HORRIBLE FANTASIA

CHAPTER8 Bumbling detective EVANGERION

第(1)話「使徒、襲来」?

 ある日、とあるビルの屋上のロフトにある探偵事務所にて。
 「…差出人不明の手紙か…特に爆発物もカミソリも入ってはいないようだが…。」
 男は郵便受けに入っていた封筒を慎重に開けた。中に入っていたのは一枚のDVDだった。そのDVDをプレーヤーに入れると、画面に何者かが映った。
 『久しぶりだね、三井(仮名)三尉…おっと、三尉はもう不要だったな。』
 画面に映った者は、ネルフ司令である碇ゲンドウだった。三井(仮名)は慌てふためいてソファの後ろに身を潜めた。
 “な、何で今更この人が俺にコンタクトを…。”
 『君がネルフを辞めた後、探偵業をやっていると聞いたのでね…。』
 どうやら、とある事件についてネルフとしては表立って調査ができない為、今は民間人となった三井(仮名)に代わりに調査を依頼したいという事だった。
 『君に仮のネルフ特命捜査官としての権限を与える。引き受けてくれるのなら、いつでもいいからネルフに来てくれ給え。そこで詳細な情報を教えよう。』
 「…まあ、引き受けるしかないな…ここんところ金欠だし…。」
 『では、これでひとまず連絡は終わる。なお、このDVDは自動的に―』
 『やめんか、碇!』
 突然、冬月の怒鳴り声がして、画面はあらぬ方向を映した直後、突然砂嵐になった。
 「…ナイス・サンドストーム!…って、バカ言ってる場合じゃないな…。」
 そして、三井(仮名)は久しぶりにネルフに赴く事にした。
 果たして、ゲンドウが調査を依頼したい事件とは何か…?

      使途、不明
第(1)話「使徒、襲来」   完



第(2)話「見知らぬ、天井」?

 ある日の葛城邸にて。
 「…ねえ、シンジ…何でミサトがキッチンに立ってるの?」
 「そっちの二人のせいだよ…。」
 「いや〜、ミサトさんの手料理を頂けるなんて、今日はラッキーやな〜。」
 「ホント、課題の作戦会議をここにして正解だったよ。」
 ヒソヒソ声で話すシンジとアスカに気づかず、トウジとケンスケは期待に満ちた顔でミサトの料理が出来上がるのを今か今かと待っていた。
 ケンスケの言ったとおり、シンジ達はグループ研究の課題についてテーマを決めるべくここに集ったのだが、そこで何を思ったかミサトが料理をすると言い出したのだ。
 「シンジ、愛のバケツは?」
 「ちゃんと準備してあるよ。」
 そうこうしているうちに、ミサトの料理は完成した。
 「はーい、お待っとうさんでした〜。」
 ミサトが作った料理、それは…。
 「ロブスター、アンキモ、タコ、ジャガイモ…何これ?」
 「ああ、普通はエビにアナゴにイカにサツマイモだろうけど、それじゃ面白くないからちょっと捻ってみたのよ。」
 「…知らない天丼だ…。」
 果たして、その味は…?

      見知らぬ、天丼
第(2)話「見知らぬ、天井」   完



第(3)話「鳴らない、電話」?

 三井(仮名)は第三新東京市内のとある雀荘[マージャン ヅガン]に入った。
 「ロン!王手飛車取り!」
 その声がした方を見ると、ちょうどメンツの一人がトバされて半荘が終わった所だった。
 三井(仮名)はとりあえずできた空席に座った。
 「あんた、この店では常連なんだろ?」
 三井はトイメンの辛気臭い男に話しかけた。
 「…そうだが?」
 「O島(仮名)という男を知っているか?よくここに来ていたそうなんだが…。」
 「…俺に勝ったら知りたい事を教えてやるよ。」
 かくして、三井(仮名)は歯抜けのパンチパーマ男、神経質そうな伊達眼鏡の男と共にその辛気臭い男と卓を囲んだ。
 親は神経質伊達眼鏡男、その下家の三井(仮名)は北家となった。ドラ表示牌は九筒。
 トイメンの辛気臭い男は次々と牌を哭いて面子を作っていく。対する三井(仮名)は面前をモットーとしていた。
 「いいのかね?哭けば哭くほど、相手に自分の手の内がわかっちまうぜ?」
 「…俺は牌を哭いているんじゃない…牌に命を刻んでいるのさ…。」
 「へっ、カッコ付けやがって。じゃあ、こっちもカンだ!」
 三井(仮名)の下家の歯抜けパンチパーマ男はツモってきた九索を明カンした。だが、リンシャン牌の一索は外れだった。
 その一索を捨てた直後、裏返ったドラ表示牌はまたも九筒…そしてそのドラ牌である一筒は辛気臭い男が既にポンしていた。
 「ゲッ!?」
 歯抜けパンチパーマ男は辛気臭い男のドラ牌を増やしてしまったのである。
 「…ふっ…あんた、背中が煤けてるぜ。」
 「そりゃ、どう言うこったい!?」
 すると、辛気臭い男は何も答えずに自分の牌を開いた。何と、歯抜けパンチパーマ男の捨てた一索が当たり牌だったのだ。
 “ほう、見事だ…しかし…何か、さっきから焦げ臭い匂いがするんだが…。”
 三井(仮名)は辛気臭い男の見事な和了に関心しつつも、その焦げ臭い匂いが気になった。
 そして、三井(仮名)は気づいた。その匂いは、トイメンの辛気臭い男の背後から漂って来ることに…。
 「あんた、背中が焦げてるぜ。」
 「え?」
 辛気臭い男が気づいたその時、一気にその背中は猛烈な炎に包まれた。
 店内は一気にパニックになった。そして、辛気臭い男はそのまま焼死してしまったのだった。

      哭かない、聴牌
第(3)話「鳴らない、電話」   完



第(4)話「雨、逃げ出した後」?

