*「♪シンジ、シンジ、シンジと仲間たち、尻尾を立てろ〜。」【第壱中学校・廊下】 ぼんやりと廊下をうろつくシンジ。 「さて、次の授業は何だったかな?」*「次の授業ぐらい把握しとけよ。」【第壱中学校・テニスコート裏】 テニスコート裏に行くと、そこにはケンスケがいた。 「今日の体育はランニングだ。早く着替えてこいよ。」 【芦ノ湖・遊歩道】 前を走る女子。アスカとレイとヒカリが声を揃えて。 「ファイト、ファイト、ファイト、ファイト……。」*「別に部活じゃないんだから、その掛け声はちょっと…。」「女子は元気だな、全然追いつかない。」 「カーッ、勿体ないッ!」 「シンジとトウジは見る事ばっかり、俺も好きだけど!」 「異性に惹かれる事は、生命の営みと見たり。」 「カヲル君は女子に興味無い?」 「シンジィ、聞くだけ無駄無駄!」*「無駄無駄無駄アァーッ!!」 ※「URYYYYY!!」「興味が無いな。綾波レイを除いては。」 「カヲル君も綾波さん?」 「シンジも渚も、転校生大好き少年やのう。」 「むしろ乙女達の方から、僕に興味を見出すようだ。」 「よっしゃ!渚カヲル君!女子の群れに突っ込んでいこうぜ!」 「僕を利用して女子ゲットとは、フッ……女子の集団に追いつけば、いいのかい?」 「その通り!絶対負けないぞ!」 カヲルとケンスケはギアをトップに入れた。 「ビュウウウウウン!飛びます!飛びます!」*「何でこうなるのっ!」「ワシかて!いてこましたる!」 トウジも左足の加速装置をONにした。*「♪…おや〜。」「わっ!待ってよ!」 【仙石原・ランニングコース】 疲労で下を向くシンジ。 「追いつけない……。」 トウジが足踏みしながらシンジを覗き込む。 「シンジ、もうみんな行ってしもたで。」 「いきなり飛ばすから……。」 「だらしないやっちゃなあ、男らしゅうせい!」 「トウジは先に行っていいよ、僕は歩いて行く。」 「なあ、顔色悪いで。」 「ホント?」 「先生に知らせてくるからな、マイペースで行けや。」 「うん、ありがとう。」 「ホッ、ホッ、ホッ、ホッ、ホッ、ホッ。」 走っていくトウジ。*「♪ホッ、ホッ、ホッと〜声がする〜シュッ、シュッ、シュッと〜風が鳴る〜。」砂利道を一人歩くシンジ。 セミの声がやけに遠く聞こえる。 「僕一人か……このまま倒れたら、夕方のニュースに出るかな……アスカ、地球の平和をよろしく……後は頼んだよ……。」*「♪地球の平和を守る為、遥かな星から来たけれど〜。」「シンジ君!」 「ミサト先生の声だ……助けに来てくれたのかな……目の前が真っ暗だ……。」 シンジの意識が薄れていく。*「シナリオどおりだな。」【遊歩道の路肩】 横たわっている裸のシンジ。 「水が冷たい……裸だ!」 「心臓の負担にならないように、手足に水をかけているからね。」 ミサトの声がした。 「ミサト先生……。」 「気持ちいいでしょ?」 「はい……。」*「ショタコン女にとっては垂涎のシーンかな?」「裸だけれど恥ずかしがらないでね。私、こういうの慣れているから。」 「見たんですか?」*「何を?」「立派なもんよ!」*「何が?」“美人に、裸を見られた……。” と、シンジの目の前に水筒が出された。 「私の水筒なの。水、飲んでね。」 【走行中のジープ】 ミサトの運転するジープにはシンジとアスカが同乗していた。 「これ、ミサト先生の車?」 「そうよ。アスカやシンジ君を監視する為のね。息抜きも兼ねているけど。」*「何台持ってるんだ?」 ※「しかも、さらっと変な事言ったような…。」「素敵な車ですね。」 「ありがと!」*「あーりがとう!!