シンジが目覚めて1時間後、総司令執務室の中央ほどに置かれたパイプ椅子にシンジとレイが座っていた。 あの後検査が行われて、それがやっと終わったと言ったところである。 「さて……どうしたものかな?」 「とりあえず、元に戻すための方法の開発を進めますけれど、一日や二日でできることではありませんね」 「どのくらいかかる?」 「残念ながら、未知数ですね」 「そうか」 碇達の会話を聞いて特にシンジが困った、弱ったと言った表情を浮かべる。 「学校もないし、そう言ったことはしばらくの間は問題ないと思うけれど、普段の生活をどうするかと言うことを考えておいた方が良いわね」 「……どうすればいいのかな?」 シンジがどこか子猫のような目をしながら尋ねる。 「やっぱり、二人がバラバラだと何かと困ると思うから、しばらくの間二人が一緒にいる必要があるでしょうね」 「一緒に?」 「ええ、シンジ、レイ、お互いによろしくね」 そう言われ二人ともうなずいた。 「会長、」 先ほどから少し離れたところに立っていた耕一に声をかけた。 「…やっと声をかけてくれたか、」 「二人のことよろしくお願いします」 「ああ、私でできる範囲のことはしておこう」 ……… ……… ……… 2人が総司令執務室を出ると、通路でアスカが待っていた。 「「アスカ」」 「……食堂行かない?なんか奢ってあげるわよ」 そんなことを言ってくれたが、アスカの表情にはやはり色々と戸惑いが見える。 2人は頷き、アスカに従い食堂に向かった。 (なんか、ちょっと歩き難いな……それにこのスカートって、なんかスースーするし) 体の重心の問題なのか、少し歩き難い。そして、女子特有の服装の特徴も…… 食堂に到着し、アスカはハンバーグ定食、レイはスパゲティ、シンジはホットケーキをそれぞれ頼んだ。 ……… ……… シンジの左にレイがいる……2人にとっては別に意識しているわけではないので、その点では自然で違和感など無いのだろうが、アスカやその他の者から見ると、左右反転してシンジの右にレイがいるのだ。 普段見慣れたものが左右反転すると妙な違和感を感じる。 (……シンジの左はレイ。アタシもそう考えてるわけね) アスカもシンジの左はレイの指定席、そしてレイの右はシンジの指定席であると言うことを認め、それを当然のものとしていると言うことに気付き軽く苦笑した。 「……で、シンジの体にレイが、レイの体にシンジが入ってる訳ね、」 2人は頷き、アスカは軽く溜息をついた。 「こんな小説か何かみたいなことが起こるだなんてねぇ……まあ良いわ、で、どうする事になったわけ?」 「あ、うん……元に戻す準備が出来るまで、一緒にいろって言われたくらいなんだけれど……」 「一緒に?」 「うん……」 「一緒にって、ずっと?」 「たぶん……そうじゃないと、色々と不便が起こるって感じだったし」 「それって何?まさかレイの家で二人で生活するって意味じゃないでしょうねぇ?」 「私はかまわない」 「私がかまわなくなんかないわよ!」 「え?ど、どうして?」 突然叫んだアスカの反応が分からず、シンジが聞き返した。 シンジとレイが二人でいっしょに?そんなのはアスカにとっては許しがたい事である。 しかし、自分自身もはっきりとは分かっていないその理由を言葉に表すのは不可能、かと言って、ストレートに言える範囲で言うと言うのは問題がある。 だから別の問題を持ち出す。 「……アンタ、アタシにあのミサトと2人で暮らせって言っている訳?」 シンジが前回溶けていた時、家はどんな惨状になっていたか……あれは、途中からアスカが本部内に保護され、ミサトも帰ってくる回数が少なかったのにあの状態だった。 シンジは軽く青褪めた。 「……僕が掃除しに行くから、」 「だったらいっそのこと、初めからこっちにくりゃ良いじゃないの」 「あっ、成るほど……レイは?」 「別に、問題無いわ、」 まあ、元々シンジは女顔だし細身で服装次第では女にも見えるが……流石に、見慣れている人間にとっては女言葉を使われると違和感が有ると改めて思うアスカであった。 