文明の章

第拾四話

混乱

 6月17日(金曜日)、
 ネルフ本部のケージで技術部の職員がエヴァの調整を行っている中、アンビリカルブリッジをリツコがマヤをつれて歩いていた。
「初号機はコアの変更も行われていますが、起動に問題は無いんでしょうか?」
「零号機のコアだし、修復も完了したから、理論上は問題無いんだけどね……」
 そうは言うものの、所詮理論上でしかないと言うのはこれまでのエヴァと関わってきた中で実感させられている。
 マヤは去年の機体相互間実験の事を思い出して顔を顰めた。
「……結局、原因分かりませんでしたね。」
「ええ、ユイ博士は、問題無いって言っているけれどね」
 エヴァを創ったユイならば、ブラックボックスである部分についても色々と分かっているだろうが、だからといってすんなりと信じると言うことはなかなかできない。
 二人がそんなことを考えていると丁度ユイが前から歩いて来た。
「「おはようございます」」
「あら、おはよう、」
「準備は大体できました」
「明日の実験は予定通り実施できます。」
 二人の報告にユイは軽い笑みを浮かべたが、マヤの少し不安そうな表情が気になって尋ねることにした。
「マヤちゃん、どうかしたの?」
「…いえ…初号機の事が気になって……」
「ん〜、ちょっと、理由は言えないんだけど、大丈夫だから、」
 深層レベルの話はできないからと苦笑混じりに返すしかなかった。一方のマヤはやはり納得出来ず「はぁ…」と生返事を返す事しかできなかった。


 6月18日(土曜日)、A.M.9:00、
 実験室を見下ろす部屋でアスカが搭乗実験の準備をしていた。
「……ママか、」
 ガラス越しに弐号機の赤いボディーが見える。
「一番である必要は無かった。一番見て欲しかったママは、ずっとアタシを見ていたんだから……ほんとバカね、アタシって……」
「シンジの事バカなんて言えたもんじゃないわ、ホント」
 軽く自嘲しアスカはガラスに手を当てた。
「ママ、行くわ」
 そして、いつも通りの手順で弐号機に乗り込んだ。
『プラグ固定完了』
『では、これより、弐号機搭乗実験を開始します。』
 これもいつも通りにリツコの声と共に実験が始まった。
『シンクロスタート』
(あ……暖かい……)
 今まででもうっすらとは感じていた暖かさ、心地良さが、はっきりと感じられる強いものとなっている。
 キョウコがエヴァの中、弐号機のコアにいると知り、それを意識したからであろうかと思い当たった。
(……ママ、ママなのね、)
 包み込む存在を意識すると、いっそう明確なものとなりアスカを包み込む。
(ママ、ごめんなさい……そして……ありがとう……)
 アスカの目からこぼれる涙は、LCLの中を漂い混じり合っていった。


 一方の司令室の機器に表示されているアスカの弐号機とのシンクロ率は80.6%だった。
「凄いわね……」
「暫く、空けていた筈なんですけどね、」
「ど〜お?リツコ〜?」
「新記録、80.6%よ」
 その声は弐号機のプラグにも通信で伝えられ、大幅な更新にアスカが得意そうに胸を張った。
「こちらは何の問題もありませんね」
「ええ、では次ね」
「じゃあ、シンジ、準備は良い?」
『あ、うん』
 ユイの声に頷き、シンジは初号機に搭乗した。
「準備出来ました」
「では、シンクロスタート」
 そしてはじき出された値は64.5%だった。
「アスカの場合と違って随分低くなりましたね」
「間隔が空けば普通はこうなると思われますが」
「答えは単純。零号機が健在だったとして、シンジを零号機に乗せたら殆ど同じシンクロ率になるわよ」
「……そうでした」
 前回の初号機での結果と比較をしていたが、比較するならば零号機への搭乗結果を基にしないと意味はなかった。
「アスカについては?」
「秘密を教えたらからね」
「……なるほど」
「シンジ、もう良いわよ、レイと交代して」
『うん』
 そしてレイと交代して、同様の実験が行われた結果、シンクロ率は68.55%とはじき出された。
「シンジ君を降ろして、レイを乗せる?」
 リツコがミサトに尋ねると、「ん〜、勿体ないわねぇ」と返す。
「……そういや、二人いっしょに乗ったらどうなんの?」
 ふっと思いついた事をリツコに尋ねてみる。
「え?二人同時?」
 答えを出せず、ユイの方を見て意見を求める。
 そのユイも少し考えたが、その結果は「面白いわね、興味はあるわ」であり、こうしてまず、シンジとアスカが弐号機に乗ることになった。


