2月。 吉良邸への赤穂浪士討ち入りのように、今年も恒例の恋する乙女達を悩ますイベントがやって来た。それはバレンタイン・デー。受験生であるアスカやレイはまず一にも二にも勉強が大事だが、甘いものは入るところが別という戯言の如く?このイベントもそれはそれで大事だ。 果たして、女のコ達はどんなチョコレートを異性に渡すのか…。 「バレンタイン・デー反対!」 「バレンタイン・デーを粉砕せよ!」 「バレンタイン・デーを即刻中止しろ!」 「バレンタイン・デーは聖バレンタインに対する冒涜です!」 「バレンタイン・デーを利用した、男性に対する女性の不当な搾取を許すな!」 …バレンタイン商戦華やかな町並みを<バレンタイン撲滅委員会>なる集団がプラカードや横断幕を掲げ、シュプレヒコールを挙げながらデモ行進していく。 想い人への愛の告白をお題目としてその実、相手に渡すチョコレート(を主として、その他様々なプレゼント)を買わせるという商業活動の為に聖バレンタインの名前を利用するのは、宗教的に冒涜行為に当たる。 また、バレンタインを利用して大勢の男性に安い義理チョコをばら撒き、一ヵ月後のホワイト・デーにお返しとして高価な物品を女性が得るのは不当な搾取行為である。 …というのがその団体の主張であるようだ。まあ、本当にそう考えている宗教関係者・人権問題関係者はもしかしたらわずかで、圧倒的多数は恋愛の神様に見放された者達かもしれないが…。 そんな事は全く以って馬の耳に念仏もしくは馬耳東風といった感じで、恋する女の子達はチョコレート調達に勤しんでいた。 「表面はホワイトチョコだから…こんな割合かな?」 アスカは普通のチョコをベースに、その表面にホワイトチョコと普通のチョコで絵を描いてシンジにアピールしようと考えていた。なお、何をアピールするかについてはここでは伏せておく。 「普通のチョコレートじゃインパクトは残らない…誰も考え付かないチョコレートにしなくちゃ…。」 レイはホワイトチョコばかり買い込んでいた。もう片方のバッグには既にフルーツが何種類か入っていた。 「奇を衒う必要はないよね…ここはストレートで勝負するしか…。」 ナツキはレイとは逆に普通の板チョコを大量に買い込んだ。 そして、料理では一番の腕前のヒカリは、チョコレートの調達はノゾミに任せて自分はなぜか高級デパートのデザート売り場に来ていた。 「お買い上げ有難う御座いました〜。」 ヒカリがそこで買ったのは何とトリュフチョコ。まさか、料理自慢のヒカリが既製のデザートを購入とは…? 今年(2017年)の2月14日は火曜日。去年は日曜日だったので当日はたいしたイベントはなかったが、今年は平日とあって何やら第一中には朝から不穏?な不因気ならぬ雰囲気が漂っているようないないような…。 「お早う、トウジ、ケンスケ。」 「おりょ?惣流はどないしたんや?」 「後で行くってさ。なんかドタバタしてたけど…そういうトウジも、委員長は一緒じゃないの?」 「こっちは逆に先に行くって言われてもうたがな。」 不思議顔の二人にケンスケは大きく溜息を吐いた。 「はぁ〜っ…お前ら本当に鈍いな。今日はバレンタイン・デーだろ?後でチョコを渡す事を考えたら、そのチョコを持ったまま一緒に登校する訳ないじゃんか。」 「何でや?ワシは朝から貰ったら今日は一日いい気分になれるがのう。」 “本当にこいつは女のコの気分というものに疎いヤツだな…。” 「それに、わざわざ学校に行ってから渡さなくたっていいと思うけど。」 “そりゃあ、シンジの場合はややこしい事態になるからのう…。” 「気楽なお前らが羨ましいよ。」 “まあ、かわいそうだけどケンスケには無縁な話だもんな…。” などと三者三様の思いを抱えながら三人は第一中に向かった。 「やあ、お早うシンジくん、鈴原くんに相田くん。」 校門でシンジ達はカヲルと合流した。 「お早う、カヲルくん。」 「綾波はどうしたんや?一緒じゃないんか?」 「それが、朝からチョコレートの事でドタバタしていたから、先に出てきたのさ。」 「ふーん。てっきりお前の事だから、綾波がシンジに渡すチョコレートをくすねて来たんじゃないのか?」 「おかしな事を言うんだね、相田くん。確か、バレンタイン・デーは女性が男性にプレゼントをする日の筈。どうして僕がシンジくんにプレゼントをするんだい?」 「そうか、ちゃんと理解していたんやな。」 「悪かったな、変な事訊いて。」 「それに、僕の気持ちは出会った時にもうシンジくんには伝えてある。今更改めて何か言う必要なんてないのさ。」 「そうだね。カヲルくんは僕の大事な友達だよ。」 