「……ま、そうと決まったら早速連絡よ」 その後、ミサトとユイからそれぞれ許可を取り、実行の日までレイがミサトのマンションに泊まりに来る事が決まった。 ミサトのマンションに向かう途中、レイの着替えなどを持ってくるためにレイとシンジはレイの家によった。 レイは、タンスやクローゼットなどから色々と服を取り出している。 それらの中には何も無い空間が多く、やはり、その絶対量が少ないと言うのが分かる。シンジもそれを手伝いバッグに詰めて行く。 結局ゴールデンウィークの時の旅行に持って行った時の荷物に、制服や歯ブラシなどの身の回りの物を加えたような感じになった。 そして、ミサトのマンションに到着したが、特にこれといってすることがあるわけではないので、3人はリビングに転がってテレビを見ている。 元々レイも日中はよく来ていて、今のところは特に問題は無い。 やがて夕食の頃合が近づいて来たので、シンジが作りレイがそれを手伝う事になった。 「あ、たまねぎとって」 「…はい、」 「ありがと、それとにんじんの皮むいてくれる?」 レイはこくりと頷き、にんじんをとって洗ってから皮を剥き始めた。 別段不便は無い。 夕食のカレーが出来上がる頃にミサトが帰って来た。 「おかえり」 「おかえりなさい」 「ただいま、」 そして、食事も別段特に変化は無い、只シンジとレイの着席している椅子が反対なだけである。 しかしそんな中、ミサトは軽く顔を顰めていた。 禁酒令のためビールが飲めないので、その手に持つコップにはウーロン茶が入っている。しかし、それ以上の問題は、いろんな人から今回二人をからかうなと言われていた事である。 「葛城3佐、2人を困らせた場合……」by碇 「ミサトちゃん、2人をからかったりして困らせないでね」byユイ 「ミサト……2人を変に刺激して、サルベージ不可能になった場合、ただじゃ済まないわよ」byリツコ 「ミサト君、今回一番辛いのは誰なのかは明白だ。それを察してやってくれ」by耕一 これだけ集中的に言われているのである。今、この2人をからかったら、間違い無くただでは済まない…… からかうことが出来ないが、何かむずむずしてくる。 「し、シンちゃん、おかわり」 「はい、」 大量に食べて鬱憤を晴らす事で、押さえ込む事にした……その結果は、皮下脂肪の量に変わって行くが、 そして、やって来た問題のお風呂タイム。 さて、どうするのか? 「ん〜〜〜〜〜」 唸っているのはアスカである。 アスカにとって、レイがシンジの体なのはそれほど大きな問題では無い。問題なのは、シンジがレイの体であると言う事である。 一番手っ取り早いのは2人が入浴を付き合って、それぞれ教え合うことであろう。勿論大きな問題がある。だが、それ以前にそんなのはアスカが許せる筈が無い。 「ん〜〜〜〜〜〜〜〜」 「……何が問題なの?」 レイはアスカが困っている理由がわからないようで尋ねた。 「シンジがレイの体でむらむら来ちゃうからよ」 「「……」」 アスカの言葉を聞いて2人とも耳まで真っ赤になって沈黙した。 (しまっ……つぅ……) つい口にしてしまった事を悔やむ。 シンジはあんまりにも違和感が無いからなのか、全然意識していなかったようであるが、さっきのアスカの一言で意識してしまったに違いない……いや、意識せざるを得なくなるであろう。 それはレイも然りである。 結局シンジは目隠しをして、アスカが洗ったりする事に成った。 シンジの服を脱がせ終り、今アスカはシンジの手を引いてバスルームに誘導している。 「あ、あのさ、手、離さないでね」 「分かってるわよ」 アスカの誘導でシンジは湯船に浸かった。 体を包み込む湯が暖かくて気持ち良い。 「……ふう……」 「ぷっ、」 「わ、笑うなよ〜」 「ごめんごめん、……ぷぷ……」 シンジは赤くなって鼻の下まで湯に浸かった。 そして、今度は体を洗うのだが…… アスカはシンジの胸をじぃ〜っと見詰めた。 そして今度は自分の胸を見詰め、にやりと細く笑む。 「……あの、さ……まだ?」 座らされたままアスカが何もせず何も喋らないので不安になってきているようである。 