「えー、そんな訳で3−Aの演目は白雪姫に決まりました。続いて配役を決めたいと思います。まず、主人公の白雪姫ですが…誰か、立候補する方はいますか?」 「はーいっ!私がやりまーす!」「私、やります。」 アスカとレイが起立して立候補した。 「…えーと、二人とも…。」 シンジは猛烈に嫌な予感がした。 「やれやれ…君達の魂胆はわかってるよ。どうせシンジくんを王子に推薦するつもりだろう?」 「無論よ!」「勿論よ。」 カヲルの推論を当然の如く肯定した二人はお互いを睨み合って視線の火花を飛ばし合う。 「わははは、またしてもシンジを巡って許嫁と愛人のバトル開始や。」 「こりゃ、女房を質に入れても見に行く価値がありまっせ。」 「はい、鈴原くんと相田くん、退場!」 ミサトの一喝でトウジとケンスケは廊下に立たされた。 「じゃあ、シンジくん。責任持って二人のどちらを白雪姫にするか決めて頂戴。」 「そ、そんな事突然言われても…。」 「これが二回公演とかだったら、ダブルキャストという手で逃げられたのにね…。」 「だったら、綾野さんやって貰えないかな?」 「お生憎様、先に立候補した人を押しのけて後から主役やりたいなんて、いくらなんでもそこまで厚かましい事はしたくないわ。」 「さあ、主演に選ぶのはアスカとレイ、どっち!?」 「当然、私よね、シンジ!」「私を選んで、碇くん!」 「…うーん…そうだ、じゃんけんで勝った方が主役をやればいいんじゃないかな?」 「シンジくん、貴方に決めて頂戴って言ってるのよ?どちらが主役をやるにせよ、お互い納得した形で劇に臨んで貰わないと困るんだから。」 「で、でも、これは非常にデリケートな問題で…。」 「では、こうしましょう。どちらかに決められないのはシンジくんの責任。と言う事で、責任を取って貰うと言う意味で、白雪姫はシンジくんにやって貰います。」 「「ええーっ!?」」 「何でそうなるんですかっ!絶対お断りです!」 「でも、ミサト先生、それだと劇はコメディになってしまいますよ?」 「いーんじゃない、コメディでも。その方が斬新だし、ありきたりでない方が面白いし。」 「僕の意見は無視ですかっ!」 「シンジ、諦めるんだな。」 「男は散り際が大事ってもんやろ?」 「トウジ…それを言うなら散り際じゃなくて引き際でしょ。」 「成る程、優柔不断で八方美人な性格が災いを招いた、という事ね。」 「綾野さん、何を解説してるんだい?」 「では、主役の白雪姫は碇くんにやって貰うとして、隣国の王子は…。」 「この際、主役は男女入れ替えるというのはどう?」 「はーいっ!私がやりまーす!」「私、やります。」 またしてもアスカとレイが立候補。 「………。」 ミサトを初め、クラスを一瞬、静寂が包み込んだ。 「…ミサト先生、この場合もシンジに選ばせるんでっか?」 「今度もやっぱり選べないと思うけどな。」 「そうね…迂闊だったわ…何かいい手はないかしら…。」 「…後から何だけど、僕でよければ…。」 カヲルが名乗りを上げた。 「カヲルくん…。」 「ちょっと、何であんたが出てくるのよ!」 「邪魔しないでくれる?」 途端にアスカとレイがカヲルの言葉に噛み付く。 「待たんかい、渚。それやったら主役のカップルが男×男になってしまうやないか!」 「そんなの気持ち悪くて、腐女子しか受け入れられないぜ。」 トウジとケンスケも反対するが。 「いやいや…君達は忘れていないかい?体育祭で女装したシンジくんの美しさを…リリアン女学園の制服を着たせいもあると思うけど、その清らかで可憐で清楚な姿は正に野に咲く一輪の雛菊…そこのロサ・キネンシスやデルフィニウムよりは白雪姫にぴったりだと思うよ。」 「そんな…カヲルくん…。」 なぜかシンジは女装を賞賛されて頬を染めた。 「うーん…それもそうやな…。」 「確かにあの時のシンジは本当に女のコそのものだったもんな…。」 二人はあの時のシンジの姿を思い出して納得しているようだが。 「…論点がズレてるけど?」 それに気づいたのはレミただ一人だけ。 