文明の章

第参拾参話

◆五人目の適格者

2月29日(月曜日)、昼、第3新東京市、ネルフ本部、第2発令所。
青葉が通信に出た。
「はい」
なんと存在しないはずのマルドゥック機関からの電話だった。
『フィフスチルドレンが発見されました。詳細は赤木リツコ博士に御渡しします。』
青葉はどう言う事なのかさっぱり分からなかったが、とにかく報告を急いだ。


その後、ネルフ本部は一気に慌しくなった。


昼過ぎ、総司令執務室、
「委員会は何を企んでいるのだ。」
「・・・分からん、だが・・・・・」
「マルドゥック機関などと言ったまどろっこしい手を使いおって、既に実体無き存在と分かってしまっているのにな」
「老人達は何か行動を起そうとしているのかもしれんな。」
碇は机の上にフィフスチルドレンに関する資料を置いた。
《渚カヲル 生年月日A.S.0年9月13日 生年月日を除く全ての個人情報は国際連合人類補完委員会の名に於いて削除》
「警戒は怠らないようにな」
「当然だ」


P.M.1:05、東京東京帝国グループ総本社ビル会長室。
榊原が渚カヲルに関するデーターを調べて提出に来た。
「どうだった?」
蘭子も報告を待っていた。
「地球連邦も含めた国際連合を除く全ての公的機関にフィフスチルドレンに該当する人物は記録されておりませんでした。」
ゼーレが絡んでいる事は間違い無いであろう。
「計画を早める必要はあるかな?」
「分かりません・・・只、ゼーレの行動を事前に阻止する必要があるかもしれませんね。」
「渚カヲルがネルフに到着した後は常に上級隊員で監視しろ。」
「分かりました」
カヲルに6名の上級隊員が付けられる事に成った。
「ネルフ本部に就職させた者達の中に、漸く幹部にまで上り詰めた者が出て来ました。」
「誰だ?」
「相田サトシ、と言う者がネルフ本部情報局局長に上り詰めました。」
「作戦部部長葛城ミサト、技術部部長赤木リツコ、よりも未だ下か・・・」
「仕方が有りませんが・・・」
耕一は軽く溜息をついた。
「技術部では如何だ?」
「ネルフが研究期間を母体としている以上、元々優秀過ぎる人材が集結していますので、これ以上はかなりの時間を有するものかと」
「伊吹マヤ、赤木リツコ・・・」
「作戦部は?」
蘭子が尋ねた。
「此方はネルフは人材が不足していますが、何分優秀な者は有名で・・・」
再び耕一は軽く溜息をついた。
「で、相田と言う者は何か情報をつかんだのか?」
「色々としてはいる様ですよ。この前直接会いましたが、息子も使っているようですが」
「息子?」
「はい、相田ケンスケ、チルドレンの同級生です。」
「ああ、あいつか・・・・」
記憶の片隅くらいにあったようだ。
「まあ良い、行動を起す。」
「「はい」」


P.M.3:11、ネルフ本部作戦部第2大会議室。
マルドゥック機関から送られてきたカヲルに関する詳細が報告されていた。
会議室の席には技術部や情報局、諜報部、総務部などの者も座っている。
「渚カヲルは、書類上は、セカンドインパクト当日に生まれた事になっています。しかし、第3新東京市立第壱中学校への転校手続きでは、2−Aへ転校させる事に成っています。」
日向が発言した。
「委員会が直接その編入届を行ったのか?」
情報局副局長が尋ねた。
「恐らくはそう思われます。余りに展開が早過ぎます。」
日向が返した。
「第3新東京市立第壱中学校側は?」
技術開発部技術局局長が尋ねた。
「そのまま何の抵抗も無く受理しています。」
「生年月日を見る限り、中学3年だが」
「そのあたりは私にはなんとも・・・」
「東京帝国グループは何か動きましたか?」
マヤが尋ねた
「現在の所、渚カヲルに対し監視を付ける事を決定した様です。」
諜報部職員が返した。
「早過ぎない?」
ミサトの言葉に諜報部職員は答えられなかった。
「諜報部、貴方達は何をしているの?東京帝国グループに1時間程度で知られてしまって」
ミサトが非難した。
「すいません。ネルフ本部内部に相当数の内偵者がいるようで、更に基幹部にまでいる可能性があり我々の行動は筒抜け状態です。」
諜報部諜報2課課長が謝った。
「ここにもいるって事?」
「らしいわね」
ミサトの発言をリツコは肯定した。
ミサトは溜息を付いた。
(東京帝国グループがもう直、動くか・・・)
「いいわ、続けて、どうせ筒抜けになってるなら後伸ばししても同じよ。」
「はい」
ミサトの指示に日向が答えた。
「渚カヲルのパーソナルパターンサンプルから推測しますと、弐号機と最も相性が良いと予想されます。」
碧南が報告した。
「では、弐号機にアスカのバックアップとして、という事ですか?」
「そうなるわね。」
作戦局職員の発言にリツコが同意した。
ミサトは軽く表情を顰めた。それがアスカに影響を及ぼす事は間違いがない。
「日本政府、国際連合、地球連邦、への報告は如何しますか?」
情報局局長、相田サトシ2佐が尋ねた。
「そうね・・・正式な報告はもう少し待って、到着した後にしましょう。」
リツコが発言した。
「はい」
相田が答えた。
「さて、大体の報告は終わった様だな。」
総務部部長は会議室を見まわした。
「この場を借りて言いたい事がある者はいるかな?」
「はい」
リツコが挙手した。
「先の零号機、弐号機の大破、初号機の修復に対する費用は莫大なものとなっています。今一度予算の増加を要求します。」
「冗談じゃ有りませんよ!ネルフその物が火の車なんですよ!」
予算課課長が悲鳴を上げた。
「必要経費です。」
「絶対的に予算が足りないんです。貧乏な国際連合の下ではこれ以上は無理なんですよ。」
リツコは黙った。
沈黙が流れる中、相田は思い出したように言った。
「たしか、東京帝国グループから何か来ていませんでしたか?」
「・・・有ったわ。東京帝国グループはネルフを手に入れたいみたいね。何の目的が有るのかはわからないけれど。」
ミサトが答えた。
結局予算の話はどうしようもなかった。
只、ネルフ内部で、国際連合を離れ、より大きな権限を持つ地球連邦や豊富な予算がある東京帝国グループに編入を望む職員が急速に現われ出した。
作戦部は地球連邦への編入を望み、技術部は東京帝国グループへの編入を望んでいる者が多い。この影響は僅か1日で、総務部や情報局へも飛び火した。


