背徳 逆行編

◆第3話

シンジの家、キッチン、
シンジはレイに紅茶の煎れ方を教えていた。
「そうそう、」
携帯が鳴った。
シンジは良い雰囲気を邪魔されて不機嫌な顔をしながら携帯を取った。
「はい」
『あっ、シンジ君、』
ミサトだった。
「用件は?」
『あい?』
「用件はと聞いている」
『あ、そうそう、シンちゃ〜ん、駄目じゃない、中学生が、同い年の』
シンジは携帯を切り電源を切った。
こめかみの辺りに青筋が浮かんでいた。
「碇君」
「あっ、な、何かな?」
「紅茶、出来たけど」
「あっ、ホント?早速飲んでみようよ」
ティーカップに注ぎ、リビングに移動した。
レイの携帯が鳴った。
レイは携帯を取った。
「・・はい・・」
レイも邪魔されて不機嫌なようだ。
『レイ〜、アンタ今、シンちゃんのところにいるんでしょ〜、そう言うのは』
レイも携帯を切り電源を切った。


数時間後、家の電話が鳴った。
「はい、碇ですが」
『あっ、シンジ君!』
ミサトの声だったのでシンジは電話を切った。
再び鳴り始めた。
突然切れた。
「・・元を断てば良い・・」
レイが電話線を抜いていた。
「そうだね」
暫くしてチャイムが鳴った。
シンジは玄関に向かい、扉を開けた。
其処には、諜報部の黒服が立っていた。
「サードチルド、」
シンジは微弱なATフィールドで包まれた拳で、鉄拳を腹部に撃ち込んだ。
黒服は2メートルほど吹っ飛び血を吐いた。
「・・う〜ん、少しトレーニングした方が良いかな?」
シンジは玄関を閉めようとしたところで、別の黒服が近付いて来た事に気付いた。
「死に・・比叡だったか?」
「?、知っているのか」
保安部2課課長兼ファーストチルドレン班班長で、前の歴史では、レイを守る為に殉職している。
「何の用だ、いくらアンタでも、事と次第によっちゃ」
「使徒接近中だ」
「あ!!」
シンジは今日がラミエル襲来日である事を思い出した。
前回の歴史では、零号機の再起動試験があったのでそれを目安に考えていたが、何か事情があったのかもしれない。
「綾波!!急いで支度してくれ!!使徒だ!!」
10秒でレイが出て来た。
保安部が車を回していた。
「乗ってくれ」
二人は車に乗り込んだ。


ネルフ本部、搭乗待機室、
プラグスーツに着替えた二人の前に、1筋の青筋を浮かべたリツコと、無数の青筋を浮かべたミサトが立っている。
「さあて、まだ時間があるからゆっくりと説明してもらいましょ〜か」
「ゆっくり?1分で良いですよ。悪戯電話をかけるな!以上」
「ふざけないで!あんた等の行動に世界が掛かってんよ!それを」
ミサトが逆切れしている。
「だったら、そんな人間に悪戯電話を掛けるな!」
「悪戯?只単に日常的な会」
「あれがか?」
「まあ、良いわ、今後、このような事があった場合、貴方達がネルフに所属する以上、何らかの罰を受けてもらうわよ」
リツコがそう締めた。
シンジはにやりと口元を歪めた。
「・・何を考えているの?」
シンジはレイの耳元に口を寄せ、答えを教えた。
「そう・・それは楽しそうね」


初号機、
ラミエルの映像が映し出された。
『と、言うわけで、さっぱり不明、先ずは、出方を窺って、良いわね』
「良い訳ないだろうが」
『あんですって』
「あの形状から考えて、どう考えても飛び道具だろうが、あの、隙間、あれだけの距離があれば、ATフィールドを応用して、粒子加速ビームも可能だろうが、出方ぐらい通常兵器で調べろ、無能指揮官」
『このガキィ〜〜!!』
ミサトは青筋を浮かべて拳を震わせている。
「大体、トップ3、雷の天使相手に正攻法で戦うつもりか?」
リツコと冬月の眉が跳ねあがった。
『葛城1尉、目標の調査をしろ』
その後、ミサイル攻撃、ATフィールドの反射、カウンターの加粒子砲と続いた。
そして、シールドによる掘削と相成った。


