文明の章

第弐拾九話

◆覚醒

1月29日(金曜日)、P.M.9:45、ネルフ中央病院、病室、
シンジは目を覚ました。
「ここは・・・・」
薄く青色に輝く髪が視界に入った。
「・・綾波?」
「・・ええ・・」
レイがベッドの横の椅子に座っていた。
「僕はトウジを、トウジを」
上半身を起こし、シンジは自分の振るえる手を見詰めながら言った。
「・・・鈴原君なら、もう意識を取り戻したわ・・」
「トウジは助かったの!?」
生きていた、自分は人殺しにはならなかったと言う事で、嬉しそうな声に変わった。
「・・命に別状はないわ・・・但し、左足を失ったわ・・」
レイは淡々と事実のみを伝えた。
「そんな・・・」
「・・伝言・・・・シンジ、すまんかったなぁ初号機殴ってしもうて、止めようおもたけど、とまらへんかったんや、でもな、わしの事なんか気にしたらあかん、元々わしがシンジに迷惑をかけてしもうたんや、自業自得や、シンジが気にすることあらへん。そないな事よりも、わしが見舞いにいけんようになってしもうたから、妹のナツの見舞いに行ってくれんか?でも、わしの事はゆうたらあかんで、余計な心配かけるからな。医者の話やと、相当な補償も降りるし、生体義足も用意されるそうや、1年もすれば元通りに走れるようになるそうやで心配せんでもええで・・・・以上よ・・」
レイなりにトウジの言い方を真似てはいるが、発音の問題でかなりおかしく聞こえる。
「そう・・・・でも」
シンジは俯いた。
「・・彼は弱くはない・・」
「・・分かってるよ、トウジは僕よりも強い・・・」
「・・シンジ君も弱くはない・・・」
「どうして?」
意外だったのかシンジは顔を上げて尋ねた。
「・・逃げないから・・」
「前に逃げたよ」
「・・なら、どうして今は逃げないの?」
「どうしてって・・・」
それに答える事は出来なかった。
「・・シンジ君は強いわ・・」
「そうなのかな?」
レイは軽く頷いた。
・・・
病室が再び静寂に戻った。
・・・
「綾波、ひょっとしてずっと付いててくれたの?」
「・・ええ、昨夜から・・」
「ごめん」
「・・どうして謝るの?」
「どうしてって・・迷惑をかけたから」
「・・別に迷惑ではないわ・・・・私がついていたかっただけなのだから・・」
「いや、でも・・・」
シンジは顔を少し赤くして言い噤んだ。
「・・何?」
「・・・いや、別にいいや、綾波がそう思うなら」
月光がカーテンの隙間から部屋に差し込んだ。
「月が出てるんだ」
「・・開ける?」
「お願い」
レイは立ち上がり窓の方に歩いていきカーテンを開けた。
月光が病室の降り注ぐ、月そのものは見えないが月光がジオフロントに降り注いでいるのだ。
月光に照らし出されたレイは、天使や聖霊のような神聖な美を醸し出している。
「綺麗だ・・・」
「・・・・・、何言うのよ」
ややあって、それが自分を形容したものだと分かったレイは赤くなって俯いた。
シンジのお腹が鳴り、今度はシンジが真っ赤になった。
(穴があったら入りたい)
「・・少し待っていて・・」
レイは部屋の外に出ていき、暫くして食事を持ってきた。
「あ、ありがと」
シンジは食事を受け取った。


