鋼鉄の巨人

第二章 シンジと仲間たちの冒険

 *「♪シンジ、シンジ、シンジと仲間たち、尻尾を立てろ〜。」
【第壱中学校・廊下】  ぼんやりと廊下をうろつくシンジ。  「さて、次の授業は何だったかな?」
 *「次の授業ぐらい把握しとけよ。」
【第壱中学校・テニスコート裏】  テニスコート裏に行くと、そこにはケンスケがいた。  「今日の体育はランニングだ。早く着替えてこいよ。」 【芦ノ湖・遊歩道】  前を走る女子。アスカとレイとヒカリが声を揃えて。  「ファイト、ファイト、ファイト、ファイト……。」
 *「別に部活じゃないんだから、その掛け声はちょっと…。」
 「女子は元気だな、全然追いつかない。」  「カーッ、勿体ないッ!」  「シンジとトウジは見る事ばっかり、俺も好きだけど!」  「異性に惹かれる事は、生命の営みと見たり。」  「カヲル君は女子に興味無い?」  「シンジィ、聞くだけ無駄無駄!」
 *「無駄無駄無駄アァーッ!!」  ※「URYYYYY!!」
 「興味が無いな。綾波レイを除いては。」  「カヲル君も綾波さん?」  「シンジも渚も、転校生大好き少年やのう。」  「むしろ乙女達の方から、僕に興味を見出すようだ。」  「よっしゃ!渚カヲル君!女子の群れに突っ込んでいこうぜ!」  「僕を利用して女子ゲットとは、フッ……女子の集団に追いつけば、いいのかい?」  「その通り!絶対負けないぞ!」  カヲルとケンスケはギアをトップに入れた。  「ビュウウウウウン!飛びます!飛びます!」
 *「何でこうなるのっ!」
 「ワシかて!いてこましたる!」  トウジも左足の加速装置をONにした。
 *「♪…おや〜。」
 「わっ!待ってよ!」 【仙石原・ランニングコース】  疲労で下を向くシンジ。  「追いつけない……。」  トウジが足踏みしながらシンジを覗き込む。  「シンジ、もうみんな行ってしもたで。」  「いきなり飛ばすから……。」  「だらしないやっちゃなあ、男らしゅうせい!」  「トウジは先に行っていいよ、僕は歩いて行く。」  「なあ、顔色悪いで。」  「ホント?」  「先生に知らせてくるからな、マイペースで行けや。」  「うん、ありがとう。」  「ホッ、ホッ、ホッ、ホッ、ホッ、ホッ。」  走っていくトウジ。
 *「♪ホッ、ホッ、ホッと〜声がする〜シュッ、シュッ、シュッと〜風が鳴る〜。」
 砂利道を一人歩くシンジ。  セミの声がやけに遠く聞こえる。  「僕一人か……このまま倒れたら、夕方のニュースに出るかな……アスカ、地球の平和をよろしく……後は頼んだよ……。」
 *「♪地球の平和を守る為、遥かな星から来たけれど〜。」
 「シンジ君!」  「ミサト先生の声だ……助けに来てくれたのかな……目の前が真っ暗だ……。」  シンジの意識が薄れていく。
 *「シナリオどおりだな。」
【遊歩道の路肩】  横たわっている裸のシンジ。  「水が冷たい……裸だ!」  「心臓の負担にならないように、手足に水をかけているからね。」  ミサトの声がした。  「ミサト先生……。」  「気持ちいいでしょ?」  「はい……。」
 *「ショタコン女にとっては垂涎のシーンかな?」
 「裸だけれど恥ずかしがらないでね。私、こういうの慣れているから。」  「見たんですか?」
 *「何を?」
 「立派なもんよ!」
 *「何が?」
 “美人に、裸を見られた……。”  と、シンジの目の前に水筒が出された。  「私の水筒なの。水、飲んでね。」 【走行中のジープ】  ミサトの運転するジープにはシンジとアスカが同乗していた。  「これ、ミサト先生の車?」  「そうよ。アスカやシンジ君を監視する為のね。息抜きも兼ねているけど。」
 *「何台持ってるんだ?」  ※「しかも、さらっと変な事言ったような…。」