サンキューッ!!」 ※「蟻が10匹でありがとう…。」【第壱中学校・保健室】 ミサトのジープで学校に戻ると、シンジは保健室に直行となった。そこにトウジとケンスケが見舞いに現れた。 「具合はどうや?」 「うん、気分爽快。」 「なあ、二人とも俺の計画聞いてくれよ。」 「計画?」 「こいつ、湖の方を探していたらしいで。」 「いいか、ジオフロントの工事中に、幾つもの坑道が掘られている。パイロット・トンネルって言うんだけれど、その内の一つを発見したんだ。見つかったら、抹殺されるぐらいの超軍事機密!」 そこにカーテンを開けてリツコが顔を出した。 「危険な場所に近づいてはダメよ。」 「「は−い!」」 【ビッグアップル・ダイナー・店内】 下校途中、ビッグアップル・ダイナーに寄った一同。ケンスケが演説調で喋る。 「我々チルドレンは、人工進化研究所の一員として、基地全体を把握する事が重要なのであります!」 「ケンスケは軍事オタクやからなあ。」 「行くとすれば今度の日曜日か。」 「遊園地にも飽きたしィ、洞窟探検もいいかもねッ。」*「♪かもねかーもね、そーうかーもねー。」 ※「♪いいかもしれない、いいかもねッ!」アスカは乗り気だ。 「私も出かける必要あるの?」 「右に同じく。」 レイとカヲルは乗り気ではないようだ。 「ある!エヴァのパイロットだからだ!」 ケンスケは身を乗り出して断定した。 「第26番ゲート。工事途中で破棄された大型トンネル。ここから地下坑道へ入れる。」 「それって、使われなくなった病院とか、オーナーが消えたホテルとか、真っ暗なお化けトンネルとか…。」 「怖い怖い!肝試しは好かん!」 「大丈夫だって。ジオフロントに繋がってるし照明が点いている。酸素濃度計も用意してあるから。」*「普通、一般人は買わないものだが、どうやって手に入れたんだ?」「毒ガス出るの?」 「危険!そんなの中止!」 「右に同じく。」*「カヲルの右はトウジだぞ。」「そやそや中止!中止!」 「毒ガスじゃないよ、酸素濃度!」*「適正な酸素濃度じゃなければ毒ガスも同然。」 ※「わっ!毒ガスだ!!」「せめてトンネルの入り口だけでも見てみたいね。」 【芦ノ湖湖畔・第26番隧道・入り口】 「樹木と苔に覆われた、トンネルの入り口か。」 「これが第26番ゲートさ。トンネルにも‘26’って書いてあるだろう?」 「山の斜面はせまっとるし、湖から湿った空気が流れとるし……トンネルの中は暗闇かいな……。」 「柵で塞いであるよ。入れる?」 「壁のシミが人の顔……。」 「風の音が女の声……。」 「うわあ!お前ら、肝試しすんな!」 レイとアスカの冗談にトウジがビビった。 「シンジは賛成してくれるよな。」 「トンネルもみんなで入れば怖くない。」 「交通標語かよ!」*「おっ、さまぁ〜ず風ツッコミ。」 ※「いや、ここはツービートかよ!とツッコミ入れるべきでは?」【芦ノ湖湖畔・第26番隧道・入り口】 「これから行く所は長くて、深〜い、洞窟なんだぜ。岩が崩れてくるかも。野生の熊や狸に出くわすかも!」 探検隊ルックのケンスケはワンピースを着てきたアスカに説教。 「碇くん、ほら軍手。」 「いいね、軍手。よく似合うよ。」 「あんまり嬉しくない。」*「そらそうやろな……。」「挑発的に胸なんか張り出しちゃってさ。」 「惣流、ええやないか。お前が持っとらんもん、綾波が補っとるで!!」 「森はいいねえ。涼しげな空気が肺を浄化してくれる。」 「これで全員揃った。」 【第26番隧道・入り口】 地下水の染み出したトンネル構内。 「冷たい蒸気が肌にまとわりつく感じ。」 