ＨＯＲＲＩＢＬＥ　ＦＡＮＴＡＳＩＡ

ＥＰＩＳＯＤＥ２「ＺＥＲＯ−ＯＮＥ」

　それは今からどれ位前の出来事だっただろうか…正確な事はシンジも覚えていない。
　セカンド・インパクトで荒廃した世界で人々は各地にコロニーを作って暮らしていた。
　だが、シンジ達のコロニーは隣のコロニーと度々武力衝突を繰り返していた。早い話が縄張り争いだ。土地が広ければ広い程、生きていく為の糧が多く得られる。
　１８歳になったシンジもついに出撃する事になった。
　「シンジ、お前は初陣だ。無理をするな。叶わぬと思ったらすぐに引け。」
　「安心しろ、今回は我々が後ろについている。」
　歴戦の勇士、アンガスとバトラスがシンジの背中を軽く叩いて笑った。
　だが、敵勢力は既に戦場に布陣を終えていた。そしてその中に一人、葦毛の馬に跨り白銀の鎧で身を包んだ者がいた。
　「みんな、よく聞いてくれ。あのシンジという戦士には手を出さないように。」
　「何故？」
　「彼は、僕の獲物だ。」
　白銀の騎士の紅い瞳が冷たく光った。
　「心得た。」
　やがて、双方の軍団が戦場に集結を終え、戦が始まった。
　相手の剣や槍での攻撃を躱す、或いは盾で防ぎ、逆にこちらの武器で相手の弱点を攻撃する。
　攻撃を受けた者は傷付き、血を流し、地面に倒れ臥し、物言わぬ躯と化していく。それを気に留める者はいない。正に‘死して屍拾う者無し’。
　そして、周囲で命懸けの戦いが繰り広げられている中、シンジは一人、戦いから取り残されていた。
　「何故だ！何故誰も僕と戦おうとしないんだ！？」
　「お前には幸運の女神が憑いているのだよ。」
　「それとも、戦う価値も無い奴だと思われているんじゃないか？」
　アンガスとバトラスはシンジに戯言をほざきながらも敵の戦士を倒していく。
　「誰でもいい！僕と戦え！」
　シンジがそう喚いた時だった。いきなり葦毛の馬に乗った白銀の騎士がシンジの前に現われた。
　「僕と戦え！」
　その声に反応したのか、白銀の騎士も剣を抜いた。
　「行くぞ！」
　シンジは剣を振り上げた。だが、斬りつけようとする寸前、シンジの胸に騎士の剣が突き刺さった。
　「う…ぐ…。」
　騎士の剣が引き抜かれ、シンジは地面に倒れた。
　「シンジ！」
　「おのれ！」
　アンガスとバトラスは対していた敵を蹴散らしてシンジの元に向かった。
　「ハハハハハ、今度は僕の勝ちだ、シンジ君。ハハハハハ―――。」
　戦いは、双方に多くの死傷者を出しただけで決着が付くことなく終わった。
　哀れ、シンジは僅か１８年を生きただけでその生涯を閉じる事になった…。


　だが、翌日、シンジは何事も無かったかのように飲み屋に姿を現した。その瞬間、人々は一斉に言葉を失い、飲み屋の中は凍りついたようになった。
　シンジはそんな事御構い無し…というか、気にも留めずに歩みを続け、テーブルで哀しみの酒を飲んでいたアンガスとバトラスの傍にやって来た。
　「アンガス！バトラス！」
　シンジは笑顔で二人に声を掛けた。だが、バトラスはいきなり剣を抜いてシンジに向けた。
　「バトラス…何のまねだよ？」
　「それはこっちのセリフだ…シンジ、お前は死んだ筈だ…何故、此処に居る？」
　「僕が死んだ？何を言ってるんだよ、僕は此処にこうして生きているじゃないか。」
　「シンジ…お前は死んだのだ…おとなしく死の世界へ行くのだ。」
　アンガスはコップを置いて静かに諭すように言ったが。
　「嫌だね。」
　シンジが拒絶したその直後、シンジの頭を衝撃が襲った。誰かが後頭部を瓶で殴ったのだ。
　「こいつは悪魔だ！悪魔の戦士だ！」
　「焼き殺せ！」
　「火炙りだ！」
　狂乱する人々によってシンジは縛り上げられ、処刑場へ引きずり出された。
