「リリアン生徒が痴漢に、それで何で花寺が出るんですか?」
怪訝な顔で聞く新任の生徒会長に前任の柏木は手櫛で髪をかき上げながら答えた。
「ふっ、花寺にとってリリアンは姉妹校。
実際に姉妹が通っている生徒も多数いる。
君だってお姉さんが通っているだろ?」
「まあ、一応・・・」
「だったら、もっと心配してもいいんじゃないのか、このまま痴漢をのさばらせておいたら、その内被害にあうのは君のお姉さんかもしれないよ。」
「やります!絶対、痴漢のやつを捕まえて見せましょう!」
姉が痴漢にあう!その事を考えただけで思考回路が飛んだ生徒会長が柏木の提案にのってしまったのは、日頃の激務で頭がうまく回らなかったせいかもしれない。
だが、この瞬間、彼はとんでもない貧乏くじを引いてしまったのだった。
「話は聞かせてもらった。」
突然生徒会室の扉が開くと一人の生徒が生徒会室に入ってきた。
「真田さん!」
「おや真田じゃないか、なんで、こんな所に?」
いきなり入ってきた生徒は3年の真田幸杉だった。
化学部の部長として文化部系の中でも重要な位置を占めているが、得体の知れない所があり、彼の活躍により化学部は影で錬金術部と呼ばれ花寺内のみならず近隣の警察・保健所からも恐れられていた。
彼は怪訝そうな顔を向ける生徒会長に向かって言った。
「こんな事もあろうかと思って、盗聴マイクを仕掛けておいたのが役にたったようだね。」
「仕掛けるなー!」
いけしゃあしゃあという真田に会長は怒鳴るが、まったく意に返さずにつかつかと彼に近づくとその肩を叩いた。
「それはともかく、いたいけなリリアン生徒に痴漢とは許しがたい行為だ。
この真田、全面的に協力するよ。」
「はあ・・・ありがとうございます。」
不安を感じながらも彼はうなずく。
真田が協力するということは文化部の全面協力が得られるという事でけっして悪い事ではない。
「ついては一つ良い考えがあるんだが。」
「はあ、どんな、考えでしょう?」
「ふふふ、」
真田は不気味に笑う。
(やばい!)彼は直感的に危機を感じた。
真田がこんな顔をする時は絶対、よからぬ事、とんでもない事を考えているに決まっているのだ。
「せっかくですが、先輩。
一応この件に関して運動部にも話を通して、皆で協力して事にあたるという事で・・・・」
彼がそう言った途端、真田の表情が不機嫌になる。
「運動部?はっ、あんな頭無し共の意見なんか必要無い!あいつらはこの真田の手駒として動けばいいだけだ!」
真田の変化に彼は己の失敗に気づいた。
(しまった真田先輩は文化部系過激派だった!)
花寺は代々、文科会系と体育会系の折り合いが悪く、その根源は学院設立時の薩摩士族と旧幕臣の仲たがいにまで遡ると言われており、代々に渡っていがみ続けている家もいた。
その為に本当は格闘技で全国大会に出れる程の実力を持ちながらあえて文化会系に入った生徒もいる程で、真田も鹿児島にいる宗主の信繁おじい様から
「決して体育会系に組することはならぬ、いかなる困窮の憂き目にあろうとも文化会系をよく守り、いつの日か体育会系をうちほろぼすのじゃぁ!」
と小さい頃から言われ続けてきた。
そんな真田に運動部と協力してなどと言う事は地雷を踏むに等しい。
「あ、あの、真田せんぱ・・い・・・?」
おずおずという生徒会長に真田は微笑む。
口だけ微笑みながら目は冷たく光っている凄絶な笑みだった。
「ひっ」
彼は思わず後ろに下がった。
怯える会長を見ながら真田はひややかに言った。
「まあ、心配するな全てはこの真田に任せておけ。
我に秘策あり!リリアンの天使達を痴漢どもから完膚なきまでに守ってやるさ。」
そう言った彼は来たとき同様、唐突に去っていった。
「ふう」
真田が去った後、彼は椅子にどさっと腰を下ろし、なんとか逆鱗に触れなかった事にほっとした・・・
がっ、次の瞬間、彼は立ち上がって叫んだ。
「しまった!真田先輩を行かせちゃった!柏木先輩どうして止めてくれなかったんですか?」
彼の叫びに、傍で黙っていた柏木は平然と答える。
「僕は、もう引退した身だからね、そう口出しはしないさ。」
「何を言っているんですか?あの真田先輩ですよ!
