2月1日(月曜日)、ネルフ本部ケージ、 初号機は、装甲板が剥がれ落ち、剥き出しになっている素体は巨大な包帯で覆われ隠されていた。 ミサトは、アンビリカルブリッジの上から初号機を見ていた。 「外部電源は、接続されておらず・・・しかし、初号機内部に高エネルギー反応、初号機を動かすだけのエネルギーには足りませんが、理論上あり得ない反応です・・・」 横の日向が報告した。 「・・・・そう・・・・・」 ミサトは、ただ、初号機を見上げていた。 司令室では、リツコとマヤがガラス越しに、初号機、そして、ミサト、日向を見ている。 「・・・・葛城3佐・・・・辛いでしょうね・・・」 「・・・そうね・・・・・マヤ、」 「・・・はい・・」 リツコの手元のモニターに様々なデータが表示された。 「・・・11年前と同じ・・・か・・・・」 マヤはリツコを振り返った。 「先輩、それ・・・どう言う意味ですか?まさか・・・」 「そうよ・・・11年前の、碇ユイ博士の事故と同じ状態よ・・・」 マヤは、言葉を失った。 総司令執務室、 「いやはや、初号機の覚醒、委員会・・・いえ、ゼーレにはどう言い訳するおつもりで?」 「初号機は、我々のコントロールを離れていた。暴走するエヴァをNN兵器も含めた通常兵器で、どうこう出来るのならその方法を教えてもらいたい」 「しかし、委員会は黙っちゃ無いでしょうな」 「初号機は、凍結、委員会の別命あるまでは・・・だ」 「それで宜しいので?御子息を取り込まれたままですが」 「・・・問題ない」 少しの間があり、碇の視線は加持を向いてはいなかった。 「それともう一つ、後の方の初号機のあの動きは何ですか?」 「さてな・・・暴走状態のエヴァの事など我々には分からんよ」 冬月の言葉は惚けただけなのであろうか、加持は見極めようとしたが、それは出来なかった。 夜、司令室、 技術部関係者以外にも、ミサト、レイの姿もあった。 「回線復活しました。モニターに映像出ます」 モニターにエントリープラグ内の映像が映った。 レイは目を大きく開いた。 「な、なによこれ・・・」 「シンジ君は?」 エントリープラグには、プラグスーツが浮かんでいるだけだった。 「これがシンクロ率412%の正体・・・・・エヴァに取り込まれてしまったのよ・・・・」 「いったいなんでこんな」 「・・・シンジ君が、エヴァの力を最大限に利用するため、エヴァに同化を図ったか・・・或いは・・」 「或いは何?」 「初号機の意思か」 ミサトはリツコの頬を叩いた。 「何いってんのよ!あんたが作ったんでしょうが!!責任とんなさいよ!!」 リツコは頬を押さえて、ミサトを睨んだ。 「ネルフにあるものは全て私が作ったとでも思っているの?」 「な、」 「初号機は、碇ユイ博士が作り、未完成のまま、取り敢えず動くようにしただけよ、何でも私に責任を押し付けないで」 ミサトはいつもの事ではあるが、感情的になって冷静に考える事が出来なかった事を悔やみ俯いた。 リツコがゲヒルンに入ったのは、A.S.8年、アスカのセカンドチルドレン選抜の翌年であり、既に弐号機は形になっていた。番号から言って初号機はそれより前に出来あがっていたはずである。 「・・赤木博士」 レイがリツコを呼んだ。 「何?」 「・・シンジ君は戻ってこられるのですか?」 レイの声は全く抑揚が無く、感情を押し殺しているようだ。 「・・今、LCLは、生命のスープとでも言うべき状態になっているわ。シンジ君を構成した物質は全て溶け込んでいる。マギのサポートを使って、肉体を再び再構成すれば・・・戻ってこられるわ」 「どのくらい掛かるの?」 ミサトが尋ねた。 