 情報を持っていた辛気臭い男は口を封じられた…。
 三井(仮名)は事件を最初から見つめなおす事にした。
 使途不明金?
 そうだ。巧妙に隠されていたのだが、経理課のO島(仮名)という者が偶然それを見つけたのだよ。
 へえ…それで、私に何をしろと?
 使途不明金の存在が明らかになったその次の夜、O島(仮名)は殺された。
 殺された!?
 うむ。前方から銃で心臓を打ち抜かれてな。
 タイミングからして、怨恨や偶発的犯罪とは思えん。
 つまり、何者かに口を封じられた可能性が高い、と?
 そのとおりだ。
 しかし、一体何が目的なんでしょうか?
 それを調べるのが君の任務だ。
 何しろ、どうやら内部にも敵に通じている者がいると考えられる状況だ。我々が調査命令を出すと証拠を隠滅される可能性がある。
 だからこそ、外部の人間となった君に白羽の矢が立ったのだよ。
 いや、しかし、私だって命を狙われる可能性が無きにしもあらず…。
 いや、大丈夫だろう。何せ、君はあの爆発でほとんど無傷だったからな。死ぬ事はなかろう。
 ゲンドウは抜け抜けと言い放った。
 “あの雀荘での事件は、犯人による口封じか、それとも俺への警告なのか…。”
 O島(仮名)がマージャン好きだと聞いてようやくその行き着けの店にまでは辿り着いたが、そこで事件の糸口はぷつりと切れてしまった。
 “また、最初からやり直しか…。”

      雨、降り出しに戻る
第(4)話「雨、逃げ出した後」   完



第(5)話「レイ、心のむこうに」?

 キーン・コーン・カーン・コーン…。
 「終わったあぁ〜!!」
 チャイムが鳴った途端、生徒達は安堵して喜びの声を上げた。
 今日で一学期の期末テストは終了、明日は終業式のみ、そして明後日からは楽しい夏休みだ。
 勿論、二学期が始まってテストの答案用紙が戻ってきた時の事は全く何も考えていないが…。
 それはともかく、シンジ達はテスト終了祝い?という名目で繁華街へ繰り出した。
 行き先はシンジの提案でカラオケハウスとなった。グループ割引のチケットをミサトから貰っていたからだ。
 「おっ、この喉自慢判定機使ってみようぜ。」
 「ああ、面白い判定の仕方をするやつやな。」
 そして、トップバッターはシンジになった。
 「…♪さらば、昴よ〜。」
 いきなりシンジは最後まで唄いきってしまった。
 キンコンカンコンキンコンカンコンキーンコーンカーン!
 『ショッカーさん、今の歌はどうでしたか?』
 『イー!!』
 「あははは、何その判定。面白〜い!」
 ヒカリには大ウケだ。
 「なんや、いきなりシンジに合格出されてしもうたがな…では二番、鈴原トウジ唄います。」
 トウジが選んだ曲は<そして伝説へ>だった。
 「♪くーちーびーるーをー、かーみしめーたーとーきー…。」
 カーン!
 「なんや、もう終いかいな!早過ぎるっちゅーねん!」
 『ウルトラマンさん、今の歌はどうでしたか?』
 『ヘダァッ!!』
 「あははは、鈴原、グッジョブよ!」
 「何がグッジョブやねん!」
 すると、今度はレイがマイクを握った。
 果たして、レイが唄うのは…。
 「♪私バカよね〜、おバカさんよね〜。」

      レイ、心のこり
第(5)話「レイ、心のむこうに」   完



第(6)話「決戦!第三新東京市」?

 二学期が始まった。
 そして始業式の直後、トウジとケンスケは一気に暗い気分になってしまった。
 一学期の期末テストの答案用紙が返却され、そこには無残な結果が待っていたのだ。
 成績の悪かった者は罰ゲーム?として便所掃除をさせられる事になった。
 「なんでシンジはいい点取れたんや?」
 「何でと言われても…たまたまだよ。」
 「嘘付け、陰でガリ勉してたんだろ?」
 「いや、特には…。」
 「ぐ…ハラの立つ奴やな〜、それはつまり勉強せんでもいい点が取れるほど頭がいいっていう事やろが!」
 何かムカついたトウジはいきなりシンジにトイレットペーパー(未使用)を投げつけた。
 「何するんだよ!」
 ぶつけられたシンジもそれをトウジに投げつけ返した。
 「お、おい、二人とも餅付け。」
 ケンスケの制止も効かず、シンジとトウジの間でトイレットペーパーの投げ合いが始まった。
 「おんどりゃあ!」
 「こんにゃろー!」
 「二人とも、こんなところで戦争するなよ!」
 二人のくだらないケンカは途中で教師に見つかって怒られるまで続いたのだった。

      決戦!便所戦争!?
第(6)話「決戦!第三新東京市」   完



第(7)話「人のつくりしモノ」?

 三井(仮名)はO島(仮名)の交友関係について調査を続けていた。
 O島(仮名)が使途不明金の事について誰かに情報を漏らしたという可能性はゼロとは言えない。
 何せ、世の中には絶対というものは無いからだ。さらにそこから犯人への糸口が繋がる可能性もある。
 そして、三井(仮名)はO島(仮名)と親しい女友達(=彼女?)がいた事を知り、ようやく彼女の住むアパートの一室に辿り着いた。
 ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。
 ♪三度チャイムを鳴らしてネ…という訳ではないが、何度もチャイムを鳴らしても反応は無かった。
 と、その時、隣の部屋の住人がドアから顔を出した。
 「お隣さんならいないよ?」
 「あ、そうですか…彼女の勤め先とか、分かります?」
 三井(仮名)は彼女の勤め先であるキャバクラへと移動し、キャバ嬢(中にはキャバ婆というのもいたが)への聞き込みを始めた。
 「ヨーコなら昨日から来てないけど…。」
 「あ、そうですか…何か、理由は言ってましたか?」
 「…アンタ、あのコの何なのさ?」
 「さーて誰でしょう?」
 再び彼女の住むアパートの一室に戻ってきた三井(仮名)だったが、ドアの前にはその階の住人と思われる者が何人かいた。
 「どうしたんですか?」
 「いや、中から何か臭い臭いがするんですよ…。」
 試しにドアの郵便受けの扉を奥に押してみた途端、ロサ・フェティダも裸足で逃げ出すほどの―――もとい、花がひん曲がるほどの悪臭が中から漂ってきた。
 ようやくそこにアパートの大家さんがマスター・キーを持ってやってきた。 
 開けてみると、誰かが部屋中に何かをばら撒いていた。そしてその中で、女性が胸をナイフで刺されて死んでいた…。

      人のつくりしヒモノ
第(7)話「人のつくりしモノ」   完



第(8)話「アスカ、来日」?
 