1月30日(土曜日)、ネルフ中央病院、特別病棟、
鈴原ナツの病室にシンジとレイは見舞いに訪れた。
ナツは脊髄の損傷を受けており、普通の治療技術では再び歩けることは、絶望視されている。
シンジは病室のドアの前で立ち止まった。
ナツが初号機の暴走で負傷した事、そして、今度は兄のトウジを・・・・
だが、勿論そんな感情をナツに曝すわけには行かない。
「・・碇君・・」
レイがそっとシンジの裾を引っ張った。
「・・碇君なら大丈夫・・」
ややあって、シンジは軽く頷き、ドアをノックして中に入った。
病室のベッドには、小学生の女の子、鈴原ナツが、寝ていた。
「鈴原ナツちゃんだよね」
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、誰?」
ナツは首だけ動かして二人を見つめた。
制服を着ているので、第3新東京市立第壱中学校の生徒だとは分かるが・・・
「僕は碇シンジ」
「・・綾波レイ・・」
「あ、お兄ちゃんが迷惑かけて済みませんでした。」
「いや・・・僕の方が・・・」
結局話が拙い方向に行きそうな雰囲気である。
レイは持ってきた果物を棚の上に置いた。
「・・食べたいものある?」
「あ・・・林檎を」
レイの配慮なのか、いつも通りのマイペースなのかは分からないが、レイが雰囲気を変え、シンジは感謝した。
レイは果物ナイフを取り出して、林檎を剥き、切って皿に載せた。
「あ・・・・ごめんなさい」
ナツが突然謝ったが、レイはその意味がよく分からなかった。
「あ、ナツちゃんは一人じゃ食べられないんだよ、貸して」
レイは軽く頷き、シンジに皿を渡した。
シンジは更に小さく切って、一つずつナツの口に入れた。
「美味しい」
ナツの純真な笑みは、嫌な現実を忘れさせるようだった。


そして見舞いの帰り、2人は道を歩いていた。
「・・ナツちゃん・・・直らないのかな?」
「・・予算があれば一応は直せるわ・・」
レイの口から意外な言葉が飛び出た。
「直るの?」
「・・生体パーツを使えば、表面的には元通りになるわ、但し、損傷の度合いから見て、10億円は掛かるでしょうね・・」
「・・・・」
一般人には、とても無理な金額である。
「・・鈴原君の場合も1億円以上が掛かるけど、エヴァ搭乗中の怪我だから、全てネルフが負担することになっているわ。一方、ナツちゃんの場合は、民間人でシェルターから出ていた為に受けた被害、よって、ネルフには補償の義務はないの・・」
シンジは暫く考え、良い案は浮かばなかったので再びレイに聞いて見ることにした。
「・・・・何とかならないの?」
「・・会長に頼めば?」
なるほど、その手があったかっと、思い、そして、やっぱり綾波は凄いやとシンジは感心した。
「そうか、明日行って来るね」
「・・ええ・・」
シンジの様子が好転した事で、レイは微かに笑みを浮かべていた。


1月31日(日曜日)、朝、ミサト宅、
「あれ〜、シンジは?昨日えらく上機嫌で帰ってきたと思ったら」
「東京に行くとか言ってたわよ」
ミサトは右腕がギプスで塞がっているので左手でビールを飲んだ。
「東京に?何しに行ったの?」
「知らないわよ」
「あいつ、何考えてんのかしら、鈴原殺しかけて責任に潰されてるかと思えば、上機嫌で帰ってきて・・・」
「吹っ切れたのかしら?」
「だと良いけどね」


第2東海道新幹線、ひかりH―111号、
新幹線は既に東京に入っている。高架がどんどん高くなり、ビルの合間を抜けて東京ターミナルステーションを目指している。
「・・・」
耕一に頼む。
この東京、そして、地球連邦の支配者たる耕一に・・・
東京を見ていると耕一の凄まじさが恐ろしくなる。
車窓から東京帝国グループ総本社ビルが見える。
この超々高層ビル群が犇めく東京において中央に一際大きく高く聳え立つ、この世界の支配者が住まい、そして世界の経済を動かすビル。
耕一の判断一つで、数千もの国家が消滅する事すらありえる。
耕一にとっては億どころか兆・・或いは京と言った額でも、大した事ではないどころか、どうでも良い額でしかない。
繁栄を極める東京・・・一方で、テレビで見た飢えと貧困に苦しむ後復興国の国民・・・・
どこか、どちらも遊離した感じがあり、実感が無い、どこか、別の世界のようでもある。
『間も無く、終点東京ターミナルステーションに到着致します。本日は・・・・』


