超人機エヴァンゲリオン 2

第6話

見上げれば何処も同じ夏の青空

 9月。
 「「「お、沖縄〜っ!?」」」
 第一中はこんな時期に修学旅行に行く事になった。だが、行先は何と沖縄という事でトウジ、ケンスケ、ヒカリの三人は思わずオドロキズッコケ。
 「どうしたの?三人とも。」
 事情がわからないレミは不思議そうな顔。
 「あ、そうか、去年の修学旅行で沖縄に行ったんだっけ。」
 「…ああ、前にいた学校で二年の時にもう修学旅行は済んでて、それが沖縄だったという事ね?」
 すぐにレミは事情を察知した。
 「まあ、そういう事。」
 シンジとアスカとレイの三人は行っていないが、話がややこしくなるのでシンジは黙っておいた。
 「じゃあ、せっかくだから三人にガイドを頼もうかな。」
 「トホホ、これやったら去年の修学旅行の感激が薄れてしまうがな…。」
 「せめて、去年行かなかった場所に行ってほしいよ…。」
 嘆くトウジとケンスケに対し、アスカとレイは強い決意を胸に秘めていた。
 “この機会を利用してシンジとより深い仲になる!”
 “これは碇くんとより深い仲になるチャンスだわ!”
 「沖縄か…きっとここよりも自然がいっぱいで空気もいいんだろうな…。」
 二人の野心に気づかず、当のシンジはそんなのんびりした事を考えていた…。



 修学旅行一日目。
 学校からバスで空港に移動した一行は、旅客機で沖縄へ、そして再びバスで宿泊するホテルに到着した。
 ホテルにチェックイン後は夕食まで自由時間だ。既にホテルのパンフレットを下調べしていた生徒達は早速泳ぐ為にホテル内のプールやホテルのすぐ外にあるビーチに繰り出した。それは勿論アスカやレイとて同じだった。
 ““ここで一気にライバルに差をつける!!””
 その為に二人は取って置きのアイテムを用意していた。それは、今までシンジに見せた事のないビキニの水着だった。アスカはピンク、レイはオレンジ。
 “波打際でいきなり会えば、シンジのハートは必ずGET!”
 “プールでいきなり会えば、碇くんのハートは必ずGET!”
 根拠のない確信を胸に、水着やタオルなどが入ったビーチバッグを手に海へ走るアスカとプールへ走るレイ。
 果たして、勝つのはピンクのビキニか?オレンジのビキニか?

 『♪畑の中にうずくまるマングースの哀しみは、空の月さえわからない〜。』
 アスカとレイの思惑をよそに、シンジはトウジ、ケンスケ、カヲルらとともに土産物屋にいた。と言っても、沖縄に来た早々で土産物を物色に来た訳ではない。
 「沖縄といったら、やっぱりハブvsマングースの戦いは見逃せないぜ。」
というケンスケの提案で、まずはシンジ達は<どちらが勝つか!?世紀の一戦!ハブvsマングース>というショーが行われている公園にやってきた。
 「遠足の時に出たのは青大将っていう、毒を持たないおとなしいヘビだったけど、このハブってやつは毒を持っていて毎年被害者が出ている危ないヘビなんだ。」
 「で、マングースってのは何や?」
 「イタチの仲間みたいなやつだな。」
 「それで、何でハブとマングースを戦わせるんだい?」
 「マングースは毒ヘビを恐れずに果敢に戦って逆に食べちゃうそうだよ。」
 「ほう、そらまた人間にとってはエエ動物やな。」
 トウジは感心しているが、それはあくまでも戦わせたらの話である。
 そんな事とは露知らず、シンジ達は小さな身体で果敢にハブに立ち向かうマングースを応援し、見事?マングースはハブを仕留めたのだった。
 そして、公園の傍にある土産物屋にやってきたシンジ達は、沖縄に来たマングースの真実を知る事になった。
 そこには、マングースの剥製が飾られていた。それについている説明文によると、そのマングースの名は<ノロイ>と言い、農作物を荒らしたり小動物を捕食するなどの被害が出たのでとうとう駆除された、とあった。
 店員の話によると、マングースがヘビを捕食するという話を知った昔の人達は、マングースを輸入して自然の中に放したものの、マングースがハブを駆除してくれるかと思ったらさにあらず、ハブはあまり減らずに逆にマングースが増殖して沖縄の在来種の小動物が減少するというような悪影響を生態系に及ぼし始め、本末転倒という事態になったという事だった。その為、マングース達は現在は害獣として駆除される立場?にあるのだった。
 「可哀想な動物だね。人間の都合で連れて来られて、役に立たないとわかったら駆除されるなんて…人間って何と身勝手な生き物なんだろう…。」
 カヲルはマングースの剥製を哀しそうな目で眺めた。
 「それはそうだけどさ…でも、この地球上で人間が頂点に位置するのも事実だし、仕方ない事なんじゃないのか。」
 「アレや…えーと、何やったかな…焼肉定食って事やろ?」
 「それを言うなら弱肉強食!」
 顰蹙モノのボケであった。しかも意味が微妙にずれている。
 『♪雨降る夜はなお悲し、マングースは穴の中、遠い故郷思い出す〜。』
 店の中で流れていたマングースの唄の物悲しい歌詞は、シンジの心の中に強く残った…。