既にカヲルの素性を知っているトウジとケンスケにはその言葉の真の意味が理解できるが、知らない者はおそらく誤解しかねない。 さて、昇降口についた四人が下駄箱の扉を開けると、カヲルの足元にのみ、リボンで包まれた箱がドサドサと落ちてきた。 「早速チョコをGETか。」 「カヲルくんは女子の人気No.1だからねぇ。」 「これは困ったなぁ…。」 「なーにが困ったや!そんな事言いながらどうせ全部受け取るつもりやろうが!」 「勿論だよ。多少の差はあるかもしれないけど、相手の気持ちがこもっているからね。」 「だけどな、その気が無いのに受け取るというのは、相手に誤解を与えかねないぞ?」 「そんなことは気にしないね。誰に何と思われようと、僕にはシンジくんがいてくれればそれでいいのさ。」 「愛とは惜しみなく注ぐもの、とか、愛に見返りを求めてはいけない、なんて言うしね。」 と、哲学っぽい言葉で口を挟んだのはレミだった。 「お早う、綾野さん。」 「君は誰かにチョコをあげるのかい?」 「いいえ。そんな相手、いないもの。」 実は、そんな相手はいるにはいるのであるが、行方不明なので渡しようがないし、相手も興味無さそう…というのが本当である。 「しかし、本当に困ったな…どうしよう?」 下駄箱の中に入っていたもの、机の中に入っていたもの、教室の後ろのロッカーの中に入っていたもの…まだ、朝のホームルーム前だというのに、カヲルの机の上にはチョコレートの山ができてしまっていた。 「けっ、贅沢な悩みやのう。」 「これだけ大量のチョコレート、持って帰れないよ。」 「そっちの困ったかよ!」 「別に、一度に持って帰らなくてもいいんじゃない?持てる分だけ毎日もって買えればいいし、もしかしたらいい運動になるかもしれないよ?」 「そうか、そうだね。流石シンジくん。」 「でも、食べ物を粗末にしてはいけないからね。今も世界中には飢えた子供達がまだまだ大勢いる。だから、ちゃんと食べないと送った相手にも飢えた子供達にも失礼よ。」 レミの言葉にさしものカヲルも蒼褪めた。 「こ、これだけ大量のチョコレートを食べなきゃいけないのか…どうしよう…。」 「虫歯になるな。」 「太るでぇ。」 「モテ過ぎる男はつらいよ、ってとこね。」 「別に、一度に食べなくてもいいんじゃない?デザート代わりに毎日少しずつ食べていけばいいし、もしかしたらその分エンゲル係数が減るかもしれないよ?」 「そうか、そうだね。流石シンジくん。」 シンジの言葉でカヲルの顔に赤みが戻ってきた。 「…本当に渚くんって罪作りな人…。」 小さな溜息と共に聞こえたその声でトウジはヒカリに気づいた。 「おお、ヒカリ。今日は期待しとるでぇ。」 もはや公然の仲とはいえ、そんな風にあからさまに言われると純情な乙女は気恥ずかしくなってしまう。 「え…えっと、その…お昼まで待ってね。」 それだけ言って、ヒカリは自分の席に戻ってしまった。 そして、アスカとレイは朝のホームルーム開始ギリギリの時間に教室に駆け込んできたのだった。 「二人とも、なんでこんなに時間掛かったの?」 「「…いろいろと事情が…。」」 「ふーん…まあ、楽しみにしてるからね。」 そして、一時間目終了後、最初にシンジにチョコレートを渡しに来たのはなんとナツキだった。 「シンジさん、受け取って下さい。」 ナツキが差し出した箱は何と人の顔よりも大きいサイズだった。 「えーと、なんで僕に?」 「…えーと、あのですね…。」 シンジに問われて理由を言いかけたナツキは背後からプレッシャーを感じて振り向いた。そこには腕を腰にして睨んでいるアスカとレイがいた。 「…私達がいる前で堂々と渡しに来るなんて、いい度胸してるのね…。」 「鈴原…あんた、妹にどんな躾をしてるのかしら?」 「ワシもやめとけと言うたんやが…まあ、ナツキの言い分を聞いてあげたってくれ。」 それは、昨日の話。 トウジが帰宅すると、台所から甘く香るいい匂いがしてきた。早速トウジが台所に向かうと、そこにはエプロンをしたナツキが立っていた。 「おっ、ナツキ、デザート作っとるんか?」 だが、ダイニングのテーブルの上にはいくつものチョコレートらしき欠片が…。 ナツキが作っているのはデザートではなく、バレンタイン用の手作りチョコだった。それも、先日購入した大量の板チョコを湯煎で溶かして、一つのハート型チョコレートを作ろうとしていたのだ。その大きさはなんと顔ぐらいのサイズ。 「ほう、チョコレートか、美味そうやのう…。」 「あーっ、食べちゃ駄目ーっ!!」 ナツキに大声を出され、トウジは思わず拾い上げたチョコレートの一片を取り落とした。 