背徳 暗黒編

◆第8話

ネルフ本部、総司令執務室、
碇は報告書を机の上に置いた。
「・・・抜け殻か、伊吹博士、君の推論はこれかね、」
「はい、」
「アスカの魂を持ち去ったものと思われます」
「・・何の為にだ?」
「・・・マギは3つの可能性を提示しました。」
「3つ?」
「1つ目は、単純にネルフ戦力を落とす為、しかし、ネルフの現有戦力が使徒に敗北し、早急に戦力補充が必要となった場合の予備とする可能性、」
当然であろう、セカンドチルドレンを抹殺するなど正気の沙汰ではない。
ネルフの力を削いだ為に、使徒に敗北したと成っては本末転倒である。
「2つ目は、自立系エヴァを作る為」
「自立系?」
耳慣れない言葉に聞き返した。
「コアが思考しコアが直接動かすエヴァです。シンクロ率は常に100%となります」
恐ろしい兵器だ。SS機関を搭載していれば更に・・・
「3つ目は、アスカのクローンが用意されている場合です。」
「クローンだと?」
「はい、」
「・・・たしかに、存在する可能性は否定できないな」
「クローンに魂を移し変えたか、今、中央病院にいる者こそ、そのクローンなのかは分かりませんが、」
暫く沈黙が流れた。
「対策は?」
「・・・残念ながら、有効な手立ては・・・」
「・・委員会で何を言っても無駄だろうな」
「はい」
「・・・それから、念の為に、サルベージの準備を進めてくれたまえ」
マヤは冬月の声に驚いた。
「し、しかし・・・」
「これは決定なのだよ」
「・・・・分かりました。」


ネルフ中央病院、特別病室、
シンジは目を覚ました。
左腕が動かない・・・・
そちらを見ると、レイがシンジの腕を抱いて眠っていた。
右手でそっとレイの頭を撫でる。
「・・心配させてごめん・・」
シンジは穏やかな雰囲気の流れる病室の中で、レイの寝顔を鑑賞していた。
安心しきった寝顔、それが、逆に今の今までいかに心配していたかが良く分かる。
この眠りを妨げる事はできない・・・しようとは思えない。
・・・・
・・・・
・・・・
どれほどの時間がたったのか、漸くレイが目を覚ました。
レイは瞼をぱちぱちさせてシンジの姿を捉えた。
「おはよう、綾波・・そして、心配させてごめん」
「・・・碇君」
レイは喜びの表情を浮かべシンジに抱き付いた。


松代、実験場、シュミレーションシステム、
ヒカリが量産機相手のシュミレーションを行っていた。
「はあああ!!」
気合と共に、プログソードで量産機を一刀両断にする。
強い、
表情は復讐に囚われ、鬼気とした物がある。
嘗ての、人の良い委員長の面影は無い。
復讐とは、実に恐ろしいものである。
『宜しい、次からはレベルを上げる』
ヒカリは軽く頷いた。
仮想空間に4機の量産機が現れ、ヒカリはイヴを量産機に向かって走らせた。


