11月22日(日曜日)ネルフ本部、総司令執務室。 ミサトが呼び出されていた。 「葛城1尉、君のこれまでの使徒戦における指揮を評価し、3佐に昇格とする。」 耕一に言われた言葉が脳裏を過ったが、ミサトは直ぐに表情を戻した。 「有難う御座います。」 ミサトは襟章を交換した。 「我々が日本を離れる間、ここを任せたよ」 「はい」 「では、下がれ」 「はい」 ミサトは一礼して退室した。 11月24日(火曜日)、昼過ぎ、ミサトのマンション、 土砂降りの中、シンジはトウジとケンスケを連れて帰宅した。 「はい、タオル」 シンジはトウジとケンスケにタオルを渡した。 「おお、すまんな」 「サンキュー」 「ミサトさん徹夜だったみたいで、帰って来たのは朝なんだよ。未だ寝てるかもしれないから静かにしてようよ。」 「せやな」 「あー!!何で二人がここにいるのよ〜!?」 奥から出て来たアスカが大声で叫び、シンジの配慮を無意味なものにした。 (あちゃ〜) その時、襖が開いてミサトが出て来た。 「「御邪魔してま〜す」」 二人が同時に言った。 「あら、いらっしゃい。」 ミサトの襟章の線が2本に増えてる事に気付きケンスケの眼鏡が光った。 「御昇進おめでとう御座います!葛城3佐!」 ケンスケはミサトに対して直角に頭を下げながら言った。 「へ?・・あ、ありがとう。」 (こ、この子何物?) ミサトは内心ケンスケを怪しんだが、表情に出す事は堪えた。 「チョッチ本部まで行って来るから。」 ミサトは、出掛けて行った。 「如何したの?」 「ミサトさんは、1尉から3佐に出世したんだよ。襟章の線が1本から2本に増えてただろ」 (気づかないよそんな事) 「か〜たく、この二人は、」 トウジは自分も気付いていないのにシンジやアスカを非難しようとした。 「あんたなんかにこの呼ばわりされる筋合いは無いわよ!」 「なんやとぉ!」 シンジとケンスケは溜め息をついた。 「クア?」 我関せずといった感じで、ペンペンは冷蔵庫に入った。 夕方、ネルフ本部技術棟、 《EVA−00 47.145 EVA−01 63.365 EVAー02 65.886》 「シンジ君凄いですね、シンクロ率も、ハーモニクスも、アスカに迫る勢いですね」 マヤが嬉々とした表情で言った。 「まさに、エヴァに乗るために生まれてきたみたいね」 リツコは分析結果をまとめながら呟いた。 「本人はそんな事、望んじゃいないだろうけど・・」 「でも、私たちとしては好ましい事よ」 「・・・なんだけどね・・・」 ミサトの表情はどことなく暗い。 「嬉しくなさそうね」 「嬉しくないわけじゃないのよ・・・只、仕事とプライベートを使い分けられないだけよ」 「・・・それはそれで良いかも知れないわね、少なくとも、シンジ君が使い分けられるほど器用じゃ無い事は、間違いないし、ただ、対応は間違えないように、以前の繰り返し・・片方を失えば両方を失うわ」 「・・・分かってるわ・・・」 ミサトは、シンジの家出と、碇や耕一に言われた事を思い出した。 夜、ケンスケ主催で、ミサトの昇進祝賀パーティーが開かれた。 「有難う、皆。」 現在、出席者、ミサト、ケンスケ、シンジ、アスカ、トウジ、ヒカリ、ペンペン?である。 「綾波は?」 「誘ったけど、来ないって。ホント、優等生って付き合い悪いわね」 シンジは少し残念そうである。 ペンペンはヒカリの膝の上で御機嫌でビール!?を飲んでいる。 その時、チャイムが鳴った。 「加持さんだぁ!」 そして、加持とリツコとレイが一緒に入って来た。 「丁度、途中で一緒になってね。それで、レイを迎えに行こうって」 「「怪しいわね。」」 ミサトとアスカが同時に言った。 「綾波、いらっしゃい」 笑顔でシンジは迎え、レイはこくんと頷いた。 「いや、この度は御昇進おめでとう御座います、葛城3佐。」 加持が頭を軽く下げた。 「ま〜でも、これでタメ口がきけなくなるな。」 きいているのではないかな?・・・因みに横のリッちゃんは1佐なんだが・・・ねぇ、加持1尉 「ま、でも、留守を任された責任があるのよね。両司令が日本を離れるなんて事は異例の事態だから。」 