1月3日(日曜日)A.M.5:01、ネルフ本部第1発令所。 電話が鳴り、碧南が受け取った。 「はい。」 『諜報部です。富士山麓で、移動物体の動きが止まった様です。』 「判りました。」 碧南は電話を切り、報告の為に技術棟に向かった。 A.M.5:07、ネルフ本部、総司令執務室付属仮眠室。 碇は、電話の音に目を覚ました。 「・・電話か・・」 激務を終え、漸くの眠りについたところを起こされてむかついたが、取らない訳にも行かず、碇は電話を取った。 「私だ」 『国土庁副長官だが、』 「何か?」 『富士山麓にて、移動物体の動きが止まった。一応確認された方が良かろう。』 「御苦労」 電話が切れた。 A.M.8:14、富士山麓、白糸の滝。 ネルフはミサトを指揮官として弐号機を伴った調査隊を差し向けていた。 滝に妙なロボットが突っ込んで停止している。 「何あれ?・・・使徒じゃないわね。」 弐号機のエントリープラグで、アスカは呟いた。 『あれが、年末に世間をお騒がせした、謎の移動物体よ』 恐らくは、ネルフのエヴァに対抗する為に作られたロボット、いきさつは知らないが、それがここにこうして壊れて動きを止めているところを見ると、このロボットを作った者達への怒りと、どこか、ざま〜見ろとでも言いたくなるような感情が入り混じって表れる。 仮司令部では、ミサトが、マヤが指揮するロボットを分析中の技術班や、弐号機のアスカ、ネルフ本部と連絡を取っていた。 『現在、戦自の司令部に直接確認中』 『甲は、自らの重量で岩を踏み崩しバランスを失い花崗岩に激突』 ロボットを調査しているマヤからの通信である。 「ロボットは、高速移動中に崖を踏み砕き岩盤に激突したようです。」 『生存者はいるのか?』 「胴体の中央部に人の入れるハッチのような物が有りますが。」 『許可は取ってある、ハッチの中を調べてくれないか。』 「はい、そうします。」 冬月の指示に答え、ミサトはマイクを取った。 「アスカ、ロボットのハッチを抉じ開けて。」 『分かったわ』 弐号機はロボットに近付いて、ロボットのハッチを破壊した。 マヤ達技術班は、弐号機が離れると、ロボットのハッチのある場所まで攀じ登った。 「そっちを引っ張って。」 マヤを含む3人掛りでハッチ等の残骸を退けて、中を確認した。 中には、少年が血だらけになってシートに倒れていた。 「直に運び出して、」 「手伝うよ」 青葉と技術部の男性職員の二人で、少年を中から運び出した。 少年は戦略自衛隊の救急ヘリで戦略自衛隊病院へと搬送された。 A.M.10:48、ネルフ本部、第6ケージ。 弐号機が収納された。 不機嫌な顔でアスカは弐号機を降りた。 アスカの帰りを待っていたのか、直ぐにシンジがやって来た。 「パイロットを収容したってリツコさんが言ってたけど。」 「そう、その収容先が聞いて驚き、戦略自衛隊病院なのよ。」 「ネルフの中央病院じゃないんだ。・・あれ?でも、リツコさんが見てくるって。」 「あったまくるわね〜、私だってネルフの一員なんだから秘密を教えてくれたって良いじゃない。」 「・・秘密・・」 その後も、不満をたらたら言い続けるアスカの話を聞き流しながらシンジは小さく呟いた。 A.M.11:46、長野県、第2新東京市南区戦略自衛隊病院正面。 電車を使ってシンジとアスカはここまでやって来た。 結構大きな病院である。 「絶対に入院したくない名前の病院ね」 アスカはそう言うが、普段チルドレンが入院したり検査を行っているネルフの中央病院も匹敵していると思うが・・・いや、秘密組織で、人類の未来を護っていますって言うネルフの方が怪しい。しかも地下だし 二人は中に入った。 