それはともかく、このままでは話が進まないと思ったシンジは妥協する事にした。 「…じゃあ、カヲルくん、頼めるかな?」 「君のお願いなら断る筈ないよ、シンジくん。」 「そんな、シンジったら女の私達より男の方が良いわけ?」 「お願い、考え直して。」 アスカとレイは慌ててシンジに再考を促すが、それにカヲルが反論した。 「二人とも、いつまでそうやってシンジくんを困らせる気だい?シンジくんは君達二人を大事に想ってるから、どちらも傷つけたくないから選べないと言ってるんだよ。それがわからないのなら、君達二人にシンジくんを愛する資格など無いね。」 「「…う…。」」 言い返す言葉が思いつかなくてアスカとレイは押し黙って着席した。 「はい、じゃあ主役の白雪姫と王子は碇くんと渚くんとします。その他の役について…。」 自薦・他薦を問わず、配役が次々と決められていった。 アスカとレイは王子の従者に決まった。その目的は…それは後のお楽しみとしよう。 ケンスケは何と猟師と物売と鏡の声の三役。その訳は…これも後のお楽しみという事で。 「後は、継母と王様と隣国の王様・王妃だけど…。」 「じゃあ、隣国の王様と王妃はトウジと委員長でいいんじゃないか?」 「ケ、ケンスケ、お前何を言い出すんじゃ!」 「あーら、いいんじゃなーい?将来の予行演習とでも思えば?」 一斉に笑い声が広がった。 「し、しゃあないのう…先に言っとくけど、ワシは物覚え悪いから、セリフ忘れて劇が失敗になるかもしれへんで?それでもいいんやったら引き受けたる。」 「大丈夫よ。その方がよりコメディとして面白いし、いざとなったら洞木さんが囁きで教えてくれるわよ。ねえ、洞木さん?」 「は、はい、頑張ります!」 残るは継母と王様だが…。 「それじゃあ、継母はミサト先生を推薦します!」 「ちょ、ちょっと、シンジくん、何で私が…。」 予想外のシンジの発言にミサトは慌てた。 「コメディですから。他に適任はいません!」 「うーん…アスカでもいいんじゃない?」 「何でよ!」 「先生、アスカは王子の従者に決まってますから…。」 「それで、王様は加持先生がいいと思います。」 「「「「「「「「「「「「「「「賛成!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」 クラスの全員が賛成した。 「ちょ、ちょっと、いくらなんでもそんなの…。」 「いーじゃないですか、夫婦なんですから、自然な演技ができると思いますよ。」 「…うー…変な事考えるんじゃなかった…。」 ミサトはがっくりと頭を垂れた。 「ふふっ、これはシンジくんのミサト先生に対する意趣返しみたいなものね。」 「綾野さん、誰に解説してるんだい?」 こうして白雪姫の配役は全て決まった。 え?七人の小人?それはその他の名も無きクラスメートと言う事で。 さて、文化祭二日目。3−Aの「白雪姫」の上演がレミのナレーションで始まった。 『遠い昔、遥か彼方の銀河系にて…。』 と、いきなりSTARWARSのファンファーレが! 『あっ、違った!やり直し!』 続いてどこかで聞いたようなBGM(日本昔話)が流れてきて…。 『むかーし昔の事じゃった…ある所におじいさんとおばあさんが…って、これも違ーう!!』 数秒置いて。 『こほん、もとい…昔々、ある所に白雪姫というとても美しい王女がいました。その肌は雪のように白く、唇は血のように赤く、黒檀のように黒い髪を持つ少女でした…。』 舞台の幕が開かれ、場面は白雪姫の継母である王妃(演じるはミサト)と魔法の鏡(声をアテているのはケンスケ)の会話。 「鏡よ、鏡…この世で一番美しい女性は誰だい?」 「それは………。」 「それは?」 「それは………。」 「それは?」 「それは秘密です。」 ずっこける王妃。 「ええい、ふざけるでない!」 気を取り直した王妃はもう一度鏡に問うた。 「鏡よ、鏡…この世で一番美しい女性は誰だい?ちゃんと答えないと叩き割るからそのつもりで。」 