背徳 逆行編

◆第7話

ネルフ本部、伊吹研究室、
マヤは、碇から渡された資料と、シンジから回されたオリジナルと言う事に成っている資料を元にレリエル用の兵器を作っていた。
その際に、シンジから渡されたレポートやファイルの中にはそれに役立つものが沢山あった。
マヤはユイへの尊敬を強めていった。
実を言えば、半分以上はマヤの作品なのだが・・・


第3新東京市立第壱中学校2−A、
ヒカリが沈んでいた。
物凄く、兎に角凄く、
原因は、出席簿を見ればわかる。
鈴原トウジの名が消えていた。転校したのである。
いっしょに相田ケンスケも消えていたが、こっちはどうでも良い。
シンジは考え込んでいた。
マヤから、トウジとケンスケは、対ゼーレ用に、場合によっては初号機用に松代にキープされている参号機と四号機の操縦者になった事を聞いた。
参号機のコアは、死亡しているトウジの母親が入っている。
妹は、ネルフの中央病院で治療中。
日常生活には障害が出ない程度には回復するそうだ。
碇の暴走が少し行き過ぎている。
冬月の安全装置を振り切る可能性が高い。
ゼーレの動きが読めない。
自分が考えていた以上に皆優秀だったと言う事か、侮り過ぎていたのかもしれない。
今、抱えている問題は、ユイをサルベージすれば全て一発だが、第14使徒ゼルエルと、対ゼーレで苦戦、いや、劣勢が決定している。
どちらもレイが本気で相手をすれば、実際子供の手をひねるのと同じ(流石に赤子ではないが)だが、それは、レイの正体を曝す事になる。
世界の脅威として見られる。
それは、絶対に避けなければ行けない事であった。
その為に、多くの犠牲を払ったのだから。
レイは、シンジの思考を邪魔しないように横で静かに座って本を読んでいた。
一人でこうして本を読むのは久しぶりである事に気付いた。
(・・そう・・・読みたいから読んでいたわけではなかったのね・・・)
レイはシンジに視線を移した。


数日後、レリエルが襲来した。
先ず、支援兵器を用いて作戦ポイントに誘導した。
ビルが影に飲み込まれて行く。
市内から数本の無数のアンテナが生えた建物がせり出し、お互いを光が結んだ。


ネルフ本部、第2発令所、
マヤが司令塔に上り指揮をしていた。
技術職員達が無数に増設された端末を操作している。
「LEVEL1」
サブモニターに表示される数字やグラフが跳ね上がり、メインモニターに映るお互いを結ぶ光が縦に並び強力に成った。
出力がどんどん上がっていく。
今回注ぎ込まれるエネルギーはヤシマ作戦の約半分、電力の一般供給はストップしている。
「LEVEL2」
光が太くなりお互いが繋がり帯状になった。
使徒は危険だと判断したのか移動しようとしたが、激しい火花が散り使徒は光の外に出られなかった。
(行けそうね)
使徒は必死に抜け出せる場所を探しているがそれは無い、完全に封じ込めた。
「LEVEL3」
光が更に輝きを増し、使徒が接触している部分が歪んだ。
ATフィールドに干渉できるまでのエネルギーに成ってきたのである。
使徒はどうする事も出来ず、ほぼ中央に留まる事になった。
「LEVEL4」
光がお互いに引き合い、じりじりと収束を始めた。
使徒の影の模様が激しく変わっている。
エネルギー供給にはまだ余裕がある。
「LEVEL5」
遂に使徒を完全に捕獲した。
レリエルはその大きさを縮め必死でATフィールドを維持し様としている。
「第2段準備して」
町の主要道路を、位相破壊兵器が走行して来て、巨大なパラボナを四方八方から使徒に向けた。
「攻撃開始」
マヤの指示と同時にパラボナから特殊な波動が照射され、レリエルのATフィールドの位相が反転していく。
そして、臨界を超え自らマイクロブラックホールとなり、暫くして消滅した。
パターンブルー消滅と同時に職員は一斉に歓声を上げ、マヤを褒め称えた。


