文明の章

第四話

◆青と赤

少し時間は遡る。
5月28日(木曜日)昼頃、帝国鉄道第2、3新東京市接続線。
空席がちらほら見える電車の車内を一人の男性が歩いていた。
「おっ、居た、居た。」
男性は一人の女を見つけて近寄った。
「これは会長。」
女は耕一に気付くと席を立って男性に深く頭を下げた。
「ああ、気にするな。スリ−プ」
耕一は魔法を唱えて長椅子に座っている他の乗客を眠らせてから、女の横に座った。
「処であの件はどうだった?」
「はい、やはり会長の仰った通りでした。」
「そうか・・・Nに付いては?」
「未だ調査中ですが、内偵に送り込んだ者のうち一人が発令所配属になりました。」
「では、Zに付いては?」
「残念ながら未だ掴めておりません。ただ、国際連合は殆ど乗っ取られている様で事務総長とその側近を除く殆どの事務及び委員は、Zの関係者です。」
「そうか・・・ん?」
「何か?」
耕一はガラス越しに隣の車両で少女が不良に囲まれているのが見えた。
「ちょっと行ってくる。」
「はい?」
耕一は席を立って隣の車両に移った。
少女の髪は薄い青で、肌が白く、目が赤かった。美しい容姿。アルピノである事を考慮してもかなりのものである。だが、耕一はそれ以上に少女の顔に見覚えがあった。20年も昔に。
(ユイ君に似ているな・・・)
少女は7人の不良達がまわりに居る事が気にならないのか、ただ外を眺めていた。
少女は、薄く赤みがかった白いワンピースを着ていた。
不良の一人が少女の首筋に触れた。
少女は一瞬不可思議に顔をしたが、そのまま平然と外を眺めていた。
(おいおい、気付けよ・・・・)
不良が少女のスカートの中に手を入れると、少女は再び不可思議な顔をした。
少女が後ろを振り向こうとした時、他の不良が少女の胸に触れた。
「やっ!」
少女は嫌悪の声を上げた。
「其処までだ!全員痴漢の現行犯だ!」
不良達が驚いて耕一の方を見た。
「おい、テメエ、良く聞こえなかったなあ、もういっぺん言ってくれるか。」
愚かにも耕一相手に食って掛かっている。
「3回までなら言ってやろう。其処までだ!全員痴漢の現行犯だ!と言ったんだ。ひょっとして聞こえなかったんじゃなくて、お頭が弱くて意味が理解できなかったのか?」
耕一は態度でも挑発した。
「なめんじゃねぇ!!おどれぶちかましたるたい!!!」
「どこの方言?混じってないか?」
「じゃかあしい!!やったろうやないか。」
耕一は溜息をついた。
「馬鹿はこれだから困るねぇ・・・」
不良の顔が真っ赤に染まり始めた。
少女の方を見ると今度はこちらのやり取りをじっと見ていた。
「死にたいなら来な。」
不良達が一斉に耕一に飛び掛かった。
耕一は一人の手を掴んで関節を反対側に曲げて破壊し、両膝の皿を蹴り割りガラスを突き破って窓から外に放り投げ、次の一人にはサンダーの魔法を軽く浴びせショックで気絶させ、更に二人の数本の骨を折ってから床に叩き付け、残りの3人が逃げようとするのを追い駆け後ろから次々に飛び蹴りを食らわせて吹っ飛ばした。ここまで所要時間6.8秒。
耕一は少女の傍に言って声をかけた。
「大丈夫だったか?」
少女は頷いた。
直に、第3新東京駅に着き、少女は一礼して下りて行った。
『次は終点、強羅、強羅に止まります。』
扉が閉まり電車が走り出した。
耕一は携帯電話を取り出してかけた。
『ハイ、会長何の御用でしょうか?』
「蘭子、さっき、ボコッた7人の不良を痴漢罪及び、統監侮辱罪で告訴したい。手続きを頼む、懲役30年くらいで良いだろう。」
【日本国刑法第633条、痴漢罪、第1項、公共の場において成人女性に対し強制的に猥褻な行為を行し者は5年以下の有期懲役に処す。第2項、公共の場において成人女性に対し同意に基づき猥褻な行為を行し場合は両名を2年以下の有期懲役又は100万円以下の罰金刑に処す。第3項、公共の場において未成年の女性に対し猥褻な行為を行し者は7年以下の有期懲役に処す。】
【日本国刑法第642条、特別婦女暴行罪、婦女に猥褻な暴行を加え、婦女の人権や身体精神を著しく傷つけし者は、5年以上の有期懲役に処す。】
【地球連邦連邦刑法第61条、第1項、第1級統監侮辱罪、不当に統監の尊厳と名誉を著しく傷つけた者は死刑又は80年以上の有期又は無期懲役に処す。第2項、第2級統監侮辱罪、統監の尊厳や名誉を著しく傷つけた者は理由の如何に依らず20年以上の有期又は無期懲役に処す。第3項、第3級統監侮辱罪、統監の尊厳や名誉を傷つけた者は理由の如何に依らず5年以上50年以下の有期懲役に処す。第4項、統監の尊厳は絶対的な物であり、統監侮辱罪の刑量は地球連邦加盟国はその国で定める事。】
【日本国特別刑法第1条、統監侮辱罪、地球連邦により当国に統監侮辱罪の司法権が譲渡された場合は、その程度により死刑又は有期或いは無期懲役に処す。】
『はい、判りました。』
耕一は電話を切った。
あの不良達は後でさぞ驚く事でしょう。
ん?外に投げられた奴はやばくないか?


