EPISODE5 「KIKAIDER」 謎の爆発事件の真相をネネは知った。そして戦い続けねばならなかったシンジ達の悲しい運命も。 “我が下僕よ…今こそ我が許に参じよ…そして我の命ずるままに戦うのだ…それが汝の使命である…。” それが最後の一人になったシンジに頭上から降ってきた光によってもたらされた、プロフェッサー・キールの暗示だった。 「どこに行くの?」 「かつて第三新東京市と言われた所…そこにあった人工進化研究所。」 そこは荒れ果てた大地と化していた。まるで、サード・インパクトから時が止まったようだった。 ぽっかりとできた大地のクレーター。その中心にシンジの目指す物が有った。 「あれって…まさか、ピラミッド?」 「行ってみなければわからない。」 だが、クレーターに降りる道など無い。二人はロープを伝って崖を降りていった。 星空の夜、二人はテントの中で一緒に毛布に包まった。 シンジはネネの身体を抱きしめた。 「貴方の身体はとても温かい…人工の身体なんて思えない…。」 「嘘でもそう言ってくれると嬉しい。」 シンジはネネにキスをした。 目的地に二人は辿り着いた。だが、扉は堅く閉ざされていた。 「どうするの?」 「仕方が無い、破壊して進もう。」 シンジは剣を抜くと、扉に向かって一閃した。 扉はものの見事に真っ二つにされ、崩れ落ちた。 中は薄暗く、通路には弱々しく電灯がついているだけだった。 「こんな広い建物なのに誰もいないのかしら?」 「いるのはおそらくプロフェッサー・キールだけだろう。」 とは言うものの、何が出てくるかわからない。 シンジとネネは慎重に歩を進めていった。 二人はやがて、巨大な縦穴に辿り着いた。 「この下?どうやって降りるの?」 下を覗き込んでも暗黒の世界が広がっているだけだ。 「何か方法がある筈だ。」 二人は周囲を探し、やがてエレベーターを見つけてそれに乗り込んだ。 巨大な縦穴をその内周に添って螺旋状に降下していくエレベーター。 「プロフェッサー・キールに会ってどうするの?」 「殺す。」 「一度死んだ貴方を甦らせてくれたんでしょう?」 「それも、世界征服の手駒として使う為だ。そんな事、許せはしない。」 停止のボタンを押していないのに、エレベーターは自動で停止し、扉が開いた。 「ここで降りろという事のようだ。」 二人はエレベーターから出ると、道なりに通路を進んだ。 途中途中で幾つかドアがあったが、みな固く閉ざされていた。 そして何個目かのドアの前に来た時、そのドアは自動的に開いた。 その部屋の中には机と大きな椅子が一つ置いてあった。 「誰もいないのか?」 「よくぞ来た、我が下僕よ。」 声がして、向こうを向いていた椅子の影から何者かが立ち上がった。 「誰だ?」 「お前にとっては神に等しい存在だ。」 その者はシンジ達に向き直った。そこにはバイザーを付けた白髪の老人が待っていた。 「私はプロフェッサー・キール。来るべき宇宙世紀の支配者となるものだ。」 「生憎だが、僕にとって神などいない。」 「この私に従う気は無いという事か?」 「その通り。僕は貴様を倒す為にここに来たんだ。」 シンジは剣を抜いた。 「愚かな…私はお前を死の世界から呼び戻し、不死身の身体を与えて生き返らせてやったのだぞ。」 「それは世界征服と言う貴様の野望の為だろう。その為にレイもアスカもトウジもカヲルも死んだ。不死身の身体を持つが故に生身の人間と共に生きる事は許されず、多くの悲しみと寂しさを味わせられた。僕達人造人間にとって、貴様は神どころか悪魔だ!」 シンジはキールに切りかかった。だが、シンジの剣は見えない壁に阻まれた。 「な…。」 よく見ると、シンジ達とキールの間にはガラスのような壁で仕切られていた。 「それは硬化テクタイトでできた壁だ。剣などでは傷も付かぬ。」 「ならば、本気で行くしかなさそうだ。」 「本気って…シンジ、まさか…。」 「今こそ僕の本当の姿を見せてあげるよ。チェンジ・キカイダー!!」 シンジがその言葉を発した瞬間、シンジの身体は光に包まれ、その光が治まった後にはシンジとは似ても似つかぬ、人間ではない何者かが其処にいた。その身体は鈍く光る紫の金属に覆われ、頭も紫のヘルメットのような物が被さっていた。そしてそのシールドの部分には目と思われる位置に金色の光が灯っていた。 「でぃああっ!!」 キカイダーは烈迫の気合を込めて剣で突きを繰り出した。 「な!」 キールの予想外の事が起こり、その剣は硬化テクタイトを貫いた。そして剣を中心に次々と皹が全体に走っていき、やがて崩れ落ちた。 