背徳

◆第5話

新横須賀港に太平洋艦隊が入港した。
破損した艦が多く見られる。
ネルフの輸送部隊が待機している。
輸送艦が接岸し、ゆっくりと、今下ろされている。
「・・・ダミータイプか・・・」
シンジはエヴァGをじっと見詰めている。
「・・司令・・」
マヤがそっと声をかけた。
「・・・・」
シンジは、ダミープラグに支配され参号機を徹底的に破壊した時、ネルフのダミープラントでリツコによって破壊されたレイの素体が崩れ落ちていく光景を見せつけられた時、そして、ダミープラグが操る量産型エヴァによってサードインパクトを引き起こされた時、レイの素体の破片を一つ一つ手で拾い上げた時、レイの体を作り上げた時、レナを生み出した時・・・ダミーシステムに関係した事が次々に思い出される。
「・・司令、」
「ん?ああ、」
漸く気付いた。
既に、リニアレインへの乗せ換えは完了している。
「そろそろ、」
「・・・そうだな」
シンジとマヤはその場を離れ車へと歩き、乗り込んだ。
車はゆっくりと走り始めた。
「・・ダミープラグは使用されるのですか?」
「・・・・」
シンジは黙ったままマヤの問いに答えなかった。
「・・・そうですか、」


東京、ユイのマンション、
ユイ御手製のホットケーキを2人で食べていた。
「うん、ユイさんの作ったものって何でも美味しいね。」
「うふふ、ありがと、今晩は何が良い?」
「ん〜、何が良いかなぁ〜」
電話が鳴った。
「あら、」
ユイは電話を取った。
「はい」
『今夜、時間が空いたから、』
「これから来るの?」
『ええ・・・ミクに代わってもらえますか?』
「ええ」
ユイはミクに電話機を渡した。
「お父さん?」
『ああ、これから、そっちに行くが、今夜は夕食をいっしょにどうだ?』
ミクがユイの方を見るとユイは軽く微笑んで頷いていた。
「うん、良いよ、」


小一時間ほどして、シンジがやって来た。
「お父さん、いらっしゃい」
「・・いらっしゃい」
「ああ、上がるよ」
その後、3人で軽く話をした後、食事を食べに行く為家を出た。


雰囲気の良いレストランに入った。
「いらっしゃいませ」
3人は予約してあった席についた。
やがて料理が運ばれて来た。
ミクは、学校の事や、友人の事を話し、2人はそれを聞いている。
やがて食事も終わり、3人は店を出た。
そして、2人を送り届け、今、シンジは、夜の町を車を走らせていた。


2016年、第3新東京市、レイのマンション、
「お願い、私をレイの代わりにして!身代わり人形で良い!だから、だから、これ以上!」
腐敗しないように冷凍処理を施された首がカプセルに入れられて11並んでいる。
「・・・奴らを生かせとでも言うのか?」
「で、でも!」
「・・・怖いのか?」
アスカの身体が跳ねた。
「くくく、結局アスカも僕を捨てるんだね」
シンジがアスカにゆっくりと近付いて来た。
「アタシが好きなシンジから変わって欲しくないのよ!」
「違うだろ、アスカが求めてるのは、僕じゃなくて、自分に都合の良い男だろ」
「違う!違う!シンジが復讐に身を染めるのが嫌なの!シンジが変わってしまう!」
「違わないよ」
「レイだって!レイだって!復讐に身を染めるシンジなんか!」
シンジの手が震え始めた。
「あああああ〜〜〜〜!!!!」
シンジは頭を抱えて叫んだ。
・・・・
・・・・
「・・・シンジ?」
・・・・
シンジは虚ろな目をしてゆっくりとアスカの方を向いた。
「・・・シンジ?」
シンジはゆっくりとアスカに近付いて来た。
「・・・綾波・・・」
アスカはシンジの言葉に戸惑い、硬直した。
「・・・綾波・・・」
シンジはアスカの肩を掴んだ。
かなりの力が掛かっており痛みが走る。
「シ・・・」
アスカははっとして言葉を止めた。
「・・綾波・・・」
ぐっと引き寄せられる。
暫くはそのままだった・・・
人の温もりに包まれ、久しぶりに安らかな表情を浮かべる。
アスカはその表情を目にして、ホッと軽く息をつく。
しかし、皮肉かなアスカのその女の肉体がシンジの中の性欲を呼び起こさせる。
やがてシンジの中の性欲が大きくなり、そして暴走を始める。
シンジはアスカの服に手をかけて一気に破った。
「きゃ!」
そしてそのままアスカを床に押し倒した。
「ぐくっ」
「・・・綾波・・・」
「止めなっ」
アスカはシンジの表情を目にしてその先が続けられなかった。
先ほどとは一変して拒絶される恐怖に怯えきった表情。
「・・綾波も・・綾波も・・僕を拒絶するの?」
今、シンジの目に映っているのはアスカではなくレイなのである。
(・・・元々、その為に来たんじゃないの・・・アタシをレイの身代わりにしてもらう為に・・・シンジが壊れない様に・・・)
アスカは力を抜いて身をシンジに委ねた。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
どれだけ経ったのか、シンジは目を覚ました。
ふと辺りを見まわし、そして、足元に自身の欲望に塗れ汚されたアスカが横たわっている事に気付いた。
「・・う、う、うわああああああ!!!」
シンジの叫び声でアスカは目を覚ました。
今、シンジの目にはアスカ自身が映っている。
と、言う事は・・・導き出される結果に直ぐに気付いた。
「・・・シンジ・・・」
アスカは痛みを堪えつつ、上半身を起こしてシンジをそっと抱き寄せた。
「・・あ・ああ・・・アスカ・・・」
「・・・いいの・・・」
「・・うう・・・」
シンジは、アスカの腕の中で涙を流した。


