超人機エヴァンゲリオン 2

第3話

ドキッ!女だらけの水中騎馬戦(ポロリもいるでよ!?)

6月。
 今日は第一中での校内水泳大会。
 のっけから何だが、とうとうシンジを巡ってのアスカとレイの紛争は、水泳大会の最後に行われる水中騎馬戦で雌雄を決する事となった。
 「どっちも女の子なんだから雄は有り得ないんだけどね。」
 「そう、彼女達はあくまでも雌、そして僕こそが雄に相応しいのさ。」
 …レミとカヲルの冗談はほっといて、いよいよ女子の水中騎馬戦が始まった。
 まずはアスカの出番だ。
 「惣流さん、頑張れー!」
 プールの両サイドからアスカの騎馬と相手のB組の騎馬が徐々に近づいていく。
 「ねえ、碇くんは惣流さんを応援しないの?」
 声援を送っていたレミは何故かシンジが無言でいるのが不思議だった。
 「いや、下手に声を掛けると逆に集中を乱すかもしれないからね。」
 「ふふっ、流っ石、フィアンセの女の子の事は何でもわかるのね〜。」
 とか言ってるうちに、アスカの騎馬は相手の騎馬のサイド・ポジションを取り、攻撃を仕掛けた。
 「よし、そこだっ!」
 相手の必死の防御もなんのその、アスカは数回の攻撃で相手の帽子についている小さな人形を奪い取ってしまった。
 『勝負有り!』
 アスカは満面の笑みを溢しながらシンジに向かってガッツ・ポーズ!
 「アスカ、お見事!」
 シンジも拍手で応えた。



