2月8日(月曜日)、第3新東京市郊外、墓地、 レイが小さな花束を持って墓参りに来ていた。 黙々とユイの墓を目指して歩いている。 そして、ユイの墓の前で立ち止まり、墓前に花を添えた。 (・・・私・・・何故ここに来たの?・・・・・今日は命日でもない・・・・何故?) 自分でも何故ここに来たのか分からない。 (・・・不安?・・・) (・・・ここに繰れば不安が癒えるとでも思ったの?) (分からない・・・) (・・・・いる・・・) レイは、300メートルほど離れた場所にスナイパーがいることに気付いた。持っている銃は恐らくは麻酔銃だろう。 加賀と比叡はスナイパーに気付き、走り出した。 その時、スナイパーの眉間が打ち抜かれた。 「比叡か?」 「いや・・・、ファーストチルドレンだ」 レイがサイレンサー付きの拳銃を持っていた。 「・・拳銃であの距離を1発・・・」 「ファーストチルドレンの射撃の成績は、ネルフ1だ」 加賀はレイに恐怖を感じた。 「・・・敵に回りたくないな・・・」 300メートル以内の敵は1発・・・ レイは拳銃を仕舞った。 「・・・シンジ君・・・・」 シンジの名を呟き、レイは墓前を離れた。 その頃、第3新東京市市内、 アスカは憂さ晴らしの為に不良グループに襲撃を掛けていた。 「うおおおおお!!!!!!!」 120キロを越える巨体がいとも簡単に投げ飛ばされる。 「ば、化けもんだ!!」 因みにアスカの握力は120キロ。背筋力は400キロ。 不良が振り下ろした金属バッドを振り上げた足で受け止め、押し返してそのまま強烈な踵落しを叩き込んだ。 不良の頭部が裂傷し血が流れ出た。 5分後、40名近かった不良グループは、重体と重傷が半々ずつと言う状態になっていた。 早く病院に運ばないと死亡者が出る。 「憂さ晴らしにもならないわ」 アスカは言葉を吐き捨てその場を去った。 ここで陰から出てきたネルフ保安2課セカンドチルドレン護衛班の面々は大きな溜め息をついた。 アスカは軍服を着た男達に取り囲まれた。 「セカンドチルドレンだな、ついてきてもらおう」 「くすくすくす、少しは楽しめそうね」 アスカの姿が消えた。 慌てて男達は周囲を捜した。 その時、上空から弾丸が発射され、8人の頭を撃ち抜いた。 着地までにアスカはマガジンを取り替えた。 男達はマシンガンを構えた。 十数個の銃声が響いた。 保安部の方々である。 ネルフ本部、総司令執務室、 「・・・東京の力がいかに大きかったか分かるな・・・」 今日1日で、チルドレンへの襲撃がそれぞれ1回ずつ。 「妨害工作も増加しておる」 「そちらは問題ない」 「そうだ、だが、東京には」 「・・・・・何があったのだ・・・」 技術棟、赤木研究室、 リツコは、サルベージのシュミレーションをしていた。 結果は何度やっても失敗であった。 「何がおかしいの?」 「もう一度、洗いなおしてみます」 「じゃあ、御願い」 「はい」 マヤは、キーボードを叩き始めた。 暫くして突然リツコが力を失い倒れた。 「先輩!!!」 技術部付属医務室、 リツコは単なる寝不足であった。だが、その度合いがかなり極端である。 医師は、ドクターストップをかけ、睡眠薬を投与してリツコを休ませた。 一方マヤは、リツコの穴を埋める為に更に仕事に取り組んだ。 増加する襲撃に、ネルフはチルドレン2人の本部内での居住を決定した。 作戦部、 ミサトは報告書を読んでいた。 「・・・第3新東京市に侵入していると思われる組織の数が163?」 「・・はい・・」 「・・今まではどうだったの?」 「・・我々が知る限り、多くて10でした。」 「原因は?」 