2032年、
(・・・アスカと交わったのはあの一度・・・)
(・・・・それで、アスカは、ミクを身篭った・・・)
(アスカは皆の反対を押し切ってミクを産んだ)
(僕はアスカに偽りの愛を与え続けた・・・多分アスカほどの者なら、気付いていただろうな・・・)
(・・・それでもいつかそれが本当の愛に変わることを信じてなのか・・・・)
(・・・アスカはずっと尽くしてくれた・・・)
(だが、そのアスカ、そして、ミクをも・・・利用している・・・)
(アスカ、ミク・・・二人の想いを踏み躙っている・・・)
(そして・・・多くの人の思いを・・・)
シンジは軽く頭を振って考えを振り払った。
立ち止まるわけには行かないのだ・・・決して・・・
例え・・・何を犠牲にするとしても・・・


沖縄近海をインド洋艦隊が航行していた。
旗艦、航空戦艦マハトール、ブリッジ、
「太平洋艦隊は使徒の襲撃を受けた。我々も受けないとは限らない、警戒は怠らない様にな、」
「はい」
航空機も相当数が警戒に当っている。


同じ頃、マラッカ海峡を大西洋艦隊が航行していた。
辺りは深い霧が立ち込め、視界はかなり悪い。
旗艦、航空母艦ユーロ、ブリッジ、
「・・・視界が悪いな、」
有視界では直ぐ隣の艦を見るのが精一杯である。
「・・今、使徒に襲撃されでもされれば、拙いな・・・」
「はい、」
提督がブリッジに入ってきた。
「・・提督、」
「・・・視界は最悪だな、」
「はい、」
・・・・・
・・・・・
暫くして提督はぼそりと呟いた。
「・・・なんだ?」
「提督?」
何か嫌な感じを受けているようだ。
「・・・何かおかしい・・・・・・警戒を強化しろ、」
「・・・はい、」
暫くは何も変化は無かった。
「・・・・・」
突然、霧の中に何か爆発する光が見えた。
「なんだ!!?」
「前方を航行中のキュリアスが破壊された様です。」
「目標の確認を急げ!!全艦任意に迎撃せよ!!」
次々に艦が破壊される。
「目標は!!?」
「確認できません!!」
「くっ」
レーダーやソナーには反応していない。
視界では確認できない。


東京、ネルフ本部、発令所、
「大西洋艦隊が正体不明の敵と交戦中!!」
『目標は使徒か!!?』
「不明です!!」
『・・・この距離ではとても間に合わない・・・インドネシアとマレーシアの軍隊を出撃させろ!』
「了解!」


シンジはマンションで大西洋艦隊が襲撃されている事を電話で聞いた。
「・・・うむ・・・対応は任せる。私も今から行く、」
シンジは電話を切って直ぐに家を出た。
「・・・使徒に襲撃でもされたのか・・・?」
エレベーターで駐車場に降り車に乗り走らせる。


