背徳 暗黒編

◆第9話

ゼーレ、
「なぜ槍を使用した」
「我々を裏切ったのか」
「この罪・・ただで済まされると思うなよ」
「・・使徒の殲滅を優先させました。詳細は報告書の通りです」
「笑わせるな」
「計画は予備へと移行されるでしょう、その為に、初号機は破棄ではなく凍結なのですから」
01、すなわちキールを除いた者は口々に碇に罵声を浴びせ掛ける。
「・・碇、」
キールの声と共に静かになる。
「これ以上のシナリオからの逸脱は許さん、次は無い」
・・・
「弐号機パイロットの件だが、もう既にドイツを発った。明日には第3新東京市に到着するだろう」
碇は片眉を上げた。
「・・分かりました。」


ネルフ中央病院、特別病室、
シンジはレイに付き添っている。
少々精神攻撃を受けたとは言え、無事だと言う事は分かっている。
しかし、それでも、この不安・・・
目を覚ます保証が無かった自分の時は、レイはどれほどまでに不安だったのか、
「・・綾波、ごめん」
シンジは謝らずにはいられなかった。
・・・・・
・・・・・
やがてレイは目を開いた。
「綾波!」
「・・碇君・・」
シンジの存在を確認してレイは微笑を浮かべた。


翌朝、第3新東京国際空港、第1ターミナルビル、
6thチルドレン、渚カヲルが到着した。
「ふふふ、ここが、第3新東京市か」
「・・因みに、ここは新横須賀市だが」
いつの間にそこにいたのか、黒服が訂正した。
「・・・・・そうかい、まあ、そんな事はどうでも良いさ、君は?」
「ネルフ本部保安2課の者だ、迎えに来た。」
「じゃあ、行こうか」
黒服はカヲルを車に案内した。


昨夜は、レイの検査があった為、シンジはいったん家に戻っていた。
そして、今、中央病院に向かっていた。
いくらレイが一人でも、今レイに手を出すほど愚かではないと思っているからの行動だが、
ジオフロントゲートでカヲルと出くわした。
「碇、シンジ君だね」
「・・渚、カヲル・・」
シンジはカヲルを睨み付けた。
「おやおや、僕も有名だったんだねぇ、僕の方こそ自分の事を理解すべきかもしれないね」
「どうしたんだい?何か気に障るようなことでも言ったのかな?」
(ああ、前回な・・・まあ、言葉よりも行動のほうが大きいが、)
「いや、どの機体に乗るつもりかと思ってな」
「そうだねぇ、弐号機が一番良いんだけどね」
「あの、弐号機が君に扱い切れるのか?」
「出来る筈さ」
「・・・同じアダムより生まれし者だからかな?」
シンジはカヲルの直ぐ横を通り過ぎる瞬間に、カヲルにだけ聞こえるように囁いた。
カヲルは驚愕の表情を浮かべシンジを睨んだが、シンジは振り返らずに、中へと入って行こうとしたが、カヲルに回り込まれた。
「・・どう言うつもりだ?」
「僕の任務には君の抹殺も含まれているんだよ」
「ほお、ゼーレの爺どもも少しはやるな」
「碇ゲンドウ氏の性格を考えればね」
黒服が拳銃を抜いたが、カヲルはボールペンを黒服に投げつけた。
ボールペンは正確に目を貫いた。
「うぎゃああああ〜〜〜〜!!!!!!」
黒服はのた打ち回っている。
「黙っていろ」
シンジはポケットの中に入っていた500円硬貨を黒服に向かって高速で投げつけた。
500円硬貨は黒服の喉を貫き強制的に黙らせた。
赤い血が広がって行く。
「で、ここで殺すつもりか?」
「そうだね・・それが良いね」
「じゃあ、君の命を貰おうか」
カヲルはATフィールドの剣を作り出しシンジに斬りかかった。
しかし、赤い光が飛び散り高質的な音が響いた。
「ば、バカな」
シンジはATフィールドの盾でカヲルの剣を弾いていた。
「リリンがATフィールドを?」
シンジは拳銃を抜きカヲルに向けて撃った。
カヲルはATフィールドで防御しようとしたが、ATフィールドでコーティングされた弾丸はATフィールドを中和し、カヲルに突き刺さった。
「ぐああああああ!!!!!!」
シンジは黙って弾を込め、再びカヲルを撃った。
「くそっ!」
カヲルは防ぐのは止め弾を交わした。
「くっ、どこだ!」
しかし、既にカヲルの視界からシンジは消えていた。
「ここだよ」
シンジはカヲルの背後からATフィールドの剣を首筋に当てていた。
「チェックメイト」
「くっ」
「何か言い残す事は無いかな?」
前回、それが、偽りだったとしても、自分に好意を向けた者へせめてもの気持ちだったのか、問答無用で斬り捨てるような事はしなかった。
「・・そうだね・・」
突然シンジの脇腹に鋭い激痛が走った。
「ぐっ!」
脇腹はATフィールドの剣によって貫かれていた。
「くそっ!」
シンジはカヲルを突き飛ばし、脇腹から剣を強制的に抜いた。
かなりの出血である。
「ぐっ、」
「さあ、第2ラウンドの開始だよ」
カヲルはATフィールドの剣で再び斬りかかって来た。
シンジもATフィールドの剣でそれを受け止め、凌ぐ。
立て続けにカヲルの攻撃が続く、全く隙が出来ない。
SS機関を持っているのだ・・疲労は無い。
先ほどの銃弾による傷ももう塞がっている。
シンジは表情を歪めた。
一方、出血が止まらない、
こちらは疲労も溜まっていくし、何よりも体力と血液の損失が激し過ぎる。
体が思うように動かず攻撃に転じられない。
「ははは、どうしたんだい、その程度で終わりかい?」
カヲルはまるで舞踏を踊っているかのように流れる動きで次々に攻撃を仕掛けてくる。
(余裕・・遊んでいやがる・・)
シンジは屈辱を感じつつも、それが油断に変化し、隙が出来るのを待った。


