背徳 逆行編

◆第8話

シンジの家、リビング、
アスカが来ていた。
レイは紅茶をティーカップに注いだ。
「ん、頂きます」
アスカはカップに口をつけた。
「美味しいわね」
「綾波特製のブレンド、僕も気に入ってるんだ」
レイは微笑みを浮かべた。
アスカはやはり穏やかな目でそんな二人を見ている。
(なんだと思う?)
(・・分からない・・でも、嫌じゃない・・)
(・・・そうだね・・)
二人とも詳細は分からないが、アスカを味方に分類していた。


夜、シンジの部屋、
シンジは真剣な表情でレイとゼルエルに関して話をしていた。
「ゼルエルはこれまでの使徒とは比べ物にならないくらい強い」
レイは無言で頷いた。
「・・通常のシンクロモードでは勝てないかもしれない・・」
シンジの言葉にレイは驚いたような表情を返した。
「・・場合によっては、シンクロの暴走をしようとも思う」
「でも・・」
「・・それに、SS機関の事も」
レイは俯いた。
量産型エヴァは、SS機関を搭載している。
「・・私のSS機関を使えば、」
「・・それは駄目だよ・・綾波は、リリンなんだから・・」
レイはシンジの言葉を嬉しく思った反面、これからの事で気が重くなった。
「・・・それにSS機関を取りこまないと、サルベージが・・・」


数日後、日本南海、
ゼルエルが虚空から姿を表した。


ネルフ本部、待機室、
シンジは一人で考えていた。
シンジはノートパソコンに必要なデータを打ちこみ、コードのチェックを行った。
「これ位の保険はいるかな?」
言葉は軽かったが、表情はかなり真剣だった。
当初、予想した以上に変化が大きい。
そして、自分達が使徒戦を上手く戦い過ぎている為に、ゼーレの資金力が本来よりも大きい。
日本を除いた各国への影響力も増している。
エヴァや使徒は、坑ATフィールド兵器によって、無敵ではなくなった。
だが、その戦力が、通常兵器とはかけ離れて大きいと言う事実は変わらない。
そして、エヴァに掛かるはずの費用自身も、本来のそれよりは低くなっている。
マヤの話では量産化計画は頗る順調らしい。
初号機を主力とする必要性は低下している。
ゼーレはサルベージをさせようとするだろう。
だが、碇にとっては計画の直前まで維持したいはずだ。
場合によっては、サルベージの開始がかなり遅れるかもしれない。
「・・綾波に余り心配をかけないような展開になって欲しいな・・・」


別の待機室、
レイとアスカが並んで座っていた。
「・・・ねぇ、あいつのどこが良いわけ?」
アスカが唐突に尋ねた。
レイはまるで1+1はいくつかと聞かれたかのような顔をした。
「・・・ねぇ」
「・・全て・・碇君は私の全て・・」
レイは軽く目を閉じ、手を胸に当てて答えた。
「・・・ふ〜ん・・・羨ましいわね、そう言うの・・・」
「・・・貴女はどうなの?」
「え?私?」
意外だったのかアスカは少し戸惑ったようだ。
「・・アタシはどうなのかな?・・・自分でも良く分からないわね・・」
「・・・そう・・」
アスカの言葉は、半分は嘘、でも半分は本当、と言った感じだったが、レイは流した。
『チルドレンは搭乗を開始して下さい』
二人は立ち上がりケージに向かった。
アスカの方もこれから来る力の天使の名を冠する使徒の能力が半端ではない事を知っているのか、かなり真剣な表情である。


ネルフ本部発令所、
モニターには、ゼルエルに対して猛攻を掛ける支援兵器が映っていた。
「この程度の火力では埒があかん!!伊吹博士!!指向性NN兵器は!?」
加賀が叫んでいた。
「・・3発だけ、なら、今すぐ用意できます」
マヤはモニターを見ながら答えた。
「直ぐに用意してください!!第4から第7部隊はDラインまで後退!!」
「エヴァ、各機搭乗完了しました」
「情報収集急げ!!」
「了解!」
「第3支援部隊は!!?」
「現在後退中です!」
「指向性NNミサイル、用意できました!」
「良し、強羅絶対防衛線の直前で使用する!!全軍強羅絶対防衛線まで後退!!」
「敵ビーム攻撃開始!!」
「電磁バリアー貫通されました!!」
「予想された事態だうろたえるな!!」
加賀は、思想にかなり重大な問題があるが、作戦指揮は凄いようだ。
「目標、強羅絶対防衛線まで200!」


強羅絶対防衛線、
ゼルエルが接近した瞬間、3発の指向性NNミサイルがゼルエルに着弾し、ATフィールドを貫きボディを焼いたが、貫きは出来なかったようだ。
そして、坑ATフィールド兵器の展開と同時に総攻撃が掛けられた。
凄まじい早さで情報が集められ分析されていく。
射出口が開き、3体のエヴァが宙に飛び出した。
攻撃が支援攻撃に切り替わった。