 ドイツからやってきた転校生の美少女・アスカは男子生徒の間で大人気。
 ケンスケが盗撮したアスカの写真は次から次へと売れていった。
 「よし、元は十分取ったし、いよいよ第二段階に入るぞ。」
 ケンスケとトウジは使っていない教室でまた何事かを企んでいた。
 「何や?一体何をする気なんや?」
 「フィギュアを作るのさ。」
 「フィギュア?…スケートするんか?」
 「スケートしてどうするんだよ…フィギュアってのは、アニメとかに出てくるキャラを立体的にモデリングしたものだよ。」
 「ああ、要するに人形のことやな。」
 「そう。惣流の人形を作るんだよ。」
 「しかし、そんなん売れるんか?」
 「勿論。既に予約は来ているんだ。なんせ本物と違って人形だからな、どんなポーズもどんなカッコも思うままに作れる。」
 「ほ、ほう…どんなポーズもどんなカッコもか…。」
 「ああ。ちなみに販促用に作ったのがこれ。」
 ケンスケが取り出したのはアスカとレイの制服姿のフィギュア。
 「おお、よく出来とるやないか!流石ケンスケ、器用やな。」
 「…ちなみにスカートの中も作ってあるぞ。」
 「な、何やて!?スカートの中って言えば…パ、パン―。」
 トウジが鼻の下を伸ばして覗き込もうとしたその瞬間。
 「二人とも、そこまでよ!」
 突然、教室の扉が開かれ、ヒカリとアスカとレイが乗り込んできた。
 「げげっ!?何でお前らここが…。」
 「問答無用!」
 「…お約束よ。」
 「正義は必ず勝つ!」
 ヒカリはともかく、レイとアスカは何故か訳の分からない事を…。
 さて、二人をとっちめるのをヒカリに任せたアスカは、レイと自分のフィギュアを熱心に見比べていたのだが。
 「ちょっと、何よこれ!!」
 「どうしたの、惣流さん?」
 「ファーストの胸はこんなにないし、私の胸はもっと大きいわよ!作り直し!!」

      アスカ、無い乳
第(8)話「アスカ、来日」   完



第(9)話「瞬間、心かさねて」?

 ネルフ・ロシア支部のニコライエフ司令官がネルフ本部を視察にやってきた。
 ガイドを命じられたのはミサトだった。
 「ようこそネルフ本部へ。」
 「ハラショー!何とお美しい方だ。正に日本に来た甲斐があったというものです。甲斐があったで暖かい、なんちて…。」
 凍りついたミサトに代わって今度は加持がガイドに付いた。
 「それではご案内します。」
 「それにしても、ロシアと違って日本は暑いですな。アツイ・ヒデキ、なんちて…。」
 真っ白に燃え尽きた加持に代わって次はリツコがガイドに付いた。
 「左から零号機、初号機、弐号機…これらがネルフ本部の主力兵器、エヴァンゲリオンです。」
 「ほう…しかし、エヴァとやらを持っているからと言ってエヴァんないでほしいものですな。」
 石化したリツコに代わりガイドに付いたのは何とゲンドウ。
 「これはこれは、お久しぶりですな、碇司令。」
 「君も相変わらずだな、ニコライエフ。」
 「気のせいですかな?何となく機嫌ドウが宜しくないようですが。」
 「君の顔を見てにっこりエフできる筈が無かろう。」
 発令所のオペレーター三人はその会話を聞いてゲンナリしていた。
 「全く、碇まで何をやっとるのだ。ええい、構わん。保安部に連絡してニコライエフをつまみ出せ。間違ってもツマミを出すなよ。」
 その瞬間、ネルフ本部は停電した。

      瞬間、心凍えて
第(9)話「瞬間、心かさねて」   完



第(10)話「マグマダイバー」?

 第三新東京市の第七次建設はかなり遅れが出ていた。というのも、溶接で不具合が頻発しているからだ。
 元々はティグ溶接で作る筈だったのをマグ溶接にした部分が問題になっているらしい。
 O島(仮名)の発見した使途不明金が建設関連らしい為、担当した施工会社に三井(仮名)が話を聞いていたら、そんな話に脱線した。
 「ティグ溶接は綺麗な溶接ビードが出来て内部欠陥も少ないんですが、溶着量が少ないのが欠点ですね。それに対し、マグ溶接は溶着量は多いんですが内部欠陥が入りやすいというところが欠点です。」
 「どちらも一長一短と言ったところか…では、なぜティグをやめてマグに変えたんですか?」
 「簡単に言えばコストですよ。ティグ用の溶接材料とマグ用の溶接材料のメーカーは違うのですが、マグの溶材メーカーの方が安い見積りを提示したので、ティグからマグに変更になった訳です。」
 「で、安物買いの銭失いになった訳か…おっと、失礼。」
 「いや、まさか、溶材メーカーがあんな粗悪品を納入するとは思ってもいませんでしたので…。」
 「で、補修費用は当然溶材メーカー持ちなんですね?」
 「ええ。」
 第三新東京市の建設計画は勿論裏でネルフが決めている。
 その上で、低い見積り提示→粗悪品納入⇒補修費用負担という、溶材メーカーのあまりにも愚かしい行為が逆に三井(仮名)に何かを閃かせた。
 “補修発生による費用負担のリスクまで犯しても仕事を取りたかったのか?いや、それさえも想定していたとしたら…。”
 自宅も兼ねている探偵事務所で、三井(仮名)はサイフォンでドリップしたコーヒーをマグカップに注ぎ、推理を組み立てていった。

      マグはダメだぁー
第(10)話「マグマダイバー」   完



第(11)話「静止した闇の中で」?