「い、今やるわよ、」 アスカはボディソープをスポンジに含ませて泡立て、シンジの体を洗って行く。 (く〜、レイの肌って、こうやって改めて見てみてもホントに綺麗だわね) 染み一つなく、肌に関しては自信を持っているアスカも、流石にレイの肌にはとても……という感じである。 そして、一通り洗い終わったのでシャワーで泡を流していく。 (……気持ち良いな……) その後、風呂から上がってパジャマを着て、やっと目隠しから解放された。 「はい、おわりよ」 「あ、うん、ありがと」 やはり恥ずかしかったのか頬を赤くしながら礼を言った。 「髪乾かすからそこに座って、」 「うん、」 アスカはドライヤーをとってシンジの髪を乾かしていく。 さて次はレイの番であるが、どうする? アスカが洗っても、良いものでもない。ミサトも言うに及ばず。 勿論シンジもと、言うかそれだとアスカ的にはある意味本末転倒。 ……と、言う事で結局レイは、自分一人で入る事に成った。 「……ふう……」 湯船に浸かって、レイは軽く声を漏らした。 十分に浸かった後、体を洗う。 この体はシンジのものである。シンジの体だと思うと、やはり丁寧に扱いたくなる。 丁寧に全身を洗って行く。 その頃トイレでは、シンジが耐えていた。 (見ちゃ駄目だ!見ちゃ駄目だ!見ちゃ駄目だ!見ちゃ駄目だ!) アスカにあんな事を言われたり、お風呂でのことと稼働しても意識せずにはいられなくなってしまっている状況だけにつらい。 「シンジ!未だ!?」 扉の前で待っているアスカから声が飛んでくる。 「あうん、す直ぐに!」 シンジはなるべく見ないようにしながら紙で軽く優しく拭いて水を流しトイレを出た。 夜、ユイがプライベートルームに置かれているパソコンに向かって頭を悩ませていた。 サルベージから結構経っている、未だにユイは本部で寝泊りをしている。 勿論、半端では無く忙しいからと言うこともある。 だが、もう一つ理由はある。 「ん〜〜、困ったわねぇ……」 「……再サルベージの方法?」 その理由でもある室内にいた少女が尋ねてきた。 「いえ、それもあるけれど、今考えているのは違うわ……」 「なに?」 「問題は、シンジね……」 「碇君が?」 「ええ、」 ユイの表情は複雑でどんなことなのかは読めなかった。 技術棟の伊吹研究室でマヤが端末に向かってキーボードを叩いていた。 今回のプログラム担当のメインはユイとマヤで、リツコはマギのプログラムと相互勢力関係の調整に入っている。 しかし、ユイは特別機密レベルが高いことに関するものが主で、マヤの受け持っている範囲はかなり広い。 『碧南ですけれど、宜しいですか?』 「あ、はい。良いわよ」 碧南がファイルの束を抱えて研究室に入ってきた。 「同時シンクロの時のログをまとめ終わりました」 「御苦労様」 ファイルの束を受け取り机の上に置く。 「進みはどうです?」 「そうね……今のところ着実に進んでいるけれど、先はまだ見えないわね」 その頃ミサトのマンションでは3人がどうやって寝るかで困っていた。 部屋は3つ、ミサトの部屋、アスカの部屋、シンジの部屋である。 さて、レイはどこで寝る? 先ず、ミサトの部屋で寝るのは部屋そのものが散らかっており難しい。その上寝相が最悪、よって却下。 次にアスカの部屋、いや、OKと言えばOKなのだが……アスカがシンジ以外の男……ではないのだが、まあ拒絶。よってこれも却下。 最後にシンジの部屋、シンジもレイもOKであるが、アスカが猛烈に反対。よって、これも却下された。 ……暫くの議論?の結果、レイはリビングに布団を敷いて一人で寝る事になった。 シンジの部屋のベッドの上で横になっていたシンジはなかなか眠れないで居た。 この体は、レイの体……恋心を寄せる女の子の体なのだ。 今日色々とあったことから、それを意識してしまって全然眠れない。 「うう〜」 そしてもうひとつ、なぜか無言の圧力を感じている。 それは気のせいではなく、そっと開けられた襖の僅かな隙間からアスカが覗いているのである。 何かあったら確実に飛び込んで来るに違いない。 