背徳 逆行編

◆第1話

サードインパクトから16年後、東京、東京帝国グループ総本社ビル会長室、
世界経済の全てを握る企業にして国際機関としての面をもつ東京帝国グループ、その頂点に存在する皇耕一と、超法規組織ネルフの総司令碇シンジが対面していた。
耕一の手元の書類には、新人類補完計画第11次中間報告と書かれていた。
「ふむ、随分計画が進んでいるな」
「ええ」
「がんばってくれ」
「はい」
この二人には、人類補完計画に望むものがあった。
シンジは、唯一愛した者、綾波レイの復活、耕一の方は、愛妻ルシアを救う事が目的らしい。
「使徒の襲来も近いと思われます」
「うむ、エヴァは?」
「ダミータイプエヴァ26機、エントリータイプも13機用意できましたが、パイロットが」
「やはりそれが問題か」
「但し、何人かは用意できました」
「そうか」


東京、ネルフ本部、
東京の地下に新設されたネルフ新本部、
シンジは総司令執務室に入った。
旧ネルフ本部の総司令執務室に比べれば遥かに小さいが、それでもかなりの広さである。
「シンジ」
アスカが部屋で待っていた。
「アスカか」
「お帰り」
アスカはシンジに抱き付いた。
シンジは忍ばせていた麻酔針をアスカの首に当てて打ち込んだ。
「お休み、アスカ」
シンジは意識を失ったアスカをケージに運ばせた。


ケージ、司令室
初号機が安置されていた。
「エントリー準備完了」
アスカがエントリープラグの中に入れられている。
「始めろ」
シンジは命令を下した。
「・・・はい」
マヤはボタンを押した。
初号機が起動し、シンクロ率が急速に跳ね上がった。
そして、アスカの体がLCLに還った。
暫くすると、エントリープラグの中に、白衣が現れ、やがて、ユイの姿が浮かび上がった。
「・・成功です・・・」
「そうか」
シンジは司令室を出た。


第2新東京市、洞木家
「ミクちゃ〜ん!」
「は〜い」
ノゾミの声にミクが階段を駆け下りて来た。
「ミクちゃんにお手紙よ」
「ありがと」
ミクは手紙を受け取った。
「碇・・・・シンジ・・・・」
ミクは自室で手紙を読んだ。
手紙には、アスカが死亡し、シンジがミクを引き取る事になったこと、数日の内に東京に来ることを伝えていた。


翌日、東京、ネルフ中央病院、
ユイが目を覚ました。
「気がつきましたか」
マヤが声をかけた。
「・・・ここは?・・・病院ね、貴女は?」
「私は、伊吹マヤ、ゲヒルンの後継、ネルフの技術本部長です」
「そう、あの人は?」
「総司令ですか?」
「総司令?・・・まあ、あの人なら」
「総司令でしたら執務室です。起きられますか」
「ええ」
ユイはベッドから起き上がった。
上に一枚羽織って、病室を出た。


総司令執務室、
『失礼します』
シンジはドアを開けた。
マヤとユイが入って来た。
「・・・・まさか」
ユイが驚いている。
「久しぶりですね、母さん」
「・・・シンジ・・・」
どうしてもこの二人の会話には違和感がある。
30歳、威圧感などから30代後半に思えるシンジと、27歳、童顔などから20前後に思えるユイ。
「あの人は?」
「16年前に殺しました」
死んだではなく殺したと言い切った。
「・・・・・・・・そう」
ユイは俯いた。
「母さんには、手伝ってもらわなければならない」
「・・・使徒?」
「そう使徒です・・・伊吹君外してくれ」
「はい」
マヤは退室した。
「第2期の使徒が間も無くやって来ます。我々は、前回同様エヴァを準備しました。しかし、オリジナルの初号機の性能をいまだに抜けないでいる。母さんに協力してもらいたい。そして、もう一つ」
「何?」
「娘を頼みたいんです」
「娘?」
「ミクと言います。惣流アスカとの間に生まれた子供です。」
「惣流・・・キョウコさんの娘さん?」
「そうです。」
「そう・・・・分かったわ、私の可愛い孫娘だし」
「ミクが来るまで時間が有ります。それまでに4半世紀のギャップを埋めるように努力してください。」
「ええ」
「それと、予め言っておきますが、私は、母さんに別の人を重ねて見ています」
「・・・・・レイ?」
「そうです」
「・・・・そう・・・・・」
ユイの声はかなり沈んでいる。