 夕方、ホテルに戻ってきたシンジを水着の上にパーカーを羽織っただけのアスカとレイが待っていた。
 「あーっ、やっと帰って来た!」
 「今までどこに行っていたの?」
 「どうしたの、二人とも?」
 「「ずっと待ってたんだから…。」」
 「どこで?」
 「ビーチで!」「プールで!」
 そう言った途端、お互いを睨み合ったアスカとレイの視線の間に火花が飛んだ…ようにシンジには見えた。
 「…いや、聞いてないけど…。」
 そう、自分のビキニ姿で驚かせようと考えていた二人は、当然の如くシンジには何も言っていなかったのだ。
 「だって、シンジにはまだこの水着見せてなかったから…。」
 「碇くんをびっくりさせてあげようと思って…。」
 さらに、二人とも重要な事を忘れていたのをカヲルが指摘した。
 「大体だね、君達は肝心な事を忘れているよ。いくらビキニ姿の美少女が待っているとはいえ、泳げないシンジくんが水辺に来る訳がないじゃないか。」
 「そらそうやな。」
 「二人とも、策士策に溺れるってトコロだな。」
 三人に笑われたアスカとレイは、そのせいかとんでもない事を言い出した。
 「むぅ〜…大体、シンジが泳げないのがいけないんじゃない!」
 「そうだわ。泳げなかったら、いざという時に助からないわ!」
 「その時は、この僕が助けて…。」
 「「あんたは引っ込んでなさい!!」
 アスカとレイのダブルパンチでカヲルはものの見事にKOされた。
 “逆ギレやな…。”
 “面白そうだからこのまま見ていよう…。”
 「それじゃあ、行こうシンジ。」「行きましょう、碇くん。」
 アスカとレイはそれぞれシンジの片手を取って左右に歩き出そうとした。
 「ちょ、ちょっと待った!二人とも僕をどこに連れて行くつもりだよ?」
 「勿論、ビーチよ。」「勿論、プールよ。」
 「「んっ!?」」
 再び、アスカとレイは睨み合った。
 「ファースト、その手を放しなさい。シンジは私とビーチに行くんだから。」
 「それはこっちのセリフよ。碇くんは私とプールに行くの。」
 二人ともシンジの事はお構いなしに手を引っ張り合った。
 「痛たたたたっ!二人とも手を放してよっ!」
 「あいや、二人ともそのまま、ありったけの力で引っ張るがよい。勝った方がシンジを手にできるものと心得よ。」
 「流石は大岡越前守。」
 「そっちの二人も、火に油を注ぐなよっ!」
 「ちょっとあんた達、そこで何を騒いでるの!?」
 ちょうどそこに運良く?ミサトがやってきた。
 シンジの両手をそれぞれの方に引っ張り合うアスカとレイ、その傍でそれを見ているトウジとケンスケ、そしてその傍らに転がっているカヲル…それらを見て、ミサトはすぐに理解した。
 「全く、あんた達はもう…で、今回の原因は何なの?」
 「シンジに水泳の特訓をする権利ですがな。」
 「で、惣流がビーチに、綾波がプールに行こうとしてシンジを取り合ってる訳です。」
 「うーん、そうか…確かに、いつまでも泳げないままじゃシンジくんもマズイわよね。よし、それじゃあプールにしましょう。」
 「ありがとうございます。」「何でそうなるのよ!勝手に決めないで欲しいわ。」
 レイはニコニコ。アスカはぷんすか。
 「勘違いしないでね。そろそろ陽も落ち始めているから、ビーチは却下。あと、万が一の事もあるから貴女達にも任せられないわ。という事で、私がシンジくんを特訓します。」
 「まあ、それが妥当なところやな。」
 「ミサト先生が教えるんなら、どっちにも公平だもんな。」
 結局、アスカ・レイ以外の第三者の登場により解決するしかない訳だった。
 「あ、でもそんな事想定していなかったから、僕何も準備してきていませんよ?」
 「ああ、大丈夫大丈夫。ホテルで水着のレンタルサービスやってるから、私が準備しておくわ。それじゃあ、夕食後にプールで待ってるわねン。」
 そう言って、ミサトは何故か足取り軽くその場を去っていった。
 “何か、いやな予感がする…。”
 シンジは少々の不安を感じながらも、他の四人とともに引き上げた。

