いばらの森・・・だと思う

其の一

 リリアン女学園で、作者不詳の自伝的小説が話題になった。
作者が佐藤聖であるという噂を心配した祐巳と共に、話題の本「いばらのもり」を買った祥子
その話は・・・・

容姿端麗、成績優秀、品行奔放で、学園中の子羊たちのアイドルであるセイさまが、ふとしたきっかけで出会ったユミちゃんとあ〜んなことや、こ〜んなことをしまくった挙句、最後は、二人の中を嫉妬した世間知らずで、好き嫌いが激しく、わがままでヒステリーなお姉さまに、見事ロザリオ返しをさせ二人は末永く結ばれる・・・
・・・という内容だった。

「・・・・・・・そう、聖さま殺る気なのね・・・・・・」
本を閉じた祥子は不気味に微笑むのだった。




其の二

 聖様の小説執筆の疑惑が、一応は晴れた後も、由乃は執筆者の正体を確かめようと宮廷社に電話をしたが、結局は、やんわりとかわされてしまった。
「電話じゃ、らち明かないわ。編集部に行きましょ」
「えーーーーーーー!?」

午後三時過ぎ。
由乃・祐巳・令の三人は、三様の面もちで宮廷社の前に立っていた。
 先頭切って受付に行く由乃さんとそれに連いて行く祐巳、浮かない顔でうつむき気味にとぼとぼとついて行く令
多分、約束がないからと断られるかと思っていたが・・・・
「OK、OK、令くんならいつでOK!むしろぜひ来てちょうだいってもんだよ」
妙に愛想のいいお兄さんが簡単に編集部に通してくれた。

・・・・十分後
由乃は、編集部のお姉さんの話を聞きながら引きつった笑顔を浮かべていた。
「へえ、そうですか、れいちゃ・・・いえ、支倉先輩はそんなにもててるんですか?」
強張った笑顔を浮かべる由乃をよそに、編集のお姉さんはわざわざ令の隣に座り、浮ついた様子で喋る。
「そりゃあ、これだけ美人さんで優しくて、おまけにお料理上手とくれば、同好のファンの子だけでなく、先生方だって放って置かないわよ♪特にS先生とかM先生とかものすごい入れようで、サイン会で逆に花束をあげるくらいよ」
もちろん私たちだって、とお姉さんは、必要以上に令に擦り寄る。
「へえ、そうですか、そうですよね、支倉先輩はリリアンでも、そりゃあもてて、もてて、もてて、もてて、もてて、もてて・・・・・すごーーーーーーーく大変ですもの(ミシ)」
由乃は編集のお姉さんの話を表面上は、あいそよく聞いているものの、背中からかもし出される雰囲気は決して穏やかなものでは無く、祐巳や令を無言の内に脅かしていた。
しかし編集のお姉さんの方は、あいかわらず浮ついた様子で令にスリスリしながら、イベントでの令のもてっぷりをうれしそうに暴露する。
「・・・・この間のイベントでは、握手だけでなくお姫様だっこまで・・・」
「まあっ、支倉先輩ったら♪」(ミシッ)
「・・・・そういえば、先週のサイン会では、なんとほっぺに・・・」
「あれー、その日は、知り合いのやっている虎の道場ってのに行っていた筈なんですが・・・」(ミシミシ)
ものすごい稽古だったらしくて、頬にあざ作って帰ってきたのにね、と由乃は口だけで笑った。
 軽い口調とはうらはらに、彼女が手にした湯のみ茶碗は、軋んだ音を立てていた。
そのミシミシという破壊寸前の音を聞きながら令は思った。
(ああ・・・いばらの森だ・・・・) 合掌



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  −こんな思いをするくらいなら、二度と他人を求めたりはしない。

「まあ、向こうから来る分にはかまわないけどね、うふ♪」
「へえ、それがあなたの本音なの・・・・」
「げっ!よ、蓉子!」
突然現れた彼女にうろたえる聖の前で、蓉子は手にしたものを抜いた
「なっ!なんなのその手に持っている日本刀は?まさか、本気っ?」
「安心して聖」
蓉子はにっこりと微笑んだ後、続けて言った
「これ虎徹だから、いくら斬っても刃こぼれしないわっ!」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