3日後、東京ターミナルステーション、新幹線ターミナル、
ミクが大きな鞄を持って新幹線を降りて来た。
「貴女がミクちゃんね」
ユイはミクに声をかけた。
「お姉さん誰?」
ユイは苦笑した。
「お姉さんか・・・そう言ってくれると嬉しいんだけどちょっとね」
「私は、シンジから言われてあなたの世話をする事に成ったの。ユイって言うの」
「ユイ?どっかで聞いた記憶が」
「ふふふ、取り合えず行きましょう」
「うん」


車の中、
ユイはミクの頭を撫でている。
「お姉さんやさしいのね」
「ひょっとして、お姉さん、お父さんやお母さんと一緒にエヴァに乗って戦った人?」
「いえ・・・・違うわ・・・・」
ユイは俯いた。
「ごめんなさい、悪い事聞いちゃった?」
「いえ、そういう意味じゃないの・・・ただ・・・」


ネルフ本部、総司令執務室、
「ミク、久しぶりだな」
「うん、」
「ミクをここに呼んだのは、ミクにはエヴァに乗ってもらいからだ」
「ミクもエヴァに乗れるの!」
「ああ」
「うん!うん!のる!のる!」
はしゃぎまくるミクの横でユイが悲痛な表情でかすかに震えていた。
自分がこの時期になってサルベージされた事、初号機がいまだに主力候補となっていること、ミクが呼び出された事、そして、アスカが死亡となっていること、全てアスカが初号機にいることを示していた。
「私は忙しいから、面倒は、」
「うん、お姉さんに見てもらうんだね」
「お姉さん?」
「ユイさん」
「ああ、なるほど、だが、姉妹関係じゃないぞ」
「そういう意味で言ったんじゃないわよ」
「いや、こっちもそういう意味で言ったんじゃないんだが」
「私から言うわ、そこにいるシンジは、私の息子で、貴女は、アタシの孫娘なのよ」
「ふ〜ん、じゃあお祖母さんか・・・・えええええぇぇぇぇぇ〜〜〜!!!!!!」
ミクの絶叫が周辺フロアに響き渡った。


取り合えず落ち着いたミクは、発令所に連れて行かれた。
「では、私から自己紹介をします。私は、ネルフ技術部長、伊吹マヤ、1佐、E計画担当責任者よ、宜しくね」
「僕は、作戦部長の日向マコト2佐、宜しく」
「俺は情報部長の、青葉シゲル2佐、宜しく」
「俺は、作戦部副部長の相田ケンスケ3佐、君の両親の親友だ」←ホントか?
「私は、雲龍サヤカ、発令所チーフオペレーターで、1尉よ」
「俺は、伊勢タイシ、メインオペレーターで2尉だ」
「俺は、大和タケル、伊勢と同じだ。」
「で、私が碇ユイ、副司令を勤める事になったわ」
「宜しく御願いします」
ミクはぺこりと頭を下げた。
シンジが中央司令塔後方のドアから発令所に入って来た。
「お父さん」
「ああ、相田3佐、ミクに本部を案内してくれ、他のチルドレンにも会わせた方が良かろう」
「はい」
「さ、行こうか」
「うん」
ケンスケはミクを連れて発令所を出て行った。
青葉は昔からの慣習でここにいるが、今青葉の席は無いため、メインフロアで昔のミサトやリツコと同じく立っている。
日向は、右司令塔に上がり、マヤは左司令塔に上がった。
ユイは中央司令塔に上がった。
中央司令塔には3つの座席が有った。
中央はシンジが座っている。
「母さんは右のアスカが使っていた席を使って貰えますか?」
「ええ」
ユイは司令席に座った。
「・・レイの?」
シンジは頷いた。
「一度も使った事は有りません・・・・最後まで」
シンジの顔は寂しそうだった。
ユイは何も言えなかった。