総司令執務室、
「シンジ君、どうして、第伍使徒の攻撃方法が加粒子砲だと分かったわけ?」
「何か?雷の天使、そして、あの形状、どう考えても飛び道具、ならば、あの形で飛ばせる武器は何か、それを考えたら、そんなに候補は無いでしょう、」
リツコは考えた。
放電、空間振動砲、陽電子砲、レーザー、中性子ビーム・・・・・結構思いついた。
「貴方、まだ何か隠してるわね」
「言いませんでしたか?切り札は取っておくと、」
「言いなさい」
「何故?言えば殺される事が分かっているのに、拷問したければどうぞ、自白剤でも良いですよ、いずれにせよ、初号機パイロットは失いますよ。私が持っている情報が実は大した事ではなかったり、それだけでは使徒は倒せなかったりしたら、笑い者ですね」
「シンジ、次は又次回と言ったな」
「・・・そうだね、そんな事も言ったね」
「次は、どんな条件を持ち出すつもりかな?」
「そうですね、次回の交渉は月末ですね、今回は司令部が一方的に呼び出したものですから、」
「何故、月末なの?」
「月末にならないと貴方達が焦らないからですよ、・・・つまり、有利な条件が引き出せないからです。ああ、御安心を、使徒じゃありません。では、この辺で失礼を」
シンジは軽く1礼して退室した。


起動実験室、
零号機の起動実験が陽電子砲の改造と平行して行われた。
「では、再起動実験を行います。」
「ところで、葛城さん、僕の作戦立案権はどこに?」
「え?あ?子供が作戦なんか立てられるわけ無いでしょ」
「・・・そうですね・・そうですね・・」
ミサトはそれを納得と取った。
零号機は当然起動し、シンクロ率は89.7%となった。


食堂、
シンジとレイは食事を取っていた。
二人が食べているものは、レイの為に用意された肉抜きカレー、カロリーが低いので女性職員にもうけている。
「今度の日曜日、どっか行かない?」
「どっか・・・どこへ?」
「う〜ん、ショッピングで良いや、綾波の、服とか買おうよ」
「・・・そうね、嬉しいわ・・」
「うん」
二人は笑みを浮かべた。
そしてその笑みの破壊力は周囲の職員を幻想の世界に誘うには十分だった。


双子山、仮設司令部、
「作戦担当を通告します。」
「レイ、砲手を担当」
「了解」
「シンジ君、ディフェンスを担当」
「・・それは、綾波を護る為に最善を尽くせと言う事ですか?」
「?、そうよ」
ミサトは少し不思議に思ったが肯定した。
「分かりました。」


仮設ケージ、
二人は寄り添うように座り、灯かりが消えた町を眺めていた。
(・・昔、ここで、眺めたんだね・・)
(・・ええ・・あの時、碇君は、私に、笑う事を教えてくれた。)
(そして、生きる事の価値を)
(綾波・・・)
(再び、ここに二人でいる事が出来るなんてとても思わなかった)
(そうだね)
「・・碇君・・」
「・・綾波・・」
二人は目を閉じ、唇を近付けて行った。


12式大型発令車、
モニターには、二人のラブラブシーンが映し出されていた。
行き遅れ作戦部長はマイクを取った。
「おら!両チルドレン!!さっさとエヴァに乗らんかい!!」
(無様ね)
リツコは友人の愚かな嫉妬に気付き、そう表した。
(二人の恋を妨害するなんて、葛城1尉酷いです)
一方マヤは、命がけの戦いを挑む二人の、ひょっとしたら最後に成るかもしれない機会を妨害したミサトに腹を立てていた。
・・・・
・・・・
「作戦スタートです」
「ヤシマ作戦スタート!レイ、貴女に日本中のエネルギー預けるわ」
『了解』
「第1次接続、第1から第803区まで通電開始」
地響きのような唸りが双子山を包んだ。


初号機、
『第2次接続』
初号機はプログナイフを抜き、ATフィールドでコーティングし、使徒に投射した。
『何やってんのよ!!』
プログナイフはATフィールドを突き破り、そのまま貫通した。
『・・・パターン・・ブルー・・・消失・・・使徒殲滅しました・・・・』


待機室、
「なんで作戦を無視したの!!」
「・・・無視?僕は綾波を護る為に最善を尽くしました。もっとも確実な方法でしょう」
あの時の確認はこう言う意味だったと気付いた。
「うぐ」
「シンジ君、どうしてあんな事が出来るのを黙っていたの?」
リツコが尋ねた。
「聞かれなかったからです。どこかの部下が僕を作戦立案会議に出席させませんでしたからね」
「部下?」
自分の事を言われているかとも思ったミサトは疑問の声を上げた。
シンジとリツコは同時に溜め息をついた。
「な、何なのよ!」
「いえ・・・無能な部下を持つと上司は苦労しますね」
「・・そうね・・・」
「むき〜〜〜〜!!」
「葛城1尉、私の階級は3佐ですよ。実質、作戦部のトップです。分かりましたか?」
「な、なんでよ!」
「司令部にお尋ね下さい、尚、葛城1尉の処分は司令部に任せると言っておいてください。」
結果、1年間の減俸と降格を食らった。


