文明の章

第壱話

◆レイ、心の向こうに

7月25日(土曜日)、ネルフ本部、第4ケージ、初号機、
現在機体連動試験中であった。
『シンクロ率51.36%』
シンジはモニターの隅に映る零号機のケージを見た。


第3ケージ、
レイは零号機の調整を手動で行っていた。
レイの知識量は半端ではない。下手な技術部員など足元にも及ばない、エヴァに関してならばマヤと同等かそれ以上の能力がある。これは、シンジは勿論、ドイツのアスカでも絶対に不可能な事である。エヴァとは何か、それを知っている者だから出来る事でもある。
足音が近づいて来た。
レイは零号機からブリッジに降りて、足音の方を振り返った。
足音の正体は予想通り碇だった。
「レイ、調子はどうだ?」
「・・問題ありません」
「そうか・・・今日、時間が空いた、夕食をいっしょにどうだ?」
「・・はい、御一緒します」
碇の表情は柔らかく、レイの表情もどことなく嬉しそうだ。
「・・・・あの・・・碇司令・・・」
「何だ?」
「・・・碇君は?」
レイは初号機に視線をやりながら尋ねた。どことなく、不安に駆られている様にも見える。
「・・・・・あいつは、私の事を避けている。いや、憎んでいると言っても良いのかも知れない。今、食事に誘ったところで、首を縦には振らんだろう・・・」
「・・・そう、ですか・・・」
「私はもう行く、又後でな」
「・・はい・・」
碇はブリッジを離れていった。


司令室、
モニターの1つには、シンジの視線、つまり、碇とレイの姿が映っていた。
「シンジ君・・・辛いでしょうね」
マヤは少し涙ぐんでいる。
「ねえ、リツコ、何で司令は、レイをあんなに大事にしてるわけ?実の息子を放って置いて」
リツコは無言でモニターを見たまま答えを返さなかった。
シンクロ率は30台で大きく変動している。
「・・何にせよ、シンジ君の心理面に大きな負担をかけているわね、自分よりも父親に近い存在、簡単に言えるとしたら嫉妬、でも多分そんなに単純じゃないわね・・・」
「嫉妬だけならば、司令がシンジ君に積極的に接するだけで事は済む・・・恐らくは、複数の感情が入り交ざり、自分自身でも処理できなくなっている。戸惑いね、単なる嫉妬だけならば、こんなにシンクロ誤差が大きくなる事は無いわ・・」
リツコは答えを誤魔化した。
「戸惑いか・・・」
ミサトは自分の境遇にシンジを照らし合わせた。
「・・・そうそう、弐号機の本部輸送決まったわ」
話を逸らしたのか、ふと思い出したのかリツコは全く関係の無い話を持ち出した。
「そっか」
「で、そのログを調べてみたら吃驚、いえ、むしろ唖然としたわね」
「どうしたの?」
「シンクロ可能になったのは、A.S.11年、」
「何ですって!!」
本部よりも遥かに早いその年に驚いた。
「起動はしないとは言え、本部よりも3年も早かったわ」
「第3支部の奴ら何考えてるのよ!」
しかも、ミサトが、日本に戻って来た1年後、とすれば、ミサトがいた時点でもかなり研究は進んでいたはずであるが、全くそんな事は知らされていなかった。
「更に、初起動はA.S.13年、こっちがシンクロ実験を始めるよりも早い」
ミサトは青筋を浮かべている。
「ATフィールドの発生は、流石に今年だけど、大体、零号機の起動実験と同じくらい、本部が戦闘の本格的な準備を始めた時、既に、第3支部は、その準備を終えていた」
「何で報告が来なかったんですかね?」
「複雑な事情があるわ、でも、間違いなく政略兵器として使われているわね、恐らくは、弐号機と引き換えに相当な要求を出すつもりだったんでしょうね、そう言った意味でも、シンジ君は私たちを救ったとも言えるわね」
「大人の勝手な都合ね」
ミサトは、そんな馬鹿げた事で、全人類を危険に曝していた第3支部上層部に腹が立ち、言葉を吐き捨てた。
「それは、私たちも同じよ、その勝手な都合に巻き込んでいるんだから」
「どうしたのよリツコ〜、なんか良い人してるじゃない」
普段リツコが言わないような台詞に、ミサトは少し戸惑ったがからかう事にした。「たっぷりと仕返しはさせてもらうけどね」
リツコは怖い笑みを浮かべた。
「と、言いたいけれど、本部も本部で、相当色んな事隠してたからね、例えば、松代と各支部にあるマギコピー、ただの大型演算処理機でしかない、オリジナルとは天と地ほどの開きがある事とか、その他にも色々とね」
マヤは、リツコの表情に微かに自嘲が混じっている事に気付いた。
そして、それが、マギオリジナルを作ったリツコの母、赤木ナオコとの絶対的な差を感じているからだと気付いた。一方、ミサトは、エヴァもマギもリツコが造った物だと思っている為、その裏の意味には気付いていない。
「さっきの私たちも巻き込んでいるってそう言う事」
「そう言う事よ、」