「バレンタイン用のチョコレートらしいわよ。誰に贈るかは知らないけど…。」 居間でTVを見ていたハルカがトウジに声を掛けた。 「手伝おうか?って言ったんだけど、どうしても自分一人で作りたいってさ。」 「ほほう…ナツキ、誰に渡すんや?しょーもないヤツやったら許さへんで。クラスメートか?同じクラブのヤツか?」 「そんなの、お兄ちゃんには関係ないじゃない。」 「いいや、訳のわからんヤツにナツキが騙されて傷つくような事は…。」 「シンジさんが悪い人の訳ないじゃない!」 「何?相手はシンジやと?」 「あ…えっと、そ、その…。」 「あら、相手ってシンジくんなの?でも、あのコって確かアスカちゃんと婚約してるって聞いたけど?」 「そのとおりや。しかし、変やな?あいつは二股かけるようなヤツやないし…ナツキ、どう言うこっちゃ?」 「…だって…せっかくのバレンタインだし…誰かに手作りのチョコレートあげたいって思って…。」 「ワシでええやないけ?」 「お兄ちゃんじゃ意味無いんだってば!それに、お兄ちゃんにはヒカリお姉ちゃんがいるでしょ!」 つまり、恋に憧れるナツキはバレンタインというイベントを機に恋愛のドキドキ感で心をときめかせたい、と考えたらしい。で、その相手に選ばれたのが体育祭の一件以来、気になる存在のシンジだった訳だ。 「うーむ、いや、しかしなあ…ナツキ、考え直さへんか?確かにシンジは真摯なヤツでワシもイチ押しとしたいところなんやが、既にお前の手の届かん所におるんやで?」 「それはわかってるよ…でも、それでもいいの。例え届かなくても、私は自分の想いを伝えてみたいの。もう、当たって砕けろって感じかな、あはは…。」 ナツキは気丈に笑って見せた。 「そう言う訳で、どうか受け取ってください、シンジさん。」 「うーん…気持ちは嬉しいんだけど…。」 「シンジ…もう、いいからガツンと言ったれや。そうすればナツキも早々とあきらめがつくってもんや。」 「わかった…頂こう。」 「え?」 「シ、シンジ?」「碇くん?」 一瞬、誰もが(ナツキさえも)驚きの顔になったが。 「ただし、お返しはしないよ。それでも良ければだけど?」 これでもシンジはきつく言ったつもりだったのだが、ナツキは想像以上に根性があった。 「ええ、それでもいいです。あ、でも、美味しいか美味しくないか、感想ぐらいはお願いしますね。」 ナツキはシンジにチョコレートを渡すと、それだけ言って自分のクラスに戻っていった。 「来る者は拒まず、か…シンジくんらしいよ。」 トイレから戻ってきたカヲルは両手にまたチョコレートを一杯にしていた。 “同じ穴の狢…と言うのかしら?” 見ていたヒカリは変な感想。 「ところでアスカ、来る者は拒まず、では、去る者は?」 シンジに急に問われたアスカはしばし考えて…。 「…うーん…地獄の果てまで追いかける、とか?」 そして、二時間目終了後、二番目にシンジにチョコレートを渡しに来たのはまさかのノゾミだった。 「碇センパイ…どうか何も言わず、受け取ってください!」 ノゾミが差し出したのは手の平サイズの小鉢だった。 「えーと、なんで僕に?」 「…えーと、あのですね…。」 シンジに問われて理由を言いかけたノゾミは背後からプレッシャーを感じて振り向いた。そこには腕を腰にして睨んでいるアスカとレイがいた。 「…私達がいる前で堂々と渡しに来るなんて、いい度胸してるのね…。」 「ヒカリ…これはいったいどういう事なの?」 「私もやめときなさいって言ったんだけど…とりあえずノゾミの言い分を聞いてあげて頂戴。」 「ヒカリお姉ちゃんは今年はどんなチョコレートを作るの?」 「うーん、まだこれといって決めてないなぁ…。」 「それじゃあさ、トリュフチョコなんてどうかな?」 「…なんでそれを薦めるの?」 「えーと、びっくりチョコレートで…。」 最近、巷の女子中高生の間で割と人気の出てきた少女小説<ユリア様がみてる>のとあるエピソードで、主人公が作ったトリュフチョコのせいで一騒動が起こる、というのがあるのだが、ノゾミはそれから思いついたらしい。 「要するに、ただの思い付きね。」 「ま、まあ、そうなんだけど…それで、話はここからが本題で…。」 「何よ?」 「私も作ってみたいと思って…。」 「…あんたの事だからどうせ渚くんにでも渡すつもりでしょうけど、彼は女のコには興味無いみたいだから無駄よ。」 「渚センパイじゃなくって…碇センパイに…。」 「ノゾミ…あんたね、あれほど碇くんに迷惑掛けてまだ懲りないの!?あの後、私が碇くんにどれだけ謝ったか…。」 