「それは…『考え中…考え中…終わり』…それは、白雪姫です。」 「何だって?あんな小娘がかい?」 「然様で御座います。」 「ふ…面白い…ではもう一度尋ねるわよ…この世で一番美しい女性は誰だい?チュッ。」 何と王妃は鏡に投げキッスをした。 「うぉっ…い、いや…この世で一番美しい女性は白雪姫で御座います。」 「ふふっ…これでもかい?あっはーん(はぁと)」 王妃は今度は髪を掻き揚げてセクシーポーズ。 「うぉっ!?…い、いや、やはり、白雪姫で御座います。」 「ふふっ…これでもかい?うっふーん(はぁと)」 王妃は今度は所謂‘だっちゅーの’のポーズを鏡に見せ付けた。 「うぉっ!!…い、いや、白雪姫の方が…。」 「これでも…んがっ!」 更なるセクシーポーズを取ろうとした王妃は、後ろからスタスタと歩いてきた王様(演じるは加持)にスリッパで頭をはたかれた。 (暗転。) 『王妃は怒りのあまり、猟師に白雪姫を森に連れて行き、姫を殺してその心臓を獲ってくるように命じたのです。果たして白雪姫の運命は!べんべん!』 次の場面は王妃と猟師(演じるはケンスケ)の会話。 「で、確実に仕留めたのであろうな?」 「狙った獲物は外さない、それがプロってもんだ!♪るぱんざさー!」 「こっ、こらっ!こっちに銃口を向けるでない!」 「あ、これは失礼しました。」 「で、肝心のモノは手に入れたのかいや?」 「はい、この中に…新鮮なハツです。」 「焼肉とちゃうわ!」 「それでは私はこれで…。」 猟師は白雪姫の心臓?が入った小箱をその場において立ち去ろうとしたが。 「ちょいと待ちや。そなたの声と鏡の声が同じように聞こえるのだが…。」 「それは気のせいで御座います。」 「そうかのぅ…鏡よ、答えよ鏡。」 なぜか猟師は観客に見えない方にそっぽを向いた。 「何で御座いましょう、王妃様。」 「…はて、後ろから声が聞こえたような…。」 「気のせいで御座います。」 なぜか猟師は懐からマイクを取り出して喋っていた。 「そうか、気のせいか…。」 (暗転。) 「鏡よ、鏡…この世で一番美しい女性は誰だい?」 暗転のまま王妃がまた鏡に訊いている。そして鏡も答えた。 「それは、白雪姫で御座います。」 「何だって!白雪姫は死んだ筈だよ!?」 「いえ、白雪姫は生きています。」 舞台手前に降りてきたスクリーンに、森の中で七人の小人に囲まれて幸せそうな笑顔を浮かべている白雪姫の姿が映った。 『猟師は白雪姫を哀れんで一芝居打ったのでした。怒った王妃は物売に命じました。小人のいない隙を見計らって胸紐を白雪姫に売り、胸紐を締め上げて殺してしまえ、と。果たして、この後どうなってしまうのかっ!べんべん!』 スクリーンが上がって、次の場面は王妃と物売(演じるはケンスケ)の会話。 「で、確実に仕留めたのであろうな?」 「はい、この三味線の糸でキリリと…。」 「必殺仕事人か!…って、ちょっと待て、お前は猟師ではないか!」 「いえ、私はただの物売で御座います。」 「そうかや?…ううむ、見れば見るほど瓜二つなのだが…。」 「実は、私は猟師の双子の弟で御座います。」 「そうか、双子の弟か、それならば瓜二つなのは当然であるな。しかし、声もそっくりではないか。」 「気のせいで御座います。」 「そうか?…鏡よ、答えよ鏡。」 「何で御座いましょう。」 マイクで答える物売。 はっと王妃は振り向くが物売はさっとマイクを隠してしまう。 「お前の声もやはり鏡と同じように聞こえるのだが…。」 「気のせいで御座います。」 「そうか…もうよい、下がれ。」 物売が舞台から退場して、王妃は再び鏡に問うた。 「鏡よ、答えよ鏡。」 「何で御座いましょう。」 「お前と物売の声はそっくりよのう。」 「気のせいで御座います。」 鏡のその答えに思わず王妃は後ろを振り返るが、勿論物売はいない。 「気のせいか…しかし、猟師の声もそっくりであったのう。」 「双子の兄で御座います。」 「双子の兄!?!?!?」 「あ、違った、気のせいで御座います。」 