 さて、話は一旦、一週間ほど前に遡る。
 セカンドインパクト以降、日本では一年中夏になったため、水泳も一年中授業がある。それ故、第一中の体育の授業は週3回のうち1回の割合で水泳になっている。
 そしてこの6月は各学年ごとにクラス対抗で水泳大会が行われる事になっていた。
 となれば、水泳部のエースであるレイとしてはここが一番の活躍の為所だ。
 という事で、レイはクラス全員リレーは勿論、個人メドレーや水球に水中騎馬戦まで出る事になった。流石、水中生活の長さ?は伊達じゃないようだ。
 「綾波、そんなにいっぱい出て大丈夫?」
 「ええ。水中生活は長かったから、大した事は…。」
 「水中生活?」
 「つまりだね、彼女はLCLのプールの中でよく泳いでいたからだよ。」
 カヲルが代わりに説明する。
 「何せ、あの戦いでシンジくん達がネルフに来るのに難儀していた時でさえ、LCLの中で身を清めたり…。」
 そこまで言ってカヲルの言葉が途切れた。
 「それ以上言うとただじゃおかないわ。」
 と言いながら既にレイの両手はカヲルの首を絞めていた。
 「…な、何をするんだい…危うくADAMの許に逝き掛けたじゃないか。」
 「何を言ってるの?既にADAMは私の中にあるのに。」
 「二人とも、それ以上は言わないように。」
 シンジが二人を窘めた。一応、シンジ達がネルフの関係者だった事はこの学校の中では秘密にしてあるのだ。
 「とにかく、無理は禁物だよ?」
 「ありがとう。心配してくれて嬉しいわ。だから、やっぱり頑張る。碇くんの為に。」
 綾波はシンジに笑顔を見せた。それは、初めての笑顔とは比べ物にならない程だった。
 だが、そんな状況を見て何かムカつく女のコが一人。
 「あんたは水泳部なんだから、シンジの為じゃなくてクラスの為に頑張ればいいのよ!」
 アスカが後ろから二人の間に割って入った。
 「それじゃ、僕もシンジくんの為に泳ごう。」
 カヲルがシンジの肩に手を置いた。
 「あんたもよ!」
 アスカは振り向いてカヲルに指を突きつけた。
 「アスカ、そんなに怒らなくても…。」
 「僕は泳げないシンジくんの代打を引き受けるだけのつもりなんだけど…。」
 カヲルの意図はシンジにはわかっていたらしい。
 「…紛らわしい言い方をするなぁ〜っ!」
 何となくカヲルにからかわれたような気がしてアスカは怒鳴った。
 「へーえ、碇くんってトンカチじゃなくてカナズチだったんだ。意外ね。」
 シンジ他三名のラブコメ・コントを聞いていたレミは不思議そうな顔をした。
 「何で?」
 「クラス委員だから一通りの事はできるんじゃないかって思ってたわ。」
 「誰しも一つぐらい苦手なものはあるんじゃないかな。」
 「そうそう、無くて七癖、有って四十八手ってね。」
 アスカがここぞとばかりに知識を披露しようとして自爆した。
 「ア、アスカったら何て事言ってるのよ!」
 アスカの文字通りの爆弾発言を耳にしたヒカリが慌てて飛んできた。
 「え?私何か変な事言った?」
 「…碇くん、四十八手って何?」
 顔を赤らめるヒカリ、きょとんとしているアスカ、質問モードに入ったレイ。
 “委員長が‘四十八手’という言葉に顔を赤らめて反応するという事は…。”
 カヲルはそれが何を物語っているかという事に気付いた。
 「まあ、彼女も恋する乙女であるだけあって、実は男女のムフフな事に興味あるみたいね。」
 レミはカヲルにしたり顔で答えた。
 「そうか、遠足の時のキミの言葉は満更嘘でもないようだね。」
 そんな喧騒をよそに、トウジとケンスケのコンビは屋上でまた何やら良からぬ相談をしていた。
 「ABCD4クラス合同でやるっちゅう事は、当然更衣室のキャパをオーバーする…だから、いつもの授業とは違うて、更衣室は教室を使うそうや。」
 「それで?」
 「男女の部屋がコンクリートの床で上下に分けられている更衣室では不可能な事にチャレンジできるんや。」
 「…まさか、お前…。」
 「…ふっふっふ、その通りや。このチャンスを逃したらきっと後悔する。誰が何と言おうとワシはやるでぇ。」
 「止めはしないさ。でも、どうやるんだ?」
 「そこで二人でアイデアを出し合うんや。」
 「シンジも入れないか?あいつだったら頭いいからグッド・アイデアを…。」
 「アカン!あいつはいつでもOK言うとる女が二人もおる。ワシらのチャレンジに今更加わるとは思えん。」
 「そうか、それもそうだな。」
 「で、方法やが…掃除道具のロッカーに隠れるというのはどうや?」
 「古典的だな。まあ、古過ぎて今更…という事で怪しまれないとは思うが…。」
 「そやろ?何も奇をてらわんとオーソドックスな方法が何事も一番や。」
 「だが、もし音を立てたりしたら…逃げ道が無いぞ?リスクが大き過ぎる。」
 「そ、そうか…教室の中のどこかに隠れるのはマズイか…いいアイデアと思っとったんやが…ケンスケ、何か策は無いかのう。」
 「俺としてはまずリスク回避を第一に考えたい。だから、どこかにカメラを仕掛ればそれで済むと思ってたんだが…。」
 「何か不都合があるんか?」
 「あるんだ。教室を更衣室に使うといっても男女一緒の筈はない。つまり、A組B組だったら、男子はA組、女子はB組を使う事になると思うんだが…。」
 「ほな、B組にカメラを仕掛ければ…。」
 「いや、実際にどちらになるかはまだ決まって無いんだ。」
 「ミサト先生に聞いたらええやろ?」
 「それだと返って怪しまれる。当日になって変更されたらどうしようもない。」
 「ほな、両方に仕掛ければええやないか。」
 「それができたら悩む必要ないだろ?」
 「一つしか無いっちゅう事か…。」
 そして、グッド・アイデアはやはりシンジによってもたらされた。
 その日の教室の掃除の時間。黒板消しを窓の外で叩いていたシンジは、過ってそれを窓の外に落としてしまった。
 だが、窓の下といってもそこには人一人が充分歩けるぐらいの庇が付いていたので、シンジはそこに降りて黒板消しを拾って再び教室の中に戻ったのだ。
 それを見ていたトウジとケンスケは同時に閃いた。
 「そうか、その手があったか。」
 「確かに逃げ道はあるが、危険だぞ?一歩間違うと…。」
 「それがどうした。危険を恐れていては何事も為せんのや。為せば成る、為さねば成らぬ何事も。とアラブの大統領も言うとったやろ。」
 「知らねーって。」
 という事で、トウジは窓の外の庇の部分に潜み、女子生徒の生着替えをノゾキ見る事へのチャレンジを決意したのだった。

