背徳 逆行未来編

◆第5話

ユイは日向と共に、新横須賀港に次々に入港してくる太平洋艦隊を見ていた。
破損した艦が多く見られる。
そして、相当数が沈没している為、その数は大きく減っていた。
(・・・権力者のいがみ合い・・意味の無い対抗意識によって多くの者が失われた・・・)
殆どの者には、人類全体を護るなどの言う壮大な目的を真の目的にする事はできない。
それは、利害の一致と同じく、自分の目的・・・例えば、生き残る、家族や友人知人を護る・・・そう言った事を果たす上で必要、或いは都合が言いからそれをしているに過ぎない。
今回の事もそれらの大国も危機感が足らないと言う事もあるであろうが、彼ら自身悪い事をしようとして行ったわけではない。
彼らは国家の代表であって世界の代表ではない。彼らの行った事は国家の利益を守る事と知れある意味当然の選択肢の一つであるとも言える。
しかし、今回はその判断は良いものではなかった。実際には、その程度の事なのであろう。
寧ろ、自らの・・罪悪感からなのであろうか、多くの犠牲を発生させてしまう計画に手を染めている自分の方が・・・
「・・博士、行きましょうか」
「・・そうね、」
二人は、太平洋艦隊旗艦の飛天にむかった。
飛天は使徒にぶつかった時の衝撃でかなりのダメージを負っている。
「・・凄まじいわね・・」
乗船し、艦内も相当な被害を被っている事が分かったユイが呟く。
「・・そうですね、」
「こちらです」
将校に案内されて、ブリッジへと入った。
「特務機関ネルフ総司令碇ユイです」
「ネルフ本部作戦部長日向マコトです」
「太平洋艦隊提督を務めていますアルフレッドフリードリッヒ中将です。」
「・・輸送任務に失敗した事を謝罪します。」
アルフレッドは深く頭を下げた。
「いえこちらこそ、弐号機の暴走により甚大な被害を齎してしまい、申し訳ありません。」
二人は頭を下げる。
「・・今回の事、大国の政治的な思惑の為に起こった・・・人災です。」
「その事は分かっています。しかし、それも、人の世界です。それを否定することはできません。対抗心や反感はあったでしょう・・・しかし彼ら自身、自国の為を思っての事だったと言うのは事実でしょう。」
ユイの表情は暗い。
「・・・そうですね、」
「・・・で、一応、形だけのものになりますが、」
日向は、鞄から書類を束を取り出してアルフレッドに渡した。


帰りの車の中でユイは半ばぼうっとしながら窓越しに海を眺めていた。
「・・博士、」
「・・あ・・何かしら?」
ユイは視線を日向に向けた。
「お疲れの様ですが、大丈夫ですか?」
「ん?・・大丈夫よ、」
「・・そうですか、」
「・・ええ、」
車は高速に乗り、東京を目指した。


夕方、東京、ユイのマンション、
「ただいま」
「ユイさんおかえりなさい」
ミクがユイを出迎えた。
「?・・ユイさん、疲れてる?」
「ん?いえ、そんな事は無いわ、お夕飯作るけど手伝ってくれるかしら」
「うん」
ユイは荷物を下ろしてミクと共にキッチンに向かった。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
二人で協力して作った夕食が食卓の上に並んだ。
「うん、美味しい」
「ん〜、ミクちゃんもなかなかね、美味しいわ」
「えへへ」
ミクは照れながら軽く後頭部をぽりぽりと掻いた。


沖縄近海をインド洋艦隊が航行していた。
旗艦、航空戦艦マハトール、ブリッジ、
「太平洋艦隊は使徒の襲撃を受けた。我々も受けないとは限らない、警戒は怠らない様にな、」
「はい」
航空機も相当数が警戒に当っている。


同じ頃、マラッカ海峡を大西洋艦隊が航行していた。
辺りは深い霧が立ち込め、視界はかなり悪い。
旗艦、航空母艦ユーロ、ブリッジ、
「・・・視界が悪いな、」
有視界では直ぐ隣の艦を見るのが精一杯である。
「・・今、使徒に襲撃されでもされれば、拙いな・・・」
「はい、」
提督がブリッジに入ってきた。
「・・提督、」
「・・・視界は最悪だな、」
「はい、」
・・・・・
・・・・・
暫くして提督はぼそりと呟いた。
「・・・なんだ?」
「提督?」
何か嫌な感じを受けているようだ。
「・・・何かおかしい・・・・・・警戒を強化しろ、」
「・・・はい、」
暫くは何も変化は無かった。
「・・・・・」
突然、霧の中に何か爆発する光が見えた。
「なんだ!!?」
「前方を航行中のキュリアスが破壊された様です。」
「目標の確認を急げ!!全艦任意に迎撃せよ!!」
次々に艦が破壊される。
「目標は!!?」
「確認できません!!」
「くっ」
レーダーやソナーには反応していない。
視界では確認できない。


東京、ネルフ本部、発令所、
「大西洋艦隊が正体不明の敵と交戦中!!」
『目標は使徒か!!?』
「不明です!!」
『・・・この距離ではとても間に合わない・・・インドネシアとマレーシアの軍隊を出撃させろ!』
「了解!」


ユイのマンション、
ミクはお風呂に入っていた。
「・・ふぅ・・・」
(・・ユイさん疲れていたな・・・やっぱり、)
ミクの思考は電話の音によって中断された。
「・・・、まさか、」
直ぐにパタパタとユイの足音が近付いて来た。
「ミクちゃん!本部に行くから悪いけど直ぐに出てくれる!?」
「うん!」
ミクは直ぐに風呂から上がり、脱衣所でユイから服を渡されて直ぐに着込み、携帯用のドライヤーと手鏡を持ってユイと共に家を出た。


