3月4日(金曜日)、某所、 暗闇の中加持の姿しか見えない。 『・・それが、次の指令だ』 「・・・これがですか、」 『その通りだ』 「・・・しかし、」 『君に意見する権利は無い、只、指令を実行するだけだ』 「・・・・分かりました。」 2時間後、加持は第3新東京市市内のとある電話ボックスから電話を掛けた。 『・・・なんだ?』 「・・僕ですよ」 『・・君か・・この回線を使うとは・・何があった?』 「・・・ゼーレからちょっと問題がある指令が来ました。」 『・・・そうか、』 「・・任務は・・・」 ・・・・ ・・・・ 受話器を戻し、電話ボックスを出た。 そして、次は携帯電話、 「ああ、僕です」 『・・何かあったのかな?』 「はい・・・かなりヤバイ山です。詳しくは言えませんが、生きていたら3日後に再び連絡を入れます」 『・・・そうか、健闘を祈る』 「はい」 加持は携帯を切った。 そして、暫く空を見上げ色々と思案した後、車に乗り込み走らせた。 行き先は、第3新東京市市役所、 駐車場に車を止め、車を降りて市役所のビルに入る。 受付や窓口を素通りし、無人のエレベータへと乗り込む。 扉が閉まると、一枚のIDカードを内ポケットから取り出し、スリットに通す。 エレベータは下降を始めた。 ・・・ ・・・ 地下11階に到着した。 エレベーターを降りると、コンピューターが数台並んでいる部屋に入った。 パスワードを入力して起動させる。 内務省の中枢コンピューターに接続し、情報を書き換えていく、 素早く書き換えを終了させ、次々に日本政府の関連するデータを書き換えた。 終了し、接続を切ると加持は一つ息を吐いた。 まあ、ばれるだろう、時間の問題である。 だが、2日、いや、明日一杯持ってくれれば良い。 「・・・やれやれ、バイトをいくつか止める事に成ったよ・・・」 ミサトに言われた皮肉を自分で口にする。 夜、ネルフ本部、諜報部部長室、 加持は、偽りの報告に来ていた。 「・・これは本当なのだな」 「はい、3月6日午前10時に、内務省と戦自のそれぞれスペシャリストで構成されるチームがチルドレンを拉致する計画です。」 「・・・」 「信用率は、まあ40%と言ったところでしょう、向こうも俺がバイトをしていると言う事は知っているんですからね」 諜報部長は色々と考えているようだ。 「・・・分かった。御苦労だった」 「いえ・・俺もサードインパクトはごめんですからね」 加持は軽い笑みを浮かべて、退室した。 3月6日(日曜日)、ネルフ本部の中央回廊を冬月が歩いていた。 「・・・ん?」 冬月は何か違和感を感じた。 次の瞬間、眩い光が冬月を襲い、目が眩んだ。 「くっ」 急速に眠く成っていく、 「・・・睡眠、ガスか・・・・」 冬月はその場に倒れた。 ????、 真っ暗な空間に只ひとつ存在するパイプ椅子に冬月が縛り付けられていた。 「相変わらずですねぇ」 「私の都合などお構い無しだ」 どこへとも無く冬月が呼びかけた次の瞬間、冬月の正面にモノリスが浮かび上がった。 「君とゆっくり話をする為には当然の処置だ」 次々にモノリスが浮かび上がった。全部で12体。 それぞれに通し番号が振られている。 声から推測するに01がキール議長、他の4人の委員も含まれているようだ。 「碇に今一度すべき事を知らしめるため」 「御協力願いますよ。冬月先生」 「先生か・・・」 冬月はその極僅かな尊敬と多くの皮肉の篭もった敬称にあまり良い感じはしなかったが、昔を思い出す切欠になった。 B.S.1年夏、京都大学、 「先生」 「冬月先生」 学生達の声に冬月は振り返った。 「ん?ああ、君達か」 「これからどないです?加茂川でビールでも。」 「又かね」 「先生もいっしょやったらヨウコらも行くゆうてますし」 冬月の講義は人気が高く、又、学生達からも慕われてはいたが、教授陣とはどうも馬が合わず未だに助教授である。 数日後、居酒屋。 冬月は教授と飲んでいた。 「冬月君、君は優秀だが、人を毛嫌いする所があってそこがいかんなぁ」 「はぁ、恐れ入ります」 「処で、院生の中に面白い論文を書いてきたものがいてねぇ」 「碇と言う院生なんだが、知ってるかね?」 