文明の章

第六話

◆3人だけの修学旅行、名古屋で

4月29日(金曜日(緑の日))、早朝、新横須賀駅、
シンジ、アスカ、レイの3人だけで修学旅行の代わりとして旅行に行くのだ。
ミサトとユイが見送りに来ている。
「じゃあ行ってらっしゃい」
「行ってきます。」
「行ってくるわ。御土産期待してて。」
「・・行ってきます」
「行ってらっしゃい」
3人は新幹線に乗り込んだ。
『4番ホームより第1東海道新幹線下り、ひかりH−225号、間も無く発車します。』
3人は自分達の席に座り窓越しに二人に対して手を振った。
ミサトとユイも手を振って返している。
列車が走り出した。
駅を離れ直ぐに市街を抜け、最高速度に達し沿岸線沿いに西へと進んでいる。
「でも・・考えてみたら、アスカも良い事言い出すよね。」
余りに突飛では有ったが良い事である。
「使徒の所為で修学旅行、行けなくなっちゃたんだから私達だけで行くのよ。」
レイは缶の紅茶を飲んでいる。
「レイ、」
「・・何?」
「トランプしよっか?」
何時の間にかアスカは右手にトランプを持っていた。
「・・別に構わないけど・・・」
「じゃあ、大富豪やるわよ。シンジ切りなさい。」
「え?僕強制?」
シンジは自分を指差しながら尋ねた。
「うん」
キッパリと言われてしまい終始無言でシンジはトランプを切った。
「アスカ、」
レイがアスカを呼んだ。
「何?」
「・・どう言うルール?」
「知らないの?」
「・・知らない、」
「しょ〜が無いわねぇ〜」
アスカはレイにルールを説明した。
「・・・理解したわ」
「じゃあ始めるわよ。」
「じゃあ5組に配って、」
「はい、好きなのとって。」
・・・・・
・・・・・
「初めはアタシから、3、2枚。」
「4、2枚」
「じゃあ、5、2枚」
「7、2枚」
「J、2枚」
「Q、2枚」
「A、2枚」
「・・無いわ」
「パス」
流れ。
「ハートの8、9、10」
「・・無いわ」
「パス」
流れ。
「Q、2枚!上がりっ!」
アスカの勝利。
その後、新名古屋駅に到着するまで何度も行われたがアスカは7割強の勝率を叩き出した。


新名古屋駅、新幹線ターミナル。
第1東海道(東京、新横須賀、静岡、浜松、豊橋、旧名古屋、新名古屋、大垣、米原、京都、新大阪)、第1中央道(東京、甲府、飯田、新名古屋)、第2中央道(東京、甲府、諏訪、第2新東京市、塩尻、伊那、飯田、旧名古屋、新名古屋)、北陸新幹線(新名古屋、米原、敦賀、福井、金沢、富山、上越)の相互乗換えが出来る場所である。
今旧名古屋ターミナルステーションの方にもターミナル機能を移そうとしているが、未だ完成していないため、ここはかなり混雑する。
実際、今も人で溢れている。
3人が新幹線から降りてきた。
「漸く着いたわね。」
「アスカ、行こうよ。」
「そね」
3人は新名古屋駅を出て、タクシー乗り場でタクシーを拾って、第1目的地に向かった。