　「悪魔を殺せ！」
　「悪魔を殺せ！」
　シンジは火炙り台に鎖で括り付けられてしまった。
　「悪魔を殺せ！」
　「悪魔を殺せ！」
　人々のシュプレイヒコールが続く。その時。
　「やめよ！！」
　何者かの怒号が響いた。それは、このコロニーの長老だった。
　「同胞だった者だぞ！それを火炙りにする等、神の怒りを齎す行為だと気づかぬのか！？」
　長老のその言葉に人々は口を噤んだ。
　「この者は追放する。」
　「しかし！」
　バトラスが異議を唱えようとしたが。
　「火炙りにはしない！」
　長老の宣言にさしものバトラスも押し黙った。
　「アンガス。鎖を切れ。」
　長老の命令でアンガスは剣を一閃し、シンジを火炙り台から解放した。ただし、後ろ手の拘束は其のままだが。
　「行け。二度と我々の前に姿を見せるな。」
　「もし、また戻ってきたら、其の時こそ、お前を地獄に送る。」
　「アンガス…バトラス…さらばだ…。」
　かくして、シンジは石もて追われるようにコロニーから去る事になった。


　嵐の吹きすさぶ原野……ボロボロの茶褐色のマントを纏い、杖をつきながらシンジは鈍い歩みを続けていた。
　“僕は…何処に行こうとしているのだろう…何処に、安住の地が在ると言うのだろう…。”
　シンジは石に躓いて無様にスっ転んだ。
　“こんな僕を…誰が受け入れてくれると言うのだろう…。”
　悔しさに、哀しさに、寂しさに、シンジは目の前に合った草を握り締めた。
　その時、馬の嘶きがしたかと思うと、シンジの前に一頭の白馬が何処からか現われた。いや、馬だけではない。
　「…貴方…シンジって言うんでしょ？ハイランドから追放された…違わない？」
　馬には、純白の軽やかそうな衣に身を包んだ、シンジとたいして歳が違わないような女性が跨っていた。
　「…君は…誰だ？」
　「私はレイ。出身はネルフタウンよ。」
　そう言って彼女は白馬からたおやかに降り立った。その腰には細身の剣が備わっていた。
　どうやら、彼女は女でありながら騎士らしかった。
　「！」
　そして、シンジは彼女の瞳が紅い事に気付いて身を硬くした。
　“まさか…あいつの仲間か？”
　「…そう、敵視しなくてもいいんではなくて？私はあいつと同じ一族だけど、あいつの仲間ではないわ。」
　「…では、僕の味方なのか？」
　「そう。私は貴方を助けにきたの。」
　「僕を助けに？何故？」
　「貴方は私と同じだから。」
　「何が同じなんだ？」
　「一度死んで、生き返った…そうでしょう？」
　「！！」
　シンジは驚愕した。
　「僕は本当に死んだのか？あいつに刺されたのは覚えてる。それから気を失って…でも意識を取り戻して…それで…。」
　シンジはあの時の事を思い出して唇を噛んだ。
　「一緒に来てくれる？貴方がどうして生き返ったのか、その訳を教えてあげる。」

　シンジはレイに連れられて彼女の棲み家にやってきた。其処は、湖の畔に立つ尖塔だった。
　「君は此処に一人で暮らしているのか？」
　「ええ。まあ、近くに時々キャラバンが来るから必要な物はその時に手に入れてるわ。」
　レイは愛馬を塔の外に作った馬小屋に入れると、シンジを従えて傍の湖でボートを漕ぎ出した。
　「何処まで行くんだよ？それに肝心の話は？」
　「此処ぐらいで良さそうね…シンジ、よく聞いて。貴方は今、確かに生きている。でも、それは人造人間として、よ。人間としてのシンジは死んだわ。」
　「人造人間？」
　「その名のとおり、人に造られた人間。貴方は今は人間の姿をしているけれど、それは仮の姿。本当の姿は人間ではないの。」
　「何を訳のわからない事を！」