それは、キカイダーとしての力だけでなく、シンジが長い年月に渡って修行を続けてきた剣術の成果でもあった。 「お、おのれ…。」 キールは手に持っていた何かのスイッチを押した。すると、キールの背後に何個か立っていたカプセルが開き、中から何か出てきた。蜥蜴のようなフォルムの頭部を持つ、白い人間体…それは、キールがシンジ達とは別に作っていた、人間の心を持たない人造人間だった。 「こやつを捕らえよ!」 キールが命令すると、その白い人造人間達は一斉にキカイダーに飛び掛った。 だが、それらは多く作れはしたが所詮は人間の心を持たない存在であり、シンジ達のような人造人間の手下となるべく生み出されたもの。所詮キカイダーの敵ではなく、首から上を飛ばされる、或いは胴を上下に真っ二つにされるなどしてことごとく息の根を止められてしまった。 「プロフェッサー・キール…覚悟!」 キカイダーはキールに剣を突きつけた。 「ま、待て!この私を倒して何とする!?私には聞こえる…全ての人間達の心の声が…決してわかり合おうとしない、心に何か欠けた部分がある…人間など、所詮は己の欲望に従い、他人を傷つける存在でしかないのだ。我々選ばれた存在にとっては虫けら同然の存在なのだぞ!」 「…僕にはその虫けらの方が大事なんだ!」 キカイダーは剣をキールの胸に突き刺した。そしてその剣を引き抜いてすぐにトドメの袈裟切りを放った。 「…愚か…者め…。」 キールは仰向けに倒れていった。 キカイダーの身体が光に包まれた。その光が治まった後、キカイダーは元のシンジの姿に戻っていた。 「…これで、貴方の戦いも終ったのね。」 「ああ…長い戦いだった…。」 シンジがネネに歩み始めたその時。 「それで勝ったつもりか?」 「何!?」 シンジが振り向くと、倒した筈のキールがゆっくりと起き上がった。何故か手には小さな笛を持っている。 「…まさか!?」 そう、シンジ達人造人間を造ったキールが、シンジ達と同様に未だ生きていたという事は、キールも不死身の身体を持っていたことを意味していた。 「では、お前の立場と言うものを思い知らせてくれよう。」 キールは小さな笛を吹き始めた。 ♪〜♪〜♪〜〜〜、♪♪♪〜〜♪♪♪♪〜 「…う…ぐああっ!」 途端にシンジの頭に割れるような痛みが発生し、シンジは頭を抑えて蹲った。 “我に従う気あらば、まずはそこの人間の女を殺せ。さすればその痛みは消えよう。” キールの声が脳裏に聞こえてきた。 「い…嫌だ…誰が貴様に…従うものか…。」 “では、永遠にこの痛みに苛まれるがいい。” 「うぐあああっ!」 シンジは頭を両手で抑えて悶え苦しむ。 「シンジ!しっかりして、シンジ!…お願い、シンジを苦しめないで!」 シンジに寄り添ったネネはキールに哀願したが。 「では、貴様からそやつに言うがよい。諦めて私に従え、とな。」 「そんな…。」 「そやつを助けたいのだろう?例え人間ではなくとも愛しているのではないのか?」 キールの言葉にネネは歯噛みする事しかできない。 「何を迷っている?お前の一言でそやつは苦しみから解放されるのだぞ?」 人間の弱さにつけこもうとするキールはさらに残酷な言葉を放った。 「そうか、言わぬか…よかろう、お前が言わなければこの笛の音をさらに強くしてやる。そやつの苦しみを大きくするのはお前だ。」 「や、やめてえぇっっ!!」 ネネは涙をこぼしながら叫んだ。 だがその時、急にシンジの苦しむ声が聞こえなくなった。 「シンジ?」 気絶したのか?とネネがシンジを見ると、シンジはネネの手を支えにゆっくりと立ち上がった。 “な…何?” キールは驚いた。シンジのその瞳は澄んだ輝きを持ち、割れるような頭痛など感じていないかのようだった。 シンジは呪文のように呟いた。 「…我が身、既に鉄也り…我が心、既に空也り…。」 “ば、馬鹿な…この悪魔の笛の音が通じぬなど…。” 「…天魔伏滅!!」 シンジの剣が一閃され、キールの頭部が宙に飛んだ。そしてそれは地面に落ちて転がりを止めた後、発光を始めた。その光はやがて一筋となり、シンジの胸に突き刺さった。 「うああああぁぁぁ!!」 キールのエネルギーが自分に流れ込み始め、シンジも思わず絶叫を上げていた。 そして…いきなりキールの頭部は爆発し、消滅した。それと同時に光のシンジへの流入も終わった。 「…はぁ…ふぅ…はぁ…ふぅ…。」 しばらく荒い息をしていたシンジはそれが落ち着くと床に座り込んだ。 「今度こそ…本当に終わったのね。」 「ああ…今度こそ。」 「…お疲れ様。」 ネネは背後からシンジを抱きしめた。 第五章 キカイダー・シンジ 完 TO EPIROGUE