背徳

◆第8話

 日曜日、朝早くからユイが鼻歌を歌いながら弁当の用意をしていた。
 今日はシンジ、ミクとの3人で出かけるのである。勿論外食でも良いが、どうせならば自分が作った弁当の方がいいと言うことで立派な弁当にするつもりである。
 出来てきた料理を重箱に詰めていく、少々3人では多すぎるかもしれないが、まあこの際構わないだろう。
「ユイさん、おはよう」
 ミクが起き出してきた。
「おはよう」
「今日はお父さんとお出かけだね♪」
「ええ、楽しみね。お弁当ももうすぐできるわよ、出来たら朝御飯にしましょうね」
「うん」
 そして、弁当も出来て二人が朝食を取り暫くするとシンジが訪ねてきた。
「おはよう」
「お父さんおはよう」
「ああ、おはよう」
「こっちはもう準備できているわよ」
「そうか、じゃあ早速行くことにしよう」
「うん」


 3人はシンジの車で海にやってきた。
 窓の外に目を向けると、綺麗な砂浜が続いているが人の数はこの砂浜にしてはかなり少ない。
「プライベートビーチかなにか?」
「ネルフの保養施設の一つだよ」
「いい場所だね」
 ホテルの駐車場に車を止め中に入る。
「いらっしゃいませ、お荷物をお持ちいたします」
 最上階の広々としたスイートルームに案内された。
 早速ミクは窓の外の眺めをのぞき込んだ。
 眼下に綺麗な砂浜が長く続いており、点々とビーチパラソルの花が開いている。海に目を移すと、蒼く澄んだ海が水平線まで続いており、沖を航行している船舶が見える。
「いい眺めだね」
「ああ、そうだな」
 シンジも窓の傍に立ち、海を眺める…ミクは直ぐにあの海で泳いでみたくなってきた。
「お父さん、早くおよぎにいこ」
「ああ、わかったよ」
 軽く苦笑しながら返す。


 3人はそれぞれ更衣室で水着に着替え、砂浜にやってきた。
「さ〜て、泳ご♪お父さん、ミクと競争しない?」
「ん?競争?」
「うん、あの島まで」
 500メートルほど離れたところにある島を指さしながら言う。
「そうか、良いかもしれないな」
「う〜ん、じゃあ私はここで待ってるから二人で行ってきなさい」
 ユイはビーチパラソルをたてシートを砂浜に敷きながら言う。
「うん、じゃあお父さんにいこ」
「ああ、」
 そして、二人は軽い準備運動をしてから海に入り島に向かって泳ぎ始めた。
「凄い速さね…」
 シートを敷き終わり、その上で座りながらどこか影のある声で呟く…
 確かに元々の才能や素質、その後の訓練や練習のこともあるのだろう。しかし、それ以上に単なる人ではなくなってしまったシンジと、その遺伝子を…力引き継いでいるミク。二人のそう言ったところを見ているとどこか悲しくそして又辛くなってくる。
(今更そんなことを考えていても意味ないか…それよりも、シンジを何とかする方法を考えないといけないわね)


 そのころ、島に到着した二人は腰を下ろして休んでいた。
「ミクは随分速いんだな」
 勿論シンジは少し手を抜いていた…とはいえ予想していたよりは力を入れなくてはならないほどの能力をミクは持っていたが、
「うん、」
 シンジに誉められて嬉しいミクは笑顔を浮かべながら頷いた。
「もう少ししたら戻るか、」
「帰りも競争しよ」
「ああ、今度はまけんぞ」


 砂浜に戻った二人はシートに腰掛けた。
「はい、お帰りなさい。そろそろ良い時間だからお弁当あけるわね」
 ユイは重箱を開けてシートに並べる。
「うわ、美味しそう」
「ほお、これは、」
「どうぞ召し上がれ」
「いただきます〜」
「いただきます」
 弁当のおかずにそれぞれ箸を延ばす。
「美味しい」
「ああ、うまいな」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
 ユイは笑顔を浮かべ自分も箸をのばした。


 夜になって3人は東京に戻ってきた。
 結構遅くまで楽しんでいたため、遅い時間になってしまった。
「今日は私も楽しかった。又機会があれば一緒にどこか行こうな」
「うん♪」
「私もその時を楽しみにしているわね」
「じゃあ、今日はこの辺りで帰る。又な」
「うん、又ね」


 シンジはユイのマンションを後にして車を飛ばしながら考え事をしていた。
 今の生活もそれなりに心地良い、しかし、それだけに辛いのだ。立ち止まるわけには行かない…例えどんなにそれが辛かろうとも決して立ち止まってはならない。例え、何を犠牲にしたとしても……
 そう言った意味で考えると、父…碇ゲンドウの取った行為も理解できるところがある。当然納得はできはしないが…そして、同じく、ユイやミク…その他多くの者も例え理解はしてくれたとしても、決して納得はしてはくれないだろう。だが、そうであっても立ち止まれないのだ…
 シンジは大きく息を吐いた後自宅に向けてハンドルを切った。