17の冬。
私は身を切られるほどの、つらい・・・を経験した。
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其の三

 他人に対してほとんど関心を示さない私が、どうしたことか久保栞という一学年下のこの少女について、突然無性に知りたくなった。
私はいろいろなことを不躾に質問した。
最初、栞は戸惑っていたようだった。だが私の言動が単なる興味本位によるもので、攻撃性などないことがわかったのか、一つ一つの質問に丁寧に答えを返してくれた。

こちらから一方的な質問ばかりをして、自分については何も話していないのに気がついた私はひとまず自己紹介をしようとした
「そうだわ。私の名は-------」
「存じています。あなたが新聞部のホープ、築山三奈子さんなのね」
「ちが〜うっ!」




其の四

・・・私たちが親しくなったことで、誰かに迷惑をかけたことなどない。
少なくとも、私は栞とつき合うようになってから、彼女の影で授業に出るようになったし・・・・・・・

「佐藤さん」
「はい、先生。なんでしょう?」
「なんでしょうじゃないでしょう!ここは一年松組、あなたは2年生でしょっ!」
「いえっ、私はかまいませんので、どうかお気遣いなくっ」


・・・・・私は、栞を汚したくはなかった。二人の関係を汚い目にさらされなくはなかった・・・

「しおり〜!お願いだから、そんな格好やめて〜〜!」
「でも、水泳の授業だから・・・・」
「やだい、やだぃっ!栞の肌を皆の前にさらすなんて絶対、やだー!」
「聖・・・・」
プールで私が、だだをコネていると、騒ぎを聞いて来たのか体育の先生が困ったような顔をして栞に言った。
「仕方がないわ。久保さん、今日はとりあえず欠席しなさい。」
「でも・・・・」栞は申し訳なさそうな顔をした
「その代わり、夏休みに補習をしてあげるから」苦笑気味に言う先生に栞は頭を下げる
「すみません」

 私たちが親しくなったことで、誰かに迷惑をかけたことなどない・・・・・たぶん




其の五

成績の落ちた私は母と共に学校から呼び出しを受けた。
私の担任教諭は、責任逃れの為に母を脅しつつも、私を誉め上げ、その代わりに栞を痛烈に批判した。
「もちろんですとも、お母さん。佐藤はもともとは模範的な生徒です。
超白薔薇子の妹であり、水野や鳥居他、優等生の友達を多く持ち、クラスでの人望もあつい、来年度の生徒会をまとめていける優秀な生徒なんです!
今回の事の元凶は、すべてあの久保栞のせいなんです!」
担任教師のあまりの物言いに私は思わずヒステリックに叫んだ。
「違います!江利子とは天敵です!」
・・・・・・・・・・・



其の六

 このままでは引き裂かれると思った私たちはどこかに逃げようと約束した。
そして一旦家に戻った私は、最低限の荷物だけを持って待ち合わせの場所のM駅の3・4番線ホームへ行った。
栞はまだ来ていなかったが、待つ時間は苦にならなかった。むしろ、私はその時間を楽しんでいた。

「まずいける所までいったらホテルをとって(ムフーッ♪)
うーん、やっぱりひなびた民宿あたりが雰囲気かな、まてよ栞が意外に大声だすタイプだったらどうしよう?
やっぱりラブホかなー
う〜ん、初めてがラブホってのはやだな〜
けど、きちんとしたホテルに泊まれる程お金ないし・・・・
いいや!とりあえず目についた所へGO〜!
うふ、はやく栞こないかなー♪
栞ってぇ、どんな下着つけているかなー、やっぱり清楚な純白系かなー(えへへ)
いや、もしかしたら思いっきり派手な勝負モンだったりしてー♪
あーん、どうしよう?私は何をつければいいの?(ぐふふ〜♪)」