7月26日(日曜日)、第3新東京市郊外、第四使徒解体現場、
シンジは安全ヘルメットを被って中に入った。
「お、大きいんですね・・・」
「ええ、エヴァから見るとそうは思えないでしょうけれど」
リツコが答えた。
「そうですね」
シンジは使徒の巨体を見上げた。
「まっ、コア以外は殆ど原型を留めている。正に理想的なサンプルね」


1時間後、解析室でリツコとミサトが話をしていた。
「で、何が分かったわけ?」
「さっぱり、動力機関らしき物はあったけれど、いったいどういう理論で動いているのかは全くの不明、完全なオーバーテクノロジーよ」
リツコはカップに入ったコーヒーに口をつけた。
「でも、何かは収穫があったんでしょ」
「・・・そうね、私達の科学がいかに浅はかな物かが分かっただけでも、収穫と言ったところかしら」
「なによそれ」
「これを、見て」
リツコはマグカップを置きキーボードを叩いた。
モニターに遺伝子の配列が出た。
「あれ?これどこかで見たことありますね」
シンジが言った。
「これ・・・人の・・」
「いえ、これは使徒の遺伝子らしき物の配列。粒子と波の中間のような性質を持つ未知の構成単位だけれども、配列そのものは、人間と、99.89%一致したわ・・・」
「どう言う事?」
「使徒は人類の一部、あるいは、人類が使徒の一部と考えることもできる。と言う事ね。」
リツコは再びコーヒーを啜った。
「・・・でも、個人的には、使徒と人は別の物であってほしいわね」
「当然よ」
「ま、1体だけではなにも分からないわ」
「そうね」
シンジは、碇と冬月が来ていることに気付いた。
碇は手袋を脱ぎ、コアを触っている。
碇の掌にはひどい火傷の痕がある。
「・・ミサトさん、父さんの掌の火傷・・何か知っていますか?」
「ん?リツコ、知ってる?」
「ええ、シンジ君、零号機の暴走事故知ってる?」
「ええ、綾波の怪我はその時の物ですよね」
「その時、エントリープラグにレイが閉じこめられたの、それを司令が助け出したの、加熱したハッチを無理矢理こじ開けてね、掌の火傷はその時の物よ」


 5月28日(木曜日)、技術棟起動実験室、
「これより起動実験を始める」
碇の声で実験が始まった。
そして、暫くして事件は起こった。
「パルス逆流!!」
「中枢神経素子にも拒絶が始まっています!」
「コンタクト停止!」
リツコ博士の指示で各職員が必死に現状を打開しようとする。
零号機が拘束具を引き千切った。
「実験中止!」
「電源を落とせ!!」
「零号機内部電源に切り替わりました!」
零号機は壁を殴り付けている。特殊装甲の壁がいとも簡単にへこみ破壊されていく。
「完全停止まで30秒」
「恐れていた事態が起こってしまったの!」
そして更に追い討ちを掛けるような事に発展した。
「オートイジェクション作動!!」
「いかん!!!」
「硬化ベークライトを!」
リツコの指示で硬化ベークライトが零号機に吹き付けられた。
巨人の頚部から後方にプラグが射出された。
硬化ベークライトが凝固を始め、零号機の動きが鈍くなり始めた。
プラグは何度か壁や天井にぶつかった。
「レイ!!」
碇が実験室に飛び出した。
プラグはロケットの燃料が切れ落下し、床に叩きつけられた。
碇は直ぐに駆け寄り、ハッチを開けようとした。
「ぐおっ!」
碇は余りの熱さに手を離し、同時に眼鏡が落ちた。
零号機の動きが止まった。
「くそっ!」
碇は、無理やりハッチを抉じ開けた。
掌は焼け爛れ、感覚は殆ど無い。
「レイ!」
碇は、プラグの中のシートに横たわるレイを呼んだ。
レイはうっすらと目を開け美しく透き通る赤い瞳が見えた。
「大丈夫か!?レイ!」
レイはゆっくりと頷いた。
「そうか・・・よかった」
高温のLCLによって眼鏡のレンズが割れフレームが歪んだ。
 