どんなとんでも無い事を考えているか・・・」
「いいのかい、そんな事言って。まだマイクは仕掛けられたままだろ?」
柏木の言葉に彼は思わず自分の口を手で押さえた。
そして何処かに仕掛けられている筈のマイクを探そうと部屋の中を右往左往する。
(ふっふっふっ)
柏木はそんな現生徒会長の姿を意味あり気な目で眺めるだけだった。
「あった!」
30分後やっとマイクを探し出した時だった。
突然、校内放送が入る。
(まさか真田先輩!)
「あー、デス、DEATH、ただ今マイクのテストちゅうー」
(良かったーあの声は鳥蔵だ。)
放送の声はアメフト部のエースで2年の鳥蔵だった。
彼は自分の不安が外れた事に安堵した。
と思ったら
「てめーら、リリアンの危機だ!至急中庭に集合しろ!」
「げっ」
花寺だけでなく近隣一体に響いた鳥蔵のどら声に彼はうめいた。
(そうだ鳥蔵は"リリアンの為なら死ねる"三羽烏の一人だった!)
リリアンに従姉妹がいるという鳥蔵のリリアンに対する熱狂振りは知る人ぞ知る、知らない人には知られたくない花寺の名物だった。
その鳥蔵がリリアン生徒が痴漢にあったなんて事を知らされ、ただでいる訳がない。
(真田先輩めー)
「とにかく先輩を止めないとっ!」
中庭に向かおうと椅子から立ち上がり、生徒会室を出ようとした生徒会長は突然後ろから抱きしめられた。
「何!?」
彼に抱きついたのは柏木だった。その目は異様な色に光っている。
「ふふふ、やっと二人きりになれたね。」
「何を柏木先輩!今はこんな事をしている暇じゃないでしょ!?」
狼狽する会長に柏木は答える。
「ところが、僕にはあるんだな。」
「えっ」
「前々から二人っきりになる機会を狙っていたのに君ときたら警戒が厳しくて、今日だってせっかく君が一人でいる所を狙って来たのに、何かあったらすぐ助けを呼べるように窓を開け放ったりするのだからね。」
「ちょっと、先輩まさか?」
「・・ふっ、さすが真田だ。学院中に溢れる生徒を、ああも簡単に生徒会室から遠ざけてしまうなんて。」
「ひげっ!」
「ふふ、さあ、もう邪魔は入らないよ。二人で甘い夢を分かち合おう!」
「はかったな、さなだー!!」
それから30分後、激闘の末になんとか柏木の魔手から逃れた時には、すでに全ての花寺男子が集結していた。
そして彼等が身につけているのはいつもの花寺の詰襟ではなかった。
それは深い色をしたハイウエストの膝下スカートだった。
「なんじゃ、こりゃー!????」
中庭に集まった花寺男子は全員リリアンの制服を着ていたのだった。
呆然と立ちすくむ生徒会長の後ろから声がした。
「どうだい生徒会長、我が策は?」
「真田さん、あんたの仕業かー!?」
血相を変えて振り返る先には満足気に微笑む真田がいた。
「その通り!
痴漢どももまさか実際のリリアン生徒を遥かに越える囮が混じっているとは思いつくまい。
これぞ天を瞞き、海を渡る
用心深い敵をその創造を遥かに上回る術にて攻める計!」
「創造越え過ぎじゃーッ!