　「貴方はあいつに刺された…決して助かる筈がない傷を負った…でも、貴方の心が天国へ行く前に、誰かが貴方の心を元の身体から抜き取って不死身の身体の中に封じ込めたの。今、貴方が以前と同じ姿をしているのは、貴方がまだ人間としての理性を持っているからよ。」
　「信じられるか！僕が人間じゃないっていう証拠が何処にある！？」
　「其処にあるわ。」
　レイは湖面の一部を指差した。
　「何処に？」
　「湖の中よ。よく見てみなさい。」
　「まさか、僕の身体があるとかいうんじゃないだろうな？」
　シンジはボートから身を乗り出して湖の中を見た。その途端、レイはいきなりシンジを湖の中に突き落とした。
　「な、何を…。」
　シンジはパニックになった。別にカナズチでもないのに身体がひどく重く感じられ、思うように泳げない、いや、水に浮かぶ事ができないのだ。
　「た、助けて！お、溺れる！！」
　「溺れないわよ。貴方は不死身だもの。」
　レイはシンジを見捨てるかのようにボートを漕いで岸に戻っていく。
　湖底に沈んでいくシンジ…またも死んでしまうのか？
　だが、シンジは溺れなかった。何故か水の中でも息ができるのだ。
　「はは…はははっ…あはははは！」
　シンジは何故かそれが楽しくて水の中で笑った。水中で吐き出した息が気泡となって水面へと昇っていく。
　だが、シンジはどういう訳か泳ぐ事ができなかった。だから、湖の底を歩いて岸へと向かった。
　
　岸に近づいたシンジは静かに水から上がり、レイの姿を探した。
　レイは水際で焚き火をしていた。　
　シンジは足元に転がっていた棒切れをつかむと、足音を立てないようにレイに近づき、そして至近距離からレイの頭に棒を振り落とした。
　だが、確かにレイに仕返ししたと思ったのに、シンジの手にした棒は空しく地面を叩いただけだった。
　「自分が不死身だって事、理解できた？」
　と、唖然とするシンジの真横から、シンジの首元にレイの剣が突きつけられた。
　寸前でレイはシンジの目にも留まらぬ速さで飛び退いていたのだ。
　「まだまだ遅いわよ。そんなんじゃ、あいつに勝つ事は夢のまた夢ね。」
　レイは剣を退いた。
　「ま、焚き火に当たって服を乾かしなさい。それから貴方の疑問に答えてあげる。」
　シンジはともかくレイと共に焚き火の傍に座った。
　「…何で…当たらなかったんだ？」
　「危機を感知する事、そして自身の能力を最大限に発揮する事…人造人間ならば誰にも可能よ。」
　「…ならば…君も僕と同じ…？」
　「そう、私も貴方と同じ、プロフェッサー・キールによって作られた人造人間。」
　「プロフェッサー・キール？」
　「本名はキール・ローレンツ。」
　「ローレンツ…まさか、ロレンツォ翁が！？」
　それは、シンジの居たコロニーの長老。シンジを火炙りから救ってくれた恩人。
　「どうして…どうしてロレンツォ翁が僕を人造人間に…。」
　「それは、世界征服の為。」
　「世界征服？」
　「プロフェッサー・キールは世界征服の為、自分の下僕となる人造人間を作り出した。不死身の、無敵の、自分に忠実な先兵…それを使って世界を我が物にしようとしているのよ。」
　「では、君は何故それを僕に教える？君がロレンツォ翁に造られた人造人間ならば、そんな事は秘密にしておくのでは？」
　「心を支配されていないからよ。貴方もね。」
　「心を支配する？」
　「何らかの方法で私達を自分の命令に従わせる事ができるみたいなの。もし、命令を聞かなければ、頭が痛くて死にそうになるそうよ。」
　「死にそうになる…って、人造人間は不死身なんだろう？」
　「首を切り落とされるとか火炙りにされたらいくら人造人間でも助からないわ。」
　「じゃあ、ロレンツォ翁が僕を火炙りから助けてくれたのも！？」
　「貴方の考えてるとおりよ。それともう一つ…。」