 さて、夕食後、シンジはとにかくプールにやってきた。ミサトはまだ来ていないようだ。というか、なぜかシンジ以外には誰もいない。
 「は〜…気が乗らないけど…確かに綾波の言うとおり、いつまでも泳げないっていうのはまずいよな…。」
 シンジはプールの水面を見つめ、溜息をつきながら独り言ちた。
 「もし、この水がLCLだったら溺れる事はあり得ないんだけど…。」
 と、そこにミサトが遅れてやってきた。
 「お待たせ、シンジくん。」
 ミサトはなぜか喜色満面。
 「それじゃ、さっそく水着に着替えてきて。更衣室の場所はわかる?」
 「あ、はい、入り口の傍に有りました。」
 そして、シンジはミサトに渡されたビーチバッグを持って更衣室に入った…ところが、1分も経たないうちにすぐに更衣室から駆け出てきた。
 「ミサトさん!何ですかこれは!女子用の水着じゃないですか!!」
 そう、ミサトが用意してきたのは女子用のスクール水着だったのだ。
 「いやぁ、あいにくそんなのしか残って無くてさ。」
 チャラチャラと手を振りながらヘラヘラと笑うミサト。シンジをからかっているのは明白だ。
 「冗談はやめてさっさと男子用の水着を出してください!」
 「うーん、それがマジにそれしか借りて来なかったのよねぇ。それに、今から行ってももうレンタルサービスは終わってるし、大体今は本来プールも使えない時間なのよ。」
そう言ってミサトはやおら着ていたワンピースを脱いだ。その下には既に白いビキニの水着が装着されていた。
 「まあ、いいじゃないの。他の誰に見られる恐れもないし、アスカのプラグスーツみたいなもんだと思えば大して抵抗ないでしょ?」
 確かに以前、初めて出会ったアスカに彼女の予備のプラグスーツを強引に着せられて一緒にEVA弐号機に搭乗した事もあった。
 「それとこれとは状況が…。」
 「はいはい、いいからさっさと着替えて。男は細かい事には拘らないもんよ。」
 「…はぁ…。」
 半ば強引に説得された形でシンジは再び更衣室に向かった。
 “ぐふ…ぐふふふふ、シンちゃんのスクール水着姿ってどんなのかしら…。”
 ミサトは背後の気配に気付かず、一人妄想の世界に入っていた。
 どうやら、先のコミケ参加のドサクサに何か妖しい(怪しい?)…いや、危ない趣味に目覚めたらしい。
 「…く〜〜〜、女装シンちゃん、萌え〜〜。」
 いつの間にか、ミサトは妄想の度が過ぎて思わず声に出してしまっていた。その直後。
 「「この変態女教師!!」」
 アスカとレイのダブルキックが炸裂し、ミサトはプールの中に蹴落とされた。