5月29日(金曜日)、東京帝国グループ総本社ビル会長室。
耕一は榊原を呼び出した。
「その少女に付いて調べて欲しい。」
榊原は少女の写真を見た。
「ずいぶん、特徴的な少女ですね。1日で調べられると思います。」
「頼む。」
榊原は一礼して退室した。


6月11日(木曜日)、東京帝国グループ総本社ビル会長室。
榊原が報告に来ていた。
「随分時間が掛かったな。」
「ええ、かなり特殊な状況でしたので。」
「どうだった。」
「それが、名前と年齢などしか分かりませんでしたがとんでもない事が一つ判りました。」
「なんだ?」
「少女の名前は、綾波レイ、14歳、誕生日及び血液型不明、現住所、第3新東京市7エリア、旧第3開拓団地16棟402号室。但しここのところ帰っていません。現在第3新東京市立第壱中学校2年A組2番、又ここのところ欠席をしています。とんでもない事と言うのは、先ず、戸籍が削除されていました。」
「何?」
「それからネルフ本部の重大な実験と係わり合いがある事が、内偵者の碧南ルイから分かりましたが依然調査中です。」
「調査を続けろ。」
「はい。」
(どこが名前と年齢などだけだ)
榊原が退室した後、耕一は立ち上がり窓から第3新東京市を見た。
(NERVか・・・)
(前身のゲヒルンにユイ君はいたな・・・・)


7月4日(土曜日)A.M.8:12、ドイツ、ネルフ第3支部正面入り口
蒼い目をした美少女は颯爽とゲートを通過した。
暫く通路を進むと研究者が待っていた。
「おはよう」
美少女は研究者にいつもの朝の挨拶を掛けた。
「おはよう、アスカ。」
研究者もいつものように笑みと挨拶をアスカに掛けた。
二人は実験場に向かって歩き始めた。
「日本で遂に始まったらしいわね。」
流石にアスカの耳にも入っていたようだ。
「ああ、昨夜使徒に関するデータが届いたよ、皆データのセットアップの為に徹夜だったよ。」
「加持さんは?」
「ああ、今日は珍しく早く来ていたけど、さっき司令に呼ばれて司令室に行っているよ。」
「今日の実験は何時から?」
「データのセットアップが終わり次第、始めるからそれまで待機していて。」
アスカは研究者と別れ、実験場付属のアスカ専用の更衣室に向かった。
(は〜あ、如何してドイツに初めての使徒が来なかったのかしら、来ていたらこのアタシの見せ場が作れた物を・・)
アスカは更衣室に入りプラグスーツに着替えた。


昼過ぎ、アスカが待機室で御昼御飯を食べていると男性が入って来た。
「加持さんゥ」
アスカは嬉しそうに声を掛けた。
「よう、アスカ。食事中か?」
無精髭を生やし、服装もだらしなさそうなのだが、
「加持さんも一緒にどう?」
「いや、済まん。さっき食べてきたばかりなんだ。」
アスカは残念に思った。
「食べ終わったら実験場に来てくれ、やっと作業が終わったらしい。」
「はーい」
アスカは食事を済ませて実験場に移動した。


