背徳

◆第4話

東京、ネルフ本部、技術棟、シミュレーションシステム、
3人のチルドレンはシミュレーションで訓練を受けていた。
ミクが成績をぐんぐんと追い上げ、リコを抜かし、ミサに迫っている。
「流石ですね。」
マヤはユイに声をかけた。
「ええ、自慢の孫娘ですから・・・と、言いたいところだけどね・・・」
「・・・そうですね」
エヴァの操縦、それも戦闘技能が高いと言う事は、生き残る可能性がそれだけ上がると言う事である。だが、戦闘技能が高いと言う事は、素直に喜ぶ事が出来る物ではない。
「レベル7からレベル8に移行します。」


総司令執務室でシンジは現在の防衛兵器の配備に関する報告書を読んでいた。
「・・・この程度ではな・・・」
そして、ダミータイプのエヴァの本部輸送状況に目を通す。
太平洋艦隊、大西洋艦隊、インド洋艦隊の3大艦隊が総出で日本に向けて輸送をしている。
それぞれ、4、3、3で、合計10機を運んでいる。
太平洋艦隊が少々遅れているが、3日後には、到着する予定である。
ダミーシステム・・・サードインパクトを引き起こす為に作られたものの一つ、忌むべきシステムである。
だが、人が生き残る為には必要である。
そして・・・レイ・・レナ・・・ダミーシステムの犠牲者。
シンジは手を組んで額を押し付けた。
「・・・ダミーシステム・・・」


翌日、東京中学Aコース、選抜クラス、
安齋、佐々木、安藤の3人と仲良く成った。
「でね、ミクがね」
ミクは、機密事項に触れない程度にエヴァの情報を色々と話していた。
「ふ〜ん」
やはり、知的興味心をそそるのか、3人は熱心にミクの話に聞き入っている。
「で、リコとミクが、」
ミクの携帯電話が鳴り、ミクの表情が真剣に成る。
3人はそれで直ぐに把握した。


ネルフ本部、発令所、メインモニターには使徒と交戦中の太平洋艦隊が映っていた。
ガギエルの時、太平洋艦隊にいたものは再びその恐怖を味わっているだろう。
「第弐拾壱使徒の情報は把握できたか?」
『依然詳細は不明です!』
『司令、初号機と01を輸送しますが宜しいですか?』
「ああ、01は直ちに、初号機はマリーン装備をつけ、ミクが到着次第、発進させろ」
「相田3佐、現場指揮を担当したまえ」
『はっ!』
ケンスケが発令所を飛び出して行った。
『現在ある情報から判断すると目標は、全長200メートル強と思われます。』
「・・・大きいな、」


ネルフ本部付属空港の滑走路には既にウィングキャリアーがマリーン装備をつけた初号機を搭載して待っていた。
01とケンスケは既に飛び立っている。
ミクの乗る高速ヘリが見えて来た。
そして、ヘリが着陸して直ぐにミクはヘリを飛び降り急いで走ってウイングキャリアーに乗り込んだ。
ミクが乗った事を確認してウィングキャリアーは加速を始め、直ぐに空へと飛び立った。


太平洋艦隊、旗艦、飛天、
最新鋭の戦艦である。
対使徒用に様々な兵器を搭載している。
「くそっ!NN魚雷も効果なしか!」
「拙いです!!輸送艦を狙っています!!」
「防げ!!」
ダミータイプのエヴァもエントリータイプには敵わないまでも、それなりの戦力を持っている。だが、それも、ダミープラグ無しでは只の巨大な人形に過ぎない。
輸送艦を取り巻くように展開し、守ろうとしている。
「拙いです!!」
一直線に突き進んでいる。
魚雷や砲撃では何の効果も無い、
更に、フリゲートくらいではその身を持ってしても止める事は出来ず、簡単に粉砕されてしまう。
「くそっ!!」
次々に海の藻屑に去れる。
「輸送艦ガロン破壊されました!!」
任務失敗、輸送も満足に出来なかった。
「ネルフの応援は未だか!!?」
「未だ確認できません!!」
使徒は、次の目標を探している。


ウィングキャリアー、
ミサはエントリープラグの中でじっと到着を待っていた。
『後5分です。』
既に多くの艦が沈んでいる筈である。
『良いか、マリーン装備の初号機が来るまでの、時間稼ぎを目的とし、余裕が有るならば、任意に攻撃する』


後方を飛行しているウィングキャリアーの初号機の中では、ミクがマリーン装備のマニュアルを読んでいた。
内容はかなり難しいのだが、取り敢えず表面的な事と操作法は理解できた。
「ふみ、練習無しってのはちょっと大変かな?」
『ごめんね』
モニターのマヤが謝った。
「いやいや、そんなに気にしなくても良いですから」
『ミクちゃん、気をつけてね』
「うん」