東京ターミナルステーションに到着した。
前回来た時はほんの半月ほど前の事なのに・・・まるで違って見える。
シンジは新幹線ターミナルを出て、螺旋状エスカレーターに乗り、別の乗り場を目指した。
螺旋状エスカレーター、横に25人同時に並ぶ事が出来る。外側の5列は、次の階層で降りてしまう事に成るので注意が必要である。
シンジが目指すのは地下50階、東京ターミナルステーションの地上層では、最下層に位置する乗り場、東京ターミナルステーションと、東京帝国グループ総本社ビルを結ぶ路線である。
直通のエレベーターもあるのだが、シンジは東京ターミナルステーションの地図帳を見て一番分かりやすいルートを取ったのである。
最下層に近付くに連れ、俗にエリートと呼ばれる者が増えているのが良く分かる。
中学生でしかも、学生服を来ているシンジは異様に写るであろう。
そして、最下層に着き、改札に向かおうとした所で、自動改札に似ているが見なれない装置が並んでいた。
皆を見ていると、IDカードを通している。
ここで、全ての人間を一度チェックしているようだ。
シンジはネルフ発行のIDカードを取り出して装置に通し、中に入った。


接続線に乗り、東京帝国グループ総本社ビルの地下に存在する駅に到着した。
そして、再びIDカードのチェックを受けて、東京帝国グループ総本社ビルに入った。
東京帝国グループ総本社ビル、地下総合受付、
「あの、会長にお会いしたいのですが」
「でしたら、先ず、そちらのエレベーターで1階まで上がられてから、最上層直通エレベーターで、最上階まで上がられて、秘書課の方で受付をしてください」
「はい」
シンジはエレベーターに乗った。
「ちょっちょっと、貴方誰!?」
受付嬢は、誰なのかのチェックを忘れていた。


東京帝国グループ総本社ビル最上階会長秘書課、
「済みません、会長にお会いしたいのですが・・・」
「済みません、ご予約の方は」
「いえ・・・」
「では、予約をされますか?」
「はい、お願いします」
下級秘書官は、パソコンを操作して予定表を出した。
「では、A.S.32年2月4日に」
「ちょちょっと待って下さいよ!」
丁度その時、蘭子が奥から出てきた。
「あ、シンジ君」
「あ・・確か・・蘭子さん」
「どうかしたの?」
「会長に御面会を取りたいそうで」
「そう、じゃ、付いてきて」
「主席秘書官!」
頭越しに話を進められて不機嫌な下級秘書官は叫んだ。
「問題ないわよ、さ」
「あ、はい」
シンジは蘭子について会長室に向かった。
「会長、碇シンジ君が会長にお会いになりたいと」
『かまわん』
「どうぞ」
蘭子は会長室の扉を開けた。
広いが、まあ、常識的な広さである。置かれているものも高級品ばかりだが、見た目より実用性を重視しているのが明らかに分かる。色も明るい色が多い。車も白のスポーツカーであるし、どこか普通の重役のに就いている者のイメージとは外れているが、それが耕一のイメージなのかもしれない。
「良く来たな、まあ、そこにかけてくれ」
耕一に直接会い、逆に恐怖が消えた。やはり、耕一の持つ雰囲気やイメージのせいであろう。
シンジはソファーに座った。
「・・・会長、お願いがあります」
「何かな?」
「お金を貸してほしいんです」
「は?」
耕一は予想外の展開に少し呆然としてしまった。
「お金を貸してほしいんです」
「・・・・いったい、いくら?」
耕一の頭には国家予算並みの金額が浮かんだ。
「10億円です」
「・・・は?」
今度は額の小ささに又少し呆然とした。
「10億円です」
「・・・何に使うんだ?」
「第1次直上会戦の時に、負傷した女の子がいるんです。その子は、シェルターを出ていた為に、ネルフにはいっさいの補償義務がなく、脊髄に損傷を受けているためにもう歩くことが出来ないんです・・・でも、生体パーツを使えば・・・」
「なるほどな、それに10億円か、シンジの知り合いの金持ちと言えば、碇と東京帝国グループ関係者くらいだからな・・・碇がそんなことに金を使うはずがない、だから私の所に来た訳か」
「はい・・・」
シンジは碇の事を思い浮かべ表情を暗くした。
「因みに、碇は、借金をかたにシンジを自由に扱えるようになるなら、10億くらいすぐ出すと思うが」
それはそうかもしれない・・・貸してもらえないのかと、シンジは少し肩を落とした。
「まさか、私の所にたった10億円で来るとは思わなかった」
少し違う方向に話が行きそうである。
地球連邦の経済構造は凄まじく偏っており、一部の金持ちに凄まじい富が集中している。先進国の国富を遥かに超える資産を持っているものもいる。耕一はその最たるものである。
「シンジ、私から借りるのではなくても、余裕でそのくらいの財産お前にはあるぞ」
「へ?」
「一応、碇ユイの個人資産の2分の1から税金を引いた分はシンジの財産だ、私がユイ君に送っていた金がある。すぐに用意させよう」
「え?」
「ユイ君が学生の時、私はユイ君に送金していた。学費や生活費に充ててもらおうとな、本当にそれにしか使わなかったから、相当の額が残っている。2000億円近くになると思う」
「ええ!!」
「1000億円がシンジの相続額、内、税金が約300億、と言うことで、シンジの口座に700億入金させよう」
「そ、そそそそそんな!!!」
シンジはその額の大きさに驚いた。
「なんだ?親子2代で使わないつもりか?」
「い、いや、そんな・・」
「大金を持つのが気に入らないなら、どこかに寄付すればいい」
「でも、そんな・・・」
「未成年はまあ、自由に金が使えないわけだが、理由が理由だ。保護者代理の葛城君の許可は取れるだろう」
「い、いえあのその」
それだけの大金を持つ事が怖いのかもしれない。
「普通、何かしてしまったら、金では取り返しが付かないことが多い、しかし、金で取り返しが付くのなら、そうすべきだろう」
「はあ・・」
「金で取り返しが付くだけ、ありがたいと思え、いくら金を積んでも失われた命は戻りはしないんだ・・・」
耕一はどこか遠くを見ているかのように言った。恐らくは、過去に失われた命の事を考えているのであろう。
地球連邦1の金持ちが言ったその言葉には、かなりの重みが有る。
「・・・そうですね」
警報が鳴った。
「使徒か・・・」