 シンジは実験室に拘束されている弐号機を見詰めた。
「弐号機か……」
「どうしたの?アタシのママに会わせてあげるわよ」
 アスカの言葉にシンジは軽く頬を染め、アスカはシンジの頬を軽くひっぱたいた。
「ほら、バカシンジ、行くわよ」
「ふあ〜い」
 頬を押さえながらアスカに続いてエントリープラグに入った。
「せ、狭いわねぇ!」
「し、しかたないだろ」
 一人乗りのエントリープラグに二人が乗り込む、それも操縦席に……狭いのは当然である。
「ちょっと変なとこさわんないでよ!」
『はいはい、喧嘩はそのあたりにして進めるわよ』
 色々とトラブルっぽいこともあったものの、プラグが弐号機に挿入され、エントリーは進んだ。
『シンクロ率88.66%よ』
 はじき出されたシンクロ率をマヤが伝えてきた。
「ふ〜ん、大して上がらなかったわね」
『ハーモニクスやその他の数値も、殆どアスカ単独よりは良いと言った程度ですね、』
『そうね……じゃんけんをしましょう。シンジ右手でパーをだして、アスカちゃんはチョキ……良いわね』
「あ、はい」
「あ、うん」
 いまいち意図がよく分からないが素直に従うことにした。
『じゃあ、行くわよ、じゃんけん、ぽん』
 弐号機はチョキを出し、「当然」等とアスカはどこか得意そうにしている。
『瞬間的に弐号機のシンクロ率が23.55%まで下がりました』
『じゃあ、次は2人ともグーよ、じゃんけんぽん』
 今度は至極当然だが、弐号機はグーを出した。
『最高値は111.22%です』
『これで分かったわね』
 そうは言われてもシンジにはいまいちピンとこなかったのだが、アスカの方は納得顔をしている。
「2人が違うことを考えると減殺され、同じ事を考えると跳ね上がる。そう言うことですね」
『じゃあ、ユニゾンね』
『そうね』
「そうね」
「なるほど、そうだね」
『???』
 アスカが言ったことで理屈が分かったシンジも含めみんな分かったが、ユイ一人だけ理解できずに首をかしげていた。
 それでも暫くしてなんのことか思い当たったようだ。
『……イスラフェル戦ね、なるほど、ひょっとしたら使えるかも知れないわね』
『アスカとシンジ君のユニゾンは結構手間取ったけど、レイとシンジ君は、一発で完璧だったわよね』
 ミサトの言葉にヒクッとアスカが反応する。
『そうね、零号機は使えないわけだし、試してみても良いかも知れないわね』
 リツコもそう言うのだが、ユイだけは悩んでいるようだ。
『ユイ博士、宜しいですよね?』
『……マヤちゃん』
『はい』
『シンクロ率にストッパーかけられる?』
『あ、はい、一応補助的な物でしたら』
『では、許可します。シンジ、良い?』
「……良いけど、」
「なんかユイさんの様子が変ねぇ……第一、2人足しても130やそこらなのに」
 シンクロ率のカウンターストップは400%以上であるのに、ユイは何を心配しているのかと、こちらまで心配になってきてしまう。


 そんなこともあったが、作業自体はトントン拍子に進み、直ぐに初号機での二人の準備が整った。
「そう言えば、さっき乗ったとき、なんかいつも感じてた暖かさって言うか、心地よさがなかったと思ったんだけれど、母さんがいないからなのかな……」
 ガラス越しに初号機を見つめながらそんなことを漏らす。
「多分そう」
「やっぱりそっか、」
「……行きましょう」
「そうだね」
 二人がプラグに入りこんだが、当然直接体が触れ合う。
 こうやってふれあえることは嬉しいが、モニターされている恥ずかしい……と言うことで二人とも頬を赤くしている。
『では、これより始めます』
 リツコの声でシンクロがスタートした。
 そして、ステージが進むと同時にそれぞれ相手のイメージが直接流れ込んできた。
(あ……レイの感じが伝わってくる)
(これ……シンジ君の感じ。暖かい……)
 自分のすべてが満たされていく……それは今までに感じたことがないような心地よさであった。