「え?父さん達はどこに行ってるんですか?」 「南極よ。」 リツコが答えた。 南極海、調査艦隊旗艦、展望室。 海は赤く、所々に塩の柱が立っていた。 15年たった今も尚、一部の微生物しか生息する事が許されていない。 セカンドインパクト以前の地球は、雲の白、海と空の青、陸の茶や緑が美しく混ざり合い、全ての星で最も美しい星だった。しかし、南極海の禍々しい赤の為に現在では、ランキングに入ることすら出来ない。とは言え、僅かずつ赤い範囲は縮小しており、いずれは元に戻るのであろうか。氷点下にも関わらず全く凍る気配の無い海だが。 そして、この調査艦隊は第2次セカンドインパクト調査団であり、非公式に行われた表向きの理由は、第1次セカンドインパクト調査団の報告に偽りが有る可能性があり、公式に発表した報告に疑いを持たせるのは、国際連合の信頼に関わる為、非公式に行うとの事だ。しかし、第1次セカンドインパクト調査団団長の碇ゲンドウが指揮を取り、尚且つ、その副官の冬月コウゾウが同行し、ネルフ関係者で団員が構成されている以上、どう考えても嘘である事は明白である。 ガラス張りの展望室には、碇と冬月がいた。 「南極、如何なる生命の存在も許されない死の世界、まるで死海だな。」 冬月が呟いた。 「しかし、我々人類は生命として、ここにいる、生きたままな。」 「科学に守られているからな。」 「科学は人の力だよ。」 「その傲慢が、15年前の悲劇を生み出したと言う事を忘れたのか?その結果がこれだ、与えられた罰にしては余りにも大き過ぎる」 「ここは、世界で最も浄化された世界だよ。唯一人間の原罪から解放された世界なのだ。」 「俺は、罪に塗れていたとしても、人が生きている世界を望むよ。」 空母の飛行甲板には100メートルはある巨大な棒状の物がシートを掛けられて置いてあった。 「・・・処で、碇」 「何だ?」 「戦自に不審な動きがある。今まで使徒が上陸しても、知らぬ存ぜぬの一点張りだった戦自がだ」 「問題ない」 「だが、ポジトロンライフルを始め、戦自の技術力は侮れないぞ」 「奴らも分かっているはずだ、現時点で我々ネルフを敵に回すのは、余りにも愚かだという事を」 「碇、委員会と決別した時に戦自を敵に回すのは余りにも危険だぞ、日本政府との仲も悪過ぎる」 「・・・・東京帝国グループの事を考えて見るか」 「碇、俺は日本政府やゼーレ以上に東京帝国グループを危険視している。」 「問題ない」 「碇、俺は、自分は馬鹿ではないと思っている。一部の価値基準の問題を除けば、それどころか賢い部類に入ると思っている。だが、碇、お前の思考は、殆ど哲学状態だ、推測しろといわれても無理だ」 「そうか・・・会長は、ユイの学費その他、生活費まで面倒を見ていた」 「・・・ちょっと待て、碇家はどうなっているんだ?セカンドインパクト前なら碇財閥は未だ健在のはずだぞ」 「ユイは碇家と決別していた」 「・・・本当か・・・」 「詳しくは話してもらえなかったがな」 「で、会長とはどう繋がるんだ?」 「碇家の系譜はダミーだ」 「なにぃ!」 「碇家は光家の分家に当たる」 「・・・・」 「言ってみれば、親と喧嘩別れして家を飛び出した娘が祖父の世話になっていたようなものだ」 「規模が大きすぎるぞ」 「ユイが全頼していた人物だ」 「なるほどな・・・ユイ君の判断を優先させるのか」 「それに・・・」 「何だ?」 「この前の件も含め、会長は、レイの正体を知りたがっている所もあるが、それ以上に・・・」 「何だ?」 「私には絶対に成れないものの代わりをしようとしているようにも見える」 「父親か・・・所詮はお前も人の子か」 「かもしれん」 冬月は僅かに笑みを浮かべていた。 (こいつは全く、不器用過ぎる奴だ・・・どっちもな、切捨てはしたが、後ろ髪を引っ張られて、時々振り向いておる) 「どうした、何を笑っている」 「・・ふふ、いや、お前は不器用な奴だと思ってな」 「・・・・そうかもしれん」 ミサトのマンション、 パーティーが宴会化して、暫く経っている。 「あれ?ジュースもうあらへんで」 「はい、鈴原君」 ミサトが差し出したのビール。 