グサ!!!
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・!!」
最後のほうは声にならず、シンジの目からは光が失われていった
「緊急警報!!緊急警報をお知らせします!本日12時30分東海地方を・・・」
「・・・・の通常回線は不通となっております。」
「・・・・ここは?第3新東京?」
シンジは初めて第三進東京に来た時と同じように公衆電話の前に立ち受話器を握っていた。
「やっと・・やっと帰ってこれた・・・」
辺りを見回すと少し霧のかかった向こうに青銀の髪、赤い瞳の少女がどこかの制服でこち
らを見て立っていた
「綾波・・・」
バシュ!!シュウウウウウウ
シンジの頭上をミサイルが飛んでいった。
そのミサイルは山の向こうへと消えた。辺りに爆音が響く。
振り返ってみるともうそこには誰もいなかった。
(父さん・・ミサトさん・・トウジ・・・そして、綾波とアスカ・・・絶対助けてみせる・・・)
爆音が収まったあと、山のむこうから人に似た形をした巨大な生物が現れた
「第三使徒サキエル・・・・」
呟いたそのときサキエルに破壊されたUNの戦闘機がこちらに落ちてくる。
それを追いかけるようにサキエルが地に落ちた戦闘機を踏み潰す。
「うわ!!」
戦闘機の破片が飛び散る。
キキーーー!!!
すさまじいドリフトの音が聞こえ目を開くと見覚えのある青い車がシンジを破壊された戦闘機の破片からかばうように入り込んできた
「ゴメン、お待たせ。」
「ミ・・・・葛城さん?」
「そうよ!!早く乗って。」
車は猛スピードで使徒の足元を駆け抜けていく。
シンジは一瞬だけ自分の周りに極薄のA.T.フィールドが展開されていたことに気がつかなかった・・・
≪車内≫
(葛城ミサト・・・僕の補完計画対象者のうちの一人・・・)
「・・・ジ君・・・シンジ君・・・」
「あ、はい何でしょう・・葛城さん。」
「ミサトでいいわよ、碇シンジ君。それよりどうしたの?さっきから私の顔見てぼーとしちゃって?」
「え?、い、いやちょっと・・さっきの怪物は何だったのかなーって・・・」
シンジは慌てて言い訳をする
「いいのよーおねいさんに見とれてたなら見とれてましたって言えば。そう、あれはね“使徒”よ」
途中までにやけ顔だったミサトが“使徒”の話になるとまじめな顔になる
「使徒?」
「ええ、私達人類の敵よ!!」
ミサトが憎しみを込めた顔で言う
「そうですか・・・」
そう答えるとシンジは俯き黙ってしまう。
(危ない危ない、今回は何とか言い逃れできたけどこれからは気をつけないとな・・・まだ僕が未来から来たことを言うわけにはいかないし、言ったところで信用してくれないだろうしな・・・問題はリツコさんだな、何とか仲間に引き込みたいけど・・・)
(つまんない子ねー。なんか妙に落ち着いてるし。)
二人を乗せた車は途中でN2地雷の爆風によって吹っ飛びながらもネルフを目指していた・・・
≪本部内通路≫
「ゴメンねシンジ君、もうちょっとだから。」
(はぁー、ミサトさんぜんぜん変わってないや・・・当たり前か・・・)
「ここさっき通りましたよ。」
「う、(汗)だ、だいじょぶよ。システムは利用するためにあるんだから」
「・・誰か人に来てもらったほうがいいんじゃないんですか?」
「い、言われなくたって今そうしようとしたところよ!」
言われてミサトは近くにあった内線電話を手に取りどこかに電話をかけ始めた・・
≪ケイジ≫
『技術局一課・E計画担当の赤木リツコ博士・・・。赤木リツコ博士・・・。至急、作戦部第一課葛城ミサト一尉までご連絡下さい』
幾つものパイプが列び、赤い水が張られたプールの様な場所。
ザパッ・・・。
「呆れた・・・。また迷ったのね」
ショートカットで金髪黒眉の女性『赤木リツコ』はプールから上がり、ウエットスーツを脱ぎながら溜息混じりに呟いた。
≪エレベーター内≫
シンジとミサトは近くにあったエレベーターに乗っていた。
チィン!!