ネルフ本部、総司令執務室、
「伊吹博士、功績を評価し、1佐に昇格する。」
「有り難う御座います」
マヤは軽く頭を下げた。
「それと、これを頼む」
碇はマヤに人類補完計画の中間報告書を渡した。
マヤは報告書に目を通した。
「・・・完成された存在、不幸が無い世界ですか・・・」
「ああ、その実現の為に協力してもらいたい」
マヤは迷う振りをした。
「・・分かりました。私に、やらせてください」
「ああ、」
マヤが退室した後、碇は笑った。
声を上げて笑った。
計画は凄まじく順調である。
後は、シンジをいつ処分するか、そのタイミングさえ間違えなければ、計画は成功する。


翌週、季節はずれ?の台風が日本列島を襲った。


シンジの家、
二人は紅茶を飲んでいた。
照明が消え、真っ暗になった。
「あ・・・停電」
窓の外が光った。
そして、凄まじい音が響いた。
レイはびくっと身体を振るわせた。
レイはシンジの横に移動し、シンジの腕にしがみ付いた。
再び外が光り、雷鳴が響いた。
再びレイの身体が震えた。
漸くシンジはレイが怖がっている事に気付いた。
(綾波、雷怖いんだ)
シンジは、冷静沈着なレイが雷を怖がっていると言う事がどこか面白く、笑みを浮かべてレイの頭を撫でた。
「大丈夫だよ」
再び外が光り、レイはシンジにぎゅっと抱き付いた。
シンジは優しくレイを抱き締めた。
「心配要らないよ」
レイはシンジの腕の中でぎこちなく頷いた。


第3新東京市スカイツインタワー屋上、
アスカが、傘もささずに嵐の中立っていた。
稲妻がビルの避雷針に落ちた。
閃光、火花、衝撃、雷鳴、轟音、アスカは殆ど反応せずに上を、いや、雲を睨みつけていた。
そして、アスカの唇は、霞を司る天使の名を紡いだ。


松代、実験場、
此方でも落雷が相次いでいた。
「凄いわね・・」
マヤが外を眺めながら呟いた。
「ええ、そうですね」
余りの豪雨で、遠くが何も見えない。
凄まじい光、衝撃、轟音、それらが同時に襲った。
「きゃっ!」
照明が全て消えた。
「・・・ここに落ちたわね・・・」
完全に停電している。


被害は、ケージ上部の天井の破損だった。
幸いエヴァには何の問題も無かった。


2日後、待機室、
技術職員がケンスケに説明をしていた。
「君の最近の成績向上は目覚ましく、近いうちに戦場に出れるかも知れないよ」
「本当でありますか!?」
ケンスケは目を輝かせて問うた。
「あ、ああ、だから頑張ってくれよ」
「はいっ!相田3尉、全力を尽くすであります!」
ケンスケは完璧に敬礼を決めて伍号機に乗りこんだ。


司令室、
「準備完了です」
「では、実験を始めて」
マヤの指示で実験が始まった。
「しかし、相田君は凄い子供ですね」
技術職員が呟いた。
「凄いって?」
マヤが尋ねた。
「いえ、早く戦場に出たいと、加賀2佐みたいな子だなと思いまして」
「・・そうね・・」
「他のチルドレンも、あんな子ばかりだと良いんですけどね」
マヤは無言でモニターを見詰めた。
「自らの命を盾に人類を守る、かっこ良いじゃないですか、男ならそう言う強い意思を持った人に憧れますよ」
マヤは少しくすっと笑った。
しかし、暫くして起動した瞬間、爆発が起こった。


ネルフ本部、ケージ、
「松代で爆発事故発生・・・バルディエルか・・・マヤさん無事だと良いけど」
「・・・どこから侵入を?」
「あの、台風、気を付けるべきだったのかもしれない・・」