翌日、第2新東京市、新千代田区、首相官邸、第1執務室、
「・・総理、冬月ネルフ副司令がお越しに成られました」
「通せ」
「はい」
・・・
・・・
「失礼するよ」
冬月が部屋に入って来た。
「ま、どうぞ、おすわり下さい」
「では、失礼して」
冬月はソファーに座った。
「早速ですが、本題に入らせて貰います・・対ゼーレへの共同作戦に関してですが、」
「ああ、そうだね」
冬月は鞄から資料の束や十数枚のディスクを取り出した。
「これが我々の保有する情報の内、日本政府に対して明かす事の出来る全てだ」
いきなり明かす事の出来る全ての手を見せた。
そして、これ以上は明かせないと言っている。
竹下は冬月の真意を読み取ろうとして目をじっと見据えた。
これが本当に全てなのか、これ以上明かしては自らが不利になるのか?或いは、与える情報を必要最小限に押さえたいだけか?
竹下はじっと考えた。
少なくともネルフにとってゼーレは倒さなければ成らない敵である。いや、この戦いを防衛しなくてはならない。
防衛しきれば、ゼーレの支配力は一気に低下する。そうすれば、不満を持っている国が一斉に反旗を翻すだろう。
いくらゼーレと言っても、5大国全てを押さえる事は出来ないだろう。
実際、それらの国でも反ゼーレ派が色々と活動をしている。
ゼーレの支配力が弱まればそれらの国も動きが取れなくなる、国際影響力が弱まれば、親ゼーレ派の国も連鎖反応的に、中立、或いは反ゼーレに回る可能性が高い、それらの国は経済を握られている場合が多いのだ、ゼーレに経済を握る事が出来なければ、更にその傾向は進むだろう。
そう言う経緯をたどり、ゼーレの世界支配は不可能になるだろう。
ゼーレ戦においてはネルフはその最大限協力する筈だ。
自分たちの命が掛かっているのだから、
ゼーレにとって、補完計画うんぬんを除いたとしても、ネルフ関係者に生きていてもらっては困る。
恐らくは、全ての責任をネルフに押し付ける筈だ。
又、逆も然り、
シンジから手に入れた情報で、凡その事は分かっている。
何も、その詳細まで知る必要は無い、事が済めばネルフも十分に断罪できる。
「・・・・他の情報は決して公開できないと」
「そう言う事だな」
「・・その理由は?」
「1国家が知って良い情報ではない、」
竹下は冬月の目を睨んだ。
表面に出てこない。取り敢えずは流石と言ったところか、
「・・我々と違い税金と言う名の、独自の財源を持っているのだからな」
竹下は黙ってじっと沈黙を守った。
・・・・・・
・・・・・・
沈黙が長い。
冬月はどれだけでも黙っているつもりだろう。
・・・・・・
・・・・・・
「・・・分かりました。貴方方を信用しましょう」
冬月は表情を緩めた。


シンジの家に二人は戻って来た。
先ず、仕掛けられた盗聴機やカメラなどを初めとするセンサーを全て見つけ出して破壊する。
完全に破壊した事を確認し、リビングのソファーに二人は座った。
「・・・アスカの事教えて欲しい」
「・・ベッドに寝ているのは、アスカの抜け殻、」
「どう言う意味?」
「魂が存在していないわ」
シンジは驚きで目を大きく開いた。
「・・成るほど・・」
その後、シンジが導き出したのは、マギが導いた答えとほぼ同じだった。


シンジは部屋に篭って考えを整理し、今後の事への対策を考え始めた。
しかし、これもマヤと同じ、この問題に対して自分が取り得る事は何も無いと言う事に気付いた。
シンジは溜息をつき、ネルフ側について考え始めた。
裏で色々と事を進めている。
マヤを引き込むのが遅れたのが、やはり、利いている。
かなり・・・いや、完全に取り込まれている。
裏目に出たか・・・
未だリツコの方が遥かにやりやすい・・・
初号機がSS機関を取り込む必要性があるか・・・
方法は、前回同様捕食によって行えば良い、だが、今、過剰シンクロによって暴走させても、サルベージが行われない可能性が高い、とすれば、自分の制御下で捕食するのか?
・・・問題あり過ぎだ。


夜も遅く成ってきた頃、ネルフ本部の技術棟のある部屋でマヤは未だプログラムを組んでいた。
「・・頑張っていますね」
「ん?」
「はい」
技術職員がコーヒーを差し出して来た。
「ん、ありがと」
マヤはコーヒーを受け取り口をつけた。
「何のプログラムを組んでいるんですか?」
「・・保険よ」
「保険?・・ですか」
「・・ええ・・」
マヤの表情はどうも思わしくなく、このプログラムの作成をマヤが望んでいるわけでは無さそうである。
・・・・
・・・・
・・・・
「・・博士、博士、起きてください」
「・・・ん?」
うとうとしていたらしい。
「ああ、ごめんなさい」
「いえ、私、これで上がりますから、」
「そう、お休み」
「はい、おやすみなさい」
職員は部屋を出て行った。


結局、対応策が出る事も無く、ゼルエル襲来の日を迎えてしまった。
今、待機室に二人が待機している。
「・・碇君・・・」
「成るように成るしかないか・・・」
シンジは溜息をつきレイは心配そうな目でシンジを見詰める。


