CHAPTER2 THE FIST OF AIDA
EPISODE4「THE ATROCIOUS MAN!」
「アィダッ!アーィダダダダダッ、アィダァーッ!!」
今日もケンスケは弱き者を襲うゼーレの残党を倒していた。
「に、人間じゃねえ!」
「に、逃げろ〜っ!」
ゼーレの残党達は慌てて逃げていった。
「有難う御座いました。お陰でトキタ様の所に持っていく物資を奪われずに済みました。」
「トキタ様?」
「はい、この先のトキタ村を治めておられる方で御座います。」
トキタ…ケンスケには忘れられない名前であった。
「俺もその人に会ってみたくなった。一緒に行ってもいいかな?」
「勿論、いいとも!」
かくしてケンスケはトキタの村にやってきた。だが。
“こ、これは…一体!?”
ケンスケは己の目を疑った。
「オラオラァ!さっさと働きやがれ!」
先程倒したゼーレの残党達とたいして変わらぬ風貌の屈強な男達が武器を片手に人々を脅し、強制労働をさせていた。
「うう…。」
と、重い石をロープで引きずっていた老人が苦しそうな表情で倒れた。
「てめえ!何さぼってやがるんだ、ゴルァ!」
監視していた男がムチを振り上げて老人の背中を打った。
「何という事を!」
ケンスケは思わず監視人をブチのめそうとしたが、その肩をさっきの人が掴んで止めた。
「仕方ないのです。我々村人はトキタ様によって守られています。ですからトキタ様のやり方に異議を唱える事はできないのです。」
“そんな…トキタさんはそんな人じゃなかった…。”
ケンスケは制止を振り切って、監視人の前に立ちはだかった。
「な、なんだてめえ!」
「弱っている者を痛めつけても逆効果だ。」
「トキタ様のやり方にケチをつける気か、てめえ!」
監視人のムチがケンスケを襲った。だが、ケンスケは事も無くそのムチを片手で受け止めた。
「この老人の代わりに俺が石を運ぶ。それなら文句は無かろう!」
ケンスケはムチの先端を監視人に投げ返した。
「ウギャッ!いて〜いてえよぉ〜。」
監視人は自分のムチで顔面を打たれてあまりの痛さに地面を転げ回った。
「大丈夫ですか?」
ケンスケは老人が引きずっていた重い石を軽々と持ち上げた。
「以前はこんな村ではありませんでした。もっと穏やかな、誰もが相手を慈しみあう平和な村でした…。」
その夜、ケンスケに助けられた老人は村に何が起こったのかを語り始めた。
「トキタ様は弱っている者を助け、薬を下さる心優しい御方でした。ですが、ある日を境にトキタ様は豹変してしまわれたのです。」
「何があったんです?」
「トキタ様が村を留守にしていた時の事でした。ゼーレと名乗る無法者集団が襲ってきて、村人の多くを殺し、食料や物資を奪っていったのです。その後、村に帰ってきたトキタ様は嘆き悲しみました。ですが、その翌日になるとトキタ様は力を重んじる暴君に変わってしまっていたのです。」
“暴力が支配するこんな時代が…あのトキタさんを変えてしまったというのか…。”
ケンスケはやるせなさを感じながらも立ち上がった。
「どこに行きなさる?」
「トキタさんに会う。そして前のトキタさんに戻ってくれるように説得してみる。」
ケンスケはトキタがいる屋敷に向かった。
「おい、きさま、何の用だ?」
屋敷の門番が槍を突き付けてケンスケの行く手を阻んだ。
「トキタさんに会いに来た。」
「夜は誰もこの館には入れん。明日出直して来い。」
「どうしても今すぐ会いたいんだ。」
「仕方ねえなぁ…。言う事を聞かない奴はぶっ殺してもいいって言われてるんだ!」
門番はいきなり槍をケンスケに突き出してきたが、ケンスケはジャンプしてそれをかわし、門番の後頭部を一蹴りして後方に降り立った。
「て、てめえ!」
門番は槍をケンスケの背中に投げつけようとした。だが、何故かその槍は門番自身の頭に突き刺さった。
「あ…あれ…レレレ…のレー…。」
