断罪

◆後編

シンジは日本の第3新東京市、ネルフ本部に戻ってきた。
ケージに降り立つ、
初号機が静かに見下ろしている。
「・・・はっ」
ATフィールドの剣で初号機の装甲版を切り裂き、コアを露出させる。
「くくく、全ての元凶、全ては母さんが始りなんだ」
シンジはコアに手を当て、初号機のコアに干渉を始める。
「・・・・・」
ユイの存在を探る。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「見つけた」
残酷な笑みを浮かべる。
干渉を一気に強めアンチATフィールドを展開し、初号機のコアの中へと手を突き入れる。
手探りでユイの手をつかみ手繰り寄せる。
一気にコアから引きずり出した。
一糸纏わぬ裸のユイがコアから出てきてアンビリカルブリッジ上に落ちた。
「くくくく、」
シンジは残酷な笑い声を漏らした。


どれだけ経ったのか、仮眠室のベッドの上に横たわらせていたユイが目を覚ました。
「・・・ん・・・ここは?」
ユイは軽く首を振りながら上半身を起こす。
「・・母さん、」
シンジの声に振り向く、
「・・シンジ?」
「そうだよ・・・母さん、会いたかったよ」
言葉の裏を感じ取ったのか警戒の表情を浮かべる。
「くくく、母さん、貴女のせいで僕がどんな目にあったか」
「・・・何が・・あったというの?」
「母さんが原因となって引き起こされたことによって地獄を見させられたよ」
「・・・・」
「くくく、そんな顔をしても無駄だよ、」
「・・・私をどうするつもりなの?」
「死んでもらうよ」
「・・・そう、」
その言葉が本気だということがわかる。
どうすれば良いのか、どう言えば良いのか思案をめぐらしているようだ。
「無駄だよ、僕が見た地獄、それを考えれば母さんには死んでもらわなくちゃ僕の気がおさまらない」
「・・・・」
シンジはゆっくりとユイに近付き、首をつかんでそのまま体を宙に持ち上げた。
「ぐっ・・・」
振りほどこうとするが全くの無駄である。
「ねぇ・・母さん、苦しい?」
「あ、が・・」
「ふふふ、でもね、僕が味わった苦しみはこんなもんじゃないんだよ」
更に力を加えていく、
「・・・」
声も出せずにもがき苦しむ。
「くくくくく、」
シンジは左手で支えたまま右の拳でユイの腹を強打した。
ユイの体がくの字に折れ曲がり、わずかに力を緩めると呻き声共に大量の血を吐き出した。
「母さん、どう?苦しい?」
「あ・・し、しん・・じ・・」
又大量の血を吐く。
「命乞い?ふっ、そんなの許さないよ!!!」
ユイの首をはなし、両手で連打を浴びせる。
吹っ飛び壁に叩きつけられる。
骨が砕けるような嫌な音が部屋に響く。
床に落下し再び大量の血を吐く、
「ははは、どう?」
ユイはどこか悲しげな目でシンジを見つめてくる。
「・・・やめろ」
「やめろ・・そんな目は止めろ!!」
シンジはユイをつかみ思い切り壁にむけて投げつけた。
「わああああああ!!!!」
そのまま拳を次々に叩き込む。
骨が砕け肉や骨が飛び散る。


シンジが気づいた時、ユイの体はミンチになって原形を留めていなかった。
「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・」
深呼吸をして、息を落ち着かせる。
「・・・・もう僕を邪魔するものはいない・・・綾波のところにいこう」
シンジは仮眠室を出た。
「いたぞ!!」
「むっ」
武装した兵士達が大勢向かってくる。
「僕の邪魔をするな」
シンジは銃弾をATフィールドで弾きつつ、ATフィールドの弾を作り出して次々に撃つ。
兵士達はUNのマークをつけておりネルフのものではなく、国際連合軍、自衛隊の兵であるようだが、
「ふん、僕の邪魔をすればこうなる。」
辺りは血の川となっている。
「こっちだ!!」
多くの足音が近付いてくる。
「邪魔ものどもめ!」
シンジはATフィールドで剣を作り出し、兵士達に襲い掛かった。
次々に兵士を切り裂く、
わずかな時間でいとも簡単に多くの者を瞬殺した。
「何度も邪魔をされるのはたまらないな・・・ジオフロントを遮断するか、」
発令所に足を向ける。


シンジは発令所に到着するとマギにアクセスした。
「パスワードは・・・」
イメージを手繰る。
「確かこうだったな。」
パスワードを入力し、操作を始める。
「ジオフロントを完全閉鎖、さらに各対人警備レベルを全開、自動排除モード起動」
「本格的な制圧部隊ならともかくこの程度の部隊なら簡単に排除できるだろう。さっさと綾波のところに行こう、」
シンジは中央病院に足を向けた。