一方でリビングに敷かれた布団の中では、レイが自分の肩を抱いて寝ていた。 その表情は幸せそうで有るが、どのような夢を見ているのであろうか? 6月19日(日曜日)、早朝、 習慣からシンジが一番最初に目を覚まし着替え様として、はたと思い止まった。 拙い……いや、この部屋に着替えが無い。つまり皆自分の服だと言う事も有るが、それは体格が少し大きい位なので、着ると言う意味では問題無いのだが、アスカに「自分で着替えたら……分かってるわね」とものすごい視線を伴って言われているのを思い出した。 多分、取り敢えず殴られる……蹴られるかもしれないが、 軽く溜息をついた後、シンジはキッチンへと向かい朝食の準備をする事にした。 パジャマの上にエプロンをつける。 ……… ……… 良い匂いがたちこめ朝食の用意が大体出来てきた頃、レイが起き出して来た。 シンジとは違って、着替えは済ませているようだ。 「……シンジ君、おはよう」 「うん、おはよう」 けれどもそれなりにレイは眠そうで有る。 「レイ、ミサトさんとアスカを起こして来てくれるかな?」 レイはこくんと頷いて、先ずはミサトの部屋に向かった。 ミサトの部屋の中にはいったが、シンジがそれなりにこまめに掃除をしてはいるのだが……な、部屋である。 「………この家には、似つかわしく無いわね」 尚、この方が家主である。 「葛城3佐、朝です。」 ベッドの上?で凄い格好で寝ているミサトに声をかけた。 「葛城3佐、」 ミサトの体を軽く揺する。 「ん、んん〜〜……」 でも、起きる気配は無い。 少し強く揺する。 「うにゅぅ〜〜」 なかなか起きてくれないミサトにレイはむっとした表情を浮かべた。 その後もしばらく悪戦苦闘していたが、まるで暖簾に腕押しだった。 「……」 レイは軽く息を吸って、絶対零度の視線でミサトを射貫いた。その瞬間ミサトの動物的勘が危険を察知したのか瞬間的に完全覚醒しその場を飛び退いた。 「……おはよう御座います」 「………?あ、うん……おはよう」 ミサトは先ほどのものは何だったのかと、きょろきょろとしているが、置いておいて部屋を出、アスカの部屋に向かった。 そして、部屋に入る。 見事に女の子の部屋であろう。 レイが見ただけでも今までに買い込んだ物と部屋にある物の容積があわないが…… (……謎ね) 尚、この部屋がアスカの部屋になってから、シンジは殆ど部屋に足を踏み入れた事は無い。 踏み入れられないと言う方が正しいのかもしれないが…… 「アスカ、朝よ」 「ん〜んん〜、」 アスカは目を開きレイの顔をじっと見た。 その顔は、要するにシンジの顔として見慣れたものである。 寝惚けている段階なので、それがレイで有ると言う風に思考が繋がらない。 よって、 「きゃあああああああああ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」 朝食時、レイは見事なまでの紅葉を頬に作りむっとした表情を浮かべながら朝食を食べている。時々、対角線上のアスカをじっと睨む。 それは今朝の早朝の暴行と、もうひとつ、シンジに対してこのような行為を日常的に行っているのか?と言う事でである。 アスカは、心はともかく体が男なのにレディの部屋に入るだなんて決して許されるべき事では無いわよとか、何とか言って結局一言も謝らなかった。 そんな雰囲気がこの場を支配しており、一方でミサトは昨日皆から言われたことも含めからかうこともできず、ビールも飲めないためストレスがたまってきている。 かといってやけ食いですっきりしていたら、そのうち酷いことになってしまう。 (雨だけど……思いっきり飛ばすか、) どうやら、もうひとつのストレス発散方法、ドライブをすることにしたようだ。 それでもやがて気まずい朝食も終わり、日常が再開された。 シンジとレイの位置や立場関係が変わるだけで、さして何かあるわけでもない。 取り敢えず今日は時間があるので、シンジの勉強を二人が指導することになった。 「ど〜してこの程度の問題も出来ないのよ!」 