 シンジとアスカが修学旅行に出発してから三日後。既にミサト邸の玄関からキッチンそしてリビングに至るまで膨大な量のゴミ袋に占領されていた。勿論、ミサトの私室については言うまでも無い。
 そしてその夜、第三新東京市に地震が発生した。
 「どわあぁっ!!」
 就寝中だったミサトはゴミ袋に埋もれてしまった。幸い、中身は紙くずとかの硬くないものばかりだったので怪我だけは免れたが。
 「…どうやら地震は治まったようね…よし、まずは電気をつけて状況を…。」
 ミサトは身体の上に落ちてきたゴミ袋を押しのけて立ち上がろうとして…立ち上がれなかった。ゴミ袋を押しのければまた別の所からゴミ袋が崩れ落ちてくるのだ。
 「あー、もうっ!!」
 イライラの限界に来たミサトは力任せにゴミ袋を殴りつけた。だがその途端、ゴミ袋が破れて中身が零れ落ちてきた。
 「ひえぇ〜。」
 鼻紙だの柿ピーの小袋だのミカンの皮だの、さまざまなゴミが自身に降りかかってきてミサトは気分が悪くなった。
 「う…動けない…誰か…誰か助けてー!!…そうだ、ペンペン…ペンペーンッ!!」
 この状況でペンペンに何が出来るというのか?
 で、そのペンペンはと言うと…。
 「クワッ?クワワッ?クワーッ!?」
 自分の冷蔵庫の扉の開閉ボタンを押しても扉が開かない事にパニクっていた。地震でゴミ袋の山が崩れて塞いでしまったからである。
 “ああ、やっぱりシンちゃんを修学旅行に行かせるべきじゃなかった…シンちゃんがいたらこんな事には…。”
 その時、耳元で何かカサッ、という音がした。
 「ヒッ!?」
 ミサトは全身が硬直した。しかしその後も、部屋のあちらこちらでカサコソという音が聞こえてきた。
 「…う……うう………ギャーッ!!」
 恐怖に堪え切れず、ミサトは悲鳴をあげて失神した。

 翌日、無断欠勤の上に連絡も取れないミサトを心配して日向が諜報部員を向かわせたところ、白髪化したミサトがゴミの中に埋もれているのが発見された…。

      閉止したゴミの中で
第(11)話「静止した闇の中で」   完



第(12)話「奇跡の価値は」?

 「えーと、貴方の会社は例の溶材メーカに仕事を取られてしまったそうで…。」
 「全くひどいもんですよ。まさかあんな手口で来るなんて…でも、まあ、結局本末転倒の結果になった訳だし、信用ガタ落ちであちらさんも自業自得ですよ。」
 三井(仮名)は第三新東京市内の閑古鳥が鳴いてるようなとある喫茶店でとある溶材メーカーの社員から業界の事情を教えて貰おうとしていた。
 「という事は、やはり通常では全く考えられない仕事の取り方だった、という事ですか…何でそんな事したんですかね?」
 「さあ…よっぽど緊急に仕事を入れないといけないような切羽詰った状態だったのかも…或いは、先の事は何も考えていなかったんじゃないですか?」
 社員の人がトイレに入った時間を利用して三井(仮名)は情報を整理してみた。
 “やはり、先の事なんか考えてない、というのは違う気がする…そう思わせるようにしておいて、実は…。”
 と、その時、喫茶店の厨房から爆発音が!
 「な、何だ!?」
 吹っ飛んだ三井(仮名)が何とか頭を上げると、喫茶店の厨房から激しい炎が噴出していた!
 炎は見る々るうちに喫茶店の壁、天井、床に燃え移っていった。既に出入り口の扉まで行く方法は無い。
 「クソッ、に、逃げなきゃ…。」
 だが、三井(仮名)の脚は倒れてきたテーブルの下敷きになっており、三井(仮名)は身動きが取れなかった。
 最早是迄…と思ったその時、通りに面したガラスが外から破壊され、誰かが飛び込んできた。
 その男性が重いテーブルを持ち上げ、三井(仮名)はようやく脱出できた。
 「大丈夫ですか?」
 三井(仮名)の窮地を救ってくれた男性はどうやらスポーツマンらしかった。
 「いやぁ、助かったよ。しかしどうやってガラスを…。」
 振り返ると、外のバス停にあったベンチがひっくり返って転がっていた。
 「あれでガラスを割ったのか…それにしてもアンタ、凄いパワー持ってるな。」
 「いえいえ、屁のツッパリはいらんですよ。」
 彼はそう言って豪快に笑った。

      奇跡の火事場のクソ力
第(12)話「奇跡の価値は」   完



第(13)話「使徒、侵入」?

 「で、センセは綾波と惣流のどっちがタイプなんや?」
 「さっさと白状しろよ。もう、ある程度決めてんじゃないのか?」
 「そんな事言われても…。」
 下校中、シンジはトウジとケンスケにレイとアスカのどっちを取るか―――所謂‘究極の選択’を迫られていた。
 「俺のデータによれば、校内での人気は五分と五分だ。」
 「美人度では甲乙付け難い、っちゅー事やな。なら、残る決め手はやっぱプロポーションやろ。」
 「性格は関係無いの?」
 「性格か…確かに、綾波は無口だし、惣流は何かと高飛車だもんな。」
 「いや、この際、性格については目を瞑る!で、綾波と惣流、どっちが胸大きいんや?」
 「そ、そんな事知る訳無いよ!」
 気分を害されたシンジは二人を置いて駆け出してしまった。
 「…ちと、悪ノリし過ぎたかのう?」
 「かもな…まあ、あいつは根に持つ奴じゃないから大丈夫だろ。」
 そして、ケンスケと女性のプロポーション談義を交わしながらトウジが帰宅すると、居間に妹のナツキがいた。
 「あ、お兄ちゃんお帰りなさい。」
 「ナツキ…何しとんねん?」
 何と、ナツキはビキニの水着姿だった。
 「じゃーん!思い切ってビキニの水着買ってみたの。どう、似合う?」 
 「えーと…ナッちゃんにはまだ早いんじゃないかな?」
 「ケンスケ兄ちゃんも遅れてるのね。今時これぐらい普通だよ?」
 「まあ、確かにビキニ姿の小学生アイドルがおらん事も無いが…ナツキにはまだ似合わんと思うで。」
 「そうかなぁ?」
 そう、ナツキがビキニの水着を着るにはまだまだ胸が足りなかった…。

      ちと、貧乳
第(13)話「使徒、侵入」   完



第(14)話「ゼーレ、魂の座」?