零号機、
弐号機がスマッシュホークで、初号機がプログソードでゼルエルを攻撃し、零号機がポジトロンライフルで狙撃した。
無数の支援兵器の中に存在する坑ATフィールド兵器によってそのATフィールドは弱まっており、簡単に中和し、打撃を与えた。
レイがゼルエルが口からビームを発射しようとしている事に気付き、零号機が陽電子を、その口の中に撃ち込んだ。
瞬間、凄まじい爆発が起こり、ゼルエルの顔の部分が消し飛んだが直ぐに再生が始まった。
支援兵器が一斉攻撃を掛け、ゼルエルの動きが止まった。
弐号機は跳躍しスマッシュホークを一気に振り下ろした。
しかし、ゼルエルはその触手で、スマッシュホークを絡め取り、弐号機の攻撃を封じた。
そして、近距離でビームを放った。
弐号機はとっさにビームを避け、ビームは兵装ビルに直撃し兵装ビルは蒸発した。
(流石に強い)
レイは既に再生を終了し攻撃に移ろうとしているゼルエルを見ながらそう思った。


初号機、
ゼルエルが初号機目掛けて触手を伸ばしてきた。
初号機はプログソードで凌いだ。
「・・強い・・」
実際戦ってみたが、予想以上に強い。
前回は、自分自信も暴走していた。
計測データは残ってはいなかったが、恐らくは、既に100、いや、200を超えていたのかも知れない。
初号機は間合いの中に入り斬撃を加えたが、激しい火花を散らしゼルエルを弾くに留まった。
両方の触手が戦場を縦横無尽に駆け巡り、支援兵器を破壊していく。
弐号機も初号機も、攻撃に全力は注げない。
もし零号機と支援兵器の支援攻撃が無ければ、或いは、ミサトの指揮による無秩序な支援攻撃であれば、攻撃に移れるのかどうかすら危うい。
弐号機がスマッシュホークを全体重をかけて振り下ろした。
肩口に突き刺さったが、スマッシュホークが折れてしまった。
『な、何で出来てるのよ〜〜!』
弐号機は瞬時に間合いを取った。
次の瞬間には先ほどまで弐号機がいた直線上にビームが放たれていた。
初号機に目掛けて伸びてきた触手を躱したが、その影にもう片方の触手が隠れていた。
「なっ!!」
ノーガードの初号機に触手が迫った。
次の瞬間、初号機に伸びていた触手に向けて凄まじい集中砲火が掛けられ触手の動きが変わり、初号機をそれた。
発令所ではもう一つの触手の動きも当然見えていた筈である。
もし、これがミサトだったらと思うとぞっとする。
最初の方の触手はそのまま弐号機を目指していたが、此方は零号機のポジトロンライフルによって叩き落とされた。
いつアンビリカルケーブルが切断されていたのかすら分からないが、内部電源は刻一刻と減っている。
(・・・仕方ないな・・行く!)
シンジは持ちこんだノートパソコンを中枢機関に接続し、意識を集中させ過剰シンクロモードに入り更にシンクロを暴走させた。
シンクロ率が測定限界を振りきり、シンジはLCLに還元した。
初号機は凄まじい咆哮を上げ、大気を振動させ、大地を揺るがした。


ネルフ本部、発令所、
「な、何が起こったんだ!!」
「初号機の暴走です!!」
「信じられません!!シンクロ率が400%を!!」
「落ち着け!!目の前で起きている事が事実だ!!事実を先ず受け止め、分析しろ!!」
「「「「「了解!」」」」」
初号機は瞬時に音速を越え衝撃波を撒き散らしながらゼルエルに鉄拳を食らわせ、地面に叩きつけ、頭部を破壊し、そして、食べ始めた。
ゼルエルは抵抗しようとするが、圧倒的力の差の前にそれは不可能だった。
「・・・マジかよ・・・」
「だから現実を受け止めろと言っている!!」
マヤが吐いていた。
「・・伊吹博士・・」
「すみま、うぷっ」