東京、ネルフ本部、発令所、
『エヴァD、駄目です!!』
ユイはシンジが複雑な表情をしている事に気付いた。
「・・・複雑なのね」
シンジは横目で右に座るユイを軽く見た後、軽く頷いた。
「・・ええ、・・・分かるとは思いますが、」
ユイはゆっくりと頷いた。
ダミーシステムが産まれた理由、その被害者、そして、今のダミーシステムの事を考えれば当然であろう。
「・・・」
ダミーシステムは世界中で研究が進められている。
それぞれが独立して・・・・
日本本部には、その技術は無い、或いは低いと考えられえている。
今回、東京帝国グループの圧力もあり、ダミータイプのエヴァを日本に送る事に成ったが、誰がダミープラグまでつけて日本に技術提供までしてやるか、今後要求しても同じ、無駄だと言った事か、ダミープラグは送っていない。
そのせいで、既に1機・・・そして、今2機目が破壊されようとしている。
4機全て破壊されても不思議ではない。
(・・・何時の世も、皆自分の利益の事しか考えていないのね・・・)
それは、多くの政治家や軍人に向けての言葉だが、シンジや碇にも当て嵌まる事でもあり、そして、違うとは言え、ユイ自身もそんなに離れているわけではない。


ウィングキャリアー、
望遠映像で艦隊を捉えた。
猛攻撃を続けているが、次々に沈められている。
『良いか?』
「ええ、」
『直上に投下するから、直接攻撃してくれ、その後は、適当な空母に上がって足場を確保する。』
ミサは頷いた。
『カウント開始、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、』
ロックが外され、投下された。
一直線に使徒に向かって降下して行く。
プログランスを構える。
急速に海面が近付く、一気にプログランスを使徒に突き刺す。
海中に沈む、直ぐに離脱し、空母を目指す。
空母によじ登り、プログランスを構えた。
「・・・」


飛天、CIC、
ケンスケが入って来た。
「ネルフ本部作戦部副部長、相田ケンスケ2佐です。」
「提督を務めているアルフレッドフリードリッヒ中将だ。」
「早速ですがエヴァは?」
「・・・申し訳無い、既に、エヴァGを除いて、全て破壊を許してしまった。」
「・・・エヴァ01が使徒のATフィールドを中和しています。今ならある程度の攻撃は有効です。」
「分かった。輸送艦の護衛を除き、全艦、砲撃を準備しろ」
「タイミングを合わせろ」


エヴァ01、
「きたわねん」
ミサは舌なめずりをして01を加速させた。
使徒が一気に飛び掛かって来た。
漸く姿を表した使徒は、巨大な鯨のような姿であった。
色は、深い青である。
「でやあああ!!」
01は、体捌きで体当たりを交わし、プログランスを短く持って、横っ腹を切り裂いた。
使徒はそのまま空母を飛び越し海中に戻った。
物凄い並と衝撃で空母が大きく揺れる。
戦闘機が次々に海中へと落ちて行く・・・
01は体勢を立て直し、次の攻撃に備えた。
あの巨体である。あの程度では、その能力を僅かに削る程度であろう。
SS機関を持つ使徒にとっては、時間さえあれば容易く修復できる範囲である。
「・・・」
モニターの反応はある程度の距離を維持しているようだ。
修復をしているのか?攻撃の機会を見計らっているのか?
「・・・」
内部電源の残量は刻一刻と減っていく。
「・・・役目から考えるとありがたいのかしら?」
突然急速に近付いて来た。
「え?」
跳ねない、
凄まじい衝撃が走った。
空母に体当たりしたのだ。
次々に爆発が起こる。
「きゃっ!!」
01は空母の爆発に飲み込まれた。


ウィングキャリアー、
ミクは、到着を待っていた。
ケンスケから通信が入った。
『・・・』
「・・・どうかしたの?」
『01がやられた・・・未だ詳細は不明だが、』
「え?」
『こっちに向かって来ます!!』
『何!!?』
それどころではないようだ。
遥か遠方に望遠で太平洋艦隊は捉えている。