 二日目は全員で県内を数箇所巡る体験学習が組まれていた。
 最初のテーマは<自然>である。一年中夏となった日本だが、それでも他の地と違って沖縄の自然は独特のものであった。一行がやってきたのはマングローブの森。
 マングローブとは潮間帯(満潮時に海水が満ちてくる河口部)に生えている植物の総称である。
 「これって根?」
 「みたいだね。普通は地面の中にあるものだけど、これは外にあるんだね。」
 それは、呼吸根といって、泥状の地面ではなく空中から直接酸素を取り込もうとして独特の発達を遂げたものだ。
 「何か、不思議な植物ね…。」
 「しかし、これだったら根暗か根明か丸わかりやな。」
 「そーじゃなくて。」
 続いてのテーマは<農業>である。一行は地元の農園にお邪魔し、紅芋の収穫作業を手伝う事になった。
 紅芋とは中米原産の肉色が赤〜紫っぽい色をしているいわゆるサツマイモの総称である。サツマイモとしては皮色が赤〜紫っぽい色で肉色が黄色の五郎島金時というブランドが全国的にメジャーだが、ここ沖縄では皮色が白いものの方が多く栽培されている。
 「収穫した紅芋の一部はお土産に貰えるそうだから、みんな頑張ろうぜ!」
 「おーっ!」
 という事で、シンジ達は生まれて初めての芋掘りを体験する事になった。
 「貴様ら全員タイホしてやる!」
 「芋づる式から発想しただろ?」
 「発想が貧困だねぇ…。」
 一時間弱ほど頑張って、紅芋が山のように大量に収穫できた。その労働の手間賃というわけではないと思うが、シンジ達はお土産に紅芋で作った石焼芋やチップスを貰った。
 その次のテーマは<料理>である。市内の公民館に戻ってきた一行は沖縄伝統の揚げ菓子、サーターアンダギーの作り方を教えて貰える事になった。
 サーターとは砂糖、アンダギーは揚げ物を意味するそうで、砂糖・卵黄・牛乳・小麦粉などを練って作った種を油で揚げて作るのだ。
 お菓子作りとなれば、積極的なのが男子よりもやっぱり女子で、しかも食べさせてあげたい相手がいれば尚更の事である。
 さっそくアスカとレイはライバル心をむき出しにして調理に没頭するが、黒砂糖の量が多かったのか、出来上がったものはものの見事にコゲコゲだった。
 「ほらシンジ、食べて食べて。」
 「碇くん、たんと召し上がれ。」
 どう見ても失敗作と思える黒コゲのお菓子を前にしてシンジが進退窮まっている頃、トウジはヒカリが作った見事なサーターアンダギーをパクパクと頬張って至福の時を味わっていた。
 「流石、料理研究同好会だけあって、何を作っても見事だね。」
 「でも、綾野が作ったのもなかなかいい味出してると思うぜ。」
 「あらそう?お世辞でも嬉しいな…と言っておこう。」
 さて、四番目のテーマは<工芸>である。公民館で簡単な昼食を取った一行は別のフロアに移動し、そこで沖縄伝統の工芸品・シーサーの色付けを体験する事になった。
 シーサーとは乱暴な言い方をすれば神社の狛犬の仲間みたいなもので、建物の門や屋根に据付けられ、人・家・村などに災いをもたらす悪霊を追い払う魔除けの意味を持つ。また、幸運を招くという意味もあるので、招き猫の仲間かもしれない。
 シンジ達は小さな素焼きのシーサーに用意された絵の具で思い思いの配色で色付けをしていった。
 「アスカはホントに赤が好きだね。」
 「あ、シンジは青なんだ…ん?もしかして…。」
 何かに気づいたアスカがおもむろにレイのほうを見ると、彼女のシーサーはやっぱり白に塗られていた。ちなみにトウジは緑、カヲルは黒、ケンスケは黄色、ヒカリは銀に着色していた。
 「うーん、こうして見ると、やっぱり綾野さんは美的センスがいいわね。」
 レミは白に赤に青に緑に黒に黄色と、実に六色も使ってカラフルなシーサーに仕立て上げており、ミサトが感心するのも道理であった。
 「まあ、絵筆を持つのは慣れてますから。(生活かかってるし…。)」
 さらに次のテーマは<漁業>である。一行は近くの漁港を訪れ、沖縄でどんな魚が獲れるのかを見せてもらった。赤、青、黄色…と滅多に目にする事の無いカラフルな魚にシンジ達は目を見張った。
 「この魚を使えば青色の料理ができそう…。」
 「ペプシブルーで炊いたご飯に合わせて寿司にするとか?」
 料理好きなヒカリとシンジはそんな話で盛り上がった。
 そして、最後のテーマは<芸能>である。ホテルに戻ってきた一行は大広間に集められ、琉球唐手の基本をその道の達人に教えてもらう事になった。
 「小噺そのイチー!」
 「小さくえぐるように打つべし!打つべし!打つだベシ〜。」
 トウジとケンスケの即興漫才のネタは誰にもわからなかった…。



