文明の章

第参話

◆再会

4月13日(水曜日)早朝、司令部の3人が出張で第2新東京市に出かけて間も無く、耕一が東京帝国グループのトップクラスの技術者を大勢引き連れてネルフ本部にやって来た。
数十機のヘリに数百台のトラック、本部に次々に運び込まれる機材に人、警備員達は只、目を丸くして呆然とするだけであった。


事を聞きつけたマヤが慌てて奥から出て来て、丁度中央回廊で耕一達に出くわした。
「い、いったい何事なんですか?」
耕一の後ろには、ぞろぞろと技術者の行列が続いている。
「マヤ博士、回線を発令所に繋いでくれるかな?」
「は、はい」
『はい、青葉ですが・・そちらは?』
「地球連邦統監、皇耕一だ。全館放送を頼む」
『は、はい』
『・・・準備できましたが、』
「宜しい。」
「地球連邦統監、皇耕一だ。現時刻を持って、ネルフ本部全体に特種封鎖令を発令し、人、物流、情報、全ての外部とのやり取りを一切禁止する。これは、地球連邦統監府の正式な命令事項である。違反は、地球連邦統監府への侮辱又は反逆と取られる事が有る。更に、本部第3ケージ及びその付属施設を、地球連邦統監の権限において封鎖する。以上だ。」
『ほ、本気ですか・・』
恐らく青葉は相当な汗をかいていることであろう。
「青葉2尉、君は統監の命令が聞けないと言うのかね?」
『い、いえ、と、とんででも有りません』
耕一は回線を切った。
マヤは少し怯えているようでも有る。
「マヤ博士、いっしょに来てくれるかな?」
「は、はい」


第3ケージにつくと、耕一達や幹部技術者はマヤと共に司令室に入り、他の者は、ケージに拘束されている初号機に様々な機材を取り付けている。
司令室にも無数の機器が運び込まれ次々に電源が入れられた。
「まあ、座ったらどうかな?」
「は、はい」
マヤは耕一に薦められるままに椅子に座った。


その頃、各所のジオフロントゲートの前には本部に入れない職員達の人だかりが出来ていた。
「なんだよ、これ、」
「おい!」
「本部と連絡が取れないぞ!」
「駄目だ!緊急の非常通路も開かん!」
「どうする!?」
職員達が大騒ぎする中、ミサトが現れた。
因みに1時間の大遅刻である。
「どうしたのよ、これ」
全員の注目がミサトに集中した。
尉官以下の者ばかりのこの場で、佐官、そして幹部職員でもあるミサトは、まさに救世主のように思えたであろう。
「作戦部長!ゲートが開かず、本部とも連絡が取れないんです!」
「・・非常通路は?」
「開きません。」
「・・とすると、発令所は生きているわけか・・・破壊は?」
「不可能です。テロ対策で、プラスティック爆弾でも破壊できないように作られています。」
「電力は来ている。非常事態は発令されていない、非常通路は使えない。とすると、発令所側で閉鎖した可能性が高いわね、今朝何か変わった事は無かった?」
「そう言えば、大量のヘリとトラックが来て、大勢が大量の機材を運び込んでいました。」
ミサトはテロかとも思った。
「数は!!?」
「ヘリが数十機、トラックが数百台です。」
腕組をして少し考え込む。
「・・・テロだとしても、短時間で本部を制圧できる数ではないわね・・・・とすると、正式な命令で本部は封鎖されたと考えられるわね。」
「正式な命令?」
「この中に保安部員はいる?」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
「念の為にチルドレンに張り付いて」
「「「「「「「「了解」」」」」」」」
保安部員は直ぐにチルドレンの元へと向かった。