 その頃、栞は幸せそうな聖の横顔を遠くから見つめて、やっぱり一緒に行けないと思い悩んでいた・・・



其の七

「本当にいいの、後悔しない?」新幹線に乗り込もうとした栞に蓉子は尋ねる。
それまで何かに耐える様に自分の両肩を震わせていた栞が、突然キッと蓉子の方を睨むと吐き出すように言う。
「後悔なんて・・・・するに決まっているわ!」
そしてうずくまる様に自分の肩をかき抱く栞に、蓉子は自分はなんてバカな事を聞いてしまったのか悟った。
「・・・・本当は一緒に行きたい、だけど駄目なの!例えどんなに思っていても、私は・・・・・」
栞の言葉に、蓉子はなぜか罪悪感を覚えた。
やがて時間が来て、栞を乗せた新幹線が発車し、視線から見えなくなった後、蓉子はつぶやいた
「ごめんなさい・・・」
なぜ、そんな事を言うの、蓉子。と彼女は心の中に問いかけた

・・そしてなぜっ?
一人駅の片隅で拳を振り上げ、ガッツポーズをするのだ、自分。と彼女は心の中につっこみを入れていた・・・・・・・





其の八

暗闇を突き抜ける新幹線の中、栞はその身を抱えるように、ずっと小さくなっていた。
冷え切った車内が暖房によって温かみを取り戻した時、彼女は初めて顔を上げた。
曇りがかった窓ガラスの向こう、そこには凍てついた冬の街がある。
聖はこの寒さの中、あの3・4番ホームで今でも自分の事を待っているのだろうか?
その姿を思うだけで、電車を飛び降りてでも彼女の元に戻りたい衝動に駆られる・・・・
・・・しかし、たとえどんなに聖の事を思っていても、彼女と共には行けないのだ
もし彼女と共に行くとしたら、その行く先は・・・・・
(ごめんなさい聖・・・・・)
栞は心の中で懺悔をする。
(あなたと一緒に行きたかった、その気持ちは今でも変わらない・・・・だけど、だめなの・・・・)
その想いは、栞の口から実際の言葉として吐き出された。
「長崎育ちの私に、大月・甲府方面はきつすぎるのよーーーーーーーーーー!」
・・・・・・・・・
そして彼女は替えのババシャツとモモヒキを入れたバックを引き寄せた。




其の九

「・・・という訳で聖さんは私の家でお預かりします。
大丈夫です、大事な大事な妹ですもの、たーーーーーぷり責任をもって預かりますわ♪」
聖の家に電話して泊まりの許可を貰った白薔薇様は電話機を置いた。
「OKよ」彼女は側で待っていた蓉子にサインを送る。
「よかった」そういいながら蓉子は思った
(これで、残る障害は白薔薇様だけね!)
 
 そして白薔薇様も・・・。
(二人一緒なんてひさしぶりだわー♪うふっ、どっちからいただこうかしら♪)

二人はお互いの顔を見て、「フフフ・・・」と意味ありげな笑いを交わした・・・




其の十

そして・・・・
「おねえさま!」
姉に抱きついた彼女は、何年ぶりかに人前で涙を見せた
「ごめんなさい、ごめんなさい!お姉さま!(ヒック)・・・・
あのね、あのね、いつまでたっても、来ないし・・・周りの視線はきつくなるし・・・・
女の人達から、『きっと振られたんだわ、かわいそうーー』な目で見られるし・・・・
隣の人たちは、『うわっ、あの女、一人で3人前、平らげてるよ!』って言われるし〜〜〜
お金は全然足りないし〜〜家に電話したら絶対大騒動になると決まっているし〜
もうーーー!お姉さましか頼れなかったんです〜〜〜〜!」
そう言いながら自分の胸で泣きじゃくる彼女を、姉は愛おし気に撫でて言った。
「バカね、すぐに電話してくれれば良かったのに・・・・」
「だって、だって・・・もう夜中だったし・・・」
「夜中だろうが、外国だろうが、あなたの為ならすぐに駆けつけるわよ。
だって、私は江利子の姉なんだもの!
お父さんやお兄さんたちよりもずっとあなたの事を思っているわ。
もちろん令ちゃんよりもずーーーーーーーーーーーーーとね」
「あーん、おねえさまー!」
「ああ、よしよし、もう大丈夫よ。」
そして黄薔薇様は、ファミレスに一人取り残されていた江利子を慰めた。