「だ、だから、お詫びの意味も込めて…。」 「それにね、もう彼にはアスカというフィアンセがいるのよ?あんたがチョコレートなんか渡したらそれこそアスカが…。」 「別に惣流センパイなんて怖くないもん。チョコレート渡すだけで、何でそんな事気にしなくちゃいけないの?」 「私の立場はどうなるのよ!?」 自分はアスカの親友であるのに、自分の妹がアスカのフィアンセに色目を使う?なんて事になったら…。 「それはそれ、これはこれ。いいじゃないの、好きにさせたら?」 二人の言い合いを聞いていたのかいなかったのか、話に割り込んできたコダマは少々ずれた発言。 「また、お姉ちゃんはそんないい加減な事言って…。」 「大丈夫だって。シンジくんって浮気性でもないんでしょ?」 「まさか!あ、でも、八方美人で誰にでも優しいのが…。」 「そんなの大した事ないって。ま、シンジくんを信じてみなさいな。」 「コダマお姉ちゃん、それってギャグのつもり?」 「何の事?それより、トリュフチョコ作るんだったら私も一口乗せて貰えないかな?」 「?…えーと…リリアンってそういう女子高なの?」 「何を勘違いしてるのよ…ただ単に普段お世話になっている人への御礼よ。」 そんな訳で、洞木三姉妹はヒカリをメインにコダマとノゾミがアシスタントを務める形でトリュフチョコを作る事になった。 1.チョコレートを刻んでボウルに入れる。 2.生クリームを鍋に入れて沸騰直前まで温めた後、1.のボウルに入れ、チョコレートが完全に溶けて滑らかなクリーム状になるまで、泡だて器で混ぜ合わせる。 3.ラム酒を2.に加えて混ぜ合わせたら、そのまま涼しい場所に置いて冷ます。時々かき混ぜながら、絞れるくらいの固さ(混ぜる時にやや重さを感じるくらい)になるまで待つ。 4.冷ました3.を口金を付けた絞り袋に入れ、オーブンシート等を敷いた板の上に棒状に搾り出す。 5.そのまま冷蔵庫で約15〜30分ほど冷やす。 6.冷やした5.を取り出し、温めた包丁で切り口を溶かすようにして切る。 7.ガナッシュ(6.で出来たもの)を冷やした手の平で団子状に丸める。 8.コーティング用のチョコレートをボウルに入れ、湯煎で溶かす。 9.溶かしたチョコを手につけ、丸めたガナッシュを手の平の上でコロコロと転がしてコーティングする。 10.バットにココアパウダーを広げ、コーティングしたガナッシュをその中に転がして表面にココアをまぶしつける。 以上がオーソドックスなトリュフチョコの作り方であるが、洞木三姉妹はもう一工夫し、隠し味としてトリュフパウダーをココアに混ぜ込んだ。 「「「トリュフチョコの完成でぇーす!」」」 某芸能界の三ツ星シェフみたいに決めた洞木三姉妹。 出来たトリュフチョコは、味の比較の為にデパートで買ってきたものとほぼ遜色ないものだった。 「そう言う訳で、どうか受け取ってください、シンジさん。」 「うーん…気持ちは嬉しいんだけど…。」 「碇くん、遠慮はいらないわ。ビシッと言ってあげて。そうすればノゾミも早々とあきらめがつくから。」 「わかった…頂こう。」 「え?」 「シ、シンジ?」「碇くん?」 一瞬、誰もが(ノゾミさえも)驚きの顔になったが。 「ただし、お返しはしないよ。それでも良ければだけど?」 これでもシンジはきつく言ったつもりだったのだが、ノゾミは想像以上にタフだった。 「ええ、それでもいいです。受け取って貰えるだけで嬉しいです。」 ノゾミはシンジにチョコレートを渡すと、それだけ言って自分のクラスに戻っていった。 「来る者は拒まず、か…シンジくんらしいよ。」 “それはお前の事だろ…。” またも両手にチョコレートを一杯にしてトイレから戻ってきたカヲルにケンスケは心の中でツッコミを入れた。 EXTRA HUMANOIDELIC MACHINARY EVANGELION2 CHILDREN’S GRAFFITI EPISODE:11 The chocolate panic of the girl who is in love そして、三時間目終了後、三番目にシンジにチョコレートを渡しに来たのはレイだった。 「碇くん…お待たせ。」 レイがシンジに差し出したのは、カラフルなリボンでラッピングされた小鉢。 「ありがとう、綾波。受け取らせて貰うよ。」 ナツキやノゾミのものとは違って、今度は受け取るのにやぶさかでないシンジだった。 一方、アスカはそれも想定していたかのように、じっと見ているだけで動こうとはしなかった。 「おりょ?惣流は動かないみたいだな。」 「ふむ…何か考えでもあるんじゃないかな?