廊下、
「ねぇ、本当に、相田さんって、お父さんとお母さんの親友?」
「・・・・昔はそうだったんだよ・・・・昔は・・・今は・・・・アスカはさ・・・・結構・・・仲良くしてくれたけどさ・・・・シンジは・・・・変わっちまったんだよ・・・・・ぶつぶつぶつ」
ケンスケがいじけモードに入った。
「大の大人が気にしないの」
ミクはしゃがみ込んでいるケンスケの頭を撫でた。
「うう〜、ミクちゃんはやさしいんだな」
「いや、そんな事」
「うう〜!俺は嬉しい!」
(この人危ない)
ケンスケが自殺する日もそう遠くないかもしれない。
そして、ミクは、ある部屋に案内された。
青みがかった黒髪の少女と、赤毛の少女がいた。
年齢は、ミクと同じくらいかやや上。
「ふ〜ん、この子が8thね〜」
黒毛の少女がミクを値踏みするように見ている。
「こんなのは放っといて、私は新型エヴァ02専属操縦者の赤木リコ、宜しく」
「宜しく」
「こんなのはないでしょこんなのは」
「自己紹介すれば?」
「あう、」
黒毛の少女はミクを向いた。
「私は、新型エヴァぁ01専属操縦者の葛城ミサ、宜しくねん」
「宜しく、私は、惣流ミクって言います。エヴァパイロットになりました。機体は分からないけど」
「03に成るんじゃない?」
「いえ、初号機の可能性も有るわ」
「初号機?」
「最強のエヴァよ」
「私が最強のエヴァに!」
「可能性だけよ」
葛城ミサ、赤木リコ、それぞれミサトとリツコのクローンである。魂もそれぞれのものが入っているらしい。
その後は、ケンスケに代わり、二人に案内された。
その途中、警報が鳴った。
「何?」
「まさか始まったの?」
「可能性は有るわね」
『総員第1種戦闘配置、目標は1時間で第3新東京市到達』
「いくわよ!」
「どこに!?」
「エヴァぁのところに決まってるじゃない!」
「え?」
「馬鹿、今日来たばかりのミクに私たちの考えがそのまま伝わるわけ無いでしょうが」


いろいろ有ったが、ケージにたどり着いた。
「これがエヴァ・・・・」
ミクはエヴァの大きさに言葉を失った。
『ミサとリコは待機、ミクちゃんは起動実験を行うから、右の通路から実験室に向かって』
マヤの声が聞こえた。


真っ暗な世界、
「ここどこだろ・・・・」
「なんか・・・LCLの中みたい・・・・ん!見たいじゃなくてもろじゃない!!」
光が現れた。
エヴァの起動実験室だ。
「・・・・なんで?」
「あ」
「ミクを感じる・・・ミク・・・・つまり、ここはエヴァの中、いえ、エヴァのコア」
「ざけんじゃないわよ!!!!」
「体が動く!」
初号機は、拘束具を引き千切った。
司令室にシンジの姿が見える。
オペレーター達はパニックになっている。
「天誅!!」
初号機は司令室のガラスを殴りつけた。
木っ端微塵になったガラスがオペレーター達を襲った。
「え!?シンジに当たらなかった」
シンジは全くガラスの破片に当たらなかった。それどころかシンジの周りにはガラスの破片は一つも落ちていない。
「・・・・ATフィールド・・・・シンジが、ATフィールドを張ったの?」
シンジは落ち着いて初号機、いや、アスカを見ている。
「・・・そう、シンジはフォースインパクトを起こすつもりなのね、レイに会う為に・・・」
「・・・・・そこまで求めてるなんてね・・・私はレイの代わりには成れなかった・・・でも、今度こそ、みんなが笑って過ごせる世界にしなさいね・・・」
「ミク・・・貴女は私が守るわ」
アスカは目を閉じて眠りについた。