てかっ、あんたこんなんで本当にあざむいているつもりなのか?」
生徒会長の問いかけに真田は何の疑いもなく答えた。
「もちろん!どうだい、まるでリリアン女学園が越してきたようではないか?」
「あんた、脳みそと目が腐ってる・・・」
「こんなこともあろうかと実家の縫製工場でリリアンの制服を花寺全生徒分用意しておいたのが役に立ったようだね。」
「こんなこともで、一千以上の制服を作るなー!」
生徒会長の絶叫も何処吹く風で真田は高らかに叫んだ。
「ふっ、真田は日の本一の裁縫家よ!制服の千や二千なんて事もないわ!」
中庭には運動部系・文科部系・帰宅部等すべての生徒が集結していた。
中には一度下校していたが放送を聴いて戻ってきた者。
クラスメートからの連絡で来た者、更に病気の為自宅で養生していたがクラスメートからの連絡で39度の熱をものともせず駆けつけた者もいた。
その彼ら全員がリリアンの制服を身に着けていた。
更に放送を聞きつけた他校の学生たちも続々と駆けつけ協力を申し出たのだった。
さすがに彼らの分まで制服が無かったのは幸いと言うべきか。
数千人となった「リリアン女学園、を汚す痴漢どもをこの世から抹殺し隊」を演説台から見下ろしているのは鳥蔵だった。
クオータバックとして一度タックルをかませばサンドバック3本を支えの生徒もろとも吹き飛ばすという彼ももちろんセーラー服だった。
捲くられた袖からは業務用ボンレスハムのようなぶっとい腕が剥き出ている、襟を止めるタイの下の筋肉は、はちきれんばかりに盛り上がっていた。
クールカットの短髪には必要もないのにヘアバンドがはめられている。
スカートの裾を振り乱し大きく踏ん張った彼は丹田に息をこめ怒声を上げた。
「リリアンとはっ?」
「菩薩!!」
花寺男子は一糸乱れる事の無く返す。
その大音響は遠く市谷駐屯基地まで届き危うくスクランブルがかかる所だったという。
掛け声の応酬は続く。
「手前らはっ?」
「下僕(いぬ)!!」
「死ぬ覚悟はっ?」
「すでに死道に在りっ!!」
「殺せるかっ?」
「仏すらもっ!」
「刺されたらっ?」
「生きながら焼かれる痛みっ!」
「斬られたらっ?」
「生きながら凍れる苦しみっ!!」
「怖くはないかっ?」
「笑止っ!」
「飢えたらっ?」
「蛆すら食らうっ!!」
「乾いたら!!」
「とばりすら飲むっ!!」
「兵は駒っ!」
「その命、虫より軽きっ!」
「大儀は詭弁っ!」
「元より承知っ!我ら天道に憎まれし者!!」
「よーし、
怯える子、心残す人、皆、陣を降りて後ろに在れ!!
臨む兵!、闘う者!皆、陣に列して前に在れ!
出陣!」
「応!!」
一斉に隊列して進みだした花寺男子一千騎(リリアンの制服装備)、及び他校からの応援数百人。
その中で生徒会長だけが唯一状況が分からずにいた。
(ここは何処?こいつらは何?)
そんな彼を真田と駆けつけた柏木が声をかける。
「まあ会長は生徒会室で吉報を待っていればいいさ。」
「そうそう、大将はどっしり構えていないと。」
のうのうと言う二人に彼は悲痛な叫びを上げた。
「オレが、責任者なのかー!?」
「ごきげんよう!」
「ごきげんようっす!」
「ようっす!」
「ごっす!!」
野太い行軍の挨拶が、淀んだ曇天に響く。
武蔵野一帯の各路線に散った野郎どもは、獄卒のような殺気ばった目つきで改札口をくぐり抜けていく。
恐れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツから覗くすね毛だらけの脚で、白いセーラーカラーの下のはちきれんばかりの筋肉で、どっしりと歩くのが彼らの流儀。
もちろん、人目を恥じて顔を隠すなどといった、常識的な生徒は存在しない。(存在しろ!!)