「あ、こら、えろうすんません」 トウジはビールを受け取って一気に飲んだ。 「あれ?それビールじゃ」 「な〜に言ってんのよ、ビールくらい」 「「駄目ですよ!!」」 シンジとヒカリの声が重なった。 「問答無用!!私が許す!!みんな飲みなさい!」 「ミサト、ワイン飲むわよ」 「良いわよ」 「「良くありません!!」」 アスカは既にワインを持ってきてグラスに注いでいる。 その後、残っていたジュースにミサトがビールを注ぎ、アスカがワインを混ぜ全員がアルコールを接種し始めた。 ・・・・ ・・・・ 「きゃははは!、ケンスケ!芸やれ芸!」 アスカは完全にできあがっている。 シンジも視界が歪んできた。 「あう・・・」 「・・碇君・・・暖かい・・・」 左に座っているレイがシンジの腕に抱きついてきた。 「あう・・・」 シンジは意識を失った。 11月25日(水曜日)、早朝、 シンジは目を覚ました。 頭ががんがん痛む。 左手が動かない。 「あれ・・・」 シンジは左を向くと、レイの寝顔があった。 「綾波か・・・」 シンジは視線をしたに向けて絶句した。 レイは何故か下着姿。 アスカが目を覚まして上半身を起こしてシンジとレイの姿を見た。 「・・・・・」 「・・・・・」 アスカの顔が赤く染まっていく。 シンジは身の危険を感じた。 「あんた達!!!何やってんのよ!!!!!!」 ・・・そして、全員が起きた後、 「僕は、知らないよ!」 「あ、綾波さん・・・どうして、あの、あんな姿だったの?」 「・・・服を着ない方が碇君の暖かさを感じられるから・・・」 シンジは真っ赤になって俯いた。 一方、残りの男性陣はと言うと、加持は、テーブルについてパンをかじっている。 トウジはヒカリの指示で別室に待機、カメラに収めてしまったケンスケは、カメラと全てのテープを破壊され、簀巻きで同じく別室待機。 「あのねぇ!人にはして良いこととしちゃ悪いことが!」 「まあ、まあ、アスカ、昨夜はみんな酔っぱらってたんだし、」 加持がアスカを諌めようとした。 「だからって加持さん」 「それに、ワインを混ぜたのはアスカだろ」 「え、あの、それは」 「アスカが悪いのよ」 ビールを片手にミサトが言ったが、それはアスカの怒りの炎に油を注ぐ事になった。 「ミサトが言うなぁ!!!」 そんな中、一斉に皆の携帯が鳴った。 ネルフ本部第1発令所。 ミサトとリツコと加持が発令所に入った。 「遅れてゴメン」 「マヤ、現状は?」 「後42秒で目標と衛星の軌道が交錯します。」 ・・・ 主モニターに妙な物体が映った。 大きさは良く分からないが出鱈目にでかそうだ。 「これが使徒?常識を疑うわね。」 突然画面が乱れ、映像が消えた。 「ATフィールドの新しい使い方ね。」 「・・こりゃ又大変だな・・・」 「現在、月の、艦隊が向かっていますが・・・これでは」 「無駄な努力か・・・」 別の衛星からの映像に切り替わった。 「太陽系第1防衛艦隊より入電、攻撃開始は、東京標準時、午前10時丁度を予定」 「司令達は?」 「使徒の放つ強力なジャミングの為現在回線は使用不可能です。」 使徒が体の一部を切り落とした。 「何?」 暫くしてスリランカの南海上に凄まじい爆発が観測された。 「・・・爆弾ね」 「ATフィールドの力まで使っているようです」 いつも通りリツコの解説にマヤが付け足した。 「・・・あれ、どのくらいの破壊力?」 マヤが計算した。 「映像からですが、あの破片で、NN兵器に匹敵します。」 「・・・本体が落ちてきたら・・・・・・考えたくも無いわね・・・」 「・・・・・」 ミサトはその頭脳をフル回転させた。 余りの事に知恵熱で蒸気が出そうである。 そして、ミサトの中でシナリオが組み上がった。 「・・・直ぐに統監府と地球連邦政府、国際連合と委員会に回線を回して」 「何をするつもりですか?」 「作戦局を集めて、プランが出来次第、司令代行権を発動、私が直接掛け合うわ、」 A.M.9:24、国際連合人類補完委員会、 「今回の使徒を迎撃するのは、如何考えても、ネルフ、いえ、国際連合の全ての力を使っても絶対に不可能です。」 