11月5日(木曜日)朝、レイは自宅のベッドで目を覚ました。 レイはベッドから降りて服を着替え始めたが、手に痛みを感じ、手を見てみると、薬品火傷をしていた。 (昨日の・・) レイは手に包帯だけ巻いて、制服を着た。 レイは食パンにバターを塗って、トースターに入れて、スイッチを入れた。 暫くして焼き上がり、さっさと食べ終え、鞄を持って、部屋を出た。 マンションの階段を降りて、団地沿いの道を進んだ。 マンションの前では何か大きな工事をしていた。 更に進み、道を曲がって、坂を降りてT字路に差し掛かった。T字路で、レイは何かに激突し倒れてしまった。 「いててて、ん?綾波。」 レイは顔を上げた。シンジが頭を押さえながら地面に倒れていた、どうもぶつかったのはシンジらしい。 (・・白・・・) 「・・碇君・・・ごめんなさい・・・」 「ご、ごめん、こ、こっちこそ悪かったよ。」 少しシンジの顔が赤くなっている。 (?) レイは少し首を傾げた。 「どうでも良いけど、こんな所でのんびりしてたら遅刻よ」 そして3人で行くことになった。 「綾波、どうせ同じ道を通るんだったら、一緒に行こうよ。いいだろ、アスカ」 「そんかわり、優等生が先に来てなかったらほっといて先行くわよ」 「じゃあ、あのT字路の所に7時50分でどう?」 「・・・別に問題は無いわ、但し学校に行かない日もあるから、行く日は必ずその時間あそこにいる・・・」 (ごめんなさい、謝罪の言葉・・・あの人にも言った事無い・・・・・そう、あの人へは、申し訳ありません・・・地位が違うのね・・・碇君は私と同列・・・) 暫く歩いていて、シンジはレイの手の包帯に気付いた。 「綾波、その手、どうしたの?」 「・・これ?・・昨日の戦いで負傷したの、大した事は無いわ・・・」 「昨日の英雄さんですからねぇ」 アスカがからかい気味に言った。 「大丈夫?」 「・・ええ・・」 そして、学校に着いた。 レイは自分の席に座って窓の外を眺めていた。 (今日は、監視がいない・・・) いつもどこかにいる黒ずくめのネルフの保安部や諜報部の男が今日に限って一人もいなかった。 (何故?) ・・・・ 「起立!」 どうやら何時の間にか老教師が入って来ていた様である。 そして、授業中も、レイは外ばかり見ていた。 (あの人達、朝からずっといる) 何人かの女が朝からずっと近くにいることに気付いた。 休み時間、ケンスケが双眼鏡を自慢していた。 レイは3バカトリオの方へ歩いて行った。 「な、なんや」 「・・・相田君、それ貸して・・・」 「あっ、別にいいけど」 レイは双眼鏡を借りて、女性達を確認したが、向こうも気付いたのか、直にどこかへ隠れてしまった。 ケンスケに双眼鏡を返した。 「何見てたんだ?」 「・・監視・・」 レイは、自分の席に戻った。 3人は首を傾げていた。 昼からの授業はレイは居眠りをしていた。 帰路、 レイは此方を見ている気配に気が付いた。 (ビルの上に2人、人込みの中に3人) そちらの方を見ると、同じ服を着た女が合計5名いた。 (誰?) その5人はレイがマンションに到着するまで尾行を続けていた。下にいる3人はともかく上にいる2人はビルの屋上をたどってきている事になるので凄い女たちである。 マンションの前に白い車が止まっていた。スポーツカーの様である。因みに朝の工事は未だやっている。 車から耕一が降りて来た。 「レイ君、これから一緒に食事に行かないか?」 「・・別に用事は無いから構わない・・」 「じゃ、乗って」 車が走り出した。 「・・・統監、監視を付けないで下さい・・・」 「ばれたか、今日は普段の24名に加え更に20名いたからな。」 「・・・44名?」 予想よりかなり多い、流石にネルフ保安部などとは比べ物にならない優秀さである。 「ああ、交代制だからまあ20人前後しか同時にはいないけれどな」 「気を付けろよ、国家組織に付け狙われているぞ」 「・・・そう・・・」 第3新東京市スカイツインタワー東棟、最上階、スカイラウンジ。 《御迷惑をおかけしますが、本日は貸し切りとなっておりますので、一般の方は御食事が出来ません。》 ラウンジの中に入った。 「ようこそお越し下さいました。どうぞ、御席の方へ」 支配人に席に案内された。 「さて、言い忘れたが、レイに付けたのは、親衛隊で護衛の為で、監視じゃないからな。」 「・・・そう・・・」 「そう」 「ネルフの監視が付いているのは嫌か?」 