 そして、次の土曜日。三年の水泳大会の日がやってきた。
 更衣室はA組B組とC組D組で分けられ、男子はA組とC組、女子はB組とD組を使用する事となった。
 「予想通りやったな。」
 「そうだな。ま、別にいいんだ。俺はお前とは違うアプローチだから。」
 「何の事や?」
 「お前は非合法だが、俺は合法的にやる。」
 「合法的にノゾキが出来る訳ないやろ?シンジはどうだか知らんが。」
 「僕がどうかした?」
 さっさと体操服に着替えたシンジは自分の名前が聞こえたような気がして振り向いた。
 「いや、何でもあらへん。」
 「そう?じゃあ、先に行ってるよ。」
 シンジが教室から出て行ったのを確認してから二人は謀議を再開した。
 「いつ俺がノゾキにチャレンジすると言った?」
 「え?違うんか?このチャンスを逃すとは勿体無い…。」
 「だから、違うアプローチだと言ったろ?チャンスは逃さないさ、水泳大会というチャンスはな。」
 「ケンスケ…何を企んどるんや?もったいぶらんで教えんかい。」
 「ふっふっふ、俺は映研なんだぜ。その立場を利用して既に水泳大会の様子の撮影許可を貰ってるんだ。勿論、秋の体育祭についてもな。」
 「策士やのう…。」
 そして、トウジは水着に着替えてその上にジャージを着込んだ。勿論、ここぞという時の黒のジャージではなく、学校指定の青のジャージ。黒だったらすぐにトウジとわかるがこれなら…というのは勿論ケンスケのアドバイスだった。
 「じゃあ、俺も行くから。健闘を祈る。」
 「おう。」
 ケンスケは愛用のハンディビデオカメラを片手に教室を出て行った。
 “…よし、いくでぇ!”
 トウジは意を決し、窓枠を乗り越えて外の庇に移り、四つん這いになった。
 すると、否応無く下の地面が視界に入ってきた。校舎に沿って植え込みが規則正しく真っ直ぐに並んでいるのがよく見える。
 “うお…結構、スリルあるのう…。”
 ケンスケの危惧したとおり、一歩間違えれば地面にまっ逆様である。
 トウジはそろりそろりと移動を開始した。
 “焦るな…時間はあるんや、女子は着替えが遅いからのう…。”
 そう、今までの水泳の授業で、女子は集合がいつも男子より遅かった。
 何故遅いのかと言うと…お喋りが多いからである。
 例えば、思春期ともなれば身体の発育状況が気になるようで、どうしたらそんなに胸が大きくなるのか、とか。
 「…綾波さん、意外と胸あるのね、羨ましい…。」
 レミは羨望の眼差しをレイに向けた。
 「そう?わからない…。」
 「どうやってそんなに育てたの?」
 「育てる?」
 「…つまり、どうしたらそんなに大きくなったのか、知りたいなぁ、なんて。」
 「別に何もしてないわ。」
 「…もしかして、好きな人に揉んで貰ったとか?」
 そう言えば、以前にシャワーを浴びていた時、シンジがレイ宅を訪ねてきた事があった。
 あの時、偶然のアクシデントだったがレイを押し倒してしまったシンジはレイの胸に手を付いてしまった。
 “あの時、胸を揉まれたかしら?”
 その時の事を思い出したせいか、知らず知らずのうちにレイの頬の赤みが増していた。
 「あら?綾波さん、顔が赤くなってるよ?もしかして…。」
 「し、知らない…。」
 かと思えば、オシャレに関心があるからこそ、他人が身に付けているランジェリーのデザインとかが気になるようで、どこで買ったのか、とか。
 「アスカ、それってシルクよね。」
 「うん。」
 「いいなぁ…どこで買ったの?高かったんでしょ?」
 「NET通販よ。でも、たまたま最後の1セットだったからプライスダウンしてたの。」
 「そっか、NET通販か。どのサイトか、今度教えてよ。」
 「いいわよ。」
 「…ところでさ、ピンクって碇くんが好きな色?」
 「え?な、何で?」
 「だってさ、恋人同士でランジェリーを買いに行って、彼氏に好感触だったのを選ぶとかいう事あるじゃない。だから、二人でNET通販を見て選んだのかなって…。」
 「あ、そうか、そういうのもアリね。うん、今度やってみよう。」
 さて、その頃トウジはようやくB組の窓の外にまで到達した。
 “よ、よし…そっと…。”
 ゆっくりとトウジは身体を起こし、窓の下から目を出した。が。
 “げ!カーテン引いてるやんけ!おのれ、謀りおったな!”
 そのトウジの怒りは誰に向けてるのか知らないが、どう考えてもお門違いだ。
 “…お、落ち着け、ここで吼えても意味が無い…。”
 何とか冷静さを取り戻したトウジは打開策を考え付いた。
 “よ、よし、こうなったら、何とか窓を開けて…。”
 …いや、まだ冷静とは言えないようだ。
 それはともかく、トウジは立ち上がって窓枠に手を掛けて開けようとしたが、何故か窓はビクともしなかった。
 “な、何でや?何で窓が開かんのや!?…そ、そうか、鍵掛かっとんのか…。”
 トウジは隣の窓へ移動した。が、そこも鍵がしっかり掛かっていた。トウジは更に移動を続ける。そして、四番目―最後の窓は…鍵が緩んでいた。というか、ほんの少ししか入っていなかった。
 “よ、よし、これなら少しの振動で逆に鍵が開く筈や!”
 もはやトウジは窓を開ける事に夢中になっていて、完全に冷静さを失っていた。振動とはつまり音を立てる事だという事に気が付いていない。
 トウジは窓枠を掴んで揺すった。当然、それは教室の中で着替えている女子に気付かれる事となった。
 「…何?」
 「…何か、ここの窓がガタガタしてるけど…。」
 「…アポロガイスト?」
 「それを言うならポルターガイストでしょ?」
 「あ!わかった!外に誰かいるのよ!」
 「という事は、男子のバカがノゾキに来たんだわ。」
 「どうする?」
 近くにいた女子が対策を考え始めたその時。
 「コラー!」
 A組に一番近い窓を開いて誰かが一喝した。
 「どわっ!」
 トウジは慌てて窓枠から手を離し、思わず後ずさった。それも数歩。
 次の瞬間、トウジの姿はレミの視界から消えた。
 “…まいっか…下は植え込みがあるし、死にはしないでしょ。”
 「綾野さん、今の誰だったの?」
 「あー…顔は見えなかった…。」
 「先生に報告しようと思ったのに。」
 「…まずかった?」
 「ま、まあ、仕方ないわよ。次は気をつけてね。」
 「次は無いほうがいいと思うけど。」
 「…ごもっとも。」