第3ケージ司令室、
初号機への機材の取り付けやシステムのセットアップは完了したようだ。
「プラグ挿入します。」
初号機に空のエントリープラグが挿入された。
「開始まで後5分です」
「マヤ博士、君には、本サルベージ計画の指揮権を与える」
「あ、あの、いったい誰をサルベージするつもりなんですか?シンジ君は・・・まさかシンジ君をもう一人・・」
マヤは嫌な想像をしてしまい露骨に嫌な表情を浮かべた。
「それは無いから安心したまえ」
「はあ・・・」
「蘭子、」
「はい、イメージ準備できました。」
イメージ画像が早送りで表示される。
そのイメージ画像の内容がいまいちわからない。何故こんな物を?
「あの、このイメージの理由がわからないのですが」
「事実には往々にして納得する必要の無いことが多い、だが理解することは必要だ。今回の事に関しては、直ぐに分かる。」
マヤは首を傾げた。
「・・・もう一人、初号機の中にいる。」
その意味に気付き、マヤは目を大きく開いた。
「で、でも!・・しかし・・・まさか、」
「その通りだ・・・協力してくれるな」
「はい!」
マヤは皆の方を振り返った。
「開始まで1分、必ず成功させるわよ!」
さっきまでとは一転して笑みを浮かべている。
ちなみに、碧南以外は東京帝国グループ幹部なのだが、舞い上がっているマヤはすっかり忘れている。
「期待している」
耕一の方は気にしていないようだ。
勿論、東京帝国グループの幹部達も気にしていない・・・・
(何故俺があんな小娘に指図されねばならんのだ)
・・・訳ではない者もいるようだが、それは例外である。
『サルベージ開始』
一斉に様々な装置が作動し始めた。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「自我境界線再構成開始」
「パルス確認!」
すぐさまマヤはデータバンクのパルスのデータと照合した。
「照合!確認されました!!」
マヤの嬉々とした声が司令室に響く。


昼前、ミサトのマンションに耕一はやって来た。
「あっ、会長、こんにちは」
「シンジ、レイとアスカはいるか?」
「あ、はい、いますけど」
「兎にも角にも、これから見舞いに行くぞ」
「は、はい??」


