HORRIBLE FANTASIA

CHAPTER2 THE FIST OF AIDA
EPISODE3「A WOMAN OF DISCIPLE!」

 廃墟となったビル街をローブに身を包んだ者が歩いていた。
 “私は…何としてでも彼に会わねばならない…。”
 その固い決意を胸にその者は歩む速度をまた少し上げようとしていた。その時。
 「おーっとっと、ここから先は有料道路だ。出す物出さねえと通れないぜ。」
 ゼーレの一員らしき男達が数人現われて道を塞いだ。
 「出す物なんて無いわ。」
 「うおっ?お前、女か!」
 「だったらどうだというの?」
 ローブのフードを脱いだそこには、蒼い髪に紅い瞳の見目麗しい美女の顔があった。
 「ああ、女だったら何も出さなくていいんだよ。ただちょっと俺達の相手をしてくれればいいのさ。」
 「いいわ。その前にちょっと聞くけど、あんた達、水は持ってる?」
 「ああ、勿論だぜ。しかも珍しい、<脚光のおいしい水>だ。」
 多分それは<六甲のおいしい水>の間違いだろう。
 「それは良かった。早速その水を貰うわ。」
 女はローブから手を出すや否や、何かを投げつけた。
 「ぎゃあっ!」
 二人が眉間に太い針を突き刺されて崩れ落ちた。
 「こ、このアマ!逆らう気か!?」
 「相手をしろと言ったのはあんた達の方よ。」
 「なめんじゃねえ!その服をひん剥いてやる!」
 だが、女はいきなりローブを脱いで宙へ投げ上げた。その女はその下に真っ赤なボディスーツを着ていた。
 先頭の男が気づいた時には、女はすぐ目の前に来ていた。
 「アシャウッ!」
 一声発し、女は胸の前で交差していた両手を左右に拡げた。
 「何のマネだ?」
 が、その直後、男の右腕が肩諸共落ちた。続いて左腕も同様に。
 「ヒッ!」
 「サヨナラ。」
 女は男の額を軽く付いた。男の頭部は首ごと胸から後ろに滑り落ちた。
 男の身体から吹き出た鮮血が女の身体に降りかかった。だが、女は気にも留めなかった。
 その残酷な最期にゼーレ達は戦慄した。
 「次に死にたいのは誰?」
 「ひ、ひええ〜っ!」
 ゼーレ達は慌てて逃げていった。
 “例え泥水をすすっても、私は生き抜いてみせる!”

 西暦2015年、人類を襲った未曾有のカタストロフ、サード・インパクト。
 だが、そのカタストロフ発生の一翼を担ったLYLIS―いや、ここではあえて別の名で呼ぼう―綾波レイは、激しく後悔した。
 彼女が一つになりたいと想った異性、碇シンジは自分が自分でいる世界を望み、還って行った。LYLISから再び人間体・綾波レイに戻った彼女は自分の傍に彼がいない事を知り、初めて人が生きる為に必要な‘希望’がどのようなものであるかに気付いた。
 “碇くん…あなたに会いたい…あなたと一つになりたい…。”
 その為には、何としてでも生き抜かなくてはならない。自分の身を大切に守らなければならない。
 そして、レイは自分を守る術を身に付けたのだ。

 とある村にケンスケは立ち寄っていた。
 その村は地下水が豊富で食物を栽培できるほど豊かな所だった。だが、最近ゼーレがよく現われるようになった為、それを防ぐ防壁を作り始めた。それが完成するまでの間、用心棒になってくれと頼まれてしまったのだ。