「碇・・いえ、」 「近いうちに君の所に行くように勧めておいたから、まあその時は」 「分かりました。碇君ですね。」 数日後、京都大学、形而上生物学研究室。 冬月は、その研究室を訪れた院生に驚いた。 碇ユイ、学部生の時から、新種の抗生物質やワクチン、種々の医療技術、遺伝子治療などで大活躍をしている。京都大学創始以来最高の院生であり、既に、学会でも発言力を持つと聞く。 「い、碇・・・まさか、君だったのか」 冬月は汗を垂らした。 「ええ・・それは、どう言う意味でしょうか?」 ユイは軽い笑みを浮かべたまま冬月に尋ねた。 「い、いや、医学か薬学が専門だと思っていたのでね・・・」 「いえ、専門は、こちらの方面です。たまたま副産物として出て来たものを皆が勝手に騒いでいるだけですよ」 (副産物で、世界的な名誉・・・果てが見えんな・・・) 冬月は背中に冷たい物を感じた。今まで、優秀と言うような陳腐な言葉では表せないような逸材を何人か見て来てはいるが、ユイの言うところの副産物にすら彼らは辿り着けるかどうか、あまりにも格が違いすぎる。 「そうか・・・それは、凄いな・・・ところで、君の論文を読ませてもらったよ。面白い意見だ」 (彼女だとすると、・・・俺が理解できなかったと言う事か・・・恐ろしい) 冬月は自分の方が格下だと認識した。 少し卑屈に成り過ぎているのかもしれないが、 「そうですか」 「処で・・将来は如何するのかね。学会を率いるのかね、それとも、企業に就職するのかね?」 「まだ、決め手はいませんけれど・・・他にも選択肢はあるんじゃないですか?」 冬月には思いつかずに悩んだ。 「家庭に入ろうかとも思っているのです。良い人がいればの話ですけど」 ユイは少しはにかんだ。 (・・・理解できん・・・) ・・・今だもって、あの男がいい人だとは、とても思えん・・・ 秋、京都大学、 京都府警から冬月宛に電話が掛かって来た。 「六分儀ゲンドウ?」 「ええ、面識は有りませんが、なにぶん噂の耐えない人物ですから」 知り合いに東京大学の教授がいるが、その人物の話では、地球連邦最難関である東京帝国グループ系の大学、東京大学のその頂点、特別経済学部を歴代主席で卒業し、詳しくは分からないが、その後、何か大きな失敗をして全てを捨てたらしい。 今では、京都に蔓延る裏組織の一員で色々と容疑が掛けられているが、一切証拠は出てこなくて、警察が頭を悩ませているらしい。 まあ、当然と言えば当然でもある。その様な人物が、警察に証拠を掴まれる筈が無い、 「ええ!私を身元引き受け人に?」 冬月が驚いたのは、面識の無い男が自分を身元引き受け人に指定してきた事ではなく、六分儀ゲンドウともあろう者が、警察に捕まった事である。 「分かりました、では何時伺えば宜しいでしょうか?」 冬月は六分儀に興味が沸いていた。 昼過ぎ、警察署前 「ある人物から貴方の話を聞きましてね。一度お会いしたかったんですよ」 「酒に酔って喧嘩とは意外に安っぽい男だな」 その程度の男だったのかと、冬月は六分儀を蔑んだ。 「話す暇も無く、一方的に絡まれましてね。」 「人に好かれるのは苦手ですが、疎まれるのは成れています」 六分儀は軽い笑いを浮かべた。 「まあ・・私には関係の無い話だ。」 「冬月先生、あなたは僕が期待した通りの人のようだ」 「そうかね」 ・・・彼の第1印象は嫌な奴だった・・・ ・・・ふっ・・少なくとも好ましい奴には未だもって変わっていないな・・・ 数日後、登山道。 冬月はユイと共に山登りをしていた。 六分儀が言っていたある人物とはユイである事を聞かされた。 「彼に先生を紹介した事は御迷惑でしたか?」 「いや、面白い男で有る事は認めるよ・・・好きにはなれんがね・・・」 「皆、知らないだけです。あの人はとても可愛い人なんですよ。」 ユイは笑みを浮かべた。 はっきり言って、1億人に尋ねても、可愛いと答える人間はいないだろう。 「・・随分と肩を持つんだな」 「いま、彼と御付き合いをさせてもらっています。」 