 水泳大会は午前がクラス対抗の全員リレーと男女別のクラス対抗水球、午後が男女別の種目別及び個人メドレー、最後にこれまた男女別の水中騎馬戦が行われる予定である。
 ただし、プールサイドに並ぶその前に第一の関門があるのだが。そう、いわゆるあの‘禊’である。
 「な、何で、ここの水は冷たいんだろうね?」
 カヲルは自分の身体を自分で抱きながらシャワーをくぐり抜けた。
 「さ、さあな…トウジの言葉どおりだったりして。」
 ケンスケの言ったトウジの言葉とは…要するにトウジはこの冷たいシャワーを滝に見立て、両掌を顔の前で併せていつも叫んでいたのだ。
 修行じゃー!
 それはともかく、そのトウジの姿は見当たらない。
 「トウジ、どこ行ったんだろう?」
 既に女子も合わせて三年生のほとんどがプールサイドに集合している。
 「おーい、さっさとシャワーを浴びてプールサイドに並べー!」
 加持が声を張り上げて後からやってくる数人の生徒達を誘導しているが、一向にトウジは姿を現さなかった。



EXTRA HUMANOIDELIC MACHINARY EVANGELION2

CHILDREN’S GRAFFITI

EPISODE:3 Dokkin’!
          Only girls’cavalry war in a pool.
          (Is there ‘PORORI’, too!?)