結局、耕一は碇並みの強引さでシンジ、レイ、アスカの3人をネルフ中央病院に連れてきた。
今、耕一とシンジが前を歩き、2人の後をレイとアスカが歩いている。
位置関係はやはりそれれぞれ耕一が右でシンジが左、レイが右でアスカが左であった。
「会長・・・いったい誰のお見舞いですか?」
「さて、誰だろうな、」
耕一はどことなく楽しそうである。
2人にもお見舞いの相手の想像が付かない。
「お見舞いの相手だがな、確実にびっくりする。私の統監の席を1日かけても良い」
「・・・強気なのか弱気なのか分からないわね、」
「流石に驚かないことはないと思うが・・・途中で予測された場合はな・・・」
そして特別室に着き、耕一はドアをノックした。
「入るよ」
「どうぞ」
中からレイそっくりの声が聞こえてきた。
「今の・・・中からよね、」
驚いたシンジとアスカはレイの方を見た。
レイは頷いた。
4人は特別室に入った。
ベッドの上ではユイが上半身を起こしてノートパソコンを操作していた。
「誰?」
アスカはレイとユイを見比べ、そして、思い出し驚愕を表情に出した。
11年間の様々な出来事・・・それ以前の極僅かな記憶・・・そして、つい先日見た多くの写真がシンジの脳裏に映った。
「か、母さん!!!」
シンジは、感動と言うよりも驚きで叫んだ。
「久しぶりね、シンちゃんにレイちゃん」
ユイは微笑みを浮かべた。
「・・ユイ・・さん・・・」
レイの方はユイに対してどう接せばよいのか戸惑っているようだ。
「驚いたな」
耕一は悪戯が成功した悪戯っ子のような表情を浮かべた。
「・・・母さん、生きていたの?」
碇の言った意味は後者であったのか、では、今の今までユイはどこで何をしていたのであろうか?
そして、何故病院に?
「ええ、一応ね、」
「ユイさんは、今までどこに?」
アスカがそれを尋ねた。
「貴女は・・惣流キョウコさんの娘さんね」
「あ、はい、」
「私がゲヒルンドイツ支部で見たときはまだ、1歳か2歳だったのに、大きくなってるのね・・・・・まあ、2人もそうだけど・・・」
二人に嬉しさと淋しさを入り混じったような複雑な視線を向ける。
「私が、どこにいたかだったわね・・・それは初号機よ、」
素朴な疑問にユイは笑顔で答えたが、場が固まった。
「「え?」」
「・・・・」
「シンジも初号機に溶けたでしょ、私は、2004年の時の事故で同じように溶けて、それからずっとコアにいたのよ」
シンジは、溶けていた時の事を思い出す。
どこか、レイのような感じがする女性に会った・・・直ぐに繋がった。
「じゃ、じゃあ、あの時出会った存在は母さん?」
「ええ、色々と話してくれたわね」
ユイはにんまりと笑みを浮かべ、シンジはその時に話した事を思い出し恥ずかしくなり真っ赤になって俯いた。
ふっと、ユイは表情を戻し、深く頭を下げた。
「ごめんなさい、」
突然、ユイに謝られ、戸惑う結果になった。
「私がいなかった11年間の間に二人に何があったかは情報として知ったわ、理由はさて置いておいても、二人に辛い思いをさせたのは事実・・・」
確かに、ユイが生きて・・いや、この世界にいれば、と言う事は多かった。
そして実際そうなのであろうが、ユイを悪いと考え責めた事は無い、ずっと、誰かが悪い、事件だと周りが言うのを否定し続けてきた。誰も悪くない、事故だったのだと・・・最も意味は無かったが、
「二人は私を許してくれるかしら?」
「・・許すも何も、僕は母さんが悪いなんて思ってないよ、」
一方のレイの方は、別に自分の境遇が特殊な物であると言う事は認識しているが、判断基準が無い。
そして、稀ではあるが夢の中に出てきたユイ、それが、本人と関係があるのか関係無いのかは分からないが・・・写真等で見たユイや家族・・・ユイと関係が、絆が結べる・・正確には結び直せるのなら、それを拒絶する理由はどこにも無い。
ユイが微笑み手を広げると、シンジは歩み寄った。
そして、ユイはシンジを左手で抱き締めた。
懐かしい母の暖かさに包まれ、シンジはぽろぽろと涙を溢れさせる事を禁じえなかった。
続いて開いている右手でレイを手招きする。
レイは怖ず怖ずとユイの側により、ユイは右手でレイを抱きしめた。
レイも母の暖かさに包まれた事で穏やかな笑顔を浮かべた。
「あ〜あ、麗しき親子の再会か・・・でもレイは?」
シンジの母親である事は当然の事だが、レイは似ているとは言え、やはりその関係はアスカにはわからない。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
3人が抱き合っている間にアスカは初号機の事から弐号機の事へと考えを発展させていた。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
漸く3人は離れた。
「さてと・・・アスカちゃん何か聞きたい事があるんじゃないかしら?」
ユイは何か聞きたそうな顔をしているアスカに声を掛けた。
「ユイさんは初号機にいたわけですよね」
「ええ、」
「ひょっとして・・・弐号機にはママが?」
「ええ、そうなるわ・・・但し、キョウコさんは搭乗実験の時にどうなったかしら?」
「・・精神崩壊・・」
忌まわしき記憶の一部に触れ、アスカは重い口調で言った。
「そう、それは、キョウコさんの存在の大部分が吸収されたから、でも、欠けているのよ・・・だから、シンジや私みたいな方法では戻ってこれないの、」
ユイの言葉にアスカは俯いた。
「大丈夫、私を信用して・・エヴァの雛形を作ったのは私、そして、私はずっと初号機の中にいた。エヴァのことならエヴァそのものを除けば私が一番良く知っているわ・・・キョウコさんは時間が掛かるけれど必ずサルベージするわ、」
アスカはユイを信じ、顔を上げてユイの目を真っ直ぐに見た。
「分かりました、ユイさん、貴女を信用します」
ユイになら出来る・・・いや、ユイにしか出来ない事である。
信じざるを得ないと言う事も有ったのかもしれない。
そして、それに縋ると言う気持ちも、
「では、改めて紹介しておこう、ネルフ副司令、碇ユイ博士、技術部特別顧問、E計画最高責任者、階級は1将だ。」
その後、暫くの間ユイと共に色々と話をしていたりもしたが、未だユイの体調も良いわけではないと言う事もあり、この日は帰る事に成った。