第3新東京市、ネルフ本部第1発令所、
「第拾四使徒を光学で捕らえました。」
メインモニターに使徒が映し出された。
「目標、まもなく上陸します」
「各部隊に通告、食い止めろ」
「了解」
「1番から75番までの部隊展開完了」
「現在第3新東京市対空防衛力、77%です。」
「アスカとレイは、」
「今ケージに向かっています。」


沿岸に、無数の兵器が展開されている。
使徒が射程距離に入ると同時に、一斉に攻撃が仕掛けられた。
使徒戦では、まともに活躍できなかった、国際連合軍が、手元に有る限りの使徒に関する情報から、有効と判断されるほどの兵器を集中させている。
12式自走臼砲も40機も展開されている。
攻撃が着弾す直前、赤い障壁によって遮られた。
ATフィールドである。
今度は、一点集中攻撃を掛けた。
ほぼ同時に一点に着弾し、凄まじい熱球が現れた。
指揮官達は、勝った。そう思っただろう。
だが、次の瞬間、熱球の向こうから放たれた13発のエネルギーにより、部隊の72%が壊滅する事になった。
熱球を越え現れた使徒には傷一つついていなかった。


神奈川県上空、ヘリ編隊、
「もっと飛ばせ!」
「はい!」
「シンジ、これから起こることを恐れて何もしないのも愚かだが、既にしてしまったことを悔い、それに捕らわれるも愚かだ。今、自分に出来ることは何か、自分がすべきことは何かを考え行動に移せ、後悔するのは、全てが終わってからで良い、全てが終わったら大いに悔やみ大いに悩め、だが、今はその時期ではない。」
「・・・・はい」
「第3新東京市上空です」
使徒が見えた。
「そして、何もしない、或いは、流されるままに身を委ねると言う行為も、又一つの自分の行動であり、自分の責任を持って行わなければ行けない行為だと言う事も覚えておけ」
都市やその周囲の至る所から対空攻撃が掛けられた。
シンジは軽く頷いた。
使徒はエネルギーを収束させて放った。
市内に13本の光の柱が立った。
「着陸します!」
「シンジ、ネルフ本部に走れ」
「はい」
「お前には守るべき者がある。何が何でも守りぬけ!」
頷き、着陸と同時にシンジはネルフ本部に向かって走った。
ヘリ編隊は直ぐに離陸し、全速力で第3新東京市を離れた。
耕一を残して、
シンジはジオフロントゲートを通過した。