「なんか、2人ともずいぶん心地よさそうねぇ」
「アタシの時とはずいぶん違うみたいねぇ〜」
 アスカの声には多少の怒気を含んでいる様な気もする。
「……シンクロ率、!」
 そんなアスカの様子を微笑ましくも思ったが、仕事は仕事とシンクロ率の表示に目をやったマヤが絶句することになった。
「マヤ?どうしたの?」
「さ、322.88%です」
「「「「「何ですって!!!」」」」」
 予想を遙かに上回るとんでもない数値に司令室の雰囲気が一変して緊迫した物になった。
 そして、何かあったのかな?とでも2人共が思ったのか、モニターに映る二人がそう言った表情を浮かべた瞬間、グラフが一気に上昇し始めた。
「シンクロ率が急速に上昇してます!!」
 そして、安全装置が作動する筈のシンクロ率を突破してもシンクロ率の上昇は止まらなかった。
「安全装置が作動しません!!」
 マヤが悲鳴を上げ、オペレーターが必死に事態を打開しようとする中、ユイは手元のモニターにあってはならない文字を見つけた。
「直ちに全回路強制閉鎖!!!!」
 ユイの叫びと共に全オペレーターが緊急ボタンを押し、リツコが緊急レバーを引く、
「シンジ!!レイ!!!」
 アスカやミサトは何が起こっているのか分からず、当然当の二人にも分からない。
 オペレータ達の努力もユイの叫びも虚しく、シンクロ率が暴走し、まもなくエントリープラグが外界から遮断された。
(カスパー……ナオコさん、酷すぎるわよ)
 モニターに表示されているカスパーの文字を睨む……しかし、それだけで何か解決するはずがない。
 一つ大きく溜息をついく。
「……この事件に関する事項をセキュリティーレベル5に指定し、口外を禁止します。そして、更に、本件に関するマギの干渉は、メルキオールのみ許可されます」
 リツコとマヤが不可解な顔をしてモニターを覗き込んだときその理由を理解した。
「二人のサルベージは準備が整い次第開始することにします」
「とりあえず、暫定処分として発案者のミサトちゃんは禁酒一ヶ月ね」
「そ、そんなぁ〜!!!」
 ミサトは叫び声を上げ、周りの者はそれが最も効果的な罰であることが分かり納得した。
「ほかの者の処分は後ほど司令部から正式に発表する事になると思います」
「正式に通達があるまでは、現状の分析とサルベージの準備を」
 ユイが事務的な話をしていく中、アスカは無言で何も映っていないモニターを見続けていた。


「シンジ君とレイが同時に溶けたと……」
 冬月が報告書を片手にこめかみを押さえた。
「……はい、」
「サルベージ計画を準備が整い次第に実行します」
 リツコが答える。
「どのくらいかかるかね?」
「準備は明日の朝には終わります。その時に二人を呼び出します」
「マヤ、作業に取りかかるわよ」
「はい」
「カスパーが使えないから大変だろうけど…」
「大丈夫です」
 ユイの声にリツコはキッパリと言いきってからマヤを連れて退室した。
 二人が退室して暫くしてまたユイが大きな溜息をついた。
「今、ネルフは危うい状態なのかもしれませんね」
「……そうだな」


 シンジは思念の海で目を覚ました。
「………ここって事は、また溶けちゃったのかなぁ……」
 真っ白な空間には変わりは無いが、今度は最初から自分の体が存在する。
 そのことをどういう事だろうとは思ったが、しばらくして大した問題ではないだろうと言う答えをだした。 
「……一人か、」
 以前はユイ、とは分からなかったが、ユイがいた。しかし、今は一人で思念の海を漂っている。
 それからどれだけ経っただろうか、うとうととしていたのだけれど、誰かの気配を感じて一気に目が覚めた。
「だれ?……レイ?」
 しばらくしてレイがシンジの目の前に現れた。
「シンジ君……」
「レイもなんだね」
「ここは?」
「たぶんエヴァの中だと思う。前に溶けた時と同じだから」
「そうなの」
「うん」
 そんなやりとりをした後、二人はその場に並んで座った。と言っても座った姿勢になるだけではあるが、
 それからしばらく沈黙が流れていたが、シンジの方からそれを破った。
「……二人だけだね」
「そうね」
「……サルベージまでどのくらい掛かるんだろ?」
「前回は、1月程度かかったけれど、今回はそのデータもあるし何よりもお母さんがいるからもっと早いと思う」
「そうだね……」
「早く戻りたい?」
「うん。もし、一人だけだったら勿論だけれど、レイと一緒でもレイしかいないしね」
「……そうね、」
「早く戻れると良いなぁ」
「ええ」
 そんな話をしていたが、しばらくして再び沈黙になった。
 それからまもなくレイがシンジに体を預けて来て、レイの方に視線をやると静かな寝息を立てていた。
 シンジは軽くふっと笑みを浮かべ、自分も体をレイに預けて寝る事にした。
 二人が眠りに落ちると思念の海は本当に静寂の空間となった。 