ネルフ中央病院、特別病室、
レイはATフィールド同士がぶつかるのを感じ取っていた。
「・・・」
意識を集中し、出元を探る。
シンジの姿が浮かんだ。
「碇君!」
シンジの力が弱まっている。
「碇君は私が守る」
決意の言葉を口にし、決意の表情を浮かべて病室を抜け出し、シンジの元へと走った。


ジオフロントゲートではその戦いは未だ続いていた。
「くっ」
シンジはもう足元もふら付いて来た。
防御しそこねて何箇所も斬られた為に出血が更に酷くなっている。
辺りはシンジの血で赤く染まっている。
「所詮この程度か・・君にはがっかりさせられたよ、だけど、これで終わりにしてあげるよ」
カヲルは大きく振りかぶった。
(今だ!!)
シンジは全身の力を振り絞り、一気に間合いを詰めてカヲルの胸を貫いた。
大量の血が噴出す。
シンジはにやりとした笑いを浮かべ、カヲルの顔を見上げた。
しかし、カヲルは笑っていた。
勝利を確信した笑みである。
人間では無く使徒なのだ。この程度では致命傷には成らない。
(しまった!!!)
無防備な状態のシンジに向けてATフィールドの剣が振り下ろされた。
「くっ」
シンジはとっさに反応して飛びのいたが間に合わない、肩口から脇腹に掛けて切り裂かれた。
凄まじい激痛に襲われる。
「ぐああああ!!」
そして、地面に倒れてしまった。
「ぐっあ」
・・・レイと幸せに成る為に様々な者を利用して来た。
様々な者を犠牲にして来た。
そう、自分にとっても、大切な存在、アスカやミク、ユイ・・・友人や周囲の人間たち・・・
こんなところで、殺されて、その夢を手放す事など出来ない。
「・・こんな、ところで、死ぬわけには・・・いかない」
シンジはATフィールドの剣を杖がわりにして、よろめきつつも立ち上がった。
「ふ〜ん」
カヲルは少し驚き、そして感心しているようだ。
「未だ立ち上がるのかい」
胸を貫いた。
血が再び凄い勢いで噴出す。
「ぐああああ!!!」
しかし、倒れない、倒れる事はできない。必死に堪えている。
「・・何を、そんな無駄な生にしがみ付いているんだい?」
シンジはカヲルを睨みつけた。
無駄などではない、無駄などでは・・・
「無意味だよ」
カヲルはゆっくりと剣をシンジの脇腹に当てた。
動けば倒れてしまう、シンジにはどうする事も出来ない。
ゆっくりと刃を滑らせ、肉を切り裂いて行く。
「ぐうううう!!」
次は、右の太股に当てる、そして、又ゆっくりと、
「ぐあああああ!!」
「未だ、倒れないのかい?」
倒れられない、ここで、全てを無意味にする訳には断じていかない。
「・・・既に、それだけの傷を負い、この出血量、内臓の損傷を考えれば、もう助からない、苦しみが長くなるだけだと言うのに、」
シンジはカヲルの目を睨みつけた。
「だが、これで終わりだよ、」
カヲルは、今までと違って素早く次々にシンジの肉を切り裂いて行く、
「ぎゃあああああああああああ・・・・」
凄まじい激痛を感じたのだが、直ぐに薄らいでいく、
(・・く・・・これまでか・・・)
「・・・綾・・波・・・」
レイの姿が浮かび、そして、薄れていく・・・
遂にシンジはその場に崩れた。