岐阜県新名古屋市長良川文化美術館。
「ここで、待っててもらえますか?」
「ああ、分かったよ」
3人は、タクシーに表で待っててもらい美術館に入った。
色々と見て回りつつ、今は、油絵が展示されている5階にやって来た。
数々の油絵が並んでいる。
シンジはふと良い感じの川の絵が目に止まった。
作者は鳳喜一と書かれている。
(えっと・・・鳳喜一・・誰だろ?)
アスカは、少し離れた所の池の絵を見ている。
「ふんふん、光加減が良いわね」
「・・・」
レイはシンジの左にじっと立っている。
油絵には余り興味はないようで、シンジもそれは感じ取った。
「・・次行く?」
レイは頷き、二人は別の場所に行く事にした。
「ふんふん、これも良いわね、」
一方のアスカは二人がさっさと別の場所へ歩いていった事にも気づかないほど熱心に油絵を見ている。
・・・・・・
・・・・・・
暫くして、アスカはシンジとレイがいない事に気付いた。
「・・あれ?」
フロアを見まわす。
「・・・む〜、」
・・・・・
・・・・・
アスカが二人を探す中、その頃その2人は8階のCGアートを見ていた。
展示室の中央ほどにある天使&悪魔VS人間と言う滅茶苦茶壮大なCGである。
しかも非常に大きい。
レイがシンジの裾を引っ張った。
「何?」
「・・この作者、」
「ん?」
《聖戦  皇耕一 蘭子 榊原 吉川 共作》
「あ・・会長だ。」
「・・他の人達は秘書官、」
「会長がこんなのを書くって事は・・・やっぱり何かあるのかな?」
「・・・どうかしら?」
二人はCGを見上げた。
・・・・
・・・・
・・・・
その後も暫く2人で館内を見て回っていたら、アスカがのっしのっしと近付いて来た。
「な・・・なに?アスカ」
(お・・・怒ってる?)
「このアタシを置いて2人でいこ〜た〜良い根性してんじゃない」
「そ、そんな事言ったって・・・」
「・・・アスカが集中していて私達に気を払わなかっただけよ、」
「う・・・」
冷静にレイに突っ込まれアスカはたじたじになった。
・・・・・
・・・・・
その後は、3人で色々と館内を見て回った。


待たしていたタクシーに乗り込み中心街へと移動した。
歩行者天国の両側にはずら〜と凄まじい数の商店が並んでおり、多くの人が行き来している。
「さてと、いっぱい買うわよぉ〜」
今までネルフから支払われていた給料は、成人するまでは大きな使用制限がつけられる事になっていたのだが、今月からの給料は地球連邦統監府から直接支払われ、その半額は一切の制限が無く自由に使え、その自由に使える額だけでも物凄い額に成る。シンジは額までは知らないのだが、この他にも、使徒戦勝利の褒賞としてそれぞれ莫大な金額の物を与えられていた。
(別に気合入れなくても・・・苦手だな・・こう言うとこ、)
レイもシンジと同じく人込みは苦手である。
しばらくアスカに引き摺られるかのように付いて行ったが、余りの人の多さに、とうとう嫌に成った。
「あのさ・・アスカ、」
「何?」
既に3人とも両手に紙袋を持っている。
「こう言う人ごみ苦手なんだ・・・だから・・ちょっと別行動して良いかな?」
「ん?」
「・・私も、」
「む?」
アスカは二人の事と、これから行くつもりの雑誌で調べて来た店の事を考えた。
実際、シンジもレイもこのまま連れて行くのは二人には辛いだろう。それは二人の様子を見れば容易くわかる。
しかし、かと言って、折角来たのだ・・・
・・・・・
・・・・・
暫く悩んでいたが、結局のところ、まあこの旅行はまだまだある。1回くらい・・・と、
「・・仕方ないわね、1時についたところに集合ね、」
2人は頷き、歩行者天国を離れた。
暫く適当にぶらぶら歩いた後、少し早いが昼食を取る事にした。
「・・・」
レイは目に付いた高級そうなレストランに入っていった。
「あ、レイ、」
給料だけでなくユイからもたっぷりとお小遣いを貰っている。
財布の中身を確認してから、レイを追って店に入った。
店内は、見掛けと違わずそれなりに高級感がある。
メニューを見てみると確かに高いが、予想程ではなかった。
2人は肉が入っていない青風コースという物を頼んだ。
・・・・・
・・・・・
順番にメニューが運ばれ来る。
・・・・・
・・・・・
どれも美味しい物ばかりで、少々高くついたが、十二分に満足できる料理であった。
「美味しかったね」
「・・ええ、」
「・・ここは私が持つわ。」
レイは伝票を持ってレジへ向かった。
「あっ、レイ・・・」
(いや、女の子に払わせると言うのは、幾らなんでも、)
シンジも少し慌ててレイを追いレジへ向かった。
「お会計は、1万3650円になります。」
シンジは慌てて財布を出して自分が支払おうとしたが、それよりも早くレイは財布からすっと2万円ほど取りだし支払った。
(あちゃ〜)
結局レイに支払わせる形に成ってしまった。
会計が終了し、二人は店を出た。
道を歩きながらシンジはここはせめてレイに何か買って上げなくては格好がつかないと思い、何か無いかと周囲の店に目を配った。
・・・・
(何か・・良いものは・・・)
・・・・
暫く歩くと、小奇麗なアクセサリー店が見つかり、シンジはその店に入るようにレイに持ちかけ、レイは頷いた為、二人はそのアクセサリー店に入った。
店内には様々なアクセサリーが展示されている。
「・・レイ、何か欲しいの有る?」
(取り敢えずこれぐらいはしないと格好がつかないよな・・・)
レイは色々と見ている。
そして、近くの棚に陳列されていたアクセサリーの中から一つ、三日月をモデルにした銀製の小さなブローチがレイの目にとまった。
(・・・シンジ君は、私には月が似合うと言った・・・・・月・・・)
「・・これ、」
その三日月をモデルにした銀製の小さなブローチを手に取った。
「分かったよ」
シンジはレイからそのブローチ受け取り、レジに持っていき買った。
そして、軽く包装されたそのブローチをレイに渡す。
「・・有難う。」
なにか、レイは嬉しさ半分恥ずかしさ半分と言った感じだ。