「使徒との戦いに敗北は許されない、分かっておろうな」 「はい、ですから、日本政府、地球連邦、東京軍全ての力を結集する必要があります。」 「・・・葛城司令代行、君にそのような権限があるとでも思っているのかね?」 「いえ、ですから、直接提案をしました。両司令との交信が不可能である以上、委員会の判断に従うしかありません。尚、マギによる判断で、ネルフ単独による防衛成功は可能性0、国際連合軍の総力をあげても皆無と言っても過言ではありません。」 「・・・・」 「・・・・」 「・・議長・・」 「・・・仕方なかろう、だが、必ず勝利するのだ。失敗は許さん」 「はい」 A.M.9:31、第2新東京市、新千代田区、首相官邸、第1執務室、 竹下は考えていた。 今回は本気でやばい、利権が如何のこうのと言っている場合ではない、あんなものが落下してきたら東アジアは文字通り消滅する。 日本政府のコンピューターも、ATフィールドを無視して自由落下させただけでも、日本を破壊し尽くすには十分だと弾き出した。 「・・・戦自を使う」 「はい」 A.M.9:42、東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、 「蘭子、ルシアさん達は?」 「既にシェルターに」 「そうか」 耕一はメインモニターを見た。 醜悪な使徒が3回目の投下を行い、小学生を泣かせるふざけた長さの名前を持つスリランカの新首都は地図上から消え去った。 A.M.10:31、ネルフ本部、第6作戦会議室、 ミサトに向かって、3人が立っており、いつも通り、右からアスカ、シンジ、レイの順。 「作戦を通告します。」 「貴方達の仕事は、破壊され、小さくなった使徒の本体の中心部を、エヴァ3体によって受け止め、コアを破壊する事です。」 ・・・・ 「え〜!!・・・受け止める!?」 アスカが叫んで手を見た。 「そう、それしかないの」 「作戦といえるの?それが?」 「・・・そうね、言えないわね。だから拒否することもできるわ。」 暫く4人とも黙っていた。 実を言うとそんな事は絶対に無いのだが、ミサトは司令代行の権限をフルに使って何とかするつもりだった。 「一応、規定では遺書を書くことになっているけど、どうする?」 「・・別にいい、必要ないもの・・」 「私もいいわ」 「僕も必要ありませんから」 (父さんが読んでくれるはず無いし) シンジは一人少し暗い顔をした。 「・・・・そう、作戦、成功したらこ〜んな分厚いステーキ奢ってあげるから。」 ミサトはノーマルモードに戻り、親指と中指で肉の厚さを示した。 「本当!?」 「ワァーイ」 「じゃ」 ミサトは部屋を出ていった。ミサトが部屋を出ると同時にアスカとシンジの表情が無表情になった。 「御馳走と言えば、ステーキで決まりか・・」 「本当、セカンドインパクト世代って、今時の子供がステーキで喜ぶと思ってるし。」 「しかたないよ」 「優等生、あなたも来るのよ」 「いい、私、お肉嫌いだもの」 「そうだったね・・・どうしようか」 3人はかなり楽観視しているのかもしれない。 A.M.11:00、第1作戦会議室、 ミサトは作戦の詳細を発表した。 「ふざけないで!!勝算は、0.000023%、万に一つも無いのよ!!」 リツコはマギが弾き出した数字を使って叫んだ。 「初号機の起動確率よりは高いわ」 それはそうだが間違っているぞ、 「こんな危険な作戦認められると思っているの!!」 「今は私が責任者よ」 「黙りなさい!葛城3佐!」 リツコは自分の階級の方が高い事を意識させようとした。 「作戦に関する権限は、現在全て私にあります。赤木1佐を退室させなさい」 対してミサトは、わざわざ階級付けで呼び、強権を発動させた。 「ミサト!!」 びくびく怯えながら二人の職員がリツコの両脇に立った。 「どきなさい、自分で出るわ、一言言っておくわ、私怨で人類を危険に曝さないで」 リツコは吐き捨てるように言うと、作戦会議室を出て行った。 「日向君、3人を集めて」 「・・・はい」 ただ、誰も見てはいなかったが、会議室を出たリツコの表情は直前とは全く変わっていた。 