「双子なのは猟師と物売であろう?」 「気のせいで御座います。」 「気のせい!?!?!?」 しばし王妃と鏡は沈黙した。ややあって。 「こほん。鏡よ鏡…。」 「気のせいで御座います。」 「まだ何も訊いておらんではないか!」 「気のせいで御座います。」 「ちょっと待たんかい!」 「♪気のせい、気のせい、気のせいです、気のせい、気のせい、気のせいで御座います。」 なぜかラップで答える鏡。 「こらー!」 (暗転。) 「鏡よ、鏡…この世で一番美しい女性は誰だい?」 暗転のまま王妃がまた鏡に訊いている。そして鏡も答えた。 「それは、白雪姫で御座います。」 「何だって!白雪姫は死んだ筈だよ!?」 「いえ、白雪姫は生きています。」 舞台手前のスクリーンに、森の中で七人の小人に囲まれて幸せそうな笑顔を浮かべている白雪姫の姿が映った。 『実は、白雪姫は胸紐を締められたものの仮死状態になっただけだったので、帰ってきた小人達が胸紐を緩めたら息を吹き返したのでした。怒った王妃は櫛に毒を塗り、それを白雪姫の頭に突き刺して殺す事にしました。…この後、衝撃の展開がっ!べんべん!』 次の場面は森の中の一軒家。 「「「「「「「♪ハイホー!ハイホー!朗らかに〜歌声揃えてハイホー!ハイホー!」」」」」」」 七匹の子山羊…ではなくて七人の小人が歌いながら仕事に出かけていった。 「行ってらっしゃ〜い。」 それを見送った白雪姫(演じるはシンジ)は入り口のドアを閉めたところで固まった。 『猟師によって森に置き去りにされた白雪姫は、樵をやっている七人の小人に助けられました。そして、小人たちのおさんどんをするかわりに家に匿って貰ったのでした。』 レミのナレーションが終わると、ストップ・モーションをやめた白雪姫は家事に取り掛かった。 「さてと…お皿を洗って、お掃除して、お洗濯して、お昼寝して、晩御飯の準備しなくちゃ。」 白雪姫はテーブルからお皿を片付けると、台所でハミングしながら洗い始めた。 「フンフンフンフン、フンフンフンフン、フンフンフンフン、フーンフフーン。」 それを村人の扮装をした王妃が木の陰から見ていた。 「随分と家事慣れしている白雪姫だわね。まあ、そんな事はどうでもいいか。」 村人(王妃)は小人の家の前にやってきて扉をノックした。 「は〜い。」 皿を置いた白雪姫は入り口にやってきていきなりドアを開いた。 「んがっ!」 ドアを顔にぶつけられた村人(王妃)は思わずドアの陰にしゃがみこんだ。 「あら?おかしいわ、誰もいない…確かにノックの音が聞こえたと思ったんだけど…どうやら気のせいだったようね。」 ドアを閉めた白雪姫はスキップしながら戻っていった。 「…うう…おのれ、白雪姫…絶対コロス!」 村人(王妃)は鼻を押さえながら立ち上がった。 「ルルルンルンルン、ルルルンルンルン、ルルルンルンルンルンルーン。」 今度は箒を持ってきた白雪姫は、何かのアニメの主題歌らしき?曲をスキャットで口ずさみながら掃除を始めた。 村人(王妃)は白雪姫が背を向けた隙を見計らってそっとドアを開けると、抜き足差し足忍び足でその背後に忍び寄り、胸元から毒を塗った櫛を取り出した。 「しゅぴーん!」 ♪ジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャカジャン!! 「グサ!」 ♪パラパーン、パッパッパッパーラッパッパ、パラパーン…ジャカジャン!! (暗転。) 「鏡よ、鏡…この世で一番美しい女性は誰だい?」 暗転のまま王妃がまたまた鏡に訊いている。そして鏡も答えた。 「それは、白雪姫で御座います。」 「何だって!白雪姫は死んだ筈だよ!?」 「いえ、白雪姫は生きています。」 舞台手前のスクリーンに、森の中で七人の小人に囲まれて幸せそうな笑顔を浮かべている白雪姫の姿が映った。 「あの姫はバケモノか!…ところで、毎回同じ絵に見えるのだが気のせいか?」 「♪気のせい、気のせい、気のせいです、気のせい、気のせい、気のせいで御座います。」 