1時に集合した時、アスカは両手に一杯袋を抱えてしかも、足元にもいくつか袋を配置して待っていた。
「「・・・」」
その光景を見た時二人は、只沈黙するしかなかった。
「遅かったわね」
「・・・ひい、ふう、みい・・・・」
シンジは袋を数えている。
「・・・・」
「な・・・何よ・・・」
(ついてかなくて良かったぁ〜)
「まあ、良いわ、行くわよ」
タクシーが迎えに来たので、3人は荷物をトランクに積め込んだ。
その後、一路、旧名古屋へと向かった。


名古屋府、旧名古屋市、中央区、セカンドインパクト記念館。
セカンドインパクトで消滅した国会議事堂跡に建てられている。
3人は、シアターに入ってセカンドインパクトについての話を聞いている。
「で、南極に落ちた大質量隕石による津波でこの名古屋は大打撃を受けてしまいます。では、その貴重な映像を含んだビデオをご覧下さい。」
正面スクリーンに映像が映し出された。
セカンドインパクト前の名古屋の様子である。
『名古屋、それはこの日本国の首都であり遥か昔から栄えてきた都市です。起源は・・・【中略】・・・、そして、あの悪魔の出来事が起こりました。』
長々と名古屋の説明が終わった後、
『大質量隕石の衝突による大爆発、人類史上最大の災害、セカンドインパクトです』
『衝撃波が世界中を襲い、甚大な被害が出ました。』
ニューヨークの映像である。ビルが倒れたりして凄まじい被害が出ている。
『しかし、真のセカンドインパクトの恐怖は未だ始まってもいませんでした。』
凄まじい津波のCGである。
『高さ数十メートルにもなる津波が訪れたのです。』
『津波は凄まじい速度で世界中の都市を飲み込んで行きました。』
名古屋市の実際の映像である。
パニックに陥った住民達が逃げ惑っている。
『そして、遂に津波がこの名古屋に襲来しました。』
津波は堤防をいとも簡単に飲み込みと市街へと流れ込んで行った。
次々にビルが押し倒されて行く。
『当時の日本の首相は、副総理、官房長官と共に首相官邸に留まりました。』
『これは麻耶国際連合事務総長と首相の最後の電話による通話です。』
『はい』
『何故そこにいる!?』
『私達はこの日本の首都と命運を共にします。既に首相代行に高田が就任しました。私達はここに残る義務があります。』
地響きがし始めた。
『何を言っている!!!!!さっさとそこからにげんかぁ!!!!』
『もう遅いですよ。』
音がやかましくなった。
『何を・・・』
電話が切れた。
セカンドインパクト翌日の名古屋の惨状である。
『津波により名古屋市民の20%近くが尊い命を落とす事になりました。』
『そして、9月20日、某国の新型爆弾により名古屋は文字通り消滅しました。』
『松本、現在の第2新東京市に置かれた暫定政府は名古屋の再建を断念し、岐阜市を新名古屋市とし復興の足がかりにしました。』
『A.S.12年、東京帝国グループを中心として名古屋市の復興が始まり、』
再建されていく映像が次々に流されている。
『・・・・・・そして、今に至るわけです。』
映像が終わった。