そして、第3新東京市郊外に2機は射出された。
初号機はプログソード、零号機はポジトロンライフルを手に持っている。
ゼルエルは帯状の触手を一気に伸ばして初号機に襲いかかって来た。
初号機は交わすが次々に攻撃を掛けられ追い込まれて行く、
零号機は陽電子砲を放つが決定的なダメージは与えられない。
「くっ」
何とか隙を見つけて距離を縮め一気に切りかかったが、プログソードが肉に食い込んだだけだった。
直ぐにその場を離れる、次の瞬間先ほどまでいた地点に向けてビームが放たれ、その地点が蒸発していた。
やはり、強い、他の使徒とは比較にならない。
このまま続けても決して勝てない。
「仕方ない」
シンジは過剰シンクロに入った、シンクロ率を300%近くまで上昇させる。
全身に力が漲る感触、これで戦力的には互角以上の筈、
一気に間合いを詰めて斬りかかる、しかし、触手でブロックされた。
物凄い火花が飛び散る。
(なんて硬さだ!)
零号機の放った陽電子がゼルエルを襲い、ATフィールドは中和されている為に直撃し、大爆発でゼルエルは体勢を崩した。
「はあああ!!!!」
これを絶好のチャンスと一気に力を加え、触手を切断してボディを斬った。
しかし肉を斬っただけで、致命傷には成り得ない。
カウンターでゼルエルはビームを初号機に向かって放った。
反応しきれず直撃し初号機は腹部を貫かれた。
「ぐぶっ」
シンジは大量の血を吐いた。
一瞬にして貫かれた個所の細胞が壊死した。
「ぐっ」
シンクロ率300%、その問題点がもろに出た。
「ぐおおお!!」
初号機は全力でプログソードを振り下ろし、ゼルエルを真っ二つに斬った。
『パターンブ・・』
視界がぼやけて来た。耳も聞こえなくなって来た。
(・・これは、拙い・・)
意識が薄れてきた。
恐らくは貫かれた部分だけではない、その周りにまで様々な影響が及んでいるのだろう。
このままでは命が危ない。
その時、ぼやけた視界に真っ二つになり絶命しているゼルエルが入った。
「・・SS機関を・・」
シンジは最後の力で初号機をゼルエルにくらいつかせた。
SS機関を取り込み、全身に力が漲ってくる。
初号機の損傷部分が修復され、それがフィードバックされシンジの傷も癒される。
傷がすっかり癒えた事を確認してシンジは意識を手放した。


ネルフ本部総司令執務室、
「・・・SS機関を取り込んだのか」
「はい」
「・・・・」
「今回の事ですが、未だ尋問は行われておりませんが、パイロットの身体状態の記録から、攻撃を受けた際に、それと一致する部分の細胞が壊死していました。その回りの組織にもかなりのダメージがあり、死は間違い無かったでしょう」
「しかし生きているぞ」
「はい、その後、SS機関を取り込み、そのエネルギーで初号機の組織を修復、シンクロ率316%と言う高シンクロ率です。破壊の逆も起こっても不思議ではありません」
「・・・つまり、サードは自らの傷を癒す為、引いては生き残る為にSS機関を取り込んだ訳だな」
「はい、そう考えるのが妥当かと、まさか狙って攻撃を受けたとは・・・」
「それは・・・流石にありえんだろうな」
「委員会には、そのように報告しておこう」
「はい」
「目覚め次第、詳しい尋問を行え」
「了解しました」


人類補完委員会、
「碇、これはどう言う事か説明してもらおうか」
「我等を裏切ったと言うのか」
「前にも申し上げた通り、サードは私の制御下を離れております。」
「しかし、このような事態を止められなかった君の責任は変わらない」
「よもやその報告は嘘で、サードは君の意志で動いているのではあるまいな」
「御冗談を」
碇は書類を差し出した。
「これは、伊吹博士によるサードがその様な行為に至った理由の推測とその根拠となるデータです」
・・・・
・・・・
「碇君、情報操作は君の十八番ではなかったかね?」
「こんな物が信用できると思うのか?」
「御自由に」
・・・・
・・・・
「しかし、碇、これが本当だとしても、それはネルフ総司令としての責任問題ではないのか?」
「左様、初号機がここまで追い込まれるような事態を引き起こした責任、ただでは済まないよ」
・・・・
・・・・
「申し訳ありません。某組織にセカンドを誘拐されている為、ネルフ本部はその戦力を落としております。」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「訓練中のフォースとフィフスの戦力はいまだ実戦に耐える・・いえ、少なくとも、先のゼルエルクラスでは、格好の的にしかならなかったでしょう」
・・・・
・・・・
・・・・
「依って、初号機は凍結。先のアメリカでの伍号機の件もありますし、サードも承認せざるを得ないでしょう。」
「しかし、これでは、本部の戦力が不足します。弐号機パイロットの派遣を求めます」
「・・・良かろう、今回の事に関して君の責任は問わない。弐号機パイロットの事も一考しよう。だが碇、裏切りは許さん。」
「分かっております。全てはシナリオ通りに」