どこかの会議室、
「・・碇司令殿・・・戦自の陽電子砲を徴発し、更にはわが国から電力の一斉徴発をしておきながら、使わないとはいかなる理由ですかな?」
「・・おとりだ、マギがそのようにした方が作戦の成功率が上がると判断したからだ・・」
流石の碇も情報操作が出来なかったので言い訳を言った。
「・・・左様ですか・・・まあ、今回の事ですが、損害に対する補償はしていただきますよ」
「・・・も、問題無い・・・」
「では、今回はこれで失礼します。」


日曜日、シンジの家、
レイは早速新しく買った服に着替えた。
僅かに青みがかった白いワンピースである。
「ふふ」
レイは鏡の前でいろんなポーズをして、無茶苦茶嬉しそうである。
「お茶にしようよ」
「うん」
レイはソファーに座り、シンジが煎れた紅茶と、買ってきたケーキを食べ始めた。


月末、東京上空、
シンジ、レイ、ミサト、リツコがヘリに乗り、日重の実験場に向かっていた。
「・・・東京ですか・・・」
何も無い、10年もすれば、高層ビル群が立ち並ぶ世界最大の巨大都市になるとはとても思えない。
「そうよ、嘗ての日本の首都」


パーティー会場、
シンジが行くと言っておいたため、ネルフのテーブルにも豪勢な料理が並んでいる。
「質問を宜しいですか?」
リツコが手を上げた。
「これは、これは、御高名な赤木リツコ博士、どうぞ。」
「動力機関を内蔵とありますが?」
「ええ、JAの大きな特徴です。」
得意そうに言っている。
「しかし、格闘を前提とする接近戦において動力機関を内蔵するということは危険過ぎます。」
「5分しか動けない決戦兵器よりは遥かにマシだと思いますがねぇ。」
「くっ、外部操作では判断に遅れが生じますが」
「暴走させた挙句、精神汚染を発生させる物よりははるかに人道的と考えますがねぇ」
「それを押さえるのが人の心とテクノロジーです。」
「まさか、御冗談を、押さえきれなかったからこその暴走であり、精神汚染なのでは?そんな事だから、国際連合はまた余分な予算を使わなければならない、某国では100万人近い餓死者が出ようとしているのですよ。」
「なんと言われてもうちの主力兵器以外は使徒は倒せません。」
「ATフィールドですか?それは既に解決済みです。ネルフ、ネルフ、という時代はもう終わったんですよ。」
「・・・今、解決済みと仰いましたか?」
「はい、その通りです。」
そんな事はありえない、ATフィールドは使徒と、そのコピーであるエヴァにしか使えないはずである。
「いったいどのような方法で?」
リツコは馬鹿にしたような言い方で尋ねた。
「ええ、ご説明します」
モニターにパラボナアンテナをつけた車が移った。
「坑ATフィールド兵器、A−1です。これ1台では、使徒のATフィールドを破るほどの力はありませんが、複数で合わせれば、十分に可能です。」
リツコは、もしかしたら、エヴァか何かの亜種らしき物が出てくるかとも思ったが、まさか科学の塊が出てくるとは予想しなかった。
「尚、この基礎設計者は、人類史上最大の天才である碇ユイ博士です」
リツコが吹き出し、他の者は感嘆した。
ミサトは理解できていない。
リツコはその意味に気付き、凄まじい視線でシンジを睨んだ。その表情はメデゥーサもかくやと思われるほどであった。
流石に2代目総司令官のシンジも凍て付く視線で敵対するものを震え上がらせるレイも視線を逸らせた。
その後、JA自身の起動試験は暴走する事無く終わった。


帰りのヘリ、
リツコが切れた。
「何考えているの!!!日重なんかにとんでもない情報流して!!!!」
「何?って人類の滅亡を回避する方法ですよ」
「ふざけないで!!」
「何がですか?ネルフの敵は、日重じゃなくて、使徒でしょうが、相当勘違いしていませんか?」
「う」
「葛城2尉もですね、人類の命運が掛かっているのに、どうして共同戦線を張らずに、人類同士で醜い争いを続けるのか、私には理解できませんよ」
「「そ、それは、」」
まさか補完計画の事は言えないリツコと、私怨で戦うミサトは、言葉を詰まらせた。
「明日、第2回目の交渉ですね。」
リツコはこの前のシンジの言った意味を理解した。
「しっかり時間を空けるように言ってくださいね」