御目当ての部屋を探し、遂に地下に有る集中治療室の一つの上部に入った。 ガラス越しに集中治療室の光景が見下ろせる。 生命維持装置をつけられたロボットの中にいた少年が中央のベッドに寝かされている。 その側でリツコと医師が何かを話していた。 「彼があの移動物体事件の犯人?」 「多分そうよ。多数の精密なミサイル、100ミリはある機関砲、物が掴めるような手もついていたわ。私達ネルフの敵ね。」 「敵?・・・ネルフを襲う理由がわからないよ。」 二人の考えた意味が違う、アスカは、エヴァ、そして、ネルフの政治的優位を崩そうとする敵、一方シンジは、文字通り直接戦う事になる敵である。 「バッカねぇ、エヴァの存在に決まってるでしょう。」 そう言われても良く分からないシンジは不可思議な表情をした。 「エヴァはそうなのよ」 「何がそうなの?」 「私が、そうって言ったらそうなの。」 「本当は知らないんだ。」 何と無くアスカも良く分かっていない様で、それが分かり少し精神的優位に立ったのか、殴られそうな事を言ってしまった。 「その少年がエヴァを潰そうとしたって、只それだけのことよ。エヴァ以外に使徒に対抗できる兵器があったらエヴァとネルフの価値は低下する。JAが良い例じゃないの、あんなガラクタに一体どれだけの金が注がれたの思ってるの?間違いなくエヴァを潰そうとしていたのよ」 アスカはJAの事について調べていた。 「そんな筈ありません!」 シンジが意見を言う前に、それを遮ったのは、マナの声だった。 何時の間にか来ていた、マナは小さい花束を持っている。 「マナ!・・どうしてここに」 「そこに横たわってる人は私の友達です。」 マナの発したシンジの問いの答えを聞き、アスカはにやりと笑った。 「はは〜ん、成る程、それが目的で霧島さんはシンジに近付いた訳ね。私達を罠に落とし入れるつもりなんだ」 アスカが勝ち誇ったかのように言った。 「え?」 「私は、只、御見舞いに来ただけです。」 「あんたが御見舞いに来たその少年はエヴァ潰しの犯人よ。一体如何言う関係?」 「それは・・・」 アスカの問いにマナは答える事が出来ずに言葉を詰まらせた。 「シンジもバカよ、転校して来たばかりの女の子をいきなりデートに誘えるわけ無いじゃない」 「そうなの?」 「違います!」 マナが叫んだ。 「バカシンジ!殺されても知らないから!」 「アタシ帰る!」 思いっきり不機嫌になったアスカは一人で帰って行った。 だが、その後ろ姿はどこか寂しそうであった。 「シンジ君は、私のこと信じてくれるよね」 マナは縋るような目で訴えた。 「兎に角、ここにいるのは拙いよ。誰かに見張られていたら、犯人扱いされるから」 二人はその場を離れた。 集中治療室の中からはリツコが3人のやり取りを見ていた。 「何かしら?」 「あの、患者に関しては、かなり危険な状況で、尋問は勧められませんが。」 「許可は取ってあります。患者の生死は問いません。自白剤の投与をします。貴方は退室を。」 「は、はい・・・」 しかし、医師が少年に注射を打ち込んでいた事をリツコは見逃した。 リツコは自白剤を取りだし少年に打った。 屋上、 シンジはフェンスに凭れ、マナはベンチに座った。 暫く、二人は視線を合わそうともせずに黙ったままだった。 最初に口を開いたのはシンジだった。 「・・彼は?」 「・・友達・・」 マナは俯いたまま答えた。 「僕以外に男の友達いたんだ・・」 「名前はケイタ、前の学校の同級生。」 「説明なんて良いよ。」 「如何してそんな事を言うの?」 「マナの彼氏の事なんか、聞きたくないよ。」 「ケイタは只の友達だからシンジの考えているような事は無いのよ!」 マナが反論する中、靴音が聞こえて来た。 「誰!?」 