「11年前は、半年近く掛かったそうよ・・・」 「11年前?」 ミサトは何の事か分からなかったようだ。 「私の母親、赤木ナオコが行ったサルベージ計画・・・結果は、失敗・・・・今は、マギのサポートがある。ヤシマ作戦よりは分が良いと思うわ」 「・・そう・・ですか・・」 レイは司令室を抜け出した。 「ミサト、一つ言っておくわ」 「・・何?」 「貴女のセキュリティレベルならばかなりの事が調べられた筈よ、初号機の完成時期や製作者くらいわね、自分で調べなさい、あなたは、只、サボっているだけよ、報告書も、読まず、日向君に代筆させ、そんなんで、他人の仕事に愚痴をつけないで、以上よ、行くわよ、マヤ」 リツコは相当怒っているようで、マヤを初めとする技術部の職員を連れてさっさと司令室を出て行った。 後に一人残されたミサトは、項垂れ、暫くして、端末にIDカードを差込み、マギにアクセスした。 2月2日(火曜日)、第3新東京市、公園、 レイは、ベンチに座っていた。 (・・・胸が苦しい・・・) (・・・何故?) (・・・シンジ君・・・) (・・・シンジ君を守れなかったから?) A.S.15年8月1日(土曜日)、双子山仮設ケージ、 「貴方は死なないわ。」 レイはシンジの方を向いた。 「私が守るもの」 A.S.16年2月2日(火曜日)、第3新東京市、公園、 (そう・・・シンジ君を守れなかったことが苦しいのね・・・・) (・・・・シンジ君・・・・) 足音が近付いてきた。 「ファーストチルドレンだな」 レイは顔を上げた。 4人の男がライフルをレイに向けている。 「付いてきてもらおう」 レイは、黙って敵視の視線を4人の男に向けた。 男達はこの世のものとはとても思えないような凄まじい恐怖を感じ、竦み上がった。 直ぐ傍の草陰に一人の男性が隠れていた。 (くそっ、ネルフの保安部は何をしているんだ?) 男性は、拳銃のマガジンを確認した。 (1人2発で丁度か、仲間はいないでくれよ) 男性は草地から反動を着けて飛び出し、レイを取り囲んでいる男達の顔面に2発ずつ弾を撃ち込んだ。 レイは男性の方を見た。 「・・・貴方・・誰?」 「俺は、」 銃声がし、男性の肩から血が噴出した。 「ぐ」 男性が肩を押さえて膝を落とした。 一人、瀕死だが生きていた。 レイは、未だ生きていた男の後頭部に拳銃を当て、零距離射撃をした。 赤い血が飛び散った。 「・・・俺は、加賀タケル」 「・・・・前にも見たことがある・・・私をつけていたわね・・」 「・・・・やれやれ、その通り、俺は、戦略自衛隊所属の者だ、君の監視が仕事だ」 「・・・何故、私を助けたの?」 戦自はネルフの対抗組織、レイを助ける理由は無い筈である。 「自衛官が国民を守るのに特別な理由がいるのか?」 「・・・・・分からない・・・・」 「国民が窮地に陥っていた。だから自衛官がこれを助けた・・・それだけだ」 「・・・・そう・・・でも、その肩の怪我、早く手当をした方が良いわ・・」 レイは、加賀が自分を護った存在である事から、一応味方に分類したようである。 「どうする?ネルフに連れていくのか?」 「・・・それは、赤木博士に尋ねるわ・・」 しかし、しっかりリツコに電話をかけた。 ネルフ本部、医務室、 リツコは加賀の怪我の治療を終えた。 「何故、俺を助けるんですか?」 「レイを助けたからよ、この前の戦闘で、家の保安部なんか機能していないわ」 ネルフは、余りに敵を作り過ぎている。1組織で相手にしなければ行けない組織は大小合わせて100では利かないだろう。マギのサポートがあるからこそ、それでも諜報戦で東京帝国グループを除けば対等以上に渡り合っていたが、殉職者の数は半端ではないだろう。 