途中で警備システムを突破してきた戦自の部隊と出くわした。
「・・・生存者か?」
「君、大丈夫だったか?」
「誰か、彼を」
隊長らしき男が部下に指示を出そうとした時、シンジは手刀で隊長らしき男の首をはねた。
首が床を転がり、首から凄まじい勢いで血が噴出した。
「「「「「な!?」」」」
「き、君いったい!?」
「・・・戦略自衛隊・・・お前らのせいで・・・お前らのせいで・・・」
「ど、どうする?」
「どうするたって!」
「とりあえず、麻酔を」
麻酔銃を取り出そうとした隊員の体をシンジの拳が貫き、絶叫が通路に響き渡る。
「くっ」
隊員がいっせいに銃を構える。
「死ね!」
シンジはATフィールドの弾を打ち出した。
隊員たちは瞬く間に蜂の巣になって吹っ飛んだ。
シンジの拳が体を貫いた隊員がライフルをシンジに向けて放ってきた。
ATフィールドで弾く、
「半死体が、さっさと死ね。」
シンジはATフィールドを叩きつけて圧死させた。


やがて中央病院に到着し通路を進む、
レイの病室の前に到着する。
軽くノックしてから病室に入った。
レイは全身を包帯に包みベッドに横たわっている。
「・・綾波、」
「・・・・・」
レイはゆっくりと目を開き、瞳がシンジの姿を捉えた。
「あ、僕は、」
「碇君、」
シンジが自己紹介しようとしたその言葉を遮ってシンジの名を口にした。
「・・綾波?」
「・・・・碇君・・・」
「綾波!」
シンジは喜びから大きな声を出した。
そして、駆け寄る。
「綾波も戻ってきたんだね!」
レイはゆっくりと頷いた。
「・・ええ、」
「ははは、綾波、二人で生きていけるね、もう僕達を邪魔する奴らはいない!」
ゆっくりと起き上がり、包帯やギプスを外して行く、
「・・・・碇君・・」
「何?」
レイがシンジに抱きついてきた瞬間胸が熱くなった。
「え?」
そして、激痛か襲い掛かってくる。
「・・・碇君・・・」
レイの目から涙が溢れ出す。
「・・え・・・・」
自分の胸を見る。
ロンギヌスの槍に形作られたATフィールドが背中からシンジの体を貫き、更にレイの胸を貫いていた。
「・・・」
「・・・」
「・・・碇君・・貴方は・・・取り返しの・・つかない事を・・・・してしまった・・・」
「・・が・・・」
ATフィールドが完全に中和されSS機関も停止させられている。
「・・貴方は・・・完全に暴走している・・・もう・・止める方法は・・・・これしかない・・」
「・・あ、あや・・なみ・・」
「・・・・・・」
「・・どう・・して・・・」
血の勢いは全く弱まらない。
そして、それはレイの胸から流れる血も、
「・・・・碇君・・・私は、貴方は惹かれていた・・・多分・・・それが・・・好き・・という事なのだったと思う・・・」
「・・・」
「・・・でも・・・」
「・・・・」
「・・・私が・・貴方を止めなくてはいけない・・」
更に涙が次々に零れ落ちる。
「・・・私しか止められない・・・それに・・・もし誰かが止められるとしても・・・碇君を他人の手にかけたくは無い・・・」
「・・・・でも・・・でも・・・貴方は・・・自分の為に・・・自分の復讐の為に多くの人を殺めた・・・皆、貴方のことをどう思っていたのか・・・その一面だけしか見ずに・・・いえ、他の面を否定し、見ようとせずに、例え見たとしてもそれを認めずに、一方的に・・・一方的に虐殺した・・・」
「な・・なにを・・あ、あいつ・・らは!」
「・・・これを・・見て・・・」
次々にイメージが流れ込んでくる。
シンジが見たイメージの裏側、シンジが拒否し否定したイメージ。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
シンジの目から涙が零れた。
「・・・碇君・・・ごめんなさい・・・」
「・・どう・・して・・・」
「もう・・・手遅れ・・・」
「・・そ・・ん・・・・な・・・」
意識が薄らいでいく、
「・・・ごめ・・ん・・・」
シンジの意識は深い闇へと落ちていく、
「・・・碇君!」
レイが涙を流しながらぎゅっと体を抱きしめてくる。
更に近付いた事で、レイの出血の勢いが増す。
もう、シンジは痛みも感じない・・・レイの体の温もりも・・
そして、レイの声もレイの姿も闇へと消えていった。