休憩室、
アスカは先程の物についてぶつぶつ言っていた。
「でもさ〜、一般人って、本っと〜にセカンドインパクトが隕石の衝突によるものだって信じてるのね。」
「あれ?違うの?」
「は?」
しばし硬直。
・・・・・
・・・・・
「あんたバカァ!?いえ、完全に馬鹿よ大馬鹿よ!どうしてネルフに1年もいてセカンドインパクトの原因を知らないのよ!?それ以前に、会長と司令のあの時のバトル聞いててどうしてわかんないのよ!!??」
「いや・・・その・・な、何、話してたのか全然分からなかったんだ、」
シンジは後頭部を摩りながら答え、アスカはずっこけそうに成った。
「「・・・・・・」」
「・・・しょ〜が無いわね、このアスカ先生が教えてあげるわ。」
何だかアスカは得意そうな顔で説明を始めた。
「16年前、人類は最初の使徒と呼称する人型の物体を発見したのよ。第壱使徒アダムね。でも、その調査中に原因不明の大爆発が起きたの。それがセカンドインパクトの正体よ。そしてね、予想されうるサードインパクトを未然に防ぐ。それが私達エヴァパイロットの使命・・・ってのが一応公式な説明。でも、これには会長は疑問符をつけたけどね・・・実際には、死海文書と呼ばれる予言書があって、それから得られた情報も統合して総合的に判断しその可能性が極めて高いと判断しているわけらしいけどね。」
「・・・なるほど、」
シンジは本当に今理解したと言った感じである。
「でもさ〜、シンジってバカよねぇ〜、使徒が滅んで・・・・・・・・やな奴の事思い出した。」
「・・・・だって誰も教えてくれなかったから・・・」
シンジは表情を暗くして俯いた。
「6大次元を支配している人類がその首星たる地球に迫る隕石を探知できないわけ無いじゃないの」
「・・・そうなのかな」
「本当にバカね、気付きなさいよ」
「・・・・疑いすらしなかったから・・・」
それがシンジが小学校時代に学んだ処世術の一つだったのだ。自分の意見を持たずに、従に徹する。
一方、アスカは、主をひたすら突き進んだ。他人の意見を自分の力で変える。
だが、その一方で、アスカ自身、与えられた事実が、自分に都合が良ければそれを疑わない。事実長い間疑いすらしなかった。結局のところ大差があるわけではないのかもしれない。
アスカがシンジにむかついたり、いらついたりするのは分かるがひどく理不尽である。
終始レイは沈黙を守っていた。


その後タクシーで移動して、旧名古屋市第3埋めたて工事区域に到着した。
タクシーを降りて眺める。
今も尚、水に沈んだ地域の埋め立て工事が続いている。
北側には工事中の高層集合住宅群が並んでいる。
「再建中だね。」
「・・明後日の大阪は更に大規模よ、」
第3新東京市の再建工事とは比較にならない大規模な工事、人類が復興している表れである。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「・・・大きいわね、」
アスカがポツリとこぼした。
「・・そうだね、」
暫くその光景を眺めた後、3人はタクシーに戻った。