何階かに着きエレベータの扉が開く。
「うぅ・・あ、あらリツコ・・。」
ミサトは不機嫌そうな顔をしてエレベーターに乗ってきた女性を見て後ろに下がる
その女性は金髪で水着の上に白衣という奇妙な格好をしていた。
「なにをやってたの?葛城一尉。人手もなければ時間もないのよ。」
「ん・・・ゴミン」
片手を顔の前に出しごめんなさいのポーズを取るミサトを見て
リツコはため息をつきシンジにむく
「例の男の子ね。」
「そう、マルドゥックの報告書によるサードチルドレン、碇シンジ君よ。」
(赤木リツコ・・・この人も僕の補完計画対象者の一人・・・)
「赤木リツコよ。よろしくね碇シンジ君。」
「はい、よろしくお願いします赤木さん。」
「私のことはリツコで良いわ。」
「はいリツコさん。」
≪再びケイジ≫
「真っ暗ですよ・・・」
「今明かりをつけるわ・・・」
ガン!パチ!!
そこには赤い水溜りに肩まで浸かり、戦国の武者の兜のようなものを被った巨人の顔があった
「これは・・・顔?」
(初号機か・・・久しぶりだなー・・・)
シンジはじっと初号機をみた
「人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器・・・人造人間エヴァンゲリオン・・・これはその初号機・・・・・建造は極秘裏に行われた。われわれ人類最後の切り札よ・・・・」
「・・・・・・・・」
このときシンジは何も言わなかった。上のほうで人影・・・碇ゲンドウが動くのを見たからだ。
(碇ゲンドウ・・・この人の補完が今回の僕の計画の成功につながるはず・・・)
「?どうしたのシンジ君?」
おそらく驚くであろうと思ったシンジが黙り込んでしまったのを不思議に思いリツコが声をかけるが、
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
シンジは何も言わず、ただ初号機を見つめているように見えた
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
(な、何なのこの沈黙は・・・)
場の雰囲気に耐えられなくなったミサトがシンジに声を掛けた。
「シ、シンジ君、どうして黙ってるの?」
「・・・・・」
それでもシンジは答えず、ただ初号機のうえのほうを見つめている
「・・・・・」
「・・・・・」
「シンジこれにはお前が乗るんだ。」
さっきまでシンジが見つめていたところの電気がつきゲンドウが姿を現す。
「父さん・・・」
シンジが悲しい顔をする。
「ふっ、出撃・・・」
そんなシンジに気づいていないように言葉を放つ・・・
「出撃?零号機は凍結中でしょ?・・・・まさか、初号機を使うつもりなの?」
「他に道はないわ。」
「ちょっと、レイはまだ動かせないでしょ・・・パイロットがいないわよ!!」
「さっき届いたわ。」
「まじなの!?」
「シンジ君、あなたが乗るのよ。」
シンジに向きリツコが言う。
「父さん、なぜ僕を呼んだの?」
リツコには答えず、まっすぐにゲンドウを見て言う。
「お前の考えている通りだ。」
「なぜ僕なの?父さん?」
「他の者には無理だからな・・・・」
「父さんが何を言ってるのかよく分からないよ」
「乗るなら早くしろ、でなければ帰れ」
「・・・・・・」
「もういい、人類の存亡をかけた戦いに臆病者は無用だ。冬月、レイを起こせ。」
(『使えるかね?』)
「死んでいるわけではない。」
(『わかった』)
「シンジ君乗りなさい。」
見かねたミサトが声をかける
「ミサトさん、いきなり呼び出されて理由も良くわからないのにこんな物に乗れって言われてあなたなら乗りますか?」
「うっ・・・・た、確かに乗らないわよね・・・・でも今これに乗れる可能性があるのはあなただけなのシンジ君・・・無茶を言ってるのは分かってる・・・でもここであなたが乗らなければ人類が滅びるの・・・お願い、乗って!!」
ミサトは食い入るようにシンジに詰め寄る。
「無理強いがだめなら今度は脅迫ですか?」
「ち、違「ミサトさん・・の復讐は何も生みませんよ・・」
シンジはミサトに言う
「え!!!?」
ミサトはシンジの言った言葉に驚き頭の中が真っ白になる・・・
シンジはそんなミサトを見て、ゲンドウのほうに振り返り言った。
「父さん、僕が乗るよ・・・・その代わりあとで父さんに話がある」
「・・・・好きにしろ。」
「シンジ君良く言ったわ。さあこっちへ・・・・」
シンジに詰め寄り、急に黙り込んで俯いてしまったミサトを気にしながらもリツコがいいかけた時、レイを乗せた寝台と医師数人がケイジ内に入ってきた。
(綾波・・・・・)
すると突然激しい衝撃が、ネルフ本部を襲った
「奴め!!ここに気づいたか!!」
衝撃のせいでレイが寝台から落ちる。
そこにシンジが駆け寄り抱き起こす。
「綾波・・・・」
「ハア、ハア、・・・っ碇君・・・」
(!!!まさか)
「綾波も戻ってきてるの!?」
コク
(綾波も戻ってきたんだ・・・・これなら綾波の補完計画もきっとうまくいく。)
その時、二人の頭上に蛍光灯が落ちてくる。
「危ない!!」
リツコが叫んだ次の瞬間。
ガンッ!!ガゴーーーンッ!!!