夕方、ミサトのマンション、
「シンちゃんにレイおめでと〜〜!!」
「いや、その・・・」
シンジは赤くなって俯いた。
レイも同じ反応である。
「で・・・ちょっと気に成ってたんだけど・・ファー・・・レイとユイさんの関係は?」
アスカは冷静に疑問を問うた。
「・・・分からない・・」
レイは俯いたまま答えた。
「「「・・・」」」
「いや、分からないって・・・」
「・・・記憶がないから・・・」
重苦しい雰囲気に包まれた。
・・・・
・・・・
「・・綾波、」
暫くしてシンジは沈黙を破り半ば反射的にかそっとレイを抱きしめた。
「・・・シンジ君・・」
レイは顔を上げシンジの顔を見た。
ミサトはシンジにしては大胆過ぎる行動に驚き。アスカは不機嫌になったが、今、爆発させるわけにも行かず堪えた。
「・・昔の記憶はなくたって、今ある僕やアスカ、ミサトさん、それにネルフや今は離れ離れになっているけど学校の皆との絆は変わらないよ・・・母さんとの絆だって新しく作っていけば良いし、母さんから話を聞く事でひょっとしたら、記憶が戻るかもしれないよ・・」
それは自分に言える事でもあるから、尚一層、重みがある。
レイの目から涙の雫が零れた。
「・・・・これは涙?」
自分の手に落ちた滴を見ている。
「・・・私・・・嬉しいのね・・・」
暫くの間レイはシンジの胸で嬉し涙を流した。
・・・・
・・・・
「う〜、見せてくれるじゃない、」
「あっ」
漸く自分の行為に気付きシンジはレイから飛び離れた。
「シンジ、飯!」
「は、はい」
滅茶苦茶不機嫌に成っている事は顔を見れば直ぐ分かったので、シンジは慌ててキッチンに向かった。
一方残されたレイは少し名残惜しそうな表情をしていた。
そして、問題のミサトは、さ〜て、どうやってからかってやろ〜かと、ビールに手を伸ばそうとしたが・・・そこには何も無かった。


