ここは日本のとある場所…荒野に風が吹きすさび、地面をケサランパサランのような藁玉が転がっていき、何故かところどころにメキシコ産らしきサボテンがそびえている。 その彼方から、一人の男がやってきた。その男は、黒いジャケットとジーンズにテンガロン・ハットで身を包み、背中にナップザックと一本のギターを抱えていた。 「待てえっ、じじい!」 [彼]が声のした方を見ると、一人の老人が三人の人相の悪い男達に追われていた。 「た、助けて下され!」 老人は[彼]を見つけると駆け寄ってきて、その身体に縋りついた。 二人の前に三人の男達がにじり寄ってきた。 「若造!怪我したくなかったら引っ込んでな。」 「見れば他所モンのようだが…。」 「余計な事に首突っ込むんじゃねえ!」 三人の男達は凄んできた。が。 「ふっ。」 [彼]は小さく鼻で笑いながら指をチチチと振り、目深に被っていたテンガロン・ハットを少し上に上げた。 「生憎、余計な事に首を突っ込むのが俺の趣味なもんでね。」 そう言って[彼]はナップザックとギターを老人に持っていてくれるように頼んで渡した。 「野郎!おとなしくしてりゃ付け上がりやがって。」 一人がナイフを抜いた。 「ちぇ〜すと!」 ナイフを抜いた男が突っかかってきたが、[彼]は身体を開いて軽くかわし、逆に男の後頭部に裏拳を叩き込んだ。さらに襲ってきた二人も肘打ちと回し蹴りで軽く捌く。 「く…くそっ!」 「覚えてけつかれ!」 比較的ダメージの薄かった一人が二人を引きずりながら戻って行った。 「ははあっ…有難う御座いました。ありがと…。」 老人が頭を下げてお礼を述べていたその時、[彼]は先の小競り合いで地面に落ちたテンガロン・ハットを拾おうとしてそのまま倒れてしまった。 「どうしたんだね?奴等にやられただか!」 が、[彼]は腹の虫をぐ〜っと鳴かせて答えた。 「はは…ここのところ、ろくなもの食べてないもんで。」 荒野の一軒家に風が吹き付けていた。 「…てな訳でこの人に助けてもろたのじゃ。」 「ふ〜ん…そんな風には見えないけどなあ。」 老人の孫娘が見つめるその先には、がつがつと猛烈な勢いでメシを掻き込む[彼]の姿があった。 「それにしても、ま、よく食べる事。」 既に炊飯器の中のご飯はきれいに無くなっていた。 と、孫娘は[彼]の荷物にギターがあるのを見つけた。 「随分ボロボロのギターね。音出るの?」 孫娘がギターに手を伸ばしたその時。 「!触るな!」 [彼]は慌てて立ち上がった…と思ったら、椅子に脚を引っ掛けてすっ転んだ。 「大丈夫?」 「はは、なに、こういうのには慣れてるからね。」 [彼]はギターを手に取った。 「このギターは…恋人の形見なんだ。」 “アスカ…。” [彼]は過去を回想した…。 研究所に務めていた[彼]とその恋人の惣流アスカ。 だがある日、研究所はいきなり謎の秘密結社に襲われ、アスカは[彼]を庇って撃たれてしまった。 アスカ〜ッ!! シンジ…お願い…エヴァスーツとエヴァッカーを…正義の為に…。 アスカ!アスカ〜ッ!! 惣流アスカは死んだ。二人が作り上げたエヴァスーツを残して…。 “これを使って、必ず犯人を探し出してやる!” シンジはさらに一人でエヴァッカーを完成させた。 “アスカ!お前の仇は、俺が取る!!” 「ところであいつらは一体何者なんです?」 「ん…タチの悪い暴力団じゃよ。半年ほど前にこの町に来て、強引に土地を買い漁っとる。」 その時、ドアが開いて噂していた連中が現われた。 「暴力団とは人聞きの悪い…私は皆さんの為に奉仕しているつもりですよ。」 