翌日、ネルフ本部、総司令執務室、
「さてと、今回はどう言った、交渉にしようか?」
シンジは大きな封筒を取り出した。
「そうそう、この前のA−1だけど、あんなもんじゃ使徒は倒せないから安心してね」
リツコは眉を動かした。
「利くと倒せるは違うって事だよ」
「さてと、まあ、同じ理由で、利く、支援兵器の設計図、勿論これじゃ倒せないけどね」
シンジは設計図の束を机の上に置いた。
「要求は?」
「うん、そうだね、まだ僕達14歳なんだけど、結婚させて」
ピクッと碇の眉が動いた。
「シ、シンジ君、まさか、レイとの結婚と言う意味かね」
「そうですよ、綾波の保護者は父さんらしいしね」
3人は悩みこんだ。
先ず、絶対に何か裏がある。
次に、レイを手放す事は出来ない。
「駄目だ」
「・・・欲張りだな〜」
シンジはレポートの束を机に置いた。
「ATフィールドに関するレポート、母さんが未知数が何か書かなかったせいで私も解けなかったが、ネルフが誇るマギなら何とか成るんじゃないかな、これでどう?」
「・・・本物だろうな・・・」
「勿論、ATフィールドの人工発生なんかもあったわけだし、間違い無いと思うよ」
3人は再び悩みこんだ。
碇の頭には一つのシナリオが浮かんだ。
シンジ抜きでも使徒が倒せるようになったら、シンジを殺し、レイも殺して3人目にする。
「・・問題無い・・」
「じゃあ、頼んだよ、式はまだ挙げなくて良いから」
シンジは部屋を出て行った。
そして、特令措置で、シンジとレイの結婚が認められた。


シンジの家、
「ただいま」
「お帰り、碇君」
「綾波、結婚認めさせたよ」
ポッとレイは赤くなった。
「これで、気がね無くここに住めるね」
レイは頷いた。
暫くして、ミサトが乗り込んで来た。
「うおら〜〜!!」
(行き遅れの嫉妬爆発か)
「14歳の中学生が結婚!!ふざけんな〜〜!!」
どうやら本気で文句言いに来ただけらしい。
「・・・その中学生を、明日をも知れない戦いに借り出す人が良く言えますね」
「うぐ」
「人生の幸せは結婚、ならば、そんなもの達には、せめてもの幸せを与えてやろうとは思えないわけですね」
「うぐぅ」
「・・葛城2尉は、私達の幸せを奪うつもりなのですか?」
レイはまるで母猫に捨てられた子猫のような表情でミサトに訴えた。
「・・・・ご、ごめんなさい・・・」
ミサトは帰って行った。


数日後、深夜、ミサトのマンション、
ミサトは携帯を取った。
「あによ!」
『ああ、葛城2尉、今、葛城2尉の部屋ってゴキブリ繁殖してますか?』
先ほどから、シンジに悪戯電話を掛けられ続けていた。
「うっさいわね!!!いい加減にしなさい!!!」
ミサトは携帯を切り電源を切った。
部屋の電話がごみの下で鳴った。
ミサトは布団をかぶり寝ようとしたが五月蝿くて寝られなかった。
切れたミサトは電話線を全て引き千切った。


早朝、ネルフ本部へリポート、
「あの〜そろそろ、離陸時間なんですが?」
「仕方ありませんね、私達だけで行きましょう」
シンジとレイは輸送ヘリに乗り込んだ。
その時のシンジの表情は仕返しを終えて実に清々しい物であった。


ミサトのマンション、
ミサトはごみに包まれ爆睡を続けていた。


数時間後、太平洋艦隊、旗艦、オーバーザレインボー、
アスカが、降下して来る輸送ヘリをじっと見詰めていた。

あとがき
はい、好評なようなので、背徳 逆行編第3話をUPします。
次回、アスカ登場です。続きが読みたい人は感想&要望メールを送ってください。
尚、その際に、ユイの処遇に関する要望を書いてくださると助かります。
それも、出来れば、単純に、他の大人達同様に潰せとかではなく、もっと何か付け足して欲しいです。
例えば、気に入らないのならその理由とか、具体的に潰す方法とか、勿論逆で、ユイが碇を断罪してシンジ、レイと共にネルフとゼーレを壊滅させる、とかでも良いです。
具体的にメールを送るのはちょっとと言う方は、人気投票の方で、作品として、背徳 逆行編を書いていただければ良いです。
主に判定方法は、質×量ですから、質が軽くても数があれば、連載決定でしょう。