A.M.11:30、第1発令所、 リツコとマヤ、碧南を含む技術部A級職員が職場放棄したため現在、発令所には、ミサト、日向、青葉の3人しかいない。 「各司令部と回線繋がりました。」 それぞれのモニターに各司令部の映像が映し出された。 「準備の方は如何でしょうか?」 『・・・葛城君、作戦の最終段階までの指揮は此方が取ろうか?』 発令所にたった3人しかいない理由を察した耕一が言った。 例え、この作戦では、勝ったとしても第3新東京市の崩壊する可能性はかなり高い。そして、ミサトのプランには含まれてはいなかったが、最後は、本部の自爆と決まっている。 「・・・お願いします」 『では、統監権を発動させる。以後、本作戦は、暫くは私が最高指揮を取る。』 P.M.0:01、ネルフ本部、セントラルドグマエレベーター内、 3人はエレベーターに乗っていた。 「アスカ、」 「何?」 「アスカはなぜ、エヴァに乗ってるの?」 「そんなの決まってんじゃない。自分の存在を世間に知らしめるために決まってるでしょ。」 アスカにとっては当然かもしれないが、シンジはそんなこと思いもしなかった事である。 「他人に認められると言う事?」 「まっ似たようなものね。そういうあんたこそどうして乗ってるの?」 しかし、ネルフは、非公開組織ではなかったのか? 「・・分からない」 「分からないって、あんたバカ!?」 自分の全てを掛けてきたエヴァに乗る理由すら持たずに戦うなど、それも、信じられない低い勝率の戦いに望むなどと信じられない。 「・・・そうかも知れない」 「どうでも良いけど、優等生には聞かないの?」 「綾波には前に聞いたんだ。」 シンジは左のレイを軽く見て言った。 「今朝のことと言い、お熱い仲で御座いますこと。」 「そんなんじゃないよ・・・」 3体のエヴァが見えた。 P.M.0:14、ネルフ本部、第1発令所。 「二人とも、もう避難して良いわ、ここは、私が引き受けるから。」 ミサトが言った。 「そんな、子供達だけに危ない目に遭わせる訳には行きませんよ。」 「そうですよ。ここにいても、シェルターの中にいても、サードインパクトが起こったらそれまでですから。」 「でも、ATフィールドがあるエヴァぁの中が一番安全なのよ。」 致し方ないとは言え、リツコとマヤの職場放棄は確実に勝率を悪くしている。マギが使いこなせない。 第2発令所、 リツコ達はここで、準備をしていた。 「自立自爆準備完了しました。」 「そう、御苦労様、もう避難していいわ」 「先輩!私は、残ります!」 「私も」 「私も残ります!」 口々に言うリツコを慕う職員達にリツコは軽く笑顔を浮かべて目を閉じた。 「そう、有難う、作戦開始まで休んでちょうだい」 ・・・・・ ・・・・・ 「マヤ」 「はい」 リツコは一つのトランクをマヤに渡した。 「最重要物よ、これを松代の実験施設に輸送しなさい」 「でも、それじゃ、戻って来れませんよ」 「戻ってくる必要は無いわ、ここが消えたら、これをもって、第3支部、新たな本部に行くのよ」 「で、でも!」 「その中身をここに置いておく訳には行かないの、絶対に」 マヤはなんとなく中身に予想がついた。 「・・・分かりました。伊吹2尉、これより、松代に向かいます」 「ええ」 リツコは笑顔で送り出し、マヤは涙を流しながら、ヘリポートに向かった。 P.M.1:04、避難ラッシュも終わり、第3新東京市には、一般人はいなくなった。 P.M.1:32、使徒が遂に日本上空に到達した。 P.M.1:36、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、 耕一の手元には、東京が誇る中央システムによって再計算された勝率が書かれた紙があった。 勝率56.88%と99.88%。 恐らくは、マギでも前者に似たような結果が弾き出されているはずである。 リツコがそれを公開しない理由は、何であろうか、ヤシマ作戦の時も、最終的な勝率は97.6%、両機共健在としても23.4%、まあ、これは、76.6%の方が出てしまったが、 ネルフでは勝率の計算は一番最初に作戦が提出された時1度しか行われていない。 