私立リリアン女学園、を汚す痴漢どもをこの世から抹殺し隊
34分前に設立されたこの自警団は、リリアンの天使たちの為ならば親も教師も仏すら殺す、筋金入りの大莫迦者どもである。
その日、リリアンに通じる各路線一体は異様な雰囲気に包まれた。
身長2mのリリアン生徒、体重100kgのリリアン生徒、腕周り50センチのリリアン・・・・
あまりの事態に多数の失神者が出て(その多くは当のリリアン女学園の生徒だった)
硬直して動けなくなるものや、あまりの衝撃にめがねを割る者、心臓発作を起こして病院に担ぎこまれる者まで出た。
警察への通報数千件、中には首相官邸に電話して治安活動の為自衛隊を呼べ!という者までいた程だった。
1000人以上のリリアンコスの男子生徒、異様な光景にまともな人間ならば行動を潜めるというのが常識というものだろう。
だが、自分の欲望の為に他人の苦痛を省みない痴漢たちに常識は通用しない。
それが彼らにとって命とりとなった。
その男は自分は決して悪い事をしていないと思い込んでいた。
新聞や雑誌なんかではもっと自分なんかよりずっと悪質な痴漢の記事が載っている、それに比べたら自分なんかはちょっと触って、困る女の子の顔を見たいというだけで可愛いものだ。
自分は触るだけで、決してスカートをめくったり、下着の中に手を入れたりしない。
それだけで自分は他の痴漢より悪くはないと思い込み、何の躊躇もなく痴漢を続けていた・・・地獄が待っているとも知らずに・・・
混雑した車内、その日普段と違って異様な雰囲気に包まれているにもかかわらず、彼は獲物を物色するのに夢中で、それ以外のおぞましい存在を完全に意識外に置いていた。
(うーん、どの子にしようかな?あの子は?ちょっと、背が高いな。あっちの子は?なんだよ、リリアンの癖に髪の色が薄いんだよ・・・)
自分勝手な選り好みをしながら女の子を探す彼の目に一人の子が止まった。
みつ網お下げの髪にメガネをかけた子で外見から見ても大人しそうであるが、何よりも痴漢の目を引いたのはその手に持っている本だった。
その子はカバーのかかったその本を誰にも見えない様に細く開いている。
どうみても中身を伺えないにも関わらず、それでも誰かに見られる事を怖がっているような臆病な女の子。
(しめた!こんな子なら絶対さわがないぞ)
心の中で舌なめずりした痴漢は目標にした子に密かに近寄ると、軽く2・3度手の甲をその子の体に触れた。
それで相手が反応しないと見た彼は大胆に触り始めた・・・
その時。
「やっぱり、かかると思っていた。以前姉さんから聞いた狙われやすいタイプの子の話が役に立った。」
女の子にしては低すぎる声がした。
そのお下げの子はリリアンの女生徒では無かった。
リリアンの制服に身を包んだ花寺男子。
1年の愛州忠久だった。
一見、女の子と見間違う程のカワイイ系でいながら、実は日本でも3本指に入る武術の宗家の生まれで、本人も指先一つで自分の倍以上の相手を失神させる程の腕前を持っている。
相手の様子がただ事でない事に気づいた痴漢はあわてて弁解しようとしたが愛州は冷徹な声で言う。
「言い訳なら聞かないよ。こっちは証拠なんていらないんだから。」
そして愛州のスナップを利かせた手首が痴漢の腹のやや上の所を打つ
「うごっ・・・」
痴漢がうめく
傍目には漫才のつっこみの様に軽く手が当たっただけのようだが、実は彼の手の甲は痴漢のみぞおちにのめり込み、内臓にえぐるような衝撃を与えていた。
いわゆる空手の専門用語でいう所の
「わりい、つい、入れちゃった」という奴である。
不意をつかれ、これをやられた時の痛みときたら金的を10悶絶とするなら軽くても7悶絶と言った所で、愛州なら8.9悶の激痛。