EXTRA HUMANOIDELIC MACHINARY EVANGELION2

CHILDREN’S GRAFFITI

EPISODE:6 If look up;
            a blue sky of all the same summer



 三日目は市内の様々な史跡などを各班に分かれて廻る事になっていた。それもただ廻るだけではなく、オリエンテーリング形式となっており、各チェックポイントに行った証拠(入場券の半券とか何かを購入したレシートとか)を持って早く戻ってきた班には特典が用意されていた。
 スタート地点はホテル、そして首里城、漫湖、弁ヶ嶽、牧志第一公設市場がチェックポイントとなっており、ゴールもホテルである。
 チェックポイントを廻る順番は各班で決める事ができるので、そこが勝負の分かれ目だ。
 既にインターネット等でバスやモノレール・その他の交通機関の時刻表やアクセスを調べたりして入念な計画を立てていた3−A−1班(黄金の七人+レミ、リーダーは勿論シンジ)は特典をGETするべく、意気揚々と出発して行った。
 最初に目指すのは弁ヶ嶽。先に近場から回るか、それとも遠場から回るか…シンジ達は遠場から攻めることにした。
 まずバスで旭橋駅に移動した一行はそこからモノレールに乗って首里駅で降りた。そしてレンタサイクルで弁が嶽の麓に行き、そこからは徒歩で頂上へ。
 「しかし、こりゃほとんど遺跡と言ったほうがいい感じやな。」
 「特に大した物もないし。」
 「うーん、久高島らしき島は見えないね…。」
 頂上に到達したシンジはかつて琉球国王が遥拝したという伝説が残っている‘聖地’久高島の方角を見渡したが、それらしき島は見当たらなかった。
 「セカンド・インパクトで沈んじゃったとか?」
 「そんな最近の話じゃないってば。」
 弁が嶽を下った一行はそのまま自転車で首里城へ移動した。
 「ここが首里城か…。」
 「とにかく、正殿まで行こうぜ。」
 一行は見学順路に従って守礼門、園比屋武御嶽石門、歓会門、瑞泉門、漏刻門、広福門、奉神門等、数々の門をブロンズセイントの如く突破し?、ついに正殿に辿り着いた。
 「うーん、なんと言うか…。」
 「赤くて、赤いという感じだな。」
 「赤の広場?」
 「それはちょっと違う。」
 「とにかく、アスカにお似合いの場所だね。」
 「じゃあ、シンジ、一枚撮って。」
 「むぅ〜…そんな事してる時間は無いわ、早く次の場所に行きましょう!」
 「しかし、それぞれの門に阿修羅一族の門番はいなかったわね。」
 「それは漫画の読み過ぎだって。」
 再び首里駅に戻った一行はモノレールで戻り、牧志駅で降りた。そこからは徒歩で牧志第一公設市場に移動だ。
 この市場は戦後のヤミ市から続いているもので、沖縄の食文化には欠かせないありとあらゆる食材が売られている。二階には食堂があって、一階で購入した食材を料理して貰う事もできるようになっている。
 「こういうカラフルな食材だと、料理するのがよりいっそう楽しくなるわね。」
 ヒカリは興味津々で売られている魚を見ている。
 「こんな食材はどう?」
 ケンスケが指差した先には…なんと海ヘビの燻製らしきものが売られていた。
 「きゃー!ヘビはやめてー!」
 慌ててレミはシンジの後ろに隠れる。
 「これはどうかな?」
 シンジが指差したのは豚の頭や足。
 「あ、豚足ってコラーゲンとかが一杯で美容にいいのよね。」
 とたんに立ち直るレミ。
 「ヘビはだめでも豚の死体だったらいいんかいっ!!」
 つっこむトウジ。
 「何言ってるの?これは豚足っていう食材じゃない。」
 「…私は肉キライだから、どっちも嫌…。」
 肉を食べられないレイにとってはそれも仕方が無い。
 「好き嫌い以前に、気持ち悪くて嫌…。」
 ハンバーグが大好物のアスカも敬遠気味だ。
 「となると、食べられるのはミサト先生ぐらいかな?」
 カヲルの言葉に一同は「「「「「「「「お〜。」」」」」」」」と頷きあった。
 ともかく一同は二階に上がって無難に魚のから揚げ料理を頼んで昼食を取った。
 「ようし、飯も食って腹も膨れたし、残るは漫湖公園やな。」
 やおらトウジは立ち上がった。
 「おい、トウジ…。」
 ケンスケは気配を察したが。
 「みんなー!漫湖に行きたいかー!?」
 「やめろって。」
 「漫湖を見たいかー!?」
 「俺は知らないからな…。」
 「漫湖で遊びたいかー!?」
 「いい加減にしなさいっ!」
 ヒカリの延髄チョップが炸裂し、トウジは轟沈した。
 「まあまあ、そこが男子のお茶目なところじゃない。」
 レミがヒカリ大魔神をなだめてその場は収まった。
 さて、シンジ達は今度はバスに乗って移動、与儀小前バス停で降りた。そこからはまたレンタサイクルで移動だ。
 「もし車があったら、是非‘ホーミー’というやつで来たかったんやが…。」
 「ホーミー?聞いた事もない車だな。」
 「まあ、沖縄では絶対売れない名前だからのう。」
 「…ああ、そういう事か。」
 「昔、ボボ・ブラジルという名前の黒人のプロレスラーがいたんだけど、九州ではどう呼んだらいいか困ったそうよ。」
 「ブラジルは普通の国名だから…ボボというのが問題だったんだね?」
 「そう。その人は頭突きでの攻撃が得意技なんだけど、たまには流血する事もあったわけ。すると…。」
 「ボボ、流血だー!となるわけやな。」
 「それは確かに対応に苦労しただろうな。」
 漫湖というのは湖とは書いているものの、実際には湖ではない。那覇港に近い、国場川下流部と饒波川との合流部にあり、人工的に湖然になるようにされた汽水域である。自然が多く残っているが、生活廃水の流入による水質汚染や土砂の堆積、悪臭などが問題になっている。
 「『漫湖』…という湖が沖縄にはあって…。」
 一行が目的地に着いてその水辺にやってくると、いきなりレミがネタ振りを。
 「それがどうしたの?」
 「長寿で有名な全国放送の深夜番組で、DJをしていたあるミュージシャンがいきなりそのフレーズから番組を始めた事があったの。」
 「へえ…珍しい…というか、斬新なミュージシャンだな。」
 「他にも、東北のある地方では林檎の事を‘まんこう’って言うから、コンサートの時に林檎を持ってきて『これは何だ?』とか観客に聞くわけ。すると観客は…。」
 「『まんこう!』って返すわけだな。」
 「似たようなネタをインターネットで見たことがあるぜ。『漫湖公園で小学生による写生大会がありました。』というニュースが流れたとか…。」
 「そうそう。私達みたいに外から沖縄にやってきた人間にとっては、予備知識が無ければ驚くよね。」
 「それなら、たとえば沖縄に引っ越してきた女性にとってはちょっと複雑なんじゃない?」
 「『名前を変えろ!』なんて新聞に投稿したりするかもね。」
 「でも、沖縄では普通の言葉じゃないか?慣れないからってそんな事するのは単なるわがままのような気もするけどね。」
 「諺にも言うじゃない、‘郷に入りては郷に従え’って。」
 「英語で言うと‘Rome in Rome’だね。」
 「窓からローマが見える。」
 「♪窓を開ければ〜ローマが見える〜。」
 「翼よ、あれがローマの灯だ。」
 などとネタ合戦をやってる間に移動時間になった。
 レンタサイクルで一行は那覇大橋を渡って奥武山公園から再びモノレールに乗り旭橋駅へ。後は行きと同じ道をバスで戻るだけだ。
 そんな訳で戻ってきたシンジ達3−A−1班はなんとトップでのゴールだった。
 「やったぜ!」
 「これも綿密な移動スケジュール計画を練りに練ったおかげだね。」
 「さーて、お宝の特典は何やろかいの〜。」
 期待に胸をwktkさせてシンジ達はその夜の夕食時の発表を待った。
 ところが…。
 「1位の特典は…このペナントでーす!」
 どの観光地にでもあるおなじみの横に長い三角形のペナントだった。ちなみに2位はメダル、3位は絵葉書セットだった。