7月26日(日曜日)、第3新東京市郊外、第四使徒解体現場、
「父さんが・・・・綾波を・・・・・・」
思考の海にシンジは入った。
「あと、分析の結果、例えATフィールドを中和したとしてもパレットガンを初めとする兵器ではまともなダメージが与えられないことが分かったわ」
「じゃあ私の作戦は」
「無様ね」
「ぐ」
リツコは表情を緩めた。
「で、対策、円環式陽電子砲をロールアウトしたわ、他にも、パレットガンの弾を更に貫通力の高い弾に換えたわ、もっともこれは気休めだけど」
「さっすがは赤木リツコ博士」
「これからのエヴァの武器は近接戦闘用中心で行くわ、対して支援兵器も相当の強化が必要ね」
「お願いするわ」
「簡単にお願いされてもね・・・ネルフの財政きついのよ」
「・・・ここ人類の未来まもってんでしょ」
ミサトは、人類の存亡の為に金を惜しむ等と言った事が余りに愚かに思え、不満を口にした。
「この前の初号機の修復費用だけで数千万人が餓死したのよ」
ミサトは悲痛な表情を浮かべた。
慌てて、シンジの方を振り返ったが、シンジは考え事をしていて気付かなかったようだ。
「人が生きるためには予算が必要なの。セカンドインパクトの爪痕から回復しているように世間は思っているけど、地球の純総生産は、セカンドインパクト以前の7分の1、難民、避難民の数は地球史上最大級を維持し続けている。アフリカでは数十億人が飢餓状態にあるのよ、何かあれば彼らは即餓死するわ。」
コンビニに物が溢れ、膨大な量の食料が生ごみとして処分されるようなここにいては忘れてしまうような事である。
「それに、治安が回復したのは日本くらいのものよ、犯罪指数も、日本の1.5が異常なだけで、後の先進国は軒並み50オーバー、主要先進国で2番目に治安が良いドイツでさえ、53、アメリカに至っては373よ、復興途上国に至っては4桁も並んでいるわ」
ミサトは俯いた。
「予算は無尽蔵に出せるわけではないの、それを分かっておいて」
「・・・どうして?お金持ちの国は沢山あるじゃないの」
リツコは溜息をついた。
「その、地球連邦1のお金持ちの国、日本国が、追加予算を拒否したのよ」
「どうしてよ」
「理由は、被害地域の復興にかかる予算、それどころか、国際連合に請求書を送ってきたわ、家に直接来ないだけマシだけど、結局予算は同じところから出てるし」
ミサトは、何か裏があることに気付いた。
「何か動いてる?」
「・・・追加予算の代わりに条件を出してきたのよ」
「何よ?」
「ネルフの情報の公開、ネルフ幹部に戦自の者を加える事、日本政府主導による監査団の受け入れ、使徒のサンプルの引渡し、エヴァ研究体の引渡し、その他細かいのが何点か」
「何よそれ、」
「・・・で、勿論、司令部も委員会も拒否、で、実際国連軍が使ったNN地雷を初めとして、日本の国土に被害が出てて、被災者救援の大義名分があるから、こっちも強く言えない、で、結局、発言力の弱い国に皺寄せが行った訳、このままだと・・・」
「何考えてんのよ、政治家連中は、」
拒否したのは日本政府ではなくネルフなのでは・・・
「決まってるじゃない、自分たちの事よ」
「今はそんな場合じゃないでしょうが、たくっ」
要求の中に情報公開がある意味が分かっていないのかミサトは、愚痴を言った。
リツコの方は分かっていて敢えて言わないのか、それともミサトと同レベルなのか、
それぞれの言い分を纏めるとこうである。
ネルフ:我々が負けると、人類は滅亡する。それを防ぐ為に十分な追加予算を出せ
日本政府:お前等の事はどうも信用できん。十分な証拠と誠意を示せば、金を出しても良かろう
ネルフ:人類の滅亡を賭けた戦いにまだそのような事を言うとは・・・もう良い、あんた等には頼まん。
どっちが悪いかは明白であろう。