誰とも違うタイプのチョコを出す為に最後まで待っているとか…。」 “ふふん…なかなか鋭いわね、渚…と言いたいところだけど、まだまだね…。” 果たして、アスカは何を企んでいるのか? それはともかく、レイが作ったのは各種フルーツとホワイトチョコをコラボレーションさせた、小さなボール状のカラフルチョコだった。バナナを混ぜたイエローチョコ、リンゴを混ぜたレッドチョコ、ミカンを混ぜたオレンジチョコ、グレープを混ぜたパープルチョコ、メロンを混ぜたグリーンチョコ、ブルーベリーを混ぜたブルーチョコ、イチゴを混ぜたピンクチョコ。 これは全てリツコのアドバイスだった。 普段、貴女はおとなし目なんだから、こういう機会は派手にアピールしなくちゃ。 訊かれた事しか教えないだの何だの言われていたリツコだが、ここぞとばかりにレイの恋の後押しをしてその不名誉な言われ様を払拭しようと考えたのかもしれない。 「ふーん…レイにしてはなかなか派手な作戦ね。どれどれ…。」 レイのチョコを品定めしようとやってきたアスカは、その一つを味見しようと手を出したが、レイはその手をぴしゃりとはたいた。 「痛…何するのよ!」 「貴女に食べさせるために作ったんじゃないわ。」 「あんたの事だから、変なこだわりでとんでもないシロモノになってるかもしれないじゃない!そんなの、シンジに食べさせる訳にはいかないわ!」 「アスカ…僕は小さな子供か?」 「そう…それなら、余り物があるからそれで吟味すればいいわ。」 レイはスカートのポケットから数個のチョコを取り出した。だが、それらは透明なラップで巻かれているものの、色は少々褪せた・くすんだ・濁ったという感じのマスタード、モスグリーン、ブラウンだった。 「…むぅ…(はっ!?)」 それらを手にしてじっと見ていたアスカだったが、ふと顔を上げると、レイが何となくほくそえんで自分を見ているような気がした。 “…これは、罠だわ!” 直感したアスカは灰色の脳細胞をフル回転させて窮余の一手を閃かせた。 「…ここはやっぱり、男の口に合うかどうかを試すべきね。そんなわけで、鈴原と相田と渚に試食を御願いするわ。」 アスカはトウジとケンスケとカヲルにチョコを一個ずつ渡した。 「「「い…頂こう!!!」」」 チョコレートに飢えていたトウジとケンスケ、そして得も知れぬアスカの雰囲気に気押されたカヲルはすぐにチョコを口に放り込んだ。 次の瞬間…。 「「「銃bw;ぺvjfc¥*WQmじぇv*qぺ!?!?!?」」」 この世のものとは思えない凄まじい叫び声が響き渡った。 「ど、どうしたの、三人とも!?」 ヒカリが声を掛けるも三人は半ば気絶状態。 実は、三人が食べたものはホワイトチョコにとんでもないものがコラボレーションされていたのだ。それが何かと言うと…マスタードはそのまんまマスタード、モスグリーンはあろう事かワサビ、そしてブラウンは何とトウガラシが入っていたのだ。 「残念だったわね〜レイ?」 満面の笑顔で何故か勝ち誇るアスカ。 「もう少しだったのに…。」 少々落胆の表情のレイ。 「ふっふ〜んだ。この私を引っ掛けようなんて、10万年早いっての!」 「10万年って…デーモン一族じゃないんだから…。」 「…まあ、いいわ。本当の目的は達せられたし…。」 レイはそう言って半ば逝きかけているカヲルをフッと鼻で笑った。 そう、そのチョコレートは本当はカヲルへのイタズラ用に用意していたものだった。 「そう…それは良かったわね…。」 その声にレイは思わずビクッとした。 「びっくりチョコレートか何だか知らないけど、トウジを巻き込んだ事についてオトシマエはどうつけてくれるのかしら?」 「いえ、あの、その…それは想定外なもので…。」 氷の微笑を携えて迫ってくるヒカリにレイはひたすら後退を続けるしかなかった。 バレンタインのイベントは独身の男女であれば多少は気になるもの。それは生徒達だけでなく、教師でも例外ではない。 「今年も生徒からの義理チョコさえ無しか…。」 「考えるに、義理チョコとはいえ毎年くれるマヤちゃんは有難い存在だな。」 マヤは毎年日向と青葉には一応義理チョコを贈っていた。それも一見高価そうで実は安いものでエビタイを狙い、ホワイトデーのお返しに高価なアクセサリーをGETするなど、かなりの強かさを持っていた。 「今年のお返しはどうするかな?」 「やっぱり、お互い薄給の身だし、例年の如くUSEDでいくしかないんじゃないか?」 しかし、マヤがマヤなら、敵?も然る者。日向と青葉はUSEDSHOPで一見高そうで実はお手ごろな値段のアクセサリーをお返しに贈っているのだった。 