　「何だ？」
　「人造人間同士が戦って首を切り落とせば、勝者は敗者のエネルギーを吸収してパワーアップできる。」
　シンジは何が何だかよくわからない。
　「最初に作られたのは私。貴方は三番目。何処かに二番目がいるらしいけど、まだ私は会っていない。」
　「じゃあ、まだ人造人間は増えるのか？」
　「おそらくね。そしていつか、プロフェッサー・キールに心を支配された人造人間が私達を殺しにやって来る。」
　「そんな！同じ人造人間同士で殺し合うなんて！」
　「それが私達人造人間の宿命。」
　「宿命…。」
　「だけど、私は敢えてその宿命に抗う事にした。たとえ誰かに作られた身体でも、私は生きている。他人の下僕になるなんて真っ平御免よ。だから、私は他の人造人間達を集め、みんなでプロフェッサー・キールに立ち向かう事にしたの。どうか、私に協力してくれないかしら？」
　「僕が何の役に立つって言うんだ？」
　「今の貴方は弱いわ。まだ、戦い方を知らないから。だから、私が戦い方を教えてあげる。」
　そして、その日からシンジが真の戦士となる為の修行が始まった。


　一ヶ月が過ぎた頃。
　外は雨と風が荒れ狂う嵐の夜。
　「あいつは…一体何者なんだ？」
　シンジがレイに訊きたいのは勿論、かつてシンジを殺したあの紅い瞳の騎士についてだった。
　「あの男の名はカヲル。私と同じ日に生まれ、共に育った。先人から剣の手ほどきを受けたのも一緒。」
　「何か、話した事はあるのか？」
　「特にこれと言って…彼は無口だった。まあ、当時の私もそれ程違わなかったけれど。私達は何の為に生まれたのか、何故剣の手ほどきを受けているのか、ただその事を考え続ける毎日だった。」
　「そうか…それで、君は何故死んだんだ？」
　「貴方と同じよ。」
　「何！？」
　「私はカヲルに殺されたの。」
　「だって、同じ一族で、一緒に剣を学んでいたんだろう？」
　「私達の剣の師匠は、最後に私達に戦うように言ったの。そして、私は負けた。」
　「そんな！一緒に教えてきた弟子同士を戦わせるなんて…。」
　「そして、死んだ私は人造人間として生き返った…。」
　「…まさか…二人の剣の師と言うのは…。」
　「プロフェッサー・キールの仲間、シャドウという男よ。生き返った私はシャドウから全てを聞かされた。プロフェッサー・キールの野望、そしてそれを打ち砕く為に敢えて私達を戦わせ、負けた方を人造人間にした、と。」
　「えっ？でも、シャドウはプロフェッサー・キールの仲間だったんじゃ…？」
　「仲間の振りをしていたという事ね。シャドウは私をプロフェッサー・キールに渡す前に逃がしてくれた。」
　「それで、そのシャドウは今は？僕達の仲間になってくれるのか？」
　その時だった。
　いきなり、ドアが何者かによって幾度も切り裂かれ、崩れ落ちた。
　「カヲル！」
　其処にいたのは、紅い瞳と銀髪の男。
　「おや、これは懐かしい顔だ。シンジくんを探していてまた君に巡り会うとは。」
　「あんたに復讐する為に地獄から戻ってきたのよ。」
　レイはすぐさま剣を抜いた。
　「シンジ、逃げなさい。」
　「レイ！？僕だって戦える！君に鍛えられて強くなったんだ！」
　「三本に一本しか取れないようじゃ、こいつの前では子供同然よ。」
　「でも！」
　と、いきなりシンジをカヲルの剣が襲った。だが、それをレイの剣が食い止める。
　「敵が来たとわかっているのにまだ剣も抜いていないなんて、まだまだだね。」
　「その通りよ。逃げなさい、シンジ。貴方がいては私も全力で戦えないわ。」
　レイとカヲルは鍔迫り合いを続ける。
　「ふふ、面白い。地獄から戻ってきたという君の力、僕に通用するか試してみるといい。」
