因みに、シンジは知らないが、ケンスケとトウジだが、厳重注意で済んだようだ。 8月3日(月曜日)、ネルフ中央病院、レイの病室、 シンジは手に包帯をしている。 この前の加熱したハッチに触れた時の火傷である。 レイは、全身に軽い火傷を負っている。 シンジは、レイの病室の椅子に座っている。 風が病室に入って来てレイの薄い青色の髪を揺らした。 「・・・何故?ここに来るの?」 「何故って?お見舞いに来たら迷惑かな?」 「・・・いえ・・・そんな事は無いわ・・・」 「・・・そう・・・ヤシマ作戦の時、助けてくれて有り難う」 シンジは、自分の存在を許された事で笑顔で礼を言う事が出来た。 「・・・如何して?任務を遂行しただけよ・・・」 レイは純粋に礼を言われる理由が分からないようだ。 「任務だからって、綾波は命懸けで僕を守ってくれたじゃないか、お礼を言うのは当然だよ」 「・・・・・・そう・・・?」 レイの小首を傾げる仕種が妙に可愛かった。 「・・・・何か、食べたいもの有るかな?」 お見舞いの果物の籠に目をやり、林檎が目に止まった。 「・・・・・林檎・・・・」 「うん、分かった」 シンジは果物ナイフを手に取ろうとした。 「・・・・いえ・・・バナナにしておくわ・・・」 「ん?如何して?」 レイは包帯が巻かれたシンジの手を心配そうに見詰めた。 「・・・碇君の手・・・」 「あ・・・気にしないでよそんな事」 レイは上目遣いにシンジを見た。 (う・・・か、可愛い・・・) ノックアウトされそうになったが、シンジは何とか理性を保った。 「わ、分かったよ、」 シンジはバナナを1本千切った。 「はい」 レイはバナナを受け取り、半分くらい食べてシンジに渡した。 「・・・何・・・?」 「・・・もういらない・・・・少し寝る・・・・」 レイは横になって布団を被った。 シンジは赤くなって食べかけのバナナを見詰めた。 夜、ミサトのマンション、 「たっだいま〜」 報告書地獄から開放されて陽気なミサトが帰って来た。 「おかえりなさい、夕飯は、コンビニの弁当ですけど」 「ん〜ん、構わないわよん、」 シンジはコンビニの弁当を電子レンジに入れた。 「シンちゃん、レイのところにお見舞いに行ったんだってね〜」 「ええ」 「変な事しなかった〜?」 ミサトは冷蔵庫からビ−ルを取り出して飲み始め、からかいモードに入った。 「へ、変な事なんかし、してませんよ!」 「例えばさ、レイの食べ残しを食べちゃったり〜」 「ひ、酷いですよ!!み、見てたんですか!!」 シンジは真っ赤になって叫んだ。 「あんら、図星だったの、明日ビデオ見せてもらおうっと」 「ミサトさん!!!」 電子レンジが鳴った。 京都、 1台のリムジンが快走していた。 碇が電話を掛けていた。 『碇、京都訪問はどうだった?』 「収穫はあった、内容は未だ分からん」 『ディスクか』 「ああ・・ユイのディスクが見つかった。」 『ユイ君のか』 「ああ、何があるかは見てのお楽しみだろう」 『パスワードは分かるのか?』 「マギに解析させる」 『ユイ君相手に勝てるのか?』 「赤木博士次第だろう」 8月5日(水曜日)、ネルフ本部、赤木博士研究室、 リツコはユイのディスクを解析していた。 既に24時間解析が続いている。 「よしっ!!」 パスワードが一致して、内容構造が表示された。 「・・・・・・・・・」 リツコは絶句した。 データーの中身が解析できる段階までに、12段階のパスワードをクリアーしなくてはいけなかった。 しかも、ふざけているパスワードの難解さである。マギのセキュリティよりも数段上である。 「ざけんじゃないわよ!!!!」 リツコは机を強打した。 総司令執務室、 「で、解析にはどの位かかるんだ?」 「私が付いていても、1月以上掛かります。