更にかれはこの攻撃を様々なバリエーションで行う事によって、金的を遥かに凌駕する悶絶を相手に与える事ができた。
特に足で行うそれは十六悶詰苦(キック)と呼ばれ彼の一族に代々伝わる秘術の一つだった。
「簡単には逝かせないよ」
その時痴漢は伊達メガネの奥に容赦の無い光を見た。
・
・
・
・
・
次に扉が開いた時、大勢の乗客が降りた後に一人の男が倒れていた。
彼の表情は地獄の責め苦を受けたがごとく歪んでいた。
痴漢討伐は続く。
別の車両で、扉近くにいたツインテールの子を触った痴漢は、次の瞬間
「てっめえが、連続強姦魔か!」
突然、触った子に叫ばれるとボデイへのラッシュを受けた。
痴漢はその子よりはるかに大柄だったが、人が密集した狭い車内ではそれは不利でしかない。
問答無用の攻撃にさらされた瞬間、駅についた電車の扉が開いた。
痴漢は必死の思いで扉から逃げ出した。
「ひっ!」
だが、そこには応援に駆けつけた他校の学生たちがいた。
更に先ほどの小柄な子とその他大勢のリリアンの制服を着た男どもが痴漢に迫る。
(つかまったら殺される)
そう思った痴漢は線路に飛び降りて逃げ出したが、追っ手の学生たちも一斉にホームから降りて前後を塞ぐ。
線路の脇は急な斜面になっていてその先は川になっているが、それまでに看板やら電線など様々な障害物があり飛び降りたらただでは済みそうに無い。
(ままよ)
迫りくる学生に正常な判断力を失った痴漢は線路脇に飛び降り、そのまま垂直に近い斜面を転がり落ちた。
「ぐえっ」
猛烈な回転で痴漢は斜面を転がる。
「しまった」
追っ手の足が鈍る。
彼らのいる場所から痴漢の逃げた場所まで10mは高さがある。
さしもの花寺メンズも二の足を踏んだ・・・と思いきや。
「おらー!」
一人が飛んだ。
「まさか」
その場にいた全員が固唾を呑んだ。
彼は、10mの高さをものとせず、スカートをはいていることさえ気にせずに、痴漢めがけて一気に飛び降りたのだった。
そして
メリッ
彼のキックは見事痴漢を捕らえた。
「てめえかっ!てめえが、祐巳を狙っているという連続強姦魔は!!」
失神した痴漢に馬乗りになって猛烈なラッシュをかけているのは、柏木に色々なことを吹き込まれ見境の無くなった福沢祐麒だった。
「おい、今飛び降りたの誰だ?」
周りで見ていた上級生が誰彼ともなく尋ねた。
「一年の福沢だよ、福沢祐麒!」
誰からともなく答える。
「ユキチか!あの柏木さんが目をかけている。」
「確かに!柏木先輩が目をかけるだけの事はある!」
「ああ」
上級生たちは声をそろえて言った。
「なんてかわいいんだ(×10)」
「それに、きれいな脚をしている。」
「とってもスベスベ。」
「うーん、おのこ萌!」
その日以来、ユキチは生徒達から(色々な意味で)注目されることになった。
生徒会室には各地に散った生徒たちからの吉報(悲報?)が続々と入って来ていた。
スピーカーと放送用マイクにつないだ携帯からの連絡を聞いているのは真田と柏木それに生徒会長だった。
「こちら三鷹第三師団!目標捕捉!ただちに攻撃に移ります!」
生徒からの連絡に生徒会長は血相を変えて叫んだ。
「ちょっと、待てー!警察に突き出すだけでいいんだー!」
彼の言葉もむなしくスピーカーの向こう側からは殴!とか轟!とかオラオラ!とかアタタタアァッ!とかのわめき声が響き渡る。
なぜか獣の咆哮に刃槍のぶつかり合う音、更に馬のいななきまでもした。
「おい!いったいそこには何が居るんだ?」
悲壮な声で尋ねる彼に隣に立っていた真田が答える。