「もうええっちゅーねん!」 『実は、白雪姫は頭に櫛が刺さったショックで仮死状態になっただけだったので毒は回っておらず、帰ってきた小人達が櫛を抜いたら息を吹き返したのでした。怒った王妃は毒リンゴを作り、それを白雪姫に食べさせて殺す事にしました。…白雪姫、危うし!べんべん!』 場面は再び森の中の一軒家。 「「「「「「「♪ハイホー!ハイホー!高らかに〜歌声合わせてハイホー!ハイホー!」」」」」」」 七人の侍…ではなくて七人の小人が歌いながら仕事に出かけていった。 「行ってらっしゃ〜い。」 それを見送った白雪姫は入り口のドアを閉めて家事に取り掛かった。 「さてと、今日は昨日できなかったお洗濯を最初にやらなくちゃ。」 白雪姫は水を張った盥の中で小人の服を洗い始めた。 それを木の陰で見ていた王妃は胸元から小さな手鏡を取り出した。 「テクマクマヤコン、テクマクマヤコン、りんご売りになーれー。」 『王妃が呪文を唱えると、その姿はたちまちりんご売りのお婆さんになりました。』 「誰もお婆さんになれとまでは言ってなーい!」 『しかし、そのお婆さんには秘密がありました。実は、お婆さんは魔女だったのです!』 「古すぎて誰も知らないわよ!」 などとやってる間に舞台にやってきた黒子に黒いローブと白髪のカツラを付けられ、王妃の変身は完了した。 そんな事とは露知らず、白雪姫は洗濯物を持って家の外に出て、物干し竿に洗濯物を干し始めた。 王妃…ではなくてりんご売りのお婆さんは毒りんごの入った籠を持って近づき、白雪姫に声を掛けた。 「そこの可愛らしいお嬢さん。」 「はい、何でしょう?」 「りんごはいらんかね?」 「まあ、何て美味しそうなりんごでしょう!What an appetizing apple!」 「英訳はしなくていいから。」 「あ、でも…私、お金は持っていないんです。御免なさい。」 「おや、お金を持ってなかったのかい…それじゃあ、今日は特別大サービスで、一個だけただであげるよ。」 「まあ、有難う御座います。」 白雪姫はりんごを一個だけ受け取った。 「それじゃあ、また来るよ。I’ll be back!」 ♪ダダン、ダンダダン!ダダン、ダンダダン! りんご売りはそのBGMとともに去っていった。 「りんごを只で貰えるなんて、今日はいい一日になりそう。早速頂きましょう。」 テーブルに座った白雪姫は、りんごに一口噛り付いた。そしてそれを飲み込んだ途端、小さく呻いてテーブルに伏せるように倒れこみ、動かなくなった。 (暗転。) 『さて、夕方になって七人の小人が仕事から帰ってきました。』 「「「「「「「♪ハイホー!ハイホー!健やかに〜歌声楽しくハイホー!ハイホー!」」」」」」」 家の中には白雪姫が何故か?床に仰向けに倒れていた。 「帰ったよ、白雪姫。」 「やや、白雪姫がまたまた倒れている!」 「最初は胸紐、その次は櫛、今度は何だー!?」 「身体的外傷は無いようだ。」 「首を絞められた痕跡も無いね。」 「このりんごは何だろう?」 「さあ…。」 『♪殺人現場に〜りんごが落ちていた〜ガブリと齧った歯形が付いていた〜。』 「「「「「「「おい!!!!!!!」」」」」」」 『こほん…もとい、七人の小人は今度は白雪姫が倒れた原因を見つける事ができませんでした。』 ♪んーんーー、んんんんんんんー、んーんーー、んんんんんんんー。 『とうとう、白雪姫は本当に死んでしまったのです。』 ♪らららりららりららりららりらららーー…んーんー…んーんー…んーーんーーんーーーーん。 (暗転。) 「鏡よ、鏡…この世で一番美しい女性は誰だい?」 暗転のまま王妃がまたまたまた鏡に訊いている。そして鏡も答えた。 「それは、王妃様で御座います。」 「何だって!白雪姫は死んだ筈だよ!?」 「ですから、この世で一番美しい女性は王妃様で御座います。」 「あ、そうか、いいのか…よっしゃあ!」 『七人の小人は白雪姫に別れを告げ、荼毘に付す事にしました。王子様、早く行かないと白雪姫が消炭姫になっちゃいますよ!』 