勢い良くマナは靴音の方を振り向き、シンジも視線を向けた。 足音の主は加持だった。 「良い雰囲気の所、邪魔をしてしまったかな。」 「加持さん!」 「脅かして悪かった。ロボット騒ぎの少年の事でちょっと呼ばれたんだ。相手が人間の作ったロボット、それも日本の戦自が作ったロボットだけに厄介なもんでね。」 「少年はマナの友達なんです。」 「そうか、状況は不利だな。」 加持の言葉にマナは俯いた。 「・・・ごめんなさい・・」 「マナ?」「みんな・・・私の所為かもしれない」 マナは泣きそうに成っている。 「ねぇ、如何言うこと?」 「落ち着いて、俺の言う事を良く聞くんだ。」 問おうとしたシンジを止め、加持は説明を始めた。 「先ず、俺にはこれ以上何も話すな。次に早くこの病院から出る・・・」 加持は何かに気付き、拳銃を抜いて、ドアの方に向けた。 「加持」 「しっ」 ドアがゆっくりと開き、耕一が出て来た。 「統監」 耕一はドアを閉め此方に歩いて来た。 加持は拳銃を懐にしまい、耕一は軽く頷いた。 「二人を引き渡してもらおうか。」 加持は、何も言わずに一歩引き下がった。 「来てくれ、」 その後、二人は耕一の車に乗せられ、シンジはミサトのマンションの前で降ろされた。 「誰にも触れられたくない過去はある、下手に詮索はしない方が良い」 耕一はそっとシンジに耳打ちした。 白い車は、市街の方へ走って行った。 (僕が、秘密を知らなければそれで済むんだ・・・でも、もしその秘密がネルフやエヴァにとって重要な事だったら・・・ミサトさんや、アスカや、リツコさん・・・・綾波・・・皆を裏切ることになるんだ。) シンジは俯き、考え事をしながら部屋に戻った。 1月7日(木曜日)、第3新東京市立第壱中学校講堂。 今日の始業式は、アスカもレイも、マナも欠席していた。 又在校生が少なくなり、たった、3人の欠席者でも、淋しくかんじてしまう 「綾波はいつもの事やけど、霧島とアスカ休みなんやなー、」 トウジが出席者を見回しながら言った。 「まあね・・」 「アスカはともかく、霧島がおらんと淋しいやろ」 「ほっといてよ」 トウジのちょっかいにシンジは少しむっとした顔で返した。 「何やシンジ〜」 更にからかおうとした時、ヒカリがトウジの背後に立った。 「何や殺気が・・・」 「鈴原、碇君、先生の話はちゃんと聞かないと駄目じゃない。」 「何や委員ちょー、別にええやんどうでもええ話なんやし。」 ヒカリがトウジの頭を辞書(A5サイズの2500ページ位の)で殴った。 「つべこべ言わない!」 「は〜〜〜〜い」 下校時、校門 シンジが帰ろうとしたとき、校門にレイが立っている事に気付いた。 人を待っているような感じがして、それが自分だと気付いたシンジは急いでレイの元に駆け寄った。 「綾波・・・」 「・・碇君、来てくれる?」 「あ、うん」 シンジはレイに従い場所を移動した。 公園、 二人はベンチに腰を下ろした。 レイはシンジの左である。 「・・・霧島マナ戦略自衛隊特務准尉、第3方面軍第11特別部隊所属・・」 レイはいきなりそう切り出し、シンジは驚愕の表情を浮かべた。 「綾波・・・それって・・・」 シンジは恐る恐るそれの指し示す意味を確認しようとした。 「・・但し、先月退役しているわ・・」 「じゃあ、マナはもう戦自と関係はないって事?」 その言葉にほっとしたのか、軽い笑顔を浮かべて尋ねた。 「・・いえ、分からないわ・・」 「そんな」 しかし、返って来た言葉にシンジは表情を曇らせ俯いた。 ・・・・ シンジは、レイの優れた観察力と冷静な判断力から導かれる答えを聞いて見ることにした。 「綾波はどう思うの?」 レイは暫く黙っていた。