司令室、
「初号機・・・暴走停止しました・・・操縦パイロットに戻っています」
「ミク、聞こえるか?」
『お父さん、エヴァが勝手に、勝手に』
「もう大丈夫だ、初号機はミクの言う事を聞いてくれるはずだ」
「シンクロ率は、9、97.5%です」
「良いだろう、そのまま出撃するぞ」
「射出口へ移動させろ」


3体のエヴァが射出された。
郊外である。
既に軍隊が配置されている。
モニターに光学で捕らえた使徒が映しだされた。
使徒は、巨大なピラミッド型だった。
「いきなり無機質系ですか」
「取り合えず長距離射撃開始」
一斉に火砲が放たれた。
そして、着弾する瞬間、大方の予想通り、ATフィールドにより全て弾かれた。
次の瞬間、自走砲部隊に無数の稲妻が落ち爆発した。
シンジは理解できなかった。
「宙空からの突然の落雷、まるで魔法ね」
ユイが呟いた。
『冗談じゃないわよ!魔法使い相手に勝てるわけ無いじゃないの!』
「いや、問題ない。初号機を信じて直接殴れば良い」
『お父さん・・・本気で言ってるの?』
「私が乗っていた初号機だ。初号機の実力は分かっている」
『分かったわ』
『01及び02は、初号機の支援を』
右司令塔から指示が飛んだ。
『『了解』』
01と02が初号機の左右に付き、ATフィールドを広げながら、3体は突進した。
途中何度も落雷を受けたが、致命的なダメージは受けなかった。
『うおおおおおお!!!!』
初号機が跳躍し、ATフィールドの上から、拳を叩き込んだ。ATフィールドは紙屑のように破れ、使徒は殴られた場所が吹っ飛び、大地に叩き付けられた。
「3機で一気にとどめをさせ」
そして、3機により使徒は完全に破壊された。


発令所、
「3人ともよくやった、」
「「「はい」」」
「がんばったわね」
シンジは発令所を後にした。


夜、ユイのマンション、
「さ、」
「ただいま」
ミクは上がった。
綺麗に片付けられた部屋、随分広い、
何人分か、増えると予想される人の分の部屋まである。
「ミクの部屋はここね」
12畳間である。
「ひろ〜い」
「あと、当面のお小遣いね、必要なものはそこから出して買ってね」
ユイはミクに財布を渡した。
財布には札束が、
「ユイさんこんなに!!」
「14年分のお小遣いとお年玉だと思っていいわよ」
「・・・有り難う」
「うんうん、えらいえらい」
ユイはミクの頭を撫でた。
さて、食事にしましょうか。
「うん」


深夜、ネルフ本部ケージ、
シンジが初号機の前に立っていた。
「アスカ・・・僕の目的は分かったと思う、僕は綾波に会いたいんだ・・・」
「アスカがずっと綾波の代わりに成ろうと努力していてくれた事は知っている。でもやっぱり駄目なんだ、綾波は綾波、アスカはアスカだったんだ。」
「そして、フォースインパクトが起きるその時まで、ミクを守って欲しい。そして、依代となるミクは、僕のようでは無く、世界の平和を実現させて欲しい。その為にも勝手だけど協力して欲しい」
シンジはケージを去った。