総司令執務室、
「・・碇、どうする?」
「・・・構わん。好きにさせておけ、所詮下の者が騒いだところで、何も変わりはしないのだ」
「だがなぁ・・」
「老人から小言を言われるのが怖いのか?」
「厄介だと言っているのだ、」
「問題ない」


3月1日(火曜日)A.M.10:15、新千歳国際空港上空
東京第3航空O−994便、ファ−ストクラス。
1人の銀髪に赤い瞳で白い肌の少年が猫を抱いていた。
「あの〜御客様、」
スチュワーデスが少年に声をかけた。
「何だい?」
「機内へのペットの持ち込みは禁止されておりますので」
「ペット?」
ややあって、少年は微妙な笑みを浮かべた。
「違うな、大切な親友だよ。」
「みゃぁ〜」
「許可は取ってある。問題は無い筈だ。」
黒服の男が間に入った。
「え?」
「国際連合治安維持局のものだ。」
黒服の男は身分証明証を見せた。
「これは失礼しました。」
「みゃぁ〜」
怖かったのか、スチュワーデスはそそくさと立ち去った。
「どうかしたのかい?」
「みゃぁ〜」
「そう、楽しみだね・・・・」
少年は笑みを浮かべた。
機は第3新東京市国際空港へ機首を向けた。


3月2日(水曜日)A.M.8:28、第3新東京市立第壱中学校2−A。
シンジは教室を見まわした。既にクラスの人数は20名余りになってしまっている。
「シンジ、今日転校生が来るらしいぜ、」
「そうなの?」
(でも、ケンスケの情報っていったいどこから?)
解答
1 父親から
2 職員室に仕掛けられた盗聴機から
3 ネット上の裏情報ページから
4 その他
「一昨日、ネルフ本部でかなりの揉め事があったらしいんだ。」
「・・その日はミサトさんの帰りが遅かったけど・・」
「それが、エヴァの新しいパイロットらしいんだ。」
「えっ」
シンジは驚いた。
「で、今日の転校生だろ。何か関係が有るどころか、その転校生その者だと思っているんだが、シンジは何か知らないのか?」
「・・・知らなかった」
レイが此方に近付いて来た。
「綾波」
「・・そこ、退いてくれる?」
「え?」
ケンスケが座っていた机はレイの席だった。
「あっ、済まん」
ケンスケは慌てて退いた。
暫くして老教師が入って来た。
・・・
「起立」
「礼」
「着席」
・・・
「今日は皆さんに新しい転校生を紹介します。」
少年が教室に入って来た。
少年は銀髪で、瞳が赤かく、白い肌であった。
レイがいるからそんなに極端には見えないが、
そして、美少年と言う事が、クラスの女子の多くを魅了した。
「みゃぁ〜」
(((((ん?)))))
少年の後に小さな猫が付いて入って来た。
「渚カヲルです。宜しく」
カヲルの浮かべた笑みは女子を次々にノックアウトする。
「みゃぁ〜」
「この子はタブリスって言います。」
「みゃぁ〜」
・・・
「けっ」
アスカはヒカリと後ろでひそひそ話。
「アスカ如何したの?」
「自由の天使の名前みたいな仰々しい名前を猫に付ける〜?普通?」
「そうかな〜、別にミカエルとかガブリエルとか犬に付けてる人もいるわよ。て言うより外国の人の名前には天使の名前が多くない?」
「人の名前は良いのよ。ペットに付ける奴が馬鹿なのよ。まるで、ペットの方が自分よりも偉いみたいじゃない。」
「どうかしたのかな?」
いつの間にかアスカの目の前にカヲルがいた。
「≒§♂(>_<)○■!!!」
アスカは吃驚仰天した。
何時の間にやらカヲルが二人の所まで来ていた。
カヲルはシンジの後ろ、アスカの隣の席に座った。