 それは置いといて、晴れ…と言うよりは薄曇という天気の下、水泳大会は始まった。勿論、泳げないシンジは最初の準備運動(ラジオ体操第一)を除いてずーっとプールサイドで観覧及び応援である。
 ただ、クラス対抗全員リレーではA組の一人目は出席番号1番のケンスケなので、シンジは今はケンスケのハンディビデオカメラを持って撮影に勤しんでいた。
 “ふーん、なんだかカメラマンになった気分だ。これはこれでなんだか面白いや。”
 シンジはケンスケから全体像を適当に撮っておいてくれと頼まれただけだったが、ズーム機能を見つけて映像を拡大してみた。
 “へえ、こんなにアップにできるのか…まるですぐ傍にいるみたいだ。”
 コースのスタート側には男子が、ゴール側には女子が待機している。女子の先頭はレイ、次がレミ、アスカは真ん中ぐらいでヒカリは後ろから三番目だ。
 と、アスカがこちらに気づいたのか、シンジに向かって笑顔で手を振った。
 “はは、頑張れアスカ。”
 シンジもアスカを撮影しながら彼女に向かって手を振った。
 「お前のフィアンセ撮る為にカメラ預けた訳じゃないんだけどな。」
 リレーを終えて戻ってきたケンスケがいきなり背後から声を掛けた。
 「い、いや、ズームができるのに気づいたから、つい…。」
 シンジは慌ててカメラをケンスケに返した。
 「ったく、これはオフィシャルな撮影なんだぞ。お前の個人的趣味の部分は後で編集してカットするからな。」
 「あ…ごめん。」
 「…と、言いたい所だが、特別編集版として譲ってやってもいい。時々こうやって映研を手伝ってくれたらな。」
 「うーん…。」
 「ま、あまり深く考えずに気楽に決めてくれ。そんなに難しい事は頼まないし、返答の期限はつけないから。」
 そう言ってケンスケはより臨場感のある撮影をしようとプールサイドを駆け回り始めた。
 「うーん…何となく面白そうな気はするけど…時間があるかな?それに、ケンスケの事だからアスカや綾波をモデルにしたいんで口説いてくれって言い出しかねないし…。」
 「私がモデルって?」
 「わあっ、あ、綾波、いつの間に?」
 「とりあえず最初のリレーは泳ぎ終わったから。」
 確かに、他のクラスの生徒も泳ぎ終わった者から銘々自分のクラスの観覧席に戻ってきていた。
 「それで、私がモデルって何の事?」
 「い、いや、例えの話だよ。うちのクラスはケンスケがトップバッターだったろ?だからさっき、ケンスケに頼まれて映研の仕事として水泳大会の撮影を代行していたんだ。それで、今後も時々手伝ってくれないかって言われて…でも、ケンスケの事だからアスカや綾波をモデルにして撮影したいって言い出すかもしれないから…。」
 「そう…それで、モデルって何の事?」
 「あ…ああ、そういう事か…。」
 一生懸命言い訳していたシンジだったが、何の事はない、レイはモデルとは何ぞや?と訊いていただけだったのだ。
 「えーと、モデルというのは…。」
 「あんた、次は水球に出るんでしょ!こんな所で油売ってないでさっさと支度しろっつーの!」
 突然アスカがやってきた。シンジとレイがツーショットになったのを見て、慌てて飛んで来た訳だ。
 「ったく、油断も隙もあったもんじゃないわ!」
 「水球は男子が先だからまだ先よ。」
 「アスカはもう泳いできたの?」
 「はっ!?」
 アスカはまだ泳いでいない。ゴール側に目を向ければヒカリがきょろきょろしている。そして観覧席にいるアスカを見つけたヒカリは叫んだ。
 「アスカーッ!早く戻ってーっ!もうすぐアスカの番よーっ!」
 「げ、しまった!」
 アスカは来た時と同様に慌てて戻って行った。
 アスカが戻った時、反対のスタート側からアスカの前の泳者、カヲル(シンジの代役に続いてトウジの代役)が飛び込んだ。
 「碇くんが気になるのはわかるけど、あまりハラハラさせないでよ、アスカ。」
 「うん。さっさと泳いで戻らなきゃ。」
 アスカはヒカリの話を聞いているようで聞いていないようだ。
 深呼吸して息を整えたアスカはカヲルのタッチを確認して飛び込んだ。
 恋する乙女は無敵超人…という言い方は多分変だろうけども、アスカの泳ぎは素晴らしかった。ちなみに、全員リレーは各人のタイムも計測しているのだが、この時のアスカの記録はそれまでの自己記録を1秒以上上回っていた。
 でも、アスカにとっては誰かの口癖の如く「そんな事はどうでもいい。」訳で、アスカはプールから上がるやすぐにシンジの許に馳せ?参じた。するとそこには、レイの他にレミも来ていた。
 「綾野さん、何で貴女まで居る訳?」
 「あー来た来た、惣流さん、聞いて聞いて。碇くんが私達をモデルにして撮影したいって。」
 「ちょっと待ってよ!どうしてそんな話になるんだよ!」
 「モデルって、何のモデル?プライベートならヌードでも構わないわよ。」
 「うわぉ〜、惣流さん、大胆発言!どうする、綾波さん?」
 「別に私も構わないわ。前に裸見られてるし。」
 「えっ?」
 レミは唖然としてレイを見た。
 「そんなの、こっちだってあるわよ!」
 「えっ?」
 レミは先程と同じ顔をアスカに向けた。
 「いや、だから、二人ともあれは事故じゃないか…。」
 「碇くん、やるじゃない〜両手に花なんて。」
 「おっと、僕の事も忘れないでおくれ。一緒にお風呂に入った仲じゃないか。」
 「「引っ込んでなさい!!」」
 アスカとレイのダブルパンチでカヲルは登場直後に退場した。
 「ちょっと、そこで何モメてるの?」
 ヒカリは倒れたカヲルに一瞥もくれず、恋の三角関係の平定に向かった。
 「フッ、僕の事は誰も気にしてくれないんだね…。」
 全員リレーはいつの間にか終了し、A組は1位を取る事ができた。