「こんな事もあろうかと統道学園と南陽学院、ついでにクロ高にも応援をお願いしていたんですよ。」
得意げに話す真田の言葉の合間に、かすかに男の断末魔の悲鳴が聞こえた。
その後も各地から続々と報告が寄せられた。
その報告を聞くたびに生徒会長の顔は青ざめ、蒼白になっていく。
「こちら秋葉原(痴漢どもを)お掃除し隊。
目標は電気店に逃走、ただちにいぶり出しにかけます!」
「ちょっと待て!何をする気だ?」
「ご安心を」
電話の向こうの声が平然と答える。
「死者は出しませんから。」
「まてーっ!」
彼の必死の叫びにも関わらず通話は切れてしまった。
その後も続く報告に彼は脂汗を流し、震えた。
その瞳からは大粒の涙が溢れ出していた。
そして、報告がついに100を越えた時、彼は天を仰いだまま絶叫した。
「もうっ!いやっ!こんな生活ー!」
・
・
・
数日後、生徒会長は失踪・・・いや転校してしまった。
あまりにも急な生徒会長の転校と、その後のなり手が居なかった為、一先ずは前任の柏木に生徒会長を務めて貰い、卒業するまでの間に次の生徒会長になるべき人材を探そうという事になった。
その頃福沢祐麒は親友の小林と共にのんきに会話をしていた。
「だけど、幾ら時間をかけても無理だと思うなー。
だってあの柏木先輩の後だぜ。
なまじっか完璧に抑えられてきただけにあの人が卒業した後の反動がこわいよなー。
そんなのになる人間いないって、なあユキチ?」
「ああ、どっちにしろ俺達1年には関係ない話だけどね。」
「わからないぞー!2年が全員嫌がって、1年にお鉢が回ってくるかも?
ユキチなんか危ないんじゃないかー?
お前、あの事件以来妙に先輩たちに気にいられてるもんなー。」
「あれは、柏木先輩が、祐巳が危ないって・・・・とにかくっ、やめてくれよ冗談じゃない!」
その頃柏木は教師たちや生徒会の主な役員たちと話をしていた。
「・・・では柏木くんは、次の生徒会長候補として福沢祐麒くんを推薦するというのかね?」
教師の問いかけに柏木は答えた。
「その通りです。
時には無茶とも思える蛮勇を奮うことも生徒会長には必要なのです。
実際あの件以来彼は生徒たちから注目される存在となりました。
次の生徒会長としてふさわしい人物だと僕は思います。」
「でもユキチはまだ一年なんだね。」「早すぎると思うんだね?」
薬師寺たちが聞く。
「その点は君たちがお目付け役として彼をサポートしてくれればいい。」
「わかったね。」「ただ見ていればいいんだね。」
双子がうなづいた後、柏木はその場にいた全員に宣言した。
「ご心配なく、ユキチのことは僕が卒業するまで面倒みます。
僕が教育して、立派な生徒会長にしてみせますよ。」
柏木の言葉に厳格な教師もうなづいた。
「結構、君はなんと言っても見事に生徒達を抑えた実績がある。
その言葉を信じよう。」
「ありがとうございます。ついては一つお願いがあるのですが。」
「何だね?」
「現在の生徒会室の位置あれを移動して貰いたいのです。そうですね一階洗面所脇の空き教室なんかどうでしょう?」
「今の位置では何か不都合が?」
「ええ、今の位置はあまりにも目立つ場所にあります。
開かれた生徒会としてはいいかもしれませんが、学院内の重要な事柄を決める時に隣の教室から丸聞こえではどうかと・・・
あそこなら奥まった所にあるだけに多少声を上げても外には聞こない筈です。」
「君が必要だというなら手配しよう。」
「ありがとうございます。」
頭を下げた柏木は不敵に微笑むのだった。
(大学推薦がほぼ決まって退屈だと思っていたが、これで卒業までの暇つぶしができた。
待って居ろよ、ユキチ!明日から僕がたっぷりと個人授業をしてやるぞー!)