2016年、第3新東京市、レイのマンション、
アスカは、髪を青く染め、赤いカラーコンタクトを入れ、髪も短く切っていた。
「・・・アスカ、何の真似だ」
シンジは鋭い視線でアスカを射貫いた。
アスカは目を大きく見開いた。
シンジは片手に生首を持っていた。
キールローレンツ、人類補完委員会議長、そして、ゼーレのトップである。
「・・見ろよ、綾波を奪った奴だ」
シンジはキールの首をアスカに投げ渡した。
「きゃあああ!!!!」
アスカは恐怖で絶叫した。


数日後、
「お願い、私をレイの代わりにして!身代わり人形で良い!だから、だから、これ以上!」
腐敗しないように冷凍処理を施された首がカプセルに入れられて11並んでいる。
「・・・奴らを生かせとでも言うのか?」
「で、でも!」
「・・・怖いのか?」
アスカの身体が跳ねた。
「くくく、結局アスカも僕を捨てるんだね」
シンジがアスカにゆっくりと近付いて来た。
「アタシが好きなシンジから変わって欲しくないのよ!」
「違うだろ、アスカが求めてるのは、僕じゃなくて、自分に都合の良い男だろ」
「違う!違う!シンジが復讐に身を染めるのが嫌なの!シンジが変わってしまう!」
「違わないよ」
「レイだって!レイだって!復讐に身を染めるシンジなんか!」
シンジの手が震え始めた。
「あああああ〜〜〜〜!!!!」
シンジが頭を抱えて叫んだ。


第拾九使徒襲来の翌日、国際連合最高委員会、
シンジが席についた。
「使徒の再来、我々の先行投資が無駄に成らずに済んだ事は喜ばしい事だよ」
「左様、その上、被害も軽微な物で済んでおる」
「しかし、強力な使徒登場の際は、今のエヴァの数で足るのかね?」
「支部にはダミータイプしかない」
「日本のみが防衛が厚く、他の先進主要国は、エヴァをまともに保有していないのが現状だ」
「よって、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、ロシア、中国にエントリータイプのエヴァの譲渡を要求する」
「さっさと言いたい事だけ言えば良いのですよ、それも本音で、自分達のいる欧米にはエントリータイプのエヴァが1台も無い、ダミータイプのエヴァでは戦力として不安が残る。だから寄越せと、しかし、面目上、中国を外すわけにも行かないから、中国にも恵んでやろうと」
「碇君、その暴言聞き捨てならんな」
「場を弁えたまえ」
「使徒が日本以外を襲撃する確率は1%にも満たない事は分かっている事でしょう、99%の備えを弱め、1%の備えを強くする。その理由は明白でしょう」
「しかし、日本は既に十分な戦力を持っているだろうが」
「使徒の戦力は未知数です。貴方達も言ったとおり強力な使徒登場の際は、エントリータイプ3体では、かなり危険です。むしろ、支部からダミータイプを回収して、直衛に回したいくらいですよ」
「な」
「しかし、それでは」
「万が一の時に」
「全く、自分の保身の事しか考えていない、大国の圧力を受け止め、他への影響力を弱める事が、貴方達の仕事でしょうが、それを大国の言いなりになっているようでは・・・」


東京、東京中学Aコース、
「では転校生を紹介する。入って来なさい」
ミクは教室に入った。
「惣流ミクです。宜しく御願いします」
「惣流は後ろの空席を使ってくれ」
「はい」
ミクは席についた。
休み時間になり選抜クラスの3トップ安齋錦、佐々木憲太、安藤イクミがミクのもとを訪れた。
「惣流ミクさんですね」
「ええ」
「早く選抜クラスに来てくださいね、待っています」
「・・・安齋錦さん?」
「はい」
日本4強が揃った。
この4人、模試で毎回、トップ争いを繰り広げている。