 その村にレイもいた。
 ケンスケが村にやって来る三日前、ゼーレに襲われた村人をレイが助け、ケンスケ同様に用心棒になってくれるよう、頼まれていたのだ。
 レイは村の少女達と共に水浴びをしていた。いつ、シンジと会えるかわからない。いつその日が来てもいいように、できるだけ身奇麗にしていたいという想いもあった。
 「ねえ、お姉ちゃん。お姉ちゃんの服は真っ赤なのに、お姉ちゃんの肌は真っ白だね。」
 「それは生まれつきなのよ。」
 少女達に理由を教えてあげたのは、一緒に水浴びしていたマヤだった。実は、レイが助けた村人こそ彼女や今一緒に水浴びしている少女達だったのだ。
 「だったら、お姉ちゃんも白い服を着ればいいのに…。」
 少女の一人が無邪気に言った。それはレイとて想った事だった。
 「レイに助けられた時、一瞬アスカかと思っちゃったわ。ふふっ。」
 マヤはそう言って笑みを溢した。レイの純白だったプラグスーツが何故真っ赤になっているのか、マヤは助けられた時に気づいていた。今まで殺してきた悪党の血で真っ赤に染め上げられてしまった、と言う事に…。
 「マヤさん、アスカに会ったんですか?」
 「いいえ。サード・インパクトの後、知り合いに会ったのはレイが初めてよ。」
 レイとしては、知り合いに会ったのはマヤが二人目だった。
 「あのプラグスーツ、かなり破れているし、そろそろ処分したら?」
 それはマヤの勘違いだった。レイのプラグスーツは腕と脚の部分を外したハイレグ・ワンピース型になっており、腕の部分は肘下のグローブ部分、脚の部分は膝下のブーツ部分のみ使用している。だが、これは着脱を簡単にする為に改造したのだ。
 「もう、エヴァは無いし、いつまでも着ている必要無いじゃないの。」
 「いいえ…あのプラグスーツは捨てられないわ。同じエヴァのパイロット、同じチルドレン、同じ戦友…私と碇くんを結びつける唯一つの絆だもの。」
 「そう…勝手な事言って御免なさいね。」
 「いえ。」
 マヤは済まなそうに謝った。だが、それと同時にレイに憐みも感じていた。レイがシンジに逢いたい一心で旅を続けてきたと言う事は先程の彼女の言葉ですぐにわかった。だが、レイはシンジが変わってしまった事を知らないのだ。
 マヤがそれを言おうとした時。
 「大変だ〜っ!ゼーレが攻めて来た!!」
 「お、お姉ちゃん!!」
 少女達は脅えた表情でレイを見つめてきた。
 「大丈夫、私が追っ払ってあげる。」

 「アィダッ!アーィダダダダダダッ、アィダァーッ!!」
 ケンスケの恐るべき強さにゼーレ達は次々と倒れていく。
 「こ、こんな強い用心棒がいるなんて聞いてねえぞ!」
 「それに、用心棒ったって、女だった筈だ!」
 「ええーい、こいつに構うな!さっさと侵入して村人を人質に取るんだ!」
 ゼーレの頭目も少しは頭が回るようであった。
 多勢に無勢、ケンスケが戦っているその隙をついてついにゼーレ達が数人侵入してしまった。
 「しまった!」
 だが、ケンスケが手裏剣を投げようとした時、ゼーレ達の前に何者かが立ちはだかった。
 「アシャウッ!」
 彼女は美しく水鳥のように舞い、ゼーレ達の身体を文字通り切り裂いた。
 そしてそのままケンスケ達の方に駆けて来るとジャンプし、ゼーレ達の中に飛び込んだ。
 「アシャウーアシャウゥッ!!」
 彼女が舞う度にゼーレ達の身体は血飛沫をあげて肉塊と化して転がっていった。
 血飛沫に染まりながら舞う彼女はさながら紅鶴のようだった。
 そして、気が付けばゼーレの頭目も既に絶命していた。
 「これで終りね。」
 レイが一息ついたその時、倒れていた三人がレイの後ろで立ち上がった。死んだ振りをしていたのだ。
 「はっ!?」
 レイはすぐに気付いて飛び退ったが、何故かその三人は一歩も動こうとしなかった。
 「慌てるな。そいつらは既に殺してある。」
 ケンスケがそう言ったその直後。
 「…われらっ!」
 「…ろりいっ!」
 「…こんだっ!」
 意味不明の言葉を叫びながら、ゼーレ達の身体は爆裂四散した。
 「な、何っ!?」
 レイは驚いた。そして、自分のものとは全く違う、怖ろしい技の遣い手がいる事に気づいて振り向いた。
 二人は無言で向かい合っていた。
 「…久し振りだな、綾波。」
 「そうね、相田くん…。」
 二人の活躍で村を狙っていたゼーレ達は全滅した。