で、そんなマヤはお手製のチョコレートを携えて保健室のリツコの許を訪れていた。 「センパイ、今年も一生懸命作ってきました。どうか召し上がって下さい。」 「あのねぇ、マヤ?慕ってくれるのは嬉しいんだけど…高校を卒業して何年になると思ってるの?そろそろ、貴女も本命のチョコを渡せる男性を見つけるべきではないかしら?」 「でも、私は誰よりもセンパイが…。」 “確かに、卒業する時に私はずっとこのコの姉でいると約束したけれど…そろそろ距離を置くべきなのかもしれない…。” 昼休みになっても、アスカは大トリを務めようとでも思っているのか、まだ動かなかった。そんなアスカを見かねたレミはアスカに声を掛けた。 「どうしたの?惣流さん。まだ決心がつかないの?」 「う、うん、ちょっとね。」 どうやらレミは何故アスカがなかなかシンジにチョコレートを渡さないのか、その理由を知っているらしい。 「ここは大胆にアピールできるまたとない好機よ。頑張って勇気を出さないと。」 「うん…まあ、それはわかっているんだけど…逆にシンジが思いっきり引くかも…。」 「大丈夫。♪貴女はシンジを信じなさい、ああ信じなさい、ほれ信じなさい。」 「綾野さん、いきなり何を…。」 突然、誰も知らない古い歌を歌いだしたレミにアスカは思わずメガテンいや目が点に…。 さてその頃、体育館の裏ではトウジがヒカリからチョコを無事に受け取っていた。 「ワシは今、猛烈にカンゲキしとる!」 どこかの何かのアニメで聞いたような違うようなセリフでトウジは己の心情を表現した。 「よかった。ノゾミの発案で初めて作ったトリュフチョコだったんだけど、隠し味として本当にトリュフパウダーを入れてるのよ。」 パクパクとトリュフチョコをパクついているトウジにヒカリは少々自慢話をしたが。 「ほうか…ほんで、トリフって何や?ドリフの親戚か何かか?」 その瞬間、ヒカリは石化した。 さて、バレンタイン・デーで異性に贈るものは何もチョコレートだけではない。心のこもったプレゼントなら何でも有りになっているのだが、 「2月14日は愛する者に下着を贈る日とする!」 などと、かつて悪魔教の教祖がぶち上げた事があった。 それが切っ掛けになったのかどうかは知らないが、既に深い間柄になった男女の場合は、男性から女性へ下着をプレゼントするというルールも定着しており、商店街の高級ランジェリーショップではチョコレートと同時に下着を包むサービスも行っていた。 そこへやってきたとある女性(仮にKさんとしよう)はディスプレイされている商品をじっくり品定めし、チョコレート色の上下のセットを買う事にした。 「こちらのセット、頂くわ。」 「お買い上げ有難う御座います。」 「それ、贈答用にラッピングして貰える?」 「かしこまりました。贈答用というと、バレンタインのプレゼントですか?」 店員の女性は、今自分が応対している相手が女性だという事を忘れてマニュアルどおりの受け答え。 「ええ。可愛く包んでね。」 「はい………あれ?………えーと………。」 店員はようやく何か不思議と言うか変な感じがしてやっと気づいた。普通、女性用の下着をプレゼントするのは男性からなのに、今自分が応対しているのは女性なのである。 「あ、あの…これ、バレンタインのプレゼントですよね?」 「ええ。」 「…女のコにプレゼントするんですよね?」 「いいえ、男のコよ。」 「は?」 「それも、女のコみたいにカワイイ男のコなの。だから女性用のランジェリーをプレゼントしても問題無い、という訳。ウフフ、きっと似合う筈だわ。」 店員が口をあんぐりと開けて呆然としているのにも気づかず、Kさんは脳内で妖しい妄想を展開…そしてついに、 「…ブハァッ!」 と吐血…ではなく、鼻血を吹いた。 そして、2月14日もとうとう放課後を迎えた頃、意を決したアスカはやっと動いた。 生徒達が帰り支度をしている中、アスカはシンジに厚い円盤型の包みを差し出した。 「お待たせ、シンジ。はい、バレンタインのチョコレート。」 「あー、やっと来たか。待ちくたびれたよ、アスカ。」 そう言いつつ、シンジはその包みを受け取った。 「ゴメンね。ちょっといろいろ思うところがあって…。」 「うん、まあ、いいよ。さて、アスカはどんなチョコを作ったのかな?」 「あ、ちょ、ちょっと待って、シンジ。」 シンジは早速包みを開けようとしたが、何故かアスカはそれを止めた。 「何?」 「あ、あのね、開けるのは家に帰ってからにして貰えない?」 「何を今更恥ずかしがってるの?どんな失敗作だって、アスカからのプレゼントは嬉しいに決まってるじゃないか。」 