飛天、CIC、
今、艦隊のほぼ全火力を集中させているが、ATフィールドが有る以上、無駄で有る。
真っ直ぐに、飛天に向かっている。
「・・・ミクちゃん、本部に直接指示を仰いでくれ、」
『え?』
ケンスケは回線を切った。
「・・・提督、艦長、自爆の準備をお願いします。」
ケンスケの言葉にCICが騒然と成った。
「もはや時間がありません。この艦に搭載している、NN兵器もいっしょに爆破させれば、いくらATフィールドを持っているとしても利く筈です。」
「・・・回避できるか?」
既に、回避行動に入っているが、使徒も、それに合わせて進路を変えて来ている。
完全にこの艦を目標にしている。
「・・・残念ながら、不可能です。」
「分かった。自爆準備を、時間を合わせろ・・・周囲の艦は、直ちに散開せよ」
艦に搭載されているNN兵器の安全装置が解除された。
「あと30です。」
同時に、避難命令も出されており周辺部の逃げ出す事が可能な場所にいる者達は次々に脱出している。
「・・後20です。」
「・・・済みません。」
「いや、気にする必要は無いよ・・・我々の命で、使徒を倒すとまで行かなくても、その役に立つ事が出来るのならば、本望だよ、」
「5、4、3、2、1、」
船体が破壊される凄まじい衝撃が走る。
全てが光に包まれた。


ウィングキャリアー、
艦隊の中に凄まじい火柱そして巨大な水蒸気の茸雲が上がった。
『投下準備完了』
「・・・行くよ、」
ストッパーが外され、初号機が投下された。
初号機は海中へと入った。
軽く体を動かしてみる。
地上とは比べられないが、それなりに軽快に動く、
モニターに、使徒の反応が映った。
使徒は先ほどの爆発でかなりのダメージを負っている様で、赤い血の靄に包まれている。
水中用特殊アクティブソードを振り回してみる。
(これなら行ける)
使徒に向けて一気に加速させた。
使徒は接近してくる初号機に気付き、対応として体当たりを選んだ。
初号機に向けて急速接近してくる。
対して、アクティブソードを構え、接触と同時に一気に突き刺した。
しかし、圧倒的質量差にそのまま弾き飛ばされそうに成る。
突然水中衝撃波が複数発生した。
使徒が苦しんでいる。
「何?」
使徒に魚雷が次々に突き刺さっている。
ATフィールドさえなければ、ダメージは与えられる。
今までに破壊され撃沈された船に乗っていた仲間達の敵討ち、総攻撃が続いている。
使徒はATフィールドを中和している者、初号機を振り落とそうとした。
「くううぅぅ・・・・」
振り落とされては行けない、水面に向かっている。
一気に空中へと飛び出し凄まじい勢いで振られる。
「ぐぅううう・・・」
次々に砲撃が使徒のボディに突き刺さる。
既に半分以上が原型を留めていない。
「・・もう・・ちょっと」
使徒の最期の足掻きを捻じ伏せなくては行けない。
水面に勢い良く叩き付けれ、衝撃が走った。
「ぐふ・・・」
海は真っ赤に染まって来た。
振り回す力も弱く成って来た、使徒はかなり弱ってきているようだ。
次々に魚雷が突き刺さる。
初号機はアクティブソードを引き抜き、一気に斬った。
更に攻撃を続ける。
数撃ほどでコアに直撃でもしたのか、使徒は爆発を起こした。
・・・・・
・・・・・
「・・・ミサは?」
センサーを起動させて01を探す。
『うお〜い』
ミサの顔が映った。
「ミサ!」
『助けてくれる?』
モニターを見ると海底に沈んでいるようだ。
「分かった」
初号機は深く潜り、海底の01を救出した。


翌日、ネルフ本部、総司令執務室、
「・・・・」
机の上にはネルフ幹部とチルドレンの写真が並んでいた。
これがシンジの駒で有る。
シンジはケンスケの写真を手に取り、火をつけた。
写真は炎を上げて灰になった。
「・・・・・」


国際連合最高委員会、
「・・・ダミープラグを、付けない様に判断した理由を御説明頂きたいものですね」
「勿論、技術の流出を防ぐ等と言った事で、人類全体を危機に曝すような愚かな理由ではないと思いますが、如何でしょうか?」
シンジの嫌味にアメリカ大統領は表情を大きく歪めた。
「・・・イギリス、フランス、ロシア、ドイツの各国も、同様でしたね、同じ理由でしょうか?」
別にダミープラグが欲しかったわけでも、本当に人類全ての事を考えて言っている訳ではない。
ここで叩いておけばその後が楽になるからである。
今回の事に関して黙る事を引き換えに、一部権限の増強と、予算の増加を認めさせた。

あとがき
なんだか、随分久しぶりの更新ですね。
背徳シリーズに関しては、不定期更新に成ってしまうと思いますが、
何とか進めていきたいと思います。
感想が貰えるとスピードアップするかもしれませんが・・・・・
それでは、