ウィングキャリアー、弐号機、
アスカは目を閉じ、何かを考えているようだ。
「・・・ケンスケ・・・」
アスカはこれから死へと向かう者の名を呟いた。


伍号機、エントリープラグ、
ケンスケは訳が分からず騒いでいた。
「な、なんだよ、これ、勝手に動いてるぞ、おい!どうなってるんだよ!!」
『ネルフ本部より、各軍隊に通告、エヴァンゲリオン伍号機は、第拾参使徒に乗っ取られた。』
『よって、これを、目標、第拾参使徒とし、ネルフが殲滅に当たる。』
「なんだってえええええ!!!!!」
暫くして、ウイングキャリアーが見えてきた。
『エヴァ3機配置完了、戦闘開始まで10分』
「助けてくれぇ!!!」
『・・あれ、誰が乗ってんの?』
アスカの声である。
「惣流!!」
『ん?フィフスチルドレン相田ケンスケ、志願兵だな。問題無い。』
「助けてくれ!!」
『何が問題無いの?』
『決まっているだろうが、エントリープラグを避けながら戦闘するなどと言う事は勝率を著しく下げる。彼は、志願兵だ。国防の為に死ねるなら本望だ』
「なんだとおおおお!!!!」
『了解』
「惣流ううう!!」
『そうですね、彼は、エヴァに乗りたがっていましたし、国防の為に命を捨てる覚悟などその前から出来ていたのでしょう。分かりました。全力で行きます』
「碇ぃいいい!!!!!」
『・・・攻撃します・・・』
「嫌だ!!!!助けてくれぇえええ!!!!」
ケンスケは激しく壁を叩くが何の効果も無い。
零号機がポジトロンスナイパーライフルで伍号機を狙っている。
ロックされた事がモニターに表示された。
「いやだああああああ!!!!」
青白い光が見えたとほぼ同時に腹部に激痛を感じ、その直後に身体を弾け飛ばされるような激痛が全身を襲った。
「ぎいゃああああああああ!!!!!!!!!」


初号機、
腹部を消滅させられた伍号機からは粘液状の物が出てきて、直ぐに伍号機を再生した。
「ちっ、やはり完全消滅しかないか・・」
(タイムコードもずれて来たし、不安材料は極力取り除くべきだな)
『目標への接近は危険だ、遠距離攻撃で倒すように』
「了解」
初号機はレールガンを伍号機に放った。
加速された弾が伍号機を貫いた。
零号機は円環式陽電子砲を放った。
弐号機は、エヴァ専用ロケットランチャーをぶっ放している。


ネルフ本部発令所、
冷静に分析を続ける者ケンスケに感動を覚える者、司令塔で密談をしている者達の中、碧南は戸惑っていた。
本当に14歳の少年が国防の為に命を捨てる等と言った覚悟でエヴァに乗っているであろうか?
只、ロボットを動かす事に憧れるだけの普通の子供ではなかったのか?
それは正にその通りであった。
だが、今、この場でそれを言う事は出来なかった。
「碧南2尉!!相田3尉が国家の為にその命を捧げ!!殉職しようとしているにも関わらず、ぼうっとするとは何事だああああ!!!!」
「す、済みません」
碧南は分析を再開した。
「武士道とは死ぬ事をみつけたり!!彼こそ勇敢なる本物の戦士だ!!」
加賀はケンスケの殉職に勝手に感動し感涙を零した。
・・・・やはり、どこか猛烈に間違っている。
破壊速度が再生速度を上回り、伍号機の質量が減少し始めた。
「質量減少中です」
モニターには破壊されつつある伍号機が映し出されている。
もし、一方向回線では無く、双方向回線であったとすれば、どうだっただろうか?
加賀は非国民め!!!と罵ったかもしれない。
暫くして、伍号機は沈黙した。
『パターンブルー消滅を確認』
ケンスケの脳波や心電図などが今止まった。
『パイロットの死亡も確認』