 男女のそれぞれの水球が終って、昼食タイムとなった。
 殆どの生徒が教室で昼食を取っていたが、シンジ達はプールサイドでお弁当を広げていた。
 「シンジ、この卵焼き、食べてみて。」
 シンジのお弁当は勿論ユイお手製だが、卵焼きはアスカが作ってくるという事だったので入っていなかった。
 「…どう?」
 「…いいんじゃないかな。」
 「ホント?」
 「うん。まあ、ちょっと甘過ぎるような気もするけど、それでも充分美味しいよ。」
 「よかった!じゃあ、今度はお芋の煮っ転がしを作ってくるね。」
 「うん。ところで、アスカの料理の先生はどこ行ったんだろ?」
 シンジの周りのいつもの面々のうち、トウジとヒカリがいない。ちなみにレイとカヲルは校庭の木陰で午前中の疲れを癒すべく、休憩中。
 「さあな…。」
 ケンスケは薄々感付いてはいるがそ知らぬ風を装う。
 「ふふ、あの二人なら今頃保健室でしっぽりと…。」
 「え?どういう事?」
 思わせぶりなレミの発言に一同の耳目が集まった。
 「どうやら、またお兄ちゃんがバカな事をしでかしたようです…。」
 そこに何故かナツキがやってきた。
 「あれ、ナツキちゃん、どうしてここに?」
 「ミサト先生に頼まれていたものを届けに来たんです。」
 最後の水中騎馬戦で帽子につける小さな人形の製作をミサトが手芸部に依頼していたのだ。
 「どれどれ…へー、よく出来てるじゃないか、ナツキちゃん。」
 シンジはナツキの持ってきた袋からいくつかその小さな人形を取り出して眺めた。山猫、ペンギン、ねずみがモデルになった三種類のキャラクター人形が三組ほどあった。
 「それで、鈴原がどうしたって?」
 「…バカバカしくて言う気にもなれません。相田先輩なら知ってるんじゃないですか?」
 「いやいや、あいつはあいつで男のロマンを追及しただけさ。」
 「男のロマンを追及して…保健室行き?」
 「で、委員長はおそらく保健室で鈴原くんと二人きりになってムフフな事を…って、最後のは冗談だけど。」

