背徳 暗黒編

◆第7話

ネルフ本部、展望室、
シンジとレイが、ジオフロントの景色を眺めていた。
「・・・綾波・・」
「何?」
「・・・今、どうなっているのか、これからどうなるのか、分からない」
弱音が出た。
「・・・」
「でも、リリスの力は使わないで欲しい」
「・・・」
「綾波が迫害される事になるのは絶対に嫌だから」
「・・碇君・・」
レイはシンジに抱き付いた。
暫く二人は黙って抱き締め合っていたが、それを中断したのは、ネルフ本部に鳴り響く警報だった。


発令所、
突然ハッキングを受けてパニックに近い状態に陥っていた。
「何事だ?」
「分かりません!とても人間業とは思えません!!」
サブモニターに次々に警告が表示された。
「な、なに!!」
「・・碇、これは・・」
「むう」
そこには、本部内にATフィールドが検出された事、即ち、使徒の侵入を示す表示があった。
「警報を止めろ」
「は、はい、警報を停止します」
警報が止んだ。
「逆探に成功・・・B棟の地下!目標は使徒です!!」
「これが厄介な理由か・・」
冬月が忌々しそうに呟いた。
「エヴァを地上に射出しろ」
「エヴァをですか?」
「初号機、零号機、弐号機の順だ」
「しかし、エヴァ無しでは、使徒を物理的に」
「その前にエヴァを汚染されたら終わりだ、急げ」
「・・・はい」
「警備システムのデータバンクに侵入!!」
「これは!!」
「マギに侵入するつもりです!!」
「目的はマギか・・・」
「IOシステムをダウンしろ!!」
・・・・
「電源が切れません!!」
「むう」
「使徒メルキオールに接触!!」
「メルキオールリプログラムされました!!」
『人工知能メルキオールより自立自爆が』
「更新速度を限界まで落としなさい!!」
発令所に入ってきたマヤが開口一番命令した。
『提訴されました』
すぐさま更新速度が限界まで落とされた。
審議に時間が掛かっている。
「使徒は、続いてバルタザールをハッキングするはず、自立自爆には、3体の合意が必要、今直ぐに対応を取れば何とか成るわ」
「具体的には?」
「逆ハックね」
『否決、否決、否決』
そして、マヤの予言通り、バルタザールへの侵入を開始した。


ダミープラント、
「いや、はや、ネルフのダミーシステムを破壊しろとの命を受けたが・・・これが、ダミーシステムの正体とはな・・」
水槽には4体のレイの素体が浮いていた。
加持は爆弾をセットして、ダミープラントを離れた。
その1分後、ダミープラントは爆破された。


加持は、通路で待ち構えていた人陰に向かって拳銃を向けた。
この区画に来れると成れば・・・
「やれやれ、手間が省けたと言うかなんと言うか・・」
人陰はシンジだった。
「どう言う意味かな?」
多少の驚きを持ちながら尋ねた。
「さあ、貴方に教える必要はないでしょう」
「この拳銃は玩具じゃない、俺の腕なら絶対に外さない、そこを退いてくれるかな?」
「おやおや、私相手に、たかが拳銃で勝負ですか」
「君達チルドレンは確かに、エヴァに乗っていれば最強だろう、だが、生身ではどうかな?」
「どうでしょうね、」
シンジは全く動じない。
「俺は、世界でも5本の指に入る特殊工作員だ。君達には勝ち目はないさ」
「おやおや、自分の実力を自慢でもしたいんですか?それとも、無意識の内の恐怖を紛らわす為に、自分自身に言い聞かせていたんですか?」
加持は拳銃を握る掌が汗でびっしょりに成っている事に気付いた。
「・・・ばかな・・・」
「後者ですか・・・貴方も所詮凡人ですね」
「くっ」
加持は拳銃を発砲した。
チルドレンを殺すわけにもいかないので、手足を狙う。
シンジはATフィールドでクッションを作り、更に収束させて、自分の指の間で丁度止まるようにして、止まった弾を指で掴んだ。
「・・・返しますよ」
シンジは弾を加持に投げ返した。
加持は驚愕に目を大きく見開いた。
一瞬チルドレンとは一体何者だと思った。しかし、同じチルドレンであるアスカの身体能力も尋常ではない、だが、それは、あくまで人間の範囲でだ。発射された弾丸を指で摘まみ止めるなど、人間業ではない。
「質問に答えてもらいたいんですが」
拳銃を加持に向けた。
「ゼーレはアスカに何をしたんですか?」
「君はアスカが邪魔だったんじゃないのか?」
「いえ、邪魔とかそう言う意味ではないですよ、状況を把握しておかないと、これからが困るんですよ」
「・・・」
「答えて頂けないんですか・・・」
・・・・
・・・・
加持の両足を撃ち抜いた。
「ぐっ!!!!」
続いて両手
「うっ!!!!」
更に同じところを計4発。
「ぐあああ!!!!」
落ち着いて弾を装填した。
「さて、話して頂けますか?どうせもう逃げられませんよ、今度の取調べは、半端なものでは済まないでしょうね、そして、その後に待っているのは、拷問による処刑です。話せば今ここで楽にしてあげますよ」
「・・俺に、そんな脅しは効かないよ・・・」
「そうですか・・・では、薬を使いますか」
シンジは注射器を取り出した。
「な、何の薬だ」
「僕が作った薬なんですが、強烈ですよ、541人の工作員に投与した結果、531人が自白してくれましたから・・・まあ、10人は死亡してしまったので残念ですが」
実際に未来で使われた結果である。
シンジは加持に近寄って、注射器を射ち込んだ。
「・・・」
直ぐに変化が現れた。
「うがあああ!!!!!」
「早く自我を手放した方が楽ですよ」
加持はうめき苦しみ、そして、暫くして鼓動が止まった。
「残念。542人は、11人目の失敗に成ったか・・・」
シンジは加持の電子手帳を取り出した。
「これにあると良いけどね」
シンジは加持を死体をそのままにしてその場を去った。