ネルフ本部中央病院、特別病室、
レイがシンジに付き添っている。
「・・碇君・・」
レイはそっとシンジの腹部を摩る。
傷は完治している。
跡も殆ど残っていない。
シンジがうっすらと目を開けた。
「・・綾波?」
「碇君!」
レイは嬉々とした声を出してシンジに抱き付いた。


翌日、ネルフ本部伊吹研究室。
「シンジ君、先の戦闘に関連する事で何点か聞きたい事があるんだけど、良いかしら?」
「・・ええ、どうぞ」
「先ず、戦闘中に貴方は、シンクロ率を300%を越える域にまで上げたわ、これは狙っての事ね」
「はい」
「何故その力を今まで使わなかったの?」
「理由は推測の通りです。フィードバックが強過ぎるんですよ、」
「そう・・・使徒戦ではその力を隠し通し、いざと言う時にその力でネルフやゼーレを潰そうと考えていたわけではないのね」
一瞬、シンジは顔を歪めた。
視界にあるだけでカメラが3、その他のセンサーをあわせれば10では利かないだろう、そして、それをマギに転送し、反応を分析する。
「どうしたのかしら?」
「いえ、まあ、いずれにせよ、フィードバックが大き過ぎると言うのがその理由ですよ、」
じっと目を見据えあう。
「まあ、貴方方が信用できないから、手の内を全て曝け出す事はしたくは無いと言う事もありましたし、これからもそうですね」
腹の内の探り合い、だが、今や、シンジの方には後が殆ど無い。
「・・・そう、」
「分かったわ、では、次の質問に移るわ、」
「使徒を捕食・・・いえ、SS機関を取り込んだ理由は?」
「そうしなければ命が無いと思ったからです。」
「アメリカの第2支部の事で分かるとは思うけれど、人類補完委員会は、SS機関を搭載した初号機は極めて危険である事から、凍結を決定したわ。」
「貴方の判断で、初号機を使用不可能にしたわ、この責任をどう取るつもりかしら?」
シンジは軽く笑った。
「まさか、戦場で命の火が消えかけ、意識が朦朧とする中でそこまで冷静な判断を行えると思っているほど、愚かではないですよねぇ」
「まあね、聞いて見ただけよ」
「そうですか、」
「しかし、初号機の凍結は分かったわね」
「・・・ええ、仕方ないでしょうね・・・僕の判断に起因する事なのですから・・・」
マヤは軽くにやりと笑みを浮かべた。
(しかし、初号機を失えば、ネルフもゼーレも手を内を曝け出さなくては成らないだろう、)


数日後、松代実験場、秘密地下ケージ、
完成したイヴの起動実験である。
プラグスーツに身を包んだヒカリはエントリープラグに入った。
司令室からマヤはじっとイヴを見詰めた。
ユイの作った初号機を超え、最強の機体となる筈のイヴ。
初号機もSS機関も手に入れてしまった。
超えて欲しいと言う願いで一杯になる。
「実験開始します。宜しいですね?」
「・・・・ええ、始めて」
「了解」
次々に行程が進んで行く、検出されてくるデータは、エヴァとは比較にならない。
マヤは唇をにやりと歪めた。
これならば、
更にステップが進む。
そして、最終段階へと入り、無事起動した。
司令室に歓声が湧き上る。
マヤは直ぐさまデータに目を通した。
素晴らしい。
殆どの数値が初号機を超えている。
操縦者の技能の差はあるだろう、だが、特殊なシンクロモードにする事で、操縦者の思考及び反応速度をフィードバックで上げられる。相当な負担が掛かるが、どうせ使い捨てるのだ。構いはしない。
全ての速度が3倍に成れば、この程度の差は容易く覆る。
「では、このままシュミレーションに入ります。時間は57分よ。」
57分、マギ2が弾き出した限界の時間である。
シュミレーションで、イヴは、先のシンクロ率300%超の初号機を容易く倒し、更に、量産機12機相手でも余裕であった。
時間丁度で全ての回線は切られた。
これは元々とんでもない無茶な事なのだ、今ごろ、全身の神経はかなりのダメージを受けていて、全身に激痛が走っているであろう。
2、3日は立ち上がる事も出来ない筈だ。