考えを整理しているのか、答え辛いのか、分からないのか、 「・・・・彼女は、碇君に好意を抱いている。ほぼ間違いなく、けれども、彼女が何らかの任務を受け持っていた場合、碇君と任務、どちらを選ぶかは分からないわ・・・」 「そう・・・・」 好意を抱いていると言う部分は嬉しかったが、後半の部分が喜ぶ事を出来なくした。 ・・・・ 「もし、もしもさ、綾波が父さんに僕を殺すように命令されたらどうする?」 ふと、レイの場合どうなるのか、気になったシンジは聞いて見た。 「・・・・・それが・・必要なら・・実行するわ・・」 その答えにシンジは俯いた為、レイが悲痛な顔をしていたことに気付かなかった。 「・・でも、したくは無い、碇君との絆が消えてしまうから・・・」 その後に補っても無駄だった。 「綾波ってやっぱり冷たいよ」 「・・・そう・・・・そうかもしれない・・・」 今度は否定も反論もできずにレイも俯いた。 P.M.9:12、芦ノ湖、 巨大な物体が湖から姿を表した。 それは、白糸の滝で活動を停止したあのロボットと同じ型のロボットだった。 ロボットは、道、家屋を破壊しながらどこかへと突き進んだ。 P.M.9:46、第3新東京市市街、西武百貨店前。 陸上自衛隊の戦車部隊が並んでいた。 既に住民は避難している。 「全車、目標の移動物体が射程距離に入り次第、ホールドモードにして弾を打ち尽くせ。」 地響きがして来た。 「目標近鉄デパートの方から現れました。」 ビルの陰からロボットが現れた。 「で、でかいじゃないか」 「射程距離内です。」 「撃てぇ!」 数十台の戦車から一斉に砲弾が放たれた。 弾はロボットに全て直撃したが、ロボットには殆どダメージが無いようだ。 ロボットの機関砲がこちらを向いた。 「隊長!歯が立ちません!」 「あわわわわ!」 機関砲が放たれ、戦車の装甲は一瞬で破られ、次々に爆発を起こした。 ネルフ本部、第1発令所。 「芦ノ湖から現れた移動物体は国道669号線を通過し、軍の戦車部隊と接触、駅を破壊し現在も移動を続けています。」 「好きな様にさせておけ。」 「しかし、連中にエヴァの施設を傷つけられるの厄介だぞ。修理の費用も嵩む一方だ。あそこの作戦行動は昔と違って無茶苦茶に破壊しまくるからな。」 碇の指示に冬月が反論した。 「奴らのプライドを潰すには丁度良い。間違いは体で覚えるべきなのだ。」 P.M.10:52、第2新東京市新千代田区内務省長官室。 「分かった。君に任せよう。」 「はい」 「今回の件は、出来る限り穏便に済ませたかったが止もうえん。如何なる手を使ってでも処理せよ。」 「はっ」 1月8日(金曜日)、P.M.0:40、第3新東京市立第壱中学校2−A。 何故か最後まで教室に残っていたシンジが帰る準備をしていた。 教室の後ろのドアが開き、マナが教室に入って来た。 「シンジ」 「マナ、どこ行ってたの?学校休んで。」 「いないの」 マナは不安を表情に表し、どこか怯えているようにも見える。 「誰が?」 「集中治療室のケイタが。」 「病室に移ったんじゃないの?」 「受け付けで聞いたらそんな人、入院してませんって」 「良く探して見ようよ、もしかしたら別の名前で入院してるのかも。」 アスカとレイが教室に入って来た。 「待ちなさいよ。」 「喧嘩は駄目だよ。」 「アタシも行くわよ。シンジだけだと何をされるか判らないから。」 アスカはマナを睨みつけながら言った。 「でも・・」 「良いのよ、一緒に来てくれると心強い。」 「優等生も連れて行くわよ。」 「・・少しだけなら。」 「じゃあ直に行こう。」 4人は学校を出て、駅に向かった。 P.M.1:55、第2新東京市南区戦略自衛隊病院集中治療室。 4人が到着した時、集中治療室は、もぬけの空だった。 