「1、マギがサルベージ計画に処理機能を取られ続け、第3新東京市の管理能力が低下している。2、先の戦闘の復旧のため十分な人員を割り当てる事が出来ない。3、東京の支援がなくなったこと。以上3点だと思われます」 「・・・難しいわね・・・」 「はい」 職員が退室した後、ミサトは、ノートパソコンを開いた。 現在、マギは、警戒態勢に入っており、情報流出防止のため、自動的にセキュリティーレベルが引き上げられている為、本来よりも得られる情報は少なかったが、それでも、ミサトが知らなかった事は山ほどあった。 しかし、どうしても気になることも何点か出て来た。 「・・・加持に聞いてみるか・・・」 アスカは、与えられた部屋の片付けも中途半端に止めてしまい、ベッドに横になった。 「・・・アタシ・・・・何やってんだろ・・・シンジがいなくなれば・・・・アタシがエースなのに・・・なんで・・・なんで・・・こんなに胸が痛いんだろ・・・・なんで・・・苦しいんだろ・・・・」 アスカには自分の感情が理解できなかった。 一方のレイは与えられた部屋の隅に蹲っていた。 部屋に携帯の着信音が鳴り響いた。 レイはゆっくりと携帯に手を伸ばした。 「・・・・はい・・・」 『私だ、下に来い』 「・・・・はい・・・」 レイは携帯を切ると、ゆっくりと立ち上がり部屋を出た。 2月10日(水曜日)、ネルフ本部、職員食堂、 碇とレイが窓際の良い席で食事を取っていた。 「・・二人で食事を取るのも久しぶりだな・・」 「・・はい・・」 碇は鮭定食、レイは野菜ラーメンである。 レイは遅々として食が進まない。 「・・・」 「・・・レイ、」 「・・はい」 「シンジは必ず戻ってくる。シンジを信じろ」 「・・・・・・・・、はい」 間は長かったが、少しだけ力強く答えた。 総司令執務室、 「・・昼、食堂での会話を聞いてしまったよ」 「・・・そうか・・・」 「・・・サルベージの性質上、シンジ君が戻ってくる事を望まなければ、失敗に終わるぞ・・・そうなればレイは、」 「・・・その時は・・・・いや、赤木博士が間違えさえ起こさなければ、問題無い」 「何故だ?いくらレイがいるからとは言え、彼にはこの現実は辛過ぎるぞ・・・フォースの件もな・・・」 「問題無い、」 「一体、何を考えている?・・計画の遂行ではないな」 「目的と手段を取り違えてはいかん、補完計画は、手段であり、決して目的ではない。」 「・・・・もし、シンジが戻って来れないのならば、目的を達成するには、補完計画を遂行するしか他は無い。その時には、精神の壊れたレイは格好の媒体と成るだろう」 「最終確認と言ったところか・・・・だが、シンジ君が戻って来た時は?」 「・・・・・、いずれにせよ、結果が出ないことには何とも言えん」 「・・・ふぅ・・・誤魔化しおったな」 ??????、?????、 何も無い空間だった。シンジ自身の体も存在しない空間。 ・・・・何もないや・・・・・どこまでいっても真っ白・・・・ ・・・僕・・・・どうしちゃったのかな・・・・ ・・・やっぱり死んじゃったのかな・・・・ ・・・いえ・・・・ ・・・誰?・・・ ・・・未だ、言えないわ・・・・ ・・・どう言うこと?・・・ ・・・ここは初号機の中・・・・そして・・・思念の海・・・ ・・・外には・・・貴方を待っている者がいるわ・・・・ ・・・待っている者?・・・ ・・・ええ・・・だから、いつまでもここにいる訳にはいかない・・・ ・・・そうか・・・・でも・・・・戻らなくても・・良いかもしれない・・・・ ・・・・どうして?