完全に自動で進めるとしたら、何事も無くて冬です。」 「・・・・流石はユイ君だな・・・・」 「マギでも時間が掛かるか・・・・」 「それに、零号機の改造に初号機の修復、使徒の解体・・・その予算・・・問題は山積です」 「碇・・・委員会は?」 「明後日だ」 ネルフ中央病院、レイの病室、 レイは小説を呼んでいる。 シンジは横の小さな机で夏休みの宿題をしている。 包帯をしているため多少書き難いようだ。 静かである。 開いている窓から入ってくる風が白いカーテンを揺らしている。 ジオフロントに存在するこの病院は、地上の、第3新東京市立中央病院よりも環境が良い。 集光ビルによって集められた光が、光ファーバーを通してジオフロントに降り注ぎ、優しい光となってカーテンの隙間から病室を照らしている。 シンジはシャーペンの動きを止め、レイを見た。 人間離れした美が、レイには存在していた。 (・・・天使みたいだ・・・・) レイは、目線を本からシンジに移した。 「・・・・・どうかしたの?」 「い、いや、その・・・・綾波って・・・・天使みたいだなって思って・・・」 「・・・・・・・・そう・・・・・」 レイは目線を本に戻した。 シンジにも良く分からなかったが、レイは少し動揺していた。 診察室、 「もう包帯は外していいでしょう、まあ、2、3日は、あまり手を濡らさないように」 「はい」 「塗り薬と飲み薬を出しておきます。塗り薬は、夜に、飲み薬は、朝食の後に」 「はい、有り難う御座いました。」 シンジは、一礼して診察室を出た。 8月10日(月曜日)、ネルフ中央病院、 レイは、技術部が総出で動いている為に、実験も無いという事とシンジが、完全に回復するまで入院していた方が良いと言った事で、退院許可が出ても未だ、入院を続けていた。 (私・・・退院したくないの?) (何故?) (・・・分からない・・・) ドアが開き碇が入って来た。 「レイ、どうだ?」 「問題ありません、いつでも退院できます」 「そうか・・・明後日から、下の実験を再開する。」 「・・はい・・」 碇は立ち去った。 ネルフ本部、通信会議室、 リツコとマヤが、支部の技術担当者との通信会議に出席していた。 はっきり言って、通告と要求の応酬のみで、実際殆ど役に立っていない事が判明している。 「今回より、出席する、私の副官の、伊吹マヤ2尉です。」 アメリカの第1支部、第2支部、ドイツの第3支部、ロシアの第4支部、中国の第5支部、今年新たに設置されたフランスの第6支部の技術担当者は、本部の赤木リツコ1佐も含めて皆、佐官(第3支部のみ2佐、他は3佐)であり、尉官のマヤが出席するなど異例の事である。 因みに、第3支部は、他の支部に比べて、全体的に階級が高い(無論本部よりは下、但し作戦部は3佐が部長を勤めている)と言うのも、補完委員会議長キールローレンツの国、ドイツにあり、別名が、欧州本部であり、欧州諸国は日本の本部よりもドイツの第3支部に重きを置いているからである。アメリカの支部の方が番号が若いのは、米軍の施設を殆どそのまま流用したため、早く支部として機能を始めたと言うだけである。 「さて、SS機関の件ですが、」 『お任せを、第3支部にて解析は既に始まっています』 「宜しい、今日、総司令から、第2支部における、SS機関の量産型エヴァへの搭載実験の承認が出されました」 第2支部代表の顔が綻んだ。 「で、その予算ですが」 緊張が走った。 「新たな増額は認めず、各支部に割り振られている予算及び直接の寄付で行う事」 予め予想された事だったのか、余り残念には思っていないようだ。そしてその直接の寄付のために多くの企業や国が動き、結果、本部、各支部間で対立が起きている。 