 午後の部が始まった。まずは女子の個人種目別(自由形、バタフライ、平泳ぎ、背泳)とメドレーである。
 早速ケンスケはカメラを片手にスタート台の方へ飛んでいった。個人種目別はやはり水泳部の独壇場なのだが、レイを筆頭に水泳部の女子生徒は美人揃いなのだ。
 そして、ケンスケはオフィシャル映像撮影者という自分の立場をここで最大限に生かそうと考えていた。
 ケンスケは出場者達の背後に位置取りし、それとなく空いていた椅子に座った。
 “これだ!これこそ俺の求めていたアングルだ!!”
 果たして、ケンスケのカメラには何が映っていたか…それは、女子生徒達の下半身の一部のアップだったのだ。
 “いやあ、役得役得…さらに、この映像を写真にプリントして販売すれば一気に大儲け!”
 取らぬ狸の皮算用を脳内で繰り広げるケンスケ。
 競技はいつの間にか最後の個人メドレー、これに出場するレイはここぞとばかりにスクール水着でなく大会用の水着を着用していた。腰の辺りまで切れ込む思いっきりハイレグの競泳水着である。
 “うおっ!流石綾波…TPOをしっかりわきまえてるよな〜。”
 何か違うような気がするが。
 「うん、これはもっと近づいて撮った方がいいかも。」
 「そ、そうだな、何たってこれはオフィシャルな撮影だからな…。」
 レミの言葉に引っ掛かってケンスケはカメラで覗きながらレイに接近して行った。すると、いきなりレイは回れ右をした。つまり、ケンスケの視界にはレイのヒップではなく、Vゾーンのドアップが…。
 “どわっ!…こ、これは…。”
 あまりの事に興奮してケンスケは状況に気付いていなかった。
 「何をしてるの?」
 「え?」
 カメラから顔を上げたケンスケはレイが無表情で睨んで(?)いるのに気づいた。
 「あ、えーと、これは映研の活動として学校から許可されたオフィシャルな撮影で…。」
 用意していた言い訳をケンスケは用いるが。
 「オフィシャルな映像にしては女子のヒップや前のアップが一杯だね〜。」
 ニコニコ顔でケンスケの悪行をばらすレミ。
 「…あ、あれ、何で綾野が?」
 傍と気づけばケンスケはヒカリを始め数人の女子に取り囲まれていた。
 思わずケンスケの額に焦りの汗が…。
 「え、えーと、だから…。」
 「問答無用!!」
 「ぐはぁっ!」
 影道・雷神拳ばりのヒカリの鉄拳が炸裂し、ケンスケは吹っ飛んでプールの中に落ちた。
 これがホントの‘策士、策に溺れる’…なんつって。