ネルフ本部第1発令所、
ミサトが到着した。
「1撃で第17装甲板まで貫通!!」
日向が驚くべき報告をした。
「エヴァの地上迎撃は間に合わないわ、弐号機を本部の防御に回して、零号機はサポートポイント!」
「UNからの作戦指揮権の移行が間に合いません!」
「構わないわ!」
又しても無意味にしゃしゃり出てきた自衛隊は、やはり又しても壊滅した。
「初号機エントリースタンバイ、接続開始」
「17枚もの装甲を一瞬にして・・・第伍使徒の加粒子砲並の破壊力ね」
「了解」
「エラー発生!、初号機シンクロ不能です」
「0、2、5、6、7、8、11、14、15、18、25、28、29エリアに被弾!!危険です!!」
施設に振動が走った。
「弐号機ジオフロントに射出!」
「エラー発生!駄目ですレイを受けつけません!」
「ユイ・・私を拒絶するつもりか・・・」
碇が小刻みにふるえている。
「ジオフロント天井部破壊されました!!」
「回線をダミーに移せ!」
「了解!」
「弐号機対空迎撃準備完了!!」
「目標ジオフロントに侵入!!弐号機対空迎撃開始!!」
「ダメージがありません!」
「ダミーも拒絶!!初号機起動しません!!」
マヤの声は悲鳴にも近かった。


ジオフロント、弐号機、
「くっ、ATフィールドは中和しているはずなのに・・」
間違い無く着弾している。だが、ダメージは無い。
表面が強過ぎる。
使徒は帯状の触手を伸ばして来た。
弐号機は紙一重で交わしたが、接触したエヴァ専用のバズーカーが寸断された。
「・・くっ」
弐号機はもう片方の攻撃をバック転で交わした。
強い。間違い無く。
攻撃力、守備力ともに半端ではない。
使徒の口が発光している。
「拙い!」
使徒はエネルギーを収束させて、弐号機に向けて放った。
「きゃああああああ!!!!!!」
とっさに反応し、避けたのだが、弐号機の左腕は肩口から無くなっていた。
エネルギーはジオフロントの壁面を大きく抉った。
「ううう」
アスカは激痛の走る肩を押さえ、使徒を睨みつけた。
「え!?」
アスカが何かおかしいと思った、その瞬間、右腕を激痛が走り抜けた。
弐号機の右肩が触手によって切断されたのである。


第1発令所、
弐号機はそれでも使徒に突進し様とした。
「全神経接続解除!急いで!!!」
「はい」
ミサトの指令にマヤが反応した直後、弐号機の首が切られた。
「神経接続解除間に合いました、回収班出動」
「レイは零号機で出せ、初号機はダミー単独で起動、私もケージに向かう」
「碇・・・」
「シンジが来るまで持てばいい」
それは、シンジこそがエースパイロットと認められたからであろうか?それとも・・・


ジオフロント降下エスカレーター、
シンジはエスカレーターの上を走っていた。
射出口が開き零号機が現れた。
「そんな!まだ右腕の修復は終わっていないのに!」
零号機はNN爆雷を抱えている。


 A.S.15年8月1日(土曜日)P.M.23:45、双子山山頂仮設基地内仮設ケージ
「碇君」
「ん?」
「貴方は死なないわ。」
レイはシンジの方を向いた。
「私が守るもの」
シンジはレイの瞳に何か酷く大人びた感じを受けた。
「さよなら」
レイはリフトに乗り下りて行った。 