「・・・そうですか」 「取り引きしない?」 「取引?」 「貴方の情報調べさせてもらったわ、流石ね・・・そこで、レイの護衛をして欲しいの、今、レイは、冷静な判断力を失っているから」 (・・・あれで・・・冷静じゃなかったのか?) 「それで?」 「もう一つ、レイに何か特別なことがあっても、目を瞑りなさい、その代わりに、こちらが、貴方の集める予定の情報を上げるわ、十分すぎるほどにね」 加賀は、リスクやメリット・デメリットを考えた。 「・・・・・・・・・・・・それで良いでしょう」 「貴方の役目はあくまで護衛よ」 「分かっています」 ミサト宅、アスカの部屋、 アスカはベッドに寝そべり、顔を枕に埋めていた。 (・・・・使徒に勝てなかった・・・・何もできなかった・・・・) アスカは涙こそ流さないものの、声こそ上げないものの、間違いなく泣いていた。 襖の隙間からアスカの状況を確認したミサトは、音を立てずに襖をきっちりと閉めた。 2月3日(水曜日)、ネルフ本部、技術棟、 リツコを初めとする技術部のメンバーがほぼ徹夜でプログラムを組んでいる。 ミサトがやって来た。 「どう?」 「きついわね・・・何事も無ければ、凡そ1月って所かしら」 リツコは連日の徹夜で大きな隈を作っている。 「1月か・・・」 「もし使徒が攻めて来たら、今、ネルフ本部は対抗する手立てが無いわ・・・」 「弐号機と零号機は?」 リツコは溜息をついた。 「・・予備のパーツは殆ど使い切っているわ・・・生体パーツの予算は降りないし、ドイツで建造中の伍号機、六号機のパーツを回してもらうわ・・・・それでも、1月近く掛かるわね・・」 「1月間、本当に、無力か・・・」 ネルフ本部だけではない。現在、稼動するエヴァは1機も存在しない。只、制御から外れている初号機の例外を除いて、 「使徒がこちらの都合を考えてくれるようだと良いのだけどね」 「貴女らしくない言葉ね」 「そうね・・・でも人間誰でも弱気になるときは有るわよ」 「そうね、その方が人間らしいわ」 ミサトはかなりリツコが参っている事を悟った。 「アスカの様子はどう?」 「相当参っているわね・・・どっちかって言うと、使徒に負けたという事よりも、シンジ君に勝てなかったってことが利いているように見えたけど」 「そう・・・レイの方は、情報提供と引き換えに、戦自の者を護衛につけたわ」 「そんな事して良いの?」 「今度の事で、保安部はとても統率が取れる状況じゃなくなってしまったから・・・それに、本当の事ばかりだけど、彼らにとっての価値と、私たちネルフにとっての価値は違うのよ・・・特に作戦関係を多く入れたわ、エヴァを持っていないのに、ATフィールドを前提にした作戦なんて何の役にも立たないでしょうし」 「そうね・・・」 「レイとアスカに、保安1課の者を2名ずつ、つかせるわ」 「1課を?」 「2課は混乱状態にあるし、3課じゃ駄目と成ると、おのずと決まってくるわ」 「・・ネルフ最大の危機か・・」 ミサトとリツコの会話は、部屋の雰囲気を更に暗いものへとし、職員達個々の雰囲気も暗くなった。 「今、使徒が来たら勝率は0%ね・・・」 「そうね・・・」 ミサトは、カップのコーヒーを飲んだ。 なぜかお決まりのように冷めていたが、リツコにはそれを突っ込む余裕は既に無かった。 第3新東京市、展望公園、 レイがぼんやりと景色を眺めていた。 ・・・綾波・・・ ・・・シンジ君・・・ ・・・レイ・・・ ・・・碇司令・・・ ・・・ファースト・・・ ・・・弐号機パイロット・・・ ・・・レイ・・・ ・・・赤木博士・・・ ・・・レイ・・・ ・・・統監・・・ ・・・なにしてるの?