「・・・いないでしょ。病室も探したんだけど。」 「かなりの大怪我だったから・・」 「生きてるわよ!」 マナが激しく否定した。 「ゴメン」 シンジはほぼ条件反射的に謝った。 「ネルフに連れていかれたとか聞いてない?」 「私達を悪者みたいに、」 ネルフを悪く言うマナにアスカは不満を顕にして吐き捨てるように返した。 「もしかして、連れ戻されたんじゃ、奴らに・・」 「奴らって?」 「後ろ!」 シンジの背後から黒服の男が迫った。 「うわ!」 シンジは男に取り押さえられた。 「「シンジ!」」 「放しなさい!」 レイが凄〜〜く珍しく大声を上げて、サイレンサー付きの銃を男に向けていた。 凄まじい視線をぶつけられ、恐怖で萎縮した男はシンジを開放した。 いや、恐怖で力が抜けたと考えるべきか、 「逃げるわよ!」 4人は逃げた。 4人は最終的に女子トイレの個室に逃げ込んだ。 いくらなんでも4人は狭過ぎる。 「ここは女子専用よ!」 アスカは時と場合を全く考えていないような事を言った。 「隠れてないと見つかるよ。」 「私が出ていきます。皆を巻き添えにするわけには」 遠くで銃声と女の人の悲鳴が聞こえる。 「出ていったら殺されちゃうよ。」 「集中治療室の少年も奴らに殺されたのね。ねぇそうなんでしょ霧島さん。」 「そんな・・」 マナは哀しげな表情で俯いた。 「・・それは無いわ・・」 「ファースト、どう言うこと?」 「既に死亡しているわ」 「「「え・・・・」」」」 レイの言葉に3人は驚き、そして言葉を失った。 「・・赤木博士が情報を聞き出しきれ無かったって言ってた・・」 「きれなかったって、まさか、あの時のリツコの尋問中に死んじゃったの」 「恐らく」 「そんな・・・」 友人の死にマナは目を潤ませた。 「アスカ、携帯持ってる?」 アスカは携帯電話を取り出した。 《圏外》 「なんで、ここ第2新東京市でしょ。」 「妨害電波?」 「やるわね。」 レイも携帯電話を取り出した。 《受信状況不良(高レベルの妨害電波が流されています)》 レイは何か考えた後、携帯電話の裏についている何かの装置のスイッチを入れた。 「なに?」 「発信機」 暫くして、トイレに何人かが入って来た。 ドアがノックされた。 「お迎えに上がりました。」 ドアを開けた。 耕一親衛隊隊員のようである。 火災報知器が鳴った。 「何!?」 「どうぞ、此方から、混乱に乗じて屋上から。」 一行が屋上に到着して直ぐに、ヘリコプターが迎えに来た。 「くそ、上だ!」 下から男の声が聞こえる。 「どうぞ」 ヘリに乗って離陸した。 ・・・ 「追い掛けて来るわ。」 「嘘でしょ!」 レイの声に驚き、アスカは半分身を乗り出して後ろを見た。 ヘリコプターが此方を追い掛けて来ている。 「やるわね。」 「直に会長に連絡して、拙いわ。」 親衛隊員が焦っている。 「如何したんですか?」 「あの航空部隊の基地で、戦闘機が離陸準備をしているわ。」 確かに、戦闘機が滑走路に向かって行っている。 親衛隊員は電話をかけた。 「会長に大至急。」 「会長、追われています。戦闘機まで出てきます。」 「分かりました。」 「市街地沿いに低空飛行で東京に向かって!」 「此方の方が速度は速いからヘリの方は振り切れますが・・」 「ああっ!!」 信じられないものを見たアスカが叫んだ。 「「「「如何したの!?」」」」 戦闘機が飛行する下の町に衝撃波が直撃している。 「音速を超えてるわ。」 「音速を超えています。」 「後5分はおろか1分も持ちませんよ。」 「皆さんどこかにつかまって下さい。」 指示通り皆どこかにしがみ付いた。 諏訪湖が見えて来た。 ヘリは急上昇した。 戦闘機は、音速を超える速度で、第2中央道新幹線諏訪駅の駅ビルに直撃した。 