 そのころミサトのマンションではアスカはやけ食いをしていた。
「まったく、くそ…ぶつぶつ……」
「あんまり美味しくないわね…ぶつぶつ…」
 愚痴を言いながらインスタントのラーメンを啜るのだが、その食べているもの自身が新たな要因にもなっている。
 そんな様子を見ていたミサトが缶ビールをアスカに差し出した。
「まあまあ、そんな時は飲んで忘れちゃいなさいよ」
「……そね、頂戴」
 一瞬逡巡したが缶ビールを受け取り一気に飲むことにした。
「ごく、ごく、ごく……ぷはぁ〜!」
「良いのみっぷりねぇ、さっ、飲みましょ」
「良いわ今日はとことん飲んでやるわ!」
 二人は夜遅くまで飲みつづけた。
 只、ミサトは禁酒令のため、ジュースやウーロン茶であったが、


 ユイは様々な数列が書かれた紙に書き込みをしていた。
 シャーペンを置き、いったい何度目になるのだろうかという溜息をついた。
「あそこまで一気に跳ねるとは予想外だったわ……」
 そんな独り言を言ったときちょうど来客があった。
『私だが良いかな?』
「…どうぞ」
 ユイはドアを開き耕一を招き入れた。
「お茶を入れますね」
「ああ、ありがとう」
 そしてお茶を飲みながら、今回のことについての話を始めた。
「シンクロの暴走、とカスパーの反乱となっていたが……」
「ええ、どちらも予想はできたことなのですが……私のミスですね」
 少し俯き加減に言う。
「そうかもしれないが、サルベージが確立されているからそれほど心配はないと思うのだが……?」
「確かにそうではあるんですが、今回はサルベージ対象が2人なんです」
「……ザ・フライとか言う映画があったな」
「?……なんです?」
「いや、気にするな。それよりも簡単にはいかないかもしれないと言うことだな」
「ええ、」
「運を天に任すか、」
 

 一方、リツコは研究室でサルベージ計画を作成するのと平行して、今回のシンクロの暴走に付いても考えていた。
 通常で考えれば100台前中盤、多少相乗効果が起こったとしても、200を超える事は無いであろう。
 しかし、ユイは初めから300を超える危険性を考えていたようである。リツコも含め皆が100台の数字を考えている時、ユイだけが200後半から300台を考えていたのだ。
そして、実際には400を簡単に超えた。
 ユイの予想をも大きく上回ったのはユイの見当違いだったのだろうがが、今リツコが持つ或いはアクセスできる情報の中に、2人のシンクロ率が200を大きく超えるような要因になりそうなものは見当たらない。
 ユイだけが知っていた。そして、今もユイだけが知っている機密だろう。
 それは、シンクロに関することなのか、或いはシンジとレイの関係に関することなのか……後者の方が可能性は高そうでは有る。パーソナルパターンの一致、ユニゾンの完成。
 それぞれの左右が指定の空間になっていると言うのは表面的な事に過ぎない。
 本質は、内面……もっと深層の事であろう。……そして、ユイの実子たるレイと、今のレイの関係は?
 分からない事、気になる事は沢山有る。
 だが、ユイはそれに関してそう簡単には口を開かないだろう。
「……まあ、今考える事ではないわね」
 今はそう言った考えを置いておいて、プログラムの作成・修正に集中することにした。


 6月18日(土曜日)、
 朝のまだ早い時間に提出されたサルベージの概要を耕一、碇、冬月の3人が読んでいる。
「二人の融合等の危険性を考え、その場合安全にサルベージの行程を逆行できる様にしました」
「これならば良いんじゃないだろうか?」
「ええ、良いと思いますね。……碇、おまえは?」
「問題無い。赤木博士、直ぐに実行に移したまえ」
「はい」


 それから色々と準備が進められたが、昼前にはすっかり準備が整いミサトとアスカも呼び出された。
 しかし、その内の一人アスカが頭を押さえて司令室に入ってきた。
「アスカ、二日酔い?」
「あ……うん、」
 結構だるそうである。
 一応ミサトを軽く睨んでおくと、勢いよく首を振って「私は飲んでないわよ!」とアピールしてきた。
「まあ、仕方ないわね、これ、薬、飲んで置きなさい、」
 こうなる可能性が高いだろうと思って用意しておいた二日酔いの薬を渡した。
「リツコ、ありがと、」
 しばらくしてユイが司令室に入ってきた。
「二人ともおはよう」
「「おはようございます」」
「三カ所だけ直したから、リツコちゃんの方でもチェックして」
「はい」
 ユイからファイルを受け取ると早速端末に向かって、その部分のチェックを始めた。
 そしてそれらも終わり、開始予定時間間際になると耕一、碇、冬月の三人が司令室に入ってきた。
「準備は?」
「最善を尽くしました」
 碇の問いにユイが返した答えは、不安や心配が現れていたのか微妙な答えだった。
「これより、サルベージを開始する」
 碇の言葉でサルベージが始まった。
 その後、何の支障もなく極めて順調に進んでいき、2人はエントリープラグから回収された。
 みんなが喜び合い司令室が沸き上ってはいたが、ユイだけは喜んでいる風には見えなかった。