こんな所で?・・・ ・・・こんなところで何をしている・・・ ・・・こんなところで何をしているの・・・ ・・・綾波!大丈夫か!?・・・ ・・・バカ、綾波が生きてたから・・・嬉しくて泣いてるんじゃないか・・・ ・・・大丈夫か!?レイ!・・・ ・・・そうか・・・よかった・・・ ・・・レイ、問題は?・・・ ・・・そう・・・ ・・・そんな悲しいこと言うなよ・・・ ・・・別れ際に、さよならなんて言うなよ。悲し過ぎるじゃないか・・・ ・・・笑えば良いと思うよ・・・ ・・・お見舞いに来たら迷惑かな?・・・ ・・・助けてくれて有り難う・・・ ・・・綾波は命懸けで僕を守ってくれたじゃないか、お礼を言うのは当然だよ・・・ ・・・何か、食べたいもの有るかな?・・・ ・・・綾波・・・綺麗だ・・・本当に・・・ ・・・月か・・・・月って、綾波に合うね・・・ ・・・でも、霧島さんとも仲良くしたほうが良いよ・・・ ・・・いや、その、綾波の笑顔って凄く魅力あって、ずっと見ていたいなって、あのその・・・ ・・・あ、僕の所寄っていかない?・・・ ・・・レイ君、これから一緒に食事に行かないか?・・・ ・・・レイの為に作ったんだからな・・・ ・・・やっと笑ったな。少しだけど・・・ ・・・そろそろ、夕食だ、行こうか・・・ ・・・へ〜この女がファースト・・・ ・・・シンジ君は好き?・・・ ・・・シンジ君に嫌われたくない?・・・ ・・・レイ、他人に右側に立たれるの嫌い?・・・ ・・・私の知る限り一人だけ例外があるわ・・・ ・・・レイにとってシンジ君が特別な存在というのは間違いないわね・・・ ・・・シンジ君にとっても、レイは特別な存在なのよ・・・ ・・・綾波は怖くは無いの?・・・ ・・・綾波はなぜ・・これに乗るの?・・・ ・・・綾波が父さんに僕を殺すように命令されたらどうする?・・・ ・・・綾波ってやっぱり冷たいよ・・・ ・・・レイ、準備は良いか?・・・ ・・・左腕部切断・・・ ・・・切断だ・・・ ・・・レイ、直ちに目標を撃破せよ・・・ ・・・レイ、実験を続けなさい・・・ ・・・誰が止めて良いと言ったの・・・ ・・・これから、学校に通いなさい・・・ ・・・服を脱いでカプセルに入りなさい・・・ ・・・遅いわよ・・・ ・・・何をやっていたの・・・ ・・・碇とシンジだったらどっちを選ぶ?・・・ ・・・碇が、レイ、命令だ、私を助けろとでも言ったらどうかな・・・ ・・・母さん・・・ ・・・綾波の方が父さんについて知っていそうだから・・・ ・・・あ、掃除の時さ、雑巾絞ってたろ、あれってなんかお母さんて感じだった・・・ ・・・案外、綾波って主婦とか似合ってたりして・・・ ・・・綾波・・・ひょっとして、僕の代わりに父さんに連れられてきたの?・・・ ・・・そ、そんな・・・・綾波はそれでも良いの?・・・ ・・・夕食をいっしょにどうだ・・・ ・・・ユイ・・・ ・・・人は、思い出を忘れる事で生きて行ける・・・ ・・・ユイはそのかけがいの無い物を教えてくれた・・・ ・・・大したシンクロ率も出せないし実績も無いくせに、皆から贔屓にされて・・・ ・・・は?