ネルフ本部大深度施設、ダミーシステムコア、
水槽には黒い髪、赤い瞳をした少女が20ほど浮いている。
別のカプセルの中に、薄い青に輝く髪をした女性が眠っていた。
「綾波・・・・レナ・・・・」
このレイは素体を寄せ集めて作ったレイの魂の入れ物、そして、水槽に浮かぶ少女、レナは、レイとシンジの遺伝子を組み合わされて作られたダミー。
「シンジ・・・」
ユイがシンジの後ろに立っていた。
「母さん・・・」
「シンジ、フォースインパクトを起こすつもりね」
「流石は母さん、もうそこまで辿り着くとは」
「シンジ、母さんはレイの代わりにはなれないの?」
「無理だよ・・・」
「無理なんだよ・・・・」
シンジは呟きを繰り返した。
「シンジ・・・・」


夜、ユイのマンション、ミクの部屋、
ミクはベッドに寝そべっていた。
「お母さん・・・・」
ミクは涙を流した。
ユイは自室で悩んでいた。
シンジを止めるにはどうすれば良いか、最も簡単な方法はシンジをネルフ総司令の座から引き摺り下ろす事である。
しかし、シンジのバックが分からない、ゼーレが消滅し、死海文書が公表されているにも関わらず、人類補完計画を遂行しようとする者等いるとでも言うのだろうか。人類補完計画を発動して利益があると思われる者がいないのだ。とすると、碇ゲンドウの時と同じく、その最終目的は違うのであろうか。
ユイは現在の世界に関する知識の不足が悔しかった。
ならばどうすれば良いのか、シンジの苦しむ姿は見たくは無い、偽善でしかないが、何とかしたい。そして、それができる者は限られている。その中にはユイの名があるはずだが、では、どうすれば良いのか、ユイは悩みこんだ。
そして、ふと本棚に目が行きその中の一冊に目が止まった。
ドラえもん、前世紀の漫画本である。なぜか1冊だけ本棚に並んでいた。
「・・・・有ったわ」
ユイは端末からスーパーマギにアクセスした。
スーパーマギはユイの擬似人格を基礎としている。
「御願い、シンジを助けるためなの」


ネルフ本部発令所、左司令塔、
『スーパーバルタザール、他の2体にハッキングを仕掛けています!!』
「一体如何して・・・」
スーパーマギの管理者であるマヤは現状が理解できていなかった。
スーパーバルタザールが突然完全に制圧されたのである。ありえないことである。
「マギ防衛モード全開!!」
『了解!』
シンジが司令席についた。
『伊吹博士!』
『スーパーメルキオール制圧されました!スーパーカスパーにハッキングをかけています!!』
「はい!!」
『スーパーマギのシステムをダウンしろ!』
「はい!!」
マヤはパスコードを入力した。
「カウントどうぞ!」
『3、2、1、』
左右両司令塔で同時にキーが操作された。
『スーパーマギ3機合意の下シュミレーションに入ります』
「電源が切れません!」
『スーパーマギのシュミレーション内容は?』
「報告して!」
『分かりません!!しかし、凄まじい計算速度ですが通常処理は続行されています』
中央司令塔、
(そうか・・・こんな芸当ができるのは母さんだけだな・・・しかし、一体何を?)
・・・・
・・・・
『スーパーマギ解放されました』
「どうせログは残っていまい、動作確認を行うだけで良い、伊吹博士、頼む」
『はい』


数日後、総司令執務室、
ユイは机に計画書を置いた。
「これは?」
「スーパーマギに協力してもらって弾きだした、レイを救う方法」
「レイを救う?」
「過去へ遡るのよ」
「スーパーマギがはじき出したのか」
「ええ、不可能ではないと、」
「しかし、過去へ遡ったとしても、綾波は私が愛した綾波ではない」
「そこを計算させたの、サードインパクト中のレイをシンジと同じ時間まで飛ばす方法を」
「しかしそれでは、」
「精神体のみ飛ばしてしまうの、恐らくは、過去の自我は消えてしまうでしょうけど」
「母さん、世界が違うといっても、僕なんだよ」
「正義なんて言えない、私は、シンジが苦しんでいるのがつらいだけ、結局は自分のためなの」
ユイは涙を流した。
「・・・母さん・・・」
「ごめんなさい」