 その夜は満月だった。
 「君は只者では無いと前から思っていた。その殺人拳はどうやって身に付けたんだ?」
 「誰もが自分を自分で有らしめる為の力…ATフィールドの応用よ。自分の身を大切に守るには、襲って来る者を必ず殲滅しなければならなかった…あなたこそ、そんな力を隠し持っていたなんて気付かなかったわ。」
 「自分でも知らなかった、生まれながらに身に付けていた一子相伝の最強拳…ある事が切っ掛けで自分がこんな力を持っていた事に気付いたのさ。」
 「そう…こんな世界になってしまったからこそ、私達は強くなってしまったのね。」
 ケンスケは何故世界がこんな事になってしまったのか知らない。そしてレイもこんな世界を望んではいなかった。
 「君は今まで昔の仲間に逢った?」
 「ネルフのオペレーターだったヒューガさんとマヤさんに…あなたは?」
 「惣流と逢ったよ。それと、ミサトさんの彼氏だった加持さん…。」
 「アスカは…元気だった?」
 「サード・インパクトのショックで記憶がほとんどなくなってしまったそうだ。加持さんが見つけた時はほとんど幼児ぐらいの知能しかなかったらしいけど、俺が逢った時は8歳ぐらいにまで回復していた。あいつは早熟だったそうだから、すぐに歳相応に回復すると思うよ。」
 「そう………碇くんには逢った?」
 「………綾波、君はシンジに逢いたいんだな?だから何が何でも生きる為に強くなった。そうだろう?」
 「教えて。碇くんに逢ったの?」
 「………ああ…四年前………。」
 「どこで!?今どこにいるの!?」
 「それはわからない…。」
 「そう…元気だった?」
 「ああ………だけど、以前とは全く別人になっちまっていた…。」
 「別人って、どういう事?」
 「それは…話したくない…。」
 「そう…。」
 「………綾波、もしも、俺がシンジを殺さねばならないとしたら、どうする?」
 「何ですって!?」
 レイは驚いてケンスケを見つめた。
 「………。」
 「………。」
 長い沈黙の後、レイは小さく笑ってから答えた。
 「…フフッ、そんな事にはならないと思うわ。」
 「何故?」
 「人は、わかりあえるから。人は、わかりあう為に生きていくものだから。私は、そう信じてる。」
 その二人の様子を少し離れた所からマヤが見守っていた…。

 数日後、村の防壁は完成した。そして、それは村からレイとケンスケが去る日でもあった。
 「お姉ちゃん、行っちゃうの?」
 「そうね。私は行くべき所があるから。みんな元気でね。サヨナラ。」
 「お姉ちゃんも元気でねーっ!」
 レイは一足先に旅立って行った。
 「相田くん…シンジくんの事、レイに黙っていてくれたのね。」
 シンジが変わってしまった事をマヤも嘗ての仲間から聞いて知っていた。
 「奴の変わり様を知ったら、きっと綾波はショックを受けると思ったんです。」
 マヤはケンスケのシンジに対する言い方を聞いて、寂しさを感じた。
 シンジと、トウジ、そしてケンスケの三人は三バカ大将と言われるほど仲が良い…マヤは以前にミサトからそう聞かされた事を思い出したのだ。だが、シンジは優しさを完全に捨ててしまい、そしてケンスケはシンジを殺すかもしれない…サード・インパクトはかつての親友同士が殺し合いをするかもしれない世界を作ってしまったのだ。
 「相田くん達のお陰で村は救われたわ。できれば相田くんだけでもこの村にいて欲しいのだけど…。」
 「彼女と同じく、俺も旅を続けなければならない身です。」
 「そう…わかったわ。もし、またいつか立ち寄ってくれた時は歓迎するから。」
 「ありがとう。それではこれで。」

 ケンスケの旅は続く。その行く手に待つものは…。



超人機エヴァンゲリオン3

「妖夢幻想譚」第二章 相田の拳

第三話「使徒の女!」完