そう言ったのはボスらしき、立派なスーツに身を包んで葉巻を咥えた男。 「この町に大レジャーセンターを作り、観光客を呼ぶのです。そうすれば地元のあなた方にどんどんお金が入って…みんな豊かになる。」 だが、[彼]にはそのカラクリがすぐわかった。 「どんどん金が入るのはあんたのポケットだろう!」 「あ、あいつですよ。俺達をやっつけたのは。」 先程やられた三人がボスに耳打ちした。 「ほう、そいつが…。」 ドアの外で様子を伺っていたらしい、着物に袴という和装スタイルの男がゆらりと入ってきた。 「おう、先生!」 「大鎌先生!」 「おうおう、かっこつけて。やだねぇ。」 苦笑する[彼]。だが、いきなり大鎌は何かを投げつけてきた。 「わ!」 六本の手裏剣が[彼]の身体を囲むように壁に突き刺さった。 「この町から出て行く事だ…俺の手裏剣が胸に刺さる前に…な。」 大鎌は[彼]を睨んで言ったが、[彼]は言い返した。 「ひゃあっ、凄い腕だ。流石日本で二番目!」 「二番?では誰が一番だと言うのだ!?」 「…勿論、この僕さ。」 [彼]はにやっと笑って親指で自分を指差した。 「………………。」 根拠の全く無いその自信満々の笑みに暴力団達は一瞬沈黙した。そして。 「うははは!」 「ひーひっひっひっ。」 「よくもまあぬけぬけと。」 大笑いする暴力団達。 「おじいちゃん、あの人どうなってるの?」 「知るか!」 老人と孫娘も少々呆れている。 「若いの、大層な自信だな、えっ。」 「まあね。」 大鎌が睨みつけると、彼は後ろ向きに手裏剣を投げた。だが、その二本は明後日の方向に飛んで壁に突き刺さった。 「はは!一体どこへ投げてるんだ!」 「ひひひ!日本一だってよ。」 だが、笑う三人のズボンがいきなり落ちた。三本の手裏剣は三人のベルトを切り裂いていたのだ。 「ままさか。」 「そんな。」 慌てる三人。 「まだ一本残ってるんだけどな。」 [彼]が残りの一本を手の中で遊ばせると、三人の顔は引き攣り…。 「お邪魔しました〜っ!」 三人は慌てて逃げ出した。一人はお約束のように壁にぶち当たったが。 「あっ、こら、お前ら!」 ボスは赤ら顔で向き直ると。 「く、くそ…今日はこのまま引き揚げたるけどな、ええか!この土地はどんな事があってもワイのもんにしたるさかいな!」 と、何故か大阪弁で捨てゼリフを残して引き上げていった。 「若いの…命拾いしたな。」 大鎌も捨てゼリフを残し、小さく笑って帰っていった。 「キザだね!あーやだやだ。」 「どっちが?」 苦笑する[彼]と呆れる孫娘。 「でも、見直したわ。あなた強いのね!」 「いや、なに、あんな奴等の100人や200人!どうって事…。」 [彼]は反り返ったが、反り返りすぎて椅子ごと後ろに倒れてしまった。 さて、そんな町に一人の女性がやってきた。 「…いるわ、[彼]…。碇くんはここにいる…。」 それを暴力団の一人が物陰で聞いていた…。 翌日、[彼]は暴力団のアジトに呼び出された。 「話があるって、一体何だい?」 「あなたに会いたいという人が来ているんですよ。」 「僕に?」 「こちらです。」 暴力団のボスが案内した一室には、一人の女性が猿轡を噛まされ、椅子に縛り付けられていた。その女性は…。 「綾波!」 [彼]に想いを寄せる、綾波レイだった。 「おっと、そのままそのまま。」 駆け寄ろうとした[彼]をボスが制止した。 「女の命が惜しかったら…おかしなマネをしない事です。」 ナイフが彼女の喉元に突きつけられた。 [彼]はどうする事もできず、捕まってしまった。 片手ずつ鎖で縛られて吊るされた[彼]に容赦ない攻撃が加えられた。 どてっぱらにパンチがめり込む。