 先日の喫茶店での火事は、やはり放火事件だった。
 消防と警察の調査の結果、次元発火装置が厨房内から発見されたのだ。
 それはともかく、三井(仮名)は自分の母校である明鏡大学にやってきた。
 あの時、自分の窮地を救ってくれたのは明鏡大の体操部員だったからだ。
 「いやあ、初耳です。そうですか、ウチの新堂がそんな事を…あいつはキャプテンでしてね、体操部の纏め役として部員全員から信頼されているんですよ。だから、いちいち自分の善行を吹聴したりしなかったんですな。」
 体操部のコーチはそう話しながら三井(仮名)を体育館へ案内した。
 ちょうど今は男子が平行棒、女子が段違い平行棒の練習をしているところだった。
 「あー、惜しい!タイミングがちょっとずれたらバーをキャッチする事は出来ないぞ。」
 「キャプテン、もう一回お手本を見せて下さい。」
 部員に促されて彼が平行棒の間に立つと、女子部員もみんな練習を一時中止して彼を注視した。
 彼は平行棒につかまるとまずは軽々と倒立した。そしてそのまま身体の前側に懸垂しながら振り出し、バーの上側で後方二回転宙返りをして…そのままバーをキャッチし、懸垂しながら両足をまっすぐ前に伸ばして静止する筈だった。
 だが、彼はどういう訳か右のバーをキャッチし損ない、バランスを崩して側頭部をバーに激突させて落下した。
 「キャプテン!!」
 「新堂!!」
 「きゃあああ!!」
 もはや体操の練習どころではなく、体育館内は大騒ぎになった。 
 彼は頭部を打った衝撃で昏倒していた。
 「誰か!救急車を呼べ!」
 目の前で起こった惨劇に三井(仮名)は声も無く立ち尽くすだけだった…。

      ベーレ、魂の技
第(14)話「ゼーレ、魂の座」   完



第(15)話「嘘と真実」?

 O島(仮名)ツムギ:ネルフ経理課職員。ピストルで心臓を撃たれ、死亡。
 哭野(仮名)リュウ:伝説の雀ゴロ。背中に放火され、焼死。
 港野(仮名)ヨーコ:キャバ嬢。心臓をナイフで刺され、死亡。
 溶込(仮名)アサシ:溶材メーカー社員。火事に巻き込まれ、一酸化炭素中毒で死亡。 
 新堂(仮名)ユーイチ:明鏡大学体操部キャプテン。練習中に右腕を撃たれ、頭部をバーに強打したせいで再起不能の重傷。

 “…畜生…俺が事件に関わったばかりに…次々と人が殺されていく…お、俺のせいで…。”
 三井(仮名)はガード下の飲み屋で酒を飲んでいた。飲まずにはいられなかった。
 悪酔いし、反吐を吐いてつぶれた三井(仮名)。
 「だいぶ飲んでいるな。しっかりしたまえ。」
 彼に声を掛けたのは、ネルフ諜報部部長の田所(仮名)キョウジだった。
 「碇司令から話は聞いておるよ。被害者が増えているのは君のせいではない。そんなに自分を責めてはいかんぞ。」
 「はあ…どうも済みません。」
 三井(仮名)は田所(仮名)が停めたタクシーで自宅兼事務所へ向かった。
 だが、そのタクシーはそこまで辿り着く事は出来なかった。信号待ちしている際、後方から運転手が居眠りしていたトレーラーに追突されて大破炎上してしまったのだ。

      嘘から出た真
第(15)話「嘘と真実」   完



第(16)話「死に至る病、そして」?

 「へい、ニンニクラーメンチャーシュー抜き、お待ち。」
 今日もシンクロテストを終えたレイは例のラーメン屋<みやこ>に来ていた。
 「君ってラーメン好きなんだね。」
 「だって、美味しいもの。」
 「そうか。でも、何でいつもチャーシュー抜きにするの?」
 「だって、肉キライだもの。」
 「なるほど。でも、いつもニンニクラーメンばかりじゃ飽きないかい?偶には違うラーメンにしてみたら?」
 「肉が入っていなければ…。」
 こうして、レイは毎回シンクロテストを終えた後はこのラーメン屋に来て、彼が考案した様々な創作ラーメンを食す事になった。
 ごま味噌ラーメン、トンコツ醤油ラーメン、ねぎ塩ラーメン、バターコーンラーメン、ハバネロカレーラーメン、精進野菜ラーメン、トムヤムクンラーメン、豆乳ラーメン、etc.………。
 そして、レイはいつの間にか彼からラーメンに関する様々な薀蓄を騙られるのが楽しくなっていった。
 そしてある日のこと。
 シンジとアスカが夕食後のお茶を飲みながら面白いTV番組がないか探っていると…。
 「ラーメン・マニア・タッグ選手権、チャンピオンは藤本(仮名)コーヘイ・綾波レイ組です!!」
 思わず二人はお茶を吹いた。

      入り浸る屋台、そして
第(16)話「死に至る病、そして」   完



第(17)話「四人目の適格者」?

 今日も洞木三姉妹はおかずをめぐって大騒ぎ。
 「あーっ!コダマお姉ちゃんが私の唐揚げ取ったあ!!」
 「ちょっとお姉ちゃん、せっかく鈴原が来てるのに、みっともない事しないで。」
 「一個ぐらいいいじゃないの。ケチケチしなさんな。」
 これではまるで伊達騒動である。
 「ほな、ノゾミちゃんにワシの唐揚げ、一個あげたるわ。」
 「…ホント?どうもありがとう。」
 「悪いわね、鈴原。」
 「いやいや、夕飯ゴチになっとる身や。これぐらい構へんて。」
 「流石。漢だね、鈴原くん。」
 「お姉ちゃんは褒められる身分じゃないでしょ。元々の原因は…。」
 「私は誰にも褒められていないわよ?そこは‘褒めれる’でしょ。‘ら’を抜いて言わなきゃ可能と受動は区別できないし、元々と原因も同じ事だから繰り返し使うのは間違ってるわよ。」
 「成る程、流石受験生は一味違いまんな。」
 「鈴原、そこは褒めるところじゃないってば!」
 こうしていろいろと騒ぎながらも夕食は進んでいった。
 鶏の唐揚げ、卵焼き、里芋の煮転がし、パイン・サラダ、とおかずは順調に無くなっていき、最後に一切れ残ったのは大根のキムチだった。それをGETするのは果たして誰か?

      四個目のテキカク
第(17)話「四人目の適格者」   完



第(18)話「命の選択を」?