その後の、共同作戦、特に、秘密兵器を持ち出す等して大幅に戦力がアップしてもだ。 ヤシマ作戦くらいならば、背水の陣を敷くと言う事かもしれない、その後の諸軍隊への牽制かも知れない、だが、これは余りに酷過ぎる。後々、問題になることは明白である。 (さて、どうして隠しているのかな?) 聞いた話では、ミサトはパイロットに辞退の権限をも与えたらしい。 ミサトとリツコが完全に連動しているとは思えないので、パイロットへの何らかの影響の為とは考え難い。 とすれば、低過ぎる成功率は、このような事態を他でも与えてしまう。 果たして、何を考えているのか・・・ (・・・まさか・・・再計算と言う事を知らないのではなかろうな・・・) 耕一はふと思い付いた嫌な予感に汗を浮かべた。 (そういえば、ネルフの極端に偏った) 「会長」 「ん?ああ」 耕一は声を掛けられて思考を中断した。 「これより、作戦を開始する。第1段攻撃開始」 耕一の指令で、地球人類にとっては過去最大級の大作戦が始まった。 衛星軌道上、 使徒の周囲を無数の宇宙戦艦が取り巻き、一斉に攻撃を掛けた。 無数のビームやレーザーはATフィールドで歪められ、味方に着弾した。 直ぐに、ミサイルなどの実体弾に切り替えられ、攻撃を続け、同時に数百発のNN兵器まで投入した。 突然使徒がATフィールドの弾を無数に飛ばし、数百の戦艦が貫通され藻屑になった。 凄まじい閃光が迸り、まるで、小型の太陽のようでも有る。 そして、その小型の太陽から光と共に無数のATフィールドの弾が放たれている。 多くの特殊砲艦から陽電子が放たれ、更に凄まじい光と衝撃が走った。 これらの出力ではATフィールドを貫く事は出来ない、だが、僅かずつ歪ませ、其処から衝撃を背部に伝える事で使徒の構成物質を破壊している筈である。 再び数百発のNN兵器がばら撒かれいっせいに爆発した。 東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、 光学モニターは眩し過ぎて使えない為にCGによって擬似映像を映し出している。 「自軍損耗率23.6%」 「中心部の温度、更に上昇」 最高幹部達は、じっと質量を表示しているパネルを見詰めている。 他の司令部でも同じであろう。 「目標の質量99.77%に減少」 漸くATフィールドに歪みが生じてきたようである。 「自軍損耗率36.5%」 「目標降下開始!!」 「質量98.88%に減少」 再びNN兵器がばら撒かれた。 松代、ネルフ本部付属実験場、仮発令室、 マヤは、祈るような気持ちで戦局を見詰めていた。 『自軍損耗率65.3%』 『目標の質量97.44%に減少』 他の職員達も只、モニターも見詰め、有るものは神に、有るものは仏に祈っていた。 だが、少なくとも神に祈るのは拙いのでは? 東京、東京帝国グループ総本社ビル最高総司令室、 「攻撃止め、直ちに退避、第2段、すぐさま発動!!」 サブモニターに映る艦隊、ミサイルサイロ等から、次々に核ミサイルが発射された。 一斉に着弾するように調整してある。 アメリカやロシア等が保有する核ミサイルの内、成層圏外に攻撃可能な物は全て発射された。 やがて、降下を始めている使徒にいっせいにミサイルが着弾し凄まじい爆発が起こった。 これだけのふざけた量の中性子がばら撒かれたのである。 不発した核ミサイルのウランやプルトニウムも誘爆し、そして、重水素が核融合反応を起こした。 衝撃波が地球を襲った。 但し、東京軍のモニターでしか観測されなかったが、数発だけ、予定には無いミサイルが含まれていた。 サブモニターに映るバリアーが激しく揺れているのが分かる。 日本そのもの、いや、地球そのものが揺らされている。 暫くは、何も観測できなかった。 「バリアーを解け、そして、第3段を発動」 空自、戦自、東京軍の重対空ミサイル機が次々に離陸した。 「最終段階発動準備」 『エヴァ各機射出!』 「目標確認!!」 ぼろぼろになった使徒がモニターに映った。 かなり小さくなっているが、その分ATフィールドが強まっているようだ。 