冬月は当惑の表情を浮かべた。 冬、京都大学、 冬月とユイの二人が並んで歩いている。 「先生、あの人の事なんですが、」 「ああ、彼か・・・どうかしたのかね」 「ゼーレと言う組織はご存知ですか?」 「ああ、100の悪い噂があっても、1つも良い噂がない組織だな」 (彼の後ろにはゼーレが居たのか、) 「彼はゼーレの一員です。」 「そうか、まあ予想できた事だがな」 別れる事に成ったか、と思い冬月は内心喜んだが、次の言葉に驚かされる事に成った。 「私もゼーレに籍を置くことになりました」 「ちょっと待ってくれ!」 冬月は声を荒たてた。 「私は未来を残すために、ゼーレに入りました」 「ゼーレが未来を残す?そんな馬鹿な」 「ええ・・私はゼーレを利用しています」 「利用?」 「彼らの計画と、私の考えている事は、途中までは同じです。人類の滅亡を防ぐ」 「まさかゼーレがそんな事をするはずが・・・」 そんな事をするような組織な筈がない、 「いえ、彼らの計画が発動する前に人類が滅亡してはどうしようもありません、ですから、彼らは、人類の脅威となる存在を打ち払おうとしています」 「なるほどな・・例え支配する事ができる力があっても支配するものが無くては意味が無いという事か・・・」 「はい、私も、人類が滅亡しては困りますから、そこまでは協力します」 ・・・・ 「しかし、それならば、国際組織や国の力を借りればいいのではないのか?」 「残念ながら、万人の理解が得られるものではないのです」 ユイの表情はどことなく影がある。 「・・・・よっぽどの事なのだな」 「ええ、余りにも酷すぎる事ですから・・・むしろ、自然淘汰されたほうが良いと考える人もいるほどです」 ・・・・ 「先生にはいずれ彼の為にご協力頂くかも知れません」 「私がか?」 「ええ、その時は」 「・・・・分かった。考えておこう」 「はい」 ・・・そして、運命の年、あの悲劇は起こった・・・ A.S.0年9月13日、A.M.3:24、大阪、藤生第3ホテル、 冬月は京都大学の学生と電話で話をしていた。 「ああ、今日の昼過ぎには帰るから、準備をしておいてくれるか」 『はい、先生』 「しかし、疲れたよ、夜遅くまで起きている事が少し苦痛に成って来た。私も歳かねぇ」 『何ゆうておますの、先生は』 突然、回線に何かが割り込んできた。 『緊急政府広報をお知らせします。』 『これより、官房長官による緊急会見があります。国民の皆さんは慌てずにお聞き下さい。』 『国民の皆さん、落ち着いて聞いてください。先ほど南極で正体不明の爆発が発生しました。その爆発による津波が、今、日本列島に迫っています。津波の高さは、日本到達時には20メートル程度と予想されますが、海岸の地形の為に力が集約されるような所ではその高さは50メートルにも達する所もあります。太平洋側、海抜70メートル未満、日本海側、海抜30メートル未満の地域には緊急避難勧告が発令されました。今後、東京第1放送局とNHKがその詳しい状況に関して伝えする事と成っています。津波の予想到達時刻は今夜10時ごろから明日未明に掛けてです。陸地が向かい合わせになっている場所などでは数度に掛けて津波が襲う事があります。全体的にも津波は大陸にぶつかり再び南に向かい向かってくる事でしょう。避難勧告が解除されるまでは国民の皆さんは決して避難勧告発令地域に足を踏み入れる事の無い様にしてください。』 『以上で官房長官の緊急会見を終わります。』 冬月は直にテレビをつけた。 『緊急放送です。』 『本日未明、南極で正体不明の・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』 冬月は放送を一通り聞いてから荷物を纏めて部屋を出た。 朝、大阪高速11号線、 避難ラッシュに冬月は撒き込まれていた。 『津波はニュージーランドなどに甚大な被害を齎し、尚北上を続けています。現在までに死者は数百万人に上るもののと推測されます。』 「間に合うか?」 