A.S.16年1月31日(日曜日)、ジオフロント降下エスカレーター、
ヤシマ作戦の時の事がフラッシュバックした。
「綾波!!!自爆する気か!!!」
零号機は、使徒に突撃し、ATフィールドを無理矢理中和して、NN爆雷を使徒に直接叩き付けた。
「綾波ぃ〜〜!!!!!!!!」
衝撃波でガラスが割れシンジに破片が降り注いだ。
火柱がジオフロントにそそり立っている。
そして、爆煙が晴れると、破壊された零号機と無傷の使徒が現れた。
「くっ」
シンジは全速力でエスカレーターを駆け下りた。
そして、エレベーターに乗り、ケージに向かった。
「まだか!」
「まだなのか!」
そして、漸くケージに到着した。
『12番からやりなお・・・シンジ』
司令室の碇はシンジに気付いた。
「父さん」
『出撃』
シンジは頷き、碇はにやりと笑った。


第1発令所、
「使徒メインシャフトを降下中!!」
「ここに来るわ!!総員待避!!」
『総員待避!総員!』
突然メインスクリーンが爆発した。
「くっ」
使徒が発令所に乗り込んできた。
「ここまでか」
使徒の目が光り始めた。
突然、横の壁が破壊され初号機が乗り込んできて使徒を殴り飛ばした。
「シンジ君なの!!」
『うおおおお!!!』
初号機は使徒を発令所から押し出した。
いくらなんでも本部内で戦い続けるわけにも行かない、目指すは射出口が有るケージ。
渾身の力を込めた鉄拳を使徒のボディにぶち込み、動きを止め、壁をぶち破ってケージに投げ込んだ。
そして、更に、射出口に使徒を押しつけた。
使徒の目から放たれたビームで初号機の左腕が切れて吹っ飛んだ。
「うぎゃあああ!!!」
左腕はケージの司令室の横に激突した。
一歩間違えば死んでいた碇だが、ただじっと見ているだけだった。
「ぐ、ぐ、ミサトさん!!!」
そして、初号機と使徒は一緒に射出された。
「うおおおおお!!!!」
初号機は右腕だけで、使徒を殴りまくっている。
使徒はまともな攻撃も出来ずにぼろぼろになっていく。
ジオフロントに射出された。
首と両手が切れている弐号機の姿が視界に入った。
「貴様のせいで綾波がアスカが!!!」
初号機は渾身の鉄拳を使徒の顔にぶち込んだ。
使徒の顔が割れ血のような液体が噴き出した。
「くくく、死ねぇ!!!」
シンジは狂喜の表情を浮かべ、初号機はただ使徒を殴り続けている。
突然、初号機の動きが止まり、エントリープラグ内の映像も殆どが消えた。
「あ・・・」
内部電源が切れた。
暫くして、振動が伝わってきた。
復活した使徒が初号機を攻撃しているようだ。
「動け!動け!動け!動け!」
シンジは叫びながら激しく操縦レバーを揺すった。
「動け!動け!動け!動け!今、動かなきゃ!今、やらなきゃならないんだ!!!」
「今しかないんだ!!!」
突然シンジの意識がなくなった。


ジオフロントに出てきたネルフ職員達が見た物は、再起動した初号機だった。
「そんな!!!シンクロ率412%、カウンターストップです!!」
マヤは信じられない報告をした。
「まさか・・・」
初号機は使徒を殴り飛ばした。
そして、手刀で、ATフィールドごと使徒を切り裂いた。
初号機は、左腕を再生し、4足歩行で使徒に近付いた。
そして、使徒の頭部を破砕し、いきなり使徒を食べ始めた。
「な!使徒を食ってる・・・」
気分が悪くなったマヤが吐いた。
「SS機関を取り込んでいるんだわ」
そう言ったリツコの顔には明らかな恐怖が浮かんでいた。
そして、初号機は立ち上がり、ジオフロント全体を揺るがす咆吼を上げた。
装甲板が壊れていく。
「な、拘束具が」
「拘束具?」
「あれは、衝撃から身を守る装甲板ではなく、エヴァの有り余る力を押さえ込むための拘束具なのよ・・・呪縛を自らの力で解いたエヴァはもう誰にもとめられないわ」