場面は森の中の葬祭場。BGMは<ヴァレリア葬送>([コナン・ザ・グレート]より) 「人はみな、死ぬ…生きとし生ける者、それが運命…。」 「だからこそ、残された者は精一杯生きなければならない…。」 「愛した者の分まで…。」 「白雪姫は死んだ…。」 「…さようなら、白雪姫…。」 「白雪姫と過ごしたこの数日を、僕達は決して忘れない…。」 「どうか、天国で安らかに眠ってくれ…。」 七人の小人が白雪姫に祈りを捧げていたその時。 「ちょっと待ったー!」 その声の後、ヒヒーン!と馬の嘶く声がして、隣国の王子(演じるはカヲル)が馬に乗ってやってきた。 王子は颯爽と馬から飛び降りると、小人たちの傍に駆け寄った。 「ああ、間に合った。」 「は?」 「いや、何でもない、こっちの事です。」 「ところで、どちら様ですか?」 「ああ、私は旅の途中だった、隣の国の王子でカヲルという者。ところで、何方がお亡くなりになったのですか?」 「この国の王女様、白雪姫です。」 「え?王女たる方が何故このようなところで…。」 「実は、白雪姫はその美しさを継母である今の王妃様に疎まれ、命を狙われていました。そこで、私達が匿ってあげていたのですが…。」 「昨日、仕事から帰ってきたら、亡くなっていたのです…。」 「そうですか、それはお気の毒に…。」 王子は白雪姫の置かれている台座に歩み寄った。 「おお、これが白雪姫…何とお美しい方だ…できる事なら、生前にお会いしたかった。」 一方、舞台の下の観客席の中では…。 “うほっ…女装した黒髪の美少年と凛々しい王子姿の銀髪の美少年のツーショット…これは萌える!そのまま目覚めのキスをしちゃったりなんかしたら…いや〜ん、凄過ぎるうぅ〜!” あらぬ妄想に身悶えしている女子生徒が一人いた。 と、いつの間にか、王子の乗ってきた馬が近寄ってきていた。 「…神よ、願わくばこの口付けを以って白雪姫の命の火を再び灯し給え。」 その途端、二人の従者(演じるはアスカとレイ)が馬の中から出てきてカヲルの両側に立ち、何故か睨み付けた。 「…君たち、何か用かい?」 「「気のせいで御座います。」」 「そうか、気のせいか。」 そして王子が白雪姫に顔を近づけようとすると、二人の従者は何故か王子の両肩を掴んだ。 「…君たち、何のつもりだい?」 「「気のせいで御座います。」」 それにも関わらず王子が白雪姫に口付けしようとすると、二人の従者は何故か王子の頭を一発ずつ殴った。 「…君たち、何をするんだい?」 「「気のせいで御座います。」」 「気のせいな訳あるかーっ!」 「ドサクサに紛れて何をするつもり?」 「白雪姫のクライマックスと言ったら王子によるキスで姫が目覚めるところじゃないか。」 「だからってそんなアブノーマルな事をさせるもんですか!」 「君たちは王子の従者だろう?だったら邪魔をするのは辞め給え。」 「何の為に従者になったと思ってるの?」 「あんたがこういう事するかもしれないと思ったからじゃないの!」 「二人とも、手を離し給え。劇を滅茶苦茶にする気かい?」 「だからと言って貴方の好き勝手はさせないわ。」 「シンジを守る為なら劇なんかどうだっていいわよ!」 三人とも台本無視の脚本そっちのけで大騒ぎ。七人の小人は思わず目が点になったり、口をあんぐりと開けてポカーンとなったり、ある意味?予想された展開に頭を抱えたり…。 と、三人が台にぶつかった弾みで白雪姫は台から転げ落ちた。 「あ痛たた…三人ともヒドイよ…。」 白雪姫は落ちた時に頭を打ったらしく、頭を擦りながら上半身を起こした。 『何という事でしょう、台から落ちた拍子で白雪姫は食べた毒りんごのかけらを吐き出し、生き返ったのでした。』 グッド・タイミングでレミのナイスなフォローが入った。 『そんな訳で、三人とも、痴話ゲンカはやめて劇に戻ってね。』 はっと我に返った白雪姫は立ち上がって王子に近寄った。 「何処の何方か存じませぬが、有難う御座いました。」 「「「「「「「白雪姫!!!!!!!」」」」」」」 