　カヲルは不敵な微笑を見せた。
　「シンジ、何をしているの！早く逃げなさい！」
　「でも！」
　「私の事は気にしないで。生きていれば、また何処かで会えるわ。だから、今はシンジは自分にできる事をしなさい。」
　「…わかったよ…必ず、何処かで会おう！」
　シンジはそう言って、自分の愛剣を掴むと奥の出口へ走り出した。
　出口のドアが閉まる音がして、シンジがこの塔から逃げ出した事を確認したレイは後方に飛び退って構え直した。
　「今こそ、私の真の姿を見せてあげるわ。チェンジ・ゼロワン！！」
　レイがその言葉を発した瞬間、レイの身体は光に包まれ、その光が治まった後にはレイとは似ても似つかぬ、人間ではない何者かが其処に居た。その身体は鈍く光る青い金属に覆われ、頭も青いヘルメットのような物が被さっていた。そしてそのシールドの部分には目と思われる位置に金色の光が灯っていた。
　「…！？その異形は…成る程、地獄から戻る為には人間である事を捨てねばならなかったという事かい？」
　最初は驚いたものの、やはり尋常であらざる者であるせいか、カヲルはすぐに冷静さを取り戻した。
　レイ…いや、ゼロワンは無言で剣を構えた。
　「それでは…行くぞ！」
　カヲルはゼロワンに斬り掛かった。だが、その切っ先をゼロワンは紙一重で躱した。
　“あ…当たらない…何故だ！？”
　嘗てレイに勝ったその自信が脆くも崩れ去り、カヲルの剣筋が鈍った。
　ゼロワンへの渾身の一撃を容易く躱され、カヲルは体勢を崩した。その隙を突いて、ゼロワンの反撃が当たった。
　「ぐっ！」
　喉元を斬られ、カヲルの鮮血が溢れ出た。
　「ぐああっ！」
　カヲルは劣勢を挽回しようと剣を無茶苦茶に振り回した。だが、暴れれば暴れる程、逆に隙が出来てしまい、ゼロワンの正確無比な攻撃のみが命中していく。
　両腕、両脚にも傷を負い、カヲルは窮地に立たされた。
　その時、二人が戦う塔の頂上に雷が落ちた。
　大音響と共に天井部分から塔が崩壊していく。
　「！」
　その破片を右に左にかわすゼロワン…だが、その背中にカヲルの剣が突き刺さった。一瞬の隙を突かれてゼロワンは思わず片膝をついた。そして、運悪くゼロワンの上に塔の残骸の大きな塊が落ちてきた。
　全ての崩落が治まって静寂が戻った時、ゼロワン…いや、レイは地に倒れ臥し、カヲルは剣を杖にして立っていた。
　「フフフフフ、どうやら天が僕に味方してくれたようだね。」
　「…今、此処で私の命が潰えても…私の希望は残る…。」
　「一つ訊いておきたい。君を地獄から引き戻したのは何処の誰だ？」
　「…いつか、お前にも死が訪れる…そうすれば嫌でもわかる…。」
　偶然とは言え、人造人間に勝った人間である。プロフェッサー・キールがその触手を伸ばすのも時間の問題だろう。
　「そうか。ならば、君にはもう用はない。今度こそ、引導を渡してあげよう。」
　カヲルは剣を振り上げ、レイの首に振り下ろした。
　レイの頭部は地面に落ちて転がりを止めた後、発光を始めた。その光はやがて一筋となり、カヲルの胸に突き刺さった。
　「うおおおおぉぉぉ！！」
　レイのエネルギーが自分に流れ込み始め、カヲルも思わず絶叫を上げていた。
　そして…いきなりレイの頭部は爆発し、消滅した。それと同時に光のカヲルへの流入も終わった。　
　“…な…何だ、この感覚は…まるで、みるみる力が漲るようだ…。”
　事実、ゼロワンに切り裂かれた喉と両腕脚の傷も見る見る内に塞がっていく。
　“これは一体…？”
　肉体の異常な速度の回復に気づいたカヲルは決意した。
　“…どうやら、是非とも謎の人物に会う必要があるな…何処の誰かも知らないが…。”



第二話「ゼロワン・レイ」完
ＴＯ　ＢＥ　ＣＯＮＴＩＮＵＥＤ