 数日後、ネルフ本部に再び緊張が走っていた。
 次の使徒が襲来したのである。それも、宇宙空間に…今、発令所のメインモニターには巨大な球形の使徒が宇宙をバックに映っていた。
「宇宙空間の使徒か…アラエル以来だな、」
 アスカに対して精神攻撃を仕掛けてきた使徒以来と言うことになる。
「どうするの?」
「一応、宇宙空間の使徒への対策もしてはあります。通用するかどうかは別ですが、」
『第1段目のミサイル攻撃準備完了まで5分かかります』
「ミサイル攻撃ね…」
 サブモニターには巨大なミサイルを搭載した衛星が複数個映っている。
「それぞれが通常のNN弾道ミサイル数個分の破壊力です」
「地上ではそうそう使えるような代物ではないわね…」
「ええ、宇宙空間だからこそ、こちら側の領域でない分、思い切りやれます」
「通じると良いわね…」
「ええ、」
 数分後ミサイルが発射され、使徒に向かって一直線に飛んでいく、そして着弾した瞬間すさまじい光に使徒が包まれ、直後に映像がいくつも消える。
 1分ほどして再び使徒の姿が映った。
 球形の使徒は何カ所かが抉られ、血のような液体が表面で沸騰し気化している。
「…倒せはしなかったが大きなダメージが与えられたようだな」
『第2段の攻撃準備完了しました』
 サブモニターに巨大な粒子砲兵器が映る。同じく衛星に取り付けられている物のようだ。
「…陽電子砲ね」
「ええ、宇宙空間ではほとんど減衰しませんから零距離射撃に近い破壊力が出せます」
『エネルギー充填完了』
『カウントダウン開始、5、4、3、2、1』
『発射!!』
 青白い光が一直線に使徒に向かって飛んでいく、そして直撃した瞬間再び光に包まれた。
「どうかしら?」
「先ほどの攻撃でダメージを与えていましたし、いけると思います」
 映像が復旧したとき、使徒の姿は存在せず、残骸が宇宙空間を漂っているだけだった。
『パターン完全に消滅しました』
「宇宙空間の使徒は楽ですね…被害さえ無視できるのならば、地上の使徒もそれなりに楽に対応できるんですがね…」
「仕方ないわね…使徒をたおしたは良いけれど次が無くなってしまうようでは意味はないから…」
「ええ、」
 そして、この使徒に関してはエヴァが出撃することなしに勝利することが出来た。


 しかし、早くもその翌週には次なる使徒が襲来していた。
 発令所のメインモニターには海底を日本列島に向けてゆっくりと歩いている変形人型らしき使徒の姿が映っている。
(…本気で拙いかもしれないな…)
 シンジは、モニターを見つめながら、
 もし今後も短い周期で使徒が現れ続けるとしたら、エヴァが破損しても修理に費やせる時間がなくなってしまうかもしれない、そうなってしまったら非常に拙い…だが、気体の予備はまだまだある機体交換の暇もないようでは拙すぎるが…それ以上に拙いのは、操縦者、チルドレンである。こちらには予備はない…怪我で戦線を離脱してしまえば残った2人ではとても戦い抜けなくなる可能性が高い。


 ユイと共に本部に到着したミクは途中で別れ更衣室に急いだ。
 ミサとリコは既に着替えを済ませて搭乗しているはずである。更衣室に入るとすぐに用意されているプラグスーツに着替える。
(この前は出撃は無かったけど…使徒が連続してやって来た。この前は同時に…もしかしたらこれからこんな感じで続いていくのかな…)
 ミクは少し気が重くなりながらも待機室を出てケージへと向かった。


 そして、衛島に初号機と03の2機が空輸された。02は本部で待機である。
『ミク〜、どしたの?あんま顔色が良くないけど』
「あ、うん…ちょっとこのところ短い間隔で使徒の襲来が続いてるから」
『ん〜、まそうだけど、あんま気にしちゃだめよ、気にしたって仕方ないことだからね』
「うん…」
『いっこいっこ確実に倒してけば、必ず終わりは来るわよ』
「そうだね」
 ミクは軽く笑みを浮かべて返した。
『目標、あと1分ほどで上陸します』
 今回もうまく誘導できたらしく、ここに一直線に向かっている。
『さぁてどんな奴が出てくるかな?』
 暫くして大きな水飛沫があがり、水色を基調とした変形人型の使徒が衛島に上陸した。
 巨大なまん丸の頭部で、見た目バランスが悪そうなのだが、その辺りは問題なさそうにしっかりと歩み寄ってくる。
 初号機はプログソード、03は新型ソニックグレイブを構える。
 どんな攻撃方法で仕掛けてくるのか分からない。特にビームがでそうなところもないから肉弾戦になる…とは簡単に言えないのが使徒である。
 中和距離まで近づくとすぐにATフィールドを2機で中和し、それと同時に無数の支援兵器から一斉に攻撃が仕掛けられる。
 ものすごい爆発が発生し、一瞬にして爆煙に包まれる。それと同時に両機は一端距離を取り、相手からの攻撃に備える。
 煙が晴れたとき、使徒はぼろぼろになり自己修復中であった。
「でぇえええい!!!」
 それを確認するやいなや初号機はプログソードで使徒に斬りかかり、03もそれに続く…その様にしてわずかな間に使徒を殲滅することに成功した。
『パターンブルー完全に消滅しました』
 その声にミクは大きく一つ息を吐いた。
(この使徒は随分簡単だったな…これからもこんな使徒ばっかりだと良いんだけど…)
 