『各地で避難ラッシュが発生していますが又同時に各地で事故が発生しています。』 (・・・・・) 『新しいニュースです。衝撃波によりニューヨーク、ロサンゼルス等の高層ビル群が倒れ、ビルのドミノ倒しが発生していたとの事です。死者は1000万人を超えると推測されます。』 「感覚が麻痺して来たな・・・・」 冬月は既に死者の数には殆ど反応を示さなくなって来ていた。 『緊急ニュースです。先ほど富士山が噴火しました。付近の県に火山弾を降り注ぎ甚大な被害が出ている模様です。』 冬月はラジオを切った。 夜、既に日は暮れてしまったが冬月は未だ大阪を脱出できていなかった。 冬月はラジオをつけた。 『被害はとてもわかりません。沖縄を現在襲っている津波の高さはおよそ20メートル、本州到達時もこの程度の高さが予想されます。湾などでは津波の高さが40メートルを越える可能性があり』 「・・・・」 「このままでは駄目だな。」 冬月は車を捨てて走り出した。 皆、冬月を見て車を捨てて走り出した。 ・・・・ ・・・・ 何か地響きのような音となにか分からない甲高い音が迫って来ていた。 (ドップラー効果か) 大阪の都市の明かりが消えて行く。 「来た」 物凄い速さで津波が都市を飲み込んで行く。 冬月は全力で走った。 「どけじじい!」 男が冬月を押しのけて走って行った。 「く」 地響きが大きくなってきた。 冬月は再び全力で走り出した。 高周波もどんどん大きくなって来ている。 大阪の都市の明かりが消えた。 「くそ」 高速道路の道路灯がいっせいに消えた。 ヘッドライトによる光の帯が消滅して行く。 辺りから悲鳴や叫び声が聞こえた。 津波の黒い壁が迫っているのが見えた。 そして津波が冬月を襲った。 A.S.0年9月15日、京都大学校舎、 冬月はベッドの上で目を覚ました。 「「「「先生!」」」」 「君達・・・どうして」 学生達が冬月の前にいた。 「ほんま先生は運がええですわ。」 「助かったのか?」 「それはどうかわかりませんよ・・・・」 学生はテレビをつけた。 『世界中で緊張が続いていますが、今日インド政府はパキスタンに対し武力を持って戦うと言う意思を表し、インドとパキスタンが交戦状態に陥りました。核保有国同士による戦争は核戦争を引き起こす恐れがあり・・・・』 「世界中がパニックです。今安全な地域なんて有りませんよ。」 「被害はどうなったんだ?」 「東京を除く日本の沿岸部の主要都市は全滅。他の国も同様、死者数は確実に百億単位、港湾施設が壊滅の為食糧が自給できない国は飢餓に陥る。日本は最大の食糧プラント地帯の静岡と清水を失い、低湿な稲作地帯も壊滅、食糧危機は免れませんね。しかも日本は首都の名古屋がやられた為に、政治機能の大部分が麻痺しましたし」 「だらか私は中央集権は駄目だって言っていたのよ」 「日本は中央集権だから繁栄して来って言う歴史があるの」 「だからって壊滅しちゃ歴史も何も無いでしょ」 「良く考えいや、大阪も仙台も福岡も広島も壊滅してんやぞ、地方分権やって一緒や」 「ふっ・・・君達は明るいな・・・」 A.S.1年6月、京都大学付属病院、病室、 透明なビニールシートの向こうのベッドには、冬月の娘が横たわっていた。全身に黒いシミのような斑点が無数に出来ている。 「・・・冬月・・・残念だが・・・娘さんは・・・」 友人である医学部の教授が冬月に最期の宣告を突き付けようとしていた。 「分かっている・・・助かる見込みの無い者に・・・貴重なベッドや薬は使えない・・・そうだろ・・・」 「・・・すまない・・・・今週一杯が限度だ・・・・」 彼は、その場を去り、冬月一人が残された。 空気感染し、しかも治療手段の無い病原菌を宿した病人を一般社会に出すわけには行かない。 そして、病院においておくわけにも行かない・・・必然的に、安楽死、そして、処分となる。まだ、安楽死させられるならマシだろう、射殺されたり、生きたまま焼かれたりするケースの方が遥かに多いのだ。 「先生」 何時の間にか助手の来栖川が冬月の横に立っていた。 