 「素敵な車ですね。」  「ありがと!」
 *「あーりがとう!!サンキューッ!!」  ※「蟻が10匹でありがとう…。」
【第壱中学校・保健室】  ミサトのジープで学校に戻ると、シンジは保健室に直行となった。そこにトウジとケンスケが見舞いに現れた。  「具合はどうや?」  「うん、気分爽快。」  「なあ、二人とも俺の計画聞いてくれよ。」  「計画?」  「こいつ、湖の方を探していたらしいで。」  「いいか、ジオフロントの工事中に、幾つもの坑道が掘られている。パイロット・トンネルって言うんだけれど、その内の一つを発見したんだ。見つかったら、抹殺されるぐらいの超軍事機密!」  そこにカーテンを開けてリツコが顔を出した。  「危険な場所に近づいてはダメよ。」  「「は−い!」」 【ビッグアップル・ダイナー・店内】  下校途中、ビッグアップル・ダイナーに寄った一同。ケンスケが演説調で喋る。  「我々チルドレンは、人工進化研究所の一員として、基地全体を把握する事が重要なのであります!」  「ケンスケは軍事オタクやからなあ。」  「行くとすれば今度の日曜日か。」  「遊園地にも飽きたしィ、洞窟探検もいいかもねッ。」
 *「♪かもねかーもね、そーうかーもねー。」  ※「♪いいかもしれない、いいかもねッ!」
 アスカは乗り気だ。  「私も出かける必要あるの?」  「右に同じく。」  レイとカヲルは乗り気ではないようだ。  「ある!エヴァのパイロットだからだ!」  ケンスケは身を乗り出して断定した。  「第26番ゲート。工事途中で破棄された大型トンネル。ここから地下坑道へ入れる。」  「それって、使われなくなった病院とか、オーナーが消えたホテルとか、真っ暗なお化けトンネルとか…。」  「怖い怖い!肝試しは好かん!」  「大丈夫だって。ジオフロントに繋がってるし照明が点いている。酸素濃度計も用意してあるから。」
 *「普通、一般人は買わないものだが、どうやって手に入れたんだ?」
 「毒ガス出るの?」  「危険!そんなの中止!」  「右に同じく。」
 *「カヲルの右はトウジだぞ。」
 「そやそや中止!中止!」  「毒ガスじゃないよ、酸素濃度!」
 *「適正な酸素濃度じゃなければ毒ガスも同然。」  ※「わっ!毒ガスだ!!」
 「せめてトンネルの入り口だけでも見てみたいね。」 【芦ノ湖湖畔・第26番隧道・入り口】  「樹木と苔に覆われた、トンネルの入り口か。」  「これが第26番ゲートさ。トンネルにも‘26’って書いてあるだろう?」  「山の斜面はせまっとるし、湖から湿った空気が流れとるし……トンネルの中は暗闇かいな……。」  「柵で塞いであるよ。入れる?」  「壁のシミが人の顔……。」  「風の音が女の声……。」  「うわあ!お前ら、肝試しすんな!」  レイとアスカの冗談にトウジがビビった。  「シンジは賛成してくれるよな。」  「トンネルもみんなで入れば怖くない。」  「交通標語かよ!」
 *「おっ、さまぁ〜ず風ツッコミ。」  ※「いや、ここはツービートかよ!とツッコミ入れるべきでは?」
【芦ノ湖湖畔・第26番隧道・入り口】  「これから行く所は長くて、深〜い、洞窟なんだぜ。岩が崩れてくるかも。野生の熊や狸に出くわすかも!」  探検隊ルックのケンスケはワンピースを着てきたアスカに説教。  「碇くん、ほら軍手。」  「いいね、軍手。よく似合うよ。」  「あんまり嬉しくない。」
 *「そらそうやろな……。」
 「挑発的に胸なんか張り出しちゃってさ。」  「惣流、ええやないか。お前が持っとらんもん、綾波が補っとるで!!」  「森はいいねえ。涼しげな空気が肺を浄化してくれる。」  「これで全員揃った。」 【第26番隧道・入り口】  地下水の染み出したトンネル構内。  「冷たい蒸気が肌にまとわりつく感じ。」  「寒い。冷房が入ってるみたい。」  「壁から水が染み出している。」  「暗闇から、何か出てくるんちゃうか。」  「トンネル構造はしっかりしている。」  「極秘地図によると、途中でいくつか道が分かれている。ガイドは俺とシンジだ。」