頬や肩口にもパンチや凶器の一撃が襲った。 「まだまだこれからだぜよ。」 「さっきのお礼をたっぷりとしてやるわい!」 「私はあの爺さんを説得に行ってきますからね。」 ボスはそう言って出て行った。そして、物陰から大鎌は無言で見つめていた…。 [彼]がいない為、老人はあっけなく捕まってしまった。 二人の男に片手を其々掴まれて拘束された老人に容赦ない攻撃が加えられた。 どてっぱらにパンチがめり込む。頬や肩口にもパンチや凶器の一撃が襲った。 「…何となく、さっきと同じ事をやってるような気がするな。」 ボスはそう思ったが、とにかく交渉に入る事にした。 「どうだね、爺さん。土地を売る気になったかね?」 「誰が!貴様なんぞに!」 老人は唾を吐いて拒否したが。 「ふっふふ、ふふふ…いつまでその強情が張れるかな?…娘を連れて来い!」 その頃、暴力団のアジトでは…。 レイの傍に歩み寄った大鎌は刀でレイを縛るロープを切り、猿轡も外してやった。 「行け。二度とこの町へは来るな。」 「有難う。でも、どうして?」 「女を苛めるのは俺の性に合わなくてな。」 一方、[彼]は散々に痛めつけられ、気を失っていた。 「はあ、はあ、ざまあ見やがれ!」 [彼]に痛めつけられた上に恥を描かされた三人は汗を拭いながら満足していた。 それを上から見ていたレイは、傍に転がっていた木材を持ち上げ、下に落とした。 「あっ。」 気づいた時にはもう遅く、木材は三人の頭に命中。三人はノビてしまった。 「大成功!」 そして、老人の家では…。 老人の孫娘が後ろ手に木に縛り付けられていた。 その前にいた男が持っていたムチを振り下ろした。 「ひ!」 孫娘の服がムチで破り裂かれた。 「マナ!」 ムチは次々と服を破り裂いていき、マナは肌も露な姿にされてしまった。 「やめろ!!やめろ!やめろ!やめてくれ〜っ!!」 老人は絶叫し、遂に…。 「土地を売る!何でも言う通りにするから…やめてくれ!」 「最初からそうおっしゃって頂ければ、お互いに不愉快な思いはしなくて済んだのに…。」 ボスはニヤリと笑った。 「では、このペロペロキャンデー…いや、契約書にサインを!」 老人は契約書にサインをしようとした…その時! 「待てい!!」 その声と共に、キーンというターボ音を響かせて真紅のマシンに乗って真紅のバトルスーツに身を包んだ戦士がやってきた! 「な…なんだ、あいつは一体!?」 真紅の戦士はマシンから飛び降りるや否や、ムチを持った男をキック一撃で倒し、マナを解放して老人の傍に連れてきた。 そして、悪人達に向き直って名乗りを上げた。 「ドドッと参上!バリッと解決!人呼んで流離いのヒーロー、快傑エヴァーット!!」 その額と胸にはEの文字が誇らしく光り輝いていた。 「野郎!かっこつけんじゃねえ!」 悪人の一人が銃をぶっ放すが、エヴァットはジャンプしてそれを軽がるとかわすと、上空からムチを伸ばして銃を発射した悪人の首に巻きつけ、そのまま引っ張って別の悪人に激突させた。 雨あられと降り注ぐ弾丸をかいくぐり、パンチ、チョップ、キック、一撃で悪人を次々と倒していくエヴァット。 「こりゃいかん!」 ボスは慌てて近くの隠れ家の一つに逃げ込んだ。 「待て!」 追いかけたエヴァットが入った所には謎の通路が。直後、両側の壁の一部が開き、マシンガンが出てきた。 無数の弾丸がエヴァットを襲った! 「やったぞ!」 ボスが勝利を確信して出てきたが、エヴァットの姿は何処にも無い。 「ここだ!」 何と、エヴァットは天井に張り付いてマシンガンの弾丸をかわしていたのだ。 