夕方、新名古屋市西区の新名古屋ロイヤルホテルに到着した。
かなり豪華なホテルである。
アスカはチェックインのついでに、今回の買い物の荷物を宅配便で送った。
3人はベルガールに案内されて上層直通高速エレベーターに乗った。
静かに動き始める。
ガラス越しに新名古屋の夕焼けの中の街並みが見えてきた。
上層に登るにつれて視界が開けてきて、夕日に照らし出される新名古屋の街並みが美しく栄えている。
「この新名古屋駅周辺では当ホテルが最も高いため夜景が非常に美しくごらん頂けます。」
・・・・
・・・・
やがてエレベーターは目的の階に到着し、3人はプライベートルームに入った。
部屋の中に階段があったり吹き抜けがあったりと、無茶苦茶豪華である。
「凄い・・・」
「流石は会長ね。」
バーらしき部屋もあったが、酒棚には鍵が掛けられていた。
荷物を下ろし、暫く寛いだ後、スカイラウンジに向かった。


3人はスカイラウンジの中でも特に景色が良いテーブルに陣取った。
シンジの左はレイ、テーブルの反対側にアスカである。
美味しそうな食事が運ばれてくる。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
そして、食事も半ばに差し掛かった頃、アスカはふとレイにある事を聞いて見た。
「・・そう言えばさ・・・レイってどうして肉嫌いなわけ?」
レイはアスカから尋ねられ目をパチクリとさせた。
(・・・そう言えば、何故?)
自分が何故、肉や魚が嫌いなのかを自問する。
そして、レリエル戦の時に見た夢のような物の中で見た過去の記憶らしき物からひとつの推測を導いた。
「・・生きてた時を想像するから?」
((何で疑問なの?))
「・・・ふ〜ん、肉その物が嫌いなわけじゃないのね。」
アスカは自分のステーキを切り分けてレイの皿にのせた。
「食べなさい。」
「そんな、アスカ酷いよ。」
「・・・・・」
レイはじっと肉片を見詰めた。
特に、肉を食べると言う事は考えてこなかった。
実際どんな味なのか知らない。
「だったらアスカも納豆食べれば?」
「納豆その物が嫌い、それ以前に人間の食べる物じゃないわ。」
「・・・・・」
とんでもない事をキッパリと言うアスカに対してシンジは反論するのを止めた。これ以上言っても無駄であろう、
レイはゆっくりとナイフを入れた。
そしてフォークに刺さっている小さな肉片をゆっくりと口へ運び、口の中に入れた。
「・・・・・・」
2人の視線が集中している。
「・・・・美味しい・・・・・」
「でしょ。そりゃあ最高級の肉ですからね」
アスカがそれ見ろといったような顔になった。
(でも・・・何か余り食べたいとは思わない。)
しかし、レイは一口食べただけでもう残りは食べなかった。