 *「極秘地図ってどこから入手した!?」
 「僕がガイド?」  「ガイドって何?」
 *「左手をご覧下さい。真ん中に走ってるのが運命線でございます。」
 「道案内さ。俺とシンジが分岐点の行き先を決める。はぐれたらシンジのグループはシンジが誘導していくんだ。」 【第26番隧道・坑内・300m地点】  暗がりを慎重に歩く一同。その中でおっかなびっくりで後ろを気にしつつ歩くトウジ。  「後ろから見られてる気がする。」
 *「外れ。」
 「トウジらしくない、男は強く逞しくってね。」
 *「♪男は優しく逞しく、女は麗しく。」
 「気がする、言うただけやんか。」  トンネル奥から空き缶が転がる音がした。思わず立ち止まる一同。トウジにいたっては半狂乱状態だ。  「何かおるで!」
 *「♪緑の中を走り抜けてくバッタがおるで!」
 耳を澄ます一同。静寂が漂う。  「何も、いない。」  「上、見ない方がいいよ。」
 *「♪すると突然頭の上から怖い蛇が襲ってくる。なぜか不思議な事に尻尾から落ちてくる。」
 「怪談で拝聴した事がある。」
 *「怪談じゃないって。」
 「やめっ!そんな話。」  「怖くてお腹がスースーする。」  「綾波は優しいのう。」  「それを言うなら、背中に御棺が走る、でしょ?」
 *「ボキャブラ天国かよ!」
 「惣流はきっついのう。」  「トウジは前、シンジは一番後ろ。探検隊員がはぐれないように、注意して歩いてくれよ。」  呆れたように指示を出すケンスケ。 【第26番隧道・坑内・800m地点】  「ケンスケ達から離れすぎた。」  「真っ直ぐ歩けばいいのよ。」  「二人きりになって得した気分……。」  「怖い体験を共有すると、二人の間に恋が芽生えるんだって。」  「ふーん。」  「私と恋が芽生えちゃったら……碇くん、困る?」  「えっと……異常な状況で結ばれた男女は長続きしないんだって。」  「……。」
 *「考えて喋れ!喋りを考えるんだ!」
 「シンジってば!ちゃんと付いて来てる?」  アスカの声が前方から聞こえてきた。  「いるよ!歩いている!」  「アスカってさぁ……。」  「え?」  「男の子は、アスカみたいなタイプ、いいのかな?」  「人気はあるみたいだね。」  「どうなの?いつも一緒じゃない。」  「僕とアスカは友達だから、女の子って意識は無いと思う。」  「そうか、ただの友達なのね。」  「だから?」  「ま、いいじゃない。」 【縦坑・エレベーター入り口】  「このエレベーターは定員2名。」  「二人ずつ乗って、ジオフロントまで降りよう。」  「俺とシンジは別々に乗ろう。」  「僕が一緒に乗るのは……。」 【縦坑・エレベーター内】  シンジはレイと一緒に乗った。  エレベーターに二人きり。周囲を気にしているレイ。  「途中でロープが切れて、900メートル下まで……なんて事、在り得る?」  「エレベーターの仕組みはよくわからないけれど……どこまで降りるのかな?」  「これって、碇くん所有のエレベーターなんでしょ?」  「父さんが研究所勤め、ってだけだよ。」  「やっ、怖い!」  思わずシンジに抱きついてしまうレイ。  「わっ、抱きつかれた。」  シンジも突然の事に驚いた。  「揺れてるよ、エレベーター。」  「揺れるよ、工事中だから。」  「もう!」  レイは抱きしめる力を強くした。  「胸が苦しい……。」  「私もよ……。」  「意外と腕力があるね。体つきが逞しいのかも。」  