4月14日(木曜日)、ネルフ本部、
出張から帰ってきた両司令とリツコは総司令執務室に向かっていた。
「・・なにやら、様子が普段と違わんか?」
昨日の影響で、まだ一部混乱が続いているのだ。
「ふっ、問題無い。今、どこの組織もネルフに干渉するほどの勇気は無い。大方、・・・」
(・・赤木博士はいっしょにいたな・・・なんだ?)
「司令・・何か?」
考えを読まれたのだろうか・・どことなく視線がきつい。
「いや、それも違うな・・・まあ、後で責任者を呼べば良い、」
「はい」
そして、総司令執務室の扉を開けた。
椅子に座っている陰と、その横に立つ陰が見える。
「誰だ?」
碇を先頭に3人は中に入った。
耕一が席に座りユイが横に立っている。
「「「なっ!!」」」
当然のごとく3人の視線はユイに釘付けになった。
「紹介しよう、ネルフ副司令、碇ユイ博士、技術部特別顧問、E計画最高責任者、階級は1将だ。」
「な、なななにぃ!!!!」
「ユ、ユイ博士!!??」
「ユ、ユイ!ユイィ!!!」
「ユイ君!!!」
三人はまさに驚きの極地である。
少し錯乱しているようでもある。
「お久しぶりです。冬月先生にリツコちゃんに・・貴方、」
「さて、早速だが、人類補完計画は続けてもらう。これに反対や質問は許されない、」
「だが!!」
「何も本当に最後までやってもらうつもりはない、途中まで進めてもらいたい」
碇が反論するのは予想通りだったようで、耕一は平然とそのまま続けた。
「・・・途中まで?」
「質問は受け付けない、君達が真実を知るのは早すぎる。ユイ君のサルベージによって、私の中で謎だった部分は多く解かれたが、君達にとっての謎を解いてやる義務はない」
「しかし!」
「・・・恐らくは5年以内に新たな使徒が襲来するはずだ」
「「「なっ!!!」」」
三人はユイの存在と同じくらい驚いた。
「・・補完計画の下準備をそれ以降に完成するように合わせてほしい」
「使徒が現れる限り補完計画は発動できない・・・か」
「そうだ、」
「・・何故そんなことを知っておられるのですか?」
リツコは自分達は知りもしなかった、恐らくは、委員会やゼーレも知らないだろう事をどうして、耕一やユイが知っているのかを問うた。
「私はエデンに関して調査してきた。知っているとは思うが、41億年前に存在していた人類国家・・・死海文書はその時代に書かれたものだ。そして、その時代のことを解析することで、かなりの情報が手に入った。但し、それが何を意味するかは長い間分からなかった。しかし、死海文書の入手、ユイ君のサルベージによって、理解が一気に進んだ。」
ゼーレ・ゲヒルンとは又違った方法で、様々な事を知ったのであろう。
そしてそれは、それよりも広く深い・・・
「・・君達は人類が第拾八使徒リリンであることは知っていると思う。」
3人は頷いた。
「リリスが第弐使徒であることも・・・これで、死海文書に記述されている18種の使徒が揃う。勿論、正式な使徒は18種しか存在しない。だが、使徒によく似た種族が存在する」
「・・よく似た種族?」
「それは、天使だ」
「確かに・・・使徒は全て元天使だな」
冬月は耕一の言葉を肯定した。
「では、尋ねよう・・・今、6大大次元に蔓延る人類を殲滅するのにもっとも効率的は方法は?」
「・・・サードインパクトですか」
少し青ざめながらリツコが確認を取った。
「その通り、つまり、使徒化した天使が襲来すると思われる」
そして、耕一が放った言葉は、まさに信じがたい恐怖の到来を示すものだった。
・・・・
・・・・
・・・・
「取り敢えず、今はただ進めてくれ」
「・・・・はい、」
「それと、ユイ君が君達に話があるそうだ」
ユイが前に進み出た。
「さて、貴方、補完計画の事に付いては特に問いません。」
碇は内心ほっとした様だ。
「でも・・・レイちゃんとシンちゃんへの仕打ちに付いては、どう言う事なのか説明してもらえますか?」
「う・・うむ・・・」
急速に汗が浮かび上がった。
「後・・・ダミーシステムに関しても勿論説明してくれるわよね、シンちゃんの親友の鈴原トウジ君の片足を奪っちゃたんだし・・・貴方の命令で、」
笑顔だが、目が笑っていない
「冬月先生、何故、この人を止めなかったんですか?」
冬月は汗を浮かばせた。
リツコは、二人の様子を見て、もし碇との関係がばれたら・・・と思い、碇を失うであろう事よりも自分の保身の方が心配になった。