 月曜日、ミクは学校で安斎達と話をしていた。
「最近色々と連続しているみたいで大変ね」
「ううん、ま、確かに疲れちゃうけど、そんなことを気にしたってしょうがないから、来たのを一つ一つ確実に倒していけばいいだけだもんね」
「そうだな、それが正解だろうな」
「私たちで出来ることなら何でも協力するから頑張ってね」
「ありがと…みんな」
「じゃ、早速…佐々木今日の演習お願い」
「な?お、俺かよ?」
「うん、お願いね♪」
「佐々木君、御指名よ、光栄じゃない」
「くすくす」
「ぷぷぷ」
 佐々木は抗議したものの3対1ではだめであった。


 放課後、ミクは3人を招待することにした。
「へ〜、良いところに住んでるんだな」
 マンションの通路をある気ながら佐々木が呟いた。
「それも当然なんじゃない?」
「ま、博士と一緒に住んでるわけだし、ネルフ総司令官の娘で、更にチルドレンとなればそうか」
「この部屋だよ」
「おじゃましま〜す」
 ミクの部屋に案内する。
「ここがミクの部屋だよ」
「へ〜、意外に片づいてるんだな」
「どういう意味よ?」
「惣流のことだから、もっと凄いかと思ってたんだけどな」
「ま、それでも、佐々木の部屋には負けるでしょうけどね」
 ミクはこめかみの辺りをぴくぴくさせながら返した。
「まあまあ、二人とも」
 安齋が諫めに入る。
 宿題を共同作業でこなした後、時計を見てみると未だ結構時間があった。
「結構早く終わったね」
「さすがに4人だと早いわね」
「そうだな…」
「未だ時間あるけど、何かあるか?」
「ん?ん〜…特にないかな」
「そうか…なら、ちょっとゲーセンにでも行くか?」
「それも良いわね」
 そんな話をしているところで、ユイが帰ってきた。
「あ、ユイさん帰ってきたんだ」
「博士が?」
 4人がリビングに向かうと、ちょうどユイも入ってきた。
「お帰りなさい、」
「ただいま…友達が来てたみたいね」
「おじゃましてます」
「いらっしゃい、貴女達が、安齋さんに、佐々木君、安藤さんね」
「はい、」
「いつもお世話になっているわね」
「それはお互い様ですから、」
「ま、護って貰ってるわけだし、色々とするのが当然ですね」
「勿論、一緒にいると楽しいからいるわけですけれどね」
「ふふ、そうなの、」
 そして、ユイと話をすることになったのだが…
「ふ〜ん、ミクちゃんって学校ではそんな感じなのね、」
「も〜〜佐々木ぃ〜〜」
「そうそう、この前ミクちゃん寝言で」
「ユイさんまで、ミクを虐めるぅ〜〜」
 話のネタがミクに関することばかりで、ミクは真っ赤になって叫び続けていた。


 翌日、ネルフ本部、総司令執務室、
「失礼します」
 マヤが報告書を携えて入ってきた。
「何か?」
「はい、チルドレン候補の上位者と接触し、それぞれにテストを受けて貰いました…その結果です」
 シンジは報告書を受け取り目を通した。
 理論上のシンクロ率は…一番高い候補生でも20%台…戦力として数えられるであろう40台に到達するには相当期間必要と考えられる。
「せめて…初めから30台が出せるのならば、それなりに使えるが…」
「残念ながら全てはずれと考えて良いと思います。グループの方でも、何人か試してみたようですが…どれも…」
「…そうか、」
 状況がダミーシステムの使用という方向に向かっている。
 シンジは大きな溜息をついた後、マヤを退室させ、自分はレイが眠っている箱根に向かう事にした。

あとがき
さて、相変わらず短いペースで使徒の襲来が続いています。
今回は別段被害らしき被害はでませんでしたが、次どうなるか分かりません。
又ダミーシステムの事がかなり大きくなってきてしまいました。果たして、シンジはダミーシステムを使うのかどうか、一方でユイはその事に対してどういう反応を示すのか、そしてシンジの計画を何とかすることは出来るかどうか、そして、今回こそでてきていませんがゼーレなどその他にも大きな要因が様々あり、まだまだこれから色々とおこりそうですね。
では、又次回で