発令所、カスパー内部、
マヤが尋常ではない速さでキーボードを叩いていた。
「これで終わりね」
マヤがリターンキーを押した瞬間、逆ハックが開始され、瞬く間に使徒は自滅プログラムによって死滅した。


夜、シンジの家、
加持の電子手帳には色々な情報が入っていたが、加持がセカンドインパクト、マルドゥック、補完計画等について調べていたと言う事の関係から、その系統の情報が多く、余り役には立たない。
だが、アスカに関する情報を手に入れた。
アスカは誘拐されている。
これはダミーか?
いや、あのパスワードはオリジナルマギクラスのコンピューターで無ければ解くのは不可能に近い、マギであっても解くには時間が要るだろう。ダミーの情報を入れる必要は無い。
では、中央病院に横たわるあのアスカは一体何なのか?
「・・・調べてみる必要がありそうだな」
シンジはノートパソコンの電源を落とした。


ネルフ本部、総司令執務室、
「ダミープラントはどうなさいますか?」
「・・壊れたものは仕方ない。」
「しかし、補完計画の発動には、レイの協力が必要不可欠です。」
「・・・」
碇は考え込んだ。
「伊吹博士、何か方法は無いのか?」
「一応、成功するかどうかは分かりませんが、レイの心を壊し、元の人形に戻せれば」
「方法はあるのか?」
碇が尋ねた。
「サードを殺します」
「し、しかし、そんな事をすれば」
「我々がやったと分かるような方法ではいけません。事故死、或いは使徒戦で戦死しかないでしょう。病死もありますが難しいかと、」
「ゼーレに殺されてもいかんと言う訳か」
「はい、怒りで、暴走されては、場合によっては単独でリリスを覚醒させてしまう恐れがあります」
「正に、破壊の女神になるな・・」
「方法は任せる。」
「はい」


翌日、松代実験場、応接室、
ヒカリが部屋に通された。
「ネルフ本部技術部長、伊吹マヤ2佐よ」
マヤはヒカリに名刺を差し出した。
「あ、初めまして」
「コーヒーでもどうぞ?」
「あ、はい」
ヒカリはコーヒーに口をつけた。
苦かったのか少し顔を顰めた。
「早速だけど・・・」
マヤは声のトーンを落とした。
「鈴原は?」
「あまり、会う事はお奨め出来ないのだけど・・・」
「お願いします!」
「・・・分かったわ」