似ているが別人だろ・・・ ・・・生命体は全て別々の存在だ・・・ ・・・他人を重ねて見ると言う事は、その対象の尊厳の侮辱だ・・・ ・・・例え、双子やクローンであったとしてもな・・・ ・・・例え、双子やクローンでも、それは同等の存在、近似の存在であり、同一の存在にはなり得ない・・・ ・・・レイとユイ君は大きな差異が初めからある・・・ ・・・同一の存在として見る事が許されるはずが無い・・・ ・・・レイはユイ君の娘だろ、母親と同一の存在に見られるなんて、苦痛でしかないだろう・・・ ・・・綾波って・・・・・・天使みたいだなって思って・・・ ・・・おまえは厳密には人ではない・・・ ・・・下の実験を再開する・・・ ・・・人形みたいね・・・ ・・・貴女は人ではないのよ・・・ ・・・貴女の役目は補完計画を遂行することよ・・・ ・・・迷うと言う事は、両方ともが余りにも大事で片方を選択するのが恐ろしい場合・・・ ・・・もうひとつは、どちらの方が自分にとっての価値が大きいのか分からない場合だ・・・ ・・・恐らくどちらを選んでも正解とは言えないし、間違いとも言えないだろう・・・ ・・・だが、決断しなければ行けない時が必ず来る・・・ ・・・後悔と言うのは、全くの無駄な行為だ・・・ ・・・だから、後悔しないために、その決断が来る前に十分な準備をして・・・ ・・・決断の時に戸惑い、結果、両方失うような事は決してあってはならない・・・ ・・・レイ、貴女にとって、シンジ君は、碇司令以上の存在なのよ・・・ ・・・ヤシマ作戦よりは分が良いと思うわ・・・ ヤシマ作戦の勝率 僅か7.8% 加賀は、100メートルほど離れたところの草陰に潜んでいた。 (・・・碇シンジ・・・そこまで大きい存在だったのか?) (・・・俺の知る限り・・・そんなことはないのだが・・・・霧島マナが戦自を裏切った理由にも絡んでいるか・・・なにか有ったのかもしれないな・・・・) 「はっ」 レイは既にいなくなっていた。 加賀は周囲を見回した。 レイが下り坂を走っている。 直ぐにレイを追った。 (確かに冷静さを失っているのかもしれないな、思い出しパニックとでも言うのか) (・・・速い・・・) レイと加賀の距離は少しずつしか縮まらない。 「っ」 加賀は、崖を飛び越えカーブをショートカットした。 第3新東京市、旧開拓団地、 レイは昔の自分の部屋に閉じ篭もった。 加賀は、レイの部屋の前で死にそうな息をしている。 (・・・・まじかよ・・・・・) (・・・・死にそう・・・・・) 目の前に紙コップが出された。 加賀は手の持ち主を見た。 ネルフ保安部の黒服だった。 「話は聞いている。飲むといい」 加賀は軽く頭を下げ髪コップに注がれていたスポーツ飲料を一気に飲み干した。 「・・・・・・・・アンタ達も超人的だな・・・・息一つ上がっちゃいない・・・」 「我々は消音ヘリで来た。・・・・お前は、よくファーストチルドレンに付いて行けたな」 「・・・・・そうか・・・・・光栄だ・・・・」 「私は、ネルフ保安2課課長比叡タカヨシだ。宜しく頼む」 「・・・ああ・・・」 加賀は差し出された手を握り返した。 レイの部屋、 レイはパイプベッドに蹲っている。 暫く使われていなかったため、部屋は埃が積もっている。 レイの制服に埃がつき汚れているが、全く気にしていない。 (・・・シンジ君・・・・) (・・・会いたい・・・・) (・・・私の事を呼んで欲しい・・・) (・・・シンジ君の笑みが見たい・・・) (・・・・・・シンジ君・・・・・・・・・) 2月4日(木曜日)、ミサトのマンション、アスカの部屋、 部屋にはコンビニのおにぎりの包装や空のペットボトルが転がっている。 アスカは、コンビニのハンバーグ弁当を食べている。 「・・・・不味い・・・」 アスカは殆ど手のつけられていない弁当を机の上に置いた。 「・・・・バカシンジ・・・・・」 ネルフ本部、技術棟、 マヤの指示の元アスカとレイのメンタルチェックを行っている。 マヤはその結果を見て顔を顰めた。 別の場所、 「ミサト、」 「何?」 リツコはミサトにファイルを渡した。 