・・・その後、痴漢撃退(をしようとする漢たち)対策の為、山百合会の幹部メンバーたちの呼びかけで、リリアンの生徒は示し合わせて、後ろから2両目に固まって乗車するようになったという。
あとがき
どうも、ユッケです。
今回の話は「マリア様がみてる」一巻のP169に「〜3年のこの時期に生徒会長なんかやってられるし〜」という記述があり、その時に何かしら特殊な事情で柏木は普通よりも長く生徒会長を勤めているのではないか?と思いこんだのが、元になっています。
プラス、上級生を飛び越えてなぜ祐麒くんが生徒会長になったのか、その疑問を自分なりに考えた結果が・・・・・・
・・・・・・・・・なんで、こうなるっ!?
今回の話に更にサブタイトルをつけるとしたら「ドキ!男だらけのリリアン女学園(以下省略)!チラリもあるかも?」でしょうか。
あー、考えたら今までの三作品すべて男だらけで、女の子がまったく出ていない。
マリみてのSSとして、どうなんでしょう?
EVAのファンでマリみてを読んだ事の無い人がこのSSを先に読んでしまいあらぬ誤解を抱いてしまったらどうしようか?(と後書きで思っても遅い)
原作のような清らかさは無理としてもせめて「一騎当千」や「天上天下」位に女っ気を出せないものかな?
いっそうの事、作中に出てきた心臓発作の子というのは某山百合会幹部のY・Sさんで、彼女は、薄れ行く意識の中で「あんなものを見納めに死にたくない」と思ったことがきっかけで心臓の手術をする決心をしたという事にし・・・・"
(突然乱入してきたリリアン〜(中略)〜抹殺し隊の攻撃を受け作者死亡)
黄薔薇放送局 番外編
YS 「何なのよ、これは!」
令 「まぁまぁ、由乃、落ち着いて……」
由乃 「これが落ち着いていられるっての、令ちゃん!?」
江利子「まぁ、そのおかげでここまで元気になったのだから良いんじゃないのぉ〜」
由乃 「黄薔薇さま、そういう言い方は無いんじゃありません!」
江利子「あら、由乃ちゃん♪……」
……
……
乃梨子「令さまにとっては、以前の由乃さまのままの方が良かったですかね?」
令 「そんなこと無いよ。体の心配しなくてもいい、それだけで私は十分
まぁ、少しは静かにして欲しいときもなくはないけどねぇ〜(苦笑)」
乃梨子「けなげですねぇ……」
令 「ま、私のことはいいじゃない。 ゲストとして祐巳ちゃんの弟さんが来るんだって?」
乃梨子「いえ、それが家から出てこれないそうで」
令 「なんでまた?」
乃梨子「祐巳さまがショックで引きこもられてしまったようで……」
令 「(汗)」
乃梨子「まぁ、弟さんのあのような姿を見れば無理もないかもしれませんが……」
令 「乃梨子ちゃんは冷静そうだね」
乃梨子「トンでもありません、お姉さまに比べたら……」
令 「志摩子がどうかしたの?」
乃梨子「一緒に歩いていてあの集団を見かけたのですが……
『あら、楽しそうね(笑)』ですよ…… 志摩子さん訳わかんないよ……」
令 「(滝汗)」
……
……
祐麒 「祐巳〜、頼むから部屋から出てきてくれよ〜」
祐巳 「……あんな祐麒は嘘、あんな祐麒は夢、この世界は幻……」
祐麒 「祐巳〜(泣)」