翌日、ネルフ本部、総司令執務室、
大西洋艦隊はほぼ全滅、生存者は4桁に達しなかった。
「今回の事に関して、詳細は不明です。生存者の証言からも何ら有効な情報は得られませんでした」
シンジは軽く米神を押さえた。
「・・・うむ・・・」
「・・インド洋艦隊は無事に新横須賀港に入港を済ませました。今、ユイ博士が引き取りに行っています。」
「・・・伊吹博士、君の見解は?」
「はい、エヴァを目的にした海賊行為だと思います」
「・・海賊・・・で、敵は?」
「・・・・ゼーレではないかと」
ゼーレの言葉を聞いた瞬間シンジの表情が変わった。
「・・司令?」
「ああ・・大丈夫だ・・」
ゼーレ最高委員の人数は12・・・シンジが狩ったのは11・・・1人生きていた可能性はある。
その最後の一人が、今尚生きている可能性は微妙だが、その者が、崩壊しかけたゼーレを再興させたと言う可能性はありえる。


昼過ぎ、シンジは、東京帝国グループ総本社ビル会長室を訪れた。
「・・来たか」
「はい」
「・・東京帝国グループの方で何か掴んでいませんか?」
「・・・うむ・・・ゼーレの残党が動いた可能性が高い。どうやら、我々が把握していたのは、氷山の一角だったらしい」
「・・・トップは?」
「不明だ・・・ゼーレ最高委員の生き残りの可能性はあるが」
「・・・・・」
「・・・・・」
「現在諜報部門の半分以上を動かしてゼーレに関して再調査をしている。」
「・・・結果が出るまでは待つしかありませんか、」
「・・そうだな、」
「・・・今日はこれで失礼します。」
「そうか、何かあれば何時でも来い、」
「・・はい、」


東京中学Aコース、選抜コース、
休み時間、ミク、安齋、佐々木、安藤の4人が集まって話をしていた。
話の内容は、昨日の大西洋艦隊襲撃に関することであった。
「大西洋艦隊を襲撃し、そして、完全に壊滅させるなんて、信じられないな、」
「そうね、」
ミクは、ダミータイプのエヴァを運んでいたと言うことを知っている。
そのエヴァを奪われた可能性が高いと言うことも、
表情はやはりどこか優れない。
人類が一つになって戦わなければ成らないのに、その中で対立し、更には、その為のエヴァを自分達の為だけに利用しようとして、略奪行為を行う。
「・・・どうしたの?」
「ん・・・ちょっとね・・・・大西洋艦隊はダミータイプのエヴァを運んでいたの」
「ヤッパリそうか、」
佐々木は断定はできないがそうだと思っていた様だ。
「うん、」
「エヴァを目的とした海賊行為ね、」
「ふざけてるな」
「そうね」


学校が終わるとミクは、ネルフ本部に向かった。
インド洋艦隊の運んできた3機のエヴァの点検や整備、大西洋艦隊襲撃等のごたごたで、訓練は30分ほど遅れて始まった。
シミュレーション空間で、初号機、01、02がそれぞれ戦う。
第1戦目は、初号機と01の戦いである。
『行くわよん』
「うん」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
結局、何とか、大破したものの01の勝利になった。
『なかなかよ』
ミサはぐっと親指を立てながら言った。
それに対して、ミクは軽く微笑む事で返した。
次は、01と02なので、ミクは一旦シミュレーションプラグを出て、司令室に入った。
司令室で指揮を取っているのはユイである。
「あ、ミクちゃん、ここで見てる?」
「うん」
ミクはユイの横に立ち、モニターを見詰めた。
この戦闘はミサが勝利し、3戦目の初号機と02との戦闘はミクが勝利した。


更衣室で、着替えながら3人は話をしている。
話題はやはり、太平洋艦隊襲撃の事である。
「ミクはどう思う?」
「・・・エヴァを目的とした海賊行為だと思ってるけど・・・」
「私も同じ意見ね。」
ミクの意見にリコが同意した。
「エヴァを戦争に使おうってえの!?」
「・・・でしょうね、でも、ダミータイプはダミープラグ無しでは起動しないわ、」
「・・ダミープラグか・・」
良く分からないが、チルドレン無しでエヴァを動かすダミーシステムの中核と成る物。
「・・本部ではダミープラグは?」
前回の使徒戦で使用されていた。
「以前のものは破壊された為、新しく研究をしていた様よ・・・完成したかどうかはしらないわ」
「そっか・・・」

あとがき
エヴァを狙った海賊行為・・・その犯人はゼーレと思われる。
さて、これからどうなるんでしょうね。
そして、ダミーを巡る人々は何を思うのか、
それでは、