二人は地下室にやってきた。
ガラスの向こうでベッドに拘束されたトウジが苦しんでいる。
「鈴原!!」
「こ、これは一体どう言う事なんですか!!?」
ヒカリは血相を変えている。
トウジの周りに集まって来た医師が注射器を射ち込んだ。
「・・・鈴原君はね、ゼーレと呼ばれる組織によって、ああいう体にされてしまったの」
「・・・ゼーレ?」
投薬によってトウジは落ち着いたようだ。
「そう、世界を裏から支配する組織、ゼーレ・・・鈴原君は、ゼーレによって誘拐されてしまったの・・・私達が助け出した時にはもう既に・・・」
マヤは涙を零した。
「・・・」
「ごめんなさい・・・私達が不甲斐無いばかりに・・・」
「・・・それで、ゼーレは?」
ヒカリの声はかなりの怒気を含んでいた。
「・・世界を支配する為にエヴァを造っているわ」
「・・・」
「鈴原君を浚ったのもその為・・・」
「・・・」
「・・・ゼーレに復讐したい?」
「勿論です」
「・・・貴女にもチルドレンの適正があることが確認されているわ・・・もしも・・・貴女がゼーレと戦うと言うのならば、可能ではあるけれど・・・」
「お願いします!」
「・・・でも、本当に良いの?貴女達子供達がそんな大人同士の醜い争いに飛びこまなくても」
「鈴原をこんなにした奴等は許せないんです!!」
ヒカリはマヤの言葉を遮って叫んだ
「・・・後悔しない?」
ヒカリは力強く頷いた。
マヤは表情には出さずにやりと心の中だけで笑った。


地下のプラントでヒカリが乗る事に成るエヴァの後継機に当たるイヴが培養されていた。
マヤが基礎設計からやり直し、ユイの理論を組み込んで作られるこの機体の性能は、弐号機を上回り、初号機に次ぐ。
基礎設計からヒカリ専用に設計され、SS機関も搭載し、実質最強の機体となる。
ゼーレ戦での切り札。だが、これだけでは足るまい。
日本政府から、対ゼーレの共同作戦を申し込まれた。
現在、その真意や裏を調査中である。


ネルフ中央病院、特別病室、
アスカはベッドの上に横たわっている。
眠っているようにしか思えない。
データ上もそうである。
全くおかしな点は無い。
シンジはアスカに手を触れ、深く深く違いが無いか調べた。
しかし、それは感じられなかった。
「・・・碇君」
戸口にレイが立っていた。
「綾波か・・・」
「アスカの抜け殻に何の用?」
「え!?」
シンジは驚き、そして、その意味を問おうとした瞬間、警報が鳴り響いた。
「レリエルか!くっ、急ごう!」


エレベータ―に乗りながら心で会話をする。
本来ならば、ここで、アスカの事を聞いておきたいが、相手が相手である。
そちらの方が重要である。
(レリエル相手に有効な手段は少ない)
レイは頷いた。
(現在のネルフが抱える支援兵器ではどの組み合わせでも殲滅は不可能に限りなく近い、どれだけ広いか分からない虚数空間にあるコアを叩ける可能性は殆ど無い)
(私が中に入れば良いわ、リリスの前ではレリエルは所詮子供、存在レベルが違うわ)
(それは駄目だ)
(・・・)
(・・・)
(・・ではどうするの?)
(・・・他力本願に成るけれど、前回と同様にするつもりなんだけど・・・)
(・・・同じになるとは限らないわ)
(分かっている。母さんに賭けるしかない。)
(でも・・・)
(他に方法はあるかい?)
レイは沈黙した。
(・・・信じているの?)
シンジは目を大きく開いた。
(・・・・・・・・どうだろう・・僕は、母さんが窮地を救ってくれると信じているのだろうか・・・・)
レイは考え込むシンジの横顔をじっと見詰めた。


そして、出撃した。
『シンジ君、何か策はあるかい?』
日向が尋ねた。
勿論あるが言うわけには・・・どうだろう?
「・・・そうですね、手遅れですね」
『『『『『『は?』』』』』』
「あったんですがね、誰かさんが要求を受け入れてくれなかったおかげで、間に合わなくなってしまいましたよ」
『・・・シンジ君、使徒の情報を教えて、マギに対策を考えさせるわ』
「・・・いえ、説明が難し過ぎます。もう一つの作戦を実行します。」
『何をするつもり?』
「虎穴に入らずんば、虎子を得ず」
シンジは回線を切り、レリエルの陰に近寄った。
もし作戦指揮がミサトのままならば、外部操作で無理やり繋いで怒号を放ち集中を切るだろう。
まあ、レリエル相手ならそれでも良いが、日向はそんな事はしない。
勇気が無いとも言えるかもしれないが、
初号機はパレットを軽く一発発射した。
影は当然消えた。
発令所ではパニックに近い状況だろう。
そして、
『下だ!!』
日向の叫び声が響いた。
的確な判断だ。
初号機は足首まで飲み込まれていた。
「じゃ、行って来ます」
シンジは軽い笑みを浮かべて敬礼をした。
モニターに映る発令所の面々は完全に固まっている。
初号機は完全に飲みこまれた。