七人の小人たちが駆け寄ってきた。 「みなさん、心配かけて御免なさい。もう、私は大丈夫です。」 「良かった、良かった。」 「でも、いつまた王妃様の魔の手が襲ってくるか…。」 「心配だね。このままじゃおちおち仕事にも出られやしない。」 「どうしよう…?」 七人の小人は考え込んだ。すると。 「白雪姫…私の国に逃げるというのはどうでしょうか?」 「貴方の国へ?でも、それでは貴方や国にご迷惑を掛ける事に…。」 「ご安心を。こう見えても私は王子なのです。何も心配する事はありません。」 「そうか…うん、その方がいいよ。」 「僕達よりも王子様の方がずっと偉いし強そうだし…。」 「きっと白雪姫を幸せにしてくれると思うよ。」 「それならば…よろしくお願いします。」 「ええ。それでは、これから私の城に戻るまでは馬でお送りしましょう。ほら、君たち、早く馬に戻り給え。」 王子に言われて従者の二人はもう一度馬の着ぐるみを被ると、白雪姫の前にやってきた。 白雪姫が自分の前でしゃがんだ馬に横座りで乗ると、馬は少々よろめきながらも立ち上がった。 「それではこれにて。みなさん、ごきげんよう。」 白雪姫の一行は七人の小人たちの前から去っていった。 「「「「「「「白雪姫、どうかお幸せに!!!!!!!」」」」」」」 「みなさんもどうかお元気で!」 (暗転。) 『こうして白雪姫は隣の国へ旅立っていきました。メデタシメデタシ…え?まだ続きがあるって?失礼しました。それでは続きをどうぞ。とっても凄いのよ!』(何が?) 場面は隣国の王宮内。玉座には王様(演じるはトウジ)とその横に王妃様(演じるはヒカリ)が座っている。 そこに王子の従者二人がやってきた。 「王様、王妃様、王子様と白雪姫の支度が整いました。」 「うむ。」 「さっそく二人をお呼びしなさい。」 「はい。」 従者が戻っていくと今度は正装した王子とウェディングドレスに身を包んだ白雪姫が現れた。 「王子よ。白雪姫を幸せにするのだぞ。」 「はい。」 「白雪姫、今日から貴女は私達の家族、もう何も遠慮する事はありませんよ。」 「有難う御座います。」 『白雪姫は王子様にプロポーズされ、結婚する事になったのでした。さて、その様子を物陰から見ている者がいました。』 「そんなバカな…白雪姫は死んだ筈なのに、どうして生きているのじゃ!?」 それは、りんご売りの老婆に化けた継母だった。 『この世で一番美しい女性は誰か、しつこく魔法の鏡に訊いた継母は、それがこの国の王子の妃であると言われ、調べにやってきたのです。そこに怪しい老婆がいるぞ!』 「こ、こらー、何を言うか!」 「そこにいるのは誰だ!」 「げっ、しまった!」 りんご売りの老婆は王子に見つかってしまった。 「あっ、あれは私に毒入りりんごを売りつけたお婆さん!」 「ウソ付け!あれはタダであげたでしょうが!」 「ええい、黙れ!白雪姫の命を狙う者だ、捕まえよ!」 その王子の命令と共に王子の従者や衛兵や黒子や七人の小人や何故か普段着姿の裏方の生徒達がわらわらと舞台上手下手から沸いて出た。 「何人出てくるのよー!」 圧倒的な人海戦術でりんご売りの老婆は捕らえられ、連行されていった。 やがて、BGMに<美しき青きドナウ>(J・シュトラウスU世)が聞こえてくると、王子と白雪姫は手に手を取って踊り始めた。すると、衛兵や侍女達も何組かのペアを作って踊り始めた。 そして、短くアレンジされたBGMが終わると共に幕が下りて白雪姫の舞台は終了した…ようだが。 『こうして、隣国の王子と結婚した白雪姫は末永く幸せに暮らしたそうです。今度こそ、メデタシメデタシ。…え?継母がその後どうなったかって?そう、彼女はそれまでの悪行を糾弾され、罰として真っ赤に焼けた靴を履かされて死ぬまで踊らされたそうです。』 と、スクリーンに赤い靴を履いて踊り続ける継母の姿が映った。 「あちゃぁーっ!あーちゃちゃちゃちゃちゃ、あちゃぁーっ!」 終劇 超人機エヴァンゲリオン2 「世にもおかしな白雪姫」 完 あとがき