「あの2人のメンタルチェックの結果、もしこんな状態でエヴァに乗せたら大変よ、アスカは、シンクロ率がたがた、レイは、とんでもなく不安定よ」 ミサトはファイルに目を通し、二人共に使い物にならないことを確認した。 「・・・・いかにシンジ君の存在が大きいか分かるわね・・・・」 「そうね」 そして、自分自身シンジに支えられていた事を再確認した。 総司令執務室、 「碇、」 「何だ?」 「東京・・・静か過ぎんか?」 碇は少し考える仕種をした。 「第3新東京市から殆どの親衛隊員が姿を消したそうだ。」 「・・・何か有ったのかもしれん」 「どう見る?」 「・・・向こうが動かぬ限り、こちらからは手は出せまい」 「・・・確かにな・・・・だが・・・・」 「分かっている。」 第3新東京市、バ−、 加賀と比叡が酒を飲んでいた。 「チルドレンの護衛は難しい」 「だろうな」 「私は、この1年半、ファーストチルドレンの護衛をして来た」 「そうか」 「人形、機械、そんな誹謗中傷の言葉があったが、最初は、まさしくそうだった。」 加賀が、見る限り、レイは、まさしくそのものであり、疑問に思った。 「この前の時まで、そうじゃなかったのか?」 「いや、あんなものじゃない、随分感情を身につけた」 冷静さを失うだとか、あれで、感情を身につけただとか、自分のもつ常識からは程遠い存在に少し恐怖を感じた。 「・・・・あれでか?」 「ああ、始まりは、ヤシマ作戦の頃だったかな・・・・碇シンジ、彼が、ファーストチルドレンを、綾波レイにして行っているんだ」 「・・言わば、創造主か」 「ああ、だからこそ俺達は恐れた。碇シンジがいなくなったとき、どうなるのか」 「それが今か」 「第拾弐使徒のときは、少なくとも、碇シンジの独断行動、自業自得、だが、今回は、初号機出撃の前に零号機は負けている。」 「創造主を殺めた原因を作った・・・か・・・」 「それが引き金だろうな・・・・ファーストチルドレンのままでいようとする心と、綾波レイになろうとする心、その二つが入り混じっているところに、これだ・・・・普通のパニックとは訳が違う」 加賀はレイが憐れに思えてきた。 「解決する方法は?」 「ファーストチルドレンとして人形である事に徹するか、碇シンジのサルベージが成功するかだろうな・・・・・・」 「・・・・・・・・ネルフってのは、随分非人道的なんだな」 「・・・・そうだな、何の罪も無い少年少女を戦争の兵器に仕立て上げる・・・・」 「・・・・・人が生きるためか・・・・・家のロボット計画、知ってるか?」 「ああ、無論だ」 「チルドレン・・・・彼らに敷いているのは、それ以上の事なのかもしれないな」 「・・・・そうだ・・・私たちは、何らかの形で、チルドレンを守りたい、役に立ちたい・・・・だが、それすらもかなうのかどうか怪しい・・・・無力な大人・・・・惨めなものだよ・・・・」 比叡はグラスに残っていた琥珀色の酒を一気に飲み干した。 レイの家、 今日は家に戻ってきたようだ。 レイは、ベッドに倒れこんだ。 そのまま深い眠りに落ちて行った。
あとがき シンジ溶けました。しかし、ミサトは相変わらずですね。 オリジナルキャラ加賀タケル登場です。 背徳の加賀とは殆ど別人のような性格ですね・・・ 実は、レイの苦悩のシーン作っていて、マジかと思ったのは、レイを一人の個人と扱って会話をしたのは、シンジと耕一だけ・・・アスカとレイの会話無さ過ぎ、困った・・・まあ、良いか←何が? 次回予告 東京の沈黙と、ネルフの混乱は、チルドレンを危険に曝した。 思念の海で、シンジは謎の人物に出会う。 ミサトと加持の密会、疑問の解答が示される。 サルベージが開始された。 シンジは戻ってこれるのか 次回 第参拾壱話 回帰