虚数空間、
やはりコアの近くではないようだ。
「ふむ・・・内部電源の残存時間は・・・げ!!36時間!!??」
技術向上によって内部電源の容量が大きくなっているようだ。
「・・・マジかよ・・・・」
シンジの顔には思い切り縦線が入っていた。


ネルフ本部、総司令執務室、
「伊吹博士、君の見解は?」
「はい、サードは何らかの策があると言っていました。あの行動も間違い無く敵生態の特徴を把握していたからの行動です。とすれば、恐らくは戻ってくるでしょう」
「しかし、エヴァの内部電源では節電モードでも精々20分やそこらだろう」
「27分です。生命維持モードならば40時間近くに達しますが、虚数空間とこの空間の時間の流れが同じとは限りません」
「うむ・・・確かに」
「どうする?」
「彼を待つしかないでしょう。」
「・・・」
「・・まさか、彼女に頼るつもりなのか?」
冬月の言葉に碇とマヤは驚いた。
「・・可能性は否定できない・・・」


待機室、
「・・碇君・・」
レイはモニターに映るレリエルを見詰めた。


その後、1日以上全く動きの無い時間が流れた。


虚数空間、
「・・・お腹空いた・・・」
死にはしないが、これは辛い。
「・・・寝るしかないのか・・・」
シンジは大きな溜め息をついてから目を閉じた。
どれだけ経ったのか、LCLの冷たさで目を覚ました。
「・・・電源も後僅かか・・・」
やがて、シンジは意識を失った。


第3新東京市、
突然地割れが起き、次々に使徒が切り刻まれた。
上空の影が真っ黒になり、次の瞬間内側から血のような赤い液体が噴出した。
そして、影を切り裂き、影の中から初号機が姿を表した。
初号機は咆哮を上げ、大気を振動させ、ビルを揺らし、地面に着地した。
そして、使徒は消え去った。
辺り一面赤い血のような液体で塗れていた。
赤く染まった初号機はまさに悪魔か鬼のように見えた。


ネルフ本部総司令執務室、
「・・・やはり彼女なのか?それとも初号機その者か・・・」
「・・・うむ・・・」
「・・まあ、委員会へは初号機として報告するがな」
「当然だ」
「・・・・」


ネルフ中央病院、特別病室、
レイはシンジに付き添っている。
「・・碇君・・」
レイはシンジの腕を取り自分の頬に擦り付けた。
「・・碇君・・」
その後、シンジの手を握ったまま眠りに落ちて行った。
不安だったのだろう、恐らくは殆ど寝ていないはずだ。
そして、今、安心して安らかな眠りについた。


総司令執務室、
「監視記録ですが、レイが妙な言葉を発していました。」
「・・セカンドが抜け殻か・・・どう言う意味だ?」
「分かりかねます。マギも判断を保留しています。」
「尋問は?」
「今レイとの接触を起こすと言う事は後々リスクを背負う可能性が大きく、その情報がそれに釣り合う物なのかどうか、判断できません」
「うむ」
「今暫くは様子を見よう。」


夜、松代、実験場、ケージ、
大きなカプセルが運ばれて来た。
人がゆうに入れそうな大きさである。
「開けて」
「はい」
マヤの指示でカプセルの外蓋が外され、ガラス越しにナツが眠っているのが見えた。
カプセルと参号機のコアが様々なコードで繋がれた。
「宜しいですか?」
「ええ、始めて」
職員が機器を操作するとカプセルが光り始め、ナツは目を覚ました。
「な、なにこれ!」
「いや!いやああああ!!!」
「たすけてええええええええええ!!!!!」
ひときわ大きな悲鳴を上げた後、ナツは魂が抜け、生ける屍となった。
「・・・」
マヤはナツの抜け殻をじっと見詰めている。
「抜け殻と成った体に何か?」
「・・・そうだわ、それよ!」
「はい?」

あとがき
・・・何か話が・・・
マヤがどんどん悪人に・・・
シンジとレイは全体的に追い詰められてくるし・・・
物凄い事に成っていますね(汗)
現在、正規連載に昇格を検討中です。
それでは、