7月27日(月曜日)、ネルフ本部、総司令執務室、
ミサトが碇と冬月の前で直立不動の状態にあった。
「葛城1尉、第四使徒の早期分析結果と共に、君の作戦及び、指揮に関する報告を受けた。」
「はい」
「そして、君の処分が決定した。」
「・・はい」
減俸を既に食らったがとは思ったが言わない事にした。
「作戦は、使徒のATフィールドを中和しつつパレットガンの斉射とある。この時点で、パイロットに対して、相当の爆煙が出る事を伝えていなかった。そして、馬鹿敵がと言った。恐らくは、見えないとでも言いたかったのだろうが、自分のミスを棚に上げて、馬鹿とパイロットを罵っている。そして、明らかに、コアに着弾した弾も有ったが、使徒に対しては一切効果を示せず、この時点で、作戦は完全に失敗。」
ミサトはハッとした。
「そして、防戦一方の状況で、アンビリカルケーブルが切断、ここで、シンジ君早く倒さないとヤバイわ、何を考えているのか、その倒す方法をパイロットに与えるのが指揮官の役目ではなかったのか、そして、使徒の攻撃方法が触手以外にもあったら等と言った常識的判断を一切せず、民間人をエントリープラグへ入れる命令、しかも、赤木博士の提言の一切を跳ね除けた。そして、今の責任者は私です、といった。当時発令所にいた最高位のものは、冬月であり君ではない、命令系統を混乱させる指示、だが、今回は、その指示の内容自体は結果論から否定しない。」
やば〜〜と思った。普段なら冬月がこんな説教はするはずだが・・・やばい。
「そして、退却命令、退却して何になるのか、退路を示せばそこがジオフロントへの入り口となる、ひいては、サードインパクトへの道を与える事になる。そして、何らかの、対策があったわけではない。」
とっさに感情に流されてとんでもない命令を下していた事を知った。
「そして、事後処理、自分のミスを全て棚に上げ、第1級優先事項である使徒殲滅を優先させた、パイロットに対して、命令違反で厳重注意処分、結果、1時的とは言え、サードチルドレンを失うに至る。しかも、既に、パイロットが、クラスメイトによって、逆恨みの暴行を受けており、通常の精神状態に無かった事は報告に受けている。」
マジ!そう言えばチョッチ頬が赤かったようなきも、マジでやば〜〜〜などと考えている。
「君の活躍によってサードチルドレンが復帰した事から、最後の件に関しては不問とする。だが、我々には、無能かつ無策、そして、愚かな指揮官は必要ない。今回の件に関しては特に罪を言及はしない・・・・しかし、次は無い」
ミサトはうな垂れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・・・・・・」
因みに、トウジの暴行事件の報告書は、シンジとレイが本部に向かっている間に、保安部からミサトに提出されたが、勿論そんな物はミサトは読んではいない。もし今そんな事を言えば、降格と同居の取り消しは間違いないだろう。
「第伍使徒戦には期待する。パイロットの代えは今は無いが、指揮官の代えならばいくらでも有ると言う事を忘れるな」
「・・・・・はい・・・・」
「では、下がれ」
「はい」
ミサトはブルーなオーラを放ちながら退室した。


7月30日(木曜日)夕方、第3新東京市内、公園、
シンジは近道をするために公園を横切ることにした。
レイがベンチに腰掛け文庫本を読んでいる。そのレイの周りに小鳥が何羽かとまっている。1羽はレイの肩に乗っている。
その光景はどこか幻想的な物を含んでいた。
シンジはレイに近付いた。
(綾波だ)
小鳥はシンジに気付き飛び立っていった。
「綾波・・・」
レイは目線だけシンジに移した。
「なにしてるの?こんな所で?」
「・・読書・・」
ストレートな答えが返ってきた。
「い、いや、そのさっき小鳥が綾波の周りに集まってたけど」
「・・・・それが?」
「い、いや、あの、その・・・」
シンジが答えに窮し戸惑っている間にレイは時計に目をやった。
(帰宅すべき時間、明日は再起動実験)
「・・さよなら・・」
レイはさっさと立ち去ってしまった。
残されたシンジは暫く立ち尽くしていた。