4月15日(金曜日)、朝、ネルフ本部の通信会議室に各支部の技術担当者の姿が浮かび上がった。
ユイの姿を見て、皆指をさして口をパクパクさせている。
驚きは分かるが失礼な奴等である。
「さて、ネルフ副司令、碇ユイ、技術部特別顧問、階級は1将です。」
ユイは微笑み、リツコは無気味に笑い、マヤは苦笑いしている。
「今回、皆さんに集ってもらったのは、今後は、それぞれの支部が、開発を分担し、相互に補い合うと言う形をとります。その分担を伝える為です。」
・・・・
・・・・
「では、先ず、第1支部、」
『はい』
「第1支部の担当は、第拾七使徒タブリスたる、渚カヲルの協力の元の諸研究」
『『『『『『な、なんですと〜〜!!!』』』』』
「目的はいくつかあります。先ず、タブリスを、本部から、いえアダムから遠ざけたい。そして、現在、アメリカはエヴァの開発を中止しており、タブリスに対抗し得る手段が無い。よって渚君に喧嘩を売れない。彼のATフィールドの最大出力は、エヴァ単体を優に超えており、核でも利くかどうか分からない。」
『あ、あの・・・』
第1支部の代表は汗を滝のように流している。
「逆に言えば、貴方達の対応次第では、大きな成果を得ることもできる。」
小刻みに震えている。
「大丈夫よ、渚君は、人として生きたがっているから、ちゃんと接すれば危険は無いわよ。でも、その分、職員の教育は徹底的にしてね、どこかの原子力施設のように職員のついうっかりで事故を起こされてはたまらないわ」
「次に第4支部」
第1支部代表は涙を流した。
「第4支部の主な目的はエヴァ用の武器の開発」
『はい』
第4支部代表はまともな役目でほっとした。
「第5支部は、支援兵器の開発」
『はい』
「第6支部は、理論が完成次第量産型決戦補助兵器、アベルを作ってもらうわ」
『『『『『「「アベル?」」』』』』』
「エヴァの子供のようなものね・・汎用コアを使い機械による補助を増やし起動指数を下げ、コストを大幅に削減する。要するに、準決戦兵器のようなものね。そして、試作機が出来次第、他の支部でも研究、建造を認めるわ。」
「あの・・・・でもそんな事をしたら、エヴァ以上の兵器が」
リツコが反論した。
「その点は大丈夫よコピーはオリジナルを抜けないのよ」
「し、しかし、」
「大丈夫よ、ATフィールドがどう言うものか、貴女達ならば分からないなんて事無いでしょう」
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
妙な沈黙が流れている。
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
「・・・・ひょっとして知らないの?」
何と、リツコまで首を縦に振った。
「・・・・・・・・・・」
「・・・後で、レポートを回すわ・・・」
ユイはこめかみを押さえながら言い、7人は頷いた。
・・・・・・・
「・・第3支部は早急に伍号機と六号機を完成させるように、その後は、アベル開発と武器や支援兵器の開発を、」
「分かりました。」
ユイは軽く頷いた。
「各研究は、予算主導型で行くから、期限は気にしないけれど、追加予算も先ず出ないと思って良いわ・・で、一つ最後に言いたい事があるんだけれど」
「何ですか?」
「ネルフは、地球連邦統監府や東京帝国グループの元に置かれると言う事を忘れないでね、ある程度特定の国家や企業と結びついてしまうのは、その性質上、仕方が無いとも言えるけれど、限度は超えない様にね」
『『『『『・・・はい、』』』』』
「以上です。」
たった一人でかなりの影響を及ぼしそうである。


深夜、総司令執務室、
碇の長い長い話を聞き終わった後、ユイは大きな溜息をついた。
思いっきり叱り飛ばしてやろうかと思っていたが、話を聞いている内にそんな気はうせた・・・いや、そんな事は出来ない。
再びユイは大きく息を吐いた。
「・・・でも・・・私としては、・・・・私を求めるよりもシンジやレイを大切にして欲しかったです・・・・」
「・・・・」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「・・どうした?何か言いたい事があるのか?」
「・・・ええ・・・」
「・・・・・・」
「・・私は、自分一人で計画を作り上げ、それを実行に移しました・・・でも、貴方は・・・私は、貴方の事を良く分かっていなかった・・・」
「・・期待に答えられず、済まない」
自分は、ユイが自分に期待していた事を成し遂げられなかった・・・自分は弱い人間であった・・・
「いえ、貴方がその事を気に病む必要はありません・・・私が悪かったんですから・・」
ユイは深く頭を下げた。
「・・ごめんなさい・・」
「・・ユイ・・・」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「さっ、過去の事はこの位にして、これからの事を話しましょうか?」
「・・そうだな、」

あとがき
ユイが復活しました。
これによってネルフは大きな変革が齎される事になります。

次回予告
一人の女性の復活、それは、ネルフ全体に大きな影響を齎した。
彼女によって、ネルフ、そしてそれに属する者が変わって行く。
そんな中、ゼーレ、そして人類補完委員会が不可解な行動を起こし始める。
人々は何を思い何を考え、そしてどう行動するのか?
次回 第四話 刻み込まれた十字架