・・・ ・・・嫌なものが無い・・・・少なくとも・・・少ない・・・・綾波や・・・アスカの・・・ ・・・零号機や弐号機のあんな姿は・・・見なくても良さそうだし・・・ ・・・父さんに捨てられることも・・・誰かを傷つける事もなさそうだし・・・ ・・・・そう・・・・でも、ここには私しかいないわ・・・ ・・・あなたの帰りを待ち望む者の気持ちはどうするの?・・・ ・・・待ち望むか・・・・綾波あたりは本当にそうなんだろうな・・・ ・・・本当に純粋だから・・・・ ・・・でも、他の人たちは・・・純粋に僕の帰りを望んでいるわけじゃない・・・・ ・・・サードチルドレンの帰りを望むものは多いけど・・・ ・・・碇シンジの帰りを望むものは少ないよ・・・ ・・・アスカだって、本当を言えば主夫はいるだろうけど・・・ ・・・碇シンジは要らないんだよ・・・ ・・・僕である必要は無いんだよ・・・ ・・・ケンスケだって、同じさ・・・ ・・・トウジは・・・ ・・・・そう・・・でも、ここに居続けてはいけないわ・・・ ・・・例え数が少なくても・・・待つ者がいるのだから・・・・ ・・・それに・・・綾波さんの気持ちはどうするの?・・・ ・・・純粋に待ち望んでいるんでしょ・・・ ・・・そっか・・・・でも・・・ ・・・怖いのね・・・ ・・・綾波みたいだね・・・心の中まで分かられるような感じ・・・ ・・・なのに嫌じゃない・・・ ・・・そう?・・・ ・・・戻らなくちゃいけなの?・・・ ・・・ええ・・・まだその時は来ていないけど・・・ ・・・それまで話し相手になってくれるかな?・・・ ・・・勿論よ・・・ ・・・姿が見えないと何か不気味だな・・・・ ・・・だったら、想像してみて・・・私と貴方を・・・ ・・・え?・・・そうぞうねぇ〜 光が現れ、レイを大きくしたような女性が現れた。 まるで、ユイの色違いのようだが、なぜか制服。 同時にシンジの姿も現れた。 「あら?ふ〜ん、こんな想像したんだ〜・・・あっ、綾波さんって、レイちゃんね」 女性は嬉しそうに微笑んだ。 「え・・・あ、うん・・・あのその・・・なんか、綾波みたいだなって思って・・・」 「良いわよ、愚痴でもなんでも聞いてあげるわ、何でも話しなさい」 その後、シンジは女性に、碇の事、エヴァの事、レイの事、ミサトの事、アスカの事、耕一の事、トウジの事、学校の事、ネルフの事・・・様々な事を正直に話した。 女性は、時々相槌を打ったり、続けるように促したりしながら、しっかり全て聞いていた。 シンジは女性に話すことで今までの事を色々と見詰め直し、考えを整理して行った。 2月20日(土曜日)、ネルフ本部、総司令執務室、 「マギに計算させたところ、シンジ君がサルベージされる確率は42.3%、ユイ博士がサルベージされる確率が、2.3%です。」 「・・・・やりたまえ・・・」 「はい」 「それと・・第3新東京市に侵入していた者達が一掃された。親衛隊員も戻って来ている。」 「チルドレンを元の生活に戻してよいと」 「そう言う事だ」 「分かりました」 リツコは退室した。 「・・東京には何があったのだ?」 「・・・東京にATフィールドの反応が出ていたと思われる。」 「何!!」 「先の戦いで本部の殆どのセンサーは死んでいた。支部が捕らえたものだ」 「ここではなくか?」 「詳細は不明だ。断定は出来ん。支部では初号機の関係として処理していた」 「本当に東京だったとすれば・・・まさか東京は独力で使徒を殲滅したとでも言うのか?或いはエヴァを」 「・・・分からん。僅かとは言え稼動していたセンサーが有ったにも関わらず、ここでは検出していない」 「・・・確かに、分からんな・・・」 夜、第3新東京市内、ラブホテル、 加持とミサトがベッドに座っていた。 「教えて欲しい事があるの」 「マルドゥックの事か?」 