エヴァットの飛び蹴りがボスの顔面に命中した。だが、吹っ飛んだボスを追撃しようとしたエヴァットの目の前に上から防御壁が降りて来て行く手を遮ってしまった。さらに、壁の一部が開いて、何やらガスが吹き出てきた。 「毒ガスか!」 だが、エヴァットは慌てる事無く、防御壁を叩いて調べてみた。 「この防御壁は…鉄だな。厚さは…約10センチ。」 エヴァットはエヴァスーツのパワーを上げた。 壁の向こうでは、今度こそ毒ガスで息の根を止められた筈だとボスが安心していたが。 「はーっ!!」 気合と共にエヴァットのパンチが一閃し、鉄の扉をぶち破った! 「ひい!そ、そんなバカな!」 「逃がさん!」 エヴァットはダッシュし、渾身のパンチを放った。 ボスは後ろのドアを突き破って外に吹っ飛んだ。だが。 “う。” エヴァットの耳にタイムリミットが近づく警告音が聞こえてきた。 エヴァスーツの強化装置の効果は五分しか続かない。 “さっき痛めつけられた所が痛む!” このままでは、強化装置が切れたら立っている事もできなくなる。 “急がなければ…もう時間が無い!” エヴァットはボスの胸元を掴み上げた。ボスの頭にはZの文字があった。 「きさま、ゼーレのメンバーだな!惣流アスカを殺したのはお前か!?」 「し、知らん!わしゃ、その日シシリー島でスパゲッティを食べていた!」 「本当か!?」 「ほ、本当だ!わしゃ、ずっと首領Kの命令どおりに動いていただけなんだ!助けてくれ!」 「………。」 エヴァットは手を離した。ボスは後頭部を何故か転がっていた岩にぶつけて気絶した。 そして、建物の影から大鎌が姿を現した。 風が吹きすさぶ中、対峙するエヴァットと大鎌。 「勝負してもらおう、快傑エヴァット。」 大鎌は背負っていた刀を降ろした。 「もう、こんな奴に義理立てする必要は無いんだぞ。」 エヴァットの耳には依然、タイムリミットを刻む音が聞こえている。 「逃げるつもりか、エヴァット。いや、碇シンジ!」 大鎌は剣を抜いた。 「!仕方ないな。」 エヴァットもソードを構えた。 「無双流、大鎌狂死郎…参る!」 大鎌が切り込んできた。 その時、エヴァットの耳にタイムリミットの音が聞こえた。 “しまった!強化装置が切れる!」 二人は一瞬交錯して離れた。 よろめくエヴァット! 笑みを浮かべる大鎌! だが、血に塗れたのは大鎌の方だった。 「み…ごと…。」 大鎌は一言残して倒れた。 「はあ…はあ…間に…合ったか…。」 「う〜っ…まいったぁ…。」 木材を杖にして、ぼろぼろになったシンジがふらふらしながら戻ってきた。 「碇くん!」 「シンジさん!」 出迎えたのはレイとマナ。 「ん?」 「誰よあんた!」 二人の視線の間にスパークが見えた。 「碇くんの手当ては私がやります!」 「いいえ、私がやります!」 二人はシンジを引っ張り合ったが、二人が握ったのはどちらも傷の上! 「ぎゃあ!」 「だまらっしゃい!」 「なによあんたこそ!」 二人にはシンジの悲鳴も聞こえなかった。 「凄い迫力。」 「一人二役は大変だな…なんつって。」 ペロペロキャンデーをなめながら二人の諍いを見ている老人と作者。 気が付くと。 「あ〜っ、碇くんがいない…。」 「シンジさんが逃げちゃった…。」 遥か荒野に陽は落ちて 今日は東か明日は西か この世の悪を倒す為 戦え我らの快傑エヴァット! だが、現実世界の碇シンジは、バーチャル・リアリティ・シミュレーション装置から復帰できなくなってしまっていた。 妖夢幻想の世界でシンジは永遠に戦い続けるのだろうか………? 超人機エヴァンゲリオン3 「妖夢幻想譚」第三章 快傑エヴァット 完 あとがき