夜の東京をユイの車が快走している。
車内にはミクがドライヤーを使う音が響いている。
それも途絶えた。乾かし終った様だ。
「・・ユイさん、何があったんですか?」
「・・・マラッカ海峡を航行中の大西洋艦隊が正体不明の襲撃を受けたの、」
ミクは少し目を大きくした。
「・・大西洋艦隊が・・・・使徒?」
「・・残念ながら、分からないの、」
「・・・」
その言葉には、これが、使徒ではなく、人間の仕業である可能性がある・・・或いは高いと言う意味が含まれていた。


2人が本部の発令所に到着した時には既に戦闘は終わっていた。
「・・ほぼ全ての艦が沈められた物と思われます。」
「・・・・ミクちゃん、ちょっと私は今夜は帰れそうに無いけど、どうする?」
「ん〜本部に泊まって行く事にする」
「そうか、じゃあ、案内するよ」
「御願いね」
「はい」
ミクはケンスケについて発令所を出て行った。
「・・・事態の収拾と情報の収集に努めて、」
「「はい」」


翌日、ネルフ本部、総司令執務室、
ユイは報告書に目を通していた。
大西洋艦隊はほぼ全滅、生存者は4桁に達しなかった。
「今回の事に関して、詳細は不明です。生存者の証言からも何ら有効な情報は得られませんでした」
ユイは軽く米神を押さえた。
「・・インド洋艦隊は無事に新横須賀港に入港を済ませました。今、伊吹博士が引き取りに行っています。」
「・・日向君、貴方の見解は?」
「はい、エヴァを目的にした海賊行為だと思われます。」
「・・海賊・・でしょうね・・その犯人は、」
「・・ゼーレでしょうね・・」
二人は同時に溜息をついた。
「・・・ゼーレ関連を徹底的に洗い直さないとね、」
「はい」


昼過ぎ、ユイは、東京帝国グループ総本社ビル会長室を訪れた。
「・・来たか」
「・・はい」
「今回の襲撃の事か?」
「はい、」
「・・・うむ・・・ゼーレの残党が動いた可能性が高い。どうやら、我々が把握していたのは、氷山の一角だったらしいと言う事だがな」
「・・・トップは?」
「不明だ・・・ゼーレ最高委員の生き残りの可能性はあるが、」
「・・・・・」
「・・・・・」
「現在諜報部門の半分以上を動かしてゼーレに関して再調査をしている。」
「・・早く分かると良いですね」
「・・そうだな、で、計画の方は進んでいるか?」
「・・・これを」
ユイは報告書を机の上に置いた。
耕一はそれを手に取りぱらぱらと捲る。
「・・・流石だな、」
「・・一応、理論の穴は全て埋めておきました。」
「・・・嫌か?」
「・・・・・」
「・・・だが、既に止める事はできない、」
「・・・・分かっています・・・今日はこれで失礼します・・」
「ああ、」


東京中学Aコース、選抜コース、
休み時間、ミク、安齋、佐々木、安藤の4人が集まって話をしていた。
話の内容は、昨日の大西洋艦隊襲撃に関することであった。
「大西洋艦隊を襲撃し、そして、完全に壊滅させるなんて、信じられないな、」
「そうね、」
ミクは、ダミータイプのエヴァを運んでいたと言うことを知っている。
そのエヴァを奪われた可能性が高いと言うことも、
昨日のユイの事もあり、表情はやはりどこか優れない。
人類が一つになって戦わなければ成らないのに、その中で対立し、更には、その為のエヴァを自分達の為だけに利用しようとして、略奪行為を行う。
「・・・どうしたの?」
「ん・・・ちょっとね・・・・大西洋艦隊はダミータイプのエヴァを運んでいたの、」
「ヤッパリそうか、」
佐々木は断定はできないがそうだと思っていた様だ。
「うん、」
「エヴァを目的とした海賊行為ね、」
「ふざけてるな」
「そうね」


学校が終わるとミクは、ネルフ本部に向かった。
インド洋艦隊の運んできた3機のエヴァの点検や整備、大西洋艦隊襲撃等のごたごたで、訓練は30分ほど遅れて始まった。
シミュレーション空間で、初号機、01、02がそれぞれ戦う。
第1戦目は、初号機と01の戦いである。
『行くわよん』
「うん」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
結局、中破したものの01の勝利になった。
『なかなかよ』
ミサはぐっと親指を立てながら言った。
それに対して、ミクは軽く微笑む事で返した。
次は、01と02なので、ミクは一旦シミュレーションプラグを出て、司令室に入った。
司令室で指揮を取っているのはマヤである。
「ミクちゃん、ここで見ている?」
「うん」
ミクはマヤの横に立ち、モニターを見詰めた。
この戦闘はミサが勝利し、3戦目の初号機と02との戦闘はミクが勝利した。


更衣室で、着替えながら3人は話をしている。
話題はやはり、太平洋艦隊襲撃の事である。
「ミクはどう思う?」
「・・・エヴァを目的とした海賊行為だと思ってるけど・・・」
「私も同じ意見ね。」
ミクの意見にリコが同意した。
「エヴァを戦争に使おうってえの!?」
「・・・でしょうね、でも、ダミータイプはダミープラグ無しでは起動しないわ、」
「・・ダミープラグか・・」
良く分からないが、チルドレン無しでエヴァを動かすダミーシステムの中核と成る物。
「・・本部ではダミープラグは?」
前回の使徒戦で使用されていた。
「以前のものは破壊された為、新しく研究をしていた様よ・・・完成したかどうかはしらないわ」
「そっか・・・」

あとがき
うむ・・今回、本編と余り変わらなかったような・・・
まあ、その内大きな変化が出て来るんでしょうけど・・
それでは又、