「ええ、」 「マルドゥック機関は存在しない、詳細は分からないが、チルドレン候補生は、全て一つのクラスに集められて保護されている。」 第3新東京市立第壱中学校2−A、 「・・・鈴原君の事は?」 「ああ、その一つだ。初号機に乗った際の事じゃない」 「・・・チルドレンと候補生達の共通点は?」 「・・・全員14歳前後と言う事、親は全員ネルフ関係者、そして両親が揃っているものがいないと言う事だ。」 「どう言う事?」 「分からない。今、欠けている親に関して調べている」 「欠けた親か・・・」 他の二つは兎も角も、明らかに不自然である。 「レイは不明だが、碇ユイ博士、惣流キョウコ博士、共に、エヴァの開発者であり、そして、共に、エヴァの搭乗実験で事故を起こしている」 「・・・鈴原君の親は?」 「父親は、技術部職員だ」 「・・・」 「そして、母親は、松代の実験場に勤務していた技術部の職員、そして、4年前に病死と言う事になっている」 「本当?」 「裏付けは一応ある。だが、操作くらいは出来るだろう」 「・・・・加持君の今の意見を聞かせて」 「・・・ああ、仮説だが、エヴァを動かすために、エヴァに操縦者の肉親の細胞を同化させ、そして、人格を移植する。恐らくは、二人の博士の事故で偶然に発見されたのだと思っている」 「・・・じゃあ、操縦者は決まっているとでも」 「だからこその専属制だろう」 「・・・でも、初号機と零号機の互換性は一応利くわ」 「あの二人のパーソナルパターンは殆ど同じだ。少々の無理は通るさ」 「・・・じゃあ、」 「恐らくは、親子2代でエヴァの被害者になっているって所だろう」 暫く沈黙が流れた。 「・・・残りの親は?」 「分からない・・だが、その欠けた親の多くもネルフ関係者だ」 「・・・・エヴァぁ・・・なんて物なの・・・」 「・・・だからこそのダミーシステムなんじゃないか?」 「・・・でも・・・」 「上層部には秘密が多すぎる」 2月21日(日曜日)、ネルフ本部、ケージ、 サルベージが行われたが、結果は失敗。 エントリープラグがイジェクトされ、プラグスーツがブリッジに落ちた。 ミサトはプラグスーツを抱きしめ泣き、アスカもその場に泣き崩れた。 ・・・シンジ君・・・ ・・・もう、駄目なのね・・・ ・・・わたしは、壊れてしまうのね・・・ ・・・・・来て・・・・・ 声に導かれレイがまるで夢遊病者のようにふらふらしながら初号機に近づいた。 ・・・・・コアに触れて・・・・・・ レイはコアに手を触れた。 突然触れた部分から手が出てきた。 「・・・シンジ君!」 レイは直ぐにそれがシンジの手だと分かり引っ張った。 コアから裸のシンジが引きずり出された。 「シンジ君!!」 シンジを吐き出したコアは直ぐに元のように戻った。 「シンジ君!」 ミサトが駆け寄り、レイはシンジを強く抱き締めた。 司令室ではリツコやマヤ達が大騒ぎする中、アスカがぼんやりとケージを見ていた。 (・・・・アタシ・・・あいつの事が好きだったんだ・・・・) アスカは、悩み続けていたパズルの最後のピースがはめられた事で、自らが導き出した答えに戸惑いを感じていた。
あとがき こんがらがって来ました。 投げやりに成っていたシンジは謎の女性によって回復しました。 アスカが漸く自分の気持ちに気付いたようです。 さて、これからどうなるやら 次回予告 回帰したシンジ、精神状態が回復したレイ、自らの気持ちに気付いたアスカ。 子供達は日常へと戻る。 日常は何も変化は無い様にも見える。だが、 加持に警告を発するミサト、 アスカの態度の変化は、シンジとの蟠りを解き解して行く。 次回 第参拾弐話 束の間の休息