初号機の右腕がシンジとレイの頭上に覆い被さり、落下してきた鉄骨は右腕に弾かれ、ゲンドウの目の前の強化ガラスへぶつかった。
『エヴァが動いたぞ。・・・どういう事だ』
『右腕の拘束具を引きちぎっていますっ!!』
初号機を監視していたオペレータは思わず叫んでしまう。
「まさかっ!?ありえないわっ!!!エントリープラグも挿入していないのよっ!!!!動くはずないわっ!!!!!」
先ほどの揺れで周囲に持っていた書類をばら巻き、尻餅をついたままリツコは驚愕に目を見開きながら叫ぶ。
「・・・・・・」
ミサトもそれを見てただ呆然としている。
(ありがとう・・母さん・・)
「あとは僕がやるから綾波はゆっくり休んでて。」
「ええ。」
シンジは笑顔で言った。
それを見たレイの顔がほんの少し赤くなっているのはおそらく怪我の痛みのせいだけではないだろう。
シンジはレイをベットに乗せ、リツコを捜した。
「リツコさん、早く行きましょう。」
「え、ええ。こっちよ、ついてきて」
シンジに言われて我に帰ったリツコがシンジをエントリープラグに連れて行く・・・
≪発令所≫
『冷却終了』
・
・
『エントリープラグ注水』
(そういえばLCLに初めてつかる人は10人中10人が驚くって言ってたな・・・一応聞いておくか・・・)
「水?」
「LCLよ。肺がLCLで満たされれば直接血液に酸素を取り込んでくれます。すぐになれるわ」
「ぐえ〜」
(何回やっても慣れないけどなー)
『主電源接続』
・
・
『シンクロ率!す、すごい!』
「どうしたの?マヤ」
マヤと呼ばれたリツコ直属の部下で23、24歳ぐらいの童顔の女性がシンジのシンクロ率を見て思わず叫ぶ
『す、すみません。シンクロ率61.7%』
『シンクロ誤差0.3%許容範囲です』
「!!す、すごいわね・・」
『ハーモ二クス全て正常値』
『暴走ありません』
「いけるわ!!」
そういいリツコがミサトの方を向くが、
「・・・・・」
ミサトは下を向いて黙っている。
「ミサト!!いい加減にしなさい。あなたは作戦部長なのよ。」
リツコはミサトに怒号を浴びせる。
「うん・・・分かってる・・・ごめんリツコ・・・」
ミサトはただ謝るしかできなかった。
「ミサト?本当にどうしたの?」
リツコは今まで見たことのない親友の顔を見て、本気で心配し始める。
「大丈夫・・・・もう大丈夫だから・・・」
ミサトは無理やり顔をいつもの顔に戻す。
ミサトからしてみれば今まで使徒への復讐のためにNERVに入り今まさに目の前に父の敵がいるというときに何も知らない、自分の半分しか生きていない少年が乗ることを知り心を痛めた。頭の片隅では分かっていることをシンジに言われミサトの復讐心は和らいでいた。
これは、シンジの思惑道りのことだった。
「発進準備!!」
・
・
「発信準備完了」
報告を聞きミサトはゲンドウに向きなおり苦しげに呟く。
「かまいませんね」
「もちろんだ、使徒を倒さぬ限り我々に未来はない。」
「碇、本当にこれでいいんだな」
ゲンドウは、冬月の問いに声で答えず『ゲンドウスマイル』で返した。
『発進!!』
初号機が勢いよく射出される。
ヒューーーーーーウン、ガーーアン!!!!