ゲートの向こう側で、レイは異変に気付いていた。
この辺りの区画一帯のセキュリティが完全に切られている。
その上、電源も来ていない。
(急がなくては)
・・・レイの行く手をジオフロントゲートが塞いだ。
ゲートの向こう側でシンジの力が急速に小さくなっているのが分かる。
「碇君!!」
レイはATフィールドをゲートに叩きつけ全てを吹き飛ばした。
煙が晴れると、返り血で真っ赤に染まっているカヲルと、血の海の地面で息途絶えかけているシンジの姿が目に入った。
レイの目が驚愕で大きく開かれる。
「やあ、ファーストチルドレン、綾波レイ・・・いや、第弐使徒、リリス・・・」
レイはふらふらとした動きでシンジに歩みより抱き起こした。
「・・いか・り・・く・ん・・・」
その声は完全に震えきっている。
シンジの瞳がレイの姿を捉えた。
唇を動かすが、もはや声にならない。
「碇君!!」
一瞬、レイに対してなのか、それとも、今まで犠牲にして来た多くの者に対してなのかは分からないが、すまなげな表情を浮かべた後、シンジの全身の力が完全に抜けた。
「碇君!!!」
必死に体を揺するが、もはや反応は無い。
・・・・
・・・・
・・・・
レイはアンチATフィールドを展開しシンジの体の中に手を差し入れた。
そして、ATフィールドで散り行こうとしているシンジの魂を掻き集め凝縮させた。
シンジの体からコアを抜き取り、自らの胸に当て体内へと取り込んだ。
「・・お別れは済んだかい?」
カヲルの言葉にレイは怒りに身を滾らせてカヲルの方を振り向き睨み付けた。
「やれやれ、随分と御冠の様だ」
レイの体から怒りによるエネルギーが放出されているのが肉眼でもはっきりとわかる。
「・・許さない・・」
カヲルはATフィールドの剣をレイに向けた。
「さあ、行こうか」
瞬時にレイの姿が消えた。
「なっ!」
カヲルは胸部に激痛を感じた。
「うっ」
レイの手が背中側からカヲルの胸を貫いていた。
カヲルは大量の血を吐いた。
しかし、シンジのケースと同じく後ろにいるレイにATフィールドの剣で攻撃を掛けようとしたが、ATフィールドを扱う事が出来なかった。
戸惑い、恐怖を感じる。
「・・・その程度の力で、私と戦うつもりだったの?」
レイの声には全く抑揚が無い、機械的な声なだけに更に恐怖を感じさせる。
「くっ」
「・・・この空間は私が支配したわ、そう、時間さえも」
レイは乱雑に手を引き抜きカヲルに激痛を与えた。
「ぐあああ!!」
「・・・碇君を殺めた罪・・・許さない・・」
カヲルの傷が塞がっていく。
「はあ、はあ・・・ぐっ」
傷が完治した次の瞬間、レイの放った無数のATフィールドの小球で蜂の巣にされた。
「ぐあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「・・・不幸ね・・・人間なら、簡単に苦しみから開放されるのに・・・」
カヲルの傷は再び回復していく。
全身を恐怖でガタガタと振るわせた。
ここまで次元が違うだなんて・・・同等にやり合う自信があったのに・・・
今、目の前にいるのは、圧倒的な高みから自らを裁き、罰を与える女神である。
肉体は何度でも修復される。
精神の耐性も、人間とは比較にならない。
この拷問は、カヲルの魂が磨り減り、完全に消え去るまで続くのだろう、


どれほどの時間がたったのか、或いは、本当にレイが時間を支配しており、実際には殆ど時は流れていないのか・・・、いずれにせよ、もはやカヲルは完全に壊れ、反応を示さなくなって来た。
「・・・もう、終わりなのね・・・」
レイはATフィールドを凝縮させて放ち一気にカヲルを消し飛ばした。
衝撃は一瞬にして周囲を飲み込み、第3新東京市の3エリアほどが消滅する事になった。


1時間後、マヤ率いる調査団が発見したのは爆心地で無傷で蹲るレイだった。
レイは自分の肩を抱き、虚ろな目をしていた。
瞳には何も映さず、心を封印してしまっているようだ。
「レイ」
レイは機械的に首だけ動かしてマヤの声に反応した。
それでマヤは大体の事を把握した。
シンジは死に、レイは心を閉ざした。全ては思惑通りに行った。
「本部に戻るわよ」
マヤの指示に素直に従った。
もはやレイは・・・いや、これは人形と同じである。


ネルフ本部総司令執務室、
「レイは?」
「旧型のプラントにいれておきました」
「目撃者は?」
「始末しました。」
碇はにやりと笑った。
「6thは、タブリスで間違い無いな」
「はい・・これで、計画の下準備は全て整いましたね」
「ああ・・」
「サルベージの方は?」
「・・7割がたは・・・・ところで・・・」
「・・そうだな・・今夜来い」
「はい」
マヤはウットリとした表情で答えた。


セントラルドグマ最深層、ダミープラント、
心を完全に閉ざし、人形と成ったレイはLCLの中を只漂っていた。

あとがき
シンジ・・・死にました。
レイ・・・人形に成りました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・はぁ・・・・・
全然筆が進みません。
ストック減り続けてます。
このままでは、本気で、更新維持できません。
・・・・・・・では、