「いや、そういう事じゃなくて…出来栄えはカンペキよ。だけど、中身はシンジだけに見て欲しいの。」 いつになく、アスカは心底恥ずかしいようで顔は真っ赤になっていた。 「わかった。じゃあ、家に帰って一緒に食べよう。」 「ええっ?い、一緒に!?」 何故かうろたえるアスカに周囲の者はメガテンいや目が点に…。 「まあまあ、いいじゃないシンジくん。後で嬉し恥ずかしビックリドッキリ体験が待ってる筈だから、乞う御期待。」 レミが助け舟を出し、結局シンジは期待に胸をWKTKさせながらアスカと家路についたのだった。 「はぁ…結局俺だけ貰えなかったのか…。」 とぼとぼと一人で下駄箱に歩いていたケンスケだったが。 「あ、いたいた。ちょっと待って、ケンスケ兄ちゃん。」 後ろから呼び止めたのはナツキだった。 「ナッちゃん、何か用かい?」 「はい、一応ケンスケ兄ちゃんにも。」 ナツキは何の包装もされてない、ただの板チョコをケンスケに一枚渡すとそのまま戻っていった。 「…義理チョコでも嬉しいよ、ナッちゃん…。」 哀れケンスケがGETできたチョコは、結局ナツキからの義理チョコだけとなった…。 さて、帰宅したシンジはアスカを自分の部屋に通し、麦茶のグラスを持ってきた。 アスカは何故か深呼吸している。 「どしたの、アスカ?」 「ううん、なんでもない。それより、もう開けていいわよ。」 「うん。じゃあ、早速アスカの自信作を見せて貰うよ。」 シンジは丁寧に包装を開いていった。そして、円盤型のチョコの表面を見た途端…。 「わっ!?…こ、これって…ア、アスカ?」 シンジは驚き、目をぱちくりさせながらチョコレートとアスカを何度も交互に見た。 「う…うん…そのつもり…なんだけど…。」 アスカは顔を真っ赤にして俯いたまま答えた。 二人の反応も当然であった。というのも、アスカの作ったチョコレートの表面には何とアスカらしき女の子のヌードがポップ調の絵で描かれていたのだ。おまけにその横には<EAT ME>などという言葉も…。 アスカのこれ以上はないといった感じの大胆なアピールに、シンジはどう応えたらいいのかわからず、沈黙するしかなかった。 「綾野さん、いる?」 バレンタインデーを一週間後に控えた日の放課後、アスカは美術室にレミを訪ねた。 「あら、惣流さん。何かしら?」 今日は部活動の日でもないのに、レミは一人で一心不乱に絵を描いて…いなかった。では、一心不乱に何をしていたかと言うと、風景画の上に白い絵の具を重ねていたのだった。 「何してるの、それ?」 「ああ、これ?風景画だったんだけど、何か今ひとつって感じだったから、この際上から白で消して別の絵を描こうって考えたの。」 「ふーん…そんな事してて、受験勉強の方はいいの?」 「そんな事って言い方もちょっと引っ掛かるけど、まあ知らないから仕方ないか。あのね、私は高校受験はしないんだ。」 「えっ?」 「YAGに行くの。」 YAGとはレーザーに使用するイットリウム−銀化合物の事である…というのは全くの冗談で、代々木アニメーション学院という、アニメーターを目指す者の専門学校である。 「あ、そうなんだ…やっぱり、絵を描くのが好きだから?」 「まあね。えーと、それで、惣流さんが私の所に来たのは何故かしら?世間話をする為ではない筈よね?」 「あっ、そうだった。そんな、絵が上手な綾野さんにちょっと相談が…。」 「相談?私が力になれればいいんだけど…どんな事かしら?」 「えーと、バレンタインのチョコレートの事なんだけど…表面に絵を描いてみたいの。」 アスカは、普通のチョコレートの表面をホワイトチョコでコーティングし、その上に普通のチョコで絵を描こうと考えていた。早い話が昔のペロティチョコみたいなものだ。 「どんな絵?」 「えーとね…その…私の…ヌード…です…。」 「あらら…それはまた大胆な発想ね。でも、まあ、シンジくんへのアピールとしては大変いいアイデアだと思うわ。」 「そう言ってくれると有難いわ。」 「でも、何で私に?」 「文化祭で自分のヌードを描いた綾野さんだったら、すぐに話をわかって貰えると思ったから。」 「成る程ね。それで、私は何をすればいいの?」 「チョコレートに描く、私のヌードをデザインしてほしいの。」 「デザインについて、自分で何かアイデアはある?バストショットなのか、それとも全身像にするのか…。」 「あー…それがこれと言って何も…。」 「そう…うーん、私の描いたデザイン画を元に、チョコレートで絵を描くのだとしたら…あまり精密な絵は無理ね。輪郭を捉えたぐらいのかなり省略した形になると思うけど。」 「もう、この際、高望みはしないわ。