 九州・宮崎県。
 “どげんかせんといかん…。”
 宮崎弁ではそうなるだろうが、とにかく事態の打破のため、三井(仮名)は彼の地に降り立った。
 あの日、帰宅途中で吐き気を催した三井(仮名)は途中でタクシーを降り、外で吐いた。そして、万一タクシーの中で再度吐きそうにならないよう、後は歩いて帰宅したのだ。
 そして、翌日のニュースで三井(仮名)はタクシーの大破炎上の事を知った。
 だが、三井(仮名)が助かったのは決して彼が強運の持ち主だからではなかった…。
 それはともかく、三井(仮名)が此の地にやってきたのは、事件に関する重要人物とコンタクトする為であった。
 問題の工事に関わっていた例の溶材メーカの営業担当は退職し、実家があるこの宮崎県・日南市に戻っているらしいのだ。
 「息子はさっき出かけていって、まだ戻ってきてませんが…。」
 「そうですか…どこへとか、何時に戻るとか、言ってませんでしたか?」
 「いいえ。」
 「そうですか…あ、最後にもう一つだけ…お一人で出掛けられたんですか?」
 「いえ、貴方の前に向こう(第三新東京市)での友人が訪ねて来まして、その方と…。」
 「そうですか…どうも、お邪魔しました。」
 相手の実家を辞した三井(仮名)の胸に不安が過ぎった。
 “まさか…。”
 そして、その不安は現実のものとなった。
 翌日、青島に面した海岸―――そこには波によって削られた独特の形状をもつ岩があった―――その岩と岩の間で一人の男の死体が発見された。死因は撲殺…後頭部を鈍器で殴られて出来た傷が致命傷となった。

      鬼の洗濯板
第(18)話「命の選択を」   完



第(19)話「男の戰い」?

 「それでは、第一回チキチキキッチン料理対決を開催します。」
 第壱中の料理実習室を使ってそんなタイトルでの料理対決が始まった。
 出場者はアスカ、レイ、ノゾミ、ナツキ、カエデの五人。
 司会はトウジ、リポーターはケンスケ、解説はヒカリ、試食者はシンジである。
 何でそんな事になったのかというと、切っ掛けはシンジが漏らした、
 「やっぱり、女の子は料理が上手でないとまずいんじゃ…。」
 という一言だった。
 そこで、シンジをめぐってアスカ、レイ、ノゾミ、ナツキ、カエデが料理対決することになったのだ。
 「ケンスケ、みんなは一体どんな料理を作っとんのや?」
 「えーと、惣流はハンバーグだな…綾波はやっぱりサラダか…ノゾミちゃんはチョコを使ってるから多分デザートだろう…ナッちゃんはおにぎりかな?カエデさんはスープ、といったところだ。」
 「…あら?気のせいかしら…。」
 「どしたんや、イインチョ?」
 「あのね、まずはカエデさんのスープでしょ、それから綾波さんの前菜のサラダでしょ、メインがアスカのハンバーグ、でナッちゃんが日本人の主食の米を使ったおにぎり、最後にノゾミがデザート…これってフルコースじゃない!」
 「あ…成る程、言われてみれば確かにそうや。何ちゅう偶然かいな。」
 そして、出来上がった料理をシンジは全部美味しく完食した。
 「いやー、美味しかったよ、みんな。」
 「それで、判定は?」
 「そうだね…うん、偶然フルコース料理みたいになったけど、全体的に味も調和が取れていて、大変美味しゅう御座いました。全員合格です。」
 「そうじゃなくて、誰が一番なの?」
 「いや、そんなの、全員同じ料理を作らないと比較のしようがないよ。」
 「「「「「…だったら先に言えーっ!!!!!」」」」」 

      女の諍い
第(19)話「男の戰い」   完



第(20)話「こころのかたち、ひとのかたち」?

 宮崎から戻って既に九日が過ぎたが、三井(仮名)は未だ真実にたどりつけていなかった。
 事件は既に七名の被害者を出し、五人が殺害されていた。

 O島(仮名)ツムギ:ネルフ経理課職員。使途不明金に気づいたその夜、ピストルで心臓を撃たれ、死亡。
 哭野(仮名)リュウ:伝説の雀ゴロ。O島の交友関係調査の為に接触直後、背中に放火され、焼死。
 港野(仮名)ヨーコ:キャバ嬢。O島のガールフレンド。心臓をナイフで刺され、死亡。
 溶込(仮名)アサシ:溶材メーカー社員。業界の情報入手の為に接触直後、火事に巻き込まれ、一酸化炭素中毒で死亡。
 新堂(仮名)ユーイチ:明鏡大学体操部キャプテン。練習中に右腕を撃たれ、頭部をバーに強打したせいで再起不能の重傷。
 城崎(仮名)サエコ:タクシー運転手。後続のトレーラーに追突され、車が大破炎上するも直前に脱出、軽傷で済む。
 裏波(仮名)ハツル:溶材メーカー社員。問題の工事の真相を知っていた筈だが、何者かに撲殺される。

 そろそろ警察の捜査線上にも三井(仮名)の名前が出ている筈である。碇司令から極秘の調査を頼まれている以上、警察が介入してくるのは何としても避けねばならない。
 “なぜ、あんな低い見積りを出したのか…結果は分かっていた筈だ…果たして、それは組織ぐるみの行為か、それとも個人ぐるみの仕業なのか…。”
 三井(仮名)は情報を整理しながら推理を続けていた。
 “どうしても仕事を取りたかったとしたら…結果が分かっているのなら、それへの対処も当然考えていたのではないか?補修費用の負担金は…本来の正常な見積から除かれた部分か?…だとすれば、あの使途不明金は…わからん…。”
 ここらでモヤッとした頭をスッキリさせる為、三井(仮名)はベッドに入って一休みする事にした。

      九日経ち、一休み
第(20)話「こころのかたち、ひとのかたち」   完



第(21)話「ネルフ、誕生」?

 三井(仮名)は第三新東京市内の閑古鳥が鳴いてるようなとある喫茶店にいた。
 三井(仮名)が事件について頭をひねっていると…。
 「♪みーんな悩んで大きくなった。」
 誰かの唄うような声がして三井(仮名)は顔を向けた。
 「随分とお悩みのようね。」
 三井(仮名)に声を掛けてきたのは、深い色の制服(セーラー服)に身を包んだ見知らぬ女子高生だった。
 「…君は?何処かで会ったかな?」
 「そんな事はどうでもいいのよ。どうせここは夢の中だし。」
 「夢の中?まあ、いいや。それで俺に何か?」
 「貴方に少々助言を…。いい、事件は会議室で起きているんじゃなくて、貴方のいる現場で起きているのよ。」
 「確かにね。」
 「碇司令に今まで何か報告した?」
 「いや、是と言ってまだ何も…?」
 「貴方が調査をしている事を知っているのは碇司令と冬月副司令の他には?」
 「いない筈だ。内部に敵がいるかもしれないから、極秘に調査してくれと言っていたし。」
 「という事は、今までの事件に少なからず貴方が関わっている事を他に知っている者がいたらそれが犯人ではなくて?」
 「そうか…だが、証拠が無いし、第一に事件の真相がまだ分かっていない。」
 「なら、犯人に事件の真相を語らせればいいのよ。相手の言質をエサにしてみたら?それで釣られてきたら決まりよ。」
 「証拠も手に入る、という事か。よし、やってみよう。」
 「それじゃあ、頑張って。」
 三井(仮名)が呼び止める間も無く、彼女はそれだけ言って去っていった。

      ヘルプ、参上
第(21)話「ネルフ、誕生」   完



第(22)話「せめて、人間らしく」?