 四日目は、沖縄に残る戦争の傷跡(対馬丸記念館、アブチラガマ、ひめゆり平和祈念資料館)をバスで見て廻る事になっていた。
 「今さらそんな物を見てどうすんのやろな?」
 「うーん…とにかく、それを見て何か考える…いえ、感じる事が大切なんじゃないかしら?」
 「そんなものかなぁ…。」
 「…というのも、たった今思いつきで言っただけなんだけどね。」
 対馬丸記念館はシンジ達の宿泊しているホテルのすぐ近くにあった。
 『対馬丸はアメリカの潜水艦の魚雷によって沈没し、本土へ疎開する為に乗っていた多くの学童が海の藻屑となったのです。』
 シンジ達は解説ムービーに聞き入った。
 「もしかしたら、僕達と同じ年頃の少年少女もいたんだろうか?」
 「でしょうね…。」
 ケンスケとヒカリは先の第三新東京市での戦争を思い出した。山の中へ逃げ込んだおかげで、N2爆弾による第三新東京市壊滅から生き残ることができたのだ。
 「…あの時、もし逃げ出すのが遅れていたら、私達も今頃…。」
 「真辺先輩に感謝だな。」
 続いてシンジ達は玉城村糸数に移動した。そこにはアブチラガマという自然洞穴を利用した壕があり、第二次大戦時には野戦病院として使われていたらしい。
 ちょうどどこかのTV局も取材に来ていたようで、シンジ達はそのカメラマンと照明さん達の後に入った。
 「どう見てもただの洞窟よね…。」
 「どこをどうすれば病院として使えるんだろう…。」
 「こんな不衛生な所を病院にするなんて、ゾッとするわね…。」
 「戦争だから、仕方が無かったんだよ。外にあったら、空爆でやられちゃうし…。」
 各自用意してきた懐中電灯で道や周囲を照らしながら進んで行き、一行は洞穴を抜けた。
 「うーん、何かで磨いたような白骨は転がってなかったな…。」
 「何の話だよ?」
 「他にも、洞窟の天井からヘビが尻尾から落ちてくるかもしれへんと思うとったんやが…。」
 「ヘビの話はやめてよー!」
 「本当に綾野さんはヘビが嫌いなんだね…。」
 さて、昼食を取った後、シンジ達はさらに南下して最後のひめゆり平和祈念資料館にやってきた。ここは、第二次大戦時に傷病兵の看護の任についた女学生(通称:ひめゆり学徒)についての貴重な資料を保存・展示している所だ。
 シンジ達は館内を自由に回って見学した後、多目的ホールに集合して証言ビデオを視聴した。
 「…戦争は嫌だけど…身に掛かる火の粉は払わなくちゃね…。」
 「あら、惣流さんは戦争肯定派?」
 「専守防衛という条件付ならね。」
 「ふーん…他のみんなは?」
 「どうやっても説得に応じずに暴力に訴えてくるなら、それも致し方無し…かな?」
 「そうやな…ヒカリを守る為やったら、ワシは戦うで。」
 「トウジったら…。」
 トウジのキザな?発言に思わずヒカリは赤面。そのラブラブな雰囲気にすぐ触発される者が二人。
 「じゃあ、私もシンジを守る為なら戦うわ!」
 「私も碇くんの為なら…。」
 「ずるいよ。シンジ君を守るのはこの僕さ。」
 「「あんたは引っ込んでなさい!」」
 振り向きざまのアスカとレイのダブルパンチがカヲルを襲った…が、カヲルは掌でそれを受け止めた。
 「ワンパターンだね、君達…いつまでもやられる僕じゃないよ。」
 「「何ですって〜っ!」」
 「やれやれ、この展開も犬の卒倒ね。」
 「何それ?」
 レミの言葉の意味がケンスケにはわからない。
 「犬が倒れてわん・ぱたーん…なんちて。」
 こうして第二次大戦の傷跡を見て回った一行はそれぞれ胸に何か感じながらホテルへの帰路についた。
 “戦争か…いったい何故、戦争って起きるんだろう…。”
 第二次大戦の後も、セカンド・インパクトのせいで食糧難となり、地球のあらゆる所で陰謀・裏切り・暴動が渦巻いた。その渦中に飛び込んだ者達は、恋も、夢も、望みも捨てて、非情の掟に命を賭けた。彼らの活躍によって世界に平和がもたらされたのである。
 それはともかく、シンジは何故戦争が起きてしまうのかを考えているうちに、疲れが出たのか移動中のバスの中で睡魔に襲われてしまった。