初号機は地上・・・使徒の前に打ち出される。
「シンジ君準備はいい?」
ミサトがシンジに聞く。
(『いつでもどうぞ』)
「最終安全装置解除・・エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!!」
エヴァを運んできたリフトがはずされエヴァは前傾姿勢でたたずむ。
「シンジ君、今は歩くことだけ考えて。」
リツコがシンジにアドバイスをするが、
(『リツコさん、歩くだけって僕に死ねって言うんですか?そんなことより僕が死なないような指示をちゃんと出してくださいよ。』)
シンジがリツコに反論する。
「まずは歩けないことにはどうしようもないわ、歩くことを頭で思い浮かべればいいわ。あと基本的に指示を出すのは作戦部長であるミサトよ。私じゃないわ。」
(『そうですか・・・それじゃあミサトさん、僕が死なないようにちゃんと指示を出して下さいね。ところでリツコさん、頭で思い浮かべればどんな動きもできるってことですか?』)
「分かってるわ・・・」
ミサトは俯き小さな声で答える。
「理論上ではそうなるわね。でも実際にはやったことのある動きでなければ思い浮かべるのは難しいわよ。」
(『そうですか・・・それを聞いて安心しました。』)
シンジが意味深な発言をする。
「え?・・・」
それを聞いたリツコが驚いたようにシンジの顔を見る。
(『それで・・・ミサトさんどうするんです?』)
シンジは一応ミサトに次の指示をあおぐ。
「え?ああ、とりあえずって・・・シンジ君前!!」
ミサトが急に話を振られたことにと惑いながらも指示を出そうとモニターを見たとき初号機の眼前に使徒が立ち、今にも掴みかかろうとしているところだった。
(まったく、自分が危ない目にあってないからってなんか抜けてるよなこの人たち)
もちろんシンジが使徒に気付いていなかったわけもなく伸ばしてきた使徒の腕を掴み、拳をコア目掛けて振り上げ使徒がうえに吹き飛んだところにまたもやコア目掛けてとび蹴りを叩き込み後方へ吹き飛ばした。
「すごい・・・・」
誰が呟いたがわからないが発令所の面々はエヴァが動いた喜びを通り越してシンジの動きに見とれていた。
(なぜ彼にこんな動きができるの?前もって訓練を受けた?でもそんな報告は受けていないわ・・・・。それに明らかにコアを狙っているように見えたけど知っていたのかしら・・まさかスパイ?)
(すごい・・・・ドイツのアスカでさえこんな動きができるかどうか・・・それになぜ彼は私にあんなことを言ったのかしら・・・いったい彼は何者なの?)
≪指令席≫
「碇、あの強さはなんだ。シナリオとは違うぞ。」
「問題ない。何事にもイレギュラーはつきもの。」
「だが老人達はどうする?彼らは納得しないぞ。」
「老人達には言わせておけばいい。今は使徒撃退が最優先事項だ。」
「しかしだな・・・・」
冬月はまだ納得がいかないらしい
(フッ)ゲンドウは冬月に見えないように笑う。
≪発令所≫
「シンジ君その調子!!肩にナイフがあるわ、武器はそれを使って。」
ミサトが声をかけるがシンジは答えない。見ると何かを探している。
≪プラグ内≫
(トウジの妹はどこだろう?)
使徒を吹き飛ばし余裕のできたシンジは一回目の戦闘で重傷を負わせ、トウジに殴られる原因となった彼の妹を探していた。
(確かこの辺のはずなんだけど・・・・あ、いた!!)
≪発令所≫
「シンジ君どうしたの?早くしないと使徒が(『ミサトさん、人がいます!!』)
「何ですってーー!!?」
(『ミサトさん、早く人をよこしてください!』)
「日向くん!」
ミサトに日向と呼ばれたメガネをかけた男性が答える。彼はミサト直属の部下で作戦部のオペレーターだ。余談だが仕事中に酒を飲んだり、遅刻を何回もしているにもかかわらず彼女が首にならずに済んでいるのも彼の頑張りによるものだったりする
「はい、今保安部が向かいました。30秒ほどで着くと思います。」
≪プラグ内≫
(『シンジ君、あの娘は無事に回収したわ』)
「了解!」
(さて、ここからが本番だな・・・・)
シンジは発令所との通信をオフにして、目を閉じ意識を集中し始めた・・・・
≪発令所≫
『初号機との通信がオフになりました!』
「どうしたの?」
『パイロットが強制的に通信をオフにしたようです。』
「回線を開きなおして!」
ミサトは混乱した。
初号機によって吹き飛ばされた使徒はすでに初号機の目と鼻の先まで迫っている。そんな状況でパイロットから通信がカットされたのだ、わけが分からなくてもしょうがない。
『だめです!回線が開けません!!』
マヤが悲鳴を上げる
「かして!!」
リツコが同じように回線を開こうとするが、
「だめね・・・・どうしてなの?」
リツコも訳が分からないといった顔でモニターを見つめる。
そこには段々と初号機に近ずく使徒と沈黙を保ったままの初号機が映し出されていた