 三井(仮名)の自宅兼事務所に警察がやってきた。
 「警察だ。開けろ。」
 『…だ〜れ〜?』
 「警察だ!三井(仮名)、お前に聞きたいことがある。重要参考人として来て貰うぞ。」
 『…ケーサツゥ?』
 「そうだ。おとなしくしてれば、手荒な事はしない。」
 『…ここはケーサツじゃないよ〜。』
 「俺が警察だー!!早く開けろ!!おい、警察だぞ!!」
 『…だ〜れ〜?」』
 「警察だ!!ケ・イ・サ・ツ!!警察を知らないのかテメエは!!ポリス!!サツ!!デカ!!警察!!」
 『…ケーサツゥ?』
 「ようし、それでいいんだ。」
 『…ここはケーサツじゃないよ〜。』
 「ここは警察じゃないよ!!!俺が警察から来たんじゃねえかこの野郎!!!」
 ラチがあかないので、警察官達はドアをこじ開けて踏み込んだ。
 『…だ〜れ〜?』
 「………。」
 中から応答していたのは三井(仮名)ではなく、外部からの音声に反応する自動再生CDプレーヤーだった。
 「三井(仮名)!どこだ!?」
 『…ケーサツゥ?』
 しかし、既に三井(仮名)の姿はどこにもなかった。
 「伊武(仮名)警部!これを見て下さい!」
 『…ここはケーサツじゃないよ〜。』
 部下が見つけたのは、壁に貼られたヨーロッパの地図。
 「…オランダか…。」
 『…だ〜れ〜?』
 オランダの地名の一つに赤ペンで○が付けられていた。
 「Scheveningen…何て読むんだ?」
 『…ケーサツゥ?』
 「…さあ…。」
 『…ここはケーサツじゃないよ〜。』
 「えーい、やかましい!!」
 伊武(仮名)警部はピストルを抜いてCDプレーヤーに怒りの銃弾を数発撃ち込んだ。

      スケベニンゲン…らしい
第(22)話「せめて、人間らしく」   完



第(23)話「涙」?

 三井(仮名)はオランダに飛んだ。目指す相手は数日前に彼の地に出張していたのだ。
 夢のお告げ?に従ったという訳でもないが、此の地に到着した三井(仮名)は早速相手にケータイでコンタクトを取った。
 『お前のやった事は全てまるっとお見通しだ!』
 『一体何を言っているのかね?』
 『俺が悪酔いしてつぶれていた時に掛けてきた声を覚えているか?』
 『それがどうした?』
 『碇司令から話は聞いているとか、調査でコンタクトした人が殺された事で自分を責めるな、とか言っていたが…ネルフ内部に敵がいる可能性を考え、碇司令と冬月副司令は俺にだけ極秘調査を依頼したんだ。』
 『…な…何…?』
 『それをなぜお前が知っているんだ?俺が調査でコンタクトした相手が殺された事をなぜ知っているんだ?』
 『…ふ…ふはははは、それがどうした。そんなもの何の証拠にもならんよ。』
 『…語るに落ちたな。』
 『何?』
 『先日の分も含め、今のお前の声は全て録音してある。さて、どうする?』
 勿論、先日の分の録音はブラフである。だが、相手はエサに食いついてきた。
 そして、此のスケベニンゲン海岸を交渉の場に指定してきたのだ。
 “さて、いよいよ大勝負だ。奴の口から真相を語らせれば、後はあの二人に報告して終わりだ…。”
 だが、その海岸で日光浴しているトップレスの女性に目を奪われたその一瞬の隙を突かれた三井(仮名)は、何者かに背後から海に突き落とされてしまった。
 “クソッ…ここまでか…。”
 三井(仮名)が最後に見たもの、それは自分を奈落の底に引きずり込もうとするものだった…。

      波だ…
第(23)話「」   完



第(24)話「最後のシ者」?

 三井(仮名)は実はカナズチだった。
 波に飲まれ、意識が薄れていく最中、走馬灯のように脳裏に甦る思い出は…。

 保護者代理として育成を任された、エヴァンゲリオン弐号機専属パイロットの惣流アスカ・ラングレーはわがまま一杯な少女だった。
 学校の水泳大会はどうだったかと聞くと「うっとおしい!」と蹴りを入れられ、疲れが溜まったのかと聞くと「気安く話しかけるな!」と蹴り付けられ、彼女の為に部屋をコーディネートしてみたら「勝手に人の部屋に入るな!」と蹴っ飛ばされ、休日の公園で出会ったエヴァンゲリオン零号機専属パイロットの綾波レイや同初号機専属パイロットの碇シンジと話していたら、脳天に踵落としを喰らった…。 
 そんなある日、三井(仮名)はアスカを連れて海岸にやってきた。
 気持ち良い潮風で日頃のストレスが消えていく感じがした…のも束の間、水着持参で来ていたアスカは早速海に入って泳ぎだした。
 慌てた三井(仮名)はカナズチである事を忘れて思わず海に入って…溺れた。
 で、結局三井(仮名)はアスカに助けられたのだが、その帰り道でラジオから流れてきたメロディは…。
 ♪君を見つけた、この渚に〜

      最後の渚
第(24)話「最後のシ者」   完



第(25)話「終わる世界」

 三井(仮名)ははっと気づいた。
 「…何だ、ここは?」
 三井(仮名)は周囲を見回した。
 辺りは灰色の靄が立ち込め、空にはどんよりとした黒い雲がどこまでも広がっていた。
 「…まさか、455じゃなくて死後の世界?」
 とにかく、三井(仮名)は移動してみる事にした。と言っても、何処と言う宛ても標も無かったが。
 と、前方に何かが見えてきた。近付いてみると、それは十字架の形をしていた。しかも5個。
 「…墓?」
 三井がその墓標を確かめようとしたその時、五つの十字架は音も無く後ろに倒れた。そして、その下の土の中から何かが甦ってきた。
 「…う、うわあああっ!!」
 それは、O島(仮名)、哭野(仮名)、港野(仮名)、溶込(仮名)、裏波(仮名)…事件の被害者達だった。
 腰を抜かした三井(仮名)の前に並んだ五人は双眸を金色に輝かせると、いきなり両腕を身体の左斜め上に持ち上げて踊りだした。
 ♪'Cause this is thriller
  Thriller night
  And no one's gonna save you
  From the beast about to strike
  You know it's thriller
  Thriller night
  You're fighting for your life
  Inside a killer
  Thriller tonight, yeah