駅ビル上部が爆発を起こした。 「「「ああっ!」」」 その後ヘリは、第3新東京市に向かった。 P.M.3:01、第3新東京市郊外展望公園。 連絡を受けたミサトが遅刻せずに待っていた。 「では、碇シンジ、綾波レイ、惣流アスカラングレー、霧島マナの以上4名の身柄を引き渡します。」 「御苦労様でした。」 ミサトは頭を下げ、親衛隊員達は帰って行った。 「さて、説明してもらいましょうか、霧島さん。」 アスカは勝ち誇ったかのような視線でマナを見ている。 「マナは、奴らの仲間だったんだ・・・転校して来た日、僕に声を掛けたのは嘘だったんだ」 シンジは裏切られたと言う気持ちで一杯だった。 「違うわ!」 「だって、僕やミサトさんを騙そうとしたんじゃないか」 「仕方なかったのよ」 仕方ない、それは第3者には通じても、当事者には通用しない。 「マナはスパイなの?そうなの?」 マナは俯いた。 「そうよ・・シンジ君・・私はエヴァ初号機のパイロット碇シンジの日常の生活を監視する軍の少年兵、でもね、私はシンジ君が好き、それは嘘じゃない。シンジ君は私のことが嫌いになったの?」 「かって過ぎるよ。」 シンジはそう吐き捨てるように言った。 「シンジ君止めなさい。」 「ネルフ本部に連絡するわ。」 「マナはどうなるんですか?」 「警察に行くか、ネルフ本部に収容するか、東京帝国グループに預かってもらうかでしょうね。」 「そんな・・」 「でもね、シンジくん、このままマナを返したらどうなると思うの?」 シンジも俯いた。 ミサトは携帯電話を掛けた。 「リツコ聞いてる?シンジ君の同級生なんだけどね、この子は軍から逃げてきた少年兵で助けを求めているの。何とかして上げられないかしら?」 「関係無い?スパイなのよ。」 「とんでもない」 「だから違うって、ちょっと」 電話は切られたようだ。 一方、アスカはマナを問い詰めていた。 「霧島さん、シンジなんかスパイしてなんかの役に立つの?」 これは、アスカも疑問だった事である。 馬鹿なシンジから得られた情報にエヴァの重大な秘密があるはずが無い。 「私が得た情報は、ロボット兵器の設計部に行くの、それを元にロボットの操縦席の改良や、操縦システムの改良が行われるの。」 「じゃあ、パイロットが中学生なのは、エヴァを真似て作ったから?」 「そうじゃないの、パイロットが14歳なのは、数年後以降の戦争を想定したからなの」 「数年後には、パイロットは成人しているって事か」 マナは、自分の事、隠していた秘密の過去を話し始めた。 「最初、私達は新しい乗り物が操縦できるって喜んでいたの。」 「私の仲間はムサシとケイタ、訓練を楽しむ内に打ち解けたの。」 「でも、ロボットの操縦は難しくて私は1ヶ月もしないうちに内臓をやられちゃったわ、でも、そんなある日、何年かも縛られるのは嫌だってケイタが柵を越え様としたらしいの、しかし、それではロボット兵器計画その物が駄目に成ってしまう、大人達は力尽くで私達を柵の中に押し込めたわ。」 「皆はだんだん苛立ってきて、大人達の目を盗んではケイタをいじめるようになったの。それをムサシと私で止めたんだけど駄目、皆それを見て笑っていたわ・・・・」 「私とケイタとムサシの3人はいつかロボット兵器で脱走しようって冗談で言ってたのにそれを本当にしてしまうなんて・・・私も共犯だから追われて当然よね・・」 マナの話にシンジは同情し、アスカは、ふ〜んそうなのくらいであり、レイは無表情で何を考えているのか知れない。 「いざとなれば、僕の家に隠れれば良いよ。」 「そしたら今度はネルフの諜報部が黙っちゃいないわよ。」 シンジがマナを守ろうとしたので、すかさずアスカが否定した。 