 
 ネルフ中央病院の特別病室のベッドにシンジとレイの二人が寝かされていて、耕一、ユイ、レイ、アスカ、リツコ、ミサト、マヤが部屋で二人の目覚めを待っている。
 他のメンバーは両司令は今回のことで遅れてしまっている仕事を片づけていて、カヲルの方は碧南指揮による実験となっていたが、それも終わったらしく碇と冬月がやって来た。
「シンジとレイは?」
「まだですが、そろそろ目が覚めるはずです」
 リツコがそう答えた直後、シンジが目を覚ましゆっくりと瞼を開けた。
「シンジ!」
 それに気づいたアスカが真っ先にシンジの名を呼んだ。
「……アスカ?」
「バカシンジ!このアタシを心配させて!」
「……シンジ君はバカじゃない」
 まるでレイのような言葉を返し、その場にいた全員が「は?」と言ったような声を同時に漏らした。
「……何故、私をシンジと呼んだの?」
「シンジ、巫山戯ていると怒るわよ」
 青筋を浮かべているアスカに対しシンジは首を軽く傾げるだけである。
「レイ?」
「はい」
 ユイの呼びかけにそう返してきて、ひょっとして……みたいに考えられた者もいた。
「……レイ、隣のベッドに寝てるのは?」
 言葉に従い隣のレイが寝ているベッドに視線を向け、首を傾げて考え始めた。
「……3人目?」
「いえ、多分シンジよ……レイ、自分の体を確認してみて、」
 体をぺたぺた触る。
「……シンジ君の体?」
 そして、体の匂いをかぐ、
「……シンジ君の匂い」
「あ〜あ〜、シンジ君の声……」
 それは分かった。だが、なぜ?と言った感じで本人が困ってしまった。
「このパターンは考えていたのか?」
「可能性は……リツコちゃん、説明お願いできる?」
「はい、」
「……今回、サルベージのイメージ、この世界への執着として、それぞれのイメージを使用しました。しかし、それによって、お互いをイメージし構成してしまったものと思われます。通常であれば、構成出来ないのですが、その場に相手の体を構成するものが存在する為に起こってしまった。二人の同時サルベージによる事故と言うことですね」
「……どうするの?」
 シンジ(レイ)が尋ねる。
「……それはこれから考えるわ」
 そんな話をしていると、レイ(シンジ)の覚醒が近いのか軽く声が漏れた。
 全員の注目が集中し、ゆっくりとレイ(シンジ)が目を開く、
 視界に飛び込んで来るのは、何度も見た病院の白い天井、
「……また、この天……あれ?」
 自分の声が妙な事に気づいた様だ。
「なんか、声が?」
「……シンジ、」
 ユイがレイ(シンジ)のベッドの脇に立つ、
「あ、母さん、」
 レイ(シンジ)は上半身を起こし、そして隣のベッドで自分が自分を見詰めているのを見て、摩訶不思議と言った顔を浮かべる。
「……シンジ、良く聞いてね、」
 そうして、ユイの口から何が起こったのかを伝えられた。
「えええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
 レイ(シンジ)の叫び声が病院に木霊した。
 
あとがき
 文明の章全面改訂版を実際に書けるのはまだずいぶん先になりそうなので、キリがあまりよくないまま凍結になり未公開の話がずいぶん残っていたこの作品を、今回とりあえずキリが打てそうなところまで修正しながら進めることにしました。
 3年近くも前に書いた作品と文章がベースになっているのに本格的な改訂ではないので、つたない部分が多く、また物語のキリがつけられそうなところまで進めるというものであって、物語を収束させるというわけではありませんので、未回収の伏線が相当数残ってしまいますが、未熟者があまりに風呂敷を広げすぎた結果です。
 それも含め、この作品から得られた反省点を今後の作品に生かしていくつもりですので、もし笑ってそれらのことを見逃してくだされば幸いです。
 なお、第27話頃で一応のキリがつけられると思います。