「では、各支部の報告を、先ずは、第1支部」 『はい、参号機の建造は、年末から年始に完了する予定です。』 8月15日(土曜日)、夜、ミサトのマンション、 今日は、レイとリツコとマヤを夕食に招待した。 「今日はミサトの料理じゃないからご馳走になるわ」 「わる〜ござんしたね」 「ええ、勿論」 リツコはいつもの調子できっぱりと言い、ミサトはしかめっ面をした。 マヤは苦笑している。 「あっ、シンジ君」 「はい?」 台所からシンジの返事が返ってきた。 「レイって、肉や魚嫌いなんだけど、肉と魚無しの料理ある?」 「ええ、大丈夫ですよ」 (ちょっと変えようかな?) シンジは、素早く、メニューを一つ変更する事にした。 ・・・・ ・・・・ シンジは料理を机の上に並べた。 「シンジ君・・・凄いのね」 「本当ですね」 「でしょ〜」 「食べてください」 シンジは、レイの右側に座った。 皆食べ始めた。 「お、美味しい・・・」 (ミサトの餌には勿体無過ぎる) 「す、凄い・・・」 (私よりも上手) 「うん、いつもどおり美味しいわね」 (ま、私よりもチョッチばっかり料理の腕が良いしね) 「・・・」 (・・美味しい・・) レイは無言で食べている。 ただ、なんとなく嬉しそうな雰囲気である。 「シンジ君、前にも言ったけど、今からでも、ミサトとの同居解消しない?この料理、ミサトの餌には勿体無過ぎるわ」 「え、餌って・・・リツコ〜」 「ミサトなんかは、総合栄養剤と、ビールがあればそれで良いんだから」 ビールを持ったままミサトが固まった。 「反論、出来ませんね、僕が来る前は、ビールの空き缶がビルのように連なっていましたからね」 「シンちゃんまで〜」 ミサトは今にも泣き出しそうである。 「で、どうする?」 「僕がいなくなると、ミサトさんの生活が維持できませんから、」 「全く、どっちが保護者だか分からないわね」 マヤは苦笑いをしている。 レイは無言で食べ続けている。 ゆっくりとだが確実に、 8月21日(金曜日)、ネルフ本部、総司令執務室、 「冬月、」 「なんだ?」 「これをどう思う?」 碇は、冬月にファイルを渡した。 冬月はファイルを開いた。 「日重の玩具か」 「追加予算の引き換え条件だ」 「潰すのか?」 「ああ」 「だが・・・・ん?何で政府の責任者が通産大臣なんだ?」 「恐らくは、対使徒用に作っていないな」 「・・・・対人兵器か」 「ああ、」 「だが、何故、戦自が絡まない?」 「可能性は2つ、」 「何だ?」 「完全な玩具として興味を持っていないのか、或いは、不要なのかだ」 「・・・・既に、ロボット兵器を持っていると言うことか」 「可能性は高い」 「やはり対人か?」 「恐らくは、ATフィールドの情報くらい流れているだろう」 「ふむ、指向性NN兵器の話はどうなったんだ?」 「あの男の話では、暗礁に乗り上げたらしい」 「当分は放って置いても問題ないか」 「ああ」
あとがき 果てさて、アスカ来日前にずいぶん二人が接近しておりますな。 ユイvsマギ、ユイに軍配か?まあ、時間の問題ではあるが・・・ 戦自のロボット?やはりあの3人が出てくるのか リツコは、ゲヒルン時代からの重要人物と言う事で、異例の1佐と言う階級を与えています。ネルフの階級は、上下関係と言うよりも、給与順序と言った意味の方が大きいと思われます。 第壱節は次の第拾話で終わりです。第弐節はいよいよアスカが合流します。 次回予告 進路面談、自分の未来を描く少年少女達、しかし、与えられる事しか知らない者の描く未来は?オリキャラ?登場予定。 時田vsリツコ、散々に言われるエヴァ。時田vs耕一、滅茶苦茶に言われるJA、果たしてJAの存在価値は? 暴走するJA、放射能汚染から免れるのか? 次回 第拾話 ひとの造りしもの