松代、実験場付属病院、
マヤは目を覚ました。
暫くして、加賀が報告にやって来た。
「と、言う事です。」
マヤは、ケンスケのことを考えた。
「彼は、この日本を護る為に立派に殉職しました。」
もし、プラグ内の映像が流されていたらどうだろうか、
「彼の命を無駄にしない為にも我々は戦いつづけこの国を護らなければ成りません」
加賀は感激なのか涙を零しながらマヤに力説し続けた。
興味本位の行動が身を滅ぼす、しかし、与えられた罰は些か大き過ぎる苦痛と死だった。
哀れにも、マヤにも、ケンスケの本当の心は分かってもらえなかった。
勿論、分かっていたならば乗せるような事はしなかっただろが、


数日後、ネルフ本部、伊吹研究室、
マヤは、写真立てを手に取った。
リツコとマヤが写る写真である。
「・・・先輩・・・」
リツコは被害者である。
だが、加害者でもある。
そして、その罪は余りにも大き過ぎる。
「・・・さようなら・・・」
マヤは写真立てを伏せた。
マヤの瞳はどこか決意に満ちていた。
報告書を手に取ったマヤは、総司令執務室に向かった。


ネルフ本部、作戦部第1会議室、
ケンスケの葬儀が行われていた。
勿論遺体は無いが、
「相田ケンスケ特務1尉に敬礼!」
ケンスケの遺影に対して作戦部の面々が一斉に敬礼をした。
・・・
加賀がマイクを取った。
「諸君、相田1尉は、自身の命を捨て、この日本を守った」
加賀の演説が始まり、ある者は熱心に聞き涙を流し、又ある者は完全に聞き流し寝ていた。


食堂、
3人が食事を取っていた。
シンジもレイもケンスケが死んだにも関わらず、何も感じていないように思える。
「ところでさ・・・」
「ん?何?」
「相田が死んだけど良いの?」
「ん?葬儀なら加賀さんが大張り切りだから良いよ」
「いや、そう言う意味じゃなくて」
「ん?何か?別に友人でも戦友でもないし、元クラスメイトが死んだくらいでどうかしたわけ?」
シンジはもはやケンスケなどどうなろうが知った事ではない15年も前に見捨てていた。
愚かな子供の友人など必要としない。
冷徹なシンジにアスカは顔を顰めた。
「彼は、自らの興味本位で、己の欲望を満たす為だけにエヴァに乗っていた。無数の命を犠牲にして成り立っている事から目をそらし、これは彼に与えられた罰ね」
レイは正確にケンスケを分析していた。
「・・・そう・・・」
アスカは小さく呟きジオフロントの景色に視線を移した。


松代、実験場、会議室、
此方でもケンスケの葬儀が行われていた。
トウジは、特別のジャージを着て現れたのだが、誰も変化に気付かない。
(ケンスケ・・・お前、ホンマに、こないになってよかったんか?)
(いっつも、はよ戦場にでたいゆうとったけんど、ホンマにそれでよかったんか?)
彼の親友であるトウジでさえも、ケンスケの本当の内面は把握し切れていなかった。
トウジは焼香を済ませた。
暫くしてヒカリがやって来た。
シンジ達に関するカードとして隠していたが、もはやその意味はなさなくなった為に色々と情報が広まったのだ。
「・・委員長・・」
「鈴原・・・相田のこと・・」


葬儀の後、二人は外で散歩する事にした。
「あの・・鈴原・・相田の事だけど」
「ええんや、ケンスケは、軍人に憧れとった、そんで、軍人の鏡になったんや」
「・・・」
「夢を実現したのに何を悲しむ必要があるんや」
(せや、そうなんや、加賀はんがゆうとった通りなんや)
トウジは自分にそう言い聞かせたが、涙が一筋だけ零れ落ちた。

あとがき
愚か極まりないケンスケには死んで頂きました。
加賀、どこかおかしいですねこいつ。前線で戦うのなら兎も角、こう言う奴が指揮官だと・・・
でも、ネルフの指揮官よりはマシだと思ってます。