 “♪人は何故繰り返すの?傷つくと知っていて〜。”
 “真辺先輩!”
 “また何か、悩んでるみたいね。”
 “人は何故、戦争をするんでしょうか?”
 “そうね…ネルフの中で使徒と人の違いを話した事、覚えてる?”
 “ええ…人類と言うのは使徒から見れば言わば群体。でも、個々の人間一人一人の心には何がしか欠けた部分が存在するから、本当は一人で生きられるのにみんなで生きようとする。心の飢餓が他人を求める。だけど、他人の心がわかる筈も無いから、時に傷付け合い、憎み合う。その悲惨な結末が戦争だって…。”
 “じゃあ、どうすれば戦争は無くなる?”
 “他人の心がわかるようになれば…あれ?もしかして、ゼーレって…。”
 “ゼーレは人類が一つになり、欠けた心を補完し合う事を夢見ていた。”
 “人類が一つになる、それはつまり心も一つになるって事でしょう?じゃあ、他人の心がわからないなんて事は起こらない。だから戦争も起こらない…そんな平和な世界をゼーレは目指していたのかな?”
 “そりゃ、人類が一つになったらそもそも他人がいないんだもの、戦争なんて有り得る筈が無いわ。でも、よく考えてみて。他人がいなかったら、他人と会話する事も触れ合う事も無いのよ?シンジくんは、アスカちゃんと話したり愛し合う事ができない世界を望む?”
 “いや、そんな世界はゴメンです。”
 “でしょ?見せ掛けだけの平穏を求めてはいけないわ。貴方達がいて、僕がいる…それが人類の本当の姿よ。”
 “じゃあ、人が人である以上、争いは無くならないって事ですか?だから、争いがなくなるようにずっと努力していかなければならないのが人間の運命だと…。”
 “以心電信…違った、以心伝心という言葉があるわ。それに、心理戦という言葉も。”
 “それは知ってますが…。”
 “じゃあ、何故そんな言葉ができたんでしょうね?案外、そこに人類から諍いを無くす鍵があるんじゃないかしら?”
 “以心伝心…言わなくても思うだけで相手とわかり合える事、心理戦…相手の考えを読み合う戦い方…。”
 “補完されなくても人間は相手の心の一部を知る事ができる…いえ、そんな人もいるという事よ。”
 “真辺先輩のように?”
 “厳密に言えば、私は例外だけどね。でも、そんな人がいれば、そしてそんな人が増えていけば、それはきっと平和につながる筈よ。”
 “じゃあ、どうすれば、そんなニュータイプみたいな人が増えるんですか?”
 “さあ?…でも、それは貴方達人類が見つけなければいけないわ。それが人類の正しい進化じゃないかしら。”