7月31日(金曜日)、ミサトのマンション、
今日はリツコがミサトの家に来ていた。
昼食のカレーを一口食べた。
口の中に広がる無数の味覚の不協和音、なんとも表現しがたい破滅的な味
二人の顔色が変わった。
「このカレー作ったのミサトでしょ。」
「分かる〜?」
ミサトは既に立ち直っているようでへらっとしている。
「味でね。」
(よくレトルトのカレーでこんな味が!!)
リツコは心の中で叫んだ。
「シンジ君、今からでも良いから住むとこ変えなさい。こんな自堕落な同居人のせいで、一生を台無しにする事は無いわ。」
リツコは本気。
「いえ、もう慣れましたから。」
「そうよ、人間の環境適応能力を甘く見ちゃ〜いけない。シンちゃん、ここにカレー入れて。」
つまり、ミサトとの同居はかなりの環境適応が必要だと自分でも認めている訳だ。
「ほ、本気ですか?」
ミサトはカップラーメンの大盛りを前に出した。
「ドッパァ〜とね」
シンジは仕方なくその中にカレーを入れた。
「初めっからカレーが入ってるラーメンだとこの味は出ないのよねー」
((このカレーの味は普通出せない・・・))
シンジとリツコは同じ事を考えている。
「御湯を少なめにするのがコツよ」
ミサトはカップラーメンをかき回している。
向こうでカレーを食べたペンペンが倒れた。
(?)
「そうだ、シンジ君、レイの更新カード渡すの忘れちゃったから、明日、本部に来る前に渡しといてくれない。」
リツコはレイのIDカードをシンジに渡した。
「・・分かりました・・」
シンジはレイの写真を見詰めてた。
(綾波か・・・綺麗だよな・・・・なんか、天使とか聖霊みたいな特別な感じとか・・まあ、実際見たことは無いけどたぶん・・・・でも、ケージで見たとき、何で会った事があるような気がしたのかな?)「どうしたの?レイの写真じっと見ちゃってぇ、もしかしてぇ〜」
ミサトが楽しそうにシンジをからかった。
「そ、そんなんじゃ有りませんよ。・・・只、あいつのことがよく分からなくて・・・」
「良い子よ。貴方のお父さんに似てとても不器用だけれど・・」
「何がですか?」
「・・生きる事が・・・」
リツコの表情はどこか淋しそうにも見えた。


8月1日(土曜日)、昼前
シンジは本部に行く前にレイのマンションに寄った。数多く立ち並ぶ棟の中からレイの住んでいる棟を見つけ出し階段を上りレイの部屋の前まで来た。
(まるでゴーストタウンみたいだ・・・・この部屋以外誰も住んでいないように見えるし・・・・)
シンジは呼び鈴を押したが壊れている様で音が鳴らなかった。
「ごめん下さい・・あの・・碇だけど・・」
シンジはドアを開けて中に入った。
「綾波?」
「いないの?」
レイの部屋には生活感を感じさせる物は殆ど無かった。只、妙に台の上に置かれた眼鏡が気になり台の元に行きその眼鏡を取ってみた。
(綾波のかな・・・)
眼鏡は少しいがみレンズにもひびが入っていた。
シンジは眼鏡をかけてみた。
後ろで何か物音がしたので振り返ると、部屋の入り口にバスタオルを1枚羽織っただけの風呂上りのレイがいた。
(何故その眼鏡を掛けているの)
「あ、ああの」
シンジは気が動転していたが、レイの方はつかつかとシンジに歩み寄って来た。
レイが自分の顔に手を伸ばしてきたので、シンジは避け様と背中を反らせたら体勢が崩れたので更に修正しようとして前に倒れてしまった。
直目の前にレイの顔があった。
心拍数が上昇し、頭がぼうっとして来た。
「・・どいてくれる?」
自分の右手に何か柔らかい物を感じ見てみるとレイの胸を掴んでいた。
「ほあああああ!!」
シンジは驚いて飛び退いた。
レイは起き上がってシンジから取り返した眼鏡を台の上に置いて服を着始めた。
「・・・・何?」
「あ、あの、僕は、た、ただ、あ、あの更新、カードをリ、ツコさんに、届けてくれって、言われて、だからその、あの、僕は?」
シンジは戸惑いながら言ったがレイは既に服を着て外に出て行っていた。
シンジは慌ててレイを追い駆けた。


町の中を数メートルほど離れてシンジはレイに付いて行った。


電車の中、
シンジはレイと反対側の椅子に座った。
(どうしよう・・・・なんかしゃべんなくちゃ・・・)
そうこうしている内にジオフロントゲートに着いてしまった。
レイはIDカードを機械に通すがエラーが出て何度かやり直していた。
シンジはレイの新しいカードを機械に通してレイにカードを渡した。
「カード新しくなったから・・・」
レイはそのままカードを受け取り中に入って行った。