「・・・別に、慣れたから・・・」 「そう言う物かねぇ」 食事が運ばれて来た。 今日は中華の様である。但し、肉や魚がそのままの形で出てくる物は無かった。 随分レイに関する事を調べているようだ。 そして、食事が済み、帰路についた。 「あの部屋よりも良い部屋に変えてやろうか、流石にあの部屋じゃ、連絡にも支障が出る。後、これ携帯電話。その裏側に付いている装置が発信機、地下40メートルからでも電波が届く強力な奴だ。普段は切っているが、非常の時は使ってくれ、直に親衛隊が急行する。後、部屋だが、マンションの前に私の家を建てた。好きに使ってくれて構わん、レイの為に作ったんだからな。」 「・・そう、良かったら使わせてもらうわ・・」 レイは極僅かだが笑みを浮かべた。 「やっと笑ったな。少しだけど」 「え?・・・多分こんな事をしてもらうのは始めてだから、例え裏が有ったとしても。」 「グサッと来る一言を・・着いたよ。」 レイのマンションの道路を挟んで反対側に邸宅が建っていた。 「・・・これ?」 「これ、カギね、後表札、綾波にしとくよ」 「・・そう・・」 「あとこれ、カード好きに使って良いから・・・じゃあ、又」 「・・・さよな・・いえ、又・・・」 レイは耕一には、さよならを言ってはいけないと思い、又と言い換えた。 「ああ、又会おう」 レイは家の中に入った。 地図が置いてあった。レイは地図を覚えた。 レイは取り敢えず風呂に入ることにした。風呂は2階にある。 レイは小プールのような湯船に浸かりながら色んな事を考えた。その中で気が付いたが、手の薬品火傷が完全に消えていた。 (・・何故?) そして、風呂から上がり、3階にある寝室に行き、寝た。 11月6日(金曜日)、朝、第3新東京市、マヤのマンション、 綺麗に整頓された部屋に目覚ましの音が鳴り響いている。 「うう〜、もう朝〜」 マヤが布団から顔を出して目覚ましを止めた。 ネルフ本部の完全復旧と、第3新東京市市内に転がる使徒の残骸の撤去などで、徹夜続きから開放されて、漸く深夜に帰ってきて、そのまま眠りに付いたマヤの睡眠時間は、4時間を切っていた。 「使徒のばか〜」 マヤはベッドから抜け出し、着替えを済ませ、テレビを付けて朝食の準備を始めた。 『伊吹グループ本社ビル改装に絡む不正取引の容疑で大竹第2常務が逮捕されました』 「あれ?大竹のおじさん、そんな事してたんだ」 『この件に関して伊吹会長は、残念だ、グループ全体の信用を落とすような事に発展してしまった事は、まことに申し訳ないと、短い謝罪のコメントを発表しています』 「お父さん」 マヤは、有数の大企業、伊吹グループの会長の令嬢である。 暫くして何か焦げ臭い臭いが鼻をついた。 「あ」 フライパンが火に掛けっぱなしであった。 「うう〜、使徒のばか〜」 取り敢えず使徒のせいにしたようだ。 マヤはトーストだけ食べて、部屋を出た。 マヤは駅まで徒歩3分のマンションに住んでいる。 実家からは、毎月億単位の金が送られてきているが、全くと言って良いほど手をつけていない。 収入はネルフからの給料だけである。 よって、住んでいるところも他の職員とそんなに大差がある訳ではないが、リツコの右腕と言う事で、生活課が気を利かしたのであろう、家賃の割には高いランクのマンションであった。 マヤは道を歩いていると、横にミサトの車が止まった。 「伊吹2尉」 ミサトが窓を開けてマヤに呼びかけた。 「あ、葛城1尉」 「これから本部?」 「あ、はい」 「じゃ、乗ってく?」 「あ、御願いします」 何も知らないマヤは笑顔で助手席に乗った。 「葛城1尉、早いですね」 「あ、朝っぱらから、アスカとシンちゃんが喧嘩しちゃって、流石にめぇ覚めちゃったのよ」 「はぁ」 「からかおうと思ったんだけどさぁ、私が口出そうと思ったら、アスカが凄い顔で睨むのよ、まあ暫く放って置くのが吉と判断して、朝だけ食べてきたのよ」 「何か有ったんですかね」 「さあて・・飛ばすわよ」 「え?」 郊外に出たとたんミサトはアクセルを踏み込んだ。 「きゃああああ!!!!!ぶつかるぅ!ぶつかるぅ!!」 急カーブをドリフトで曲がった。 跡がくっきりと残っている。 ・・・ ・・・ 「途中からずいぶん静かだったわね・・・・あれ?」 マヤはとっくの昔に気絶していた。 「ありゃりゃ」 マヤはリツコの執務室で目を覚ました。 「あれ?ここ、先輩の執務室?」 