夜、アスカが自分の荷物の中を漁っていた。
「むっ、無い・・・・・仕方ない、買いに行くか・・」
何を探していたのかは分からないが、何かを忘れてきた様だ。
「シンジ!!」
「何?」
「ちょっと近くのコンビニまで買い物に行って来るから!」
「あ、うん、行ってらっしゃい。」
アスカはコンビニに買い物に出かけた。
シンジは一人でこの新名古屋の夜景を眺めていた。
超高層ビル群が立ち並び、更には、複数層の地下都市をも有する。
現在、東京を例外とすれば、このような高度な都市機能と莫大な人口を併せ持つ都市は、地球には数少ない、セカンドインパクト以前には、それなりに存在したが、セカンドインパクトによって殆どが消滅した。
ある学者は、セカンドインパクトの津波と海抜上昇が2倍だったら、地球人類の63%が生き残れたと言った。実際は、52%といわれている。
理由は、そのような事態になったら、戦争どころではなかった。戦争は殆ど起こらず又民族紛争も少なくなり、それから発生する様々な問題も少なくなって、結果的に実際よりも生存者の数が多いと言う事だ。
シンジが先生の元に預けられたばかりの頃、日本は既に復興期だったとは言え、未だ、たいていの地域では貧困に喘ぎ、飢えを凌ぐ為に犯罪を繰り返す。そんな事が日常だった。
だが、シンジには、少なくとも、飢えた記憶は無い。それに、苛められはしたが、命の危険に曝された事は無い。どこと無くネルフ保安部の護衛に似ている。
あの時から既にシンジには護衛が付き、護られてきたのかもしれない。疎遠にはして来たが、捨ててはいなかった・・・自らの傍にいればそれ以上に酷い事になるとでも思ったから先生に預けたのだろうか、或いは・・・
幼い時の記憶は殆ど無い、その答えは碇以外には分からないだろう。
何時の間にか、レイがシンジの直横に立っていた。
「・・碇君・・」
「・・何?・・・綾波?」
「アスカが言っていたセカンドインパクトの原因・・・本当は違うの・・・」
「え?」
シンジの動きが止まった。
「・・アスカはネルフとゼーレが流した偽の情報を信じているだけ・・」
「・・セカンドインパクト、それは、迫り来る最悪の事態の先延ばしにした為に起こった悲劇、」
シンジは黙って話を聞く事にした。
「・・・・セカンドインパクトは、本来は私達がサードインパクトと呼んでいるものの筈だったわ・・」
「でも・・人類にはもう時間が残されていなかったの。その時にはセカンドインパクトを防ぐだけの準備が整っていなかった・・・」
「だから、セカンドインパクトをサードインパクトとし時間を稼ぎ、その間に準備を進めるためにセカンドインパクトを人為的に引き起こそうとしていた者がいたの。」
人為的に・・・セカンドインパクトを・・・
「・・・真に今の事態を解決する為と信じ切っていた葛城博士率いる葛城調査隊は、結果的には彼らが起こそうとしていた行動を代わって行う事になってしまい、葛城3佐を除き全滅したわ。」
「・・そして、さっき言った者達は、ゼーレと言う裏組織、そして、国際連合の実験を握りその元で本来のセカンドインパクト・・・私達が呼ぶサードインパクト回避の為に準備を進めて来たのがネルフの前身のゲヒルンであり、今のネルフなのよ。」
「最悪の事態を回避するために動いたのが、ゼーレであり、あなたのお父さんやお母さんなのよ・・・」
「・・・・」
「・・・そして、彼らは、その過程を変えで自分達が望む世界、自分達にとって正しい世界に変える事を企てたわ。一方で、貴方のお父さんは、サードインパクトを回避するのは勿論、人類の一方的な未来を作る気は無かった。だから、裏では対立していたわ。ゼーレが進めて来たゼーレの理想を達成する為の計画、人類補完計画・・・あなたのお父さんはその内容を書き換え様としたの。事故で失ったお母さんを取り戻す為にその計画を変えようとしたの・・・」
ユイを救うために計画を変えようとした・・・ユイを救うために・・・
「・・・結果的には無駄になったけれど・・・」
「・・・決して悪人などではないわ。只、自分を表現したりするのが下手で、シンジ君と接触し、お互いに傷つくのが怖い、本当は臆病な人なのよ・・・」
「・・・・」
シンジは黙って、レイの言った言葉の意味を考える。
「・・・・・ごめんなさい・・・去年、シンジ君が碇司令ことを悪く言った時打ってしまって、あの時は私も自分・・・いえ、感情すら上手く表現できなくて・・・・」
「いや、気になんかしてないよ」
それどころか、そんな事すっかり忘れていた。
「・・・・司令が、私を食事に誘った時・・・私は、碇君は?と尋ねた・・」
「新しいチルドレンであり、司令の実の息子であるシンジ君を誘うのが、普通だと考えたから・・・」
シンジはその回答が気に成った。それは、あの時の事ではないだろうから、
「回答は・・・あいつは、私の事を避けている。いや、憎んでいると言っても良いのかも知れない。今、食事に誘ったところで、首を縦には振らんだろう・・・だった・・・」
シンジはそっとレイを抱き締めた。
「・・もういいよ・・・綾波も、苦労してきたんだね。」
秘密を溜め込み、その重みをその身で受け止め続けてきたのであろう。
レイは軽く頷いて、身をシンジに預けた。
暫く2人はそのままの状態でいた。