其のついで

 ファミレスからの帰り道、お姉さまに肩を抱かれとぼとぼと歩く私は、普段では考えられない程、弱気になっていた
「・・お姉さま、申し訳ありません・・・ご迷惑をおかけして・・・」
うつむきながら言う私にお姉さまは、笑顔で微笑んでくれた
「江利子ったら、もう気にしないでって言ったでしょ」
お姉さまの笑顔は、あまりにも明るくまっすぐで、それが私には逆につらく感じられた
「でも、お姉さまは、なんでもそつなくこなす私が好きだって・・・・」
「あなた、まさか本気で、私があなたの能力だけを愛していると思ってないでしょうね」
私はお姉さまの言葉に驚いて、一瞬涙が引っ込んだ。
「・・・・・・・・違うんですか」
「愚鈍ね。あれはあなたにプレッシャーを与えるための方便よ。私はあなたのからかい方がうまいの、よーく知っているでしょ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そうでした」

それから卒業式までの私とお姉さまの壮絶な張り合いは、「黄薔薇動乱」として後々までのヒミツ★となった。


三月
「いいこと江利子、あなたは冷めやすいタイプだから、面白いと思ったことができたら、自分から思いっきり飛び込みなさい」
それがお姉さまの最後のアドバイスだった。お姉さまは四月から別世界に行くことになっている、なにか面白い事があっても、もう張り合うことはできない。
「私、お姉さまにやられるだけやられて、何も仕返しできないままで・・・・・」
「いいのよ、それがお姉さまの貫禄というものだから。もし仕返しする気持ちがあるなら、別の誰かに返してちょうだい。−そうね、あなたの未来の孫にでも」
「そんな!孫になんて・・・・・・」
私とお姉さまは満開の夜桜の花のように怪しげにほほえんだ。
一月後に訪れるであろう夢のような風景を待ちきれなくて、私は桜の木の向こうの中等部を見定めた。


あとがき

 すみませんユッケです。前回に引き続またまた小ネタ集です。
 すみません、前回とは関連も脈略もなく「いばらの森」からです。
 すみません「いばらの森」がいつの間にか「黄薔薇の森」にチェンジしてしまいました。
 すみません またキャラを壊しまくりました
 すみません、特に栞さんには、せめて一言・・・・
「文句があるなら原作へいらっしゃ(轢!!

黄薔薇放送局 番外編

由乃 「……つまり私がこんなにもてあそばれている元凶は先々代にある、と」
令  「よ、由乃、何いきなり立ち上がっているのよ! おまけにその右手に持っているものなに!?」
由乃 「手を離して、令ちゃん。私は行かなきゃいけないの!」
令  「そんな物騒なものを持った由乃を離せるわけがないじゃない! お願い、考え直して!」
由乃 「えぇい、手を離せ! 斬らねばならぬ相手がいるのよぉ〜!」
令  「(振り払われる)あぅ!」
由乃 「ふっふっふ、邪魔者はいなくなった。さぁ覚悟しなさい先々代!」
○○○「誰が覚悟するの?」
由乃 「(私の背後から!?) なにやつ!?」
江利子「なにやつとはご挨拶ね、由乃ちゃん」
由乃 「ふっ、江利子さまでしたか。
	今日はあなたには用はないのです、そこをどいてください。さもなくば……」
○○○「(江利子の後ろから)さもなくば何なのかしら?」
由乃 「なっ、あなた誰よ!?」
江利子「あらあら由乃ちゃんったら。相手も確認せずに突撃しようなんてさすがね」
由乃 「ま、まさか……」
先々代「初めまして、由乃ちゃん(ニコニコ)」
由乃 「……あ、あんたが元凶かぁ!(振りかぶって……)
	くっ!(笑っているだけなのになによ、この気は。これが先々代の力!?)」
先々代「?(ニコニコ)	江利子、良い孫を手に入れたようね」
江利子「ええ、お姉さま(笑)
	今日は令もいませんし…… お姉さま、ね?」
先々代「あら、私も仲間に入れてくれるの? 楽しみね(ニコニコ)」
江利子「それはもちろん♪」

由乃 「なっ! こ、これ以上こちらに近づかないでくださる!?(滝汗) ほ、本当に斬るわよ!」

先々代「まぁ、かわいらしい(ニコニコ)」
江利子「でしょう?」
先々代「ねぇ、江利子。こういう娘のかわいがり方、覚えてる?」
江利子「もちろん、お姉さま」
二人 「飽くまで喰らえッッ 飽き果てるまで喰らえッッ由乃の運命やいかに!?