「そ、そんな事言っても……」 「…これは、この公式を使えば良いのよ」 「あ、成るほど」 「そうよ!さっきの問題でもやったでしょうが!」 「ご、ごめん」 やはりアスカはイライラしている様で、ついついシンジに当たってしまっている様だ。 「……買い物行かなきゃ、」 昼食も終わり一服した頃、シンジはそんなことを言いながら窓の外を見た。 雨が降っている。やはり、雨の日は余り外出したくないものだ。 「……どうしたの?」 「あ……うん、買い物に行かなくちゃならないんだけどね」 更にはこんな時に雨だとより憂鬱な気分になってしまう。 レイは少し考えた。 シンジはどうも余り買い物に行きたくは無いらしい。しかし買い物には行かなくては成らない。 「……いっしょに行く?」 途中でどう言う思考を辿ったかは分からないが、レイはいっしょに行けば、シンジの気分は改善されるとでも考えたのであろうか、そう言う提案をした。 「行ってくれるの?」 こくんと頷きで返す。 「ありがとう……アスカ〜!買い物行ってくるから!」 リビングに居るアスカに声を掛ける。 「行ってらっしゃい!」 肯定の返答があったので、2人は買い物に出かけた。 ……… ……… 数分後、 「レイ〜!お茶ちょーだい!」 ……… 「レイ〜!」 「レイ〜!!聞いてんの!!?」 アスカは台所の方にやって来たが、そこは勿論無人である。 「……あれ?レイ〜?」 その頃、そのレイはシンジと一緒に傘をさして道を歩いていた。 第3新東京市の人口もそれなりには回復してきている。 とは言ってもそれは、この町で暮らす者ではなく、この町を復興させる為の労働者達、復興が終われば転出していく者も多い事だろう。今、使徒戦が終了し、天文学的とも言える対使徒予算が大幅に削減された事で、各地で本格的な大規模復興が行われている。 勿論、この第3新東京市も同じであり建設中のビルが並んでいる。 「……よく降るね、」 「そうね」 雨脚はかなり強い、傘をさしてはいるが少しぬれてしまうくらいである。 目的地は少し離れたところにあるスーパーで、資本にネルフが入っている為、特別非常事態宣言発令中でもなければ開いている。ネルフのIDカードを提示すると5%割引されるということもあるのだが、結構利用している。 近道の為に公園を抜ける。 あちこちにできている水溜りを避けながら進む。 道中2人が無言だった時間は長いが、2人で歩いていると言うだけで憂鬱な気分は殆ど感じなかった。 公園を抜け、やがて目的のスーパーに到着する。 「なにか食べたいものある?」 「……これ、」 すごく立派な椎茸がかごに山盛りに積まれていた。 なかなかスーパーでは見ないサイズとクラスである。その分お値段はそれなりではあるが、 「わかったよ、じゃあこれを作ったのにするね」 そう言って買い物かごに椎茸を入れていく。 そして、買い物を済ませ帰り道をそれぞれ一つずつ買い物袋を持って歩いた。 マンションに帰り付き玄関の扉を開けたところ、仁王立ちしているアスカが現れた。 「……ア、アスカ?」 「どうしたの?」 ……… ……… レイは再び頬に紅葉を作って、じぃ〜〜っとアスカを睨んでいる。 「な、なによ!アタシに無断でいっしょに買い物に行ったのが悪いんじゃない!レイだって同罪よ!」 結局、又謝らなかった。本当はシンジをぶちたかったようなのだが、また間違ってレイをぶってしまったようだ。 そんなこともあったが、その後、夕食、入浴、就寝と、進んだ。 シンジにとって、入浴と排泄が気まずかったり、アスカの目が厳しかったりだったが、少しは慣れてきたのか、就寝に関してはすんなりといった。 シンジが眠りに落ちた事を確認して、アスカは襖を完全に閉めた。 「……たくっ、」 どうしてもむしゃくしゃする。 確かに、今日の事は自分にも責がある。いや、自分の責のほうが大きい事が……今はどうしても謝りたくない。 アスカは、リビングで寝ているレイの脇を通って自分の部屋に入った。 一言謝れば済むことなのに、それができない…… 「……アタシって駄目ね」 アスカは一つゆっくりと溜息をついた後、自分のベッドに潜り込んだ。