ちょっと時間は戻るが、市街地の裏通り、
近くにコンビニが見つからず、少し離れた所のコンビニで買い物をし、帰る途中近道をしたアスカは大勢の不良に囲まれてしまっていた。
「ちっ、近道したのが間違いか」
「ではははは!!、ねーちゃん、どこのガッコ?」
「ゲスが」
アスカは不良たちをまるで下等生物を見るような目で見下した。
「良いねぇ!俺生意気な女を無理やりってのが好きなんだよ。」
「死ね!!」
一気に間合いを詰め、アスカの空を切るような蹴りが不良の股間に炸裂し骨が砕ける音がした。
不良は声すら出せずに泡を吹いて気絶した。
「「「「やってくれたな!!!」」」」
一斉に30人ほどが飛び掛かってきた。
「やれやれ」
『そこまでです!!!』
アスカが拳銃に手を掛けた時、女の声が響いた。
「「「「「「「ん?」」」」」」」
辺りが眩しい光に照らされた。
「貴方達は完全に包囲されています。」
辺りを見まわすと警官が回りの道を塞いでいる。
女が此方に歩いて来た。
「貴方達を、強姦未遂及び集団暴行未遂他の容疑で逮捕します。」
警官達によって不良達は全員逮捕された。
「貴女も御同行願えますか。」
「しょ〜が無いわね。」
アスカは岐阜県警へ向かった。


ホテル、プライベートルーム、シャワールーム。
レイがシャワーを浴びていた。
「・・ふぅ・・・」
シャワーを止め、軽く身体を拭いてからバスローブを羽織りシャワールームを出る。
「じゃあ今度は僕が使うね。」
今度はシンジがシャワールームに入って行った。
レイは、軽く欠伸をして、ベッドルームに行きベッドに寝そべりそのまま寝てしまった。
・・・・・・・
・・・・・・・
かなり時間が経ってシンジがベッドルームに入って来た。
「アスカ遅いなぁ〜、ところでレイ?」
レイがベッドの上で仰向けになって寝ていた。しかもバスローブが肌蹴かけている。
「zzz・・・」
「れい?」
・・・・・
シンジはベッドの上に上がりレイに掛け布団を掛けて上げた。
「風邪引いちゃうよ。」
「う・・・」
シンジは間近で見るレイの寝顔の魅力に惹き付けられた。
・・・・・
・・・・・
レイを起こさないように、レイの横でそっと横になって寝顔を鑑賞する事にした。
そうこうしている内にやがてシンジも眠りに落ちて行った。

あとがき
さて、3人だけの修学旅行が始りました。
今回は、名古屋での出来事でした。
暫くはこの旅行の話が続くことになります。
皆さん今回の話いかがだったでしょうか?
色々と聞かせてくれると嬉しいです。

次回予告
京都、そして、新大阪を訪れる3人。
事件が発生するものの、結構皆旅行を楽しむ、そんな中、新大阪の復興のための桁外れに大きな規模の工事、人類の生み出し人口の楽園の再建、それを見、耕一の言葉を思い出すシンジ、
果たして何を思い何を考えるのか
次回 第七話 3人だけの修学旅行、関西で