デザインは綾野さんに一任する。」 「わかったわ。じゃあ、早速準備に取り掛かりましょう。」 レミは全ての窓に鍵をかけてブラインドを降ろし、入り口のドアに鍵をかけた。 「あの、綾野さん…一体何を?」 スケッチブックを取り出したレミは椅子に座って鉛筆を取った。 「脱いで。」 「は、はい?」 「服を脱いで裸になって貰わないと、デッサンできないわ。」 「こ、ここでやるの?だって、ここ、学校よ!?」 「大丈夫。外からは見えないように窓に鍵をかけてブラインドを降ろしたし、誰も入れないようにドアも鍵をかけたから。」 「い、いや、でも…。」 「何恥ずかしがってるの?同じ女のコどうしじゃない。それに、ヌードを描いてって頼んできたのは惣流さんよ。」 「そ、それは、そうだけど…。」 「あ、もしかして、惣流さんって温泉や銭湯ってダメなの?」 いや、そんな事は無い。以前に浅間山でのミッション完了後、ミサトと一緒に温泉に入った事もある。 「んー、何と言うか…私だけ裸になるって、なんか…。」 「は?じゃあ、私も裸になれば問題無いの?」 「え、えっと…。」 「相手も脱がないと自分も脱げないヌードモデルなんて初耳だけど…まあ、いいわ。」 レミは立ち上がるとスケッチブックと鉛筆を椅子に置き、脱ぎ始めた。 「あ、あの、綾野さん…。」 アスカが戸惑っている内に、レミは身に付けていたものを全部脱いで一糸纏わぬ姿になってしまった。 「これでいいかしら?」 唖然とするアスカにレミはニッコリ微笑んだ。 「あ、綾野さんって…まだコドモだったのね。」 レミの何を見てコドモとアスカが言ったのか?敢えて詮索するのはやめておこう。 「自分のヌードを描いてって頼みながら自分は脱がず、こっちを脱がせたあげくにその言い草?いくら何でも怒るわよ?」 レミはむっとしてアスカを睨んだ。 「い、いえ、あの、その、ごめんなさい!」 「貴女のヌードを描かせて貰って、それからデザインを決めて、貴女にデザイン画を渡して、それを基にしてチョコレートを作るんでしょ?絵の部分で失敗したらやり直しになるという事も考えれば、時間的に余裕は無いと思うけど?」 「わ、わかったわ。今、脱ぐから…あ、その前に一つだけ…綾野さん、レズじゃないよね?」 「グズグズしてるんだったら、私が脱がせてあげましょうか?」 「は、はい、わかりましたー!」 アスカはようやく意を決して脱ぎ始めた。 ようやくレミと同じ一糸纏わぬ姿になったアスカを見て、レミは小さく溜息を吐いた。 “はぁ…羨ましい…どうしたらあんなに育つのかしら…。” 「綾野さん、どうかした?」 「ううん、見事なプロポーションだなぁって。」 「そ、そう?」 そして、30分ほどじっくり時間をかけてレミはアスカのヌードをスケッチブックに描き、その夜のうちにポップ調にアレンジしたデザイン画を完成させ、翌日にはスキャンしたデータを入れたディスクをアスカに渡したのだった。 さて、アスカのチョコレートを見たシンジの感想は…。 「え…えーと、なんて言ったらいいのか…その、美味しそうなんだけど…でも、食べるのが勿体無い気もするし…。」 「ダ…ダメ?」 「は?そんな、ダメな訳ないよ、全然GOODだよ!他の誰から貰った物よりこのアスカのチョコレートが一番さ。」 シンジはベッドに座ったアスカの隣に腰掛けると、恥ずかしくて背を向けているアスカを背後から優しくかき抱いた。 「でも、前にも言ったよね、アスカは今は受験勉強に集中して欲しいって。だから、このチョコレートは大事に取っておいて、アスカの受験が終わったら食べる事にする。」 「うん、わかった…えっと、じゃあ、その時は…私も食べる?」 「えっ?…えーと…多分、食べると思う…食べるんじゃないかな…ま、ちょっと覚悟はしておいて。」 「う、うん…シンジがそう言ってくれて…私、とっても嬉しいわ。」 アスカは自分を抱きしめているシンジの両手にそっと自分の手を重ねた。 “…あれ?何か柔らかい感触が…こ、これって…ア、アスカの…む、胸?” そう、制服の上からとはいえ、初めてシンジはアスカの胸に手を触れていたのだった。 「アスカ?な、何か当たってない?」 それは普通、女のコが男のコに言う言葉のような気がするが。 「ううん、何も。」 逆に、アスカは自分の手でシンジの手を自分の胸に押し付けた。 「少しの間でいいから、このままでいて…。」 「…う、うん…。」 緊張気味のシンジに対して、何故か恥らいながらも幸せそうな顔のアスカだった。 超人機エヴァンゲリオン2 中学生日記 第11話「恋する乙女のチョコレート・パニック」 あとがき