 女子・男子の個人種目別及びメドレーが終了し、残すは男子・女子の水中騎馬戦だけとなった。勿論、レイはこれにも乗り手として出場する。
 「綾波、いよいよ最後の競技だけど、大丈夫?」
 「ええ。私は乗り手だから、そんなにキツくはないから。」
 “むぅ〜…何よ、シンジったらファーストにばかり気を使って…。”
 二人の仲睦まじさを傍から見ていたアスカは思いっきり不満顔。しかし、今日のレイの活躍度(水球では得点王となってA組を優勝に導き、個人メドレーでも優勝)を考えれば、今のアスカにはレイに強く言える道具は何も無かった。
 「落ち着きましょう、惣流さん。そんな貴女に朗報です。」
 誰かがアスカの肩を叩いたので振り返るとそこにはレミが。
 「何の事?」
 「水中騎馬戦に出る予定だった委員長が出れなくなったので、代役として惣流さんを指名したの。」
 「ヒカリが?何で?」
 「保健室から動けない…というか、動きたくないんでしょうね。」
 レミは何故か含み笑い…が、アスカはそれを見る事も無く、レミに背を向けて呟いた。
 「…チャァ〜ンス。」
 アスカは何かを思いつくと、シンジとレイの間に割って入った。
 「ファースト!あんたの得意顔もそこまでよ!」
 「何の事?」
 「とぼけるんじゃないわよ!自分の得意な分野だからってこれ見よがしに活躍しちゃってくれて…でも、次の水中騎馬戦はヒカリの代役で私も出る事にしたからね!」
 「…すると、二人が対戦するかもしれない、という事?」
 水中騎馬戦はあくまでもおまけのイベント。各クラスから二騎ずつ、計八騎によるトーナメント戦が行われるのだ。勿論、初戦は同じクラスの騎馬は対戦しない。
 「私は別に構わないわ。」
 「あ、それならさ、勝った方には何かご褒美が貰えるってのはどう?例えば、一日デート権とか。」
 「私は一向に構わないわ。」
 レミのちょっとした思い付きにレイはすぐ喰い付いた。
 「ふっ、全くその不可解な自信はどこから来るのかしらね…まあ、いいわ。後で遠吠えさせてやるから。」
 何かが違うような気がするが…それはともかく、アスカは自信たっぷりに言うと、水中騎馬戦の準備をすべく、自分の騎馬となるクラスメート達の方に歩いていった。
 「ちなみに、‘遠吠えさせる’じゃなくて‘吼え面かかせる’が正しい使用法よね。」
 「…綾野さん、誰に解説してるの?」
 「そこはスルーして。」
 そして、男子の水中騎馬戦が終わり、いよいよアスカとレイの出陣となった。二人の対戦は決勝に残らなければ実現しない。
 「フッ、これは面白い事になってきたね。シンジくんはどちらが勝つと思うかい?」
 シンジの傍に腰を降ろしたカヲルはアスカとレイの二人が決勝に残ると予想していた。
 「うーん…水中騎馬戦と言っても、これは単にプールに入って行うだけだから、この場合は水泳が得意なのは何の利点にもならないし…アレを使うのは反則だし…。」
 「シンジくんはどっちに勝って欲しいと思ってるのかな?」
 「えっ?うーん…正直言って、二人が戦うところは見たく無いなぁ。」
 「おや、意外だね。いつもあの二人はシンジくんを取り合っていがみ合っているじゃないか。」
 「だからこそ、だよ。本当は、あの二人には仲良くして欲しいんだ。いつまでもファースト、セカンドって呼び合うのもやめて欲しい。もう、戦いはとっくに終ったんだから。」
 「…本当に、君の心は美しいよ…前に、君の心はガラスのように繊細だと思った事があったけど、繊細だけじゃなくてガラスのように透き通っている…。」
 「そ、そうかな…。」
 カヲルの真剣な表情にシンジは何となく照れ笑い。
 さて、そんな二人の様子を教室から双眼鏡で観察している少女が一人。
 “う、うほっ…これはいい風因気………プールサイドに戯れる二人の美少年…銀髪の美少年に熱い眼差しで手を握られた黒髪の美少年は頬を紅く火照らせ…そして二人は愛の花園へ…いや〜ん、凄過ぎるぅ!”
 あらぬ妄想をして一人身悶えるノゾミであった。
 それはともかく、女子の水中騎馬戦はアスカがB組に勝利、第二試合はC組がD組に勝利し、いよいよ第三試合でレイの出番が来た。
 「綾波さん、頑張れー!」
 プールの両サイドからレイの騎馬と相手のD組の騎馬が徐々に近づいていく。
 「ところで、碇くんは綾波さんも応援しないの?」
 「…何か、冒頭と同じような事を言ってるような気がする…。」
 「はい?」
 「いや、何でもない。」
 とか言ってるうちに、レイの騎馬は素早く接近し、相手の正面から攻撃を仕掛けた。
 「よし、行けっ!」
 相手の必死の防戦でレイはなかなか相手の帽子についている小さな人形を奪う事ができない…と思ったら、レイは相手の両手を掴むと一気に引っ張って騎馬から落下させた。
 『勝負有り!』
 レイは満面の笑みを溢しながらシンジに向かって大きく手を振った。
 「綾波、お見事!」
 シンジも拍手で応えた。

 で、女子の水中騎馬戦がその後どうなったかと言うと…何とアスカもレイも準決勝で敗退してしまった。
 「…ま、まあ、二人がマジに掴み合いの戦いをするよりはよかったんじゃないかな。」
 どっちが勝っても負けても後で面倒な事になるので、この結果に心底ほっとするシンジであった。
 そして、なんだかんだで水泳大会はA組の総合優勝で幕を閉じた。また、一人も怪我人を出さずにこのイベントが無事に終った事にミサトを始め教師の誰もがほっとしていた。

 その数時間前。
 “痛てて…う、動けへん…誰か助けたってくれ…。”
 女子の着替えのノゾキに見事に失敗したトウジは三階から落下したものの、悪運良く植え込みの上に落ちたので打撲だけで済んだ。



超人機エヴァンゲリオン3 中学生日記

第3話「ドキッ!女だらけの水中騎馬戦(ポロリもいるでよ!?)」

完
あとがき