ジオフロント内になぜか存在している西瓜畑では、何を考えているのか、加持が水をまきながら、初号機を見ていた。
「さてさて、初号機の覚醒・・・これもシナリオの内ですかな?碇司令?」
加持はピラミッド状のネルフ本部の最上部に目をやった。


そこに存在している総司令執務室では碇と冬月が初号機を見ていた。
「全てはこれからだ」
「ああ、これで、我々のシナリオに近付いた」
冬月は使徒の動きに気付いた。
「お、おい、碇」
使徒は触手を弐号機の頭部に伸ばし弐号機の頭部を取りこんだ。
「む」
一方、碇は初号機の異変に気付いた。
初号機は咆哮を上げるのを止め、体勢も、人とサルの中間のような立ち方から、元の人間のような立ち方に戻った。
使徒の方は体が変化を起こし、体型が細くなり、人のような腕が生え、全身が赤い装甲のようなもので覆われた。
「まるで弐号機だな」
「何故、頭部を取りこんだのに頭部には何も変化が無い」
「碇・・そう言う問題ではないぞ」


ジオフロント、
「使徒・・・活動再開・・・」
「何故エヴァのような体型を?・・・!、まさか!」
リツコは使徒のしようとしている事が分かった。
使徒は地面に落ちているアクティブソードを手に取った。
「使徒がアクティブソードを!」
「拙いわ!初号機は!?」
「体内に高エネルギー反応はありますが、動きはありません、詳細は一切不明です!!」
使徒が初号機に近付き、アクティブソードで斬り掛ったが、空を切った。
初号機は瞬時に間合いを取って離れていた。
「初号機活動再開!」
「暴走!?」
「いえ、何か変よ」
使徒は初号機に向かって突進した。
初号機はアクティブソードを避け、使徒の懐に入り込むと、使徒の腹部に膝蹴りを撃ちこみ、使徒を吹っ飛ばした。
使徒はジオフロントの壁面に叩き付けられ、衝撃がジオフロント全体に伝わり、轟音が響いた。
初号機はゆっくりと使徒に近付いていく。
「何?」
「シンジ君が動かしているの?」
「分からないわ、只の暴走でもない・・・」
使徒は反動をつけて再び切り掛ったが、初号機は白刃取りをして見せた。
「真剣白刃取りぃ!!」
初号機はそのままアクティブソードを押さえたまま、使徒を空中に投げ、アクティブソードを手に持ち、空中の使徒に斬り掛った。
使徒はビームを放ったが、初号機はその強力なATフィールドをパラボナ状にして、焦点の使徒に叩き返した。
使徒のわき腹を抉り取り使徒が苦痛の叫び声を上げた瞬間、初号機が、アクティブソードで使徒を次々に斬り、細切れにした。
「・・・あんなのシンジ君には絶対無理よ・・・」
「じゃあ、誰が動かしてるって言うの?」
「・・・分からないわ・・・」
初号機は、そのまま活動を停止した。


西瓜畑、
「こりゃ驚いた・・・これが初号機の力ですか・・・」
加持は余りの事に呆然としていた。
如雨露は既に空になっていた。


総司令執務室、
「碇、今夜は祝杯だな」
「ああ」
碇の口元には明らかな笑みが浮かんでいた。

 

あとがき
どうやら、鈴原兄妹は、助かるようですが、どうも耕一とダブっている加持の影が薄くなっています。
耕一が言っているのは、勿論、なんでも金で済ませろと言っているのではなく、それで丸く収まる場合だけです。現実にはそんな事はあんまり無いんですよね。弁償してもらうよりも、兎に角本心から謝れと言いたい人は多いでしょうし。
さて、初号機が2段階の覚醒を起こしました。
勿論・・・ですが、ここでは言わない事にします。

次回予告
初号機のエントリープラグには、プラグスーツが浮かぶだけだった。
LCLに還ったシンジ、シンジの喪失は、チルドレン、そして、ネルフ全体に大き過ぎる影響を与えた。
混乱に陥るネルフ、そして、東京が沈黙する。
苦悩するレイ、それを見守る者達
彼女はいかなる結論を導くのか
次回 第参拾話 心のかたち、人のかたち