「・・・」 「碇さんの研究の中に、」 「・・・・魂の保管技術か」 二人は、研究室に向かい、倉庫から、装置を引っ張り出して、先ず、ユイのレポートを解読し、理論の穴を埋め、そして、この装置を使える段階まで引き上げ無ければならなかった。そして、二人は、不眠不休の作業で遂に、完成させた。魂の媒体となる赤い玉は一つしかないので失敗は出来ない。 そして、冬月は、娘の魂を赤い玉に移し、細胞の一部を冷凍保存した。 その後行われた数人による葬儀の後、冬月は大学を去った。 A.S.1年冬、東海県豊橋市。 医者の真似事をしている冬月の元に一人の男が訪れた。 「まさか、こんな所でモグリの医者をされているとは」 「所詮は、医者の真似事だよ。これでもいないよりはマシだがね。」 「この国から秋と言う季節が消えてはや1年半、淋しい限りだよ。」 「これをどうぞ、冬月先生」 男は冬月に書類を渡した。 「・・・セカンドインパクト調査団?誰が私を推薦したのかね?」 A.S.2年、1月14日。 冬月は南極海に来ていた。 嘗て2000メートルを超える氷河に覆われていた大陸は跡形も無く、氷点下にも関わらず全く凍る気配を見せない赤い海、そして、所々に聳え立つ塩の柱、余りにも異様な光景である。そして、1年半が過ぎ去った今も尚、南極海上空の空は、禍禍しい色で埋め尽くされていた。 「これが嘗ての氷の大陸か・・・見る影もない・・・」 驚きと言うよりも、恐怖の方が大きい、 「冬月先生」 冬月は声の方を振り返った。 そこには、六分儀が立っていた。 「君か・・・生きていたのか。君はあの葛城調査隊にいたと聞いていたが、」 「ええ、運良く前日に日本に帰っていましてね。難を逃れる事が出来ました。」 「そうか、・・・・六分儀君、君は」 「失礼、今は名前を変えていまして」 六分儀は1枚の手紙を差し出した。 「手紙?、名刺じゃないのかね?」 軽く六分儀を馬鹿にしたような言い方で言ったのだが、その手紙の文面に驚かされる事になった。 《結婚しました。 碇 ゲンドウ ユイ》 「碇、・・碇ゲンドウ」 「妻がぜひ先生にと、五月蝿いので」 「光栄だな・・・ユイ君は今回の調査団には参加していないのか?」 「あいつも来たがっていましたが、今は子供がいるので」 1月22日、 部屋の中に1人の少女が蹲っていた。 冬月と研究者の一人が部屋の外からガラス越しに少女を見ていた。 「葛城調査隊唯一の生き残りです。名は、葛城ミサト。」 「葛城?葛城博士の御嬢さんか」 「もう半年近く口を利いていません」 「失語症か、酷いな」 「あれだけの地獄を見たのですから・・体の傷は消えても心の傷は直には癒えませんよ」 冬月はその場を離れた。 2月12日、 「こっちも直には答えはだせんな」 「・・そうですね、」 「この大陸の地下の大空洞、それに、この光の巨人、謎は深まるばかりだ」 2月20日、 今回の調査で分かった不確かではあるが、重大な事の大半を隠すと言う話を聞いた冬月は、碇に問い詰めていた。 「なぜ巨人の存在を隠す?」 「あれの存在が公に成ると困る人が大勢いるのですよ」 碇はにやりと笑みを浮かべた。 「ふん、我々がこの調査団に参加させられているのは、人数合わせと、君達ゼーレだけで調査を行うと反感を買うからだろう」 「・・いえ・・・この調査団で、ゼーレと関係がないのは、先生だけですよ」 「・・何?」 「ユイがどうしてもと、先生を推されたものでね、」 「・・・・」 3月24日、松本市、NHK放送局、会見場。 碇達が入って来た。 「・・・」 冬月は黙っていた。 碇が席に座った。 「今回の調査により、セカンドインパクトの発生原因がほぼ断定されました。」 「セカンドインパクト発生の原因は小惑星の衝突です。しかし、これには一つの謎があります。南極を消滅されるほどの大きな小惑星を何故発見できなかったのか。これに一つの答えが導かれました。小惑星は、大きくはなかったのです。その代わりに、光速に近い速度、或いは光速以上の速度で南極に激突したのです。」 「これが今回の最終調査結果です。後日、詳しいデーターに付いては国際連合から公式の発表があるものと思われます。」 (あの時、会場の端にいた男こそ、キールローレンツ、だった。) A.S.3年8月、箱根市、国際連合人工進化研究所正面。 セカンドインパクトの裏側を調べ上げた冬月は碇に会う為、いや問い詰める為にここに来ていた。 中からユイが出てきた。 ユイは冬月に気付き軽く頭を下げたが冬月はそのまま中へ入った。 所長室、 「君の資産、少し調べさせてもらったよ。」 「子供の養育に金が掛かるだろうが、個人で持つにはちと額が大き過ぎないか?一体いつ君は大企業の社長になったのかね?」 「流石は冬月先生だ、経済学に転向されてはどうですか?」 冬月は碇の嫌味に軽く表情を歪ませた。 「君はセカンドインパクトの前日に日本に帰っていたと言ったな、あの日あそこで何が起こるのかを知っていたのではないか?」 冬月はトランクを開け中の書類を机にぶちまけた。 「これでもしらを切るつもりか?」 碇は少し驚いたようだ。 「こんなものがまだ残っていたとは・・・・これを、如何されるおつもりで?」 「君達ゼーレの悪行の数々と死海文書を公開させてもらう。」 「御自由に、但しその前に少し見せたい物が有ります。どうぞ、」 冬月は碇について電車に乗った。 どんどん地下へ潜って行く。 「随分と潜るんだな」 「不安ですか?」 「多少な」 空間が開け眼下に地底空間が広がっていた。 「我々ではない誰かが作った空間ですよ。89%は土砂に埋っていますがね。」 「南極にあった地底空間と同じものか」 「ええ」 「そして、あそこが我々人類の持てる全てを集約している施設、ゲヒルン本部です」 ピラミッド状の施設が建設中だった。 ゲヒルン本部中央部。 エレベーターから下りると大きなコンピューターの前に赤毛の女性が座っていた。 「あら、冬月先生」 「赤木君、君もか」 碇夫妻だけではなく、電子工学の第1人者、赤木ナオコがいるとは・・・ 本当に、人類の持てる全てを集約していると言っても過言ではないかもしれない。 「ええ、このシステム、マギと名付けようと思っています」 「マギ、東方より来たりし3賢者か」 「これが見せたいものか?」 「いえ、」 「リツコ、ちょっと行ってくるわ」 隅にいたセーラー服を着た赤毛の少女が頷いた。 巨大な巨人のようなものの一部が置かれている所に連れてこられた。 「これは、まさかあの光の巨人か?」 「我々ゲヒルンではあの巨人をアダムと呼んでいます。これは違いますが」 「我々人類がアダムから作った物はエヴァです。」 「エヴァ、・・・神のプロトタイプか」 「冬月、俺と共に人類の新たな未来を作らないか?」 冬月が思い浮かべ、考えたのはユイの事だった。 A.S.4年12月17日 ガラスに引っ付いて零号機を見ている幼い男の子がいた。碇の右側の机の陰にも幼い女の子がいる。 「どうしてここに子供がいる?」 「所長のお子さんだそうです」 ナオコが答えた。 「碇、ここは託児所じゃない」 『ごめんなさい、先生。』 「ユイ君、分かっているのか今日は君の実験なんだぞ。」 『この子達に未来の希望を見せておきたくて。』 ・・・そしてあの事故は起こった・・・ A.S.5年夏、人工進化研究所所長室、 サルベージは失敗し、碇は2週間ほど姿を消し、今、戻って来た。 「碇、この2週間どこに行っていた?傷心も良いが、もうお前一人の体では無いと言う事を自覚して欲しいな。」 「その事に関しては、済まなかった。」 「冬月、遂に我々人類が神へのステップを上る時が来た。」 「まさか補完計画を?」 「ああ、既に委員会とゼーレには報告済みだ。」 (錨を失い漂流を始めたか・・・・・私もか・・・・・)
あとがき 今回は、加持の工作と、冬月の回想でした。 原作の、ネルフ誕生の前半に当りますね。 次回予告 ミサトは冬月誘拐の首謀者が加持であると知らされ、監禁される。 セカンドインパクト、全ての始まり セカンドインパクトを巡る複数の者の想い・・・ マギの完成とネルフの結成、 歴史は、全てが動いて行く。 冬月を救い出した加持、だが、碇は加持の抹殺命令を出す。 次回 第参拾伍話 ネルフ