零号機、
「・・・碇君・・・」
レイは心配そうな目で初号機をじっと見詰めた。
初号機は満足したのか、再び咆哮を上げ、拘束具を破壊し、そして、活動を停止した。


弐号機、
アスカは或いはある程度予測がついていたのか、大して驚きもせずに、只、初号機をじっと見詰め続けていた。


夜、総司令執務室、
碇が声を上げて笑っていた。
初号機の覚醒にシンジの処理、まさか同時に訪れるとは思わなかった。
マギは、残る、3体の使徒に関する予測を立てた。
それによる限り、現状でも十分相手に出来る。
更には、マヤの新開発した兵器は、開発中の物も含め、ゼーレ戦で凄まじい活躍をするであろう。
そして、加賀の存在、本当にシンジからのプレゼントに成った。
日本政府、戦略自衛隊を取り込み、更に戦力が充実、そして、使徒、そしてエヴァに利く装備を持っているのは、戦自とネルフのみ、ゼーレは、量産機を9機か10機ほど投入してくるだろう。一方此方は、弐号機、そして、参号機のみ、だが、初号機、零号機を除けば、弐号機の戦力は他の機体とは一線を画す。参号機が2機を相手に出来れば、支援兵器と併用すれば、量産型エヴァを撃破する事も十分可能である。その上、加賀は、十分に役に立つであろう戦術を立ててくれる筈であるし、対人戦こそ彼等の力が前面に出される。
後は、念の為に、ロンギヌスの槍を処分しておくくらいだろう、第拾伍使徒、アラエル、鳥を司る天使、槍を持って殲滅し、そのドサクサに、宇宙へ捨てると言う手が使えそうだ。
計画の成功は約束された。
使徒にも、老人にも、そしてシンジにも勝ったのである。
次はレイの処分である。
もはや使徒戦が終了すれば別に表舞台にいる必要は無い、コアと魂が回収できる形であれば、どんな形で死んでもらっても良い。


翌日、ネルフ本部ケージ、司令室、
モニターにはプラグスーツしか映っていなかった。
「・・・11年前のデータと同じね・・・」
マヤは、サルベージ計画を提唱する為に総司令執務室に向かった。


総司令執務室、
「サルベージをするべきです。」
マヤが通告に反論していた。
「・・委員会からの通告だ、初号機は凍結、封印する」
碇は委員会からの命令とは異なることを喋っている。
「しかし!」
「これは、決定事項だ。」
「・・・分かりました。」
マヤは肩を振るわせながら一礼して退室した。


待機室、
初号機の凍結は当然だったが、サルベージも行わないと聞いたレイとアスカは驚愕の表情を浮かべた。
「何故?」
「・・委員会からの命令・・私の権限ではどうにもならないわ・・・」
マヤは俯きながら答えた。
「なんで?利用できるうちは利用する。要らなくなったらさっさと消すってぇの!?」
アスカがマヤに食って掛かった。
「・・・マヤさんを攻めてどうするの?」
「う・・・」
「・・ごめんなさい・・」
マヤの目には涙が浮かんでいる。
「いえ・・いいわ・・・」
「・・赦さない・・」
レイの瞳はいつも以上に赤く染まっていた。


ゼーレ、
「生まれいずる筈の無いSS機関」
「今や、エヴァ初号機は、神に等しい存在」
「人は神になってはいかん」
「神を作り出してはいかん」
「ましてや、あの男の息子をなどと」
「碇の息子」
「抹殺せねばならん。だが、初号機の中に等置く事は出来ん」
「エヴァシリーズの配備は?」
「既に14号機の建造に着手した。」
「後残る使徒は、」
「アラエル」
「アルミサエル」
「そして、タブリス」
「約束の時は近い」
「だが、その前に、碇を消さねばならん」
「左様、あの男は、協力者であって、決して盟友では無い」
「ネルフと碇、我等の前に立ちはだかる」
「しかし、伊吹博士の能力を侮るべきではないぞ」
「赤木博士を遥かに超える能力」
「あの、碇ユイ博士に匹敵するとも言える」
「こちらに付かぬ様なら消すしかあるまい」
「不安要素は排除すべきだ」


数日後、シンジの家、
レイとマヤが、これからの事について話をしていた。
「・・ゼーレが動き出すのは、タブリスの後ね」
「いえ、タブリスは、・・・伏せて!」
「え?」
全てが光に包まれた。


ネルフ本部、発令所、
警報が鳴り響いていた。
「何が起こった!?」
「わかりま!でました!、これは!!!」
メインモニターには、第3新東京市の約7分の1が消し飛びクレーターになっている様子が映し出された。
「馬鹿な!!」
「NN兵器か・・・犯人は・・・」
「直ぐに被害の把握と負傷者の救出をしろ!!戦自と自衛隊にも支援を要請!!」
「・・碇、あそこは、シンジ君の家があるところだな・・」
「くっ、老人どもめ・・レイと伊吹博士の所在を確認しろ!」
「はい!」
「・・大変です!!両名とも爆心地付近にいました!!」
「「「「「なんだとぉ!!」」」」」
警報が鳴った。
「何事だ!?」
「衛星軌道上にATフィールドを確認!!使徒です!!」
発令所の面々が青ざめた。
「此方の戦力は!?」
「弐号機と、松代の参号機だけです!」

あとがき
はてさて、これからどうなるのでしょうか?
もはや、ネルフとゼーレの決裂は絶対的なものになったようです。
レイとマヤは果たして無事なのか?