そのまま門番は絶命した。
ケンスケはそのまま廊下を進んだ。その途中途中、様々なトラップがケンスケを襲った。
二階では左右から槍が突き出されたが、ケンスケはそれをへし折って突破した。
三階では頭上から巨大な岩が落ちてきたが、ケンスケはそれをパンチの一撃でバラバラに粉砕した。
四階では針山や溶解液や毒蛇が待ち構えている落とし穴があったが、ケンスケは軽やかなステップで跳躍してかわした。
そして、五階にトキタが待っていた。
「久し振りです、トキタさん。」
「あのトラップをことごとく切り抜けて来たとは、腕を上げたようだね、相田くん。」
そこにいたトキタは暴君とは思えない、ケンスケの記憶にある穏やかな表情だった。
「あのトラップは何事です?」
「侵入者を防ぐ防御手段だよ。まあ、座りたまえ。」
トキタはケンスケをテーブルに招くと、ポットからカップに紅茶を注いでケンスケの前に置いた。
「頂きます。」
ケンスケは何の躊躇もせずに紅茶を一口すすった。
「さて、何故君が門番を倒してまで私に会いに来たのか、察しはついてるよ。」
「トキタさん…俺を助けてくれたあなたが、何故…。」
かつて…ケンスケはシンジに挑み、為す術も無く敗れ去り、愛する者も連れ去られた。
傷付き、希望を失い、当ても無く彷徨うケンスケは、偶然通りかかったトキタに傷の手当てをしてもらったのだ。
「気付いてしまったのだよ、所詮こんな時代では力こそ正義なのだとな。」
「村がゼーレに襲われた事は聞きました。でも、あなたは正義こそ力だと信じていた筈です。どうして…。」
ケンスケは立ち上がろうとして、身体が動かない事に気付いた。
「トキタさん…まさか…。」
「クックック、紅茶に入れた筋肉弛緩剤がようやく効いてきたようだな。」
哂うトキタの顔は邪悪に満ちていた。
「正義こそ力だと?そんなものただのお題目に過ぎん!力こそ正義だ。力があるものが世界を支配し、管理していく。なんとシンプルなシステムだとは思わんかね?」
「その邪悪な顔…あなたはもう以前のトキタさんには戻れないのか…。」
「ハーハッハッハ、君の知っているトキタは死んだのだ。」
「その通りよ。既にトキタさんは死んでいる、いえ、その男に殺されたのよ。」
そこに現われたのは、レイだった。
「綾波!何故ここに…。」
「その男はトキタさんではないわ。かつてネルフ発令所のオペレーターの一人だった、アオバという男よ。」
「何!?」
「クックック、ハーハッハッハ!レイが現われるとは予想外だったが、まあいい。目的は既にほぼ達成したのだからな。」
「目的?」
「そうだ。きさまを生きたまま捕らえると言う事だ。きさまの強靭な身体を使って様々な薬品の実験ができる。まあ、中には普通の人間にとっては毒薬や劇薬になるものもあるがな。」
「何故…何故トキタさんを殺した!?」
それは、たわいも無い話だった。
トキタの村にやって来たアオバは歩けないでいる老人を見つけ、自分の聞きかじった方法でリハビリをさせようとした。だが、それはまだその老人には早すぎて逆に症状を悪化させるものだった。それを見つけたトキタはアオバを平手打ちした。
この老人の足が治るにはまだ時間が掛かる。何処の誰かは知らんが、聞きかじりのいい加減な知識は使わない方がいい。
「たった…それだけの事で…。」
「それだけの事だと!?あいつはこの俺にビンタを喰らわせやがったんだ!親父にも打たれた事無いのに!」
「とんだ甘ちゃんだったのね。」
「うるせえ!あいつは俺のプライドを傷つけた!だから、この村の事をゼーレに教え、襲撃させたんだ!戻ってきた時の奴の嘆き悲しみ様は見ものだったぜ!」
そう言ってアオバは高笑いした。
「バカな男ね…相田くんの怒りの炎を大きくするだけなのに。」
レイはケンスケの顔を見た。ケンスケは涙を溢し、震えていた。