「父さんに頼めば助けてもらえるかもしれない。」 「・・それは無理だわ、司令はそんな事はしたりはしないわ。」 今度はレイが否定した。 「皆、今ネルフの方で、霧島さんの身柄の確保について話し合いが行われているわ。結果が出るまで待ちましょ。」 その後、4人は、車の近くを離れ柵の方に移動した。 「霧島さんの仲間って皆、男の子なんだ。」 「ええ」 「その子達とシンジとどっちが好きなの?」 アスカはここぞとばかりにマナを攻撃するつもりのようだ。 「そんなの比べられない・・・だって違うもの」 「早くも二人の関係は破局に向かってるわね。」 どう違うか聞かずにそう言った。 「私、シンジ君と出会えて良かったと思ってる。」 「ミサトがこっちに手を振ってる。」 4人は車に戻り乗った。 アスカが助手席、中央の座席の右側にマナ、左側にシンジ、後部座席にレイが座った。 「ネルフに向かって強行突破よ。」 ミサトはアクセルを踏んだ。 「如何したんですか?」 「会議が長引いてるんだって、どうせ、皆ピザでも食ってるのよ。」 会議になると仲間外れに去れるミサトは普段の不満も合わせてむかついている様だ。 だが、これは自業自得である事は、周知の事実である。 「・・拙いわね。霧島さんのネルフ収容に反対しているのは碇司令と赤木博士よ・・」 「如何して?」 「・・性格的な問題と、影響力、二人が賛成していれば既に決定しているわ・・」 アスカは何かに気が付いて携帯電話を掛けた。 「あっ、ナツメ、今ネルフで会議やってるでしょ。」 『はいな、スパイの話ですね〜』 「身柄の引き取りに反対しているのは誰?」 『碇司令です。勧めてるのが、伊吹2尉ですけど、多分間違い無く否決されますね〜、日本政府から圧力が掛かってるし〜』 「ありがと」 アスカは電話を切った。 「駄目そうよ。」 ミサトは車を止めた。 「如何する?」 シンジは気持ちが沈んでいる。 「・・東京に向かって、統監ならまだ望みがあるわ・・」 ミサトはレイの指示通り東京に進路を変えた。 そして、国道778号線新横須賀市、 前方を軍隊が塞いでいた。 ミサトは車を止めて下りた。 「私はネルフの葛城3佐です!そこを通しなさい!」 しかし兵達は動こうともしない。 「ネルフ軍?まさか」 ミサトは罠に捕獲された事に気付いた。 ヘリが飛んで来て地面に下りた。 ヘリの扉が開き、碇が下りて来た。 「何をしている?」 「碇司令」 「何をしているかと聞いているのだ。」 「父さん、霧島さんを助けてよ!」 碇はマナに一瞥を加えた。 「シンジか、学校は如何した?・・・・まあいい、赤木博士の所へ行き、実験を続けろ。」 「シンジ、助けて!連れていかれちゃうよ!」 マナはあの黒服の男達に車に押し込められようとしている。 「父さん!あの子殺されちゃうよ!」 「葛城3佐、後で第12会議室まで来い」 「はい・・・」 ミサトは握った拳を震わせている。 「ミサトさん、父さん!御願いだよ!」 「シンジィー!」 ドアが閉められ、車は走り去った。 「かって過ぎるよ!!」
あとがき 第24話をお送りしました。 流石にあの変装で・・・と言うのは止めました。 ここには、出て来ていませんが、戦略自衛隊、自衛隊、ネルフの間で水面下の激しい争いが繰り広げられています。そのとばっちりを食らいケイタは毒殺。マナとムサシの運命はどうなるのでしょうか? 次回予告 ロボット兵器を誘き出す為に国際連合軍が使った手段は人質だった。 檻に入れられたマナ、ロボット兵器の出現。そして、エヴァの出撃。 遂に、NN爆雷が投下されてしまう。 爆心地のクレーターには溶けた金属の塊が存在するだけであった。 次回 第弐拾伍話 ロボットと少年少女