「第3段攻撃開始」 重対空ミサイル機に満載されたNN対空ミサイルが光の尾を引いて天空に小さく見える使徒に向かって一直線に飛んで行った。 使徒が光に包まれた。 そして、使徒の落下速度が落ちた。 そして、再び高度が落ち加速すると再びNN対空ミサイルが使用された。 「第4段発動」 待機していた重爆撃機が、NN航空爆雷で使徒を箱根の中に落ちるように誘導していった。 「完了です。」 「作戦指揮権をネルフに移行」 初号機。 『作戦スタート!!』 ミサトの声で初号機は走り始めた。 『高度3000まではマギが誘導します。その後は各自、目測で動いて。』 音速に達し、衝撃波が町を破壊しながら初号機は更に速度を上げた。 前方の高圧電線を飛び越え、使徒に向けて一直線に走った。 上空に巨大な使徒が見えて来た。 凄まじい大きさである。 初号機は落下点に到着した。 空は使徒の巨体に隠れ見る事は出来ない。 「ATフィールド全開!!」 周囲のビルなどがATフィールドに弾かれて吹っ飛んだ。 初号機は両手を上に上げて構えた。 ATフィールド同士が接触し反発しあった。 シンジの体に凄まじい重圧が掛かった。 「ぐっ」 初号機のパーツや間接が悲鳴を上げシンジの身体にも痛みが走った。 『零号機ATフィールド全開』 レイの声が聞こえ、急に初号機に掛かる圧力が減った。 まるで女神の声にも聞こえたかもしれない。 『行くわよ!!』 弐号機も到着し、3体のエヴァが支える形になった。 『「でえええええいいい!!」』 ATフィールド同士の反発高度が上昇し始め使徒の巨体を押し返し始めた。 「今だ!!」 弐号機がATフィールドを部分に集約し、中和し、零号機が跳躍し、プログナイフをコアに突き刺した。 火花が飛び散り、やがて、コアが輝き出した。 瞬間、全てが光に包まれた。 P.M.2:15、ネルフ本部第1発令所、 使徒は殲滅された。 副都市の一つが消え去ったが、この程度の被害で住めば御の字である。 「良くやったわ」 ミサトは3人を笑顔で迎えた。 「南極の司令達と回線が繋がりました」 SOUND ONLYと書かれた小型の空中スクリーンが表示された。 『葛城3佐、任務遂行御苦労』 「申し訳ありません、私の独断で共同作戦を提言した上に初号機を小破させてしまいました。」 『構わん、使徒の殲滅がエヴァの最大の目的だ。この程度は寧ろ喜ばしい事だ。』 冬月である。 「はっ」 『初号機パイロットはいるか?』 「はい」 『活躍は聞いた。よくやったなシンジ。』 『葛城3佐、事後処理は頼んだ。』 「はい」 P.M.7:32、第3新東京市新歌舞伎町4丁目の屋台。 ミサトは目をぱちくりさせていた。 「ミサトの財布の中身くらい分かっているわよ。それに、ラーメンなら優等生も付き合うって言うし。」 4人は、右から、ミサト、アスカ、シンジ、レイの順番で座った。 「ニンニクラーメンチャーシュー抜き」 「アタシは鱶鰭チャーシュー、大盛りね」 「あいよ」 食事中、 「ミサトさん」 「何?」 「今日初めて父さんに誉められて思ったんです。ひょっとしたら僕は父さんに誉められる為にエヴァに乗ってるのかもって」 「本当にバカだわ。」 笑みを浮かべながらそんな事を言うシンジにアスカは呆れていた。 P.M.8:32、ネルフ本部、赤木研究室、 マヤがトランクを持って戻って来た。 「ぜんぱ〜〜いい!!」 マヤは涙を流しながらリツコに飛びついた。 「御苦労様」 リツコはマヤの頭を撫でた。 暫くマヤはリツコの胸で泣き続けた。
あとがき ミサト昇進パーティーにレイを参加させました。 なにやら、ユイと耕一の関連話が出て来ました。碇って本当に不器用ですね。 この後リツコとマヤが・・な関係に・・・ 次回予告 実験最中に起こったカビの異常繁殖、それは、ネルフ最大の危機の始まりであった。 環境に合わせ自己進化を繰り返す使徒は、マギへの侵入を試みる。 ネルフに残された時間は凡そ2時間、ミサトはマギの物理消去を、リツコは進化の促進を提言する。 今、自立自爆のへの最後のカウントダウンが始まる 次回 第拾九話 使徒、侵入