「怖いんだもん、どうせ誰も見てないわ。」  “お互いの体温を感じながら、僕らは降下していった。” 【トンネル内】  エレベーターを降りて先へ進むと、岩が剥き出しになった所から水が湧き出ていた。  「この水には汚染物質が含まれているかもしれない。」  「毒って事?」  「触るだけなら大丈夫だろう。」  「……おいしい。」  「わっ、何で飲んじゃうの?」  「だっておいしいよ。」  「毒かもしれないのに。」  「箱根の天然水だよ。」  「どれどれ?……飲める。冷たくておいしいかも。」  「碇くんは臆病なのね。」  「綾波さんは勇敢と言うか、無謀……。」  さらに進んだ所で、シンジのお腹が激痛を訴えた。 【ネルフ本部・トイレ】  トイレに駆け込んだシンジ。  「男として最低だよな、腹痛でリタイヤするなんて。」  情けなさに少し落ち込むシンジ。  トイレのドアを叩いてレイが声をかけた。  「ねえ、腹痛は治った?どうなの?」  「軽くなったみたい。綾波は平気なの?」  「痛みはどうなの?ねえ!」  今度はアスカが声をかけた。  「大丈夫だってば。」  「お薬貰ってこようか?」  「恥ずかしいから外で待っていてよ。」 【ネルフ本部・救護室】  シンジはリツコの手当てを受けた。  「シンジ君、具合はどう?」  「楽になったみたいです。」  「そう、よかった。」  「水飲んだくらいでお腹壊して、子供みたいね。」  「アスカだって子供のくせに。」  「きー!何ですって!?」
 *「子供と言うよりはサルだな。」
 「碇くん、大丈夫?」  「平気だよ。」  「みんなが地上で待ってるから。」
 *「♪待ってい〜る〜待ってい〜る〜、ガッチャマンは〜待ってい〜る〜。」
【芦ノ湖・湖岸を走るジープ】  ジープを運転しているのは勿論ミサト。  「風を感じる。」  「ミサト先生は彼氏とかいます?」  「そうね、全長4.3メートル、体重1370キロ、出力76馬力、鉄で出来ているってところかしら。」  「この車の事ですね。」  「へーえ……生身のボーイフレンドは?」  「自動販売機の前でくつろいでいたら、声をかけられちゃってね。適当にあしらっておいたわ。」  「加持さんでしょ。」  「アスカも加持さんの事、好きだよね。」  「余計な事言わないで。」  「この前だって追っかけようとして。」  「があああ!」 【芦ノ湖・湖畔】  「全員、任務を遂行し、無事に帰還する事ができた。」
 *「♪ちゃららー、ちゃららー、ちゃららー、ちゃららー、ちゃららん。」  ※「川口浩探検隊のテーマ?」
 「お腹が痛かったけれど。」  「怪我が無うてよかった。」  「得る物もあったもんね。」  「親睦を深めたね。」  「勉強にもなった。」  「僕はここで帰るよ。」  「え?」  「さよなら、シンジ君。」  「さよなら……カヲル君……。」  「碇くんが無事でよかった。少し責任を感じたから。」  「すっかり良くなったよ。」  「アスカに内緒で、二人だけで逢うのもいいかな。」  「僕と二人で?アスカに内緒で……。」  「何か呼んだ?」  「いやあ、何でもないよ。」  「碇くん、面白い。」  「気に入ったのなら、熨斗付けて‘御中元’とか書いちゃうわよ。さ、シンちゃん行こう。」  「え、うん……。」  「私がじっくり仕込んであげる。」  「うん……。」
 *「おい、一体何をする気だ?」
 「うわあああ!妬ましいィィィ!」  突然トウジが湖に駆け込んだ。  「トウジ!どうしたの!?」  「シンジばかりええ思いしやがって!畜生!」  「トウジってば!」  「畜生!畜生!畜生!」  トウジは水の中でじたばたと駄々をこねていた。
 *「♪ダ、ダ、ダダダダ、ダダ星の、地球攻略ロボット群。」  ※「♪ダダダダ大徹大徹大徹、大徹さんガンバッテ。」