 「………ジ………ンジ………シンジ………シンジ!」
 誰かに肩を揺さぶられてシンジははっと目が覚めた。
 「…ん?…アスカ…何?」
 「熟睡していたのを起こして悪いけど、もうホテルに着いたわよ?」
 「そうか…ありがとう。」
 シンジは座席から立ち上がって軽く伸びをした。
 「楽しい夢でも見てたの?」
 「…楽しいかどうかは…夢の中に真辺先輩が出てきた。」
 「えっ?何で?」
 「何でだろう?わからない。って言うか、どんな夢を見ていたんだっけ?たった今の事なのに、何で思い出せないんだ?」
 「♪何でだろう〜何でだろう〜、何でだ何でだろう〜。」
 「綾野さん、何その唄は?」
 「それはともかく、夢ってのはそんなものよ。記憶に残る夢っていうのは大抵インパクトがある内容…たとえば悪夢とかだけど、それはノンレム睡眠で見ることが多いわ。だから、シンジくんはレム睡眠の時に夢を見たのよ。記憶には残らない、平穏な世界での夢を…。」
 「…そうかもしれない。あの人にはいろいろとやさしくして貰った思い出が多いし。」
 「その真辺先輩って人、とってもいい人だったのね。もしかしてシンジくんの初恋の相手だったりとか?」
 「「「それはないです!!!」」」


 五日目は、午後からは帰路につくため、午前中は自由時間になっていた。
 生徒達は、土産を買いに出る者、最後の一時を楽しもうと水辺に出る者、部屋でゴロゴロする者といろいろだった。
 「わっ、冷たくて気持ちいいね。」
 シンジは初めてビーチに出た。初日のあの騒ぎの後、シンジはカヲルのアドバイスを受けながら練習して少しは泳げるようにはなっていたが、それでもまだ自重して波打ち際を素足で歩くだけにしたのだ。
 「しかし、セカンド・インパクトで日本からは砂浜が消えたと思ってたんだけど、ここはまだ残ってたんだね。」
 「そうね。沖縄が日本で一番のリゾート地っていうのも納得がいくわ。」
 「ドイツには無かったんだっけ?」
 「うん。しかも、日本と違って逆にもっと寒くなったから。」
 「そうか…じゃあ、雪もよく降ったのかな?僕は見た事ないんだ。」
 「そうなんだ…とっても綺麗よ。真っ白で、フワフワしていて、空から降ってくるのを見るとなんとなく心が落ち着くの。」
 二人並んで歩くシンジとアスカ。恋人…というか、許婚者同士、いい雰囲気である。
 その頃、レイはと言うと…。
 「待ってて、碇くん。もうすぐ行くから。」
 レイは日焼け止めクリームを全身に満遍なく塗り込むのに一生懸命だった。
 ちなみに他のメンバーは…。
 「ふーむ…猫が好きな博士には…このネコシーサーの人形がいいかな…。」
 「こ、この水着は…ちょっと派手かしら?」
 「ヒカリ〜、早よせんと泳ぐ時間無くなってまうで。」
 「萌えよ、俺のリビドー!シャッター・チャアァーンスッ!!」
 「やっぱり沖縄といえば泡盛よ、泡盛っ!」
 『…ええ、今日も平穏な一日となりそうよ…。』
 修学旅行最終日、沖縄の空は晴れ渡り、吸い込まれそうなほど青かった。



超人機エヴァンゲリオン2 中学生日記

第6話「見上げれば何処も同じ夏の青空」

完
あとがき