ジオフロント降下エスカレーター
漸くシンジはレイに話し掛け始めた。
「今日・・・零号機の再起動実験だよね?」
レイは答えなかった。
「綾波は怖くは無いの?」
「・・・何が?」
(何が怖いの?私が死んでも変わりはいる、私の望みは虚無への回帰・・・でも、あの人は、まだそれを許してくれない。)
「何がって・・・その・・・エヴァに乗る事が・・・」
「・・・貴方は怖いの?」
シンジは暫く間を置いた。
「そりゃ怖いよ・・・」
「・・・お父さんの事が信じられないの?」
「信じられるわけ無いよ!あんな父親なんか・・・」
(碇司令を冒涜した。碇司令に愛されている碇君が、碇司令を理解しようともしない、)
レイはシンジを振り向いた。
シンジはレイの怒りのようなものを帯びた眼に少し怯んだが、次の瞬間、レイの平手打ちがシンジに炸裂していた。
その後レイはすたすたとエスカレーターを下りて行った。
(何故・・・・)
シンジには今、レイにぶたれた理由がいまいち分からなかった。


1時間後、ネルフ本部内第14実験場。
零号機が実験場内に配置されレイが乗り込んだ。
「これより、零号機再起動実験を行う。」
碇の言葉で実験が始まった。
「レイ、準備は良いか?」
『・・はい・・』
「第1次接続開始、主電源接続」
「稼動電圧臨界点を突破」
「フェイズ2に移行」
「パイロット零号機と接続開始、パルス及びハーモニクス正常、シンクロ問題無し。」
「オールナーブリンク終了。」
「絶対境界線まで後2.5」
「1.7」
「1.2」
「1.0」
「0.7」
「0.4」
「0.2」
「絶対境界線突破します。」
「零号機起動しました。」
「引き続き連動試験に入ります。」
冬月が電話を取った。
「そうか、分かった。」
冬月は電話を置いた。
「未確認飛行物体がここに接近中だ」
「恐らくは使徒だな」
「テスト中断、総員第一種警戒体制」
「零号機はこのまま使わないのか?」
「未だ、戦闘にはたえん。初号機は?」
「380秒で出撃できます。」
「良し、出撃だ」


初号機内。
『エヴァぁ初号機発進!』
Gが掛かったがもう慣れた。
地上に出た。
『ダメッ!シンジ君避けて!』
「え?」
次の瞬間、前のビルの中程が光り、何かが、胸部に直撃し、激痛が走った。
「わああああああ!!!!!!!」
「あああああああああああああ!!!!!!」
「あうううぅぅぅぅ・・・」
シンジは意識を失った。


ネルフ本部第1発令所
「ケージに行くわ!」
ミサトは走って発令所を出て行った。
「パイロット心音微弱」
「生命維持システム最大、心臓マッサージを!」
「パルス確認!」
「プラグの強制排除急いで!」
初号機からエントリープラグが取り出された。
「LCL緊急排水」
「はい」
それら一連のやり取りをレイは静かに見つめていた。

 

あとがき
レイ過去最多登場〜〜!!←当たり前
碇が誤解されてるけど、絶対本編よりは良い人になってると思う。
なんとなくリツコが良い人?
ミサトの作戦指揮に関しては、やはり問題ありですね。
何か考えられればいいのですが、
戦闘に耐えるかどうかを判断するのは、リツコやマヤの仕事のような気もしますね。
どうでも良いかもしれませんが、この作品においてミサトの料理の腕は最悪クラスです。でも、化学的に有毒な成分があるわけでも無し、ただ、一般の味覚を持たれる方には不味過ぎるだけです。殺傷力は無いと思われます。

次回予告
強力な加粒子砲とATフィールドを併せ持つ難攻不落の目標に対し、ミサトは、超長距離砲による一点突破を試みる。
ネルフは、戦略自衛隊の開発中の兵器、自走陽電子砲と日本中の電力をを強制徴発する。一方、ミサトは、この地球連邦の政治と経済、更には軍事までの頂点に君臨する皇耕一に面会し、作戦への協力を要請する。
ネルフ初の共同作戦、そして、まさに天文学的予算を注ぎ込んだ大作戦、しかし、それですら、勝率は1割を切っていた。
第1射が外れ、使徒の第2射が発射されるが、東京軍の魔力砲によって間一髪着弾は回避される。
しかし、更に絶望を告げる第3射、残された防御手段は、零号機の盾しかない。
盾は融解し、零号機も解けていく、果たして、初号機の第2射は間に合うのか?
次回 第八話 明日と言う名の希望