「俺に説教をくれた奴は全然弱かったぜ!後ろから殴って床に頭をぶつけただけで死んじまったんだからな。まあ、打ち所が悪かったと言う事だろうがな。ギャーハッハッハ…ア、アチャーッアチャチャチャチャ!」
大笑いした直後、アオバはカップの紅茶を顔から掛けられて悶絶した。
カップを投げつけたのはケンスケだった。
「な…き、きさま…動ける筈が!?」
「きさまへの怒りのエネルギーが俺の身体を急速に回復させた…アオバ…てめえは絶対許さねえ!!」
ケンスケはテーブルをアオバの方へ蹴り飛ばした。
だが、そのテーブルはアオバの手刀で真っ二つに切り裂かれた。
「む?」
「気をつけて、相田くん。そいつは一応私と同門。同じ拳を使えるわ。」
「それだけだと思ったら大間違いだ。」
と、アオバは懐から取り出した小瓶の中の液体を一気に飲み干した。するとその直後、アオバの上半身の筋肉が盛り上がり、筋骨隆々な身体になった。
「見たか!俺は僅かな量で飛躍的に筋肉を増強させる薬を作り出したのだ!」
アオバは跳躍するや否や、ケンスケたちに飛び掛ってきた。アオバの猛烈なパンチやキックが二人を襲う。それを二人はギリギリで避けていく。
「どうしたどうした!逃げ回っているだけではこの俺様は倒せんぞ!」
アオバのパンチをクロスガードで受けたケンスケは部屋の隅まで吹っ飛ばされた。
「フハハハハ!お前達は今までザコとしか戦ってこなかったようだな。だがこの俺様はザコとは違うのだよ、ザコとは!」
得意顔のアオバのパンチがケンスケの顔面を襲った。
だが、そのパンチはケンスケの片掌で軽々と受け止められた。
「えっ!?」
「貴様の拳は既に見切った。」
ケンスケが手に力を込めると、アオバの拳は簡単にひしゃげた。
「ぐああっ!」
「アィダァッ!!」
ケンスケの逆襲のパンチがアオバの顔面にめり込み、アオバは吹っ飛んだ。
「グ…グハッ…。」
血を吐きながら立ち上がったアオバの顔は歪んでいた。
「フフッ、前の顔に近づいてきたようね。」
レイは苦笑した。
さらに、アオバの筋骨隆々の身体はあっという間に萎んで元に戻ってしまった。
「か、身体が…何故だ…。」
「哀れね…薬で造った強さなど所詮紛い物。鍛錬して得た本物の強さに勝てる筈もないのに。」
レイはかつての同門の者の末路を哀れんだ。
「ち、チクショウ!」
アオバは背後の隠し扉を開いて逃げ出した。ケンスケとレイがその後を追うと、屋上に出た。
アオバは屋上に置いてあったガソリンタンクを蹴り倒すと、ポケットから徳用マッチを取り出した。
「ヒーヒッヒッヒ、二人とも炎で焼き死ぬがいい!」
アオバはマッチを擦って流れ出たガソリンの上に投げ落とした。猛烈な炎と黒い煙でケンスケとレイの姿は見えなくなった。
だが、その直後、ケンスケとレイは燃え盛る炎をジャンプで飛び越えてきた。
「んなっ!?」
「そんな事で私達の行く手を遮れると思って?つくづく愚かな人ね。」
レイは片手を振り上げてトドメを刺そうとしたが、それをケンスケが制した。
「相田くん?…そうね、トドメを射すのはあなたの務めね。」
レイはすぐに理解してケンスケの後ろに下がった。
「俺はトキタさんに助けてもらった。今の俺が生きているのはトキタさんのお陰だ。そのトキタさんを殺した上に、多くの人々を苦しめたきさまは絶対に地獄に送ってやる!」
「く…トキタトキタトキタ!どいつもこいつもあいつの名前を呼んで、何故この俺の名前を呼ばねえんだ!?」
「知るか!」
ケンスケの手刀がアオバの顔面を直撃した。
「あ…あみばっ!」
謎の?声とともにアオバは顔面から真っ二つに身体を分断されて絶命した。
“トキタさん…あなたに助けてもらった俺は…正義こそ力だという言葉を信じ続けます…。”
星空を見上げ、ケンスケは心に誓った。
ケンスケの旅は、終わりに近づこうとしている…。
超人機エヴァンゲリオン3
「妖夢幻想譚」第二章 相田の拳
第四話「凶悪なる男!」完