休み時間、
「碇、シンジ君だね。」
カヲルがシンジに声を掛けてきた。
「あ、うん」
「渚・・カヲル君だったよね。」
「カヲルで良いよ。」
カヲルは軽い笑みを言葉に合わせた。
「僕もシンジで良いよ。」
シンジも笑みをつけて返した。
教室の後ろ。
アスカが二人を見ていた。
「気になるの?」
「うん」
「やだ・・・」
ヒカリが引いた。
「そう言う意味じゃないわよ。あの渚って奴、なんか嫌な感じがするのよ・・・」
「嫌な感じ?」
「ええ・・・良くは分からないけど・・」
「そんな事言ってたら友達なんて出来ないわよ」
「別に良いのよ、そんな事は、とにかくこのアタシのアンテナが、あいつは怪しいって言っているのよ」
「・・・何かあるの?」
ヒカリは真剣な表情で尋ねた。
前にマナの一件で、アスカの勘がずばり的中している事は聞いているからである。
「・・・分からないわ、漠然と・・・」
「碇君と仲良くしてるからじゃないの?」
「・・・・」
アスカは少し考えた。
今回、マナのケースと余りにパターンが似ているのだ。
第3新東京市への転入、・・・この時期に?
そして、いきなりシンジに声を掛けた。
それが、余りに良く似ている。
だから、嫌な気がしているのか?
単にシンジに近しい人物ができる事を不満に思っているのか、
それとも無意識のうちに感じる何か・・・か、
・・・・分からない。
怪しい事には変わりないが・・・取り敢えずのところ、警戒の必要ありか・・・


学校から1q以上離れたビルの42階、
親衛隊上級隊員が望遠鏡で2−Aのカヲルを監視していた。
「碇シンジに接近中」
『会話は、特に何気ない会話です。』
「引き続き監視を続けて、中級隊員20名も増員するわ。サポートに使って」
「はい」


放課後、帰路。
シンジとカヲルが並んで歩いている。
その後ろをレイとアスカが歩いている。
「あっ、カヲル君、僕達これから行かなくちゃいけない所があるから」
「そう、じゃ、一緒に行こうか、ネルフ本部へ」
「え?」
(何!!)
「フィフスよ、」
「ファースト、あんた知ってたの?」
「・・顔は知らなかったわ」
(本当だったんだ・・・)
「みゃ〜」
それぞれ思う事があるが、4人と1匹はネルフ本部へと向かった。


P.M.4:38、ネルフ本部、作戦部第4会議室。
会議室にはミサトやリツコ達等数人がチルドレンの到着を待っていた。
「来た様ね。」
4人が室内に入って来た。
「もう気付いているとは思うけど、正式に紹介するわね。」
「渚、カヲル君フィフスチルドレンで、エヴァぁテクノロジーの研究開発協力及び弐号機のバックアップとして待機してもらいます。」
「改めて、宜しく。」
「弐号機の!?」
「バックアップがいるとなると、アスカもうかうかしていられないわね。」
「むぅ〜」
最近アスカはシンクロ率が安定せず、そして全体的には下降気味である。
原因は、シンジの事なのだが、カヲルの存在はいっそうこれに拍車を掛け兼ねない。
カヲルのシンクロ率によっては・・・・アスカは弐号機を下ろされるかもしれない。

 

あとがき
遂に、渚カヲル&タブリス(猫)登場しました。
さ〜て、3人のチルドレンの絆にどう言った影響を齎すのでしょうか?
そして、東京帝国グループがネルフの吸収に向けて動き出しました。
ケンスケの親父さんは東京帝国グループの関係者です。

次回予告
秘密組織ゼーレによって冬月は誘拐された。
冬月はその中で過去の出来事を思い出す。
ユイや、碇との出会い。
セカンドインパクトの悲劇。
第1次セカンドインパクト調査団に参加した冬月は様々な不可解な事態を見つける。
しかし、それは歴史の裏側へと隠された。
セカンドインパクトの裏側を調べた冬月は碇の元を訪れる。
新たな歴史を作る計画、冬月はそれに参加する事に成る。
そして、2004年、運命の事故が起こった。
次回、第参拾四話 ゲヒルン