸が宇宙空間を漂っているだけだった。
『パターン完全に消滅しました』
「…今回は楽だったわね」
この使徒に関してはエヴァが出撃することなしに勝利することが出来た。
(…今回は使用機会はなしか…)


 しかし、早くもその翌週には次なる使徒が襲来していた。
 発令所のメインモニターには海底を日本列島に向けてゆっくりと歩いている変形人型らしき使徒の姿が映っている。
(…今度は使えるわね)
「エヴァは初号機と01、それとA−1を5機全て輸送して、02は本部で待機よ」
『了解しました』


 衛島にエヴァ2機と5機のA−1改が輸送された。
『今回はA−1改がATフィールドの中和を補助してくれる。中和が幾分楽になるはずだ』
『目標、後2分ほどで上陸します』
 初号機は亀のような使徒の甲羅で作った新しい槍を構えた。
(随分破棄細いけど…折れないかな?)
『来ました!』
 暫くしてその通信が入ってきて意識を集中させた。
 大きな水飛沫があがり、水色を基調とした変形人型の使徒が衛島に上陸した。
 巨大なまん丸の頭部で、見た目バランスが悪そうなのだが、その辺りは問題なさそうにしっかりと歩み寄ってくる。
 どんな攻撃方法で仕掛けてくるのか分からない。特にビームがでそうなところもないから肉弾戦になる…とは簡単に言えないのが使徒である。
『中和しろ!』
『中和開始、位相空間を中和していきます!』
 目には見えないが、パラボナアンテナから何かを放っているようである。
 ミクはモニターを切り替え、ATフィールドの強度を色で表示させると確かにATフィールドが弱くなっている部分があり、胸の辺りは殆ど無いに等しい事が分かった。
「ホント、弱くなってるや」
『攻撃開始!』
 周囲の支援兵器からATフィールドが極薄くなっている胸の辺りを狙って次々に攻撃が仕掛けられる。
 ATフィールドが強い部分に当たったものは全くダメージを与えられないが、極薄い場所に当たったものは、ATフィールドを通過し、胸部に直撃する。
 当たったものの貫通力が表皮を貫けなかったためか、そう大きなダメージは与えていないが衝撃で吹っ飛ばされバランスを崩して地面に倒れた。
『よし!一気に片を付けよう!』
 ミクは頷き、初号機と01が一気に走り寄った。
 大きな頭が災いしてか直ぐには体勢を起こせないところに、初号機が槍を突き刺す…いとも簡単に表皮を突き破り体を貫く、
「凄い」
 続いて01が新形ソニックグレイブを使徒に振り下ろしその身を斬る。
 一旦離れるが中和距離を保ってATフィールドの中和は続ける…そして、再び支援兵器から攻撃が仕掛けられ、直ぐに爆煙に包まれる。
 煙が晴れたとき、使徒はぼろぼろになり、もはや虫の息であった。
「よし、」
 初号機が近寄り槍であらわになりひびがたくさん入ったコアを突き刺した。


 会議室で、今回の二つの新兵器に関して検討が行われていた。
「今回、目標は何もしてこなかったに等しかったため、いまいち判断が難しいところがありますが…それでも、大きな収穫はありました」
「まず、A−1改に関してですが、5機のエネルギーを集中させたところATフィールドに穴を開けることが出来ました」
「しかし…相手がもっと素早く動いてくると難しいな」
「はい、今回の使徒のATフィールドは標準的なものでしたが、それでものろい使徒でなければ、5機での中和は難しいかと」
「やはり数を増やすのが最大の対策でしょう。ある程度以上弱くできれば通常兵器でもダメージが与えられないこともありません」
「又、A−1改同士は当然として、それ以外の支援兵器も有機的に組み合わせて連動させるためのものも必要になりますね」
「大変だろうと思うけれど頑張ってね」
「はい」
 色々と問題は山積だが、みんな表情は暗くはなかった。


 夜、ユイはマンションに戻ってきた。
「お帰りなさい〜」
 ミクがわざわざ玄関まで出迎えに来てくれた。
「ただいま、今日も御苦労様」
「ううん、ユイさんも御苦労様」
「あ、そうそう、御飯は?」
「あ、未だ」
「分かったわ、直ぐに作るわね」
「うん」
 ミクが弾んだ声で返してきた。


 スパゲティとスープ、サラダがテーブルの上に並ぶ。
「美味しそう〜」
「早速食べましょう」
「うん」
 フォークにスパゲティを巻き付けて口に入れる。
「うん、美味しいよ」
「良くできたみたいね…ところでミクちゃん」
「ふぉ?」
 口にものを入れながらだが反応する。
「あのA−1についてどう思ったのか少し聞きたいんだけど良い?」
「うん、凄いね。エヴァじゃないのにATフィールドを中和できるし」
「中和しかできないけれど、それでも、エヴァ以外では対応できない…と言うわけではなくなったわね」
「もっと、ああいうのが出来てくるとミクも楽になるかもしれないね」
「そうね」
 本当にそうなればいいし、又そうしなければいけないとユイは思っていた。

 
 月曜日、ミクは学校に行くと佐々木が直ぐに近寄ってきた。
「惣流、おはよう」
「佐々木、おはよ」
「ところでさ、なんか、新しい兵器が出来たんだって?」
「うん、A−1改とか言うのが出来たよ」
「教えられる範囲で良いから教えてくれるか?」
「うん、良いよ…た・だ・し」
「…但し?」
 ミクは意地悪そうな笑みを浮かべる。
「今日の演習お願い」
「う…今日のあれかよ……ああ、分かった。俺が引き受けるから教えてくれ」
 ミクはにんまりとした表情を浮かべながらA−1改についての話を始めた。 


 ネルフ本部、総司令執務室、
「失礼します」
 マヤが報告書を携えて入ってきた。
「どうしました?」
「はい…ダミーのことですが、どうすべきかと思いまして」
「……準備は進めて置いてくれるかしら?実行しないですめばそれに越したことはないけれど」
「わかりました」
「それと…これが先の戦闘とA−1改に関する報告書です」
 書類の束をユイに渡す。
「御苦労様、」
「いえ、私はこれで失礼します」
 マヤは一礼して退室していき、ユイは書類に目を通し始めた。

あとがき
さて、面白い要素がでてきました。
これがこれからどのように影響してくるのか、使徒戦の流れを決めるかもしれませんね。
一体どんな結果に結びつくのでしょうか?