マヤは直ぐ日常のケージに移動した。
「では、これより、参号機の過剰シンクロ実験に入ります。」
虚ろな目をし黒いプラグスーツに身を包んだトウジが参号機に乗り込んだ。
今まで、ヒカリの目を盗んでしか出来なかった為、参号機関係は時間の短い実験やシュミレーションしか出来なかったが、これで2日以上の余裕が出来た。
「突貫で進めるわよ」
行程表には40時間以上の予定が記載されていた。


そんな実験の最中警報が鳴り響いた。
「何事!?」
「本部からです!使徒です!」
「実験は!?」
「続行しなさい」
「しかし!」
マヤは反論しようとした職員を睨みつけ黙らせた。
「続けなさい。私は直ぐに第3新東京市に飛ぶわ」


第3新東京市、ネルフ本部、
アラエルの出現に大慌てになっていた。
シンジは初号機に搭乗し、起動せずに待機。
レイが零号機で出撃となった。
レイを危険に曝すわけには行かない。
「ロンギヌスの槍の使用を提唱します」
シンジの声を聞いた発令所の面々は驚きに包まれているのが良く分かる。


発令所、
「しかし、シンジ君、槍を使用するのは余りに・・・」
日向の声はその他の者の気持ちも代弁していた。
司令塔の二人はシンジの言った事を考えていた。
「・・碇、良いのではないか?」
「そうだな、これ以上ゼーレに諂う必要もあるまい、もはや敵対している事は完全に把握しているだろう。」
「今、ここで表面に出すか?」
碇は軽くにやり笑いを浮かべた。
「ふむ、シンジ、その根拠を聞きたい」
『・・この使徒との距離は相当開いており、通常の兵器による迎撃は不可能、』
『ATフィールドがある以上届くだけで無く、相当な破壊力をこの距離でも出す必要がある。』
『しかし、ネルフ・・いや、人類の現有兵器に有効な物は存在しない。』
『最終的に導かれる結論はロンギヌスの槍しか存在しない』
皆はその言葉の正当性を認めた上で、他に有効な手段が無いか考えている筈である。
「そうだな、お前は、全使徒の性質を把握しているのだったな・・この使徒の特徴は?」
『・・・ああ、精神攻撃を武器とし、対象の精神に直接攻撃を掛ける事が出来る。』
ざわめきが聞こえる。
『射程距離は数千キロに及ぶだろう、当然あの位置から直接第3新東京市を狙う事も可能だ。』
碇は考える素振りをした、既にその結論は決まっている。
「・・・レイ、ドグマを降りて槍を使え」


セントラルドグマ、メインシャフト、
零号機が下ろされていた。
閉鎖隔壁が開放されターミナルドグマまでの道が開いた。
レイは遥か下に広がるターミナルドグマをじっと見詰める。
やがて、零号機はターミナルドグマに入った。
零号機は最深層へと進みリリスの前に立った。
レイはリリスをじっと見詰めた。
「・・リリス・・」
零号機はロンギヌスの槍に手をかけ、そして引き抜いた。


地上、に射出された零号機はロンギヌスの槍を構えた。
望遠映像に映るアラエルの大きさは、そんなに大きくは無い。
とは言え、直接の光学望遠ではこれが限界である。
『零号機投合体勢に入りました』
アラエルが精神攻撃を掛けてきた。
「くっ」
深層心理にまで干渉し自我を崩壊させようとする強力な精神攻撃である。
レイはその凄まじい苦痛に耐えながら、零号機にロンギヌスの槍を投射させた。
「あああ!!」
ロンギヌスの槍はアラエルを目指し一直線に飛んでいく。
それに気付いたのか全エネルギーをATフィールドのみに回した為、零号機とレイは精神攻撃から開放された。
「・・ふう」
レイは一息つき望遠映像を見詰めた。
アラエルの全エネルギーが集中した強靭なATフィールドすらも紙くずのように容易く貫き、アラエル自身も貫いた。
アラエルに勝利した事を確認して、レイは瞼を閉じた。

あとがき
いよいよな展開になってきましたね。
さて、これからどうなるのか、