「そうよ、」 リツコがコーヒーを猫がプリントされたマグカップに入れて持って来た。 「コーヒー、飲む?」 「あ、頂きます」 マヤはコーヒーを飲んだ。 「マヤ、ミサトに乗せてもらうのはやめなさい」 「はい、遅刻した方がまだ良いです」 マヤは真剣な顔で言い切った。 「そうね、ミサトに乗せて貰って、お昼じゃね」 「え?」 時計の短針は12と1の間を指していた。 「す、すみません、先輩」 「いいわよ、悪いのはミサトなんだから」 発令所、 マヤが漸く席についた。 「災難だったらしな」 日向が声を掛けて来た。 「ええ、」 青葉は昼食で席を外している。 「伊吹2尉、」 上から冬月の声が掛かった。 「はい」 「使いに行ってくれるか?」 「あ、はい」 東京、関東地区総合司令センター、 マヤはネルフ代表として、挨拶に来ていた。 「いや〜、ネルフの作戦部長さんは若くて綺麗な女性だと聞いていましたが、ここまでとは」 司令官はマヤをミサトと勘違いして誉めている。 「あの、私は、作戦部長じゃなくて」 「あれ?」 「技術部の伊吹マヤ2尉です」 「いや、すみません、てっきり、」 「いえ、構いませんが」 「しかし、ネルフは、若くて綺麗な女性が多いですね」 「・・・・そうでしょうか?」 マヤはネルフの職員達を考えている。 リツコ、ミサト、マヤ、碧南、レイ、アスカ・・・・以下多数。 「確かに、そうかもしれませんね」 その後少し話をした後、 マヤは書類を渡して、司令センターを出た。 マヤは、東京のショッピング街で買い物をしていく事にした。 ショッピング街、 マヤはウインドウショッピングをしていて、女性にぶつかってしまった。 「すみません」 マヤはすかさず謝った。 「いえ、こちらこそ、」 「あれ?皇妃?」 ルシアであった。マヤは、震え上がった。 以前、中東の国が、ルシアの訪問の際に、スカーフをかぶれだとか肌を晒すなだとか言われ、ルシアが訪問を取りやめた後、魔導国を初めとするルシア派の国家が一斉に経済封鎖を敷き、地球連邦政府も抗議し、更にテロが相次いで発生し、国会が占拠され、イスラム教が徹底的に攻撃され、一部地域ではイスラム教徒狩りまで行われ、閣僚一同が土下座して謝るという事態にまで発展した。 因みにその国は、ほぼ完全に崩壊し、6つの国と地域に分断された。 「あ、はい・・ぶつかったのも何かの機会ですし、よろしかったら、いっしょに回りませんか?」 マヤには断ると言う選択肢は無かった。 半時間ほど二人で回った後、喫茶店に入った。 「ネルフの方なんですか」 「あ、はい、技術部所属の伊吹マヤ2尉です。」 この半時間でルシアの人物像がなんとなく分かってきたマヤは気軽にこたえた。 「一応言いますと、地球連邦第3代統監第6皇妃ルシア=テラ=アテネです。宜しく御願いします」 「い、いえ、こちらこそ」 「くすっ」 ルシアが笑った。 「え?」 「いえ、伊吹さんのような方が身近にいたら良いなぁって思って」 「は、はぁ」 ルシアはメモ用紙を取り出して、ペンを走らせた。 「これ、電話番号です」 《自宅 001【日本】-001【東京】-001【1エリア】-0001【東京帝国グループ総本社ビル】-00045【会長自宅(ルシア)】 携帯 000【携帯電話】-000000001-1》 「はぁ、ずいぶん覚えやすい番号ですね」 権力でもぎ取った番号だろうか・・・ 「伊吹さんの番号教えてくださるかしら」 「あ、はい」 マヤはメモ用紙とペンを借りた。 《自宅 001-075【第3新東京市】-3261-54120 携帯 000-234986436-4544》 ルシアは顔を歪めた。 「う〜〜ん、覚えるのが大変そうですね」 ルシアは顔を顰めた。 「え?登録しておけば良いんじゃないんですか?」 「えっと、機械苦手で」 マヤは少し笑ってしまった。 その後、ルシアの携帯に自分の電話番号を登録してあげた。 「有り難うございます」 ルシアはお礼を言って頭を下げた。 その後、マヤはルシアと分かれ、第2東海道新幹線で第3新東京市に戻った。
あとがき 尚、耕一は積極的にレイに接触するために様々な事をしていますが、ルシアとマヤの接触は完全に偶然です。 次回予告 一人執務室で書類を片付ける碇、その頃ネルフ職員は、強羅の温泉で寛いでいた。 耕一の陰謀で、混浴の温泉に入る事になったシンジとレイ。 加持が早とちりをして大騒ぎとなる。 次回 第拾七話 温泉