      踊る死体
第(25)話「終わる世界」   完



第(25)話+「AIR」

 「冬月。どうやら犯人が分かったらしい。彼はオランダに行ったそうだ。」
 「オランダ!?まさか、では犯人というのは…。」
 「奴で間違いない。」
 「彼だけで大丈夫か?」
 「ふっ、問題無い…我々には心強い味方が付いてくれる事になった。」
 「その心強い味方とは?」
 ゲンドウは無言で例のポーズのままニヤリ笑いをした。
 「答えんか!」

 その頃、オランダはスケベニンゲン海岸で。
 「…あのコにお願いされて来てはみたものの、相手は海に落ちて行方知れずか…無駄足になりそうだな…。」
 男はそう思いながらもそのまま海岸を少し歩いてみた。すると…。
 「向こうにDRYもんがいるってさ!」
 「本当?見に行ってみようよ!」
 地元の子供達が数人、駆けて行った。見ると、少し先にも子供が何人か屯していた。
 「ねえねえ、DRYもんってどこ?」
 「…坊や、これはDRYもんじゃなくてどざえもんだよ。」
 そこにやってきた男は子供達に説明した。
 そこに流れ着いていたのは海に落ちた三井(仮名)だった。
 「…ねえねえ、死んでるの?」
 「どうかな?とりあえず何とかしてみるか…エイヤッ!」
 その男が活を入れてくれたおかげで三井(仮名)は気が付いた。
 まず、見えたのは青い空と白い雲だった。そして、思い出すのはあのメロディ…。
 ♪消える飛行機雲、僕達は見送った…。

       エイヤッ!
第(25)話+「AIR」   完



第(26)話「世界の中心でアイを叫んだケモノ」

 とあるホテルの一室の前に三井(仮名)と男はやってきた。
 「奴は中にいるようだが…Keyが無いと…。」
 「任せろ。」
 男はポケットからケータイを取り出すと、扉の電子錠に向けて何か操作した。すると、なぜか電子錠は開いた。
 「…何やら特殊な小道具みたいだな。」
 「企業秘密さ。」
 そして、二人はその一室に突撃した。果たして、中には三井(仮名)の目指す相手がいた。
 「田所(仮名)!もう逃げられないぞ!」
 「三井(仮名)!?どうしてここに…。」
 「この人に助けて貰ったんでな。」
 三井(仮名)の後ろにいた男を見て田所は驚愕…いや、戦慄した。
 「!?な…何であんたが…。」
 流石腐っても諜報部部長、自分達の業界では世界一の称号を持つ男の事は知っていたようだ。
 「…あんた、一体何者なんだ?」
 それを知らない三井(仮名)は思わず男に振り向いた。その一瞬の隙を見逃さず、田所(仮名)は銃を抜いた。
 だが、銃を三井(仮名)に向ける前に、田所(仮名)は眉間を撃ち抜かれていた。
 あまりにも一瞬の事で、三井(仮名)には止める間も無かった。
 「な、何で…何で殺したんだ!?あいつから真相を聞きだす予定だったのに!」
 「済まないな。私に銃を向けた相手は有無を言わさず射殺してもよいと許可を貰っているのでね。」
 「誰に許可を貰ったんだ?碇司令か?」
 「いや、女王陛下からだ。」
 彼は殺人許可証を三井(仮名)に見せた。
 「な、何っ!?そんな…まさか、世界一のスパイが何で俺に助力を…。」
 「日本のスーパーガールにお願いされたものでね。」

      世界の中心で愛を叫んだ戯け者
第(26)話「世界の中心でアイを叫んだケモノ」   完



第(26)話+(最終話)「まごころを、君に」

 「…という事で、残念ながら田所(仮名)を捕まえる事はできませんでした。」
 第三新東京市に帰ってきた三井(仮名)は早速ネルフに赴き、事の顛末をゲンドウ、冬月両名に報告した。
 「そうか…残念ながら、事件の真相は闇の中か…。」
 「申し訳ありません。」
 「いや、気にする事はない。我々に害する存在が抹消された訳だ。君は使命を十分に果たしたと言える。」
 「ご苦労だったね、三井(仮名)君。」
 冬月は三井(仮名)を労った。
 「さて、報酬の件だが…。」
 「え?頂いてもいいんですか?」
 「誰もまだ払うとは言っておらんが?」
 「そ、そんな、さっき十分に使命を果たしたって言ったじゃないですか!」
 「まあ、話を聞き給え。契約では必要経費は全額こっちで持ち、報酬は半分は前払い、成功したら残りの半分も払う、という事だった筈だ。田所(仮名)の死で真相は闇の中では、成功とは言えまい?だからこそ、君は貰ってもいいのか?と訊いたのだろう?」
 「いや、それは、その…。」
 「そこでだ。新しい契約を結ばないかね?」
 「え?オランダに行ってる間にまた何か事件が?」
 「そうではない。田所(仮名)が死んだと言う事は、情報部部長がいないという状態な訳だ。これはネルフにとってもいい事ではない。だが、我々の目の前には有能な人材がいるのだよ。」
 「えっ?では、私を情報部部長に?」
 「引き受けてくれんかね?」
 「いや〜、それはちょっと…。」
 「ネルフの人間は国家公務員の手が及ばない国際公務員だ。で、君は今警察に重要参考人としてマークされているのではなかったかな?」
 「う…仕方ありませんね、お引き受けします。」
 こうして、かつて作戦部の一下級職員でしかなかった三井(仮名)は情報部部長という重職に華々しく返り咲いたのだった。
 おそらく、今後もゲンドウ&冬月から無理難題を押し付けられる事になるだろうが、それはまた後の話である。

            下心を、君に
第(26)話+(最終話)「まごころを、君に」   完



超人機エヴァンゲリオン3

「妖夢幻想譚」第八章「迷探偵エヴァンゲリオン」

 完
あとがき