その後、簡単な説明を受けた後、エヴァ弐号機に乗り込んだ。
『ではこれより、模擬戦実験を開始する。』
ベルリン市街地に第参使徒が現われた。
「食らえぇぇ!!」
火砲を撃ちまくった、ほぼ全弾が命中し使徒が吹っ飛んだ。
弐号機はソニックグレイブを手に跳躍し一気に使徒に武器を振り下ろし真っ二つにした。
『す、凄い・・・』
研究者達が口々の驚嘆の意を口にしている。
「ま、ざっとこんな物よ。」
アスカが勝利に浸っていると、突然計器が反応していきなり左腕部を光の槍が貫通した。
「なんですって!?」
使徒は体を修復しながら起き上がった。
「どうやら一筋縄では行かないみたいねぇ」
次に敵が攻撃してくる瞬間を狙って光りの槍をかわし、一気に間合いを詰め武器で数回切り裂きコアに対して叩き付けひびを入れた。
敵が弐号機に急接近するとそれをかわした。使徒は横のビルに取り付き変形して自爆した。
「じ、自爆ー!」
『実験終了、御疲れ様。』
(自爆って・・・)


実験終了後、アスカは研究者達の所に行った。
「御苦労様。」
「ありがと、処で、サードチルドレンは初めて乗ってあれを倒したって言うのは本当?」
アスカは缶ジュースを片手に、ガラス越しにコードが無数に繋がっている弐号機を見ながら尋ねた。
「ああ、本当だ。」
研究者は暫く言うのを躊躇ってから言った。
「弐号機は量産機モデル第1号で、正規タイプ。初号機はテストタイプ。だが、単純な戦力だけを見れば初号機の方が上だ、初号機は力が有りすぎて我々の手に余る。その力を扱える所まで落としたのが弐号機とその後の量産タイプ、初号機は暴走してあれを倒しその後中破した。サードチルドレンの力というよりは初号機の力と言った方が良いだろうな・・・。ん?アスカは?」
アスカは話の途中で部屋から出た。
(どうして、アタシの弐号機が・・・じゃ無いの・・・)
アスカが考え事をしながら歩いていると千代田第3支部司令とすれ違った。
「アスカちゃん、」
アスカの母、惣流キョウコと知り合いだった日本人の司令は、いまだに、ちゃん付けでアスカを呼ぶ。
アスカは振り返った。
「何ですか?」
(そう言えば、司令、ドイツ語話せんのかしら?話してる所見た事ないけど)
「ひょっとしたら何だが、君と弐号機は日本に送られることになるかもしれないから、今の内に言っておこうと思ってね。」
「ど、どうしてですか!?」
アスカは半分うろたえながら聞いた。
「もしも、このまま、使徒が日本だけに現われた場合、本部が弐号機をよこせと言って来るかもしれないからね。」
(あれ?使徒は確か未だ1体しか現われていないはずだけど・・・あれ?司令はどこ行ったの?)
司令は何時の間にかいなくなっていた。
(まあ良いか・・・・)
アスカは更衣室に入り着替えを済ました後、正面出口の所で加持が出てくるのを待った。


20分後、加持が出て来た。
「加ー持さん☆」
アスカは加持に飛び付いた。
「なんだ、アスカか、吃驚した。」
「一緒に帰りましょ。」
「ああ、」
二人は帰路についた。


あとがき
果たして耕一が会った少女は誰か、最初はレイの予定でしたが、レイが第2新東京市に行く用事がある筈が無いのでもう一人の少女の方に変更しました。
第3支部司令が日本人若しくは日系人だ〜

次回予告
シンジには、学校には忌まわしき思い出しかなかった。
そして、疎開が続く淋しい学校第3新東京市立第壱中学校への転入、テストで上位を取るシンジ、そして、シンジがパイロットである事がばれ、見世物のように扱われ、そして、黒ジャージを着た少年トウジは、逆恨みでシンジを殴りつける。
シンジは戦う意味を喪失しても、戦場に狩り出される。
そして、自分の作戦のミスを無意識の内にシンジに怒鳴る事で紛らわせたミサト。そして、アンビリカルケーブルが切断し、人類に残された時間は刻一刻と減る。そんな中、初号機の手元にシェルターを抜け出した大馬鹿者二人が・・・命令を無視し、捨て身の攻撃を掛けるシンジ、使徒を倒したシンジに待っていたのは、理不尽な尋問だった。
そして、シンジは心を閉ざし、家出をする。
ススキの野原で、心を解す出来事があったが、ネルフの手によって無へと帰される。
シンジの運命やいかに
次回 第伍話 ささやかな反抗