「寒い。冷房が入ってるみたい。」 「壁から水が染み出している。」 「暗闇から、何か出てくるんちゃうか。」 「トンネル構造はしっかりしている。」 「極秘地図によると、途中でいくつか道が分かれている。ガイドは俺とシンジだ。」*「極秘地図ってどこから入手した!?」「僕がガイド?」 「ガイドって何?」*「左手をご覧下さい。真ん中に走ってるのが運命線でございます。」「道案内さ。俺とシンジが分岐点の行き先を決める。はぐれたらシンジのグループはシンジが誘導していくんだ。」 【第26番隧道・坑内・300m地点】 暗がりを慎重に歩く一同。その中でおっかなびっくりで後ろを気にしつつ歩くトウジ。 「後ろから見られてる気がする。」*「外れ。」「トウジらしくない、男は強く逞しくってね。」*「♪男は優しく逞しく、女は麗しく。」「気がする、言うただけやんか。」 トンネル奥から空き缶が転がる音がした。思わず立ち止まる一同。トウジにいたっては半狂乱状態だ。 「何かおるで!」*「♪緑の中を走り抜けてくバッタがおるで!」耳を澄ます一同。静寂が漂う。 「何も、いない。」 「上、見ない方がいいよ。」*「♪すると突然頭の上から怖い蛇が襲ってくる。なぜか不思議な事に尻尾から落ちてくる。」「怪談で拝聴した事がある。」*「怪談じゃないって。」「やめっ!そんな話。」 「怖くてお腹がスースーする。」 「綾波は優しいのう。」 「それを言うなら、背中に御棺が走る、でしょ?」*「ボキャブラ天国かよ!」「惣流はきっついのう。」 「トウジは前、シンジは一番後ろ。探検隊員がはぐれないように、注意して歩いてくれよ。」 呆れたように指示を出すケンスケ。 【第26番隧道・坑内・800m地点】 「ケンスケ達から離れすぎた。」 「真っ直ぐ歩けばいいのよ。」 「二人きりになって得した気分……。」 「怖い体験を共有すると、二人の間に恋が芽生えるんだって。」 「ふーん。」 「私と恋が芽生えちゃったら……碇くん、困る?」 「えっと……異常な状況で結ばれた男女は長続きしないんだって。」 「……。」*「考えて喋れ!喋りを考えるんだ!」「シンジってば!ちゃんと付いて来てる?」 アスカの声が前方から聞こえてきた。 「いるよ!歩いている!」 「アスカってさぁ……。」 「え?」 「男の子は、アスカみたいなタイプ、いいのかな?」 「人気はあるみたいだね。」 「どうなの?いつも一緒じゃない。」 「僕とアスカは友達だから、女の子って意識は無いと思う。」 「そうか、ただの友達なのね。」 「だから?」 「ま、いいじゃない。」 【縦坑・エレベーター入り口】 「このエレベーターは定員2名。」 「二人ずつ乗って、ジオフロントまで降りよう。」 「俺とシンジは別々に乗ろう。」 「僕が一緒に乗るのは……。」 【縦坑・エレベーター内】 シンジはレイと一緒に乗った。 エレベーターに二人きり。周囲を気にしているレイ。 「途中でロープが切れて、900メートル下まで……なんて事、在り得る?」 「エレベーターの仕組みはよくわからないけれど……どこまで降りるのかな?」 「これって、碇くん所有のエレベーターなんでしょ?」 「父さんが研究所勤め、ってだけだよ。」 「やっ、怖い!」 思わずシンジに抱きついてしまうレイ。 「わっ、抱きつかれた。」 シンジも突然の事に驚いた。 「揺れてるよ、エレベーター。」 「揺れるよ、工事中だから。」 「もう!」 レイは抱きしめる力を強くした。 「胸が苦しい……。」 「私もよ……。」 「意外と腕力があるね。体つきが逞しいのかも。」 「怖いんだもん、どうせ誰も見てないわ。」 “お互いの体温を感じながら、僕らは降下していった。” 【トンネル内】 エレベーターを降りて先へ進むと、岩が剥き出しになった所から水が湧き出ていた。 「この水には汚染物質が含まれているかもしれない。」 「毒って事?」 「触るだけなら大丈夫だろう。」 「……おいしい。」 「わっ、何で飲んじゃうの?」 「だっておいしいよ。」 「毒かもしれないのに。」 「箱根の天然水だよ。」 「どれどれ?……飲める。冷たくておいしいかも。」 「碇くんは臆病なのね。」 「綾波さんは勇敢と言うか、無謀……。」 さらに進んだ所で、シンジのお腹が激痛を訴えた。 【ネルフ本部・トイレ】 トイレに駆け込んだシンジ。 「男として最低だよな、腹痛でリタイヤするなんて。」 情けなさに少し落ち込むシンジ。 トイレのドアを叩いてレイが声をかけた。 「ねえ、腹痛は治った?どうなの?」 「軽くなったみたい。綾波は平気なの?」 「痛みはどうなの?ねえ!」 今度はアスカが声をかけた。 「大丈夫だってば。」 「お薬貰ってこようか?」 「恥ずかしいから外で待っていてよ。」 【ネルフ本部・救護室】 シンジはリツコの手当てを受けた。 「シンジ君、具合はどう?」 「楽になったみたいです。」 「そう、よかった。」 「水飲んだくらいでお腹壊して、子供みたいね。」 「アスカだって子供のくせに。」 「きー!何ですって!?」*「子供と言うよりはサルだな。」「碇くん、大丈夫?」 「平気だよ。」 「みんなが地上で待ってるから。」*「♪待ってい〜る〜待ってい〜る〜、ガッチャマンは〜待ってい〜る〜。」【芦ノ湖・湖岸を走るジープ】 ジープを運転しているのは勿論ミサト。 「風を感じる。」 「ミサト先生は彼氏とかいます?」 「そうね、全長4.3メートル、体重1370キロ、出力76馬力、鉄で出来ているってところかしら。」 「この車の事ですね。」 「へーえ……生身のボーイフレンドは?」 「自動販売機の前でくつろいでいたら、声をかけられちゃってね。適当にあしらっておいたわ。」 「加持さんでしょ。」 「アスカも加持さんの事、好きだよね。」 「余計な事言わないで。」 「この前だって追っかけようとして。」 「があああ!」 【芦ノ湖・湖畔】 「全員、任務を遂行し、無事に帰還する事ができた。」*「♪ちゃららー、ちゃららー、ちゃららー、ちゃららー、ちゃららん。」 ※「川口浩探検隊のテーマ?」「お腹が痛かったけれど。」 「怪我が無うてよかった。」 「得る物もあったもんね。」 「親睦を深めたね。」 「勉強にもなった。」 「僕はここで帰るよ。」 「え?」 「さよなら、シンジ君。」 「さよなら……カヲル君……。」 「碇くんが無事でよかった。少し責任を感じたから。」 「すっかり良くなったよ。」 「アスカに内緒で、二人だけで逢うのもいいかな。」 「僕と二人で?アスカに内緒で……。」 「何か呼んだ?」 「いやあ、何でもないよ。」 「碇くん、面白い。」 「気に入ったのなら、熨斗付けて‘御中元’とか書いちゃうわよ。さ、シンちゃん行こう。」 「え、うん……。」 「私がじっくり仕込んであげる。」 「うん……。」*「おい、一体何をする気だ?」「うわあああ!妬ましいィィィ!」 突然トウジが湖に駆け込んだ。 「トウジ!どうしたの!?」 「シンジばかりええ思いしやがって!畜生!」 「トウジってば!」 「畜生!畜生!畜生!」 トウジは水の中でじたばたと駄々をこねていた。*「♪ダ、ダ、ダダダダ、ダダ星の、地球攻略ロボット群。」 ※「♪ダダダダ大徹大徹大徹、大徹さんガンバッテ。」